● セリエバ。それは運命を食らうアザーバイド。 それを召喚すべく七派フィクサードの『六道』『黄泉ヶ辻』『剣林』の一部が手を組む。 『六道』のバーナード・シュリーゲンはアザーバイド召喚技術を求め。 『黄泉ヶ辻』のW00は運命を食らう異世界の猛毒に興味をもち。 『剣林』の十文字晶はその猛毒に侵された娘のために槍を持つ。 召喚場は『万華鏡』の届かない海の上。当てもなく探すには、海は広すぎる。 しかし手がかりはある。 召喚場に向かう船。その船が持つ情報。 それを集めれば、セリエバ召喚場への道を見つけることができるだろう。 ●灯台守は賭け事が好き 見渡す限りの大海原に、ぽつんと浮かぶ灯台船。 その灯台船こそ、セリエバ召喚を目指す者達が出す船の進路を指し示す標識であった。 そして灯台には灯台守が。この船では、騎士の名を冠する者が、その役割を担っていた。 「……さて、そろそろ禁断症状で発狂しそうな訳だが」 船首部、その手摺に腰掛け呟く男。 言葉とは裏腹に、落ち着いた声音、悠然とした態度、髪と服には夜の闇の色、双眸には月の金色を有するその男は。 「死人相手に賭けは出来ない。奴等に楽しむなんて概念は無い。賭けるものすら持ち合わせていない」 『博徒騎士』――大海士郎。 矢張りその手に銀の賽子弄び、退屈そうに脚を組み替える。 「楽しめると思って、誘いに乗ったんだが……期待外れだったかも知れないな」 ふう、と溜息吐いて、今は何の感情も籠らない端正な顔を上げて、茫洋と鈍色の空を仰ぐ。 「三日以内に何も無かったら、帰るか。そもそも俺はダブルのジイさんには何の義理も無いんだ」 ●曇天の下に集え 「……灯台船って、普通推進手段を持ってない筈なんだけどなあ。代用船だったのかな……? いやでもそれにしては大きいしなあ」 何やらモニターに映る船の映像を目の前にしてぶつぶつと呟いている『転生ナルキッソス』成希筝子(nBNE000226)に、リベリスタ達はおずおずと声を掛けた。 「……ああ、済みません。お集まり頂き有難うございます。それではこれより、私の方から説明をさせて頂きます」 恭しく優雅に会釈ひとつ。その後に、筝子は再び口を開く。リベリスタ達に情報を伝える為に。 「ご存知の方もいらっしゃるでしょうが、セリエバ。その件で向かって貰いたい所がありまして」 セリエバ――その単語に身を強張らせる者も居たかも知れない。 主流七派が一角――この場合三角か――でもある『剣林』『黄泉ヶ辻』『六道』の一部の連中が奪取を目論む強大で凶悪なアザーバイド。 同時に、筝子は僅かに身を引いて、モニターを示す。 映し出されているのは、灯台船。 「唯でさえ灯台船なんて、役目を終えてレストランにでもならない限り人なんか滅多に集まりませんが……この船もまた、幾つか報告されているセリエバ狙いの組織が出した船と同様、幽霊船と化しています」 視点を上空へ。そして甲板を拡大する。其処に居たのはE・アンデッドの群れ。何処も、かしこも、見渡す限り。 うっかりすると今、リベリスタ達の頭を悩ませている『楽団』の構成員でも乗っているのかと、錯覚しそうになる程に。 「他の幽霊船とは違って、この灯台船はその役目を全うするかのように動かず、他の船に進路を指し示しているようです」 その存在を示す事で。夜は灯りを点す事によって。 「残念ながら見渡す限り水平線の沖にあるので、この船に沿い往く他の幽霊船からも進路を特定する事は出来ませんでしたが……」 それでも、向かう目的は、意義は、あるのだと、筝子は言う。 「皆さんにはふたつの目標を熟して頂きたい。先ずは“彼”を追い出してこの船を押さえる事。それが、第一目標です」 モニターの画像がスクロールする。その先に、この船唯一の人間が居た。 ――黄泉ヶ辻が幹部、大海士郎。 過去にも数度、リベリスタ達と対峙した事があった筈だ。 今は何処か不機嫌そうな中にも涼しげな風情を見せる彼は黄泉ヶ辻特有の狂気等内包していないように見えるが、その実年若くして重度のギャンブル狂。 「以前彼が用いていたアーティファクト、『ド・メレの賽子』。彼は今もこれを所持しているようで、今回も使用してくる事でしょう。皮肉な事に今回出せる船の定員は、船頭除いて六名。以前のように、制限時間付の短期戦を強いられる事となるでしょう。しかし」 筝子が考え込むような仕草を見せる。そう言えば彼女はプロアデプトで、学業の方も優秀だったか。 「……ギャンブラーである彼の事です。其処までしておいて此方に何の見返りも出さないとは思えない。そしてその場合彼が賭ける品は恐らく」 アークの、利になるもの。 「彼はどうやら、灯台船を任されている事からも推測出来る通り、一部ではありますがセリエバ召喚の為の魔法陣のデータを所持している様子。魔法陣自体は海上に儀式場を分散して描かれていますからね。少しでもこの情報を得られれば此方に有利になるのでは」 成程、これが『第二目標』か。 「向こうにかなり有利な状況ですから、もしかしたら以前勝ち取り損ねた賽子も出してくれるかも知れませんが、それはさて置き」 改めて、筝子はリベリスタ達を真剣な面持ちで見つめる。 「相手は私の一学年上でしかない少年とは言え、幹部です。それにE・アンデットを大勢引き連れています。くれぐれもお気をつけて」 そして再び、恭しい会釈をして見せて。 「作戦の成功を、信じております」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:西条智沙 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年12月20日(木)23:47 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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●仄昏き灰の風の中 目的の灯台船に、船は横付けて、その動きを止めた。 今は唯、見渡す限りの海原から、僅かな波の音が寄せては返すのみの、静寂。 ご丁寧に、タラップは降りている。今回派遣されたリベリスタ達は、其処から灯台船に乗り込んで行った。 彼等は、後部甲板へと足を踏み入れた。 ――瞬間。 ぎょろりと、船楼両脇の通路から遍く、光の無い、目が。一斉に、彼等を見た。 「わお☆ 実際に目にすると鮨詰めやばいね! たかだか40mが凄く遠い~☆」 この状況にあって、それでも『ハッピーエンド』鴉魔・終(BNE002283)はおどけたようにからからと笑う。だが、その思惑は堅き決意で固められて。 (セリエバが多くの人の運命を喰らい、ひとつの世界をも滅ぼした事がある危険なアザーバイドだって話は聴いてる。そんなのが召喚されたらそれだけの人の運命が狂わされるんだろう……) 止めなければ、名も知らぬ世界の二の舞となる。見て見ぬふりは、出来ない。 その為にも此処は確実に情報を持ち帰らねば。そしてその悪しき企みを、必ずや、阻止しなければ。揺るがぬ決意を内に、彼は真っ直ぐに目の前の現実を見据えた。 (もしかしたら今回、私は誰の力にもなれぬまま退場してしまうかも知れません) 風見 七花(BNE003013)の不安も尤もだ。何せ敵は、運も実力も兼ね備える相手。彼女とてそれは十分承知している。だからこその、不安だ。 だが、それでも自分の意志で志願して、此処に来たからには。やるべき事は、変わらない。それも、ちゃんと判っている。 (やれる範囲のことをやり後は、幸運の女神の前髪を掴めるように頑張ります) 女神に此方を向いて貰う為に。その為に彼女の興味を引く程の奮戦が出来るように。 そんな中、『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)はきょろりと、周囲に視線を巡らせて。 この状況の異様さに、疑念を抱く。 (本来なら必要無い筈の推進手段を持つ灯台船。何か意味はある筈だから筝子の杞憂とは思えないわ) 此処で、他の船を誘導するだけして、はいさようなら、とは思えない。 本人にとっては気紛れかも知れないが、曲がりなりにも幹部格が護っているのだから、尚更。 (ギャンブル狂との賭けに勝てばその理由も判りそうね) 死せる者達の群れ。その向こう側に居る、黒き狂気の騎士との戦いを経て。 ふむ、と顎に手を当て考えるような仕草を見せたのは、『ジーニアス』神葬 陸駆(BNE004022)。 「齢17にして黄泉ヶ辻幹部とは大海士郎、なかなかの天才だな」 口ではそう言うものの。 だが、天才は此処にも居るぞと。そう、言わんばかりに不敵な笑みを浮かべて。 彼は言う。 「セリエバの魔法陣の情報は手に入れるのだ」 ●その思惑はぶつからない 相手はギャンブル狂。 ならば、此処はひとつ前座に、賭けをしようじゃあないか。 氷璃が拡声器を持ち上げた、その瞬間、ほぼ同時。 「――! 来た来た来たあ!」 大仰な程に声を張り上げたのは、『Trompe-l'œil』歪 ぐるぐ(BNE000001)だった。 聞く耳持たずと言った風情で、襲い来るE・アンデッドの群れ、群れ、群れ! 「そんな、ギャンブルには目敏いって……!」 矢張り幹部。仕事は仕事と割り切る男なのかと、七花は臨戦態勢を整えながら思うが。 「……いや」 ゆるりと、首を振る男。ひとり。 この場で最も、“大海士郎”という男を知る男。 そして、他の誰とも違う目的で、この場に立っている男。 ――『人生博徒』坂東・仁太(BNE002354)。 「単純に、アンデッドを制御しとらんのやな。ほんまに博打以外に頓着せえへんやっちゃ」 その表情に浮かぶは寧ろ、笑み。 仁太とて、セリエバの脅威は耳にしている。 けれど、それは『何かヤバい代物』という認識でしかない。 (それよりも、大事なことがあるけんな) 世界や、人々への脅威。それは、見過ごしておけないものだ。 けれど今は、唯。 (もう一度士郎と戦える。それだけの為に此処に来たしな) 彼はリベリスタであるその前に、勝負師なのだから。 仁太は、狼狽える事無く手筈通りに、カードを一枚引く。 ダイヤのスートで統一され、ジョーカー1枚含めた14枚のトランプ。 「しょーがないねー。こーゆーこともあるある。ほいっと」 ぐるぐも、倣って一枚引く。 確認する。ぐるぐは5。仁太はK。つまり13。 「右なのだ!」 「了解ですっ」 大きな数字を掲げる仁太の方へ。右の道へ。 皆を促し、動いたのは陸駆。 向かってくる敵、とは言え、その速度はこの場に集った殆どのリベリスタ達には遠く及ばない! 「……どちらにせよ倒すことにはかわらん」 これが、合図だ。 目に見えぬ幾重もの刃を重ねて。冷たく鋭く、一息に放つ。 翔ける飛刃は弾け、死せる者達を容赦なく刻む。 それこそが――りっくんレイザー(=ファントムレイザー)! 氷璃がぐるぐに目を遣る。と、彼女はニッと笑みを浮かべて頷いて、その場に留まる。 終もまた、いつでも飛び出せる筈が、動かない。 その間に氷璃が、展開する魔の陣の中央に立ち、陸駆とは逆方向に、即ち、通路から溢れ出し襲い来んとしている死者の群れに、無数の閃光を放つ。 唯、黒く、唯、昏く、うねり、躍り掛かるそれは、本能から来る動力すらも地に堕とし伏せる。残るのは奇妙な石造の群れ。 時間稼ぎには、なるだろう。 七花も続いて前進。小指のリングを引いて籠手からより覗かせる銀の刃。一瞬にしてその切っ先に魔力を籠め、収束させ、爆発させた。 連なる白き雷鎖は広がり、立ちはだかる敵を貫いて、痙攣させる。 動きを止める敵多く。しかし完全には至らず。未だ石の呪いや痺れの呪縛に屈せぬ者共が、群れる。元の数が多い分、これだけでも十分な脅威たり得る。 その猛攻を、リベリスタ達は往なし、或いは防ぎ、前を見る。 仁太が、禍々しき破壊の為の戦車の如きその巨銃を構え、乱射した。敵の群れの一角が、見るも無残な蜂の巣と化し、弾けて消滅していく。 だが、まだ足りない。 しかしその為に、彼等が居る。 銃声が止み、硝煙の匂いだけが漂い始めた時、ぐるぐが、終が、待ってましたと言わんばかりに飛び出した。 「無駄なく確実に道を開いていくだ!」 「範囲組が開けてくれた道、駆け抜けて見せるよ☆」 動きの鈍った敵を、前進と同時、瞬時に見極めて。 ぐるぐが流れるような怒涛の如き連撃を叩き込めば、終は生み出した分身の如き残像と共に敵をそのナイフで穿つ。 そうして、リベリスタ達が進むべき道を切り拓く事に専念していると。 ――やがて、一度目のダイスが宙に舞う。 ●『1』と『5』 歪 ぐるぐは怪盗である。 独自の価値観を持ち、曰く、EXスキルは生み手の生き様を凝縮した宝石が如き結晶。 それを自らの宝石箱に収める事こそ、彼女が生き甲斐。故に、彼女は怪盗である。 そして、狙った宝石を手に入れる為の努力は惜しまない。 無駄でも無謀でも、負ける気など無いし、素直に負けてやるなんて事はしない。 今回ばかりはその努力が報われる事は無かったけれど。 永久にチャンスが絶たれた訳ではない。 だから彼女は、次こそは勝負のテーブルに立ち、カードを貰うのだと。 それまでは、彼女の中では完全なる敗北たり得ないから。 だから彼女は告げたのだ。 ――またあそぼうね、と。 風見 七花は内気な少女だった。 押しも弱く、かと言って空元気でも出そうとすれば空回る。 こんな自分のままでは、夢すら叶えられないと思うと、そんな自分が嫌だった。 それでも、すぐに変わっていくのは難しい。 だから、彼女は自分に出来る範囲で、少しずつ、変わっていこうと思うのだ。 不安は、未だに拭えない。 だけれど、否、だからこそ、まずは仲間を信じよう。 その上で、自分に出来る精一杯で、仲間を支えよう。 せめてその思いだけは、強く持っていたいから。 だから、自分が戦線を離脱する事になっても。 彼女は、仲間達を信じ続ける。きっと良い知らせを齎してくれると。 ●黒き騎士は博打に酔う 残るリベリスタは、四人。 終、仁太、氷璃、陸駆の、四人だ。 残り時間は、最早一分半も無い。 これからはこのメンバーで、出来うる最善の策を取っていかなければならない。 退路は既に断たれている。これから戦況がどう傾くか、まるで判らない。 リベリスタ達次第だ。一寸先は闇。まるでそれは彼等の行動のひとつひとつが、賭け。 とは言え、戦況が絶望的な訳ではない。既に、射程範囲だけで言えば、遠距離から技を放てるメンバーは、士郎を捉えられる距離に入っている。 「暇を持て余させてもうしわけないな。あいにくこちらも楽団で忙しくてな」 だから今日は。 「楽しみにきたぞ」 陸駆自身もまた。 この時を、楽しむ為に。 挨拶代わりに、白き気糸の正確無比なる一撃――天才スーパーピンポイント――を。 「アークが誇る天才との勝負だ。飽きさせないのだ――運命を食らう異世界の猛毒なんぞ、この世界に呼ばれてたまるか!」 「!」 士郎は、避けた。完全に回避はし切れなかったようだが、直撃を避ける。士郎の肩口へ。 だが、その時士郎の顔色は、明確に変わったようだった。 口元から笑みが消え、驚愕にその双眸を丸くした。 まだ遠目である事と、黒で判別が付き辛いが、直撃こそしなかったものの、それは深く、深く突き刺さったようであった。 「入った!」 僅かにたたらを踏んで、数歩よろめく士郎。肩口を押さえて、その手に紅を染み込ませ、しかし彼は再び、嗤う。 「良いな。矢張り良いものだ。これだから“命賭け”は止められないんだ」 この命、懸ける程のものではない。しかし賭けるに値する価値はある。 この瞬間の為に。 紅の月が、煌めく。 「ッ!!」 咄嗟に反応した陸駆以外の全員が、碌に防御体勢も取れぬまま、その不吉の月光を浴びた。 矢張り士郎の運は相も変わらず衰えず強すぎて。幸運の女神の唯独りの真なる寵愛者と思える程に。 全員の身体を、容赦無く蝕んでゆく。 終が、仁太が、氷璃が。僅かに、しかし確かにその力を削がれていると自覚する。 「この程度でギブアップ何て言わないでくれよ」 「その前に貴方は、もう少し周りを見るべきね。折角の楽しみを棒に振るわよ」 「何だ、何かしてくれるんだったのか」 余裕と、余裕の応酬。 氷璃と、士郎。 冷たく嗤う、天使と騎士。 刹那。 奏でられるは紅き血に依り奏でられる葬送曲。夜の天蓋を持つ傘がくるり、回れば黒鎖は船内に蔓延って。 死せる者達に滅びと言う名の安らぎを。 そして、士郎にも。 逆の肩口を掠める。が、先程のような痛打には至らない。 そして次の瞬間、何か異質なものが、士郎に向けられて飛ぶ。 士郎は、それを手に取った。財布だ。 「悪ぃな、前に払わず帰ってしもうて。負けた分払わずに逃げたら博徒として失格やしな」 「……成程、今の鉄火を差し出すと言う訳か」 「支払いが遅れた分少しええこと教えちゃる、ちょっと今回はおもろい構成になっとってな、ラーニンガー二人おるねん」 一人は、先程帰されてしまったけれど。 それでも、力を求め、学び取らんとする存在はまだ二人。 「普通そういう時はラーニングされんように使用を限定したりするもんやけど……真っ向から勝負してみんか?」 「私が勝ったら貴方のEXスキルを私に頂戴?」 氷璃も、同調して。 「チップ不足と言うのなら、勝者たる騎士には祝福のキスで構わないかしら?」 「いや、“そっち”は謹んで辞退させて貰おう。帰ったら平手を喰らいそうだ」 誰にだ。 いや、それは兎も角。 「それを望むのなら、そうさせてみるが良い。向かって来い――アーク!!」 その表情は狂気を満面に浮かべ。 凶暴に、嗤う。 ならばと仁太が道を開け。 終が、跳んだ。 「ねえねえ! 士郎さん! オレが士郎さんに一撃でも当てる事が出来て、尚且つオレ達が士郎さんに勝てたなら情報に色つけて欲しいな☆」 「お前が最後まで残っていたなら考えてやるよ」 黄の煌めき宿すダイヤモンドだけが、終のナイフを抑えている。 瞬間。 交錯する。 笑いと、嗤い。 返す刃で、終はもう一撃。それを、士郎はひらりと躱して。 その足元に、黒きスペードの魔法陣が浮かぶ。光る。 終の眼前に、スペードの武官が、文官が、女王が、王が、躍り出た。 ●『6』と『4』と『2』 神葬 陸駆は、天才である。 誇張の様にも聞こえるが、実際天才である。年の割に頭脳明晰であるし、それに自身を持っている。 だからこそ彼は、戦線を脱する事になるうとも、狼狽える事は無かった。 何、これも計算の内だと、そう言いたげに。 貴様らならば奴を倒せる。 祈りはしないぞ。他でもない、僕の戦略演算がいうのだからな。祈る必要がどこにある。 氷の天使。それが、宵咲 氷璃という女性だ。 少女の様に愛らしくも、氷の様に美しい。そんな女性なのだ。 そしてそれは、外見だけを指して称されるものではない。 少女の心と、氷の精神を内包する女性。 そんな彼女の精神が、この場において揺らぐ事は無い。 消えゆくその時も、慌てず、しかし諦めず、葬送曲という置き土産を残していった。 鴉魔・終と大海 士郎の賭け。 その軍配は結局の所、士郎に挙がる事となった。 だけれど、終は信じる事を諦めさせられた訳ではない。 寧ろ、疑う要素等、彼の何処に在っただろう。 自分一人では無価値かも知れない。そう思う事もあるけれど。 全員が負けた訳じゃあない。一人でもハッピーエンドを掴める可能性を持つなら、まだこの奮戦に意味はある。 ●『3』 「俺は今程、運命の女神の愛を実感した事は無い」 「奇遇やな。わしも今、最高に愛されちょる気がするぜよ」 今此処に、相対するは。 人生博徒と、博徒騎士。 正真正銘、これが勝者を決める戦いだ。 どちらの運が、今この瞬間、相手の運を上回るのか。 リベリスタ側に残された時間はもう無い。 士郎を撤退させられるかは、正直分の悪い賭け。 それを、互いに知っていて。 真っ向から、向き合う。 「名前は、何て言う」 「――仁太。坂東・仁太や」 「そうか」 覚えておこう。 士郎は、それだけ言って。 「ならば来い――坂東・仁太ァァアアアアアア!!」 「大海士郎ォォオオオオオオ!!」 咆哮。 重なり、混じり、劈合った。 士郎の足元に浮かぶ、スペードの陣。 ――それが最後で。 「……はは、」 仁太の放った弾丸の一発。 それが、士郎の腕を貫くも。 その瞬間に、最後の賽子が軽やかに宙を舞う。 「――今回も、俺の勝ちだな」 消えゆく仁太の姿を、士郎は何処か名残惜しげに見送っていた。 運命の女神は未だ、博徒の騎士に微笑んだまま。 太陽は、曇天に呑まれたまま。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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