● 「どーせ」 ――エリューション化したら僕が手を下さなくてもリベリスタに処理されるんだから。 蒸し暑い。 潰れた果実、集る虫。濡れた十字架、裸の女。殴打の花、絶叫する子供。 「僕、正義の死者、死神太郎★」 いつもは優しく笑う奴だった。だからこそこんな冷たい目をしたのは『本気』の証。男――深鴇は目の前の『神父姿のただの一般人』へ婉曲的に死ねと言っていた。 「し、死神!? な、ななななんだお前……!!」 「おまえの顔にピン!と来たら110番だってさ」 「こ、この私は神のご加護を受けているんだ、貴様なんか神の軌跡で……」 「慈悲だ、選択しろ」 聖痕のついた手。深鴇はその男に人差し指を向ける。 悔い改めますか? それとも悔い改めませんか? 止まれない、皆殺し、否、せめてその男をどうにかするまでは。 ――それは一つの約束のために。 ● 「やあ☆ 僕、死神太郎! 君専用の死神。殺して良い?」 「母さん?」 母の墓石の上に腰を置き、足を組みながら此方を見ていたのは、天使には程遠く、かといって悪魔でもない、優しい顔で笑う男だった。 「死神なら、人、殺せる? いや、あれはもう人なんかじゃ……でも、憎くて」 「超殺せるけど、超気乗りしないから超嫌だ、かな!」 「ま、まあ、聞いてくださいって」 少年の話によれば、森の奥に教会があり、そこは邪神教の本拠地と成っているという。その教主は金と女に眼が眩み、信者を騙しては金を巻き上げ、女を食い物にしているという。 この少年の母親もその餌食と成り、お布施にお金を使い果たし、そしてその身体も――耐えに耐えられなかった母親は自ら命を落としたという。 勿論、母をそんなにしたものを少年は許せない。だがその実態は解らず、通報とか、試してみたものの、警察は皆、口を揃えてあそこの教会にそういう事は無かったと言って帰って来る始末だった。 「男ってほんとヤーネ。僕は死体にしか発情しないから、あ、やだ、どうしよう子供できなーい」 「もうボクにどうこうする手は無いんだ……こんな悔しいのに母さんを殺した奴等は今だってそんな悪い事をしているに違いないし……!!」 震えた声、垂れ出た鼻水と涙で顔面がくしゃりとなった少年。なんて、憐れ。 「……母さんの墓に座ってたから、もしかしたら母さんなのかと思ったんだ。でも違ったんだね、ぼくはこれで帰るよ」 「何処に?」 「孤児院に……今日から。そろそろ迎えが来るんだ。 ここからずっと遠くなんだ。だからまたいつお墓に来れるか解らないから……じゃあ」 「待ってよ」 「え?」 男は墓石から降り、少年の眼の高さに自分の眼が来るまで腰を折った。 「な、ぼうず。いくら持ってる? 額によってはその頼み、聞くわ」 少年はその言葉を聴いて、少し顔が笑顔に緩んだ。だがすぐに焦った様に自分の服のポケットの手を入れて――。 「ごめんなさい、これしかない……」 ――出てきたのは、たったの5円。 それを摘み上げて5円玉の穴から男は少年を見た。 「僕はぁ、死神太郎☆ たまには金のために動く黄泉ヶ辻だっているんだぞ☆」 本当は、楽団のせいで死体を作れなかったストレス消費しに行く、そんな気まぐれだった。だが今は皮肉にも、少年にとっての母の敵を討つ正義のヒーローという所なのだろう。 ● 「皆さんこんにちは、今日は雨ですね」 『未来日記』牧野 杏里(nBNE000211)は窓の外を見ながらそう言った。 「今回の依頼の相手は黄泉ヶ辻。架枢深鴇と言います。 彼はこれから一般人に制裁という名目で虐殺を行います。 深鴇はフェーズ2までなら一定の行動を起こす事でそれを使役できるアーティファクトを持っています。 なので、虐殺後……死体をエリューション化させて、自分の駒にするのが最終的な目的の様ですが……」 どんな理由があるにしろ、一般人の虐殺と元々厄介なフィクサードの強化は行わせてはならない。アークはこれを阻止する事に決定した。杏里は資料を配りながら言う。 「舞台は教会です。 一般人は深鴇のワールドイズマインによってその場に縛り付けられています。 最悪なのは、深鴇のエレメントです。彼が何もしなくても、そのまま時間が経てばエレメントの影響で一般人が死亡するのですから……、時間は限りなく少ないです」 それまでには決着をつけたい所だ。 「彼はいつも連れているEエレメント以外にアンデットを二体連れてきています。彼なりにお気に入りの二体のようなので用心して下さい」 元リベリスタというアンデットなのが少々引っかかる。できれば壊して眠らせてやりたい所だ。 それに加えて杏里は思い出したように言った。 「……邪神教についてですが、処理はお任せします。詳しく語る必要も無いでしょう、私利私欲に塗れた罪人の巣穴。と、その被害者という子羊達。 大丈夫ですよ、このアークには欲望に負けて違反を取り締まらない人なんていないでしょうしね」 それではよろしくお願いします、と。杏里はブリーフィングルームの扉を開けた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年04月21日(日)23:44 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「やれやれ、参ったな。フィクサードがらしくない事を」 『ピンポイント』廬原 碧衣(BNE002820)は錆びれた教会の扉に手をかけた。錆びついたそれは少しでも力を入れれば壊れてしまうほどに、まさにそれこそ人の手入れがされていない隠された教会という名に相応しく。 さて、中に居るのは正義とは程遠い名前(フィクサード)を持ちながら、正義を行ちゃっている、そんな意味不明(黄泉ヶ辻)。 碧衣が勢いよく扉を開き、その中へと突入するリベリスタ達。 「死神さん、死神さん、遊んでほしいらなー」 『歪』殖 ぐるぐ(BNE004311)が、最速で葉っぱをを掲げてフィクサード――深鴇へと迫る。 「……げ」 勿論、突然の招かざる、むしろ一番来てほしくなかった訪問者に彼は心底落胆しつつ驚いた。 教会のど真ん中、横顔だけ此方に見せた深鴇。だがすぐに死神を召喚してから少し移動。その先には神父の皮を来た悪人が一人。 「遊んでくれないらな?」 「遊ばないよ、遊んでほしいならまた機会作るから今日は帰って欲しいらな?」 ぐるぐのほっこりした問いかけに、深鴇は遠慮気味に笑いながら、ぐるぐには聞こえない音を呟く。すれば、ぐるぐの速度を上回ったソードミラージュらしき死体がぐるぐへと斬りかかった。 突然斬りかかられてぽすんと尻餅突きそうになったぐるぐを『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)が片手で受け止める。大丈夫?と笑う笑顔だが、瞳の奥には赤色の漆黒を添えて。 「人形遊びって面白いの? 架枢ちゃん」 「……あのね、殺人鬼くん。僕は操る事はするけど趣味外かな」 「へぇ、俺様ちゃんにはわかんないや」 「僕の説明って一体……!? とりあえずさ、楽団ってのと一緒にされたら心外かな」 葬識は暗黒を放つ。その漆黒を腐臭の膜が跳ね返す。 「ひ!?」 そして深鴇が掴んだのは神父の服。そして飛び出してきたのは『宵歌い』ロマネ・エレギナ(BNE002717)。 「深鴇お久しぶりです」 「そうだね、宵歌い。僕の胸に飛び込んでおいでーって言いたいところだけど……」 ロマネはシャムロックを横に振った、最大限の力を込めて。それが物理攻撃であり彼に届かないことを知りつつ――ほぼ同時、月明かりに生まれたロマネの影は偶然にも教会奥の十字架の影と繋がった。 十字の影は深鴇の背を切り裂くように、そしてその背後の地面にも伸びていた。そこから『合縁奇縁』結城 "Dragon" 竜一(BNE000210)が剣を握りしめて飛び出す。 「久しぶりだな、深鴇。期待に添えずに残念だが、今日は脱がないぜ。なぜなら、お前という正義のヒーローに対するアンチヒーローだからな!」 「ヒーロー? それはどうかな、守護者(リベリスタ)!!」 ロマネに、竜一。二人の腕が得物を持ちつつ深鴇に向かって空を裂く――だが、しかしだ、この二人に足りなかったものは速度だった。竜一には見えた、ツナギの服の背がビリビリに破けたと思ったら黒い翼が強引に生えてきたのを。 「僕は死神太郎☆ 今日は命を狩るお仕事の日なんだ」 ――邪魔、しないでよね。 そう言って腰の抜けた神父を掴み、共々、上空へと舞い上がった。そして深鴇の足元を二人の得物が勢いよく空打った。 教会だ。天井は高かった。近接の範囲から遠ざかった、およそ5mあたりにいる深鴇を竜一は見上げて。 「……おおおい!! それは卑怯だぞ!!」 「うーーん、だって僕、ホーリーメイガスだし……フライエンジェだし? 今日は脱がないんだね、合縁奇縁君。それは僕を殺すていう真面目さの表れかい?」 「さ、どーだか!」 「つれないなぁ。……ん、宵歌い、今日も綺麗だね。いつかその顔見せてよ」 「降りてきたら見せましょう」 「それはできない交渉って解ってて言ってるよね?」 降ろせと騒ぐ神父を無視しつつ、そんな会話だけが教会に響いていた。 ● 一般人は翼を広げている男や、武器を持った少年少女に目もくれず、裏口へと移動し始めていた。 というのも『クール&マイペース』月姫・彩香(BNE003815)のアッパーユアハートが信者を彼女の方向へと向かわせていたのだ。 「こんなもんだろうか……兎に角、あとは頼んだよ」 彩香は一言AFへと声をかけると、来た裏口へとその身体を向かわせた。 今は彩香への怒りに震えて、足を動かすがいい信者――それが命を救う礎になるのだから。そんな移動する集団を見ていて、黙っていられなかったのがこの人。 「おいどこいくんだ、私を置いていくな!? 離せこの化け物共!! もうこりごりだ、天罰くだっちまえ!!」 神父、超焦る。 「あーあ、アッパーか、考えるねぇ。 で、なに、もしかしてリベリスタ君たちはこの糞みたいなのも助けに来た、とか言わないよね?」 「それは保留だ。今はお前の強化を止め来た」 『黄泉比良坂』逢坂 黄泉路(BNE003449)はデュランダルの死体の剣を己の鎌で受け止めながら首を振った。 だが内心、複雑である。少年の願いと、深鴇の行為。何が善で何が悪か? 黄泉路が興味あるのは神父の答えだ――だが、上空で深鴇の腕にぶらさがる神父を見ていても到底答えは決まっていそうだ。 「聖職者に手ぇ出しておいてただで済むと思うなよ化け物が!!」 「うるさいなぁ……で、悔い改めるの? 改めないの? イエス、オア、ノー?」 つい溜息を吐いた黄泉路――そしてその瞳で神父の深層心理に踏み込んだ。結果。 「深鴇、そいつは」 「解ってるよ、黄泉比良坂君、死刑宣告でしょ?」 深鴇の最優先事項は。 「神父の断罪磔刑ゲイム。かのイエス・キリストは十字に張り付けにされても叫び声ひとつあげなかったそうな、だっけ」 「あめ、やめ、ややややめえええたすけてくれえええ」 神父の眼は地上のリベリスタに向いていた。偶然見上げていたロマネと眼があった気がする。 「お、おまえ、か、金をやる、だから、た、たた、たす」 「今回は『罪の無い方』を守るのが務めですので」 ふい、とそっぽを向いたロマネを見て神父は絶望の淵を知った。 「アハハッ! 僕も彼女に嫌われてるかもだから同じだね、さて」 深鴇は腰についたポーチから五寸釘と錆びれたハンマーを取り出した。それを見た神父は冷や汗が止まらない。見ていた黄泉路もつい、眼をそらした。 「僕は死体処理人。死体を作って飾り付けるのが趣味。 君も十字に飾ってあげる、埋葬はしないよ、君の事、嫌いだからね。という訳でまず右手」 ガツンッ!!! 竜一が大剣を振り上げ、烈風陣を放てばソードミラージュは刺そうとあがっていた手が麻痺で動かない。 「左手」 ガツンッ!!! 葬識が麻痺で動かないそれに漆黒の瘴気をぶつける。ダストトゥダスト。ゴミはゴミ箱へ。ふとアッパーから外れた信者に、君もちょっきんするぞ★と脅せばマッハで逃げて行った。 「右足」 ガツンッ!!! ぐるぐが笑いながら死神へと影が連なる刃を落とす。深鴇のEX、知りたい、知りたい、衝動が止まらない。 「左足」 ガツンッ!!! 「ぎゃああああああああああああ」 黄泉路はロマネと同じく腐臭を狙った。目線は死神に、先日見た髑髏のそれ。何度見ても面白い。 「じゃ、サヨナラだね、喉」 ガツンッッ!!! 断罪の音が響く中、地上では戦火が滾る。まだ、彩香は諦めずに誘導を行っていた。早くしなければ深鴇が断罪ゲイムを終えて神気を撃ってくるだろうから。 「こっちにこい、異端者共!」 怒りを沸騰させる熱の籠った声を出しながら、彩香の心は早くと焦る。 「でもフィクサードらしいことはさせてもらうよ」 「あ!? 待ちなさっ」 使役された死神。それが一般人の間をなぞって、鎌を持って行く。その先、居た標的は彩香だ。 「私を狙うか!?」 「斬ったら繕うのが大変だからね、持ってかないでよクールマイペースちゃん? 毒で殺したい」 っていう趣味があるらしい。 彩香は今の行動を止める訳にはいかず、前進する。もっと奥へ、もっと深鴇が見えないところへ、死神より早く!! そして――。 「させまセン。作戦は忠実にこなすマス」 『攻勢ジェネラル』アンドレイ・ポポフキン(BNE004296)が彩香へ斬りかかる刃を己の肩で止めて見せた。噴き、弾ける鮮血。だがそれは溢れる闘志のあらわれと言えよう。 「今のうちデス、誘導ヲ」 「悪いわね、……ありがとう」 彩香はアンドレイを一瞬だけ見て、裏口の外へと消えた。それに続く信者達。 だが確かに信者の中には神父と同じように甘い汁を吸った男共も居るのだろう――ッチ、と一回舌打ちしたアンドレイ。 「大胆不敵痛快素敵超常識的且つ超衝撃的に勝利シマショウ」 死神の身体に、反撃の一手。アンドレイが脆く、腐ったデュランダルの足に向かって断頭将軍を奔らせた。 ● 死神、デュランダル。正面入り口ではソードミラージュ。近接の届かない上に深鴇が。 ソミラは葬識へ向かってナイフを一閃。それを寸前で避けた彼の頬に横一線の傷跡が入る。 だが葬識の目線は常に深鴇を見ていた。一般人も、死体も興味が無いのだ。反射的に戦闘するために身体は動いているものの、葬識にとって目の前のソミラは無いものと同じ。 「君に興味があるんだよね★ 俺様ちゃん!」 「僕も君が知りたいよ。アークに飼われて勿体ない、此方においでよ」 「ノーノー。俺様ちゃんは此処で満足することができるからね」 「そのアークの首輪、どうすれば壊せるか考えておくよ」 瞬間的に深鴇が神気閃光を放った。眩しい光に思わず目を伏せた竜一。そして回りを霞む視界で見た。うむ、深鴇がそれを撃つ前に綺麗に一般人は消え失せていたか良かった良かった。 さて、見上げた彼の眼には、聖母が描かれたステンドグラスの手前に掲げられた大きな十字架に神父を壁ドン!ならぬ十字ドン!させる深鴇の姿が見えた。 「深鴇、おまえの狙いはそいつだけだろ? ヒーローじゃん、子供の願いのためによ」 「まあまあ、合縁奇縁。それ以上言ったら駄目駄目ー。 ボクハイマ、テゴマガホシカッタンダケド、テゴマノモトヲ、リベリスタニカイシュウサレチャッタカラネー」 後半、かなり棒読み。なんだか調子が狂うと竜一は顔を斜めに傾けた。 フィクサードとしてはリベリスタが来ている以上、命は惜しい。信者を助け、あわよくば敵討伐を考えている者は少なくはないからだ。 そして死神が竜一の懐を鎌で斬り裂いた。だか入れ替わりでぐるぐが残影剣を振る。 「死神さん、死神さん、この死神さんがほしいな!」 「ええっ、ごめん、それ僕の友達だから!」 「友達になれる!? なおさらほしいかもー!!」 ぐるぐは再び葉を振った。返しで鎌が飛んできても振り上げた。 何度でも、何度でも、その鎌で身体を傷つけたとしても、その強欲は止まることを知らない。だから、ズタボロになるまで遊びつくして知りつくすから。その葉は死神を切り裂き、消滅させた。 「あれ、消えちゃったのら」 残念そうに、ぐるぐは次の標的をその眼に映す。 「日本人がカタコト言葉か? 深鴇」 「あはは」 ハイパーピンポイントでアンドレイが押さえるデュランダルごと死神を撃った碧衣。彼女は見上げた。 「虚言は好きか?」 「さておいて、下手って言われるね、ピンポイントちゃん」 「だが私達はやるべきことはやるぞ」 「承知の上だよ、可愛いね、嫁になる?」 再び碧衣は気糸を紡いだ、早くアンデットを倒し、早く深鴇の命を奪うために。そんな中、黄泉路は言った。 「深鴇、怒っているのか?」 「え……いや、胸糞悪いだけ、こいつのせいで」 十字の下には血の濁流。黄泉路はそれを踏みしめて見上げた。 「なんでフィクサードをしている」 「なんでリベリスタをしてんの」 「質問を質問で返すか?」 「ノーコメントっていうのはありかな?」 何故だろうか、黄泉路の心に疑問が残る。楽団に沸いた怒り――だが深鴇にはそれが沸かなかった。 操っているものの違いだろうか、それとも別の何かだろうか。それでいても死体達の攻撃は止まらない、更に死神が一体リベリスタの相手をする。 毒によってじわりと体力が減っていくリベリスタの中でも、ロマネだけはけろりとしていた。 それに、まるで生かされているように敵の攻撃かやってこない。不審に思ったロマネ。 「深鴇、貴方は私に何か言いたい事があるようですね」 「うん、まあ、同業者っぽいし、君超面白いし。いつか君のすべてを奪いたいかな」 さらりと述べられた言葉だがロマネの手は止まらなかった。ピンポイントで叩くのは腐臭の壁――一度でも外さない射撃を行っていたが、煙のようなものに攻撃してもダメージが入っているのかはいまいち手ごたえが微妙なところだ。 ● フィクサードである以上。黄泉ヶ辻である以上。そしてその崩れた趣味がある以上、放っておくことはできないの。 正義? 信者? そんなものより戦いを。 「Здравствуйте(こんにちは)死神とヤラ」 「聞き取れないよ、攻勢ジェネラル」 アンドレイはリベリスタ、深鴇はフィクサード。これで潰し合う理由はできるのだ。さあ、一秒でも多くの争いを。滾る血をどうか、どうか発散させておくれ。 振り上げた武器の獲物はデュランダル。火力勝負だ、この野郎。 アンドレイの足を切り裂く刃――機械部位の部品が飛び散り、赤色の液体が金属を染める。だが怯まない彼の断頭将軍が縦一文字にデュランダルを二つに分かつのだ。 さあ、次の戦いを。 「ハローハロー。遊んでー」 「はいはい、ハロー。歪君、やだよ僕、勘弁してよ、負ける勝負はしたくないよぅ」 「君を殺したら自分で自分をあやつれるのかなぁ? 試してみない? 今ならお試し期間、ノンコストで楽しめます☆」 「楽しみたくないです★」 自身には一切攻撃が届かないことを言いことに話相手に徹する深鴇。だが、彼のその顔も蒼白になる時間が来たようだ。 神父いないし、一般人いないし。もう居る意味無しだよね、さ、帰ろう。お気に入りまで壊された。怒らないよ、抵抗しても負けるもん。 そう深鴇が翼を広げ、ステンドグラスをぶっこわして帰ろうとしていたその時だった。 パァン!! 「え」 緑の霧が、まるで風船が弾けたような音と共に消え去ったのだ。それは腐臭死臭の撃破を意味していて。 ロマネが指をこちらに向けていた。いやはや、まさか狙い続けて倒したっていうのか、この壁を!! 「ほう、神父に気を取られ回復を止めていたのが不運か。なあ、深鴇?」 碧衣は見逃さなかった。即座に盾の無くしたホーリーメイガスに放った、超精密な光線。それは吸いこまれるように、深鴇の顔面を撃ち抜いた。 「ぃ、っだ!!!? はっ!?」 頭を押さえ、その手の指の間から見えたのは黄泉路のペインキラー。 「二度と、対面できないようにしたいんだがな」 今まで召喚された死神を相手にしてきたのが幸か、今こそ彼のペインキラーは最大限の威力を発揮できる力がある。加えて碧衣のショックが効いている今なら!! 「今日はさよならだ、深鴇」 「はっ、はぁ!? は、はハハハ!!! んぁっ!? が、がふっ」 まだ止まらない。 裏口から走ってきた彩香。一般人はアッパーの効力が切れたため彼女を追ってくる者は無し。見上げればさっきまでピンピンしていた敵はぜえぜえと荒い吐息をもらしていた。 「もしかして、チャンス?」 逃さない、この瞬間を。彩香は放つ――ピンポイントのヒカリ。 「俺様ちゃん、隙みーつけた★」 共に、軽い言葉と一緒に飛んできたのは重い暗黒。 「ん、んっ、あっ!?」 俺 様 ち ゃ ん ガクガク、身体が震えた。 怖い怖い。 恐怖とは生きているというのを実感させてくれる。 だから好きだ。 怖いのは黄泉ヶ辻京介。ゾクゾクするんだ。怖すぎて。 でもまた怖いものができた。 箱舟。 「……そのお気に入り死体、壊していいからさ。頼むから超帰りたい」 「駄目、逃がさないわよ」 追撃を構えたロマネ。もしここに翼の加護でもあったのなら、近接に長けた竜一やぐるぐ、アンドレイの一撃も加えれば、深鴇は完全に死亡していたかもしれない。 「これあげる」 チャリン。 深鴇が放り投げ、地面にバウンドして転がったのは、なけなしの5円玉。 「また会おうよ、リベリスタ。君達八人とは仲良くしたい」 御縁がありますよーに、なんてね。 ロマネの一撃が深鴇の胸を貫いた瞬間、割れたステンドグラスのわずかな隙間から倒れるように死神は姿を消した。 ● 教会には一般の警察関係者で埋もれていた。架空たる利益目的の宗教――もはや弁解の余地は無いが、大元のボスは十字の一部になって冷たくなっていて。 それを遠目に、リベリスタは帰路へとついた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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