●クレッシェンド 「身を失い、それでもこの世界へと心の鎖によって繋ぎ止められしものたちよ」 「君達は僕たちの手によって、正しい音色に生まれ変わる」 ヴァイオリンを手にした少年と少女が、重ねるように言葉を紡いだ。 年の頃は十代半ばか、或いは少し不足するくらいか。 月明かりに照らされたその場所は、かつて戦いが行われた場所だった。 今もどこか重い空気を漂わせつつも、面影を留めぬその場所に……寒気を裂くように、高い音色が響き渡る。 冷たさの為か……澄み切ったように感じられる空気に馴染むように、澄んだ音色が交じり合って…… それに、呻くような声が混ざり始めた。 どこか濁ったような白さを持った、濃い霧のようなものが、次々と……人影のような姿を取りながら、2人の周囲に現れ始める。 「生きていた頃の侭、って訳にはいかないわね」 「普通に死体の方が……良かったんじゃ……?」 「争いを知らない只の人よりはマシ。そうじゃない? ピアニー?」 「それは、今後のフォルテ次第だと思う……」 言葉を交わし合いながらも演奏は続き、影たちは数を増していく。 「貴方達に眠りは許されない」 「さあ、世界に絶望の悲鳴を、怨嗟の音色を響かせて」 絶えざる痛みに……もがき苦しみでもするかのように。 現れた白い影たちは吼え、呻き声をあげる。 それを伴奏とするかのように2人は其々の楽器を奏で、絶叫に2つの音色を添え続ける。 「アークの人たちは来るのかしら?」 「きっと、必ず。来ると思うよ?」 「もしかしてもう、見ているのかしら?」 「見えているかも知れないね?」 「なら、招待状を贈りましょう」 レクイエムへの、招待状。 「私の名前は、フォルテッシモ」 「僕の名前は、ピアニッシモ」 「「どうかどうか、お見知りおきを」」 ●まつろわさるる、終わりし者共 「ケイオス・“コンダクター”・カントーリオ指揮下の楽団員たちの出現が感知されました」 マルガレーテ・マクスウェル(nBNE000216)はそう言って端末を操作し、スクリーンに画像を表示させた。 そこは、人気の無い……何もない、野原。 「……古戦場跡らしいんです」 そこに、2人の楽団員が現れる。 「ずっと昔の事ですし、もちろん遺体なんて残ってはいません。ですが、消えずに残っている思念や怨念があるみたいで……」 それを楽団員たちは亡霊に、アンデッドにしようとするらしい。 「急いでも、相手に先んじる事はできません……」 感知するのが遅れてしまいすみません、と。マルガレーテは悔しそうに口にした。 「皆さんが到着した時点で、既に複数体の亡霊たちが創り出されていると思います」 だからこそ目的は、敵のそれ以上の戦力増強を防ぐ事、敵を撤退させる事となる。 「もちろん倒せれば最良ですが、敵もそれを警戒してアンデッドの幾体かに自分たちを守らせたりしているようですし……難しいと思います」 無理に楽団員たちを倒そうとすれば、本来の目的すら達成できなくなる可能性もある。 そうでなくとも失敗の可能性はあるのだ。 それだけの力を持った敵、という事である。 「現れる楽団のメンバーは2人となります」 双子らしい男の子と女の子。 ピアニー、フォルテと互いを呼び合う銀髪碧眼の双子は、共にヴァイオリンの形状をしたアーティファクトを所持しており、それを用いて演奏を行いながら周囲の怨念や残留思念などを纏め上げ、アンデッドを創り出す。 その亡霊たちを操って戦闘を行うようだ。 「2人がどのような力を持っているかは分かりませんが、少なくとも今回は自身で直接戦闘を行おうとはしません。2人ともアンデッドたちを操る事と戦わせる事に専念してきます」 亡霊たちは既に知性や判断力等は失ってしまっているだろうが、2人が操っている以上その戦い方には充分に注意しなければならないだろう。 「2人が亡霊たちを創り出そうとする平原は、周囲に障害物等の無い見通し良い場所です」 夜ではあるが幸い空は晴れ、月明かりが周囲を照らしている。 急いで向かえば発見が遅れて敵の戦力が増大するという事態は避けられる。 もっとも敵からも容易に発見される以上、奇襲等はほぼ不可能だろう。 数に勝る敵と、見通しの良い開けた場で戦う。 個々の戦力で考えるならば、リベリスタたちは亡霊たちを上回っているだろう。 だが、総合戦力で考えれば? まして敵の戦力は戦いながら増加してゆくのだ。 楽団員たちが亡霊を創り出す限り。 「……厳しい戦いになると思います。ですが、絶対に放置しておく訳にはいきません」 マルガレーテはそう言って、リベリスタたちを見回した。 「どうか、充分にお気をつけて」 そして…… 無理矢理に続けられようとする物語に、終止符を。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:メロス | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年12月08日(土)23:51 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●呼ばれし者共 「戦い敗れ眠りについた方をまた戦いに駆り出すなんて、無粋ですね」 雪白 桐(BNE000185)の呟きに『白月抱き微睡む白猫』二階堂 杏子(BNE000447)は首肯してみせた。 (既に亡き者を駒として使うのは容認できませんわ) 「死者は手厚く弔い、そして眠らせるものですから」 その言葉に『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330)も同意を示す。 (死者の魂を弄ぶネクロマンサーですか) 「眠っているものを起すものではありません」 誰かに語りかけでもするかのように、凛子は呟いた。 それは良きにしろ、悪しきにしろ……行われるべき事ではないのだ。 「我が信仰に則り」 灰は灰に 死者は死者へ 「それに私はフィクサードなど大嫌いですから」 ケイオスの楽団員であろうと、全力でお相手するだけ。 「さぁ、参りましょう……」 凛子と杏子は頷き合う。 リベリスタたちは戦場へと到着していた。 遅れればそれだけ敵の戦力が強化されるのである。 急ぐ必要があったのだ。 (……ったく、海の向こうからご苦労なことだよ) 「わたしたちに負けないヒマ人なのね」 軽く息を整えつつ『ならず』曳馬野・涼子(BNE003471)はフィクサードたち、ケイオスの楽団員たちへと皮肉を効かせた言葉を送る。 「うだつの上がらない芸人がぞろぞろと、準備に余念が無いな?」 『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)の言葉は更に痛烈だった。 「絶望に怨嗟とありきたりの演目で、喝采を得ようなど思い上がりも甚だしい」 そう言ってから少女は、ああ、と……今、気が付いたと言わんばかりに付け加えた。 「出落ちのコメディアンなら及第点。精々派手に転んで笑いを取るがいい」 「……不愉快な女ね」 「落ち着きなよ、フォルテ? 彼女含めて、何人か名が通ってる人がいる」 「へえ……そうなの」 怒気の内に好奇心も漂わせながら、少女は視線をリベリスタたちに向けた。 死者を操る、ネクロマンサー。 (欧州はイタリアに勢力を張るバロックナイツの尖兵というわけですか) 「この日本もまた騒がしくなりそうですね」 聞こえぬように小さく、『デモンスリンガー』劉・星龍(BNE002481)は呟く。 (ですが、その敵を挫くことこそ、私たちに求められていること) まずは序盤戦。 「敵の実力を知る意味でもこの戦いは重要ですね」 「交戦して解ったが、こいつら数の暴力の一言で片付けられる温い相手じゃねぇ」 既に楽団員との戦いを経験している『墓掘』ランディ・益母(BNE001403)が、思い返すように口にする。 「単純な死体だけでなく亡霊をも操るのですね」 『銀騎士』ノエル・ファイニング(BNE003301)は呟きつつ、極限まで装飾を排した白銀の騎士槍を構えた。 (ネクロマンシーの底は見えませんが……さりとてここで易々と敗れるつもりもありません) 「では、参りましょう」 リベリスタたちは一斉に動き、楽団員たちもヴァイオリンに弓を添える。 そして、戦いは始まった。 ●序曲の始まり 音で敵味方の位置を確認し、孤立に注意して。 「さて、踊ろうか?」 体勢を崩さぬように低く飛びながら、ユーヌは出来るだけ周囲を見渡せるように位置を取る。 「聞くに耐えない雑音でも、リズムぐらいは取れるだろう?」 少女は大型の亡霊1体に狙いを定めると、その周囲の空間に呪いの印を描き出した。 印は亡霊を幾重にも包み込み、呪いの力によってその動きを封じこむ。 凛子が素早く皆に翼の加護を施す一方、涼子は注意深く敵の動きを観察した。 亡霊たちは数体が楽団員たちの付近に留まり、残りはリベリスタたちの動きを阻害するように……包囲をするように移動しつつある。 それを見た涼子は味方後衛の守りを優先し、凛子が危ない時に庇えるようにと意識しつつ位置を取った。 敵との距離があるため、先ずはと早撃ちで1体を狙う。 杏子は孤立に注意し後衛同士極力固まるようにして位置を取った。 「――私は自分の出来る事を、仕事を全うするだけですわ」 そのまま自分を中心に複数の魔方陣を展開する事で、爆発的に魔力を増大させる。 桐は暗視と集音の能力で周囲を確認しつつ大きな亡霊の1体、ユーヌとは別の個体へと狙いを定めた。 距離を詰めながら肉体のリミッターを解除する。 「連中戦略的な動きもとってくるぞ!」 ランディは警戒を呼び掛けつつ、味方の位置を確認した。 最優先は孤立を防ぐ事である。 とはいえ敵の数を減らすことも考えるならば、完全に固まる訳にもいかない。 目見当で5m程度を意識しつつ踏み込むと、彼は傷付いたグレイヴディガーを振るって烈風で亡霊たちを薙ぎ払う。 星龍は楽団員たちの位置を確認しつつ、集中力を極限まで高める事で動体視力を強化する。 「残留思念というのも凄いものですね」 (遥かな時を経ても、こうして操り、手駒と出来る程度には残るとは) ノエルもランディと同じく先ずは数を減らす事を優先し、Convictioを手に踏み出した。 「……もう一度、あちらへ帰して差し上げましょう」 軽やかな足取りながらも、そこから連続で放たれる刺突は……鋭く、重い。 もっとも、貫かれた亡霊たちは呻き声を発しつつも、動きを止めなかった。 不気味な叫びを発しながら、靄のような腕を掲げながら……亡霊たちが8人に襲いかかった。 ●暗中模索、探り合い まずは実力を確認するという事なのだろうか? 動ける亡霊たちは怨嗟の声で、具現化させた腕を振るって、全員に攻撃を仕掛けてきた。 ほぼ同時に、楽団員たちの傍らに新たな1体が姿を現す。 亡霊たちの攻撃は強力とまでは言えないものの、数が重なれば充分に脅威と言えるだけの威力をもっていた。 加えて大型の亡霊たちがいる。 狙われたのがノエル、そして対峙していた桐であった為に大事には至らなかったが、その力は他の亡霊たちを大きく上回っていた。 ユーヌによって1体が呪縛されていたのは幸いだったと言える。 だが、その1体も縛を振りほどき動きを取り戻そうとする。 「舞台に凝るのはいいが、置物並べてご満悦とは」 それを封じるべく、ユーヌは再び印を結んだ。 亡霊の周囲に再び呪いの印が描かれ、その動きを封じこむ。 「積み木の玩具なら微笑ましいのにな?」 挑発するように呟くユーヌに、少女が鋭い視線を向けた。 もっとも、ユーヌとて余裕は無い。 手が空けば呪いの雨で攻撃をと考えていたものの、大型の亡霊の縛を解こうとする力は強力だった。 他の亡霊たちも動きを取り戻し、あるいは流れる血や体液を止めながら動き続ける。 周囲の魔力を取り込んだ凛子は、戦線を支える為に即座に回復に専念する事となった。 その近くに位置しながら、後衛たちを巻き込まぬようにと意識しながら、涼子は亡霊たちを攻撃する。 できるだけ多くの亡霊たちを攻撃できるように。 荒れ狂うオロチのように周囲の亡霊たちに襲い掛かりながらも、彼女は心の片隅に常に後衛たちへの意識を留め置いた。 「さぁ。黒き音楽と共に美しく踊ってくださいませね」 杏子は詠唱によって魔力を溜める事で自らの血を黒の鎖として具現化させる。 濁流の如く放たれた黒鎖が亡霊たちへと命中し、その身を傷付け、絡み付き、呑み込んでゆく。 錬気をもってしても消耗の激しい術式ではあるものの、力を溜める必要がある事で杏子の消耗は少しではあるものの軽減された。 精度に関して心配していたものの、幸い亡霊たちに対しては充分なようである。 もっとも、それだけの攻撃を受けながら亡霊たちは消滅していないというのも事実だ。 大型の1体を渾身の一撃で吹き飛ばした桐がそのまま距離を詰めた。 エネルギーを武器にのみ集束させた一閃から、全身の闘気を爆発させての全力攻撃へと能力を変更する。 「また痛みを与えるのは心苦しいですが、倒させてもらいますね」 爆裂する一撃が亡霊の霧のような体を揺るがせ、不気味な叫びが周囲に響く。 残った1体にランディが距離を詰め、付近にいた亡霊を巻き込むようにして烈風で薙ぎ払う。 星龍は銃弾へと魔力を注ぎ込み業火を帯びさせると、射程内のすべての亡霊を狙っての一斉掃射を開始した。 続くノエルの騎士槍の一撃を受け、2体が形を保ち切れずに霧散する。 もっとも、その事に気を緩める者など一人もいない。 1体の亡霊が生み出される中、ヴァイオリンの響きは一瞬だけ変わり亡霊たちはその標的を凛子に定めた。 多くの個体は接近できない。 だが、近付ける少数は腕を振り上げ、近付けずとも狙える者は怨嗟の叫びを、呪うような声を、彼女へと向ける。 その亡者たちの呪詛から凛子を庇うように、涼子は傍らに位置を取った。 総攻撃力は落ちる事になるが、彼女を失えばチームそのものが早々に戦闘能力を喪失する事になる。 「……其処で大人しくしていて下さいな」 杏子も気の糸で作りだした罠で、1体を拘束する事で凛子への集中攻撃を妨害する。 「鬼さんこちら手のなる方へ」 演奏に合わない拍子を取りながら、ユーヌは亡霊たちの攻撃や浸透を妨害しようとする。 「……こういう点では死体の方が便利だったんじゃない?」 「確かに、その点は面倒ね」 呟きながら響かす音色に、また異なる旋律を感じたような気がして、ユーヌは仲間たちへと警戒を呼びかける。 亡霊の動きをしっかり見て、怨嗟の声に怯まぬように意識を強く持とうと心掛けながら。 凛子は詠唱によって癒しの息吹を具現化させ続けた。 それでも……回復は追い付かず、ダメージは徐々に蓄積されていく。 戦況は膠着しているかに見えた。 だがそれは……張り詰めた糸のようなものである。 限界となれば、一瞬で千切れ……終局に向かう危険を秘めていた。 ●旋律と、戦慄と もし桐に高い再生能力が無ければ、既にリベリスタ達の前衛の一角は切り崩されていた事だろう。 序盤から大型の1体を受け持っていた彼の受けたダメージは特に大きかった。 もっとも、逆を言えばそれだけ彼の攻撃も大型の亡霊に叩き込まれているのである。 それでも……形を崩しかけ揺るがせながらも、亡霊たちはリベリスタたちを襲う。 とはいえその数は……僅かではあるものの、減じていた。 勿論それ以上の数の亡霊が新たに生み出されている。 つまりは8人は、それだけの数の亡霊を討ち滅ぼしているのだ。 攻撃に加わらず周囲から何かを……怨念らしきものを取り込もうとする亡霊を確認した幾人かが、声をかけ合う。 杏子の放った四色の魔光を受け、1体の亡霊が形を崩す。 だが、亡霊たちの攻撃を受け……ボロボロになりながら凛子を庇い続けた涼子に、ついに限界が訪れた。 凛子を容易には倒せないと判断したのか亡霊たちの攻撃は後衛たちを主体としたものへ変化していたのが、それでも常に数体からの攻撃に曝されたのである。 涼子は運命を手繰り寄せる事で、折れかけた膝に無理矢理に力を籠める。 桐は後衛たちに近付かせぬようにと大型の1体を抑え続け、ランディは烈風で亡霊たちを薙ぎ払いながら危険な状況の仲間には防御に専念するように警告した。 「どうしようも無いほど囲まれたら無理せず守れ! 数の差で各個撃破されちゃあ保たねぇぞ」 回復が間に合わない味方は何とか庇おうとするものの……彼の身は、残念ながらひとつしかない。 耐え切れず膝をついた星龍は、運命の加護を得て立ち上がった。 「死者を再び安寧の眠りにつかせるためにも……」 ワンオブサウザンドの照準を再び亡霊たちへと向け、無数の光弾を発射する。 ノエルも戦いながら、敵の動きに気を配った。 大型の亡霊の生れ方は、これまでの戦闘で大凡推測できている。 怨念を周囲から吸収しきる前に倒すことさえできれば良いのだ。 それ以外の、双子の演奏などについても予測ができないかと彼女は考えていた。 実際、戦闘中幾度となく2人は音色や調子を変化させ、それらによって亡霊たちの作戦に変化が現れたと感じられる場面も存在したのである。 勿論、簡単に推測できる類のものではないが。 とはいえ音色からは読めずとも、戦術的には双子達の作戦をリベリスタたちはある程度まで把握できていた。 耐久力に劣る者、後衛たちへの攻撃の集中である。 単純ではあるが、対処は難しかった。 前衛たちが庇う事に専念すれば、今度は攻撃力の方が不足してしまう。 ユーヌの方も大型への牽制で他の亡霊たちに手が回らない事も多かった。 無理に引き付けようとすれば、自由になった大型が猛威を振るう。 それによって彼女自身が危機に陥る事態も発生したのである。 張り詰めた状態は更に続く。 だが……リベリスタたちは、確実に消耗しつつあった。 1人を除いた皆が……力の限界に近付いていたのである。 ●第一楽章、終曲 「簡単にはやらせませんよ」 聖神の息吹を使い続けながらも凛子は消耗する事無く、仲間たちを癒し続けた。 マナのコントロールに加え、周囲のエネルギーを取り込み錬成する技術に特化した彼女だからこそ可能な技である。 癒しの力を揮いながらも、凛子は双子の演奏者たちの動きに注意を払っていた。 彼女もノエルと同じように音色やリズムが亡霊たちを操る事に関係していないかと考えたのである。 もしそれを乱す事が出来れば、敵の動きを乱す事もできるのでは? そう考えはしたものの、2人は多少の干渉など意にも介さなかった。 亡霊たちに庇われている以上、直接の干渉は難しい。 「あなた達は力をもったばかりにこのようなことをするのですか?」 呻きに掻き消されぬよう、凛子は強い問いを発した。 2人の力は能力なのか、アーティファクトに依るものなのか? 「「私たちは、力を欲した」」 「これ以上、奪わせない為に」「これ以上、穢させない為に」 「「そして、力を手に入れた」」 言葉と共に音色が激しさを増し、亡霊たちの叫びが……冬の寒気とは異なる寒気が、リベリスタたちに襲い掛かる。 「うるさい、って言ってるんだ」 (悲鳴なんて、生きてるひとの分だけだって多すぎる) 「だまって眠らせろ」 凛子を庇いながら涼子が叫ぶ。 組み上げた魔方陣が消失したのを確認しても杏子はそのまま属性の異なる魔術を組み上げて亡霊たちを攻撃し、桐も運命の加護でかろうじて意識を繋ぎながら大型の1体を攻撃し続けた。 一方でランディは仲間を庇うのに専念するような形になってしまう。 それでも耐え切れず、星龍が戦線を離脱した。 凛子を庇い続けていた涼子も倒れ、攻撃に曝された凛子は運命の加護を手繰り寄せる。 「生も死も私にとっては共に愛おしい」 詠唱によって高位存在の意思を読み取り、具現化させ……癒しの息吹が仲間たちを包んだ。 「だから、こそ冒涜するような事を許すわけには参りません!」 それでも、限界が足早に歩み寄ってくる。 ダメージの蓄積によって形を崩していた3体が、ノエルの刺突で消失した。 だが、それ以降彼女は狙われる凛子を庇う為に……攻撃を中断せざるを得なかった。 何とかチームの殲滅力を維持しようと、ランディは加護によって攻撃に耐えながら攻勢に出ようとする。 杏子も運命の力を支えに亡霊の怨嗟を振り払い、蓄えた力で魔光を創りだした。 そして……全身の闘気を爆発させた桐の渾身の一撃が、対峙していた大型の亡霊の姿を完全に失わせる。 亡霊は色を薄くしながら拡がっていき……やがて、風に吹き払われでもしたかのように掻き消えた。 「どうするの……?」 「……ああ、まさか倒すとはね」 言葉と共に、亡霊たちの動きが変化する。 距離を取り、全員が……双子を守るように位置を取って…… 「前座が長々と居座っても興ざめだ」 場を冷やす前に下がれ、と。 変わらぬ口調でユーヌが紡げば、少女は片方の眉をつり上げた。 「お前の方が威圧感はあるが、殺気を出しすぎる」 ランディがそう口にすれば、少女はそのままの表情で視線を青年へと向ける。 「俺はランディってんだ、覚えときな小娘」 「……大人が、偉そうに」 「フォルテ、これ以上はこっちの被害も無視できなくなるよ」 序曲では、なくなってしまうよ。 少年が口にすれば、少女は不本意気ながらも微かに首肯した。 「ただ高みから操るとか高慢では? そういうのは好きじゃないですね」 「気持ちが違えば、ですか? それは……僕は偽善のようにも思いますけど……けど、平行線になりそうですね」 気弱げながらもそう言って一礼すると、姿を減らした亡霊たちに守られるようにして、双子は姿を消す。 杏子は静かに魔術書を閉じ、ハンカチで服の汚れを落とすと。 小さく呟き、溜息を零した。 「当分慌しい日が続きそうですね……」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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