●その者の名は…… 其の者は裁定者であり調停者。 有史以来、連綿と続きし争いを治める者也。 争いを総べる宿命を持った者達…… ――人はその者達を『行司』と呼んだ。 「これだ! とうとう手に入れたぞ!!!」 雷鳴が轟く中、甲高く叫ぶ男の叫び。 歓喜の中に狂気を滲ませるその声の主の手には古びた軍配が握られている。 男は踊る様に軍配を振るい、声を挙げる。 「さあ……神の力を、私に救世の力を!」 雷光が空間を満たし雷鳴が轟き大地は鳴動する。 全てが治まった時、男の左右には仁王の如き巨漢二人が青と赤の炎を滾らせて佇んでいた。 ●行司の木村さん 「とんでもない事になった……」 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)の表情は険しい。 その何時に無く真剣なまま伸暁は告げる。 「行司が現れた。明朝に富士の麓に現れ儀式を行い、その儀式による影響で大火災が起きると予知された。」 腰からずっこけるリベリスタ達、シリアスどこいった。 行司って?儀式って?どういう事なの…… 「行司ってのは争いの裁定者。言うなればこの争いが続く世に遣わされた救世主さ」 いつもその言動には一癖二癖ある伸暁だが今回は何時にも増して意味が解らなかった。 「……その辺はもういいから説明してくれません?」 リベリスタの一人が頭を抑えて続きを促す、きっと苦労しているのだろう。 ハッとした伸暁によりモニターに詳細なデータが映し出される。 「軍配?」 「そう、アーティファクト『松翁の団扇』がフィクサードの手に渡っちまった。こいつは実に厄介なシロモノでね、エリューション・フォースを呼び出し意のままに操る事が出来るんだ、数は使用者の力量に左右されるがな。儀式はその力量を高めるために行うって訳」 そんな危険な物がよりによってフィクサードの手に渡ってしまうとは確かに焦るのも無理は無い、何より力士がワラワラ現れる様はあまり想像したくない。 更に伸暁の説明は続く。 「呼び出されるエリューション・フォースは2体。力士の姿を象った精霊で元になった自然の力を操る強敵だ。赤と青が居るが赤がマグマ、青が雷の力を持つ」 何だか凄いけど何故力士?なんて疑問はいけない。 「フィクサードの名は木村七太郎。ホーリーメイガスの才能を持っているがアーティファクトを手に入れた際におかしな使命感に目覚めちまったようだな。世界の全てを土俵とし、差別も格差も無い世の中にするって使命を」 そう言うと伸暁は背を向ける。 「偽りの救世主(メシア)に教えてやってくれ。格差の無い相撲なんて見応えが無いってな」 リベリスタはコクリと頷く、内心突っ込むトコそこじゃないだろうと思いつつ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:DENGORO | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年06月27日(月)23:32 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●集う8人の戦士 行司……それは力の体現者たるRIKESEの裁定者であり、その全てを司る者。 神へと奉げる神事の管理者、神の代行者、それが行司だ。 「また近代的な職が現れたな。華やかなりし大相撲の顔よ、野相撲には相応然らずや」 『七教授の弟子』ツヴァイフロント・V・シュリーフェン(BNE000883)が嘯く。 サングラスに軍服、までは良いものの何故かその上からまわしと褌を付けている風体はミスマッチさが相まって異様ですらある。 女性にまわしと言えばよからぬ想像を掻き立てる諸氏も多いだろうが敢えて言おう。 ――色気が足りない!!! そんな誰かの心の叫びは置いといて。 「山火事は怖いです! 人間も動物も植物も危ないです! 悪いフィクサードと危ないアーティファクトは勇者であるボクがどうにかするです!」 『勇者コス少女』真雁 光(BNE002532)にはまだあどけなさが残るがその目は真剣そのもの。 勇者を目指すものとしてすぐ先の未来に起こるであろう大災害を未然に防がんと覚悟を決める。 彼女の覚悟に仲間達も力強く頷く。 「まあ、なんでもいいのだけれど、はた迷惑なフィクサードはパパッと片付けてしまいましょ」 どこか冷めた様に呟くのは『ナーサリィ・テイル』斬風 糾華(BNE000390)。 元々冷めた雰囲気の彼女であるが今の目は一際冷たい、世間ではそれをご褒美と言うのだろう。 「うむ、土俵の中とはすなわち戦場。世界全てを土俵とすることは、世界全てを争いに巻き込む事だ。そんな企みを野放しにする訳にはいかん」 『影使い』クリス・ハーシェル(BNE001882)も頷き、決意を表す。 はい、ご尤もです…… 「ツッコミ所は多いけど、とりあえず押し付けの救世なんて御免被るわね。さっさと終わらせちゃいましょ、長時間相手していたくもないし」 『薄明』東雲 未明(BNE000340)の反応も冷たい。 やはりSUMOUは女性陣への受けが悪いのか、世は無常である。 そんなこんなで今ここに行司と戦う8人の戦士が集った! ●土俵の裁定者 8人の戦士は伸暁の情報通り麓の公園広場へと向かう、災いを未然に阻止せんが為に! 「ほう……君達はどこの何者だね? まぁいい、君達は幸運だよ。偉大なる儀式の目撃者となれるのだから……!」 無駄に荘厳な気配を纏わせ、フィクサード……いや、行司がゆっくりと振り向く。 「そんな事はどうでもいい……」 『新・続・真・MKⅡTYPEΩ』斜堂・影継(BNE000955)がずいと前に出る。 「アレは軍配なのか団扇なのかハッキリしろ! 日本語の乱れを若者だけのせいにしてんじゃねぇぞ!」 「え!? いやそれは私関係無くない?」 はい、木村さんのせいではないですごめんなさい。 斜堂のツッコミなのか成年の主張なのか良く解らない勢いに押されて思わず素を露にした木村七太郎さん(アラサー) 恐らく本来の彼はただの相撲好きな純朴な青年(笑)なのだろう、きっと。 「行司が悪事に手を染めてはいかんでしょう。最近の世評的にも色々と……おっとこれは関係ない話でしたな」 『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)がその姿に似合わぬ的確な突っ込みで追い討ちをかける、もうやめてあげて! 「コホン、諸々突っ込みたい所はあるが……そのふざけた儀式、遂行させる訳にはいかんな」 『Dr.Tricks』オーウェン・ロザイク(BNE000638)がどうにも締まらない空気を正し、シリアスを呼び戻した。 散々無慈悲な突っ込みに精神的ダメージを受けていた木村だがオーウェンのフォローにより再び当初の雰囲気を取り戻し…… 「く、くっくっく……良かろう、この救世の力! 止められる物なら止めてみたまえ!」 木村の手に掲げられた軍配『松翁の団扇』を掲げ、振るう! 大地が裂け、炎が噴出し、天が唸り、雷光が轟く。 眩いばかりの閃光に目が眩んだリベリスタ達が再び開いた目に映っていたものは二人のRIKISHIだった…… 「……ハッキヨイ!」 木村の宣言と同時に力士達が発する圧力が一気に増す! 「私は今の世界が気に入ってるんだ。お前の野望、阻止させてもらうぞ」 影を操るクリスの掌から神秘のカードが生まれ、木村に対し放たれるもすかさず蒼天雷がガードに周って破滅のカードをその巨躯で受け止める。 「流石にそうそう狙わせては貰えんか……さて……その動き、見切らせて貰おう!」 片目を瞑ったオーウェンが集中力を高め、的確な動きを瞬時にシュミレートし始める。 無言の力士の片割れ、赤泰山が前に進み出てリベリスタ達に突進するもそこに立ち塞がる影一つ。 「ふ、私は謎の雨乞い女力士…そう、"シュヴィンゲンの刺客"在伏山(あるぷすさん)と呼んで貰おうか!」 ツヴァイフロントが赤泰山の鉄砲を八艘飛びの要領で何とか回避しようとするも流石に重火器の重さがネックとなり、直撃とは行かないまでもその身に強烈な鉄砲を受けてしまう。 「まだまだ! 在伏山はくじけないッッッ!」 飛ばされながらも着地し、態勢を整えるツヴァイフロント。 その後ろから飛び出した未明が両手剣を振り上げて蒼天雷に強烈に打ち込む。 「さぁ、立会い相手変更よ。あたし達の相手をしてもらうわ!」 剣を受け止めるもその威力に圧され、後退した蒼天雷の瞳が好敵手を見つけた様に青く光る。 「おっと、射線が開きましたな。援護させてもらいますぞ」 九十九が西部警察もビックリのショットガンによる精密射撃で木村の手を狙い打つ。 「ちぃ!」 蒼天雷のガードが外れた木村が軍配でその攻撃を弾く。 「成る程、私と軍配を狙うか。道理だな」 「そう言う事よ。覚悟しなさい」 糾華が破滅的な黒いオーラで大鎌を覆う様に広げ巨大な黒の刃とし、突如地中から現れた斜道が続いて強襲する。 先程の九十九の射撃で体勢を崩していた木村は完全に防ぐ事は出来ず、たたらを踏みながら後ずさり、頭から一筋の血を流す。 「君達は何故邪魔をする?後少しで、後少しで私の悲願が達成されると言うのに……!」 木村の怒りに呼応する様に二人の力士も強烈な光を放ち、その力を解放する。 再び天が轟き、地上に一筋の稲妻が落ち、稲妻を抱えるように受け止める蒼天雷が居た。 「稲妻を受け止めただと……!? いかん、ミメイ!」 恋人の危機に普段の落ち着き払った態度もかなぐり捨ててオーウェンは警告を発する。 人の心を解せぬ蒼天雷はその無情の雷を上手投げの体勢で稲妻を未明に向かって投げ放つ! 「くっ……あああっ!」 警告により、無防備で受ける事だけは防ぐ事が出来たがそのダメージは深く、全身を感電させられた未明はがっくりと倒れ伏す。 「貴様!!」 激昂したオーウェンが蒼天雷に対し、普段は拘束に特化した鋼糸を無数の刃へと変え、薙ぎ払う! 激しい怒りと冷徹なまでの集中によって研ぎ澄まされた刃は蒼天雷を深く刻み、漲っていた闘気を霧散させる。 「……オォ」 人間の様に血液は出ないが身体に迸る電流を散らされた蒼天雷の動きが止まる、これでも尚膝を着かないのは仮初とは言え、力士故の矜持か。 「回復が必要ですか?ならボクに任せるですよ!」 光が目を閉じ集中する事で優しき風が生まれ、未明の傷を癒していく。 彼女の役割はパーティの補助、勇者とは言え時にはサポートに回る事も必要なのだ。 否、勇者だからこそ。 小さな勇者はまさに戦線を支えていた、力士の鉄砲、鯖折り、木村の呪縛による拘束。 次々と繰り出されるパーティに対する脅威を打ち払っていたのだ。 更にクリスの優しい歌がリベリスタ達に降り注ぎ、彼らの傷を癒していく。 一時木村達に優位に傾きかけたが彼女達の援護とそれに応えた者達の奮闘により、再び膠着までに押し戻す。 鉄槌が唸り、大鎌が更に血の花を広げ、拘束する糸とそれに応えんと両手剣が天を切る。 重火器による多角的な射撃が地を穿ち、正確な散弾が阻害する。 ならばと行事も巧みに力士達を操り、傷を癒す。 二人の力士が荒れ狂う度に彼らを象徴せし天地が轟き、リベリスタ達を脅かすも小さな勇者と影使いが戦線を支え、崩れさせない。 個々の力では負けていても支え合う事で彼らリベリスタはどんな相手とでも戦えるのだ! 「支え合って戦うか。惰弱だな! リベリスタ諸君」 木村が流れる血を拭い、後ろへと一歩下がる。 「おや、世界の平等を目指す方の発言とは思えませんのう?」 怪訝な顔(?)をして九十九が問いかける、狙いをつけたまま。 「いいや、間違い無く私は平等を目指しているよ?」 「土俵の中は勝負の世界! 勝者と敗者しか存在しない、絶対の差別空間! そんなもので、世界が平等になるものか!」 「平等、そんな言葉を偉そうに言う人達にロクな人を見た覚えが無いわ」 糾華が大蝦蟇 斜道が鉄槌を振りかぶり一気に決めんと飛び掛る、が。 「待った!!」 しかし木村の呪縛によりその動きを止められる。 「だからこそ私はそれを目指しているのだよ。実力で決まる公平な世界、生まれや縁で左右されない人生の世界」 「この世界を見たまえ」 そう言うと大きく手を振りかぶり扇動家の様に大げさに振舞う木村、最初のしょっぱさが嘘の様だ。 「この世界は不条理に満ちている、生まれだけで人生が決まり、世界に愛されてるか愛されてないか、それだけで運命の行き先が決まる……君達ならば解るだろう?」 エリューションとリベリスタ、フィクサード、前者と後者達の違いはフェイトを持つか持たないか、唯それだけ。 この場にいるリベリスタ達の殆どはそんな不条理を人生で、任務で味わってきた筈だ。 ギリ……と歯を噛む糾華もかつてそんな不条理で家族を失った一人だ。 「だからこそ私はそんな世界を壊すのだ! 勝ち取るなら誰かに与えられた恩恵で無く自らの力で得られる世界に作り変える為に、この天地を精霊を司る軍配でな!」 「……ふざけるな、仮に平等になったとしても、アンタは裁定者に相応しくねぇ!」 動きを縛られたままの斜道が吼える。 ほう、と目を向ける木村を睨み返しながら。 「何人もの勝負審判と共に、時に物言いをつけられながらも一体となり土俵を裁く……それが行司!」 「今のアンタに、共に裁く仲間がいるか?」 そう、彼らには仲間がいる、独り善がりな木村に決して得られなかった物が。 「この多重封印‥‥そう簡単には破られんぞ‥‥! 今だ、『仕切りなおし』としてくれ給え‥‥!!」 蒼天雷を完全に拘束したオーウェンが呼ぶ、よりも早く破壊的な気を漲らせた未明が跳ぶ。 「了解、任せて」 動けぬ蒼天雷を一気に両断し、勝負アリ。 雷を霧散させながら蒼き雷は消滅する、好敵手によって。 「そちらが鉄砲ならこちらは短機関銃をお見せしよう。これぞ、MP18の突っ張りだッーー!」 終始赤泰山のブロックにその力を尽くしていたツヴァイフロントだったが、戦線の好転により前線に参加した光が援護する事で一気に攻撃へと転化する。 「えいやー! たー! で攻撃するですよ!」 ツヴァイフロントの斉射と光のメガクラッシュが重なり、此方も炎を吹き散らし、大地へと還る。 しかしほぼ一人で力に優れる赤泰山を相手を続けていたツヴァイフロントの負担は大きく、がくりと膝を着く。 「ドイツ軍人はこれ位で倒れないものさ」 精一杯の強がりを呟いて。 力士に勝る軍人の矜持であった。 二人の力士は倒れた、正しく連携の勝利と言えただろう。 「馬鹿な……! くくっ、しかし、まだ!」 松翁の団扇を掲げ、再び力士を呼び出さんと木村は力を高める。 「くっくっく、大事な物を肌身離さず持っていたのが、貴様の敗因よ」 おちゃらけた口調で九十九が軍配を持っていた木村の右手を打ち抜く! 「ぐっ……がぁ……!」 「私達には仲間が居るわ、平等を唱える前に大事な人の一人でも作る事ね」 その強い意志力で拘束を跳ねのけた糾華と斜道が最後の力で突き進む。 糾華の大鎌が一閃され、木村の身体から爆発が起こり、斜道が続く。 「もし行司たらんと欲するのなら! まずは俺の物言いを受け止めろ!」 雷電を帯びた斜道の鉄槌が木村を完全に捉える! 「……!」 叫び声すら上げられず、派手に吹き飛んだ木村はがっくりと倒れ伏した。 軍配が、哀しく地に堕ちていた。 ●新たなる行事、斜道さん 「ふぅ……大丈夫かね?ミメイ」 「大丈夫、我が身くらい守れるわ。でもありがとう」 オーウェンが傷ついた未明に肩を貸し、帰りの車に乗る。 「火の手は無し、と。じゃあ富士山でも見て、ゆっくり帰りましょう……って何してるの?」 糾華が捕縛した木村に何やらカキカキと書き込んでいる九十九を覗き込む。 「いえ、折角なので相撲の魂を叩き込んであげようかと思いましてのう、ビジュアル的な意味で」 哀れな木村の額には「相撲」と書いてあり、それを見たクリスが「ぷっ」と笑っている。 「さて、軍配を回収しよう……って斜道?」 「ふっ、何、ちょっと一度やってみたくてな」 「おおっ、何をするかわくわくですっ!」 光は無邪気に斜道の行動を見守っている、ツヴァイフロントは怪訝な顔だ。 「争いに決着を告げる裁定者、行司……それに相応しいのは、『俺』だ! 出ろッ! 俺の、力士(RIKISHI)ィッ!」 えっ 「おい、ちょ、おま!?」 ツヴァイさん、止めてあげてー! ――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…… 天地が唸り、眩い光が溢れ……そして…… その後一週間、本部で「λ」と肩を落としてトイレ掃除をする斜道が居たという。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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