●響き渡る「音」 「――――♪」 三平高の市街地から離れた場所に、ひとつの古びた教会が存在していた。 裏手に巨大な墓地を抱えるその教会は多くの人が通いつめて居たのだという。 其処で、へしゃげ、折れ曲がった十字架を背に一人トロンボーンを演奏する修道服姿の少女が一人。 そして、少女の前には彼女のトロンボーンをただ一心に聞き入る――無数の亡者達。 年齢も、性別もバラバラな彼等はこの教会に救いを求め訪れた人々だったのだろうか。 そうで無ければ、教会の裏手の墓地から蘇った者達なのかもしれない。 少女が奏でるは、悲壮な雰囲気を漂わせる鎮魂歌(レクイエム)。 其れは眼前で聴き入る亡者達への手向けか、或いは――未だ見ぬ観衆(ゲスト)達へ向けたものか。 「早く」 不意に、少女の指が止まる。 奏でられていた音の余韻も終わらぬ中。 「早くあたしの演奏を聴きに来なさい、アーク。亡者相手に幾ら演奏したってツマラナイのよ」 少女は其れだけ言うと、再び終わりのない鎮魂歌を奏で始める。 彼女の名は、エリスタ。『レクイエム』エリスタ・ハウゼン。 バロックナイツ『厳かな歪夜十三使徒』第十位。 『福音の指揮者』ケイオス・“コンダクター”・カントーリオ率いる『楽団』の一人である。 ●「序」を奏でし鎮魂歌 「死者が蘇って動き出す、という事件が日本各地で起きているのは知ってる?」 集まったリベリスタ達に、そう切り出すのは『リンク・カレイド』真白・イヴ(nBNE000001)。 死者が蘇って動き出す。 日本各地で起こっているセンセーショナルなその事件は、『福音の指揮者』ケイオス・“コンダクター”・カントーリオによるものだ。 「あなた達には、彼の引き起こす事件の一つの収集に向かって貰いたいの」 そう言うと、イヴは自分の背後の巨大なモニターのスイッチを入れる。 映しだされたのは、古びた教会。 「この教会の周りで、ケイオスの事件と同じ性質を持った『死者が蘇る事件』が起きてるわ」 「幸い、此処は市街地から離れた場所にあるから今は未だ、大きな騒ぎにはなってない」 今は、と付いたのはそうなりうる可能性も秘めているからなのだろう。 「教会の中にはこの事件を引き起こした主犯たる『楽団』のメンバーが居るわ」 『楽団』の一人、エリスタは修道服の姿をした少女で、トロンボーンの音色によって亡者達を自在に操るネクロマンサーだという。 「彼女の操る亡者の数は、数十人単位。どれも只のE・アンデッドとは比べ物にならない渋とさを持ってる」 例え、腕がもがれようとも。 足が砕けようとも、彼等は動じること無く襲いかかって来る。 とはいえ流石に一対一ならリベリスタが有利だろうがその数が、十や二十を超えるとなれば話は別だ。 「さっきも言った様に、今は未だこの教会に彼女たちはとどまっている」 だが、其れが何時市街地へと攻めて来ても可笑しくはないのだ。 そうなればパニックは必至、避けようのない大混乱が起きる事になるだろう。 あくまで、可能性での話だが。 そうなる前に教会へ赴き、事態を収拾して欲しいとイヴは言う。 「絶対に気を抜いちゃダメ」 そう、最後に念を押してイヴはリベリスタ達を送り出すのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ゆうきひろ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年12月04日(火)23:21 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●鎮魂歌を奏でし者 神よ、あの頃の私は貴方の事を信じていました。 信じる者は救われるのだと。 神の愛はすべての者に、等しく降り注がれるものなのだと。 嗚呼、だとするのならば。 神よ、貴方のその言葉がもし嘘偽りの無い真実だとするならば。 貴方がもし、本当に居るというのなら。 貴方は何故、私の裏切りを。 冒涜を、背信を、この狂気に満ちた凶行をお止めにならないのですか? 何故、あの時私を『救って』下さらなかったのですか? 神よ、かつての我が心の支えよ。 「――私は、もう二度と貴方を信じたりはしない」 神を称える聖堂――教会の中で、忠実なる従僕たる証の修道服を身に纏いながら、 エリスタ・ハウゼンは己がトロンボーンによって奏でられる背徳の鎮魂歌の手を一時止め。 ふと、そんな事を呟いた。 傍らには、かつて此処で神父として神に従事していたであろう神父服を着た男の死体。 死者の眠りを妨げる狂気の演奏によって、安らかな死と救いを与えられなかった其れに。 まるで詰る様に。 「お互い、信じる物を間違えたわね。お生憎様、神様は助けになんて来てくれなかったわ」 今回もね、とボソリと最後に付け加えながら。 そう、最大限の皮肉を込めてエリスタは静かに呟き、演奏を再開しはじめた。 ●死者蠢く教会へ 「楽団……か」 エリューションや死体を改造する敵は今までにも存在したが。 それらとは、まるで異質だと教会へ向かいながら『侠気の盾』祭 義弘(BNE000763)は呟く。 「こうも各地で事件を起こされてはな」 先手を取られてしまった、と言えるかも知れないと言うのは『闇狩人』四門 零二(BNE001044)だ。 だが、先手を取られたとして。 既に起こってしまった事件であったとしても、自らにはまだやれる事は残っている。 「正直エリスタが何をしてェのかも、何でとっとと街に攻めねーのかもわからねェ」 何の問題もなけりゃゆっくり聴いてやりてーけどなと 『デンジャラス・ラビット』ヘキサ・ティリテス(BNE003891)が呟く。 が、実際にはそうも行かない。 教会で演奏されている其れは、死者を鎮めるものではなく。 死者を呼び起こし、自身の忠実な下僕とする鎮魂歌。 一刻も早く、止めなければ。 もし、その演奏が教会だけに留まらず市街地にまで広がれば……。 「急ぎましょう、これ以上の被害を許す訳には行きませんから」 「うん、何時エリスタ達が街へ繰り出し始めるかもわからないしね!」 『原罪の蛇』イスカリオテ・ディ・カリオストロ(BNE001224)の言葉に 『ゲーマー人生』アーリィ・フラン・ベルジュ(BNE003082)を始めとした仲間達が強く頷いた。 ●誰が為のレクイエム 「御機嫌よう、お嬢さん。 ツマラナイってーから演奏を聞かせてもらいに来たっすよ」 教会の入口から聞こえてきた中性的な声に、エリスタの演奏の手が止まる。 教会奥の台座に腰掛け、演奏の手は止めたまま入り口を見た エリスタの視線の先には『LowGear』フラウ・リード(BNE003909)の姿。 無論、其処に居たのはフラウだけでは無い。 「貴女が、エリスタ・ハウゼンでいいのかしら?」 そう問いかけたのは、『ソリッドガール』アンナ・クロストン(BNE001816)。 アンナの眼前には、数十の生ける屍――亡者と化した死体達。 その死体達の最奥に控える修道服の少女の手には、破壊された教会には似つかわしくない程に 綺麗に手入れされている事が伺えるトロンボーンが抱えられている。 「わざわざ確認しなくても、わかるでしょ? まぁ、いいわ。そう」 私がエリスタ・ハウゼン、『楽団』に所属するネクロマンサー『レクイエム』だと。 悪戯気味に微笑を浮かべながらエリスタはそう、アンナに言葉を返す。 「勝手に此方へ来て物騒な演奏会始めやがって、ホントエラい楽団もあったもンだなァ」 吐き捨てる様な言葉と共に、エリスタを睨みつけるのは『機械鹿』腕押 暖簾(BNE003400)だ。 聴衆だって聴くもンは選ぶぜと彼は言葉を続ける。 「そんな、勝手でエラい楽団の演奏会をわざわざ貴方達は聴きに来たんでしょう?」 「ええ、でもその前に」 一つ、聞きたいんだけどねとアンナがエリスタに問う。 「何かしら?」 「此処に来てた人達は、神秘なんて何も関係の無い人が殆どだったと思うんだけど」 「そうね、で……それがどうかしたの? 気に入らない?」 一寸の間も置かずに返されたエリスタの言葉に、アンナの心の中に静かな怒りが生まれる。 いや、アンナだけでは無い。 その場にいたリベリスタ達全員が、恐らくは同じ感情を抱いていた。 「何も思わないというのなら」 貴女は――楽団は、私達の明確な敵だとアンナが言った。 「その通り、背徳の修道女よ……キミの奏でるレクイエムは此処には」 彼らには、相応しくないなと零二が続く。 「なら――」 本当に相応しくないかどうか、確かめてみなさいとエリスタがトロンボーンに指をかける。 静寂が満ちていた教会の中に、再び響き始めた其れは悲痛な音色の鎮魂歌(レクイエム)。 戦いの始まりを告げる、序曲であった。 ●亡者の波 教会内に響き始めた鎮魂歌に合わせる様に、 先程まで微動だにせず、沈黙していた死体達が一斉にリベリスタへ向かい歩き始める。 今、僅かな安息の眠りは妨げられ、終わりを告げたのだ。 「来るぞ! 打ち合わせ通りにな」 零二の言葉を受け各々が事前の打ち合わせ通りに、密集陣形を取る。 眼前から迫り来る死体達との数の差は日の目を見るより明らか、歴然としたものだ。 故に、下手に突撃したり散開するのは非常に危険を伴う。 「シスターの格好したお嬢さんが鎮魂歌を奏でてるってーのは絵にはなるっすけど」 こうも死者に囲まれていては台無しも良い所だと。 神経を集中させ攻撃に備えるヘキサの隣で、一歩前へ踏み出たフラウが魔力剣を構えながら呟く。 「退屈させてくれないのを祈るっすよ」 残像と共に、フラウの斬撃が恐るべき速度で繰り出される。 其の一撃一撃すべてが、四方八方より迫る死体達の隙をつき、次々に斬り裂いて行く。 「言葉を認識する力がまだ残ってるは知らないが」 神を冒涜する背徳の修道女に傀儡とされ、本当に其れで良いのかと。 恐らくは心の拠り所であったであろうこの場所を破壊され、踏みにじられ。 其の嘆きは、怒りは、残っていないのか?と零二が死体達へ言葉を投げかける。 「……」 黙したままの、死体達の一部の動きが其の言葉を投げかけた零二の方を向き直る。 「どうやら『怒り』の感情くらいは残っているらしいな」 例え其れが自身に向けられるものだとしても、人らしさが一片でも残っているのなら。 「これ以上お前らをいけ好かねェ楽団の好きにはさせねェから」 『ブラックマリア』――死を告げる黒紫の銃指を天に掲げ、暖簾が印を描く。 (筋書き? 楽譜? ふざけンじゃねェ) 自分善がりな演奏なンざ聴きたくもねェと、教会内に呪力を伴う氷の雨が降り注いだ。 「――還ンな死人さんよ」 静かな暖かさを含んだ想いを乗せながら、しかし冷たく氷雨が死体達に等しく降り注いでゆく。 其の雨は、まるで安らかな眠りを与える様に幾つかの死体を凍結させる。 が、当然全ての死体が凍り付く筈も無く氷の雨を物ともせず抜けた死体達も居る。 己が怒りの赴くままに、零二へと襲いかかる者達。 その他の死体達は手当たり次第に近くに存在するリベリスタ達に巨大な波となって押し寄せる。 「嬢ちゃん、危ない!」 前衛を抜け、アーリィへと襲いかからんとする死体達の群れの前に義弘が飛び出す。 愛用の金属盾『侠気の鉄』とメイスを構え死体達をそのまま塞き止める義弘。 が、其れならばと堰き止められた死体達の群れは勢いもそのままに 義弘の腕に、足に鋭い歯を立て喰らいつき、引き剥がそうとする。 「悪いが、此処は抜けさせない……其れが俺の役目だからな」 全身を襲う鋭い痛みに倒れそうになりながら、しかし義弘は倒れまいと自身に喝を入れる。 「義弘さん、今傷を癒しますから!」 身を呈して自身を庇った義弘に、前線で闘う仲間達に報わんと。 アーリィが仲間達の傷を、天使の歌で癒してゆく。 「数が多すぎる上に呆れる程タフだなんて……」 「確かに、矛にも盾にも優れた理想的兵士と言えるでしょう、ですが」 掌から眩いばかりの聖なる光を放ち、多数の死体達を同時に相手取るイスカリオテ。 其の隣には、アーリィの力だけでは癒し切れない仲間の傷を聖神の息吹によって癒すアンナ。 「逆に言えば、それだけです」 所詮はその程度の存在でしかない、とあえてイスカリオテは言う。 未だ、足りないのだ。 この程度の調べでは、眼前の修道女の深い、深い歪みの根幹は分からない。 (もっと深く曝け出して下さい。その歪みの根幹を) 未だ演奏に集中し、逃げ出そうとも、此方に手を出そうともしないエリスタを見つめながら。 イスカリオテはそんな事は思うのだった。 「ついでに言えば、動きも鈍いのも助かるわね」 自身に組み付こうとした死体の攻撃を、躱しながらアンナが言う。 とはいえ、その全てを躱し切る事が困難なのに変わりはないのだ。 まだまだ安心は出来ない、とアンナは気を引き締め直すのだった。 ●続く鎮魂歌 終わりの無いトロンボーンの音色に合わせる様に。 死体達の群れもまたその幾らかが叩き潰されようとも意に介せず進軍を続ける。 塵も積もればなんとやら、とはよく言ったものである。 その怒涛の勢いに前衛を務めるフラウやヘキサ達もジリジリと少しずつ体力を削られつつあった。 「一体一で躱すだけなら、楽っすけど……」 「後ろに行かせないようにしながらだとな、ちょっときついか?」 四方八方から自分達に迫り来る死体達を薙ぎ払いながら顔を見合わせる二人。 特に、零二同様に死体達を挑発していたヘキサの疲労は、回復を入れてもかなりのものだ。 しかし。 顔を見合わせ、頷き合う二人の顔に迷いは無い。 まだ、やれる。 声に出さずとも、互いの意思を理解し合った二人が武器を構え直す。 瞬間、一迅――否、二迅の風が死体達の間を突風となって駆け抜けた。 首を、両腕を、両足を、瞬く間に撥ねられ、刻まれた死体達がそのまま崩れ落ちる。 「二人共、伏せろ!」 後方から掛けられた声に、フラウとヘキサの二人が飛び退く。 と同時に、零二が放ったフラッシュバンが死体達の眼の前で炸裂し死体達の動きを鈍らせる。 が、光を抜けた一部の死体がそのまま零二へと迫り――。 「後ろだ、四門!」 迫らんとした、死体の頭部が一瞬で撃ちぬかれ、炸裂――そのまま死体が倒れ伏す。 「背後からたァ頂けねェな?」 「すまんな、助かった暖簾」 倒れながらも首から上がないまま這いずる死体を再度撃ち抜き、暖簾と零二が頷き合う。 「歩だけの盤面で、此れ以上我々は止められませんよ」 そう、呟いたイスカリオテの周囲の床が不意に風化し灼熱の熱砂へと変わってゆく。 蜷局を巻く様に燃え盛る、灼熱の砂嵐が死体達に焼き尽くさんと襲いかかる。 灰は灰に、塵は塵に、全てが灰燼と帰す様に。 赤く、紅く燃え上がる熱砂に捕えられた死体達が、消滅していく。 が、それでも流石はタフな死体達。 其の全てを燃しきるには至らずに其の身を焦がしたまま。 焼け爛れ、腐臭をまき散らしながら死体達が尚もリベリスタ達へ襲いかかる。 「だから、行かせないんだよ! 絶対にな!」 が、その進軍を義弘が押しとどめ、そのまま押し返さんとする。 死体達もかくやという渋とさで盾としての使命を果たそうとする義弘。 鳩尾に、強烈な死体達のタックルを受けそのまま意識が飛ばされそうになるも。 此処で、倒れる運命ではないのだと。 倒れてはならないのだと。 「俺は侠気の盾だ。盾を自称する働きはしてみせる!」 意思を持たない筈の死体達の動きが、一瞬気圧される程の気迫と共に立ち上がる。 「とはいえ……悪いが傷を癒してくれると助かる」 痩せ我慢だけで、食い止められる相手ではない。 「アーリィ!」 「はい! 行きますよ、アンナさん!」 アンナとアーリィの二人が、息を合わせる様に仲間達の傷を癒していく。 戦場に流れる鎮魂歌を打ち消す様に流れた其れは、清らかな詠唱と福音の二重奏(デュエット。 「随分頑張るじゃない、でももうヘトヘトでしょ? 諦めたら? こっちはまだまだ余裕よ」 長く、永い演奏の疲れ等微塵も感じさせない余裕と共にエリスタがリベリスタ達に問いかける。 演奏によって操る死体は既に過半数がモノ言わぬ死体へと還っているにも関わらずの余裕は。 確実に体力も気力も消耗し続けているリベリスタ達とは違い、 所詮彼女にとって死体達は替えの利く道具に過ぎないから、なのかも知れない。 だが。 「――本当に余裕なら、そんな事いちいち言う必要ないですよね?」 そう、エリスタに投げかけたのはアーリィだ。 フォーチュナは言っていた。 エリスタ自身は、身の危険を感じるか。 或いは、死体の一定数を撃破されれば撤退すると。 だから、此れは賭けだ。 回復役こそいるものの、削られ続ける体力は既に限界に近い。 無事だと、余裕だと言えるリベリスタ等誰一人として今この場にはいないだろう。 「何が、言いたいの?」 「これ以上、死体を蹴散らされたら困るんじゃないかって言ってるっすよ」 息も絶え絶えに、フラウが手近な瀕死の死体の首を魔力剣で撥ね飛ばす。 そうして、崩れ落ちる死体を見たエリスタの表情が僅かに歪む。 其れは、彼女が僅かに見せた焦り、其れをリベリスタ達は見逃さなかった。 ●訪れる終幕、そして 「なぁ……お前、そもそも何でこんなトコに閉じ籠ってんだ?」 尚も押し迫る死体達を一蹴しながら、エリスタにそう話しかけたのはヘキサだ。 戦闘が始まって随分経つというのに、一般人を襲う為に街へ繰り出そうともせず。 音色こそ綺麗なものの紡がれる音は、全て暗く物悲しいものばかり。 「演奏を聴いて欲しいだけなら死者なんて要らねーだろ」 「そうよ、音楽を聴かせたいというのなら普通の楽器でやればいいんだ」 人を殺す芸術なんかに耳を貸す者なんて、いないとアンナが続く。 「死を冒涜し、神を地に堕す様な真似をしながら修道服を纏う」 笑顔を崩さぬままにイスカリオテは問う。 「無粋ながら問い掛けを。何故、貴女の神は死んだのですか」 ――何故、神は死んだのか。 其の、言葉に。 エリスタの奏でる鎮魂歌の音色が途切れた。 「……………」 ゆっくりと、静かに、エリスタがイスカリオテに向き直る。 その双眸に浮かぶのは、深い深い憎悪と、悲しみの混ざり合った色。 「――私を、助けて下さらなかったからよ」 助けて下さらなかったから。 その瞳に溢れんばかりの激情を宿しながら。 エリスタは、そう呟いたのだった。 直後、トロンボーンの音色が今までよりも一層強く、激しく教会内へ響きわたる。 そのトロンボーンの激しい音色に合わせる様に。 未だ健在の生ける亡者達ではなく、 既にリベリスタ達によってモノ言わぬ屍に戻された死体達の身体が次々に浮かび上がる。 「こいつ等に安らかな眠りなんて、訪れはしない」 憎悪に満ちた声のまま、奏でられる音色と共に死体達がリベリスタ達へと等しく組み付いてゆく。 「これは……、これがキミの能力か」 腕が、脚が、首が、其々がまるで意思持つ一つの生物の様に執拗に纏わりつく。 まるで、全身が肉の十字架に磔にされてしまったかの様な感覚に襲われながら零二が呟いた。 「貴方達は、私に決してしてはならない質問をした」 リベリスタ達に背を向けながらエリスタが言う。 その周囲では、健在だった死体達がゆっくりと撤退を開始していく。 「――その罪は、これから奏でられる組曲で贖って貰うわ」 最後に、そう言い残しエリスタと死体達はその場から居なくなった。 教会を襲った『序曲』はリベリスタ達の手によって食い止められた。 だが、此れは飽くまでも序曲にしか過ぎない。 『楽団』は今後も組曲を奏で続けるのだろう。 そして、エリスタ自身もまた――新たな鎮魂歌を奏でるに違いない。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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