●最後の兵隊 辿り着いたのは、異国の地。 生き残ったのはたったの3人で、その3人にしても半死半生といった状態。いつ、誰が、息絶えてもおかしくないような傷を負っている。 男達は、兵隊だった。金を貰い、危険な紛争地に出向く、所謂傭兵部隊、というやつである。 仕事が終わり、生き残った仲間は僅か3人。その後帰りの船が難破し、ボートで海を彷徨った末に辿り着いたのが、この国だった。 何故こんなことになったのか。 声にならない声で問う。返事はなく、ただ仲間の苦しげな呻き声だけが耳に届いた。砂浜を歩くものの、人の姿はない。秋もそろそろ終わりかけのこの国で、こんな季節に海辺に用がある者など、ほとんどいないだろう。 男は、ただ恨んだ。何を恨んでいるのか、自分にも分からないまま、ただ恨み続けた。右腕と片目を失い、身体のあちこちには銃弾が埋まったまま、こうして得た金も祖国の家族に送ってしまい手元にはない。 きっと、このまま帰ることは出来ないだろう。とそう思う。 この寒い異国の地で息絶えるのかと思うと、悔しくて仕方がなかった。 砂浜に横たわる他の仲間を見る。息も絶え絶えに、辛うじて命を繋ぐ戦友たちを。 片方は、その身のほとんどを戦火に焼かれ包帯だらけ。時折、苦しげな吐息を漏らすだけだ。 もう片方は、傷こそさほど負っていないものの、戦場で体験した恐怖からか常に何かに怯え、震えている。 このまま、死にたくはない。 そう思った、その時。 彼は、自身の体が何か得体のしれない力によって作りかえられるのを感じた……。 ●そしてどこにも帰れない 「傷ついた兵隊が3人。ノーフェイスとなって、浜辺から外国人墓地にかけてを進行中。どこへ向かっているのかは分からないけど、このまま放置しておくわけにはいかない」 何処となく悲しげな表情を浮かべ『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)はそう呟いた。 モニターに映ったのは、どんよりと曇った空と、寒風吹きすさぶ浜辺の様子。 そして、そこを進む兵士が3人。 「フェーズ2の(フューリー・アーミー)を筆頭にフェーズ1(ペイン・アーミー)と(フィアー・アーミー)の3体」 傷ついた兵士が3人。 フューリー・アーミーは恨みに濁った眼をぎょろりと動かし、周囲の様子を窺っている。 「フューリー・アーミーは怒りに燃えている。体中に仕込んだ銃火器、ナイフ、弾丸を使用し攻撃してくる。好戦的で、恨みを晴らすこと以外を考えていない」 3人の中で最も強い想いを抱いて、活動しているようだ。 それから、とイヴはモニターを切り替える。映ったのは、包帯を巻いた兵士の姿。包帯の隙間から青い炎が漏れているのが見える。 「ペイン・アーミーには火炎系の攻撃が効かない。動作は鈍いものの、攻撃の範囲が広いのが特徴。青い炎を撒き散らして進む」 常に痛みを感じているのか、その表情は苦しそうだ。 最後にモニターに映されたのは、青白い顔をした兵士の姿。他2体に比べ、傷らしい傷を負ってはいないものの、しかし、何かに怯えるような目をしていて、きょろきょろと視線を彷徨わせている。 「フィアー・アーミーは地中に身を隠す能力と、一時的に姿を消す能力を持っている。また、非常に索敵能力が高いため、不意打ちは無効」 以上3体のノーフェイスが、今回のターゲットとなる。 現在、浜辺とその傍の外国人墓地を何かを探して彷徨い歩いているようだ。 「すでに彼らに帰る場所はないから……。可哀そうだけど、殲滅してきて」 そう告げて、イヴはそっと床に視線を落とした。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年12月09日(日)23:16 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●どこへ行くのか……。 ザッザッ、と一定の感覚で響く足音。砂の積もった落ち葉を踏みしめ、彼らは歩く。ボロボロで傷だらけ、生きているのか死んでいるのか、そんな半死半生の外見をして3人の男達。浜辺に流れ着き、力を得たノーフェイス。元は傷を負った傭兵たちだったのだが。 「何故こんな事になったのか、そんなの自分自身が一番良く知ってると思うっすけどね」 溜め息混じりにそう呟いて『LowGear』フラウ・リード(BNE003909)は腰に下げていたナイフを引き抜いた。浜辺から墓地へと向かう道中。林に隠れ様子を窺っていたのだが、たった今、リベリスタ達の見ている前で兵士の1人が不意に姿を消したのだ。 「崩壊を招く存在になってしまった彼らを元の場所に帰す訳にはいきません……」 悲しそうにそう呟いたのは、風見 七花(BNE003013)だ。仕掛け暗器の動作を確認し、墓地へと回り込む。たった今消えた兵の名は(フィアー・アーミー)。3体のノーフェイスの中で、最も索敵能力と隠密能力に優れた1体だ。 そのフィアーが消えたということは、もしかしたらこちらの存在がばれてしまったのかもしれない。一同の間に緊張が走る。 「どのような理由があったとしても、傭兵の道を進んだ以上、奴らの末路を同情することは出来ない……」 マスクの位置を整えて『あるかも知れなかった可能性』エルヴィン・シュレディンガ―(BNE003922)が銃とナイフを引き抜いた。 「せめて、その嘆きと怒りの想いを終わらせ、安らかに眠らせてやる」 そう囁いた、その瞬間。 彼の足元から、土に汚れた太い腕が突き出された。 ●きっと何処へも、辿り着けない……。 足元から腕が飛び出したその瞬間、エルヴィンは地面を蹴って大きく後ろへと飛んでいた。腐葉土が飛び散る。地面から飛び出して来たのは、恐らくフィアーの腕だろう。 「やっぱ待ち伏せは失敗か……。あーやだやだ、雨が降る前のこの天気。髪は纏まんねーしスッキリしねーし。とっとと片づけて帰るとするか」 銃の撃鉄を引き上げて『住所不定』斎藤・和人(BNE004070)が林から飛び出した。見つかった今となっては、潜んでいても動きにくいだけだ。事実、林から飛び出した和人の前には全身から青い炎を立ち昇らせる(ペイン・アーミー)が立っていた。和人が銃を掲げると同時に、ペインの放った炎の槍が、和人に迫る。咄嗟に銃で炎の槍を防ぐ。勢いを殺しきれず、銃が宙へと弾き飛ばされた。 宙に舞う銃をキャッチしたのは『大雪崩霧姫』鈴宮・慧架(BNE000666)だった。 「戦争は好きじゃありませんですが、家族の為に命がけで戦い負傷した貴方たちに、私は敬意を表します」 銃を和人に投げ返し、自身は後ろに下がる。慧架と入れ替わるように『猛る熱風』土器 朋彦(BNE002029)が前に出る。ペインの放った炎の槍を、鉄甲で受け止め、朋彦は言う。 「魔法使いがボディーガードというのも変だけど、こっちの方が得手でね」 彼に炎は効かない。その性能を活かし、背に慧架を庇う朋彦。とはいえ、ダメージまでは消せない。炎の槍を受け止めた彼の腕から、血が流れる。 土の潜ったまま姿を現さないフィアーの他に、ペインともう1体。ペインの背後に控えている銃痩だらけの男は(フューリー・アーミー)という。両手で抱えた機関銃を和人と朋彦に向けるフューリーの前に、ラベンダー色の髪をなびかせた『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)が立ちはだかる。 「私は敵だ、撃鉄を起こし引き金を引くが良い、ただ刃を持って応えよう」 ブロードソードを引き抜いて、フューリーに斬りかかるアラストール。機関銃を掲げ、フューリーはそれを受け止めた。2人の間で、火花が飛び散る。 アラストールの振るう剣と、フューリーの放つ不可視の刃がぶつかり合う。激しい斬撃の嵐に対し、フューリーは不可視の刃と、銃弾でもって応戦する。フューリーの身体に埋まっている無数の銃火器から、弾丸が放たれる。 「う、っく」 脇腹に弾丸を喰らい、アラストールの身体が傾ぐ。しかし、咄嗟に剣を地面に突き刺し、身体を支える。血を流しながらもすぐに立ち上がり、フューリーへと立ち向かっていく。 「そっちだ! 墓石の間!」 エルヴィンが叫ぶ。と、同時に不吉なオーラを纏った弾丸が放たれた。弾丸が地面に当たる瞬間、土を撒き散らしフィアーが地面から飛び出した。 地面から飛び出した瞬間、フィアーの首目がけて武骨な槍が突き出された。槍を放ったのは、エルヴィンの指示に従ってフィアーに接近していた『カゲキに、イタい』街多目 生佐目(BNE004013)だ。フィアーは瞬時に首を傾け槍を回避する。 「死神が蹴るのは、扉の主を問わず」 そう呟いて、生佐目はその長い脚を前に突き出した。靴の踵がフィアーの腹に突き刺さる。 「少なくとも、貴様らの向かうべきは、この世にあらず」 弾き飛ばされたフィアーが、墓石にぶつかって止まる。そこへ接近するのは墓の間をすり抜けるように駆けるフラウだった。ナイフを肩口に構えて、地面を這うようにしてフィアーに迫る。フィアーがその太い腕を突き出すが、それをナイフで弾き、そのまま流れるような動きでそれを振り回す。腕を切り裂き、そのまま胴、喉と連続で切りつけて行く。 「御機嫌よう。何を探してたか知らないっすけど、望むものは見つかったっすか?」 ナイフを振り下ろすフラウ。しかし、ピタリとその動きを止めるとフラウは地面を蹴って背後へ下がる。フラウを追うようにして、フィアーから放たれたのは無数の黒いオーラで出来た腕だった。無数の腕がフラウに掴みかかる。フラウの身体から力が抜けた。地面に膝を付いたフラウへと、フィアーが迫る。 「おっと、そうはさせん」 銃をナイフを交差させたエルヴィンが、フィアーとフラウの間に割り込んだ。気合い一閃、×印を描くようにして武器を振り下ろすエルヴィン。それを受け、フィアーは大きく背後へと吹き飛んだ。その隙に生佐目が槍で黒い腕を切断する。 「警戒を強めよう。気休めかもしれんがな」 生佐目は言う。腕を全て払い顔を上げた生佐目とフラウ。しかし、いつの間にかフィアーの姿は消えていた。エルヴィンが首を巡らしフィアーを探す。 「皆さん! 敵は砂浜に向かって逃走中です!」 その時、七花がそう叫んだ。彼女の指さす先には、宙を舞う1匹の鴉の姿。彼女が作りだした式神である。鴉は何かを追って、砂浜へ向かって飛んでいく。 それを追って、エルヴィン、フラウ、生佐目は駆けだしていった。 逃げ出したのはフィアーだけではない。他のメンバーと交戦中だったペインとフューリーの2体もまた、一目散に砂浜へと逃げ帰って行く。一旦体勢を立て直すつもりなのか。戦略的撤退というやつだ。流石に場慣れしているだけあって、その判断は的確だ。あのまま、半ば分断された状態での戦闘は、アーミー達にとって不利だっただろう。砂浜に辿り着くなり、3体のアーミーは墓地へと通じる道に振りかえった。 「止まって!」 鴉を先行させていた七花が叫ぶ。が、一手遅い。フューリーの放った弾丸が、鴉を撃ち落とし消滅させる。 「っと、しまった……」 真っ先に砂浜へと辿り着いた和人が、冷や汗を浮かべて足を止めた。彼の視線の先には、こちらを向いた無数の銃口と、飛んでくる炎の槍。そして、黒い腕。 3体のアーミーが一斉に攻撃してきたのである。 「まぁ、仕方ねぇか」 そう呟いて、前へ出る和人。銃弾と炎の槍が彼の身体を掠めていった。黒い腕の狙いは和人ではないようで、彼を素通りして背後へ抜けていく。血が飛び散るものの、和人はお構いなしに前へ跳んだ。 頭上に掲げた彼の銃が眩く光る。銃底を、力任せにペインへと叩きつけた。 ペインが砂浜に倒れ込む。同時に反射によるダメージを受けて、和人が顔をしかめた。 しかし……。 「こん位の痛みで根をあげる訳にゃいかねーだろ。こいつらはこれまでずっと、もっとすげー痛みを味わってきたんだろうからな」 額から血を流しつつも、和人は笑う。そんな和人の眉間に、フューリーが銃口を突きつけた。 「どーにも、お前とは相性が良くねーみたいだな」 なんて、苦笑い。フューリーが機関銃の引き金を引いた。 一方、その頃。 朋彦は迫りくる弾丸の嵐と、炎の槍から身を挺して七花と慧架を庇っている最中だった。両手を広げ、銃弾と炎をその身で受け止める。ぐ、っと噛み締めた唇の端から血が流れる。 「感情だけで動く君たちは、そうだね……飽きない」 に、っと笑う朋彦。彼の背後で七花が何事か唱える。と、同時に淡い光が朋彦を包み込んだ。少しずつだが、朋彦の傷が癒えていく。 「足場が安定しないのが不安ですね」 七花が呟いた。炎にあぶられ、髪の先が少し焦げているが、ほとんど無傷だ。 「慧架! BSの回復を!」 背後の慧架にそう告げる朋彦。彼の視線の先には、黒い腕に掴まれ動けないでいるアラストールの姿があった。頷いて、慧架はアラストールの元へと駆けていく。 目を閉じて、衝撃に備える和人だったが、しかし彼の予想していた痛みは襲ってこない。そっと、目を開けるとそこにはナイフの腹で銃口を押し上げたフラウの姿。 「さっさと削って行くっすよ」 そのまま、ナイフを振りあげるフラウ。宙を舞う白刃がフューリーを襲う。エルヴィンと生佐目もまた和人の傍にいた。助っ人の参上。今の内に、と和人は背後に下がる。 「お前達の願い。せめてそれだけでも叶えてみせる」 ナイフと銃をフィアーに叩きつけるエルヴィン。フィアーの身体が大きく後ろへ吹き飛んだ。それを追って、エルヴィンが駆ける。 「ふん……。貴方達に何をしてやれる訳でもないが……水先の案内くらいは、な」 ペインに向かって槍を突き出す生佐目。槍の周囲に黒い霧が渦を巻く。霧は勢いを増し、ペインの身体を包み込んでいった。数秒の後、そこには真っ黒い箱が出来上がる。ペインを閉じ込め、苦痛を与える死の箱だ。 ●そして彼らの終着へ……。 「もう逃がさない」 銃弾とナイフの波状攻撃に、フィアーは次第に押されていく。踊るような連続攻撃。それを受けるフィアーの腕には無数の裂傷が刻まれている。隙さえあれば、すぐにで姿を消してしまうフィアーを警戒してか、エルヴィンはフィアーの反撃を受けながらも、距離を取るようなことはしない。加えて、2人の頭上を舞う一羽の鴉もフィアーの動きを警戒している。 「う……っぐ」 フィアーの手が、エルヴィンの頭を掴む。ギリギリと万力のような力で締め付けられ、エルヴィンの仮面に罅が走った。フィアーの身体からオーラで出来た無数の腕が飛び出す。腕は次々にエルヴィンの身に巻きついて、骨の軋む音をたてる。 ダラン、とエルヴィンの腕が垂れその手から銃とナイフが砂浜に落下した。それでも、意識を手放してはいないのか、苦悶の呻き声をあげながら、フィアーの腕を掴みかえす。 その時……。 「せめて安らかに眠ってください」 風を切る音と共に、黒い弾丸がフィアーの腕を貫いた。エルヴィンが解放され、砂浜に落下する。銃弾に貫かれたフィアーの腕が黒く染まる。毒に犯されているようだ。銃弾を放ったのは、七花だった。鋭い視線を、フィアーに向ける。 「……」 更に数発、七花が魔弾を放つ。それを受け、数歩フィアーが後ろに下がる。撃ち抜かれた腕を押さえたフィアーの姿が、すっと空気に溶けるようにして薄くなるが……。 「せめて、安らかに眠らせてやんよ」 パン、と渇いた銃声が響く。次の瞬間、消えかかっていたフィアーの額に穴が空いた。虚ろな眼差しを、銃声のした方へと向けるフィアー。視線の先にいたのは額から血を流した和人だった。痛みに顔をしかめながらも、じっとフィアーの事を見つめている。 一歩、フィアーが前へ出る。助けを求めるように腕を伸ばし……。 「その魂だけでも、故郷に還るといい」 更にもう一発。エルヴィンの放った弾丸が、フィアーの頭部を撃ち抜いた。フィアーの身体が、伸ばされた腕の先から順に、塵となって崩れていく。風に吹かれ、塵は海へと飛ばされていった。 霧の箱から這い出した時、ペインの身体はすでに満身創痍と化していた。無数に負った傷からは、青い炎が噴き出している。苦悶の表情を浮かべるペイン。そんなペインへ向かって、生佐目は槍を振るう。まともに槍を受け、ペインは数歩、後ろへ下がる。 「このような終わりと知って、兵士の業に身を染めた訳でもあるまいが……」 終わりにしよう、とそう言って生佐目はペインに向けて槍を突き出した。迎えうつように、ペインも炎の槍を放つ。生佐目の槍がペインの胸を貫くと同時に、炎の槍もまた生佐目の腹を貫いていた。 ゴプ、と空気の漏れる音と共に生佐目の口から血が吐き出される。しかし、生佐目の動きは止まらない。ペインを突き刺したまま、槍を掲げ駆けだした。ペインが青い炎を放つ。炎は地面に広がって、生佐目の身体を包み込んでいく。 しかし……。 「さぁ、征くぞ! ちぇすとーっ!」 掛け声と同時に、炎の中に飛び込んでくる人影は一つ。炎を撒き散らし、現れたのは朋彦だった。鉄甲に覆われた腕を振り回し、青い炎を散らしていく。 「全身全霊を以て、祓わせてもらうよ」 身体ごと旋回し、握り込んだ拳を真横からペインの胴に叩きつける。拳の当たった部分から、炎が噴き出し、朋彦を炙るが、朋彦は平気な顔をしている。 しかし、反射によるものか、朋彦の口の端からは血が垂れていた。 声にならない咆哮をあげて、ペインの身体が炎に包まれた。炎の柱と化したペイン。しかし逃げることはできない。突き刺さった槍が、その身を捕らえ逃さない。 「せめて、花の一輪でも投じてやるさ」 だから眠れ、と生佐目は言う。槍の先端に黒い霧が巻きついた。霧が広がり、ペインを包み込む。やがて、ペインは霧の箱に包まれ、消えた。 数秒の後、箱が消える。後に残ったのは、ブスブスと煙を燻らせる塵の山。拳に灯った青い炎を吹き消して、朋彦は塵の山に目を向けた。塵は風に運ばれ、どこかへと消えていく。 願わくば、故郷へと……。 口の端にこびり付いた血を拭きながら、生佐目はそんなことを思うのだった……。 「貴方達が感じる理不尽は分からなくはないですが……。今の貴方達は普通の人からしたら、理不尽極まりない存在です」 アラストールに巻きついた無数の黒い腕へ、慧架が手を翳す。慧架の手から放たれた白金色の光が、黒い腕を消し去っていった。腕から解放されたアラストールが砂浜に降り立つ。 「終わったみたいですね」 慧架が呟く。視線の先では、たった今、フィアーが塵となって消えていくところだった。 あぁ、と呟いてアラストールが砂浜に突き刺さった自分の剣を引き抜く。ペインも、たった今、消滅したらしい。砂浜の所々に残っていた青い炎が、ふっと消える。 「アンタ達の怒りも、苦痛も、恐怖も……。後はうちが引き継ごう」 フラウのナイフと、フューリーの放つ不可視の刃がせめぎ合う。軽いステップでも踏むように、砂を蹴散らしフラウが駆ける。ナイフを手に、踊っているようにも見える。火花と血飛沫を散らし、宙でぶつかる刃と刃。不可視の刃をギリギリで回避し、フラウは砂浜に身を伏せた。 瞬間、フラウの眼前に機関銃の銃口が現れる。それは、フューリーの膝から突き出していた。全身に仕込まれた無数の銃火器が、フューリーの武器だ。 「こんなのありっすか」 頬を引きつらせ、フラウは砂浜を転がった。フラウの後を追うように、砂浜を銃弾が穿っていく。砂を撒き散らし、銃弾が地面へ。硝煙の臭いが周囲に漂う。 「……っと」 両手で砂浜を叩くようにして、フラウが飛び上がる。瞬間、ついさっきまでフラウの居た場所を銃弾が襲った。 けれど、その瞬間フラウはギリと歯を食いしばった。視線の先には、自身に向いた銃口が一つ。にやりと、フューリーが笑った気がした。火花と破裂音。放たれた一発の銃弾が、フラウに迫る。フラウの目には、自身に迫る銃弾がスローモーションのように見えていた。 それと同時に、フラウと銃弾の間に飛び込んでくるラベンダー色の人影も……。 銃弾を腹に受け、それでもアラストールは剣を掲げたままだった。口の端から血を吐きだしながらも、地面を蹴って前へ飛ぶ。無数の切り傷を負ったフューリーの姿を視界に捕らえ、足を踏ん張る。腹の傷口から、血が噴き出した。 「戦友達が貴公を呼んでいる、向こうで一杯やるといい」 剣を大上段に振りあげ、アラストールが飛んだ。重力と飛ぶ勢いに任せ、剣をフューリーの頭部目がけ、振り下ろす。銃口がアラストールを捕らえるが、遅い。気合い一閃、振り下ろされたアラストールの剣が、フューリーの頭を真っ二つに叩き割った。 銃口から放たれた弾丸が、アラストールの頬を掠めてどこかへと飛んでいく。次の瞬間、フューリーの身体は塵となって崩れて消えた。 「さようなら。あなた方の魂に、安らぎがあらんことを」 風に吹かれて飛んでいく塵を見送りながら、慧架はそっと額に手を添え敬礼の形をとった。 チャリン、と軽い音をたて、慧架の足元にドッグタグが落下する。それを拾い上げ、慧架は寂しそうに目を閉じたのだった……。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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