●『死熱舞踏』のマヌエル&ホアエル 街で噂のダンサー夫婦を知っているかい? 赤いドレスにポニーテール。情熱的なダンス踊る褐色肌の女、マヌエル。 そして彼の夫にしてギター奏者、ゆるやかな髭と穏やかな目の白人男性ホアエル。 ある日突然街に現れて、二人は路上でダンスを披露したんだ。 それはもう素敵なショーでね。僕も少ないながらコインを投げたもんさ。 何て言うのかな。二人の演奏とダンスを目の前にするとね、心が沸き立つというか、胸の奥から炎が燃え上がって行くような、形容しがたい気持ちになるんだ。 だから二人が街の有名人になったと聞いた時も、別に驚かなかったね。 三日もたてば、いつも彼らが踊っていた広場は大賑わいになっていたもの。 でもね、変な噂もあるんだ。 ショーを見ていた女の子たちが次の日急病や交通事故で次々と亡くなるんだ。一部では死の舞踏なんて言われてね、気分を悪くしたもんだよ。 まあ噂は噂……アッ、そうだこれを忘れてた。 噂と言えばこんなのもある。 病気や事故で死んだその女の子たち、葬儀の前に安置所を抜け出して、広場で踊っていたって言うんだよ。いやあ、人の噂には尾ひれがつくもんだよね。 うん? 二人のショーを見てみたくなったって? それなら夜中がオススメかな。彼等こっそり夜に踊っているらしいんだ。昼間は賑わってるあそこも、噂のせいもあってか夜には人が来なくなるからね。きっとショーを独り占めできるよ。 二人のことも、見ればわかる筈さ。 頬にそれぞれ、片羽蝶のタトゥをしているから。 それじゃ、良い観光を! ●月の無い夜も死人は踊る アーク、ブリーフィングルーム。 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は事件の詳細をモニターに映していた。 「バロックナイツの一人、ケイオスと言う人間を知ってるわね? これは彼に絡む事件のひとつなんだけど……」 『福音の指揮者』ケイオス・“コンダクター”・カントーリオ。彼は『楽団』と呼ばれる私兵団を率い異国のリベリスタ組織を壊滅させたと言う。そんな彼に関わる事件と言うことは、その『楽団』の事件とみて間違いない。 イヴは二人の男女をモニターに表示した。 「マヌエルとホアエル。フィクサードよ。彼らはアーティファクトを使って死体を使役して、徐々にその数を増やしているの。それも何のあてつけか、わざと人目に触れるように死体を振る舞わせていることもあるそうよ。放っておけば神秘秘匿と一般人保護の両方を着実に崩されることになるわ」 だから、と呟くイヴ。 「この二人を『追い払って』頂戴」 『死熱舞踏(ヒートエンド)』のマヌエル・フラスコ。 『死熱舞踏(デッドロンド)』のホアエル・マルドール。 二人は強力なフィクサードで、『ネクロマンサー』と呼ばれるジョブに属している。 その上、二人はカスタネットとギターの形をした一対でひとつのアーティファクト『死熱舞踏』を所有し、死体を使役しているのだ。 「現在保有している死体は25体。アーティファクトの効果で強化され、踊るように戦う……とされているわ」 「そうか、分かったぞ」 リベリスタの一人が自信ありげに頷く。 「夜のダンス中に俺達が飛び込んで行って、そのゾンビどもを蹴散らせばいいんだな」 「……そうね」 イヴが、目を細める。 「『こちらが何人か死ぬまで』戦えば、彼等を全滅できるかもしれないわね」 「………………」 漸くそこで。 ことの大きさと重さが分かった。 そして先刻、イヴが『追い払って』と述べた理由も、分かった。 「もっとも、彼等は死体を増やすことを目的としているから、ある程度の数を減らせば向うから撤退していくはずよ。さっきはああ言ったけど、本当にこちらが殺される程の被害には……多分、ならないと思う」 地図や時間のメモを皆に渡して、イヴはいつものトーンで言った。 「後はよろしく。あと……死なないでね。彼らの材料に、されちゃうから」 ●月明かりのナイトダンス 情熱的なギター演奏に乗って、脚を踏み鳴らす音がする。 カスタネットを打ち鳴らし、胸が高鳴るような音がする。 赤いドレスの女は髪を美しくふり乱し、引き締まった身体を月明かりの下に反らした。 演奏がやみ、金髪の男が髭を撫でながら微笑んだ。 「マヌエル、君の情熱には僕もいたく感動しているけどね、十二時間も弾きっぱなしでいる僕の気持ちも少しはくんでくれないかなぁ。君だってそろそろ疲れてきたろう?」 「あらホアエル、弱気ね」 女は不敵に笑って彼を流し見る。 「心配しなくても、ベッドでの分は残してあるわよ」 「またそういうこと言うんだから」 「フフ……まあ、今はね?」 唇に指を当てて、女は笑った。 「彼女達を放っておいたら、可哀想でしょう」 振り返れば、そこには無数の少女達がいた。 いや……少女の死体達がいた。 損壊していたであろう部位は修復され、肌も艶やかに火照っている。 まるで生きているかのようだが、瞳だけが死者のようにどんよりと濁っていた。 瞳に映る月が、僅かに揺れる。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 9人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年12月13日(木)23:45 |
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■メイン参加者 9人■ | |||||
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●月夜のダンスはお好き? 「マヌエル&ホアエル……楽団にもダンサーがいたんスね。てっきりオーケストラみたいなのを想像してたッスけど」 車の後部座席で足を伸ばし、『Line of dance』リル・リトル・リトル(BNE001146)は調査書のページを捲っていた。 『楽団』メンバー、マヌエル・フラスコとホアエル・マルドール。 楽器としてはカスタネットとギターの取り合わせだが、その実はフラメンコの踊手と奏手のペアである。 「ダンスは得意分野っすよ。燃えるッスね」 「それが噂になるほど素敵だなんて、妬ましいわね」 眼帯の紐をゆびで直す『以心断心嫉妬心』蛇目 愛美(BNE003231)。 「…………」 『生還者』酒呑 雷慈慟(BNE002371)はシートにどっしりと腰を下したまま、むっつり顔で腕組みをしていた。 「楽団はケイオスの為に動いているもの……と言う前提は兎も角、彼らはどこか愉しんでいる。どちらにせよ捨て置けんが」 一方、別車両。 『不誉れの弓』那須野・与市(BNE002759)は窓に流れる風景を横目に、どこか落ち着かない様子で両手の指を絡めていた。 「奴等の音楽は……人殺しは楽しんで行うものではない。わしにもそれは分かるのじゃ。わかるのじゃが……」 「どうしたんですか、カレー食べますか?」 横から顔を覗きこんでくる『第30話:Xディズ』宮部・香夏子(BNE003035)。 「車内でそんなものを出そうとするな」 「んっんー、今日は敵さんが沢山って聞きましたからね。香夏子そういうの得意かもしれません。頑張っちゃうかもしれませんよ」 「……」 仮定の域をでんのか、と思ったが、それは与市とて同じようなものだ。 「なんじゃろうな、この落ち着かない気持ちは」 「そろそろ現場だぜ。何だっけか、ゾンビの大群をバックにフラメンコ演奏だ? どこのB級映画だよ」 ハンドルを握ったまま、『リベリスタ見習い』高橋 禅次郎(BNE003527)はどこかけだるそうに言う。 そして、助手席でドアにもたれ掛っている『親不知』秋月・仁身(BNE004092)を横目に見た。 「何か考えごとか?」 「…………いえ」 仁身は一度だけ禅次郎に視線をやって、すぐに窓の外に視線を戻した。 「なんでも」 「そうかい」 禅次郎は、彼の言を信じているのかいないのかまるで分からない調子で応えると、すぐに意識を前方へと戻した。 サイドミラーに、小さな車が映っている。 最後尾を走る車。実質二人乗りの車の運転席に葉月・綾乃(BNE003850)の姿があった。 助手席には書類を捲る『おとなこども』石動 麻衣(BNE003692)。 「今回の事件はゾンビ25体とフィクサード2名。揃って楽団の手先になってるわけですか」 「エリューションのアンデッドと違ってアーティファクトによる操り人形ですから、実質上タダ同然で兵士を補充できるんでしょうね」 「死者の冒涜とか何とか言っても、彼等にとっては今更なんでしょうけど。この記事……おっと」 片手で口を覆う綾乃。 「こういうケースは記者の時点で死亡フラグなんでしたっけ」 「おや、意外と生存フラグってこともあるみたいですよ。むしろ主人公ポジションだったりとか」 「お約束ってやつですね……さ、気を引き締めていきますか」 ヘッドライトの灯りが頼りなさげに揺れている。 何気ない街の一角だというのに。 そこにはなぜだか、薄気味の悪さが漂っていた。 ●死熱舞踏のマヌエル&ホアエル リベリスタ達が如何にして車を安全な場所へ駐車し、そしてマヌエルたちの踊る公園広場へ辿り着いたかについて、詳細を述べる必要はまずないだろう。 「見えた」 リルはタンバリンの淵を指で二度ほど叩くと、距離にして100mほど先の一団を目視した。 街灯をスポットライトに、コンクリートの広場をステージにして、滅茶苦茶に、しかしどこか同じようなリズムで、そして美しくも楽しげに踊る少女達……総勢25名。街でこれだけの人数が急に死亡するとなれば大事だ。恐らく現在とは別の経緯でゲットした死体なのだろう。 だが、そんなことは今は関係ない。 「――行くッスよ」 身を低くして駆け出すリル。 ほぼ同時に雷慈慟も移動速度を上げた。 彼岸の距離100mが縮むのに、そう長い時間はかからない。 相手はこちらを見るなり即座に展開。まるで小魚をひとのみにする大鮫の如き、殺意だらけの歓迎である。 「踏み入れば最後最奥まで浸透されるスね」 「守りに劣るなら攻め抜けば良いと、決まっている!」 きりきりと回るように、舞うように飛び掛ってくる少女たち、リルと雷慈慟はあえてその群に突っ込むと、連鎖的にダンシングリッパーとJエクスプロージョンを繰り出した。 まるでツイン型のミキサーに野菜を放り込んだかのように、どかどかと複雑に撥ね飛ばされる少女達。 一拍遅れて、仁身がバウンティショットをかけながら振り向いた。 「与市さん、打ち合わせ通り攻撃範囲に巻き込んでください!」 「構わんが手加減はできんぞ? どうせわしの矢は当たらんと思うが……仮に当たったらGD限度数をゆうに上回るかもしれんぞ?」 「望む所で……あ、いやいや、けけけ決して被虐趣味とかじゃなくて戦力向上のためなんですよ、よ?」 「必死に否定されるとかえって気まずいのぅ……」 与市はそう言いながらも腕を展開。大弓を出現させると、天に向けて発射した。一本の矢が放たれた……というわけではない。 一度に無数の炎の矢が束ねて飛び、幾重にも螺旋を描いて天に昇り、まるでそれぞれに意思があるかのごとく飛び散って行った。 その一発は勿論仁身に着弾し、他の多くは全く狙いを外すことなく少女たちを貫いていく。 「もう一発いくかのぅ……どうせ当たらんじゃろうし念のため」 ここまで行けば病的だと言う程に謙遜を重ねつつ、更にもう一発……と思った矢先、余市の顎を厚底のブーツがとらえた。 一瞬で空中に跳ね上げられる。その間もパジャマ姿の少女がくるくると回りながら頭上に出現。与市の頭を両手で抑えると、そのまま膝蹴りを叩き込んでくる。 衝撃によって距離が離れた瞬間を狙って更なる矢束を発射。眼前の少女を巻き込んで飛び交って行く炎の矢。 そんな与市の下を潜り抜けるようにスライディングしつつ、香夏子がぱっと両腕を広げた。 「今日も動かなくていい……と思った香夏子がばかでした! とりあえずへいやー!」 前進のエネルギーを爆発。四方八方にエネルギーが飛び出し、周囲の少女達に叩きつけられる。 が、相手はそれを全く意識せず……というより『まるで何事も無かったかのように』飛び込んできた。 個体によっては、エネルギー波で片腕を吹き飛ばされたにも関わらず、自分の腕を自分で掴み、まるで武器の様にして振り回してくる者すらいた。 「ぅ――い!?」 身体を大きくのけぞらせてそれを回避。 香夏子は体勢を戻しつつ、先刻より90度身体を傾けて再度バッドムーンフォークロア放射。少女の頭を撥ね飛ばす。が、飛んで行った誰かの頭をまるでボールのようにキャッチし、ユニフォーム姿の少女が香夏子めがけてその頭部をダンクシュートしてくるではないか。 これには思わず回避が遅れ、ひっくりかえる香夏子。 「何よこの連携、妬ましいわねっ」 愛美は乱暴に眼帯を外して左目を外界に晒すと、周囲に眼光を走らせた。正しくは義眼光だが。 「いくらダンスが素敵でも、死体では台無しね」 闇夜に奔る赤い光。 愛美は弓を薙ぐように振ると、凄まじい連射速度でスターライトシュートを放った。 モッズコートを着た少女の身体を矢が貫通し、中ほどで止まる。しかしそれは彼女の進行をほんの僅かに止めるにすぎなかった。 長く鋭く伸びた爪を立て、愛美の左目目がけて貫手を繰り出そうとする少女。 が、その腕がぴたりと愛美の前で止まった。 何事かと視線を巡らせる愛美。 「お嬢さんたち」 アッパーユアハートを発動した禅次郎の姿を月下に捉えた。 禅次郎は硬い装甲に身を包み、周囲をぐるりと見回す。 「俺と踊ってくれないか」 少女達全員、とは流石にいかないが、半数以上の注意を禅次郎に引きつけることができる。あえて身を固めたり攻撃に転じるのではなくアッパーユアハートを連続発動することによって、彼はその精度を維持していた。 左右から蹴り込んでくる少女の脚をそれぞれの手でキャッチ。すぐさま手を離し、正面から体当たりをかけてくる少女を胸部装甲でもって受け止める。視界を遮られないようにすぐさま払い倒し、後続の少女に対応した。 指輪をした拳が迫るが、銃剣の底で弾いて止める。 ダメージはそれなりのものだが、綾乃が事前に付与してくれたディフェンサードクリトンが地味に効いていた。これなら死体を全部片付けるまで少女達の攻撃をしのぎ続けられるかもしれない。 ……と思った矢先である。 「女の子を独り占めするのは、チョットよろしくないわね」 こつん――と、禅次郎の胸に小さな木材のようなものが当てられた。 そして息のかかるような近さで、妖艶な美女の顔を見る。 楽団メンバーがひとり、『死熱舞踏』のマヌエル・フラスコ。他の少女達に混じってすぐそばまで接近していたのだ。 そして彼の胸に当てられているのはカスタネット型アーティファクトだ。 日本ではミハルスという赤青カラーの教育用楽器と混同されることが多いが、実際は二枚貝の形をした木製の打楽器で、親指第一関節の上下で固定し、四本の指それぞれで機敏に叩くことで複雑で細やかなリズム取りを可能としたものだ。その下側が、禅次郎にあてられていることになる。 「でも、貴方達が狙っているリズムも読めたわ。つまりこうされたら……弱いでしょ?」 カツン――とカスタネットが叩かれる。その振動は禅次郎の装甲をまるで何もなかったかのように素通りし、彼の心臓を激しく揺さぶる。 それが土砕掌だと気付いた時には既に遅い。禅次郎はその場に膝をつき、目の前で優雅に腰を捻るマヌエルを見上げる形になった。 額に、もう片方のカスタネット(これもたまに誤解されるが、カスタネットは両手で使う打楽器だ)が当てられ、カララランッという軽快なリズムと共に禅次郎の額がぶち抜かれた。 その場から後退しようにも身体が痺れ、身を守る以外にできない。 周囲の少女達も徐々に怒り付与から逃れ、後方の愛美たちへと襲い掛かって行く。無論麻衣が聖神の息吹でBSも体力もフォローしているが全快というわけにはいかない。 「ホアエル、あとはヨロシクね」 「はいはい。君はいつもそうだよ」 ホアエルは片目をつぶると、周囲の霊魂を弾丸に変えて発射。 それは狙い違わず禅次郎へと叩き込まれ、そして何かが抜け出て行った。 「高橋さん!」 ギリギリでフェイト回復を図った禅次郎だが、この先は見えている。 綾乃はフラッシュバンを放とうとしたが、一旦それをひっこめた。 今敵が集中している場所はイコール、味方が中心になっている場所だ。 仕方なくチェイスカッターを放り投げることにした。 しかし、それにしても……。 「足止めの手段が禅次郎さんの怒り付与しか無かった。作戦の流れは基本的に全体攻撃での一網打尽。敵の数が一定以下まで下がらない限りパーティーアタックで回復の暇もないくらいに集中攻撃で潰されちゃう。もしかしてこの作戦……もしかして、もしかして……」 あまり考えたくはないが。 「あたし達、このまま」 綾乃は頭を抑え、死にもの狂いでチェイスカッターを放った。 もし死んだら、手駒にされる。 ●カウントダウン 禅次郎が倒されるまでにそう長い時間はかからなかった。 それなりに頑丈な彼だったが、マヌエルの防御を無視した連打で大幅に削られ、その間に香夏子、与市、愛美といった全体攻撃を担当していたメンバーが一斉に襲われることになった。 そうなれば当然麻衣は自分の設定した回復ルーチンに従って精神の息吹を連射するしかないが、十人以上で一斉に殴りかかられれば香夏子たちはひとたまりもなく、フェイトを消費して粘れたのもほんの3秒程度のものだった。 それだけ酷いラッシュが、立て続けに起こったのだ。 だが酷いのはそこからだ。 数体の少女死体を引き攣れてリル達に逆ブロックをかけ、マヌエルは己の身体を前面に晒してぶつかって来たのだ。 その様を、描かぬわけにはいくまい。 「――ッッ!!」 カスタネットの刻めるリズムとタンバリンが刻めるリズムには大きな差がある。だがそれを差し置いても、マヌエルのセンスはずば抜けていた。 常人にはおよそ目視できぬ速度で動き回る二人。 内心、タンバリンでも叩いて味方に戦闘のリズムを伝えられればと思っていたリルだったが、そんな余裕はコンマ1秒たりとも無かったし、かりに叩けたとしても雷慈慟たちには言わんとすることがよく伝わらなかったろうと思う。 幾度となく身体をぶつけ合い、叩きつけ合い、すれ違い合い、もつれ合い、リルとマヌエルは強かにカスタネットとタンバリンを打ちあわせた。 「ふう……ふう……」 肩で息をするリル。その間にも横合いから飛び込んでくる少女を掴み取り、振り回すように引き裂いていく。 なんとか……なんとか凌げている。 あと一分くらいはこのまま保つだろう。 だが心配すべきは、自分ではない。 「皆が……」 リルは後ろを僅かに振り向き、そして涙のように汗を流した。 「死体なら死体らしく、ちゃんと死んどいてくださいよ!」 仁身は眼前へ急接近してきた少女の首を一発で吹き飛ばす。 そのまま矢を再び番え、予備の矢を歯に咥える。 「僕も痛いんだからよぉ……お前らはもっと痛がれよなあ!」 思い切りギルティドライブを発射。 少女の腕が吹き飛び、片足がもぎ取れる。 転倒しつつも尚攻撃して来ようとする彼女に、駄目押しのもう一発を叩き込んだ。 荒い荒い息をして、膝をつきそうになる。 「大丈夫だ……覚悟はしてたけど、滅茶苦茶痛かったけど、悪くない!」 歯を食いしばり、右方向へと振り向く。 が、ちょっとばかり遅かった。セーラー服の少女が学生鞄を思い切りたたきつけてくる。 まるで鉄板でも入っているのかというような衝撃が脳天に走り身体が思わず仰け反った。その身体を少女は駆けあがり、顔面を強烈に踏みつけてムーンサルトジャンプ。仁身は受身もろくにとれずに地面に叩きつけられる――と思ったが、彼を迎えたのは地面ではなく後方からの膝蹴りだった。 後頭部。に走る衝撃。意識が完全にぶっ飛ぶ。 だが、堪えられないレベルじゃない。 フェイトをまるっと削り、何とか踏ん張った。 「こ……のぉ!」 歯に咥えていた矢を掴み、直接少女に叩き込む。 身体の内部で如何なる作用があったものか、木端微塵にはじけ飛ぶ少女。 が、その直後明後日の方向から繰り出された木刀に、仁身は完全に気を失った。 「秋月さんまで……!」 フォローに回ろうとした綾乃だが、一足遅かったようだ。 逆に彼女の周りを少女達が囲んでしまう。 「ちょっと、こっち来ないで!」 チェイスカッターを生みだして投擲。 少女の指が四本ほど吹き飛ぶが、そんなことはお構いなしに指なしパンチを叩き込んでくる。 綾乃は耐久力に自信はない。あと数発もくらえばおしまいだ。などと言っている間に、ホアエルから霊魂弾が叩き込まれた。 おもむろに吹き飛ばされる。 空中でどうしようもない状態で、木刀を持った不良風の少女を目視。まるで飛んできたボールを打ち返すかのように木刀を繰り出され、綾乃の腹部をこれでもかと抉った。 大量の血を吐き、地面に転がる綾乃。 フェイトを削って更に立ち上がろうとしたが、それは別の少女のスタンピングによって阻止された。 ぐしゃりとアスファルトに額を叩きつけられ、意識を失う綾乃。 「ど、どうしたら……」 残るメンバーはリル、雷慈慟、麻衣だけだ。 麻衣は状況を分析し、自分たちの失敗を悟りつつあった。 数の多い敵の対処法は、一見して『全体攻撃で一挙に掃除』としてしまうのが楽そうだし、お得に見える。しかしそれは少ない時間の内に敵を倒し切ってしまえる前提での話であって、今回のようなパターンは動ける敵の数を減らすことが重要だったのかもしれない。勿論、他にも沢山の解決パターンがあるが、今このメンバーでとれる作戦としては、かなり無茶なラインにあったろうと思う。 リルたちが一ヶ所に固められ、じりじりと囲まれる。 ここまでか。雷慈慟がそう考えて歯噛みしたその時……ホアエルのギター演奏が止んだ。 「……どうしたの、ホアエル」 同じくダンスをやめて振り返るマヌエル。 「マヌエル、ちょっと死体がやられ過ぎたよ。やっぱり第一段階のレベルじゃこの程度なんじゃないかな」 「……あら、そう。夢中で気付かなかったわ」 マヌエルがカラララランッとカスタネットを鳴らすと、少女たちが一斉に退いていく。 その様子を、雷慈慟は警戒しながら見つめた。 「退くのか」 「今度はもっと『ちゃんと』した形で踊りましょ。死体の人形にも魂は宿るってこと、ちゃんと教えてあげなきゃ。今日みたいにただの潰し合いじゃつまらないわ。そうでしょ?」 「……」 「また会いましょうね、バイバイ」 やがて月明かりの下にリベリスタ達は残された。 静寂だけが、流れていく。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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