●途切れたはずの 一生のうちに『親分』と『子分』という関係性を持つ人間は、どれくらいいるだろう。 『上司』と『部下』、『先輩』と『後輩』という関係性を得ることは珍しくない。 だが『親分』と『子分』というのは、相当に特殊な関係性だと言えるのではないだろうか。 ――しかしこの薄暗い廃屋の中、闇の先へと挑むような視線を向ける三枝莉子(さえぐさ・りこ)には、かつて二つ年下の『子分』がいた。 深尾正剛(ふかお・まさたか)、男勝りでやんちゃ放題だった当時の莉子と比べると、随分と大人しい男の子だった。 対称的な性格だったにも関わらず、二人は不思議と馬が合い――『親分』と『子分』という関係を結んだ。 とはいえ、もちろんそのような関係を結んだのは小さな子供だった頃の話で、それはごっこ遊びの延長のようなもの。 一般的な幼少期の関係性と同じく、幾多の季節を通り過ぎる中でそれはだんだんと薄れゆき、やがて途切れた。 そう、途切れたはずだった――。 「ほら、昔あんたと仲の良かった……正剛くんっていたでしょ、メガネの。あの子最近、タチの悪いグループに出入りしてるって噂よ? 昔はあんなに良い子だったのに、一体なにがあったのかしらねぇ……」 一時間程前、母親が何気ない調子で口にしたその話を聞いた瞬間、莉子の頭は真っ白になった――。 高校三年生となり大学受験の準備に奔走していた頃、莉子は正剛と一度だけ擦れ違ったことがある。 その時正剛は暗い表情で下を向いたまま歩いていて、莉子の存在に気づいていたかどうかは分からない。 莉子は正剛へと声を掛けようとして……出来なかった。 人伝に聞いて、正剛が両親と上手くいってないらしいということは知っていたのに……出来なかったのだ。 正剛が莉子にとってかけがえのない『子分』だったのは……そう、あくまでも子供の頃の話だったから。 そして、忙しい日々を送る中、まるで後ろめたさから背を向けるかのように、その出来事は頭の中から消えていった。 それなのに――母親が続けてしゃべっている言葉が、頭に入って来ない。 まるでフラッシュバックのように鮮明に、莉子の頭の中に子供の頃の記憶が蘇った。 『マサタカ、あんたはこのリコさまのコブンなんだから、なにかこまったことがあったらアタシにちゃんと言いなさいよ!』 『わかりましたっ。そのときはおねがいしますね、オヤブン!』 そう言って、嬉しそうに笑いかける幼い正剛の笑顔が浮かんだ。 気がつくと、父親のゴルフクラブを片手に家を飛び出していた。 そして単身、莉子は不良グループの溜まり場と噂される廃屋の中へと乗り込んだのだった。 今の莉子はどこにでもいる普通の大学生、男勝りでやんちゃ放題だった頃の面影はない。その構え方は腰が引け、ゴルフクラブを握る手は小刻みに震えている。 それでも莉子は、力の限り叫んだ。 「私の『子分』、連れ帰らせてもらうわよ!」 暗がりの先の不良達から、返事の声はない。 ただ、不良達の傍らにいた正剛が、驚きのあまり声も出ないといった表情で莉子のことを見つめていた。 (……あのとき声を掛けれなくて……駄目な親分でごめんね……) 莉子は引きつった、それでも精一杯の笑顔を正剛へと向けると、再び不良達へと顔を向け叫び声を上げる。 「聞いてるの!? 正剛を返せって――」 しかし、震えながらのその叫びが最後まで紡がれることはなく――莉子の首が体から離れ、地面に落ちた。 「……新入り、そのゴミを片付けておけ」 まるで感情の籠もった様子のない、不良達を束ねるのリーダーの声が廃屋の中へと響き渡る。 その抑揚のない言葉に、立ちつくしていた正剛は半狂乱でリーダーへ殴り掛かっていった。 そして……廃屋の中に首がもう一つ、ごとりと地面に転がった。 ●ブリーフィング 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は予知した映像を映し出していたモニターの電源を落とし、その色違いの両眼をリベリスタ達へと向け話し始めた。 「二人の首を刎ねた不良達はノーフェイス、放ってはおけないわ」 イヴの説明によると、不良グループのリーダーが革醒しエリューション化、五人の仲間達も行動を共にするうちにその影響を受け、エリューションと化してしまったようだ。 不良達のリーダーはフェーズ2まで移行しており、刃渡り三十センチはあるであろうコンバットナイフで、主に斬撃を飛ばす攻撃を仕掛けてくる。 残りの不良達はフェーズ1で、こちらは飛び出し式のナイフで攻撃を行うようだ。 深尾正剛については、グループに入ってまだ間もないからか増殖性革醒現象の影響を受けていないらしく、革醒していない。 ということは、彼は特異な能力を持たない、ただの人間だということだ。 「……つまり、彼の命は救うことが出来るわ」 正に不幸中の幸い――三枝莉子が廃屋を訪れなければ、もしくはその決断までに日にちを費やしていたなら……彼も他の不良達と同じように、やがてエリューション化していただろう。 件の廃屋については不良達の溜まり場として周辺の住民には有名らしく、結界を張ってさえいれば、他の一般人への対処としては十分だろうとのことだった。 「あとは介入のタイミングなのだけれど、三枝莉子が廃屋へとやってくる十五分前くらいがベストだと思う。そのタイミングで、深尾正剛が近場の自販機へ飲み物の買い出しに出るはずなの……」 戦闘へ巻き込むことを避けるため、そして神秘の秘匿という観点からみても、深尾正剛、三枝莉子の二人を戦場から遠ざけておくことは重要だろう。 「説得するか、力に訴えるのか、それとも全く別の手段を講じるのか……その方法は、任務に就いたあなた達次第よ――」 そう言って一通りの説明を終えたイヴは、呟くように言葉を継げる。 「子供の頃に紡いだ、でも途切れてしまったはずの二人の関係……三枝莉子が深尾正剛のことでなんの行動も起こさなかったとしても、誰もそれを責めることはなかったはず。むしろ、放っておくべきだって止められてたかも知れないくらい。それでも、彼女は行動した……」 そこで言葉を区切り、感情の読めないいつもの表情のままリベリスタ達を見回す。 「どうか、二人の命と……途切れてはいなかった二人の絆を、救ってあげて」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:外河家々 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年12月01日(土)23:36 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●その時を待つ者達 「なんだって?」 通話を終えた『足らずの』晦 烏(BNE002858)へと向けて、『SHOGO』靖邦・Z・翔護(BNE003820)が訪ねた。 「今から接触するそうだ」 烏はそう答えると、マッチを擦り咥えたたばこへと火を付け、ゆっくりそれを曇らせた。 「あんま他人様の人間関係に、ヤボな手出しはしたくないんだけど……かといって、二人を見殺しにするってわけにもいかないもんなぁ」 千里眼で廃屋の中の様子を探りながら、翔護がぼやくようにそう口にする。 「その辺りの配慮まで含めて、あの三人なら上手くやってくれるはず。数年まともに顔を合わせていなかったとしても、しっかり話し合うことが出来れば昔以上の関係を築くことも出来る。幼少の頃の絆というのは思いのほかに深いもの、深尾正剛、三枝莉子の二人の関係もきっと上手くいくはずだ」 そのためにも、障害はしっかりと取り除かせてもらう……。 『鋼鉄の信念』シャルローネ・アクリアノーツ・メイフィールド(BNE002710)は心中でそう付け足し、真剣な眼差しで廃屋へと視線を向けた。 「親分と子分……。信頼関係にも似て、少し羨ましいですね。お二人がすれ違わず、また昔のように歩み寄れるといいです。そのためにも、邪魔なくさびは壊してしまいましょう」 『番拳』伊呂波 壱和(BNE003773)も泣きそうな顔でそう言って、頷いてみせる。 くさびを壊す……それはつまりエリューションを実力で排除するという事。そんな強気の台詞を吐いた人物とは思えないほど、その表情からは恐怖との葛藤が読み取れる。 それは、学ランズボンの中にしまわれた尻尾がぷるぷると震えていることを確認するまでもなく明らかではあったが……しかしそれでも、壱和はそのうるんだ瞳の中に強い決意の色を滲ませた。 結界を張り、万一に備え周囲を警戒していた『あるかも知れなかった可能性』エルヴィン・シュレディンガー(BNE003922)も頷きを返す。 「ありがちと言ってしまえばそれまでだろうが……だからこそ取り戻さなくてはならない。俺たちには、それが出来るのだから」 静かな口調でそう言ったエルヴィンの、仮面の下に隠された表情を伺い知ることは出来ない。 だが彼の紡いだその言葉からは、内にある強い想いをうかがい知ることが出来る――そんな言葉だった。 「ガキの時分の美しき思い出か……大事にしたい気持ちは、判らなくもないがね」 集音装置を使用し廃屋の中にいる不良達を警戒したまま、烏が誰に言うでもなく呟いた。 そう、気持ち自体は理解出来る。とはいえまだ二十歳にも満たない少女が、単身不良達の溜まり場へ乗り込んでいくとは……。 「……いやはや、若いねぇ」 揶揄するようで、それでいてその若さ故の無鉄砲さをうらやむようでもある……そんな感情を含ませた言葉を、烏は紫煙と共にゆっくりと吐き出した。 ――通話を切ってから五分、廃屋の中は変わらず静まっている。 エリューション達に、動きはない。 「このまま、何も起きなければ一番なんだがな」 シャルローネが視線を廃屋へと固定したままで、小さく呟いた。 ●親分と子分 一体、自分はなにをしているのだろうか……。 自販機の前で深尾正剛が自嘲気味な笑みを浮かべたそのとき、突然背後から声を掛けられた。 「こんばんはっ」 驚いた正剛が声の方向へと視線を向けると……そこには愛嬌のある笑みを浮かべた、自身と同年代くらいの三つ編みの少女。そしてその両脇には、大陸風の貫禄ある男と、メガネ姿の少年が佇んでいた。 それは正剛の足止めと説得の役目を担った、三人のリベリスタだ。 「この辺りは不良グループの溜まり場で、普通の人はほとんどいないはずなんだけど、キミはもしかしてその一員だったりするのかな?」 怪訝そうな顔をする正剛に対し、四条・理央(ID:BNE000319)は笑顔でそう問いかけた。 「……だったらなんだよ、関係ないだろ」 警察……、ということはなさそうだが……。 警戒した様子の正剛に、今度は『錆天大聖』関 狄龍(BNE002760)が言葉を掛けた。 「いやな、最近はしゃいでるガキどもが居るって聞いてよ。示しがつかねェんだよな、そう言うのは。なンで、ちょっくらお話に行こうってトコだったンだが……よう、兄ちゃんよ。見たトコやつらの新入りか?」 言葉の調子こそ軽いが、醸し出される凄みに「だ、だったらなんだよ……?」と正剛はいよいよ身構える。 「まあそう警戒すンなって。どうも兄ちゃんからは、不良達とは違うっうか、成りきれてないっつうか……そういうモンを感じたからな」 「なんで君みたいな人が、不良なんかと連んじゃってるの? 事情があるなら、教えてくれないかな?」 狄龍の言葉に、理央がそう続けた。 「……そんなこと、初対面のあんた達に話すわけないだろう」 思いもよらない質問に面食らったものの、正剛はぶっきらぼうにそう返す。 そこで、ここまで会話に加わらず様子を伺っていた『ジーニアス』神葬 陸駆(BNE004022)が、始めて口を開いた。 「なるほど……『親分』と呼べるくらいに気を許してないと話せないか?」 その一言で、正剛は陸駆に対し強烈な視線を向ける。 「親分ってのは……、リーダーのことを言ってるのか?」 動揺を隠そうと、なんでもなさそうな口調でそう聞き返す正剛に、 「違ェよ、お前さんには昔からちゃンと『親分』が居るだろうが?」 狄龍はあっけらかんとそう告げた。 「そのリーダーとやらは、貴様にとって付き従う価値のある相手なのか? 貴様の抱える問題を知らないわけではないが、だからこそ、僕には頼る相手を間違えているようにしか見えないぞ」 全てお見通しと言った確信めいた口調の陸駆に、正剛の顔に冷たい汗が浮かび上がる。 (此奴達は一体……) 急激に上昇していく警戒心と、その影でひっそりと膨らんでくる期待。 事情を知っているというこの人物達なら、もしかしてこの環境から救い出してくれるのではないか……。 「……言ったはずだ。貴様の頼るべき相手は、僕たちでも浜元厚生でもないはずだと」 天才の言葉は、きちんと聴いておけと陸駆が冷たく言い放つ。 「……もうすぐここに、三枝莉子君が来るよ。なにしに来るか分かるかな? 無謀だよね、たった一人で、不良グループに入った君を抜けさせるために来るんだよ?」 「なっ……!?」 理央の口から発せられたその言葉に、正剛は驚きを隠す余裕すらないのか大きく目を見開いた。 そんなことがあるはずがない……。 そう、そんな都合の良いことが……あるはずがない。 「あんた達がなに企んでいるのか知らないけど、そんな事あるわけないじゃないか……! だって、俺と彼女にはもうなんの関係も――」 「それは君の本心で言っているの? 本当に、このままで良いの?」 なんの関係もない――その言葉は最後まで言わせないとばかりに言葉を遮ると、理央は真剣な表情でそう問いかけた。 「う、うるさい……! 僕は、僕は……」 うつむきながらも正剛は声を張り上げる。しかし次の言葉が続かない。 そんな彼の言葉を待つかのように辺りに静寂が訪れるが、それも長くは続かなかった。 「ああ、貴様の『本当の親分』が来たようだぞ」 暗視を使い周囲の暗闇に気を配っていた陸駆が、こちらへ走ってくる人影に気づき、そう言葉を告げる。 正剛が顔を上げ、陸駆の視線の先へと顔を向けると――走ってくる人影と目が合う。 「マサタカ!」 彼女の口から放たれたそれは、昔と比べ大人びた色を帯びているが、幾度となく呼ばれたことのある声。 人影の主――三枝莉子はその場へ駆けつけると同時に、庇うように正剛の前に立つと、リベリスタ達にゴルフクラブを向けた。 「わ、私の子分を……返してもらうわよ!」 腰を引かせ、震えながらリベリスタ達へと挑むような視線を投げかけ、懸命に叫ぶ莉子の背後では、正剛がまるで夢でも見ているかのようにその背中を見つめていた。 子供の頃の約束なのに、それを忘れていなかった二人……。そんな二人の様子に、狄龍の脳裏に自らの弟分の顔が浮かぶ。 (いいねェ、親分と子分……神様の粋な計らいってヤツなのかね。へっ、泣かせるじゃねェか) 狄龍の口元に、薄っすらと笑みが浮かんだ。 「親分は、君のことをまだ子分だと思ってるみたいだけど? どう、その気持ちに正面から向き合える?」 正剛と視線を交わす理央、そして不安げな表情で莉子が二人の間で首を動かす。 正剛が口を開きなにかを言いかけた時――リベリスタ達のアクセス・ファンタズムが緊急事態を知らせる信号を関知した。 「仲間達が先におっぱじめちまったみてェだな……さァ、とっとと帰ンな。そこまでの義理はねェだろ? なあに、今の親分には俺がナシつけといてやっから! 安心しろよっ」 「あとは三枝莉子、貴様次第だ。貴様の子分は責任を持って連れ帰れ。何、不良グループは僕たちが何とかする。心配か? 安心しろ、僕は頭脳だけでなく、武のほうも天才だ!」 狄龍と陸駆が、二人にここを離れるように促すが、次々と起こる突然の状況に理解が追いつかないのか、正剛はこの場を離れようとはしない。 「ちょっと待ってくれ……! あんた達は一体……!?」 正剛はそう言って、リベリスタ達に詰め寄る。 「待ちなさい、まだ私の話は終わってないわよ!」 莉子もリベリスタ達を不良グループの一員だと思っているのか、精一杯語気を強めてみせた。 「ごめんね、本当は使いたくないんだけれど……時間がないからっ」 言葉と共に理央は魔眼を使用し、うつろな表情となった二人に向けて命じる。 「ここから適当に人通りのある方向へ歩いて、公園でも見つけて二人でゆっくりと話し合うこと! それと廃屋には戻ってこないこと! それじゃあ行って!」 命じられた二人が去って行くのを見送ると、リベリスタ達はお互いに頷き合い、急ぎ戦場に向けて駆けだした。 ●信じる者達 外に出ようとしたエリューション達の動きに先制する形で、廃屋へと突入したリベリスタ達。 「親分にも番長にも満たないボクですが、すぐナイフを振り回すような三下に負けるつもりはありません。全力でお相手しましょう」 先陣を切った壱和がアッパーユアハートで相手を挑発し、二体の手下の注意を自身へと引きつける。 「動きがなってないですね。あなた達程度の攻撃が当たるとでも?」 浴びせられた挑発の言葉に顔を真っ赤にし、まんまと意識を持って行かれた二体の手下達。その隙だらけの体へと、壱和の背後から飛び出したエルヴィンが手にしたナイフを連続で斬りつけた。 上手く不意をつけたかにみえたリベリスタ達だったが、標的であるエリューション達の反応も素早い。 浜元厚生がすかさずコンバットナイフを振るうと、その斬撃が真空の刃となりエルヴィンへと襲いかかる。 エルヴィンは素早く身を翻すとその斬撃を最小限のダメージだけで受け流し、浜元へと静かな視線を送るが、その視線を遮るかのように手下の一体が、リーダーをかばうために前方へと立ちはだかった。 「なるほど、情報通りだな……」 エルヴィンは、仮面の下の表情を変えることなくそう告げる。 それなら雑魚から片付けると、リベリスタ達は浜元とそれを庇い続ける手下一体を放置する形で、残る四体の手下エリューションへと標的を絞った。 「やぁ! 正剛ちゃんは来ないけど、代わりにオレ達とパニッシュしようぜ☆」 軽い調子でそう言うと翔護は手下達へ魔力銃を向け、込められた弾丸をこれでもかというくらいに撃ちまくる。 「ただの不良であったならば、一般的な指導で済むところなのだが……エリューションとなればそうもいかない。ここで貴様らを、滅させてもらうぞ」 言葉と共に叩き込まれたシャルローネの燃え盛る拳は、直撃を受けた手下を炎に包み込んだ。 烏も神気閃光によって放たれる聖なる光を手下達に浴びせかけ、その体力を奪うと同時に、数体の動きを鈍らせ戦況を有利な方へと持って行った。 三人欠けている状態とは思えないような攻勢で手下の一体を撃破し、エリューション達を圧倒していくリベリスタ達。 しかし、浜元の変貌がそれを阻む。 「ぐおおおおおおおおおおおおおおっ!」 地に響き渡るような絶叫と共に、その顔に血管が浮き出ていく。 顔だけでなく全身の筋肉が膨張し、血流が早すぎるのか、いくつかの浮き出た血管からは血管を突き破り血が吹き出しているものもある。 ――凶暴化だ。 「ちっ……始まったか」 烏は、先ほどエネミースキャンで読み取った情報を思い出す。 フェーズ1の手下達の実力はリベリスタ達に劣るようであるが、フェーズ2の浜元は頭一つ抜けている。なかでも危険なのが、この凶暴化だ。 烏の咥えたばこの口元から「やれやれ、面倒くさいことになりそうだ……」と溜息が漏れた。 その予感は当たり、浜元の行動はその変貌だけでは止まることなく、常人のそれとは全く異なる狂ったような視線を翔護へと向けると、雄叫びと共に凄まじい勢いでコンバットナイフを振るう。 浜元の放った強烈な一撃は一直線に飛んでいき、その体を大きく切り裂いた。 「ってぇ、やってくれるじゃん……」 翔護はおちゃらけた笑顔こそ崩してはいないものの、手で押さえた傷口からは血が流れ出し、地に片膝を付いている。 戦局の天秤は、エリューション側へと傾いていた。 凶暴化し強烈な斬撃を放ってくる浜元をどうにか出来れば良いのだが、庇う存在がいる以上それも難しい。 更に回復を担う者が現時点でこの場にいない以上、ダメージを食らい過ぎると沈んでしまう危険もあった。 だがそれでも、リベリスタ達は戦法を変えることなく手下へと的を絞り、攻撃を重ねていく。 彼等のその動きや表情からは、悲壮感といったものは読み取れない。負った傷跡が増えていっても、それは変わらなかった。 壱和、烏が手下達の自由を奪うスキルを放ち、残りの三人が確実にダメージを刻んでいく。 彼等は、逆転の時を待っていた。 三人が到着すれば――再び天秤はこちらへ傾くはずだと。 ●決着 激戦の末に浜元とそれを守るもの、そして前衛に立つ手下一体を残し、敵の半数となる三体のエリューションを撃破することに成功したリベリスタ達。 しかしこちらの被害も深刻なものとなっていた。 もはや傷を負っていない者はなく、前衛で敵を引きつけていた壱和、そして後衛でも複数回浜元の斬撃を浴びた翔護の傷は目に見えて深い。 しかも相手側は、一番のダメージディーラーが無傷だ。浜元の口元が、自分達の勝ちを確信したかのように醜く歪んだ。 だがそのとき――ガシャーンッ! と大きな音を立て、リベリスタ達の待ち望んでいた仲間達の一人、陸駆が近くの窓を突き破り飛び込んで来た。 「天才は、遅れてくるものだからな!」 ド派手な登場と同時に、創造した不可視の刃を敵の全てを巻き込む形で転移させ、その刃で容赦なく切り裂いていった。 「遅れてすまねぇ! いようガキども! ハッピーかコラ!」 更に駆けつけた狄龍が、間髪入れずに両腕に装着した【明天】【昨天】をエリューション達へと向ける。目視するのがやっとというような早さで打ち込んだ弾丸は、前衛の手下の武器をはじき飛ばし、そしてその頭部を打ち抜いた。 「遅れてごめんね! さあ、傷を治して反撃開始だよ!」 理央も前衛と後衛の中間に立ち、癒しを与える福音の歌を奏でる。 ――天秤の傾きが、完全に覆った。 リベリスタ達は、怒濤の猛攻を加えていく。 浜元を庇っていた最後の手下は、休まることのない攻撃の前にあっけなく撃破され、浜元だけが残された。 浜元ももちろん、やられっぱなしではなかったが、壱和の放ったフラッシュバンで凶暴化を封じ込められ、放たれる斬撃はもはやリベリスタ達の驚異とはならない。 受けた傷の分はきっちり返すとばかりに、翔護は1$シュートで浜元の腕を貫く。 シャルローネの大上段から放たれる強烈な一撃が炸裂し、烏も愛用の『二四式・改』で、まるで散弾銃のそれとは思えないほどの連射を撃ち込んでいく。 リベリスタ達の勢いは、止まらない。 止まらない――。 「お前たちも、ただの世界の犠牲者。だが、同情することは許されない……せめて、すぐに終わらせてやる」 音速を超えるかのような、止むことのない連続切りを体中に浴びながら、浜元は自らの敗北を理解した。 その意識が飛び、命までもが完全に消し飛んだとき、やっとエルヴィンのナイフはその動きを止めた。 ●二人の 公園には、莉子に頭を抱き抱えられ、涙を流す正剛の姿があった。 莉子の頬からも、大粒の涙が伝ってる。 正剛は頭を莉子の胸元に預けながら、とある記憶を思い返していた。 『親分』と慕っていた相手、莉子とすれ違ったことがあった。 だけど声を掛けるどころか、目を合わせることすら出来なかったあの日。 目があってしまったら、すでに途切れた関係だと分かっていても、頼ってしまいそうだから。 それで拒絶されたら、自分はもう本当に駄目になってしまう……それがなんとなく分かったから。 だが、それは杞憂であったのだ。 途切れてしまったはずの絆は、そう――こんなにも明確に、ここに残っていたのだから――。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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