● 深夜。 登山口付近のガソリンスタンドで給油を行っていた男は、不思議な光を見た。 ――不思議、という表現は間違っているかもしれない。 「今は夜……だよな?」 時計を見て時間を確認しても、その光の逆方向が宵闇に包まれているところを見ても、今はどう考えても夜だ。 しかも常識的に考えれば、それは空に存在する。 どれほど手を伸ばしたとしても、絶対に届かない存在。しかし、普段から見慣れている存在。 「どう見ても太陽だよな……」 男は山に突如現れたまばゆい光を、そう形容する事しか出来なかった。 太陽は進む。 求めるものは燃える液体――即ち、ガソリン。 子供とも言える小さな3つの太陽を供に、目指す先はそのガソリンを多量に蓄えたガソリンスタンド。 その存在にとって、ガソリンを燃やすために特別な行動をする必要はない。 ただ、自身がそこに衝突すれば良い。 行く手にある森の木々も、燃えるという過程を飛ばして一瞬で灰になるほどの熱量を称え、太陽はただ、その場所を目指す。 ● 「……大爆発」 見えた未来の最悪の結果は、『リンク・カレイド』真白・イヴ(nBNE000001)の言葉の通り。 炎の塊がガソリンスタンドに突っ込むと、どう考えてもこの結果を迎える以外の道はない。 「……それを阻止して欲しい。敵はエリューション・エレメントのフェーズ2が1体と、フェーズ1が3体で、全部が太陽」 どれか1つでも突破を許した場合、大爆発の発生は必然。 今から急いで向かえば、出現地点の手前で待ち構える事は可能だ。 「太陽は地面から出てくる。……ぼこっと。出現地点は正確にはわからない」 それまではエリューション達は地に潜っているのだろう、イヴの言う『ぼこっと』が最適な表現だといえるレベルで、地から飛び出してくる。 見えた未来が出現直後だったせいもあるのか、どこから現れるのかはわからないようだが、上手く待ち構えれば一斉攻撃をいきなり叩き込む事も可能ではあるだろう。 だが、問題はこの後に存在した。 「阻止に割ける時間は、長くて60秒」 出現地点からガソリンスタンドまでの距離はおよそ120mではあるが、イヴは最も最前線で待ち構えた時の位置から60mでデッドラインを区切ったのである。 「……阻止に失敗した時、爆発に巻き込まれないギリギリの時間」 深追いして阻止に失敗すれば、リベリスタの受ける被害はより甚大なものとなる事は間違いない。 それを避けるために避難する時間を考え、イヴは60秒のラインを作ったのだろう。 「敵の攻撃は強烈で、苛烈。足を止める事はないよ。瞬間的な攻撃なら、近接戦闘を仕掛けても大丈夫みたい」 木々が一瞬で灰になるほどの熱量を持った太陽のエリューション。その火力を、イヴはそう表現した。 しかもエリューション達はどんな行動をとる場合でも、必ず前進する。 行動はいくつかのパターンが存在するため、それを逆手に取れば阻止も不可能ではない――はずだ。 「じゃあ、パターンの説明。フェーズ2と1とでは少し違うから、気をつけて」 イヴの説明によれば、そのパターンはこうである。 フェーズ2 ・移動した先に4人以上の攻撃対象がいた場合、移動後にその全てに火球を放つ。 ・進行方向に1人でもいた場合、移動後に進んできた方向を焼き尽くす火柱を上げる。 ・どちらにも当てはまらない場合、全力で移動する。 フェーズ1 ・フェーズ2が無傷の場合、移動後に最も近い攻撃対象に火球を放つ。 ・フェーズ2が一定以上傷ついた場合、移動後にフェーズ2の火力を増加させる火球を放つ。 ・どちらにも当てはまらない場合、全力で移動する。 例えるならば、それはプログラムされた動作に近い。 「火球はバスケットボールくらいの大きさだけど、とても速い速度で飛んで、狙いも正確。木に身を隠したり避けたりすると、今度はその攻撃で山火事が発生するよ」 しかも本体の熱量とは違い火球の熱量は低いらしく、身を隠す作戦を取れば別の意味での大惨事が起こるとイヴは言う。 そしてフェーズ2が発生させる火柱は山火事の危険性は少ないものの、熟練のリベリスタでも一撃で倒れるほどの火力があるようだ。 「大爆発も山火事も、どっちも阻止しないとダメ。だから……頑張って」 60秒という恐ろしく短い時間での、阻止作戦。 それでも、集まったリベリスタ達ならばどうにかしてくれるはずだと、イヴは彼等に全てを託す。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:雪乃静流 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年12月11日(火)23:19 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●闇夜に上る太陽 ガソリンスタンドを背に、8人の影が山を駆ける。 その目指す先は、山の中腹。 「ルートはこっちを使ったほうが早く到着しそうだ、とにかく走れ!」 アーティファクトを片手に、目的地までの最短ルートを探す『弓引く者』桐月院・七海(BNE001250)が進むべき道を示した。 彼等の進む先の土中から太陽のエリューションが現れるまでに、最早幾許の時間もない。 「あちらか。敵の今の位置はわかるか?」 「まだ地表に飛び出す気配はありません。ですが、急ぐに越した事はないですね」 問いかける『燻る灰』御津代 鉅(BNE001657)に『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)は熱感知で感じたままの状況を仲間へと伝える。 彼等が進む間も、カレイドスコープによって探知された太陽は地表を目指して突き進んでいるのだろう。 (少しでも遅れれば、それだけガソリンスタンドまでの障害が少なくなるわね。正直、大惨事になる様子も観たい……ええ、私は何処か歪んでる) そう『水底乃蒼石』汐崎・沙希(BNE001579)が考えるとおり、最前線でエリューションを迎え撃てなかった場合、想定される最悪の未来がより現実へと近づく。 迎え撃つための戦略があるならば、その限りではない。 『阻止に割ける時間は、長くて60秒』 だが出撃前にイヴによって告げられた、リベリスタ達の戦闘可能時間は、僅かに60秒のみ。 「今日は熱い一日になりそうだ」 ふと、『イエローナイト』百舌鳥 付喪(BNE002443)が呟いた。 今は真冬であり、空気も刺すような冷たさで肌にまとわりついてはいる。 この空気も、後僅かの時間が経てば太陽のエリューションにより熱せられ――かつ、その炎の攻撃で山火事が起こるか、阻止に失敗すれば彼等の後ろに建つガソリンスタンドが大爆発を起こす。 いかにCOOLな季節であっても、それだけの炎に熱せられればHOTになる事は請合いだ。 「この時期、暖を取れる程度の存在であればむしろ歓迎だったのですが」 などと言う『シャドーストライカー』レイチェル・ガーネット(BNE002439)ではあったが、そのHOTはもはや暖を取るというレベルを超越してしまっている。 「太陽は一個あるだけで十分だ、それだけでもたまに暑苦しく感じる事があるくらいだしな」 2つ目、3つ目の太陽など、必要ない。鉅の言葉は誰が聞いても正論だったのだろう、否定するような言葉が出る事はなかった。 「120mとはこのあたりかな」 おおよその位置の目星をつけ、『ジーニアス』神葬 陸駆(BNE004022)はさっと周囲を見渡す。 山というロケーションに違わず、どこを見渡しても木、木、木。 さらには大地に根付いた小さな草木すらも、太陽の放つ炎の前では燃えていく宿命なのだ。 「――来ます!」 直後に耳に届いたのは、モニカの声。 『ぼこっと』 イヴは確か、そう形容していた。 しかし現れた太陽は、土を削る音すらも立てず、ただ静かにそこに佇んでいた。 リベリスタの存在には、気付いているのか、気付いていないのか。否、そんな事は現れた大小4つの太陽には大した問題ではない。 ただ、目的の場所へ。 膨大な熱量を湛え、太陽は静かに目指す先へと進み始めていく。 ●その姿、移動要塞 「チルドは天才である僕が1体は受け持とう、マザーの方は頼んだぞ」 「了解した。マザー・サン……まずは俺が道を阻もう」 陸駆の言葉を受け、太陽の進行を少しでも遅らせるべく前へと飛び出す鉅。 『進行方向に1人でもいた場合、移動後に進んできた方向を焼き尽くす火柱を上げる』 『フェーズ2が無傷の場合、移動後に最も近い攻撃対象に火球を放つ』 マザー・サンとチルド・サン、2種類の太陽は決まった行動パターンでしか動かないため、リベリスタ達はそれを逆手にとった戦略で戦いに望む。 ひとまずは敵の前、もしくは近くにさえ陣取れば良いのだから、ダメージコントロールを円滑に行うためには当然の作戦だと言えるだろう。 「まずはどう動くかを見ましょうか」 しかしこの時、相手の出方を見るためにミリィが動きを鈍らせた事が、鉅にとっては仇となったのは間違いない。 「来るぞ!」 放った気糸でマザー・サンを狙い撃った陸駆の言葉が飛んだ時、じわりと前へと進むマザー・サン。 ボォ……!! そして鉅の頭上を通り過ぎたマザー・サンが一際大きく輝くと同時に、進んできた道のみならず、その先をも焼き尽くすように大地を炎が走った。 「ぐ、あぁぁ……!」 全てを焼き尽くさんとするばかりの火力を孕んだ激しい炎は、熟練のリベリスタである鉅の身を焼き焦がし、かつ山の木々にもじわりと火種が燻り始める。 それだけではない。 「コレは限りなく迷惑な存在だ、速やかに排除しなければ……!」 「まったくだ。しかし太陽といえ偽物なのだ。偽物が本物の天才に勝てるはずがないのだ!」 同時に動いたチルド・サンの放つ炎が陸駆や近くに陣取っていたレイチェル、そして火柱を受けたばかりの鉅へと飛んだのだ。 本来ならば3体目のチルド・サンを抑えるのはミリィの役目ではあったものの、陣取りが甘く近づききれていなかった事、かつ出方を伺った事で鉅がその標的となってしまったらしい。 「御津代さん!」 思わず叫ぶミリィではあったが、がくりと膝をついた鉅は倒れそうになる体を強引に起こすだけで精一杯の状態である。 それでも、『熟練のリベリスタでも一撃で倒れる』とイヴが称した火柱に耐え切っただけでも、殊勲賞モノではあっただろう。 『息吹よ、在れ』 咄嗟に沙希が空中に字を描き、放った聖神の息吹で3人の傷は僅かに回復したが、鉅の状態を見る限りでは、無傷の状態でも火柱に耐える事はかなり難しい。 もしも最初に立つ位置さえちゃんとしていたならば、チルド・サンは鉅を狙わなかったのだろうか? それを考えたところで、過ぎた時間は戻ってくる事はない。 「こうなると、先に倒すか倒されるか、かな」 「私の操る雷とどっちが上か、確かめさせて貰うおうかね」 ならば被害が拡大する前に倒しきる以外に方法はないと言う七海の言葉は、確かに正論だ。 彼の放つ業火を纏ったインドラの矢、そして付喪が発生させた拡散する雷が全ての太陽を貫き、 「そして、火事を食い止めたいなら周辺の可燃物を壊せばいい」 加えてモニカがばら撒いたガトリングの弾丸が、太陽のみならず周囲の森林をもなぎ倒していく。 (――ッ!? ほとんど効いてませんね) だが物理的な攻撃に強いとされるエリューション達に対し、その弾丸はほとんど無駄弾でしかなかった。 加えて可燃物を破壊し砕いたとしても、完全に消失するわけではない。燃え広がりにくくはなったとしても、燻った火種は今なお煙を上げている。 「山火事は発生しにくいようですが、絶対というわけではなさそうですね」 レイチェルが言うように、しにくいとは言っても火がつかないわけではない。 先んじて火柱を受けた鉅に続き、次に火柱を受ける役を担うレイチェルはマザー・サンの前に立ち、気糸を張り巡らせると4度全てのサンを巻き込み、撃ち抜いていく。 その狙いはダメージを与える事以上に、チルド・サンの火種を無駄撃ちさせる狙いもあったが、確かな手応えを感じる事は出来ずに終わった。 「多少無茶をしてでも、止めて見せます。――絶対に!」 直後に攻撃を1度捨ててでも攻撃動作を仲間と共有したミリィの言葉は、決意の表れ。 「あぁ、そうだぞ。やるしかないのだぞ!」 「……そうだな。まだ倒れてはいられないか」 彼女の言葉に呼応した陸駆も、倒れそうな体を押して火柱の射線から離れた鉅も、太陽の放つ圧倒的な火力に臆した気配はない。 (――範囲内に2人か、こちらでいくしかないのだぞ) この時、陸駆にはファントムレイザーの刃でチルド達をも巻き込み切り刻む選択肢もあったが、その範囲に鉅とレイチェルがいた事で、気糸での攻撃を判断したようだ。 「ああああっ!!」 「く……! 太陽ごときのちゃちな火力じゃ、私を倒すことは出来ないんだよ!」 直後、マザー・サンとチルド・サンの攻撃によりレイチェルと付喪の2人が膝をつく。 2人も鉅のように倒れてしまいかねないほどの傷を堪え立ち上がるものの、このままでは2度目を受けきる事など出来はしないだろう。 特に付喪は、鉅とレイチェルのような機敏さを持ち合わせてはいない。それが彼女に、直撃弾を喰らわせた要因でもあった。 (さぁ、天秤はどちらに転がるのかしら) 果敢に攻撃を仕掛ける鉅と、火柱で甚大な被害を受け、倒れ――再び立ち上がるレイチェルとの姿を交互に見、沙希は不敵に笑う。 阻止に失敗して、サンのどれかがガソリンスタンドに突っ込む事も、戦いの過程で傷を負う仲間が苦しむ様も、彼女が内心で望む姿。 木々と仲間の焼ける臭いに鼻をくすぐられ、最悪の結果を望みながら、それでも沙希は目の前の任務だけは忠実にこなしていく。 「2人が既に危険状態、火力はやはり高いようだね」 そう言う七海ではあったが、4つの太陽の火力は予想した範囲を超えていた。沙希の存在があるおかげで2人ともまだ戦えはするが、最初の布陣で僅かに失敗した事が被害を大きくした事は言うまでもない。 「せめて回復だけでも阻害したいところですが……」 再び、レイチェルの気糸が空気を裂く。ほぼ同時に仕掛けていた付喪やモニカの攻撃とあわせ、チルド・サンの炎は確実に小さくなっていた。 3m近くあるマザー・サンですら、陸駆の気糸で4割ほどは萎んでいる。最初に見た時よりも炎が多く漏れ出しているのは、人間でいう出血の兆候なのだろう。 「まったく、風船のようなのだぞ」 陸駆がそう形容したように、その姿はあたかも膨らんだ風船から空気が抜けていくようにも見えた。 風船。 リベリスタ達は、すぐにこの形容が正しいものであった事を知る。 「止められなかった!?」 「まさか、ここで仕切り直しか!」 しまったという表情を浮かべ、叫ぶレイチェルと鉅の眼前で、マザーへと注ぎ込まれる全てのチルド・サンの火種。 萎み切る直前に放つチルド・サンの最後の輝きに、マザー・サンが再び現れた時の大きさへと膨らんでいく。 (あらあら、このままだと爆発も――見られるかしら?) 3度放たれた火柱によってミリィが倒れる中、同じく3度目となる聖神の息吹で仲間の窮地を救った沙希の口元が、僅かに歪む。 見えてきた『大爆発』の文字が、そうさせたのだろう。 「お前等はそのまま消えろ。すぐにマザーも燃え滓にしてやる」 「私の雷撃は、こういう時のために鍛え上げてきたんだよ。木端微塵に派手に吹っ飛ばしてやるから覚悟しな!」 殆どリスタートの状態にまで火勢を強めたマザー・サンではあったが、それは決して戦場自体がリスタートしたわけではない。 既にリベリスタは4人が甚大な被害を受け、次を受ければその4人は戦線から外れてしまうだろう。 そして七海と付喪により、丁度今、チルド・サンの3体が消え去っていったのである。 「後はマザーを抑えるだけですが……」 不意に、マザー・サンの前に立ちはだかり後ろを見やるモニカ。 自身の後ろにあるデッドラインまで、マザー・サンが自分を超えればもはや20mの距離まで迫っている。 「残り半分、しかしこのままでは……!」 撃ちまくるガトリングの弾はマザー・サンに対してさほど効果があるようでもなく、刻一刻と過ぎる時間に脳裏を過ぎる敗北の2文字。 「安心するのだ、モニカ・アウステルハム・大御堂! 『まだ』20mもあるのだ!」 もはや20m、されど20m。全員が一丸となりさえすれば、取り返す事もきっと不可能ではないはずだ。 発破をかける陸駆、そして彼に続いて攻撃をかけるレイチェルや鉅の攻撃によって、再び萎み始めるマザー・サン。 しかしどのような攻撃を受けたとしても、消滅するその時までマザー・サンの足が止まる事はなく、阻むの者を薙ぎ払い雄弁に進むその姿は、まさしく移動要塞と呼ぶに相応しい。 「そうですね……ここは、耐えてみせます!」 そして道を塞ぎ、避けずに耐える事を主眼に置いたモニカへ、確実に焼き尽くす事を主眼に置いたマザー・サンの火柱が飛ぶ。 もしもモニカに先に火柱を受けた仲間達程の速度があったならば、この火柱の一撃すらも耐え凌いでいたことだろう。 それほどに、彼女は耐久力にかけてはリベリスタ達の中で群を抜いていた。だが速度で劣りすぎていた事が、チルドの攻撃に付喪が倒れかけたのと同じく、大打撃を受ける結果をもたらしていた。 (耐えようとすると、より焼き尽くされるという事かしら? 良い表情よ……) 沙希がそう感じたように、耐えようとすればするほど、火柱は激しく対象を焼き尽くしていくのである。 「止められるか?」 迫るタイムリミットに、果敢に攻め続ける七海の顔に焦りが浮かぶ。 「いや、止めなきゃならないんだよ!」 かといって、攻撃の手を緩めたりすれば一気に突破されかねない。気合の勝負だと、付喪が吼えた。 「天才ファントムりっくんれいざー! さらにもう1発だ!」 右手で気糸を放ち、直後に左手で再び気糸を放つ陸駆も、まだ諦めてはいない。 「鉄壁の要塞と言えど、綻びがない訳ではありません。――大丈夫。私達なら出来ますよ」 「動きを読むのは容易、ならば狙うのは正確無比なる一点集中攻撃!」 「……時間制限さえなければ、パターンが決まっている以上、まだもう少しやりやすい相手だったんだが」 ここに来てようやく後手に回るのを避け、先手に転じたミリィの閃光が走り、レイチェルと鉅の気糸が飛んだ。 じわり、じわり。 進み続ける太陽はこれほど苛烈な攻撃を受けて再び萎みながらも、炎を吹き上げ、一撃のもとに道を阻むリベリスタ達を薙ぎ倒していく。 「三高平っこは熱いのが好みだ。もう少し熱い位がちょうどいい!」 今もまさに、陸駆がその炎で焼き尽くされたところである。 否、ここに来てようやく、一撃で倒れない存在が登場したと言っても良い。自慢の身軽さを活かした陸駆は、焼き尽くされたように見せながらもギリギリのところで耐え凌いでいたのだ。 ゆっくりとした動きながら、萎んだり膨らんだり、そしてまた萎んだりを繰り返し、マザー・サンはガソリンスタンドへと進む。 「なんか、ヤバイ気配だな……離れたほうが良さそうだ」 その姿は、イヴの垣間見た未来で爆発に巻き込まれた一般人の男性からも、はっきりと見えていた。 あまりにも異質な状況と、炎の塊が迫る光景に、のんびりと給油していた彼も危ないと判断したのだろう。 慌てて給油を止め、彼は車を走らせスタンドを後にしていく。 (そう、逃げたのね) 必要があれば、出したくもない声を出してでも逃がそうとしていた男性が逃げ去る姿に、神秘秘匿の必要性はないと感じる沙希。 リベリスタ達の懸命の攻撃が功を奏したのか、当のマザー・サンもなんとか1mほどの大きさにまで萎ませる事は出来た。 が、残り10mのところで1/3のサイズである1mのサイズでは、最早間に合うかどうかなど賭けでしかない。 「これ以上、進むなぁッ!」 身を挺して進撃を止めにかかる七海ではあったが、マザー・サンにとっては彼も道を阻む壁でしかなく、ただ突破すれば良いだけの存在なのだ。 「チルドを侮り、残しすぎたか……」 もしもリベリスタ達に明確な敗因があるとするなら、鉅の言ったこの一言に尽きるだろう。 チルド・サンの火種が飛ばなければ、もう少し早い段階で消滅していた事は間違いないのだから。 そして、6枚目の壁となる七海を軽々と突破したマザー・サンは、ついにデッドラインを超える――。 ●爆裂する炎 「間に合え、倒れろ!」 「まだ、終わってない……!」 先を目指し、進むマザー・サンへと呪いの弾丸を放ち、最後まで追撃を続ける七海とレイチェル。 だがその弾丸と気糸すらも、炎を消し去るには能わず。 「無理か……」 「下がりますよ、爆発に巻き込まれます」 歯噛みする鉅を抑え、モニカが撤退を促す。 マザー・サンが直撃してガソリンが爆発するまで、もはや時間はない。こうしている間に爆発したとしても、不思議ですらない。 爆発による炎の熱風ならまだしも、爆散したガソリンスタンドや車の破片が直撃すれば、今のリベリスタ達の中でどれだけの人数が立っていられるだろうか。 「火種はもう残ってないようだね……悔しいけど、今は下がろう」 一直線に焼け焦げた痕を残したマザー・サンの通った道。燻る火種に土をかけて火を消し、傷だらけの仲間達を見渡し言う付喪。 偽物の太陽は、僅かな時間だけ大地を照らし、そして沈んだ。 大きな、大きな被害を置き土産に。 耳に届く最悪の音を背に、彼等は爆発から少しずつ遠ざかり、引いていく。 「……くす」 その時、沙希が僅かに口を開き――笑んだ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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