● セリエバ。それは運命を食らうアザーバイド。 それを召喚すべく七派フィクサードの『六道』『黄泉ヶ辻』『剣林』の一部が手を組む。 『六道』のバーナード・シュリーゲンはアザーバイド召喚技術を求め。 『黄泉ヶ辻』のW00は運命を食らう異世界の猛毒に興味をもち。 『剣林』の十文字晶はその猛毒に侵された娘のために槍を持つ。 召喚場は『万華鏡』の届かない海の上。当てもなく探すには、海は広すぎる。 しかし手がかりはある。 召喚場に向かう船。その船が持つ情報。 それを集めれば、セリエバ召喚場への道を見つけることができるだろう。 ● 「W02、W07。仕事だよ。船の護衛だ」 「セリエバ召喚まで私たちとアーティファクトを護送するんだ。船の操縦は任せていい」 「任務時間は予定で72時間。私が同行するから薬の必要はないよ。安心したまえ」 「いうまでもないが、私が倒れれば君たちは助からない。体組織が崩れ、自らの稲妻に焦がされるよ、だから最優先で守りたまえ」 「君たちはWシリーズの中でも栄光ある一桁ナンバーだ。その働きに期待するよ」 ● 船のエンジンが唸りをあげる。車のエンジンとは比べ物にならない出力と重量。総重量にして千トンクラスの鉄の塊を海の上で走らせるのだ。そのパワーたるやかくやである。 そのエンジン部分に一人の少女が拘束されていた。四肢を鎖で機会に固定され、肌を貫く電極が痛々しい。傷口から流れる血が地面に落ちる。少女から爆ぜる稲妻がその血液を蒸発させた。少女が供給する稲妻が、船の動力の何割かを生み出しているのだ。 だが身を切るような痛みよりも、自らを苛む稲妻よりも、自分の為に戦っている姉のことを思うと心が痛い。どうして。どうしてこうなってしまったのだろう。 「うん、調子がいいね。さすがW02。稲妻を扱わせれば右に出るものはいないよ」 声を出すのは少女の傍らにいる……人間の左手。蛇のように地面を這い、指を広げた手のひらに口と思われる穴があった。 W00(ダブルダブルオー)。黄泉ヶ辻のフィクサード。自分を改造した人。その左手。自らを改造し、分解したモノ。 「今、フォーチュナから連絡があったよ。アークの襲撃があるようだ」 アーク。リベリスタ。聞いたことがある。革醒した力を人を守るために使っている人たち。 ああ、これはきっと救いなのだ。彼等はきっと私を殺してくれる。この地獄から開放してくれる。 「上で戦うW07を援護しなさい」 W07。自分の姉に与えられたナンバー。自分が死ぬのはいい。だけど姉が死ぬのは、間違っている。 少女の周りに稲妻が球状になって生まれる。それは少女の意思に従い、船の中を移動する。 W07。そう呼ばれる私の姉。もう抱きしめることも名前を読ぶこととも適わないけど。 それでも貴方が生きているのなら、それは私が生きる希望になる。 少女は稲妻を携え闇を見た。救いがないのなら、せめて希望を抱いて死んでいこうと。 ● 「相手は黄泉ヶ辻のフィクサード。改造型のアーティファクトにより強化されている」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は集まったリベリスタたちに向けて淡々と説明を開始する。いつも色白で無表情の少女の顔。だが見慣れた人にはわかる。少し陰鬱な表情だ。 「彼等は<セリエバ>という植物型アザーバイドを召喚するために準備を進めている。 彼等は外洋――『万華鏡』の索敵範囲外で魔術儀式を行う予定」 モニター上に映し出されるのは、日本を中心とした海図。航路が赤い矢印で示されている。それに横槍を入れる形で青い矢印が現れた。ARKの印が青矢印に示される。 「そこに向かうと思われる船を襲撃して、そこにある情報を手に入れるのが目的。その為には邪魔をするフィクサードを倒す必要がある」 モニターが新たな映像を映し出す。船の機関室で拘束されている一人の少女と……人の左手。肩から手のひらまでのモノが、蛇が動くように這っていた。 奇異な視線で問いかけるリベリスタ達にイヴは努めて平静に声を出す。 「W00。黄泉ヶ辻のフィクサードの一人。『継ぎ接ぎ用の針(パッチワークニードル)』と呼ばれる医療用のアーティファクトで自らを改造したと思われる。 自分自身を分割し、そこに意識を与えている。地を這う動きは狙いにくく、また虚をつく動きをする」 あまりといえばあまりの情報に、二の句の告げないリベリスタ。黄泉ヶ辻のフィクサードとは、こうも理解しがたいものなのか。 「もう一人は稲妻を使うフィクサード。当人はまったく動かないけど、配下を生み出してくる。また傷の度合いによって生み出す配下が増えてくる。正直難敵」 稲妻を纏う少女がピックアップされる。黄泉ヶ辻に改造された少女。その命はW00の作る薬により保たれているという。救う手段は―― 「このW00……の左手? そいつを捕まえて薬の作り方を吐かせれば何とかなるんじゃないのか?」 「駄目。負けたとわかれば腕に与えた自意識を切断する。つまりただの腕になる」 首を横に振るイヴ。救う手段はない、とばかりに。 「船にもう一組のフィクサードが乗っている。そこから援護攻撃がやってくるから気をつけて。 そちらにも一チーム向かわせる。彼等がどうにかできれば援護攻撃は止まるから」 幻想纏いに転されるデータに顔を渋くするリベリスタたち。 「目的は召喚場所の情報。それを得るためには敵を全滅させる必要がある。 楽じゃない戦いだけど、あなた達ならできると信じてる」 表情の薄い少女から送られる信頼の言葉と視線。それを受けてリベリスタたちはブリーフィングルームを出た。 ● 「もうすぐだ」 脊髄が口を開く。 「ああ、もうすぐセリエバが召還される」 右手が頷いた。 「『剣林』も『六道』も出し抜いて、すべて頂こう」 心臓が笑う。 「崩界しても構わない。私はどんな世界でも『手術』して適応するからね」 頭が窓を見る。そこに写るのは深い夜の海。そこに召還される異界の存在を、彼”等”は待つ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年12月12日(水)00:04 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「ひとって何だろうね……」 『いつか出会う、大切な人の為に』アリステア・ショーゼット(BNE000313)は思う。 たとえば神秘の力によって四肢を分割された一つに当人と同じ意識を組み込めば、それも人なのか。 高電圧を生みその電力で自らを苛む。そんな明らかに人ではない存在に改造されても人なのか。 わからない。 ただそんな存在はいやだなぁ、と思った。 ● 「何、これ……」 目の前の状況に『ムエタイ獣が如く』滝沢 美虎(BNE003973)は血の気を失う。鎖に縛られた少女。その少女が発する稲妻。そして蛇のように地を這う左腕。もちろん『万華鏡』で状況は聞いていた。だが、実際に目にすればその嫌悪感は吐き気を催す。 「来たようだね、アーク」 左腕から聞こえるW00の声。基本的に自分のアジトにこもって少女を改造し、アークのリベリスタと交戦することのなかったフィクサードだ。 だが、しかし、Wシリーズを通して、その名を知るものは多かった。 「……自分を改造するとか訳が分からない」 『黒き風車を継ぎし者』フランシスカ・バーナード・ヘリックス(BNE003537)は左腕を見下ろし、言葉を搾り出した。以前交戦したWシリーズの生みの親。戦うことは好きだけど。戦いを前に高揚はするけれど。この太刀を握る感情はいつものそれとは違った。 「たとえ本体じゃないにしても……見せてあげる、わたしの怒りを」 「ええ、参りましょう」 フランシスカと同じ戦場にいた『プリムヴェール』二階堂 櫻子(BNE000438)も『ディオーネ』と呼ばれる蒼白い杖を握り締める。救えるなら救いたい。だがそれが無理なことはわかっている。今できることは、W02の苦痛を取り除くことだけ。そのために魔力をこめた。 「W00……覚悟してください」 「W00――確か、ヴィオニッチ捕獲をエンダーに依頼した奴の名のはず」 『糾える縄』禍原 福松(BNE003517)はかつて保護した娘の名前を口にする。手にするのは黄金のダブルリボルバー。一夜にして持ち主が殺害され奪われる、という経緯で所有者を転々としてきた曰く付きの逸品を向けて、問いかける。 「答えろ。彼女をも改造しようとしていたのか?」 「懐かしい名前だね、ヴィオニッチ。アークでは持て余すだろう。私が改造すれば多くの知識が得られるよ。 彼女に手を出してほしくないのなら、次善案もある。発狂してもいいものなど、いくらでも――」 「聞きしに勝る、とはこのことだな」 軍帽をかぶり直し、『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)はナイフを抜く。腰を低く落とし、格闘戦の構えを取る。防御の構えを取りながら、じわりじわりとすり足で間合いを詰めていく。今は左腕だが、いずれはその頭部に刃を届かせてみせる。 「任務を開始する」 「まったく、いやな相手だぜ」 槍の間合いを確認しながら『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)は印をきる準備をする。この槍を使うときは前衛が瓦解しそうになるとき。そうならないことを祈りつつ自ら光り輝き、機関室を照らした。鎖につながれたW02の姿がはっきりと映し出される。救うことのできない命が。 「……まったく、いやな相手だ」 「まあな。だが先ずは目の前の事をしっかり片付けることが大切だ」 『やる気のない男』上沢 翔太(BNE000943)は無表情に戦場を見渡した。狭い戦場に行く手を妨げるボール・ライトニング。そしてそれを生み出し続けるW02。やらなければならないことは多い。なによりこの戦いの目的は、 「セリエバ召喚を防ぐための道を見つけるぞ」 リベリスタたちが頷きあう。運命を食らうといわれるアザーバイド。その召還を止めなくてはいけない。そのためには、彼等の持つ情報が必要になる。 「させないよ、リベリスタ。あれは私のものだ」 狂った黄泉ヶ辻のフィクサード、W00。その左腕。 そしてW00に改造された稲妻を運ぶモノ、W02。 互いの大事なもののを守るため、戦いの火蓋はきって落とされた。 ● 「るぉああああッ!」 美虎は叫び声とともに行く手を阻むボール・ライトニングに蹴りを放つ。足を大きく開き、遠心力を乗せた力強い蹴り。全体重を乗せた蹴りは重く、鍛え上げられた足は鞭のようにしなやかに。その威力、まさに獣のごとく。 「コイツをくらいな!」 福松の弾丸がボール・ライトニングに叩き込まれる。白く輝く稲妻の球に黒の弾丸が嵐のごとく叩き込まれる。まずは一発。ステップを踏みさらに一発。振り返ることなく気配だけで相手を捕らえてさらに一発。舌先で飴を転がしながら、トリガーを引き続ける。 稲妻球の動きは確かにすばやい。W02の誘導もあるのだろうが、福松の腕では狙って落とせないほどではない。 「戦端を開くぞ」 福松の動きが弾丸の嵐なら、翔太の動きは駆け抜ける疾風。地面をける足、その勢いを殺さぬ前傾姿勢、そのエネルギーを破界器に乗せて、体全体を回転させるように一閃した。両断されたボール・ライトニングが残滓を残して消えていく。 そこからW00とW02に近づこうとするが、蛇のような動きでW00が地を這い近づいてくる。自らを改造して得た怪力で翔太に飛び掛ろうと迫り―― 「格闘戦で遅れはとらんよ」 ウラミジールがその腕に自らの腕を絡める。手首を回転させてW00の突撃を弾くようにそらす。軍靴を回転させてけるようにして相手を払う。距離をとり、一瞬生まれた隙を突くように持っていた『КАРАТЕЛЬ』を横なぎに払う。得意なブレードラインのままに、W00の手の甲に傷が入った。 ボール・ライトニングの耐久力は高くない。このまま力押しで押し切れるか。だがその考えは、 「ぐ……っ!」 放電して周りに稲妻を飛ばすボール・ライトニングの攻撃により修正される。残った三体が一斉に放電し、前にいるリベリスタたちにかなりのダメージを与えたのだ。 「蛍光灯が荷電でちらついた……。来るぞ」 ウラミジールが戦場を注視し、別の戦場から飛んでくる放電の予兆を察する。しかし視認したときにはすでに稲妻は放たれ、幾人かの人間を焼いていく。敵味方の区別はないが、純粋に人数の多いリベリスタへの被弾率が高い。 「櫻子おねぇちゃん!」 「ええ、加減はいらないようですね」 アリステアと櫻子が息を合わせ、回復の為に神秘の力を高める。櫻子はアリステアと回復がかぶらないように、と思っていたがボール・ライトニングの火力の高さの前にはそうも言ってられない。特に神秘の加護の低い美虎は、ダメージが大きい。 愛嬌あるアリステアの唱えるソプラノの歌と、緩やかに癒すような櫻子のアルトの声域。激しい戦いの中に滑り込むようにリベリスタの耳に届き、心と体を癒していく。 「その動き、封じさせてもらうぜ」 フツが印をきる。縦に二つ、横に二つ。交差するように印を切って言葉をのせる。生み出された結界はボール・ライトニングとW00の動きを緩やかにする。 「まさか。私の動きを完全に捉えるとは」 「天網恢恢祖にしてもらさず、ってな!」 驚きの声を上げるW00にフツが笑みを浮かべる。切断された部位は身軽さゆえの回避性能がある。その動きに当てるのは、かなりの実力が必要になる。それをフツはやってのけたのだ。 「ようやく捉まえた。W00!」 漆黒のオーラを刃に変えて、フランシスカは怒りの声を上げる。黒い羽を広げ、手にした『アヴァラブレイカー』をW00とボール・ライトニングのほうに向ける。フランシスカの生み出しや暗黒の矢が向けた剣先の方に飛ぶ。闇が纏わり付いて不吉を告げた。 「言ったってあんたにはどうでもいいことだろうけど。それでも。 人の命をなんだと思ってる!」 W00に対する怒りの言葉。それに返ってきた言葉は、予想だにしない言葉だった。 「失礼だね。私は生命というものを、この上なく尊重しているのだよ」 ● 「君たちは生物がどれだけすばらしいか知っているかい?」 生命賛歌。声の響きはまさに命のすばらしさを語る口調だった。 「生命はどこまで分解できるのか。どこまで改造できるのか。 死ぬかもしれないと思うところまで分解しても、あるいは改造しても、簡単に死ぬことはない。実にすばらしいことだ」 「……W00。あんたは……!」 フランシスカが怒りの言葉をぶつける。このフィクサードは、生命を改造することを肯定し、善と判断しているのだ。 「倫理という壁で生命に触れようとしないものとは違う。私は命を知り、そして生を知る。ビバ・ラ・ヴィーダ!」 ViVA La ViDA。生きているとはかくも素晴らしき事か。W00は演技ではなく、本気でそう言っているのだ。 「……酷い。狂ってます」 櫻子の言葉は、場にいるリベリスタの気持ちの代弁だった。 「純粋な思想は狂気と変わらない。それだけだ」 ウラミジールは短く告げる。このような手合いなどいくらでも見てきた、とばかりに。 「今、道を開けるよ!」 美虎の蹴りがボール・ライトニングを飛ばす。そのまま空気に消える電撃球。開いた穴を通り抜けるように、翔太がW02に迫る。刃を振りかぶりながら、謝罪の言葉を口にする。 「本来ならば死ぬべき命なんてない。だが許せ」 「どう、して」 W02からボール・ライトニングが生み出される。それと同時に出る言葉。恨み言。そう思っていた翔太は次の言葉の意味が一瞬理解できなかった。 「どうして、謝るの? わたしは、Waste(いらない子)なのに」 Wシリーズを示す言葉。Waste。その烙印を押された少女。 「あなたたちがいい人だって知ってる。 私達が悪いことしてるって知ってる」 少女の心を支配するのは、諦念。何もかもに絶望し、終わることのみを希望とする心。 「だから、ころして」 「……っ! どうして。どうしてそんなこというの!」 癒すこと。皆を生かすことを目的とするアリステアが、W02の発言に悲痛な叫びを上げる。自らをいらない子と言うW02。その事実が悲しくて。 「事実だからね。彼女は黄泉ヶ辻の中でも『使えない』子だった。私が助けなければ、日のあたらない場所に落とされていたよ。それを拾う私の優しさを――」 「黙れぇ! お前が、お前が助けたとか……!」 美虎がW00の発言に顔を赤くして叫ぶ。激昂のあまり、二の句が告げない。 「ねぇ、どうして謝るの? あなたたちは『正義の味方』なんでしょう? わるいわたしを、ころして」 勧善懲悪。悪は討たれ、正義は為される。それが当然なら、W02の命は助けることができない。そんなことはわかっているのに。 「いや、そんなことはない」 わかっているのに、福松はW02の言葉を否定する。 「お前はきっと、何も悪くない筈だ。だから多分、お前を殺そうとするオレが悪なんだろう」 福松の言葉はW02の言葉にどう響いたのだろうか。たとえ助けることができない命であっても、結果として殺し合うしかなかったとしても。 その一言がW02の心の枷を、どれだけ解したのだろうか。 「助けてやれなくて、スマン。恨み言ならいくらでも聞く」 「救うなんて綺麗事は言いません。でも……苦痛から解放する事は出来ます」 フツが真摯にW02に向き合い、櫻子が皆の決意を代弁する。 「ああ、ああああ!」 鎖につながれた少女は、涙を流す。 希望なんてないけれど、自分のことを助けようとする手を確かに感じることができる。その喜びに、涙が止まらない。 それは救いですらない。救えないことに対する謝罪だ。たったそれだけ。偽善かも知れないが、偽であれそれは善意だった。 たったそれだけ。その温もりすら、少女には与えられなかったというのか。 「それができると思うのかい?」 「やって見せよう。任務だからな」 W00の挑発を、鋼鉄の意志で受け止めるウラミジール。揺ぎ無き意思と肉体で、その前に立ちふさがる。 激しい落雷が機関室を走る。稲光の中、戦いは加速する。 ● 「今戦わねば、W07の薬は作らないよ」 W07。自分の姉のことを出されればW02はリベリスタに抵抗せざるを得ない。傷の具合により生み出されるボール・ライトニングの数は増え、作製時間も短縮される。 W00が蛇のようにウラミジールの首に絡まる。左腕だけという予兆の読めない攻撃に追い詰められていくロシヤーネ。歴戦の兵士がその動きの前に膝を突き、 「腕如きに遅れを取るわけにはいかぬのだよ!」 運命を燃やし立ち上がる。呼吸を整え、ナイフを構えなおす。動きは厄介だが、対応しきれないほどではない。『サルダート・ラドーニ』と呼ばれる手甲の防御力を加えた格闘術で、W00を傷つけていく。 「倒れるわけにはいきません」 櫻子が落雷に撃たれて壁に手をついた。ここで倒れるわけにはいかない、と自らを支える。運命の消失など恐れない。ここで倒れれば、みんなが危ないのだ。自らを含め、リベリスタの傷を一斉に癒していく。この癒しこそが戦士達を支えている。 ボール・ライトニングの生成を止めるため、リベリスタの火力はW02に集中する。リベリスタの攻撃の前には体力の低い稲妻球は壁にすらならない。ならば攻勢に、と爆発を続けて前衛を深く傷つけていく。 「厄介だぜ、この雷」 「こなくそ……!」 神秘の防御の低い翔太と美虎が意識を飛ばしそうになる。ここで倒れる運命を削って、足を踏ん張り闘志を燃やす。それを燃料にして、翔太の持つ剣がW02を袈裟懸けに切り裂いた。 「俺達には守らなければいけないものがある」 「はい。その人たちの為に、がんばって……」 W02の意識が途切れる。それを証明するかのようにボール・ライトニングは一斉に消失した。 「お前、覚悟しろーッ!」 「W00! ここで消えろ!」 美虎の蹴りがW00に叩き込まれ、フランシスカの夜の如く冷たい一閃がW00を傷つける。この状況はよくないと判断したか、W00は機関室のエンジンに身を隠して逃げようと―― 「にがさねぇよ!」 槍を構えフツが逃げるW00の動きを止める。緋色の槍はW00に衝撃を与え、動きを鈍くする。痛みに震えたのは一瞬。しかしその一瞬の間に福松は銃を構えていた。 「正義面する気は毛頭無い。だがお前は斃す」 傷で朦朧としながら福松は銃口をW00に向ける。それは罪を問う弾丸。懺悔する間も与えない。弾丸は回転しながらW00を貫き、その命を奪った。 ● 「覚えておくよ、アーク……!」 W00は最後に恨み言を告げる。覚えておく、ということはこの戦いの記憶を他のW00に伝えたということ。そして恨みを残すということは、少なからずこの敗北が痛手であったことを示していた。 W00が崩れ落ちて完全に動かなくなるまでウラミジールは気を抜かなった。残心。仲間達を守るため、彼は皆の盾となる。安全であることを確認し、彼は静かに言葉を口にした。 「――任務完了だ」 短い言葉の中に、盾たる矜持と仲間の無事を喜ぶ気持ちを乗せて。 「ただの自己満足かもしんないけど、こんなままじゃ悲しすぎるよ……」 美虎がすでに事切れているW02の拘束を解き、刺さっている電極を抜く。流れる涙を拭おうともせず、汚れた部分をハンカチで拭く。 「終わりましたね」 櫻子が目を伏せてW02を黙祷する。他のリベリスタのそれぞれの形で少女を弔った。 「……セリエバの情報をみつけないとな」 沈黙を最初に破ったのは翔太だ。W02を斬った手ごたえはまだ残っている。それでも前に進むと覚悟を決めたのだ。 「言い残したことはあるか?」 フツは交霊術を使って消え行くW02の霊に語りかける。 あり、がと、う。 苦しみから解放してくれて、ありがとう。そういい残して声はもう聞こえなくなった。 (二人が天国で仲良く笑っていられますように) アリステアは祈る。泣きたい気持ちを押さえ込み、今は姉妹の魂が幸せであるように祈りをささげた。 「……苦い、飴だぜ」 福松は咥え煙草の代わりに咥えているキャンディを口にする。オレンジ味のキャンディはわずかに塩の味がした。 幻想纏いを通じて連絡が入る。甲板の戦いも終わったようだ。 怪我人を抱えながら、リベリスタたちは仲間の下に移動し始める。 セリエバ召還儀式の情報を手に入れたリベリスタたち。だが凱旋のムードはない。 「W00……ぶちのめしてやる。絶対に」 フランシスカが決意を口にする。その言葉は、この場にいるリベリスタの総意だった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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