●グロッケンシュピール 人々の傍らで、人にあらずして人と寄り添う者達がいる。 それらは犬や猫、小鳥などといった『ペット』と呼ばれる動物達だ。 しがらみの多い近世において、彼らの存在は多くの者達の心の支えとなった。 年を越す毎に深まる絆は、人より生きられぬ彼らを亡くした時深い悲しみを呼ぶ。 飼い主達は彼らを弔うべく、自分達人間と同じように、立派な墓を建てる事を由とした。 しかし、土の上に石を積み庭の無い世界で暮らす者の増えた昨今、その在り方も変わる。 ペット霊園。 愛深き者達の力で、それらの施設が時代に数多現出したのは必然だったのだろう。 共に暮らし愛した人ならぬ家族達は今、終わりを迎えた先、安息の眠りの場にて飼い主を見護っているのだ。 日本。人里離れたとあるペット霊園。 真夜中の敷地内、すでに人影もない静かな世界に滅多にしない音がした。 それは金属を打ち合わせた時に響く音。美しき金管の調べ。 時に激しく、時に涼やかに。旋律は墓所を包み込んでいく。 霊園に渋みのある男の声。 「さあ我輩と共に行こう! 大いなる夢の先へ!」 声は金管の調べと共に霊園を渡り、そこに眠る多くの魂を呼び覚ます。 土を掘り返し、墓石を倒し、納骨堂の扉が開いてそれらは現れる。 生前数多の愛を受け、その命を全うした動物達。 一匹一匹に物語を秘めた愛すべき隣人達。 彼らは今、死したる体でありながら再びこの世に生まれ出た。その健常ならざる体が痛むのか、口々に慟哭の声を上げながら。 愛された者達の眠る地は、今この瞬間、飢えた死者達の始まりの地へと成り果てる。 「目指すは遠き終着点(ブレーメン)じゃ!」 高らかに謳う男の掛け声に従い、死せる動物達はその種々の鳴き声と共に動き出すのだった。 ●胎動 「死者が原因不明に蘇るという案件が各地で発生しています」 神妙な顔つきの『運命オペレーター』天原和泉は、資料となる紙の束を手に持ったまま話し始めた。 「復活した死者は理性的な行動をほとんど取らず、手当たり次第に生者を襲うそうです」 これを。と、和泉がある資料をリベリスタ達に配る。 「その中でも関連性があると判断された案件があります。それが今渡した資料です」 そこに記されていたのは、ペット霊園でペットの死体が蘇り、参拝者や管理者に襲い掛かっているという事件だった。 既にいくつかの霊園で被害が出ており、最後に記されたペット霊園も数日先には同じ事が起こるのだとフォーチュナの証言が記してあった。 「事件発生直前、それらの霊園では美しい音楽が流れたそうです。この事から今回の事件、ケイオス・“コンダクター”・カントーリオ配下の『楽団』の手によるものと推測されます」 全てが一流の死霊術士(ネクロマンサー)で構成されているという『楽団』。彼らが何らかの行動を起こすであろうという情報はすでに掴んでいた。 この事件がその一端を担う物なのであれば、これを見逃すわけにはいかない。 いざ事に当たるとなれば、リベリスタ達は十中八九楽団メンバーの操る動物達の死体と戦う事になるだろう。 その死体も、ペット霊園という場所を考えればその数、種類は相当な物になる。 「復活した動物達も多聞に漏れず理性的、知性的な行動は殆ど取れず、己の本能に従って生者に襲い掛かるようです。また部位欠損程度ではその動きを止めません」 人と違ってその耐久力は落ちるが、その分発達した牙や爪などによる攻撃は相当な威力を持っているだろう。 「優先すべき事は、これ以上の被害が出ないようにする事です。くれぐれも無理はなさらないよう」 説明を終えた和泉が、改めてリベリスタ達に向き合う。 「事態が大きく動き出そうとしています。どうか、無事で」 彼女の言葉に、リベリスタ達は強く頷くのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:みちびきいなり | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年11月30日(金)23:30 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●管楽の音のする方へ 都市部を離れた緑地、動物達の死したる御霊を鎮める霊園に今、金管の音色が響き渡っていた。 それは鎮魂を謳う様にも奮起を促す様にも聞こえる、美しくも混沌とした音色であった。 「この音が、例の『楽団』の演奏か」 「私達に聞いている暇はありません。すぐに状況が変わるのですから」 静かに音源を探り耳をそばだてた『侠気の盾』祭 義弘(BNE000763)の呟きに、『夜翔け鳩』犬束 うさぎ(BNE000189)が逸る気持ちを何とか抑え込んだ様子で声を掛けた。 演奏の直後、ここに眠る動物達が蘇り動き出す。痛みに声を上げながら。 人一倍動物達を悼む気持ちの強いうさぎにとって、その出来事は琴線を刺激してならなかった。 「うさぎの言う通りだ。今は戦場へと急いだ方がいいだろう」 『必要悪』ヤマ・ヤガ(BNE003943)がそううさぎを支持した事で、リベリスタ達は澱みなく歩き始める。 義弘ら八名のリベリスタ達は、所属する組織『アーク』の要請によりある事件の拡大を阻止するべく派遣された。 各地で発生している、死者が動き出すという怪奇。その対策の為に。 「二度目とて殺しには違いない。獣で死体、と毛色は違うが……ヤマの仕事だ」 「耳障りな音だぜ、無理やりにでも止めてやる!」 ヤガの隣、『デンジャラス・ラビット』ヘキサ・ティリテス(BNE003891)が気を張った。 うさぎと同じく生粋の動物(兎)好きの彼からしても、この音色は到底許容できる物ではない。 「疾風、フィクサードは見つかったっすか?」 「参拝者が遭遇したらショックな光景が広がってるよ」 千里眼でいち早く現場を捕捉した『正義の味方を目指す者』祭雅 疾風(BNE001656)の回答に、尋ねたリベリスタ――『LowGear』フラウ・リード(BNE003909)は自身の片目を隠す眼帯を軽く弾いた。 この怪事件を起こしている犯人は、ケイオス・“コンダクター”・カントーリオ配下の『楽団メンバー』なのは間違いない。 一流の死霊術士であるという彼らに掛かれば造作もない事なのだろう。 「……連中ホント好き勝手やってくれるっすね」 今回の大規模な活動は、神秘を悪戯に世間に知らしめる事にもなる。それは世界を崩壊に近づける蛮行であった。 「ん? 動物達の中……あれは、人か? 居た!」 疾風の千里眼が遂にそれらしき人物を視界に収める。彼の指示に従い、リベリスタ達は足を速めた。 ただ一人、『闘争アップリカート』須賀 義衛郎(BNE000465)を除いて。 「どうした?」 それに気づいた『カゲキに、イタい』街多米 生佐目(BNE004013)が声を掛けると、義衛郎は軽く首を傾げて口を開いた。 「この音色が、どうにも引っ掛かるんだ」 「?」 同じように首を傾げた生佐目に苦笑を返し、義衛郎もその足を速め戦場へと向かう。 仲間達の言う通り、その音色を聞いている暇などないのだと、そう思い直して。 ●エチュード 戦場に立つリベリスタ達は、事前に想定していた状況と食い違う現状に困惑の色を浮かべていた。 「てっきり戦いが終わった所で姿を現すものだと思っていたのだが……実に堂々とした佇まいじゃないか」 しかし、生佐目のどこかゆとりを含んだ言葉が、緊迫する中にあって場を凍らせず仲間達の硬直を解いた。 彼女の言葉の通り、リベリスタ達がその接触を警戒していた『楽団メンバー』は、蘇り声を上げ続ける死してなお動く力を持った動物達の群れの中、その中央に立っていた。 フード付きのローブに身を包み、抜き出しの手に打楽器を叩く棒であるマレットを持つその人物こそが、先の音色の元凶であり動物達を蘇らせた死霊術士に違いない。 手の形、フードの下から見える顎からして恐らく初老の男。 リベリスタ達を視界に捉えた楽団メンバーは、誰かが声を掛けるその前に、待っていたとばかりに口の端を釣り上げマレットを振る。 中空。まるで見えない壁がそこにあったかのようにマレットは何かを叩いた。そしてそれは、確かに金管の音を以て動きに応える。 男の周囲に集まっていた死せる動物達が、咆哮と共に動き出す。 「っ、加護を!」 戦いの始まりをいち早く察知したうさぎが意識を集中し、仲間達に飛翔する力、翼の加護を付与する。 「死者の眠りを妨げるのは命への冒涜だ!」 叫びと共に疾風が自身謹製の幻想纏い、アークフォンを起動。武装し切り込んでいく。 手に持つカスタム銃で小型の犬と思われる物を狙い打ち、自身は大型の……見た目にも分かりやすい大亀の怪物へと身を晒す。 「あれが小、あっちは中か。なら、俺の担当はお前さんだ!」 義弘もそれに倣い、群れの中でも特に大きな体を持った大型犬ゾンビに携えたメイスを大きく持ち上げ、振り降ろす。 戦局は始まると同時に乱戦の様相を呈した。 此方にリベリスタ八名、彼方に三十の獣と一人の男。 リベリスタ達は混乱の中、当初の予定通りに獣のゾンビ達の相手を主眼に置いて動き出そうとした。 複数の幻影達と共に義衛郎が駆け、独特の長さを持つ己が獲物による神速の斬撃を放ち立ち塞がろうとした中小のゾンビ達を切る。 「よりどりみどり、ちうところだの」 事前に能力で集中力を高めていたヤガの気糸が、義衛郎の攻撃で体勢を崩した者達目掛け伸び、貫いていった。 「……面白うもないが」 牙が飛び、前足の肉が抉れ、獣達は甲高い叫びをあげて倒れ伏す。 「もう一度、お眠り」 切り捨てた相手に哀悼を贈って、義衛郎が次へと進もうとした時だ。 「いかん義衛郎! そやつらはまだ動いとる!!」 ヤガの警告と、頭の半分を欠損させた図体の大きな猫のゾンビの爪が義衛郎の足を切り裂くのは同時だった。 血を吹き出しバランスを崩す義衛郎に数で押す小型の、醜悪な見た目を晒すチワワのゾンビが飛びかかる。 「外しやしないっすよ!」 割り込むようにフラウが低空飛行で身を滑らせ、高速で魔力剣を振るいチワワゾンビを横っ腹から切り裂いた。 「回り込み放題なこの場所で、それを使わない手はないっすよね?」 そう余裕を謳いながら足を止めず、さらにフラウは地を蹴り空へ舞う。狙うは夜空を我が物顔で飛ぶ鳥だった者達だ。 好き放題に飛び回っていたそれらは、視界に飛び込んできた獲物に向かって一斉に矛先を向ける。 フラウが迎撃の構えを取った時。そこで、楽団の男が動いた。 一息でフラウに肉薄する距離まで跳び、驚く間も与えずにマレットを振るう。 直接叩いたわけではない。しかし、打音と共に発生した神秘の衝撃が、フラウを地面へと強かに叩きつけた。 更に追撃を仕掛けようとマレットを構える楽団メンバーだったが、とっさにその腕を掲げて飛び込んできた何かを受け止める。 それはヘキサの蹴りだった。 「ちっくしょ、顔面狙ったのに!」 悔しげな表情を浮かべるヘキサに、楽団メンバーは初めて声を発した。 「Jung(若い)! されどその意気やよし!」 そのままヘキサに蹴り弾かれ地面に着地しながら響かせたその声は、渋みの中にどこか喜悦の色が混じっているように思えた。 男は即座に群れの中へと潜り込み、ヘキサの間合いから離れる。それは戦い慣れし熟練された動きだった。 広がっていく戦場は、後衛に立たんとする生佐目すら否応なくその腹中へと飲み込んでいく。 「この技で多くを巻き込んでいきたいものだが……我が身の根源よ!」 生命力を代償に生み出した漆黒の瘴気が、抜け出てきた小型の元動物達の体を削ぎ落としその力を奪っていく。 それでも近づいてくる者達には、生佐目が手ずから奪命剣でその体を両断する。 だが直後、わき腹に奔る痛みに自身が噛み付かれた事を彼女は自覚した。 食らいついたのは頭だけとなったハスキーのゾンビ。生佐目はその顎を肘で殴り飛ばし、素早く間合いを取り直す。 「ペットと戯れるのはいいが、これでは些か趣向が違っているのではないかね」 少数対多数を強要されるこの状況。いかに複数攻撃を豊富に持つ者達であっても、こと守りに於いて不安は拭えなかった。 疾風や義弘と同じく前衛に立ち大型を相手取っていたうさぎは、この状況に思考を巡らせていた。 (この乱戦、情報を聞きだすタイミングがあるとするなら今しかない。この機を逃がせば最悪何も知れぬまま逃がしてしまう可能性も……!) その思考のさ中、大型、おそらくグレート・ピレニーズだったろう犬のゾンビが前足を持ち上げて襲い掛かる! 「……貴方の一撃を貰ってでも、あれを捉える!」 覚悟を決めて、意識が吹き飛ぶほどの一撃を正面から受け止める。消えそうになった意識は無理矢理引き戻した。 懐をくぐり、楽団メンバーへと肉薄する。そして、 「この戦いが……彼の、“コンダクター”の指揮なのですか?」 ポーカーフェイスの奥底に、仄暗く強い怒りの念を押し込めて。 「答えなさい。………演奏者!」 うさぎの伸ばした手が、男のローブを剥ぎ取った。 ●バロン 現れたのは、見立て通りの初老の男。 仄かな明かりの中、その男のカールした白髪と鼻下の豊かな髭、そして赤を基調とした18世紀を思わせる軍服が異彩を放つ。 だが同時に、その姿は死者を弔うべきこの場所にふさわしい物であるような、そんな気配も含み持っていた。 何がそうさせたか、男は嬉しそうな様子で口を開いた。 「猛る優しき獣よ、その問いに答えよう。いかにも我輩の役割は、混沌を謳う組曲への貢献である」 言葉と共にマレットが振るわれ、なぞるように空を打つ。涼やかな鉄琴の音の流れが、戦場を渡り他のあらゆる音を打ち消した。 そして―― 「我輩の名は“男爵(バロン)”ジャン・ブレーメン! 混沌を奏でる『楽団』のMitglied(一員)である!」 威風堂々。胸を張り肩幅に足を広げ、男は自らの名を世界に轟かせる。その動作一つ一つすら楽曲の一幕であるかのように。 恐怖を広げんとする怪異の中核にあって、その様はまた違った意味で奇異に映った。 「……犬束うさぎと申します」 「良い名である。我輩動物大好きゆえ」 だったら! と、うさぎは武器を構え踏み込みながら訴える。 どうしてこんな仕打ちを動物達に強いるのかと。 「安らかに眠っていた動物達を無理矢理叩き起こし、挙句が痛みを思わせる慟哭の声。……こんなにムカついたのは久し振りなんです」 だがその訴えに、重ねたマレットで攻撃を受け止めながら、男爵は苦笑を浮かべて首を振る。 「怒る気持ちは理解出来んでもないが、君は勘違いをしているのである」 「勘違い?」 「我輩は無理矢理起こしてもいなければ、輩達も安らかに眠っていたわけではない!」 得物が弾かれ、大気を奏でる鉄琴の響きにうさぎは吹き飛ばされる。踏み止まるには、うさぎは疲労し過ぎていた。 「っとと、セーフ!」 うさぎの体は、フォローに飛び込んだヘキサが自分の体をクッションにして受け止めた。辛うじて意識を保ったうさぎを抱え、男爵を睨む。 その視線を、男爵は堪らないといった様子で愉快げに笑って受け取った。 直後、男爵の喉元近くに反った刃が突きつけられる。 「鉄琴奏者……男爵とか言ったな。一つ聞きたい」 刃を向けているのは義衛郎である。彼の歩いてきた道には、2、3の動かなくなった動物の死骸が打ち捨てられている。 「ここで呼び起こした動物の数は30だったが、それ以上を操る事は出来るのか?」 「いかにも」 「即答か」 義衛郎は男爵の喉元に刃を向けたまま、少しだけ考える様子を見せた。 (霊園に眠る動物達は、地面の下、墓の中、納骨堂の中ともなればそれこそ100は悠に超えている。だがあのネクロマンサーはわざわざ30程度しか動かしていない) そして、理解に至る。 「そうか、それじゃやっぱり」 「理解していただけところで、緊急退避である!」 思考の一瞬の隙を突いて地面を蹴り、男爵は突きつけられた刃から弾丸のように距離を取った。そのままマレットを構え、空を叩く! 辛うじて回避行動を取った義衛郎だが、打ち込まれる衝撃に歯を食いしばる。 「爺さん! オレにも分かるように言えよ!」 「しっかりと答えてください」 ヘキサとうさぎが支え合う様に立ちながら声を張る。男爵はマレットで肩叩きしながらそれに答えた。 「簡単な事、動物達は皆望んで我輩と共に歩む道を選んだというまでである。演奏の先で、それぞれの『本当の主の元(ブレーメン)』へと行くために」 曰く、彼らが願っている物は、安らかな眠りなどではなく―― 「蘇って主人と再会したい。そのための万難を打ち破る道と力、それを望む者に我は力を貸しているのである。彼らの慟哭は、夢を邪魔する者達への威嚇なのである」 男爵の主張は、しかし即座に否定される。 「そんなのは、詐欺です。そうやって騙して利用しているに過ぎない」 「……どうもあちらさん、敵の大将と思いっきりガチっちまってるみてぇだ」 「みたいですね」 違う戦局。うさぎ達とは離れた場所で義弘と疾風は背中合わせになったまま、それぞれに大物との激闘を続けていた。 己の傷を癒す技術を有する疾風に比べ、義弘の消耗が激しい。意識も何度か手放しそうになったのを無理やり引き戻している状態だった。 「大分引っ掻き回されたからな、上手い事情報を引き出してくれりゃいいが」 「今私達に出来るのは、こいつらが向こうの援護に行かないようにする事だ!」 損耗が激しい中、男達は己が役目を十全以上に果たしていた。 さらに違う戦局。フラウと生佐目はうさぎ達の会話を耳に入れつつ、眼前の敵と対峙していた。 「……うちはね。それは間違ってるって思うんすよ」 死してなお動こうとするグレート・ピレニーズを前にして、フラウがよろける体の支えにしていた魔力剣を構える。 最期の力を振り絞り、迫り来る怪物へと力を解放した。 揺らめく体を幻惑の技の中へと落とし込み、通り抜け際にその巨体を切り刻む。 (此処がお前達のゴール。もう一度眠り、お前達の大切な誰かを見守ってやるっすよ) 命の理を破ってまで会う事、それは望んではいけない願いなのだと諭すように。 生佐目は倒れたフラウを庇うように、数匹の中型を前に立つ。 「貴方達が本当に痛みを感じているかは知らないが……こっちは痛い。超痛い」 ボロボロになった体の痛みを呪いに変えて、襲い来る中型三毛猫ゾンビの脳天へと刻み付ける。 呪いは破裂し、相手は動かなくなった。 「グリムアンドグリッティとはまさにこの事だな。詮がない」 皮肉る彼女の声は小さかった。 そこに中衛として前後衛を行き来していたヤガが何とか合流する。比較的被害が少ない彼女が、生佐目に並び立った。 「生佐目。正直な所その状態のお主を無事守り通す事は難しい。だがその代わり、残る化生共は悉くヤマが裁く」 「閻魔も多分、同胞だ。だから安心して任せよう」 冗談めかして笑いながら、生佐目はヤガに背中を任せると、迫る死体達に立ち向かっていった。 彼らは『アーク』のリベリスタである。 彼らの目的は世界を守る事。如何な理由があろうとも、それを貫く事を決めた組織の戦士達なのだ。 ●終わりの始まり それは詐欺だと言ううさぎの否定に、男爵は目を伏せ、軽く首を横に振った。 「然り。視方を変えればそのようにも受け止められる。それは否定しないのである」 であれば、と。彼はマレットを構えリベリスタ達に問うた。 「互いに正しさを主張している今、互いに共存できぬ考えがぶつかっている今。何をするべきかは明白であるな?」 「あんたを蹴っ飛ばす!」 「Jung! 兎っぽい少年よ、我輩そういう直線的な考え方する奴が大好きなのである!」 チャキ、と。鍔が鳴る。息を整え、義衛郎が立っていた。 「そう言ったからには覚悟は出来てるんだろうな、ネクロマンサー?」 「そう言うお主こそ、もはや虫の息という所であるな」 今この戦場で無事だとはっきり言えるリベリスタは一人もいなかった。回復役を欠くが故の速攻は、予想外の出来事により大きな被害を受けていたのだ。 「だがその意気やよし! その強き意志へ敬意を表し、我輩の奥義の一つを以て序幕のフィナーレとさせて貰うのである!」 不意に、男爵の周囲に火が点る。それは青白く輝きゆらゆらと揺らめく、まさしく人魂と呼ばれるそれであった。 「Seele(魂)を通す神秘の痛み、受けるがよい!」 マレットが躍り、空の鍵盤が軽やかに金管の音を響かせた。それを合図に、青白く燃える火がリベリスタ達へと襲い掛かった。 瞬間、彼らの前に一つの影が躍り出た。『侠気の盾』義弘だ。 「ここで動けない様じゃ、俺じゃないんでな!」 火は現れた彼を通り抜け、役目を終えたと消失する。そして、皆を守った義弘は倒れた。 「あの状況から己が見も顧みず庇いに来るか、見事である!」 賞賛の声を上げる男爵。そのままその身を翻し逃走を開始する。 「待て! お前達『楽団』の目的はなんだ! アークが狙いか!?」 大亀を討ち果たした疾風が、追い縋り声を掛ける。 男爵は彼の問いに、然り。と答えた。 「輩達よ、我輩の庇護ある内に、我輩と同じ方向へと駆けよ!」 そして。 「強者達よ。挨拶は済んだ! 組曲の序幕これにて終焉、その先でまた会おう!」 それだけを言い残し、楽団メンバー、男爵は僅かに残った中型のゾンビ達と共に戦場から姿を消した。 「……組曲の序幕、か」 大きな戦いが、始まろうとしていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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