● セリエバ。それは運命を食らうアザーバイド。 それを召喚すべく七派フィクサードの『六道』『黄泉ヶ辻』『剣林』の一部が手を組む。 『六道』のバーナード・シュリーゲンはアザーバイド召喚技術を求め。 『黄泉ヶ辻』のW00は運命を食らう異世界の猛毒に興味をもち。 『剣林』の十文字晶はその猛毒に侵された娘のために槍を持つ。 召喚場は『万華鏡』の届かない海の上。当てもなく探すには、海は広すぎる。 しかし手がかりはある。 召喚場に向かう船。その船が持つ情報。 それを集めれば、セリエバ召喚場への道を見つけることができるだろう。 ● 「W02、W07。仕事だよ。船の護衛だ」 「セリエバ召喚まで私たちとアーティファクトを護送するんだ。船の操縦は任せていい」 「任務時間は予定で72時間。私が同行するから薬の必要はないよ。安心したまえ」 「いうまでもないが、私が倒れれば君たちは助からない。体組織が崩れ、自らの稲妻に焦がされるよ。だから最優先で守りたまえ」 「君たちはWシリーズの中でも栄光ある一桁ナンバーだ。その働きに期待するよ」 ● 11月の冬は寒い。それが船上ならなおさらだ。 それでも少女はその寒さを苦と思わぬ表情で立っている。 身を切るような寒さよりも、自らを苛む稲妻よりも、自分以上の責め苦を受けている妹のことを思うと心が痛い。どうして。どうしてこうなってしまったのだろう。 革醒し、黄泉ヶ辻につかまり、戦闘力として当てにならないと烙印を押された後にW00(ダブルダブルオー)と呼ばれる老人のところに連れて行かれたのだ。 そして一定期間内に薬物を投与しないと死んでしまう肉体に改造されてしまう。力なんて望んだことは、一度もなかったのに。 W00。自ら力を与えた存在が語りかけてくる。 「今、フォーチュナから連絡があったよ。アークの襲撃があるようだ」 聞こえてくる声は低い位置から。当然だ。それは人の下半身を切り離した存在。 W00が自らを解剖し、分解し、切り離した下半身にも自らの意思を与えたもの。声は腹部にある口から響く。声帯があるのかどうかすら怪しいその下半身から声が響くのだ。 それは――もう、それとしか言いようのない存在は、しかし自分と妹の命をこの世界に留める為に必要な人。それの頭の中にしか、Wシリーズの命を留める薬の作り方は存在しないのだ。逆らうわけにはいかない。 「……倒せばいいだけよ」 「そうだね。W02のためにも頑張り給え。負担は少ない方がいい」 W02。そう呼ばれる私の妹。もう抱きしめてやることも名前を読んであげることも適わないけど。 それでも貴方が生きているのなら、それは私が生きる希望になる。 少女は稲妻を携え夜を見た。救いがないのなら、せめて希望を抱いて死んでいこうと。 ● 「相手は黄泉ヶ辻のフィクサード。改造型のアーティファクトにより強化されている」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は集まったリベリスタたちに向けて淡々と説明を開始する。いつも色白で無表情の少女の顔。だが見慣れた人にはわかる。少し陰鬱な表情だ。 「彼等は<セリエバ>という植物型アザーバイドを召喚するために準備を進めている。 彼等は外洋――『万華鏡』の索敵範囲外で魔術儀式を行う予定」 モニター上に映し出されるのは、日本を中心とした海図。航路が赤い矢印で示されている。それに横槍を入れる形で青い矢印が現れた。ARKの印が青矢印に示される。 「そこに向かうと思われる船を襲撃して、そこにある情報を手に入れるのが目的。その為には邪魔をするフィクサードを倒す必要がある」 モニターが新たな映像を映し出す。船の甲板の上に立つ一人の少女と……人の下半身。上半身と呼ばれる部分はなく、まるでホラー映画のように下半身だけがそこにあった。 奇異な視線で問いかけるリベリスタ達にイヴは努めて平静に声を出す。 「W00。黄泉ヶ辻のフィクサードの一人。『継ぎ接ぎ用の針(パッチワークニードル)』と呼ばれる医療用のアーティファクトで自らを改造したと思われる。 自分自身を分割し、そこに意識を与えている。上半身がないため動きが速く、覇界闘士並の蹴り技を放ってくる」 あまりといえばあまりの情報に、二の句の告げないリベリスタ。黄泉ヶ辻のフィクサードとは、こうも理解しがたいものなのか。 「もう一人は稲妻を使うフィクサード。ダメージの度合いによって様々な技を使う。速度も速く、火力も高い。正直強敵」 稲妻を纏う少女がピックアップされる。黄泉ヶ辻に改造された少女。その命はW00の作る薬により保たれているという。救う手段は―― 「このW00……の腰? そいつを捕まえて薬の作り方を吐かせれば何とかなるんじゃないのか?」 「駄目。負けたとわかれば下半身に与えた自意識を切断する。つまりただの下半身になる」 首を横に振るイヴ。救う手段はない、とばかりに。 「船にもう一組のフィクサードが乗っている。そこから援護攻撃がやってくるから気をつけて。 そちらにも一チーム向かわせる。彼等がどうにかできれば援護攻撃は止まるから」 幻想纏いに転されるデータに顔を渋くするリベリスタたち。 「目的は召喚場所の情報。それを得るためには敵を全滅させる必要がある。 楽じゃない戦いだけど、あなた達ならできると信じてる」 表情の薄い少女から送られる信頼の言葉と視線。それを受けてリベリスタたちはブリーフィングルームを出た。 ● 「もうすぐだ」 脊髄が口を開く。 「ああ、もうすぐセリエバが召還される」 右手が頷いた。 「『剣林』も『六道』も出し抜いて、すべて頂こう」 心臓が笑う。 「崩界しても構わない。私はどんな世界でも『手術』して適応するからね」 頭が窓を見る。そこに写るのは深い夜の海。そこに召還される異界の存在を、彼”等”は待つ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年12月12日(水)00:04 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「我が身が最速である事を、今此処に証明する」 先陣を切ったのは 『LowGear』フラウ・リード(BNE003909)だ。金髪を風に揺らめかせ、ヘリから飛び降りる。着地と同時にきらめくナイフはフラウの速度を乗せて鋭くW00の下半身を切り刻む。 「受けろよ、うちの速さを!」 「来たようだね、アーク」 切り刻まれながらW00は軽快な動きで体制を整える。正確にはその下半身のみ。基本的に自分のアジトにこもって少女を改造し、アークのリベリスタと交戦することのなかったフィクサードだ。 しかし、Wシリーズを通して、その名を知るものは多かった。 「W00……あの時、W72が語った呪いの使い手か」 「ああ、その通りだ。さてぶっ飛ばしてやるか」 かつて改造されたセレと呼ばれた少女。W72と呼称されたWシリーズの一人。それと交戦した『八咫烏』雑賀 龍治(BNE002797)と『足らずの』晦 烏(BNE002858)がそれぞれの銃を構える。龍治は『火縄銃』に火薬をこめ、烏は『二四式・改』に弾丸を装填する。 二人同時に甲板に降り立ち、カツンカツンと靴音を鳴らす。龍治が火縄に着火するために、烏はタバコに火をつけるためにそれぞれマッチを擦った。役割を果たしたマッチをふって消し、床に落とす。地面に落ちる前に、二人の銃は火を噴く。 「W00、可愛い少女を使い捨てのように扱うとは、万死に値します」 空ろな瞳でW00を見つめ、『残念な』山田・珍粘(BNE002078)……こと那由他・エカテリーナが破界器を構える。情報も重要だが、悪行を重ねるフィクサードをとめることも重要だ。珍粘の価値観からすれば、むしろ悪行の方が許しがたい。 「漸く会えたわね」 サングラスの位置を直しながら『レーテイア』彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)が気でできた糸を相手に飛ばす。糸は複数に分かれ、W00とW07を同時に穿った。鋭く研ぎ澄ました一撃は、彩歌の怒りを示していた。 「セリエバの情報。Wシリーズの情報、あらかたいただくわ」 「上から行くぞ、気を付けろー!」 『世紀末ハルバードマスター』小崎・岬(BNE002119)は赤い宝玉を埋め込んだ禍々しい張るバードを手にヘリから飛び降りる。その重量を怪力ではなく技術で扱う。先端を地面からわずかに浮かし。体全体を使って回転し、遠心力でW00を吹き飛ばす。 「うさぎさんに、パスー」 「ありがとうございます」 W00が吹き飛ばされた先には『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)が待っていた。『11人の鬼』と呼ばれる破界器を手に、W00の動きを押さえようと破界器を握り締める。 「デートにお付き合い願いましょうか。なあに、下半身がありゃ逢瀬にゃ事足ります」 「あいにくと多忙でね。すべて踏み倒させてもらうよ」 「セリエバを巡る件では厄介な敵が最近多いですね」 動き回るW00の足運びを見て『非才を知る者』アルフォンソ・フェルナンテ(BNE003792)は小さくため息をついた。それは問題を再確認したため息。今ある事実を受けとめて、どうするか考えるためのわずかな時間。まずは味方たちが戦いやすいように指示を出す。 「ひとつずつ解決していきましょう」 「粋がいいね、リベリスタ。改造のしがいがある」 リベリスタの猛攻を前にW00の半身が余裕の声を出す。その実力か、あるいはいつでも意識を切断できる自分の安全を知っているからか。 「いくよ、W07。手早く追い返すんだ」 「……ええ」 稲妻を纏った少女がリベリスタの前に現れる。Wシリーズ。W00に改造され、引き換えに得た強さ。それがリベリスタの方に向けられる。 負けるわけにはいかない。こんな人をおもちゃのように扱いやつなんて。運命を食らうアザーバイドを呼び出そうとする者になんて。 その想いを乗せて、リベリスタたちは破界器を握りなおした。 ● 「エレ君から頼まれてるんでな、代わりにぶっ飛ばしてくれとさ」 エレ――W72と呼ばれたWシリーズの一人。その思いを乗せて烏は光を放つ。インチを奪わない優しい光。衝撃で動きを封じるために放った光は、W00とW07に衝撃を与える。 「エレは……最後まで戦えたの?」 「ああ、最後まで彼女らしく戦ったよ」 W07の問いに、W72との戦いを思い出す烏。エレは最後まで清々しい相手だった。その言葉にW07の表情がわずかに緩む。 「狙い――」 龍治が銃を構える。腰を低く構え、神経を研ぎ澄ます。高い集中力と繰り返された練習の果て。代々受け継がれてきた火縄銃を構え、引き金を引く。ぱぁん、という音とともに弾丸は吸い込まれるようにW07に命中する。 「――撃つ」 急所に叩き込まれる弾丸に驚愕の表情を見せるW07。回避には自信があったのだが、それを先読みされたかのような正確な射撃。 「余所見なんて許さない。アンタが相手にしてるのはうちだ」 フラウがW07に迫る。手にしたナイフを水平にし、威力よりも手数を多くして攻める。W07は掌に稲妻を集め、そのナイフを捌く。フラウの手首を上から押さえて反らし、それを予測していたフラウがさらに手首を回転させてW07の掌を返す。そのまま『γ』の軌跡を描くようにW07にナイフを突き立てる。 「他のヤツに気を向けようなんて嫉妬してぶっ飛ばしたくなるじゃないっすか」 「ぶっ飛ばすのは変わらないけどなー」 岬が巨大な斧槍を振りかぶる。巨大な重量が空気を裂き、生まれた疾風の刃が甲板を走る。稲妻の掌底で弾いて直撃を避けるも、その威力を完全に消すには至らない。たとえ直撃でなくても、『アンタレス』の凶悪な攻撃力だ。楽観できるダメージではない。 「とっとと倒れちまいなー。こっちは機関室への応援にも行きたいんだー」 「……まさか、そっちにも!」 「悪いわね。見逃すわけにはいかないの」 『論理演算機甲「オルガノン」』を起動する。自らの神経と破界器をリンクさせ、一体化する彩歌。一歩下がって俯瞰する位置で戦場を眺め、W07とW00を両方うがつように木の糸を放った。相手の虚を付く軌跡で糸が迫る。 「W00。あなたは無差別に運命を食らうような化物を召喚して他人の選択肢を奪うのね」 「結果的にはそうなるね。私の目的はセリエバの毒だけだ。世界がどうなろうと関係ない」 「趣味の悪い円舞曲もあったものだわ」 「趣味はどうあれその一貫性は見事です。――相容れる気はありませんが」 W00を押さえているうさぎが言葉と一緒に破界器を振るう。死を刻む刻印。回復を阻害し、じわじわと体力を奪う神秘を刻む。主目的は仲間がW07を倒すまで、この下半身を押さえておくこと。 「とはいえお相手はいたしますよ。こう見えても人付き合いはいいほうです」 「ふん、すぐに蹴散らしてくる」 自らを切断し、改造したW00の動きは速い。一撃が重いわけではないが、それでも正確に叩き込まれる蹴り技に、うさぎは防御に徹することを強いられる。 「そっちは任せましたわ」 珍粘……こと那由他がうさぎのほうに檄を飛ばしながら破界器を振りかぶる。暗黒のオーラを切っ先に集め、両断するとばかりに振り下ろした。踏み込みは強く、剣閃は鋭く。W07を見て、悦に浸るように微笑んだ。感電に苦しむ少女は美しい。いや、それはともかく。 「妹の為に戦う。貴女のその選択は素敵だと思いますよ?」 「……うるさい」 「互いに悔いの無い戦いができると良いですねー」 「余裕はありませんよ、山田さん」 アルフォンソは混戦になってきた戦況を見て、臍をかむ。神秘の光で相手の目をやこうとしたが、密集されれば味方を巻き込みかねない。攻撃と防御を行いやすいように指示を出しながら、冷静に戦局を分析する。回復がいない分攻勢で押し切るしかないが、不安要素がないわけでもない。 援軍のボール・ライトニングへの対応。W00の押さえ。そして何より―― 甲板を稲妻が走る。一直線に貫くように飛ぶ稲妻の槍が、リベリスタの何人かを巻き込んだ。 「負けるわけには、いかない」 何よりもの懸念はW07の戦闘力。ダメージにより開放される稲妻の技。 「こちらも負けるわけにはいきません。必ず止めてみせます」 アルフォンソの言葉は。この場のリベリスタの言葉。雷鳴に負けぬ声を上げて、リベリスタたちは戦い続ける。 ● 戦いは互いに回復のない構成である以上、互いの火力をぶつけ合う乱打戦になった。唯一回復の行えるボール・ライトニングは、 「いくぞー、赤マナ三つのニクイ奴ー」 「回復はさせないわ」 岬と彩歌の攻撃により夜の風に消える。それを迎撃するために前衛から引いた位置に陣取った二人だ。その対応も早い。岬の放った力強い風の刃がボール・ライトニングを裂いたかと思えば、止めを刺すように彩歌の糸が紫電を貫く。 「皆さん散ってください。稲妻が飛んできます」 うさぎの指示もあり、リベリスタたちは直線的に飛んでくる稲妻に複数人巻き込まれないように散って攻撃する。うさぎも極力W00とW07の間に入るようにして攻撃を仕掛けていた。 「こちらに撃ってもいいんですよ」 「安い挑発ね。でも乗ってあげるわ」 「まて、W07! その位置からだと私も巻き込む――」 静止の言葉を聞き入れることなく稲妻は放たれる。青白い稲妻の槍がうさぎとW00を貫いた。 「……なるほど。良好な仲ではないと思っていましたが」 雷の一撃で力尽きそうになったうさぎが、運命を使い立ち上がる。W00も同じだけのダメージを受けているが、改造された肉体は並の革醒者以上の体力を有しているのだろう。まだ倒れる気配がない。 「本体との痛覚の共有が無さ気なのが残念だな」 その様子を見て烏が舌打ちする。どこかの漫画では感覚が伝わるのだが、と思いながら。戦闘中でもタバコの火を消すつもりはない。動くたびにゆれる赤い光点。そして放たれる弾丸。W07に不殺の衝撃を与えながら、目に見えぬ程の早撃ちでW07を追い詰めていく。 「酷いね。感覚は共有されなくても、『うけたダメージ』の情報は伝わるんだよ」 「興味深いですね。つまりあなたへの情報は、W00すべてに伝わるということですか」 問いかけながらアルフォンソが真空刃を生み、W07に向かって放つ。精密射撃可能な風の刃は、動きの速いW07の移動を追う様に飛ぶ。返答はない。だがそれが雄弁に答えを語っていた。白い指をW00の方に向け、宣言する。 「では伝えておきましょう。貴方を少しずつ、追い詰めていきます。まずはこの戦局を」 「あは、あはははは」 楽しそうな笑い声を上げて珍粘が剣を振るう。うつろな瞳で戦場を見る。目の前には改造されて稲妻に身を苛まれる少女。そして下半身だけで動き回るモノ。みんなみんな消してすっきりしよう。 「本っ当、戦場って地獄ですよね。あははははははは!」 「ええ、そうね。だから皆、消えなさい」 稲妻を圧縮し、開放する。荒れ狂う放電が甲板にいるリベリスタたちを巻き込む。 「後は任せた……よ」 稲妻に巻き込まれて烏が膝をつく。唇を強くかんで、そのまま崩れ落ちた。 「……なぁ、アンタ。希望……イヤ、望みはあったりするっすか?」 不意にフラウが問いかける。改造されて命を握られている絶望の中、W07の瞳は光を失ってなかった。その目は絶望を乗り越えようとしている者の目、理不尽の壁を壊そうとしている人の目だ。 「あるわ。妹と一緒に、神秘の世界から逃げることよ」 「……すまねぇっす。そいつはかなえられそうにない」 ここでセリエバの情報を得なければ、後の悲劇につながる。そのためにはW07を倒すことは必須条件なのだ。 「お前は力を求める事が希望の全てというわけではないのか」 龍治はかつて戦ったWシリーズのことを思いだす。ただ戦いと力を求めた少女。その果てに改造を受け入れた少女。目の前にいるのはそれとは違うのか。 「そんなのはそれぞれよ。リベリスタだって、いろいろいるんでしょう?」 「確かにな」 その通りだ、と言葉を返す。アーク所内にもいろいろなリベリスタがいる。古ぼけた骨董品といってもいい銃を構え、龍治は弾丸に神秘の力を乗せる。一族の技術の極み。隻眼で相手を捕らえ、一秒後の居場所を予測して、その急所の一点に向かい引き金を引く。 「ああ、でも……貴方達を倒すだけの力は欲しいわね。さすがアーク」 荒れ狂う稲妻の中心で、少女は追い込まれていくのを感じていた。 リベリスタの攻撃で散っていくボール・ライトニングを目に捉える。W02。妹の顔を思い出しながら、掌に稲妻を集める。最後の最後まで、心を折るつもりはない。 「貴女達姉妹の救いになれない私達に、その希望を否定する権利何てあるもんか。 自分の為に、互いの為に。全力でくればいいです」 うさぎがW00と戦いながらW07に言葉をかける。リベリスタは彼女達を救えない。できることはただ相手を倒すだけだ。うさぎはそれを身にしみて分かっている。 「言われるまでもないわ」 稲妻の羽がW07の背中から生える。触れるものを稲妻の檻で閉じ込める羽。 終幕は近い。そしてその勝者になれる可能性は、どちらにもあった。 ● 「これは……っ!」 「ぐっ……!」 珍粘とフラウが稲妻の羽根にその動きを拘束されて、膝を突く。フェイトを使用して稲妻を振り払い、呼吸を整える。見ればW07も自分達以上に呼吸が荒い。あと一歩。 「すみません。ここまでのよう、で……す」 一人でW00を押さえていたうさぎが力尽きる。ここまで耐えることができたのは、防御に徹していたためだ。その分、W07に火力が集中していた。 フリーになったW00が甲板を駆ける。狙いは遠距離から銃を撃つ龍治。一気に距離をつめることはできないが、遠距離に蹴りの威力を届かせることはできる。少し走って回し蹴りのように二連続、虚空を蹴った。その衝撃に龍治が崩れ落ちる。 「やれやれだ」 気を失う寸前に運命を削り、龍治は意識をとどめた。奥歯をかみ締め、銃に弾を装填する。 「させっかよー」 斧槍を構えた岬がW00の前に立ち塞がる。重量のある武器を大きく振るい、W00に切り裂くような一撃を叩き込む。 「悪いわね、電撃は効かないの」 彩歌がW07に狙いを済ます。リベリスタが稲妻のショックで狙いが甘くなる中、彼女はそれを意に介することなく射撃を続けていた。雷のエネルギーは防げないが、副次的な帯電は彩歌には通じない。狙いを研ぎ澄まし、精密にW07を狙い撃つ。 「……ふた、ば」 糸が切れたよう人形のようにW07が崩れ落ちる。最後のつぶやいたのは人の名前か。稲妻の羽が散り、夜に溶けた。 「仕方ないね。逃げさえてもらう」 「そうは行きません。追い詰めるといいましたよね」 アルフォンソが戦場を奏でる。仲間に的確な指示を飛ばし、W00に対して攻撃的な位置取りをする。逃がしはしない。 「こいつでお終いだー。いくぞ、アンタレスー」 岬が赤い宝玉をつけた斧槍を振るう。大上段から振り下ろすように振るわれた一閃。走る真空刃がW00を両断し、不気味に活動する下半身を物言わぬ骸に戻した。 ● 「アンタの名前は何て言うんすか? Wシリーズじゃない本当の名前」 まだ息があったW07にフラウが問いかける。最後の力を振り絞るように少女はフラウに答えた。 「は、づき」 葉月。フラウはその名前を胸に刻む。 「……トドメが欲しいですか?」 珍粘がW07に剣を突きつける。少女はもう答える気力もないのか、静かに瞳を閉じる。 振り下ろされる剣。魂を奪う技と熟達した剣技。それは痛みなくW07の命を奪った。 「これで貴女の命は、私の命にもなりました。 この命がW00の喉笛にまで届くか……余り期待せずに待っていてくださいね?」 珍粘は少女の命を奪った剣を幻想纏いに戻しながら瞑目する。そのまま船の中に向かった仲間を追うように歩を進めた。 「――見つけた」 セリエバ召還場の情報を手に入れたのは、電子系をハッキングしていた彩歌だ。PC自体へのプロテクトはかかっていたが、彩歌にすればないも同然だった。 「召還補助のアーティファクトもいくつか見つかったぞ」 「物資輸送も行っていたようですね」 龍治と烏は船の中を探し、神秘の物資を見つけてくる。 「こっちは終わったよー。そっちは……了解ー」 岬はもう一組のチームと連絡を取り合い、状況を確認する。機関室のチームも無事に終わったようだ。 「そろそろ戻りましょう。輸送用の船がもうすぐやってきます」 アルフォンソがアークに連絡を入れて、皆に撤退を促す。重傷のうさぎをタンカに乗せて、リベリスタたちは撤退の準備を始めた。 「やられたね」 「ああ。さすがに痛いね」 「いいじゃないか。私たちはまだ無事だ」 「そうとも。セリエバを手に入れるための先行投資と思えば」 右腕、心臓、脊髄、そして頭部。四つのW00が語り合う。 「Wシリーズの『材料』は沢山いるからねぇ。戦力には事欠かないよ」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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