●バンドネオンの女 ディアトニック・バンドネオンという楽器をご存じだろうか。 アコーディオンに分類される『押して引く』吹奏楽器だが、両側にボックスとボタンが配置されたバンドネオンという種の、中でも複雑怪奇なボタン配置で知られるディアトニックという形式に当たる。 その演奏風景はまるで空気を操っているかの如く、繊細かつ美しく、そして他に類を見ない程に幻想的であるという。 この物語の中心は、そんなバンドネオンの奏から始まった。 世闇を流れる風の音が、誰かの涙のように響いた。 音色はやがて波を打ち、ゆるやかな、そして穏やかな、眠りに誘うかのようなメロディへと変化していく。 見れば、二階建て民家の屋根には麻色の髪をした女が独り。 屋根に腰掛け、アコーディオンを弾いていた。 ディアトニック・バンドネオンと呼ばれる種の、黒い楽器だった。 全てのパーツが艶の無い黒。複雑なボタンの全てもが黒く、それは闇に解けるように……いや、闇に溶け出るように音を奏でていた。 窓を開けて首の無い少女が現れる。 少女の手には、彼女ものではない誰かの首が抱えれられている。 それは察するに、少女の母のものだった。 首無し少女は窓淵に足をかけ、背中より骨と皮の翼を生やした。左右非対称で歪な翼は音色に乗って、やや不器用に、しかし美しく空へと羽ばたき始める。 月夜へ浮かぶ歪な鳥。 それはしだいに二つに増え。 三つに増え。 四つ、五つ――。 そして生まれた無数の首無し少女たちは、夜の闇を優雅に……そしてあてどなく飛ぶ。 女は沈黙のまま、少女達を導くかのように、自らも翼を広げて月夜へと舞い上がった。 世闇を流れる風の音が、誰かの涙のように響いた。 ●首無し少女のゆくえ 日本国内である事件が起きていた。 その内容はこうだ。 ある日、空を舞う不思議な物体を目撃する。 それは首の無い自分の娘で、背中から何ともつかない歪な翼をはやし、楽しそうに飛んでいるのだという。 自宅に帰り、そのこと妻に話すと疲れているのだととがめられ、気持ちの悪いまま床に就く。 しかしその夜、首の無い少女が寝室へと入り込み、妻の首だけを切り取って持っていくと言うものだ。 勿論、妻を殺害された夫が『死んだ娘が失くした首を補いに来たのだ』などと証言した所で本気にはされない。 だがそんな事件……いや証言が十件を超えたことで、それは『連続した怪事件』として雑誌などに取りざたされることとなった。 もしこのまま事件が続けば、神秘の隠匿性は失われ、崩界が進んで行くだろう。 そうなる前に、フィクサードを倒さねばならない。 主犯者は……。 「名前はアデラーイデ。通称する所……『黙したバンドネオン』アデラーイデ」 解像度の悪い写真を表示し、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は説明を続けた。 種族、フライエンジェ。 バロックナイツ、ケイオスの私兵楽団がひとり。 そして……ネクロマンサー。 「彼女は楽器型アーティファクト『あてどない死』を使って死体を使役し、事件を起こしているの」 事件をひとつ起こすたび、バンドネオンを演奏しながらまるでパレードのようにひとけの無い山道を歩くという『趣味』を持っている。 人目を憚って襲撃するならそこしかないだろう。 「彼女の戦力は主要な『首無し少女』と、その犠牲になった無数の死体よ。一見脆そうに見えるけど、指一本になってでも襲い掛かってくる『動く死体』っていうのは想像以上に恐ろしいわ」 多くの死体は包丁やゴルフクラブと言った武器で襲い掛かってくるだけだが、『首無し少女』はアデラーイデの手下として動き、腕を骨の剣に変形させるなどして戦うらしい。 彼女達をある程度撃破し、撤退させれば任務は成功となる。 「少し辛い任務になるけど……放置するには危険すぎる事件でもあるわ。どうか、お願いね」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 9人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年11月28日(水)22:34 |
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■メイン参加者 9人■ | |||||
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●誰でもない人間の象徴 あらすじを語る。 フィクサードによって使役された『首無し死体』が家族や友人の首を切り取って新たな死体を作り、それがまた別の首を切り取って死体を作るというサイクルが生まれ、世間には連鎖的怪事件として広まりつつあった。 それが。 「指揮者様の演出ってわけかい……センスがねえんだよ、クソが!」 『墓掘』ランディ・益母(BNE001403)はぎりぎりと歯軋りをして、露出した木の根を蹴りつけた。 「こいつは、嫌いだ」 どちらかと言えば雄弁な『神速』司馬 鷲祐(BNE000288)はただそうとだけ言って、夕闇の向こうを睨んでいた。 事件の首謀者は『黙したバンドネオン』アデラーイデ。バロックナイツ・ケイオスの私兵楽団の一人である。 苦々しい顔で耳を撫でる『局地戦支援用狐巫女型ドジっ娘』神谷 小夜(BNE001462)。 「死体を操る敵と言うのは嫌ですが……それ以前にもっと、生理的に嫌な感じがします」 彼らがこのような崩界的、かつ社会凌辱的な作戦をあえて立てているのは、恐らくながらアークへの盛大なあてつけ行為だろう。狙いまでは分からないが。 「何が目的であれ、好き勝手はさせません。気にくわないですし、ねえ」 「そうだ。悪趣味極まる。アークをポーランド組織の二の舞にはさせん……」 足首を捻じってストレッチする『棘纏侍女』三島・五月(BNE002662)と、剣を握ってじっと息を殺す『折れぬ剣《デュランダル》』楠神 風斗(BNE001434)。 『ゲーマー人生』アーリィ・フラン・ベルジュ(BNE003082)は目をつぶって意識を集中させていた。 「五十体ものゾンビなんて……そのためにどれだけの人を」 「ちっ……」 樹幹に背を預け『ハティ・フローズヴィトニルソン』遊佐・司朗(BNE004072)はハンドポケットのまま舌打ちした。 「その死体で陰鬱なパレードか。感動のあまり反吐が出そうだよ」 「まさに『生かさず活かす』。兵法的には理想的ですけどね……」 「こちとら的が増えて楽しいなってもんですよ。好みじゃないですが」 「奇遇ですね」 『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)は重火器の安全装置を解除。『群体筆頭』阿野 弐升(BNE001158)はチェーンソーのエンジンを起動。 二人同時に、顔を上げた。 「……来たか」 闇夜に紛れ。 バンドネオンの奏が聞こえてくる。 首無しのパレードが、やってくる。 ●『死体』 羽ばたく翼。 不規則でリズミカルに伸縮アコーディオン。 複雑怪奇なボタン並びをそれ以上に複雑怪奇な指使いで操作し、麻色髪の女が月夜を滑るように飛んでゆく。 彼女の周りを囲むように、一定のリズムを刻んで更新する首無しの列。 女のすぐ近くを名指し難い羽で舞い飛ぶ首無し幼女の群。 首無しのパレードが、誰に聞かせることもなく山道を進んでゆく。 その中心こそ、『黙したバンドネオン』アデラーイデである。 彼女は暫し幻想的な演奏を続けていたがやがて進行を止め、一際大きな音を出した。 最高潮を現すような、長く高く震えるような音だ。 音に混じり。 いや、音に招き入れられるかのように、闇夜に飛び立つ一人の男があった。 「痛いかもしれんが、せめて」 月明かりを受け、上下反転した鷲祐はナイフを胸の前で交差したまま激しくスピン。外周を固める死体の群へと飛び込むと、目にもとまらぬ程の高速連蹴を繰り出した。 急激な連打に仰け反る死体。鷲介は駆けあがるように死体を『踏み台』にすると――。 「もう一撃だ!」 高く高く跳躍。頭上より飛び掛る首無し少女目がけてムーンサルトキックを繰り出した。 首無し少女の蹴りとぶつかり合い、弾かれ合い、月を背景に空を二分する。 そんな二人の間を抜けるように、軽やかに宙を舞う司朗。彼はハンドポケットのまま厚底の靴を振り上げると、空中でまず斜め方向に踵落とし。生まれた鎌鼬で首無し少女を牽制すると、やんわりと螺旋回転しながら着地する。 八方からゴルフクラブや出刃包丁などが一斉に翳されるが、彼は白い髪を僅かに乱すだけで、手をジャケットのポケットから一切抜くことは無かった。かと思えば高らかに足を振り上げスピン。爪先から暗器が飛び出し相手の包丁やクラブを跳ね退ける。 一回転して元の向きに戻り、乱れた前髪を漸く取り出した左手で直す。 「ふう……」 瞬きをひとつ。ため息をひとつ。 そして。 「回復してマジ死にそうだから助けて!」 「司朗さんさっきまであんなにクールでしたのに……」 「いいんだ、深雪ちゃんいないから」 目尻を拭って回復をかけてあげる小夜。 そうしている間にも、後からランディと弐枡が突撃。 夜露にぬれる土を蹴り上げ、斧とチェーンソーがアシンメトリーに振り上げられる。 「貴方と一緒に戦えて光栄ですよ。烈風陣使いとしては有名人ですからね」 「そりゃどうもな。阿野、パワーを込めろ!」 「言われなくとも!」 死体の群……いや、死体の壁へと飛び込む二人。 まるで巨大な土壁を抉り取らんばかりに、斧とチェーンソーのスピンが合わさり死体を強制的に掘って行く。 しかし死体の中に所々混じる首無し少女が腕を硬化させて斧とチェーンソーをそれぞれキャッチ。 地面に足を踏ん張って衝撃を吸収する。 そうしている間にも、まるで土砂崩れのように死体の群が彼等を囲んだ。 上半身だけになった死体がランディの脚に組み付き、下半身だけの死体が蹴りを繰り出してくる。 「いいねぇ、切っても砕いても湧いてくる」 ランディは死体を骨ごと踏み砕き、更に振り回した斧でとびかかる敵を薙ぎ払った。 飛び散った腕が宙を回転しながらわちゃわちゃと蠢き、弐枡に掴みかかろうとしたが、彼は片手で相手の手首を掴み、明後日の方向へと放り投げた。 「物理強度はともかく生命力がハンパじゃないですね。死体の癖に精力抜群とは良いジョークじゃないですか?」 「はあ、下痢した犬の鳴き声みたいですね。もしくはバッファローの糞か何かですか」 モニカはぼうっとした顔で重火器を構え、狂ったように駆け寄ってくる死体の群に重い射撃を繰り出す。 「小夜さん、翼もらえますか」 「あ、はい今!」 モニカは翼の加護を受けると、腰の捻りだけでは面倒だと言うように二メートル程上昇。 「これは見晴らしが良いですね。間違えました、『撃晴らし』が良いですね」 まるで銃座につくかのように身体を丸めると、その場で回転しながら機関銃を連射。群がる死体を薙ぎ払って行く。 目を細めるモニカ。 「それにしても……」 「敵の数が多すぎて壁が機能できないよ……!?」 アーリィは身を丸くしつつ、天使の歌を連続発動させていた。 「耐えるしかないでしょうね」 両腕を広げるように構え、アーリィたちへのラインを遮るように立ち塞がる五月。腕に点火。 「私は火力の低い分……棘で補います」 全速力で突っ込んできた死体に両腕でラリアットをかける。相手の身体にずぶりとめり込む棘。仰向けに転倒した死体に、倒れ込むように両肘をそれぞれ叩き込む。じたばたと暴れながらも炎に包まれてゆく死体。 そんな中、風斗は死体のひとつを剣で跳ね飛ばしていた。 宙を舞う死体が、衝撃に耐えきれずに空中で分裂し、臓物と血肉を月夜に吹き上げる。 やや腐りかけた血肉を顔に受けてなお、アデラーイデは演奏を続ける。 まるでそよ風でも受けたかのように、首をやんわりと振りながら。 『あなたたちは思ったより弱いんですね』とでも言いたげな曲調で風斗を見ろした。 「沈黙は金というが、お前の生み出す沈黙はどす黒い闇だ……」 周囲を見渡せば死体死体。 アデラーイデの首が何かの飾りに見えてくるほど、その全てに首がなかった。 こんな光景の中にいれば、自分に首があること自体が不自然に思えてくる。 気が狂っている。 「許さん……!」 両腕を失って尚突撃してくる死体をぶった切りながら、風斗は喉の奥で唸った。 ●死者の海と屍の丘 ……果して。 リベリスタ達がとった今回の作戦を乱暴に述べると『一塊になって捻じ込む』である。 恐らくは輪を何重にも囲うようにとられているであろう死体の群に対し、一丸となって奥まで捻じ込み、然る後的主力へダメージを与え続けるというものである。 できるだけ耐久力の少ないメンバーを後方に固め、がしがしと殴りあえる前衛チームを傘の様に前へ並べる手段をとっていたが、なにぶん作戦の形式が『捻じ込み』である以上敵に囲まれることになり、30体という異常なまでの敵数が逃げ場をぎっしりと奪う形になる。 失敗が人死にを生み、更にアデラーイデの兵隊を増やすことになる可能性があるが、成功すればアデラーイデの主力部隊に致命的打撃を与えることができる。 そんな、ハイリスクハイリターンな作戦だった。 計算外だったことと言えば、『死体』が思いのほかタフで面倒だったことだろうか。作戦目的が殲滅ではなく迎撃のラインに留まっている所からも、彼らの厄介さは知れようものである。 計40体と言う数を見たことで雑魚の群だと勘違いするのも致仕方ないことだが。 さて。 リベリスタ達は序盤かなり順調に敵の群を削って行った。 いくら死体が腕一本でも動けるとは言え、流石にブロック性能まではないらしく、ランディや弐枡たちの圧倒的な薙ぎ払いの前には『濡れ土にスコップ』である。回復もアーリィと小夜の二人がかりで行っていたので大抵のダメージは即座にフォローできていたし、目立ったBSもなく、特別進行が止まるような要素は無かった。アデラーイデも演奏に熱中して戦闘に加わる様子はなく、死体の殲滅は容易なものではないか……と、中盤にさしかかるまではそう思われていた。 アデラーイデの首無しパレードが本当の恐ろしさを見せたのはここからである。 銃身にしがみつく死体を無視してモニカはハニーコムガトリングを発砲。 背骨を粉々に粉砕された死体を抜け、大量の弾が周囲にばら撒かれる。 死体は上半身だけになっても銃身の上を這い、モニカの顔面に掴みかかった。 「……チッ!」 目に見えて嫌悪感を露わにするモニカ。 「アーリィさん、弾切れです」 「はい、チャージします!」 背中を合わせるように飛行し、インスタントチャージを発動させるアーリィ。 モニカはそれを受けて弾を再装填。再び薙ぎ払おうと引金を引いた、その時。 『………………!』 首無し少女が死体を盾に庇わせて突撃。 鋭化した腕でモニカの首をひっつかむと、信じられない握力で引きちぎった。 激しく血を噴き上げて落下するモニカ。 そこへ15体もの死体が突撃。モニカの全身をまるで鳥葬の如く引き千切って行った。首の無い鳥の、鳥葬である。 「ァッ……アッ……! ア゛アッ……!」 声にならない声をあげて痙攣するモニカ。声すら上がらなくなるまでにたったの7秒。回復する暇など微塵も無かった。 「モニカさ――ンッ!」 振り向いたアーリィ……の、眼球から3センチにボールペンの先があった。 死体と共にもつれ合って地面に落下するアーリィ。 小夜は背筋がぞくりとするのを感じた。 「敵の動き方が、変わってきてます……」 気付けば、アデラーイデの演奏がどこか狂気じみたぐるぐるとした曲調に変わっている。 「まずいです、バラバラに敵へ対応していた死体たちが、ひとりの対象に一斉攻撃を図るようになってます! 『首無し少女』も味方の死体を盾にして無理矢理に突っ込んでくるはずです、気を付けて!」 「気を付けんのはそっちでしょ、っと!」 小夜目がけて繰り出されたバットを、司朗が両腕のガードで受け止めていた。 が、その一発を後押しするように無数の鈍器が叩き込まれる。べきべきと折れていく腕。 「し、司朗さん下がって下さい! これ以上は」 「死んじゃうかもね。でもさ、しょうがないんだ……神谷さん、この先に必要だし……」 首無し少女が硬化した腕を叩き込んでくる。 ストレートパンチが司朗の額を強打し、小柄な体がきりもみして飛ぶ。 「耐久力の低い順、邪魔になる順から潰す作戦に出ましたか。まあ、アレも馬鹿じゃなかった、と……」 チェーンソーをフルスイングする弐枡。 誰の者とも知れない脚を直接ブレードに叩き付け、首無し少女が蹴りを繰り出してくる。 更に、四方から包丁を掲げた女の死体が飛び掛って来た。 歯を食いしばってチェーンソーをぶん回し、繰り出された腕ごとぶった切る。 が、その次の瞬間。ぶった切って宙へ飛ばしたはずの腕が反転し、ずるりと骨だけが露出し、四方から弐枡の身体に突き刺さった。 「ああ……」 ぽろりと煙草が落ちる。 「そこそこ愉しめました……次は、もっとノれる曲、リクエストしますよ」 膝から崩れ落ちる弐枡。 「このままでは、まずいですね……!」 誰かの腕を掴み、狂ったように叩きつけてくる死体。五月はそれを棘だらけの腕で受けつつ、忌々しげにつぶやいた。 彼女の場合防御しているだけでもそれなりのダメージを与えられるが、相手が全員捨て身の特攻をかけてきた場合は相性が悪い。 横目で仲間を見やる五月。 「風斗様?」 「一か八かだ……主力を潰して『これ以上戦うのは勿体ない』と思わせる!」 風斗は目の前の死体を踏み倒すと、そのまま中枢へと突撃した。 間に立ち塞がる首無し少女。 「邪魔だ!」 繰り出した剣が硬化腕に阻まれる。 首無し少女の肩越しに……いや、『首越し』にアデラーイデを睨む。 「死人に口なしとは言うが、首まで失くしてどういうつもりだ。そんなに人の声が煩わしいか!」 「…………」 沈黙したまま、躍動するような、どこか楽しげな演奏を始めるアデラーイデ。 「ならば嫌になるほど聞かせてやる。オレたちの生命の歌をな!」 「生命の歌か、そいつはいい……ギリギリでな!」 アデラーイデの頭上。高く飛び上がっていたランディが斧を大上段に振り上げていた。 「死が大好きなお前らには生なんて必要ねえだろ。演奏の礼だ、もらってくれや!」 またも間に割り込む首無し少女。 しかしランディは目を大きく開き、体重を自らのエネルギーを全て注ぎ込んで圧し切った。身体を斜めに無理矢理切断される首無し少女。 そしてごろりと転がる、首無し少女の亡骸。 「………………」 瞬間、アデラーイデの演奏がほんの僅かに止まった。 「命は価値だ。お前はその価値を無為なパレードの演者にする」 高速で、首無し少女たちを潜り抜けてくる鷲祐。 素早く身を捻り、脚を振り上げる。 「俺はお前が嫌いだ」 踵を突き出しての蹴り。 アデラーイデはそれを、バンドネオン型アーティファクト『あてどない死』で受け止めた。 ビィンという奇妙な音が出て、アデラーイデは片眉を上げる。 「わたシは」 しわがれた声が漏れた。 「わたシいがい、ぜんぶきらいだ」 言い切ると、再びバンドネオンを高く長く奏で、鷲祐から大きく距離をとった。 彼女に続いてわらわらと撤退していく死体たち。 「逃がすか!」 追いかけようとしたランディたちだが、脚に絡みついた腕やら脚やらが彼等の行く手を阻んだ。 誰かの腕を蹴飛ばして叫ぶ風斗。 「貴様の顔は……忘れんぞ!」 『黙したバンドネオン』アデラーイデと首無しパレードは、その後一切目撃されることは無くなった。 だが彼女が死んだわけではない。 またいずれ、我々の前に姿を現すことだろう。 今以上の狂気を、引き連れて。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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