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任侠劇 義理と人情、鋼の拳。

●『義理人情の男』拾咲・憐蔵
 ブラウンスーツにオールバックの男が、ハンドポケットで立っていた。
 煙草を口に加え、ぼんやりと空を眺めている。
 この様子だけを見るならば、彼が平和な日常を送っているように見えるかもしれない。
 だが周囲を見渡してみて欲しい。
 手に短刀や銃を持った二十人程の男達が、今にも殺しにかからんという顔で取り囲んでいるではないか。
 ブラウンスーツの男は煙草を摘まみ、地面に落とすと足でにじって火を消した。
「竜崎組も堕ちたもんだな」
「ンだとぉコラ、てめなんつったよ」
 パンチパーマにサングラスの男がけだるげに近づいてくる。
 手には短刀が握られていた。
「竜崎組も堕ちたもんだ……と言ったんだ」
 サングラス男の胸にはピンバッチがつけられ、『竜』の字を象った紋が描かれている。
 そしてブラウンスーツの男の胸にも、同じ紋のバッチがついていた。
 同じ組の人間。
 味方同士……であれば、こんな構図にはなるまい。
「憐蔵テメェ、この状況で抵抗すりゃどうなるか分かってんだろうが」
「ああ、分かってる」
 ブラウンスーツ。どうやら憐蔵というらしいこの男は、目を左右に動かして周囲の様子を覗った。
「フィクサード1人にノーフェイス15人。こっちはリベリスタ1人……」
 憐蔵は懐に手を入れ、一本の白木の棒を取り出した。
 否、それは鞘と柄である。かちりと刃を覗かせ、彼は目を細めた。
「俺の組はいつからこんな下衆どもの力を使うようになった」
「決まってんだろう。後ろ盾の無くなった俺達には力が要る。金が要る。兵隊が要る。となりゃあ、仕方ねえだろうが」
「仕方ねえで済ますんじゃねえ!」
 抜刀。
 その瞬間、相手のサングラスが真っ二つに裂け、宙を舞った。
 慌てて飛び退くパンチパーマの男。
「て、てめ――!」
「確かに俺らはクズの集まりだ。どうしようもねえ連中だ。だがな……ぶん殴られたら自力で立つ! 負けちまったら自力で這い上がる! それが人生ってもんだろうが! そんなことすら忘れちまったのか、うちの組は!」
「綺麗ごとで……綺麗ごとでメシが食えるかよ! 憐蔵ぉ!」
 短刀を振り上げる男。
 憐蔵もまた、白木柄の短刀を逆手に構えた。

 こうして始まったやくざ者同士の殺し合いは、ブランスーツの男『十咲憐蔵』の死を持って終幕する……筈であった。

●顔無兵団
「リベリスタの救出と、直後連動して発生するであろう周辺被害の回避……それが今回の任務です」
 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は淡々と説明をしていた。
 ある地域で活動していたフィクサードグループ『竜崎組』。
 かつての強さは時代の流れの中で失われ、自然消滅寸前に陥っていた。
 そんな中起死回生の手段として使ったのがノーフェイスの大幅雇用であった。情報網をフルに活用し、手当たり次第にノーフェイスを保護して兵隊として吸収していった。
 だがそんなやり方に反発した一人のヤクザがいた。
 名を十咲・憐蔵(じゅうざき・れんぞう)。
 彼はフィクサードを捨て、組をも捨て、意地だけで彼等に立ち向かっていった。
 冒頭の内容は、その一面である。
「この結果として憐蔵は死亡。彼の抵抗を受けて歯止めが効かなくなったノーフェイス兵団は周辺の一般人をある程度殺害した後漸く収まりをつける……予定です」
 予定。
 そう、予定。
 これはまだ起こっていない未来の話であり、まだ回避できる事件の話なのだ。
「皆さんにはこの戦闘に乱入し、ノーフェイス側を攻撃。彼らを撃破して事件の収拾を図って頂きます」
 一人の男の死。
 そして意味の無い惨殺事件。
 その未来を……。
「あなたの手に、託します」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:八重紅友禅  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 9人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年12月04日(火)23:19
 八重紅友禅でございます
 補足、いってみましょう。

●十咲憐蔵
 ジーニアスのクリミナルスタア。
 義理と人情の男。
 リベリスタ。
 レベルは不明ですが、これほどの男が弱くは無い筈です。

●ノーフェイス兵団
 ノーフェイス10体とフィクサード1人で構成されたチームです。
 短刀や銃で武装し、それなりの総合戦力をもっています。

 戦場は海岸沿いの大型倉庫内。
 非常に広い場所なので、戦闘に不便することは無い筈です。

※『任侠劇』はカテゴリータグです。類似名のシナリオとの直接的関係はありません。
参加NPC
 


■メイン参加者 9人■
デュランダル
鬼蔭 虎鐵(BNE000034)
クロスイージス
ソウル・ゴッド・ローゼス(BNE000220)
インヤンマスター
依代 椿(BNE000728)
ナイトクリーク
六・七(BNE003009)
クリミナルスタア
禍原 福松(BNE003517)
スターサジタリー
靖邦・Z・翔護(BNE003820)
ナイトクリーク
ロアン・シュヴァイヤー(BNE003963)
ソードミラージュ
鹿毛・E・ロウ(BNE004035)
デュランダル
稲葉・徹子(BNE004110)
   

●全ての人が人間として生きていくために
 今回アークリベリスタに齎された依頼内容を端的に述べるならばこうだ。
 フィクサード組織『竜崎組』構成員の殲滅。内訳はフィクサード一名とノーフェイス十名。現地にて無所属のリベリスタ一名も混在。生死不問。
 ただしこの一名のリベリスタが、彼等の間ではネックになっていた。
「昔ながらの筋者か。時代の流れに置いていかれても筋は通す。曲げられねえ物があるってことだ」
 車内ヒーターの熱を爪先に感じながら、『気焔万丈』ソウル・ゴッド・ローゼス(BNE000220)は車窓に肘を置いた。
 革シートに染みついた煙草の臭いが鼻につく。
「信念か。嫌いじゃねえぜ、男ってのはそうじゃねえとな」
 どこかしわがれた声でそう言うと、彼はスキンヘッドを機械の手で撫でる。
「その点、うちの十三代目はたいしたもんだ」
「誰が十三代目やねん」
 助手席から身を乗り出す『レッドシグナル』依代 椿(BNE000728)。
 煙草を車の灰皿に押し付けると、キッとソウルの顔を睨んだ。
 黒衣を着た結わえ髪の女である。頭身だけを見れば少女ともつかぬ幼顔だが、御年二十二だという。
「まあその十咲憐蔵ってのと竜崎組の構成員? 向きは違ぅても組のため。篤い義理人情ゆえの行動なんやろな。なんとかしてやりたいわ」
「しかし十咲憐蔵は組を裏切った身でござる。命が助かったと手これから先が苦しかろう……」
 後部座席では『自称・雷音の夫』鬼蔭 虎鐵(BNE000034)は刀を抱えたまま腕組みをしている。閉じていた目を開け、窓の外を見やった。
「堅気として生きていける覚悟が、果たして……」
「ぉぉぅ……」
 『本屋』六・七(BNE003009)。
 四人乗りの車の中で、ひとり身を小さくする。
「凄い車内だ……Vシネみたい……」

 一方、後続のワゴン車にて。
「義理人情ね、ふふ……結構じゃないか。気に入ったよ」
「本当か?」
「嘘じゃないよ。この世で一番厄介なのは人間だからね。そこへくると、『暗黙のルール』って大事でしょ?」
 小さなリールを指で器用に操作しながら、糸をくるくると巻きなおしていく『ピジョンブラッド』ロアン・シュヴァイヤー(BNE003963)。
 その横で、『糾える縄』禍原 福松(BNE003517)は軽く銃の点検をしていた。
「ルールか。ヤクザ同士の抗争など知ったことじゃない。だがカタギを巻き込むのはいただけないな。これも仕事だ」
「仕事ね……」
 ロアンはスイッチを押して糸を高速で巻き取り、金属蓋をしめてロックする。
 その仕草をバックミラー越しに見てから、『SHOGO』靖邦・Z・翔護(BNE003820)は自己主張を始めた。
「任侠ってさ、すごい簡単に言うと『善のための悪行』じゃないかってSHOGO思うんだ。弱いから、暴力で守るしかないんだろうなって。自分のことは自分でって理屈はキレイだけど強い人だけのものじゃん? 義理人情のおじさんがただ綺麗になるためだけに突っ張ってるとは、思いたくないなあ」

 ワゴン車最後部座席。
 『必殺特殊清掃人』鹿毛・E・ロウ(BNE004035)は糸目をほんのりと下げて窓の外を眺めていた。
「仕方ないでは済まされない。済まされないから斬り捨てる、と」
「だからって、見過ごせません」
 『娘一徹』稲葉・徹子(BNE004110)は両膝にしっかりと手を置いて、足元を見つめた。
「行きましょう」

●ただ生きていくことができないなら
 白刃煌めく歓楽街。
 昼夜問わず世界の影側に存在するここでドス(短刀)を抜いた所で咎める者はいない。
 パンチパーマの男と十咲憐蔵。二人のドスが打ち合わさり、互いの身体がどっしりと固定される。
 だが相手は加えて十人。一斉にとは言わないまでも、拳銃をまっすぐに持った男が憐蔵の脇腹へ狙いをつけた、その時である。
「御免ッ!」
 激しい衝撃。
 二人の男が宙を舞い、憐蔵たちの頭上を越え、反対側へ頭から不時着。ごろごろと転がって行く。反射的にそれを見て、憐蔵たちは振り返った。
「テメェは?」
「なに、拙者はしがないビスハでござる」
 虎鉄は抜身の刀で風を断つと、男たちの円陣内へゆらゆらと踏み込んで来た。
「拙者にも一枚かませろでござるよ」
 憐蔵と取っ組み合いになりながら、舌打ちするパンチパーマの男。
「ヨソモンが邪魔すんじゃねえ! 叩き出せ!」
「は、はい!」
 ドスを構えたノーフェイスたちが二人。虎鉄へ両サイドから飛び掛る。
 右へ対応しようと刀を振る虎鉄の一方、左側。
 徹子は強引に身を割り込ませてノーフェイスを弾き飛ばした。
 手には木刀。暦年の重みを感じさせるどっしりとした作りの棒である。
 徹子は若干顔を伏せ、前髪を垂らし、独り言のように呟いた。
「おじいちゃんは言ってました。『暴れる人に理を説くな』……」
 振り切りの態勢から、ゆっくり息を吐きながら直立姿勢へ。背筋を伸ばし、虎鉄に背を向けるようにして木刀を正眼に構える。
「良くないて、悪いって分かっていても、どうしようもないから傷付けてしまう。武術は、そんな人と向き合うための手段なんだ……って」
 だから。
 呟きが詠唱のように響き、徹子の両目を露わにする。
「勝った方が意を透視ます。それが暴力に生きる者の掟でしょう」
「……っ」
 パンチパーマの男が苦々しい顔をして押し黙った。
 一方で、やられたらやり返せとばかりに銃を向けてくるノーフェイスたち。
「知ったことか。これ以上首突っ込むんなら死んでもらうぜ!」
「ああ――お前がな!」
 発砲音。が、ノーフェイスはまだ引金を引いていない。コンマ以下のラグをおいて彼の手から跳ね飛ぶ銃。その直後に肩や脇、胸や腹に連続で衝撃が走り、それぞれの個所から血が噴き出した。
「うご、い、痛え……!」
「寒い日だからよく響く――キャッシュからの、パニッシュ!」
 独特のポーズをしながらしゃしゃり出る翔護、片手に持った銃を無意味に水平持ちしていた。
 まるで自分の手柄のように出てきたが、別に先刻の銃撃は彼の仕業ではない。
「義によってなどとは言わん。仕事上の都合で助太刀する」
 撃鉄を親指で押しながらすたすたと円陣内へ入ってくる福松。
「じゃ、そういうことで」
 翔護は今更のようにその場で一回転しながら銃をオート連射。福松の頭上(不本意ながら屈む必要は無かった)を越え、ノーフェイスたちへばらばらに銃弾を浴びせる。
「や、野郎ォ……ぶっ殺してやる!」
 こうなればもはや収まりはつかない。ノーフェイスの集団とは言え、構成員基準で言えば暴力を覚えたばかりのチンピラ集団。横から邪魔されれば払い除けたくなるものである。
 孤立した憐蔵のことを後回しにして翔護たちへと標的を移した。
 ――その途端。
「たとえばあんたらが九美上絡みで落ちぶれたかて、うちは頭ぁ下げんよ」
 声と共に、大量の鴉が通過。勢いづいて立ち上がった男を無惨に食い散らかし、煙のように消えた。
 崩れ落ちた男の骸の前に立ち止まり、椿は首をこきりと鳴らした。
「うちが現紅椿組十三代目組長――依代椿や」
「なっ……!」
 その言葉に敏感に反応するパンチパーマ。
 そして、額に血管を浮かせて怒鳴った。
「バカか貴様! 紅椿組の十三代目つったら一夜で九美上興和会を潰した野郎じゃねえか! てめぇみたいな小娘なわけあるかぁ!」
「ぇ……」
「依代椿っつうのはもっとこう、身の丈2mくらいの仁王像みたいなヤツに決まってるだろうが!」
「ぇ……でもうち……」
「やかましいんだよテメェら!」
 突如、何者かがノーフェイスの腹にパイルバンカーを叩き付け、雷撃と共に杭を貫通させた。
 崩れ落ちる男を跨ぐ。
「う、おお……」
「てめぇら、誰に断わってこのシマで遊んでやがんだ! ここが誰のシマか知らねえわけじゃあるめえ!」
 半裸にスキンヘッド、ジーンズと革靴のみを身に着け、口には葉巻、胸には龍のエンブレムを埋め込み機械の両腕でもって、ありえないサイズのパイルバンカーを担ぐ大男がそこにいた。
「「依代椿だあああああっ!」」
「違うわああああああっ!」
 反射的に銃を乱射する椿。
 その一方で、ソウルは憐蔵の顔を見た。
「俺が草履を脱いだ一家の姐さんがてめぇを見捨てられねえつってんだ。遠慮する必要はねえ」
「……勝手にしろ」
 パンチパーマから一旦離れた憐蔵が、ドスを逆手に握り直して言った。
「ええ、まあそうさせてもらいます」
 彼の背後を風が走る。
 否、風ではない。髪を後ろに束ねたグレースーツの男。ロウである。
 しかし疾風の如く彼は現れ、鎌鼬の如くノーフェイスを斬り捨てる。
「でも結局、助太刀とかそういうんじゃないんです。僕達の筋をとおすため、たまたま貴方とマトが重なってしまっただけですから」
 ロウは返す刀でノーフェイスの首を斬り落とすと、やんわりとした糸目のまま言った。
「お気になさらず」

「ま、そんなこんなで一緒に戦わせてもらってるけど」
 七は何処からともなく二本の暗器を取り出すと、周りを囲むノーフェイスたちに視線をはしらせた。
「まずはご挨拶ってことで」
 両サイドから突き出されたドスを、両手の暗器でそれぞれ弾く。
 更に腰を捻って前後からの攻撃を弾き、勢いをつけて身体をぐっと捻じると赤淵の眼鏡をきらりと光らせた。反射で目元が隠れたのはほんの一瞬。
 しかしその一瞬で七は捻じった反動を逆向きに解放していた。
 回転。そう述べれば単純に説明がつくが、爪先を立てていたアスファルトが黒く焼けつく程の回転がいかなるものか、説明がつくだろうか。
 しかもその直後、周囲のノーフェイスたちが残らず全身の幾つかの個所から血を噴き上げたとなれば、いかなる説明をつけられたものか。
「な、なんだこれ!」
「さあ――」
 頭上より、コートのはためく音。
 七とは若干離れた位置に、ロアンがすとんと降り立った。
 この場にはおよそ似つかわしくないキリスト系宗教服。銀髪に片眼鏡。複雑な模様の入ったストラが一拍遅れて垂れ下がる。
 驚きに目を剥くノーフェイス。
 勿論彼の恰好に意外性を感じたのも多少あるが、最も彼等の気を引いたのはロアンの着地点だった。周囲をみっちりとノーフェイスに囲まれた、まるで自ら檻の中へ飛び込むかのような行動に彼は出たのである。
「こ、こいつ――」
 死にたいのか、と述べようとした男の頭部がスライドした。
 そう、スライドしたのである。
 写真を斜めに切断したかのように、すっぱりと。
「あ、あああああああ!?」
 慌てて頭を抑えようとする男。
 彼を無視して、ロアンはリールのスイッチを押した。光の屈折によって一瞬だけ肉眼に映る鋼糸。
 糸を全て巻き戻し、ロアンは手を翳した。
 彼の横でノーフェイスの手首が吹き飛び、まるで支えを抜いた積木のように崩れていく。
 それに代わるように、彼の背後から影が舞いあがり、翼を広げてゆらゆらと蠢いた。
 翳した手で、前髪をすっとどける。
「懺悔の時間だよ、言い残すことはあるかな?」

●何をしてでも足掻くほかなく
「てめぇらの拳にゃぁ……」
 鈍器を振りかぶるソウル。
「重みがたんねえんだよ!」
 ドスで防御しようとするノーフェイスを強引に叩き伏せ。地面とパイルバンカーでサンドする。胸の龍紋から伸びた竜髭の如きコードが一瞬きらりと光り、杭がアスファルト深くへ叩き込まれる。無論、ノーフェイスの身体を通過してだ。
「この――!」
 背後から飛び掛るノーフェイス。
 しかし彼の真横の、息がかからんばかりの近さに七が突如出現。首筋を暗器でひと撫ですると、膝蹴りで相手を地面に蹴り転がした。
 血をふき、身悶えながら息絶えるノーフェイス。
 七は手首を眼鏡の淵にひっかけて位置を直した。
「改めて思うけど、ひとりをこれだけの人数で囲むのって男らしくないよねえ。ヤクザ屋さんってそういうものなの?」
「外したくない合コンって頭数揃えて行くじゃん? そういうアレかもね」
 翔護がムーンウォーク(と言う名のすり足)をしながら近寄ってきた。
 銃撃を受けながらも周囲へ発砲を続ける。
「ナニソレ?」
「必死なんだよ、みんな。生きていくのにさ」
「ふうん、僕にはそうは見えないけどな」
 ノーフェイスをぶつ切りに死ながら、背筋を伸ばして歩いてくるロアン。
「僅かな美点まで捨てて生き足掻くなんてゴミクズ以下だよ。生きてる価値もない。神様は見逃してるみたいだけど、僕が代わりに掃除してあげないとね」
 まるで幼子の頭を撫でるかのような微笑みで、彼は手刀を横凪に払った。前後左右のノーフェイスが見えない糸に血の飛沫を上げる。
 彼らがわざわざ身を固めようとしているのは、なにも会話を聞え良くするためばかりではない。
 残り少なくなってきたノーフェイスから憐蔵を確実に庇うべく、半円状の壁を作る為だった。
「大げさな連中だな、アークってやつは」
「憐蔵……」
 パンチパーマの男と数度打ち合い、汚れたブラウンスーツを手で払う憐蔵。
 そんな彼に、虎鉄が身を寄せた。
「おぬしはずっと裏社会で生きてきた。そう言うヤツはその世界でしか生きられぬよう染まるもの。ただしこれからは日の当たる場所、堅気に移る必要があるでござる。その覚悟が?」
「…………」
 沈黙する憐蔵。そんな彼の真横へ、ザッと靴底を滑らせてロウが現れた。
 刀を斜めに下し、憐蔵を中心にアシンメトリーに構える虎鉄とロウ。
「何やら難しい話ですねえ。あくまでこちらは利用しているだけの立場じゃありません――か」
 空を裂く二本の光。
 憐蔵の前に大きく一歩踏み出した虎鉄とロウが、クロスさせるように刀を振り切っていた。
 身体を三つに切断され、地面にばらばらと転がるノーフェイス。それが最後の一人である。
 いや、厳密に言えば最後の一人は……パンチパーマの男なのだが。
「クソ、親父から預かったノーフェイスがっ!」
 歯噛みするパンチパーマ。
 対して憐蔵はドスを懐にしまった。
「お前の負けだ、横田。ここは退(ひ)け」
「ンだと……俺はまだ負けてねえ……!」
 横田と呼ばれたパンチパーマはドスを腹の前で両手持ちし、突撃の構えをとる。
「テメェのタマだけでもとらねえと、俺は組に帰れねえんだよ!」
 突撃。目を見開く憐蔵。
 が、彼のドスが目的の場所に刺さることは無かった。
 福松の繰り出した拳が横田の顔面に炸裂。
 大きく彼の身体をのけぞらせたのだ。
「稲葉」
「はい!」
 大きく踏み込み、木刀で胴打ちを叩き込む徹子。振り切らずにそのまま回転し、斜め上から叩きつけるようにもう一撃。更に刀を返すまでもなくゴルフのマルチスイングのようなフォームで横田の脚を打ち据えた。木刀ならではの刃筋を『通さない』剣術である。
 思わず転倒する横田。その胸に片足を乗せ。椿は銃を突きつけた。
「ジブンの意思とうちの呪い、比べっこしようや」
 そして彼女は、引金を五回、連続で引いた。

●それを人は後に、『人生』と呼ぶ。
 どっかりと腰を下す憐蔵。
 よろめく様子が無かったが故に気づかなかったが、彼の全身は細かい刀傷だらけになっていた。
 恐らく体力的にも限界にあったのだろう。
 七は周囲の死屍累々な光景を見回して、ふうとため息をついた。
「潰れかけの組の最終手段か……栄枯盛衰っていうのかな。少し気の毒になってくるよ」
「そうだな。こんな世の中だ。後ろ盾を失った小規模組織の未来は見えてる。お前は、どうするつもりだ十咲?」
「……お前らには関係ない」
 少しばかりよろめきながらも、憐蔵はゆっくりと立ち上がった。
「後ろ盾っていうのは、九美上興和会か」
「それも関係ないことだ。これは、竜崎組の問題だ」
「だったらその、代紋を持ったままどこかの軒先を借りるとか……」
 ちらりと椿の顔を覗く徹子。
 その横で、わざとらしく両手を翳す翔護。
「そこにおわすはよりりん・ザ・チバヤクザ! なんとかならないチバヤクザ!?」
「や、ヤクザやないってなんど言うたら……!」
「紅椿組か」
 手を振って否定しようとする椿を、憐蔵は横目で見た。
「本当にあるとはな。だがこれじゃあ、組員も泣いてるだろうぜ」
「なんやて……?」
 ぴたりと手を止める椿。
「極道ってのは、自分がヤクザ(役立たず)だと自覚してから始まるもんだ。上のもんが胸張ってるのは大事かもしれねえが、綺麗なお手々でいたいってんじゃな。九美上潰しの噂も怪しくなってくるぜ」
「なんだとテメェ」
 顔を非対称に歪めるソウル。
 それを押しのけて、虎鉄は言った。
「テメェは……任侠魂を貫くのか?」
「だったらどうする」
「したら、アークに来ん? 蝮さんのとこやったら……」
「笑わせんな」
 よろよろと歩きながら、憐蔵は横田の枕元に屈んだ。頬をぺちぺちと叩く。
「俺たちは竜崎組……親父に一生ついていくと決めてんだよ。『生きるため』程度の理由で道を外れてたまるか。おい横田、起きろ」
「う、ぐぐ……」
 呻きながら身体を起こす横田。
「根性(フェイト)だけは一人前にありやがって。行くぞ」
 憐蔵は横田を引っ張り起こすと、そのまま歩いていこうとした。
「へえ……」
 顎を引くロアン。
 ロウも同じような表情をして、とりあえずと言う風に言った。
「これからどちらへ?」
「決まってんだろ」
 憐蔵は背を向けたまま。
「俺の信じた竜崎組を、取戻しに行くんだよ」
 言った。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
お疲れ様でした

十咲憐蔵のその後の行方は、知れていません。