●悲嘆の断末魔 「恐怖に駆られた人の感情って、素敵だと思わない? だってぇ、自分のことしか考えられなくなるのよ? 本能を曝け出して、ありのままの醜い姿に戻るの…… なりふり構わない、仮面を剥がれた人の醜い魂……」 娘は恍惚とした表情を浮かべる。 うっとりと、その頬を両手で覆いながら。 「音を選ぶの。この世で一番うつくしい音」 ハープの弦をかき鳴らして、かき鳴らして。 「あたし達の音色はうつくしいわ……」 「そして、おまえ達は、おまえ達の音は醜いの」 だから。おまえ達にはこれがお似合いよ、と。 娘は嘆きの魂を弾丸に、次々と虚空へ放つ。 ●宵闇ソロライブ ケイオス・“コンダクター”・カントーリオの『楽団』達が関わっているとみられる空恐ろしい事件の報が後を絶たない。楽団員は皆ネクロマンサーであると言われているが、詳しいことは知られていないのが現状だった。 ここにも、そんな死霊使いの娘が一人。 「『戦場アイドル』マリア。彼女もまた、『楽団』の一員です」 幾度この凄惨な事件を伝えてきたのだろう。『運命オペレーター』天原 和泉(nBNE000024)がリベリスタ達を前に、また新たな事件の説明を始める。 「彼女はハープ奏者で――死者の魂を武器としているようです」 しかし、彼女自身が戦いに関わっている様子はないのだという。 「一人で現れては演奏を行い、蘇らせた死者達を自身の『親衛隊』と呼んで配下とする。そんな状況を楽しんでいるのでしょう」 楽団員でありながらソロライブとは、随分と不思議な気もする。マリアは自身の演奏に絶対の自信を持っているようだ、と和泉は語った。羽目を外したいのか、こちらを侮っているのかはわからないが、態度はともかく油断のならない相手であることは確かだ。実力は未知数、ということだ。 「そして次は、生者を襲うことが予想されています。どうか、その前に」 命ある者を襲っている時の彼女は、軽口を叩いてこの状況を楽しんでいる様子だったが、その実死者の魂を何とも思わず、人々が恐怖に支配される様を見て醜いと罵り喜ぶ、そんな性格でもあるようだ。 「配下の死者は40人ほど。場所は空き地。残念ですが、この死者達に理性も知性も存在しません……あるのは、およそ耐えがたい苦しみと、手足を飛ばされても動き続けるしぶとさだけ」 これ以上の被害を、どうか食い止めて。そしてくれぐれも、気をつけて。 「んふふ! さあお人形さんたちぃ、あたしのために立ち上がって!」 死者は踊る。望まぬ旋律に操られて。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:綺麗 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年12月30日(日)22:09 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●闖入者達 魂の眠る場所に、響くは不似合いな凱歌。 高らかなハープの音色が、その正体を知る者には却って耳障りだった。 小鳥遊・茉莉(BNE002647)達リベリスタに託された任務は、死者達の殲滅。 (再びバロックナイツがこの日本にやってくるそうですが) 茉莉の脳裏に去来する敵は、死者を操り、自らの手勢と為す、ネクロマンサー。彼らの噂は否が応でも耳に入っていた。 (死者を操る様をオーケストラで演奏する様に例える、混沌楽団) そのうちの1人がこの度の相手と、ぼんやりと輪郭を成し始めたシルエットを見留める。浮かび上がる光は、死者のものだろうか……。 普段は穏やかで周囲を和ませる茉莉の瞳に、強い意志の光が宿っていた。 「この様な死者を嬲るような非道は看過できません。故に死者は在るべきところに還す」 ただそれだけのために戦います。人を人とも思わないようなその行いを、もう二度と起こさせない。 『シャドーストライカー』レイチェル・ガーネット(BNE002439)のスレンダーな体躯が、闇にとけてしまいそうな黒髪が、同じ色をした猫耳と尻尾が、月あかりを受けてわずかに影を揺らす。 「死人を操り、自らの観衆に……やってる事はアイドルというよりピエロですね」 そう、まるで滑稽。赤い瞳は表情を映さないけれど。 「どちらにしても、とても迷惑だ。死体達には悪いですが、まとめて排除させていただきます」 彼女の言葉が、恐らく今の彼女達にできる精一杯でもあった。 曰く、音楽家とは芸術家。 この手の人々は己の自己主張と美意識の為に、しばしば、普通を蹴り飛ばす厄介な人々が多い気がしますと、『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)は言う。しかし、目の前のそれは、到底理解や鑑賞の余地を有したものではない。 「音楽も芸術も楽しむ為には普通の中に余裕があってこそだと思うのですが」 常軌を逸したものになど、差し出す花束はない。 「どちらにせよ、他人を不幸にする代物は完全否定させて頂きましょうか」 純白赤眼の少年が啖呵を切る。 「音楽は好きだけどな、テメェのは大っ嫌いだ」 『デンジャラス・ラビット』ヘキサ・ティリテス(BNE003891)は嫌悪感を思いっきり露にしてそう言い放つ。 「所詮死者しか虜に出来ねぇ、クソッタレなレクイエムだぜ」 「あらあ、ボク達お客様かしら? うれしいわあ……」 さあ、あなたたち。ハープをなぞる指先が、薄気味悪く白い軌跡を描く。 「死体を兵隊に使うだなんて、いい趣味してるよねー」 小さな少女は、無邪気に感想を述べる。『狂獣』シャルラッハ・グルート(BNE003971)の声色は、そう言い放ちながらも昂りわずかにうわずっていた。 「殺られたら向こうの仲間入り、か」 「でもシャルは、死体なんかに殺されるつもりはないからね」 彼女の髪と同じく、あるいはそれよりも紅く。幾人の血で染められただろう。彼女のチェーンソー『バルバロッサ』が、ぬらりと光った。それがあの娘の青白い頬や指とは対照的に見えて。 「そんなに死に切れないなら、二度と復活出来ないくらいにズタズタに斬り刻んであげるよ♪」 滾る闘争心が、滲んで溢れた。 「ああお客サン、お静かに。これでどうか、ね?」 娘は唇に立てた指を当て、ちゅ、と投げてみせる。 「アイドル気取りにしては、取り巻きが随分悪趣味だな」 寒々しい娘の振る舞いをも意に介さず。『燻る灰』御津代 鉅(BNE001657)は淡々と語る。一般人が近づいてくるようなことが起これば、一気にかかる手が増える。彼の施した強力な結界によって、いよいよこの舞台上にはリベリスタ達と彼女、そして死体達のみとなった。 「悪いがおひねりをはずむ気にはなれん。売れそうにないからとっとと帰れ」 鉅のにべもない言い方に、つれないわねえ、と娘が白い息を吐く。 「ついでにボスも連れて行ってくれると有難いんだがな」 その言葉には答えず、娘はにんまりと笑った。 「今にあなた達、アンコールがほしくて仕方なくなるんだから!」 案の定、か。 (……まあそうはいきそうにもないし、今回も力技で叩き出すことになるか) 「自分の操り糸で動かしている人形にしか崇拝されないだなんて、いくらアイドルの語源が偶像とはいえ虚しすぎる光景ですね」 そこには何もない。アイドルの言葉が言外に持つきらめきも、ときめきも、何も、何ひとつない。 「そんな死体達より、私達の方がある意味貴女のために立ち上がれる存在だと思いますよ?」 『ライトニング・フェミニーヌ』大御堂 彩花(BNE000609)が豪放磊落に娘へ言葉を投げつける。娘の視線が自分に向くのを感じながら、臆することなく続ける。 「貴女の起こす事件を始末するためにわざわざ命を賭してこんな場所まで来ているんですから」 できるかしら、と娘は嘲笑った。それでも彩花は凛として揺るがない。 「もっともその崇拝もあまり長くは続かないでしょうけど。可哀想な偶像を片付けてあげたところでこの偶像崇拝宗教はおしまいです」 ぴくりと娘の眉が動くのを、彩花は見逃さなかった。 「そうねえ、そんなに言うなら……よろしくってよ。今におまえ達も、あたしの前にひれふして怯えて泣くようになるんだから!」 あははははは、と娘は笑う。 「おかしい、おかしいわあ! キレイゴトも何もかも、どうせ死ぬ間際にはかなぐり捨てるっていうのにぃ! 醜い平民風情がよくもそんな口を聞けたものだわねぇ!」 「……アイドルが、聞いて呆れますわね」 豹変した彼女に彩花が贈った言葉は、笑い声に呑まれて消えた。 恐怖に平臥せと。醜い魂の『ほんとう』の姿を晒せ、晒せと娘は笑う。 拘りのある一点を除いては、常々細かな物事には頓着しない『LowGear』フラウ・リード(BNE003909)。言葉こそ紡ぐことはなかったが、フラウは全身全霊をもってそれを否定できた。 (……恐怖に駆られた人の感情っすか) 確かに醜い事もあるだろうさ。彼女の云わんとするところのすべてを間違いと言えないのは、フラウも知っていた。けれど、それ以上に尊いものを、経験したから。これだけは胸を張って言える。 (だがソレだけじゃねーって事をうちは知ってる) 恐怖に負けそうにながらも必死になって、歯を食い縛りながら立ち向かう姿は、何よりも美しかったから。 ●踊れや舞えやの人形劇 「……御託はもうよろしいかしらぁ? あたし、あんまりおまえ達の話がつまらないから、ねむたくなってきちゃって」 ふわあ、と娘は目の端に涙をこぼす。 ああ、もう、話なんて十分だ。 「さあ、かかってこいよっ!」 叫ぶが早いか、白兎は飛び出す。脱兎のごとくと称されるそれよりももっと速く、目にも留まらぬ速さで敵陣へ蹴り込むはヘキサ。右足に純白のショートブーツ『シルヴァームーン』を纏い、白銀の疾風が駆け抜けていく。聞こえるのは呻き声ばかりの死者達の精神を揺さぶることは困難だったが、それも想定の内。ならばと高められた力を偶像に向ける。 (なんとしてもオレに引き付けてやる……!) 「あたし、うさぎちゃんはきらいじゃないけどぉ」 細めた目が、きっと見開かれる。 「近寄らないでよっ! 下衆がっ!」 「おっと――どちらへ?」 二人の間へすいっと割って入ったのは、速さを高めたフラウ。 「攻撃したら攻撃したで面倒で、放置してたら好き放題やらかすってーと、本当に厄介なことこの上ないっすね」 めんどくさい女はモテないっすよ、と放つフラウに、きぃ、と耳を覆いたくなるような音と共に鈍くおぼろげな光球がいくつもぶつかる。腹部を穿つ疼痛は重くて、それでも屈したりなんかするものか。フラウは飄々と挨拶してみせた。 「御機嫌よう、戦場アイドル。ライブのチケットは必要だったっすか? ……要求されても渡せるものなんて何も無いっすけどね」 ひらひらと振って見せた手に、一筋の血が流れた。 (なんてこと……まるで無茶苦茶です) 作戦だとか方針だとか、そういったものとはまるで無縁なマリアの『親衛隊』。気まぐれで怒りっぽい彼女を体現するような死者の軍勢は、レイチェルの明晰な頭脳が勿体ないくらい、膂力に任せた乱暴なやり方で攻めてきていて。それは同時に、そのやり方に絶対の自信があるから。ならばと戦況を鑑みては的確に指示を飛ばしていく。 「大丈夫ですか」 「かたじけねーっす」 レイチェルの呼びかけに答えて、天上の存在が福音を響かせ、ヘキサやフラウの傷を癒していく。 「汚い手で触らないでと、あたしそう言わなかったかしら」 瞳に侮蔑の色を滲ませて、マリアは鉅を横目で睨みつける。死体達を引き付けるという初動の結果は思ったほどではなかったが、その時の対処を考えていたことと、戦況を見つめる者がいたことが、鉅が動くタイミングを生んだ。死体達はある程度ヘキサに向かっている。ならばその脇をつく! 「……ねえ、アイドルはおさわり禁止なの、おニイさん♪」 手の内を探ろうとする鉅の眼前を、淡色の光波が薙いでいく。あたたかさを感じない光。死体を操るからくりこそわからなかったが、手を出すには慎重にならなければならない相手だということは、今の反応で十二分に掴めた。元より何か分かれば儲けものという程度のものだと、鉅は速やかに次の手を打つ。 「まだですっ! 決して手を緩めないで!」 仲間達にそう警告した彩花自身、愛用の格闘用ガントレット『雷牙』を存分に振るう。堅牢さと柔軟さを併せ持つその性質の如くしなやかに、象牙色の残像が骨を地に叩き伏せる。微塵と化すまで手を止めず、気を緩めないこと。並大抵の相手ではないのなら、完膚なきまで叩き潰すのみ! (アイドルなんて柄ではありませんけど) 骨砕ける音がむせび泣くように啼いた後に立ち上がった彩花は、王者の風格を纏いてマリアを見据えた。計算通り、彼女の瞳の憎悪の色が濃くなっていくのが見て取れる。 「私の実力、とくと御覧なさい!」 ある程度敵の一群はヘキサと彩花に集中していたが、漏れも生まれる。いくつもの魔方陣の中心に居る茉莉に、爆発的な魔力が流れ込む。 「数の暴力に、女性に対しても躊躇ないその乱暴さ。……でも」 おひとりでしたら関係ないのですよ、と、茉莉の血液が実体化した黒鎖が自由自在に相手をからめとる。黒の葬操曲の濁流が死者の一人を呑み込み、包み込み、その中に溺れさせていく。 「さあ……こちらです」 着実に死者の数を減らしていくことを意識しながらも、死者をこちらへ誘導することも試みる。明確な意思や思考力を持たぬ相手でも、反撃を心得ている以上、物理的な打撃への反応ははっきりしていた。より多くを、茉莉の手の内へ。 シャルラッハの全身に、破壊的な闘気が滾っていく。 「本当の戦場の音楽ってのを聴かせてあげるよ」 シャルラッハの咆哮に応えるように、『バルバロッサ』がけたたましく蛮勇の金属音を上げる。心無しかその唸りは嬉しそうにさえ聞こえた。弱った獲物を本能のままに狩る獣のように、戦場に心躍らせて。輝くオーラと共に降り注ぐやむことのない攻撃、金属が骨に触れ放つ音が、砕け散る何かが、彼女の心に火をつける。 「肉を断つ音、骨の軋む音、苦痛に耐えられずに上げる叫び声」 「周囲に響き渡る激しい剣戟……この全てが戦場の音楽だよね」 ああ、今、全身の血が沸騰するくらいに興奮してる。高揚感を抑え切れなくなって、シャルラッハはバルバロッサの引き裂いた死体を握りしめたまま、天を仰ぎ歌うように叫ぶ。 「ここにいると、生を実感出来るから好きなんだ」 「相手が死者だろうが関係ないよ。どのみちシャルが殺すだけだから♪……最初から死んでるけどね」 「偶像殿は独り善がりが顕著ですね」 アラストールはまさしく沈まぬ戦艦の様相を呈していた。全身をもって、癒し手であるレイチェルの盾となる。すべての力を守ることに集中させ、凛々しくかばい立つ。 「何度来ようとも、私が倒れぬ限り無駄です」 「ああ、そちらのお嬢さん? そんな野暮なこと考えちゃって……」 いい? 癒し手は、あたしひとりでいいの。醜いおまえ達に下す手なんて、ほんとうはなかったのだけれど――。 マリアの悪戯めいたちょっかいにも、アラストールが神々しい光を放ちその邪気を退けて対処していた。 「偶像殿に目が眩む私達ではありませんから……」 ●途切れた糸の先 戦況は拮抗していたかに思えた。マリアに手を出したことで負った参戦のリスク、そして戦意を喪失することのない相手。あらゆる事態を想定し、備えてはいたものの、長引けば長引くほど、リベリスタ達は消耗しつつあった。 最も長期化の影響を顕著に受けていたのはヘキサだったが、少年の瞳は曇らない。死者達に囲まれながら、演奏に合わせ流麗に踊る。ワンツーステップで闇夜を切り裂く半円描いて、踊れ踊れ。 「ウサギのバックダンサーってな! さ、オレと踊ろうぜ?」 差し伸べた手は死者を避け、宙を舞った勢いで蹴り落とす! また一方では、彩花が麗しくも強かで、威厳さえ感じさせる舞の如き戦いを繰り広げていた。黒髪がふわり舞って、風を抱いてなびく。疾風迅雷の武舞で 死者の観客達と共にダンスと洒落込もうじゃないか。 「これでは元が誰の為のライブだか分かりませんね?」 「そういうこと! ワリィな、オレの方が目立っちまってよ!」 刹那、禍々しい光が弾け、骨片が硝子の破片のように飛び散った。 「ねえ、おまえのその醜い喉、かっ切られたくてぇ?」 骨を梳ったような、あるいはハープのそれにも似たマリアの凶刃がヘキサに触れる。致命的な一撃を逃れさせたのは、敢えて一歩引いた視点で戦場を見据えていた鉅の気糸だった。 「どういう手札を持っていようと、札を切らせなければ問題はない」 意志持つ影を連れた鉅が、マリアの凶器を縛る。 「寝てるヒマなんか、ねーんだよ……ッ!!」 運命の加護を受けて、白兎は再び踊り出す。 「倒れちまえば、その分誰かが傷つくからな…!」 黄泉も蹴飛ばして来世へ送りかねない勢いで、蹴って、蹴って。 「オレが守りの要だからな、オレが居る限り傷一つ付けさせねー気だぜ? 一般人も、仲間も、ぜってーオレが守る!」 すかさずレイチェルの癒しが訪れる。前に立ってくれているアラストールと共に、彼女もまたじりじりと前進していた。隙あらば漆黒のクリス『Wryneck』を携え、捕縛による撹乱も試みる。 「崩します、狙ってください!」 「窮地ほどに、人の本性は出る訳ですが、今まで恐怖以外の行動をした人間も居たのではないですか?」 問いかけたアラストールと同じ、一点の曇りも許さぬ輝きを放つ武器。膂力が爆ぜた。守られるだけではない、厳然たる意志を秘めたレイチェルの光が、それに添うように死者達を焼き払っていく。 「逃してはまた同じ事になる、多少無理してでもここで殺す……!」 「ああ……下衆風情が調子に乗って……醜いわ、どうせ懇願するのでしょう、他者を売るのでしょう? その歪んだ魂の器のくせに……」 「――っ!」 (――もし醜いというのなら) (今のアンタがうちにとっては何よりも醜い) 吐き出されそうになった言葉は無理矢理飲み込んで。フラウはただ、黙したまま残像を描く剣で死者を屠っていく。 ハープに似つかわしくないほどに、荒々しい音色がかき鳴らされる。 「そのハープの音色だけはちょっと場違いかな。何か自分に酔ってるだけみたいで、ちょっと耳障りなんだよね」 シャルラッハが鬱陶しげに顔を顰めて、ぎりぎりと敵を打ち砕く。 「とにかく、いつまでも死体と戯れる趣味はないからとっとと終わらせるよ」 だって、こんなのって、ねえ? 「魂がなければただの肉の塊でしかないからね。そんなのにシャルの命をあげる事は出来ないよ!」 地を裂くような気合と共に、シャルラッハの全身が跳ねた。刹那、彼女の細い体を覆い尽くすような闘気が爆裂した。 「マグメイガスの技は多を相手するのに適していますから」 茉莉はあくまでも冷静だった。時折定点に魔炎を召喚し、死出の餞としながら、複数を捉えて葬っていく。高速で詠唱を終えては自らを癒し、また矢継ぎ早に、惜しみなくその魔力を降らせていく。ようやくその半数が片付いたかに思えた。 「ああああああ! もういい、もういいわ! くだらない、つまらないわ!」 突如、ヒステリックに娘は叫び声をあげた。 手勢を削られたことへの怒りか、自身が中心でいられないことへの怒りか? 逃走を予期していた鉅が投げつけたダガーを乱暴に死体で防ぐと、マリアはリベリスタ達に背を向けて歩き出した。追おうとする気配を、手で制止する。 去り行く背中に、思い思いの言葉をつぶやく。 「ただの楽団員ひとりでこの脅威か……。まったく、厄介ですね……」 レイチェルの言葉も当然だった。このふざけた劇は、これからどう展開していくのだろう? 「にしても哀れなモンだぜ……」 ヘキサがぽつりとこぼす。 「ちやほやされたいだとか、親衛隊を作っただとか、無理やり操ったサクラばかりじゃねーか」 「結局お前は一人ぼっちでしかねーんだ。……ホント可哀想だぜ、お前」 聞こえているのか、いないのか。 フラウはそれ以上マリアに言葉をかけることをしなかった。心の中で、そっと囁く。 ――本当に仮面を被っていた人は、だあれ? |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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