● 午前六時。起床。カラスの鳴き声がガンガンと耳を打つ。透き通る日差しの眩しいいつも通りの朝だ。身体を刺すような寒さを我慢しながらストーブを点ける。洗面台に向かい、意を決して両手に溜めた水を顔にぶつける。冷たいというよりも、もはや痛い。トーストを焼いてハチミツを塗っただけの簡単な朝食をとる。何気なく外を眺めると、灰色の雲が冬の寒さを象徴するように空を蠢いていた。スーツに着替えてコートを羽織り、会社に向かう。 午前八時。会社に到着。平常通り仕事をする。途中、上司が何やらご機嫌斜めの様子。どうやら後輩がドジ踏んだらしい。落ち込む後輩にコーヒーをおごってやった。ついでに悩みも聞いてみる。スッキリしたのか、満面の笑みをこちらに向けてきた。可愛い。今度食事にでも連れてってやろうか。 午前十二時。昼食をとりに出る。昔は弁当を毎日作っていたが、最近は外食に凝っている。さっきの後輩に誘われたが、昼食は一人と決めているので断った。残念そうにしている。可愛い。連れて行くのはいつがいいだろう、などと考えながら適当に見繕い、側にいた人を捕まえて会話しながら昼食を済ませる。今日は少しいまいちだった。やはり適当は良くない。 午後三時。小腹が空いたので、持ってきておいた昨日の夕飯の残りで空腹を満たす。誰にも見つからないように素早く食べる。上司に見つかるとまた面倒だ。腹に詰まる感覚を水分で流し込み、仕事を再開する。至って順調だ。これなら定時前に帰ってしまいたいくらいだ。 午後五時。終業。今日は残業をせずに帰る。上司の視線が若干痛いが、今日中にやる仕事がないのは彼も分かっていることだ、嫌みを口にすることは無い。残業に勤しむ同僚を横目に、会社を出る。 間もなくガヤガヤとざわめく声が聞こえた。聞こえた話から察するに、どうやら近くの会社の社員が行方不明であるらしい。最近はこの周辺で行方不明騒ぎが頻繁に起きているとのことらしい。気をつけなければなと人知れず気を引き締める。 午後十時。辺りには静寂に包まれていた。白い息を微かに視界に捉えながら、街灯など僅かもない帰り道を闊歩する。背負った人間が時折地面に身を任せようと傾いたり、寝返りを打つように暴れたりするが、その度に立ち止まって宥める他無かった。 そしてようやく家に着く。街の中心地からかなり離れた所にある一軒家だ。父から譲り受けたこの家はボロボロで、立派な見た目を期待するなら全体を修繕するくらいでないといけないだろうが、普通に住む分にはまだまだ大丈夫だ。動かす度に大きな音のなるドアを開け、家に入る。 彼はキッチンにいた。居間に入ってやっと帰ってきたのに気付いたのか、こちらに目線だけを向ける。 「遅くなってごめんな」 一言詫びを入れると、彼は恨み言の一つも言わずに視線を戻す。その寛容さに思わず笑みを零しながら、手に持っていたものを彼に差し出した。 「食材は置いておくから、あとは頼むね」 了承する彼を後目に、着替えるために自分の部屋に向かう。他の皆も待ちくたびれているようだ。悪いことをしたな、と思いながら、ネクタイを緩めた。 ● 「一般人に被害を与えてるノーフェイスがいてね。そいつを倒して来て欲しいんだ」 『鏡花水月』氷澄 鏡華(nBNE000237)がノーフェイスと言ったそれは、一見平凡なサラリーマンのような格好をしていた。行動もまた一見正常であるようにも思える。だがそれはあくまで、表面上そう見えているに過ぎない。 「こいつの主食は人間。会社の休み時間に人間を捕まえて食い、帰り道で捕まえた人間を調理して食う。こいつの周辺では最近失踪事件が多発しているみたいだけど、その全てがこいつのせいだね」 ノーフェイスが普通の人間に紛れて、あまつさえ異常な行動を起こしながらも平然と生活している、という実態は何とも奇妙で、恐ろしい。そして周囲に気付かれずに、その異常性を発揮しているということもまた、同様に恐ろしい。 「こいつが寝床にしている家があるんだけど、そこにはそいつが今までに食ってきた人間の骨が、エリューション化して存在している。これも放っておくわけにはいかないから、同じく倒して来て欲しい」 夜、家にいる時か、あるいは家に帰ってくる途中に倒すのが良いだろうと鏡華は言う。それならば家にいるアンデッドもまとめて倒せるだろうから好都合だ。 いくら弱肉強食、弱ければ食われるが自然の摂理とはいえ、人間としてはそんなものは望ましくはない。これ以上の被害を出すわけにはいかないだろう。可能な限り早く、この食人鬼を討伐するのが得策だ。 「それじゃあ、よろしくね」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:天夜 薄 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年11月30日(金)23:21 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「まともな面して、どうしてこうも狂ってやがるんだ」 『銀狼のオクルス』草臥 木蓮(BNE002229)は愚痴るように言う。それは表面だけを見るならば普通の人間とほとんど同等だ。日々の生活を送る中で変わった点と言えば、人間を喰らうこと以外に特になさそうだ。もっとも、その一点が極めて問題なのだが。 どれだけ表面がまともであっても、やってることが最低なのに変わりはない。木蓮がかつてであった人食いは、どれもこれもまともではなかった。あのノーフェイスもまた、類に漏れることなどありはしない。 「ここで討ち殺す!」 木蓮を含むリベリスタがそれを待ち構えるのは、それの根城からやや離れた、人通りのほとんどない場所であった。ノーフェイス、ハスヌマユウイチの家は街の中心部から大分離れた所にあった。その家の周囲に住んでいる人間もそれほど多くなく、人目を気にするように静かに暮らしているようだった。この辺りで行方不明が起きたという話も全くない。 それを聞く限りでは、ユウイチは自身の異常性を認知しているのではないかと『三高平のモーセ』毛瀬・小五郎(BNE003953)は思う。日常を自身を隠し通しつつも平常に送っている彼が、未だ自身を普通の人間と思っていることもまたあり得ることだ。だがそのための理性や知性を発揮するためには、ある程度自身の異常を理解していなければ難しいだろう。もしも、ユウイチがそれを自覚していたならば、殊更に厄介だろうなあと、小五郎は危惧した。 「ひとを喰らうひとでなし、か……なかなか興味をそそられますね」 待ち構える『シャドーストライカー』レイチェル・ガーネット(BNE002439)の目に僅か、後方の街の光に落ちた黒い影が映る。それが果たして彼であるかはレイチェルはまだ確信は持てなかったが、それの様子を彼女はジッと見つめた。 ヒトと同じ外見ながらも、ヒトとは完全に異なる中身をもつバケモノ。 ユウイチが、どんな理由で、何を求めて、そうなったのか。レイチェルのは知りたくもあった。けれども、最終的にやることは、たった一つだ。レイチェルが手にした得物が、月明かりに晒されて僅かに光る。 「人類の敵として、速やかに処分させていただきます」 ● 午後十時。いつも通りの時間。今日は月がキレイだ。背中で眠る彼もそう思っているだろうか。否、眠ったままで分かることではないだろう。彼と一緒に、この月を見ることは無いだろうと思うと、やや胸が狂おしくも感じられる。だが仕方の無いことだ。彼はどうしようもなく、この喉を振るわせてしまうのだから。 家まで後少しという所でふと、僅かに違和感を覚える。それは人を食うことを始めたが故、研ぎすませた感覚から生じるものだと思われた。この周囲に住んでいる人は確かにいる。だが今周囲にある気配は、それとは全く異質であり、何よりそれら数は知らぬ振りをするには多すぎた。 「よう、ハスヌマとやら」 初めに見えたのは男だ。年齢は四十代前半といった所だろうか。年の割にだらしが無く、チャラチャラしているようにも見えるが、そのうさん臭さに危機感が増した。 やがて周囲に続々と人が現れる。青い髪をした中性的な麗人、なぜか猫耳の生えた少女、冷酷そうな男、女性と見まがうような顔立ちの少年。坊主頭の男はいかにも住職だというような服装をしており、最後に鹿の角の生えた女性が現れたときには既に、脳内を逃走の意思だけが埋め尽くしていた。 彼らが最初の一手を打つ前に走り出す。逃げなければ。僅かに残った正常が脚を動かし、身体を埋め尽くした異常性が沸き立って、血肉が熱を帯びた。それにより自分が食った彼らが反応している確信を得る。 「……行きます、狙ってください。」 僅か出来た希望は、自分をかすめていった何かの気配により影を落とす。後ろの彼が死角になったのが功を奏したろうか、ギリギリで当たらずに済んだようだ。声色から、猫耳の少女がやったのだと思われたが、それを気にしている暇など無い。死の気配が緩やかに、自分に近付いてきているのを感じる。 血の気が引いて、そのまま地を蹴った。 ● 「これまでの行いのツケを払ってもらおうか」 『闘争アップリカート』須賀 義衛郎(BNE000465)がユウイチを遮ろうと彼の前に出る。逃走を試みる彼の動きは、背中に人間を背負っているがために鈍くなっている。その状態のまま、逃げられる程、リベリスタも甘くない。 「どけよ!」 だがユウイチは気の動転を抑えられぬまま、立ちはだかる義衛郎に向け拳を振るう。義衛郎はそれを軽々避けてみせると、ユウイチを背負った人間ごと突き飛ばした。 「ぐっ!?」 ユウイチに背負われていた男は、地面に叩き付けられると僅かに呻いた。そして打ち付けた場所を摩りながら起き上がるとキョロキョロと周囲を見回した。 「何なんだよもう……?」 男の目に映ったのは、先ほどまで一緒に酒を飲んでいた先輩が、集団と戦っている光景である。男は面を食らったようにただ、それを見ていた。 「は、え……先輩!?」 「ちょっと落ち着いてね」 『やわらかクロスイージス』内薙・智夫(BNE001581)は倒れた男に近寄ると、彼を守るように立ちはだかりながら声をかけた。 「お、落ち着いていられるかよ。お前ら先輩に何して……」 「最近行方不明事件が起きているの、知ってるよね?」 「あ、ああ……」 「ハスヌマさん、その事件の犯人なんだよ」 智夫がそう言うと、男は事態を完全に飲み込めていないのか、言葉を返せずにいた。智夫は彼に気を遣りつつも、小五郎に彼を任せる。 「気にせんでもよい。ワシが庇いますからな」 「あ、あんた俺より弱そうだが大丈夫なのか……?」 気の動転した男は、リベリスタが戦っているのが誰なのかも忘れ、率直な疑問を投げかける。小五郎は顔に微笑みを称えながら、返した。 「大丈夫じゃ」 ユウイチは後輩のことを気にはするが、気を抜けばすぐに死が訪れる状況であり、それに対して行動する余裕はほとんどなかった。まごつく彼の肩を白色の式神が鋭く射抜いた。ユウイチが顔を歪めて、振り向く。 「余所見してる場合かい? 死にてえなら別だけどな」 『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)が挑発するように言う。ユウイチは拳に力をこめつつ、フツに向けて飛びかかった。フツが回避の動きを見せるより先にユウイチはフツに接近し、その腹を拳で抉った。フツは身体に残る痛みに動きを鈍らせる。 フツへの追撃を目論み身体を転回させるユウイチを、『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)の放った十字の光線が打ち抜いた。衝撃によろけたユウイチは勢いを殺すように、やや大げさに着地した。 「人食いの貴殿は、もう人間社会では生きられないんですよ」 それは自身の狂い様を自覚しているのだろうかとアラストールは思慮を巡らせる。自覚の無いそれほど厄介なものは無い。 人を食う狂人はやや落胆したように俯くと、陰気な声で呟いた。 「……やっぱり無理なんだろうな」 カニバリズムの異常性は、かつて彼が人間であったのなら理解しているはずだろう。彼が今なお、平常な生活を続けられる程度にまともであるならば、その理解が脳内から掻き消えていないことも不思議ではない。 「でもどうせ、社会からいなくなったって生かしちゃくれないんだろ?」 どちらにせよ異常者であるかれは、不気味に笑みとアラストールに向け飛び上がり、急降下した。 「……当然。運命を持たない異物は、この世界の生存権はありませんので」 ユウイチの拳がアラストールを打ち抜く。アラストールの身体を駆け巡る激痛は、アラストールの思考を僅かに狂わせる。 「使用人付きなんだろう? お前の家」 『住所不定』斎藤・和人(BNE004070)はアラストールへの攻撃の反動で出来た隙をついて、大上段から盾を打下ろす。跳ねるようにその場から飛び退いたユウイチは、和人を思いきり睨んだ。 「文句ひとつ言わねー従順な使用人付き、しかもそれはそいつに喰われた奴等ってか。スゲーサイクルだな、おい」 「別に、食った奴らが勝手に動いてるだけさ」 「殺られてなおそいつのいいなりとか、俺なら絶対ゴメンだけどな」 和人は冷たく言い放ち、ユウイチを睨み返す。ややあって、飛んできた攻撃をユウイチは回避する。ユウイチの逃げ場の無いように、和人は静かに立ちはだかった。 ● 「ちょっと良いですか?」 ユウイチと視線が交錯したのを見るや否や、レイチェルは問いかける。ユウイチは答えない、というよりも答える暇がない。 「貴方はどうして人を食べるんですか?」 「……お前、牛や豚を食うときにどう思う? そいつが答えだよ」 面倒くさそうに答えたユウイチはフツの展開した結界に脚を取られ、動きを鈍くする。レイチェルは気にせず問いかけた。 「自分を味見したいと思った事は?」 「あいにく、自傷癖は無いんでね」 小五郎が真空刃をユウイチの周囲に生じさせる。ユウイチはその全てを避けることなど適わない。 「じゃあ──」 「うるせえな、お前」 苛立ったようにユウイチはレイチェルの方を向き、彼女に向けて走り出した。彼女を庇うフツの表情が強張る。 「すいませんね、気になって仕方が無くて、ね」 レイチェルが放った気糸が鋭くユウイチの脚を突いた。掬い上げられるように浮かび上がったユウイチは、素早く前転してから立ち上がるが、脚に蔓延る痛みが彼を微かに蹌踉けさせる。 「悪食故の悲劇だ、身に染みるだろう」 義衛郎は言いながら、目にも留まらぬ剣技をユウイチに仕掛ける。ユウイチはふらつく身体でそれを受けると、転がりながらなお立った。息はとうに切れ切れだった。 一人立ち向かうユウイチの身体は既にボロボロだ。助けるものも無く、逃げ場も無い狂人を救う刃は、彼の目に映らない。 「おい、死にそうじゃ無いか! やめてやれよ!」 小五郎の肩を揺すって、庇われていた男は叫んだ。身体を揺動され、言葉もあやふやな小五郎に、男は尚も叫ぶ。 「罪を償えばいいだろ! 何もここで殺すこと──」 言葉を遮って、聖なる光線が男を撃った。ドサリと、音を立てて崩れ落ちる男に、智夫は小さく呟いた。 「……ごめんね」 「人喰らうものはもう人ではありませんのじゃ。彼は、人の道から転がり落ちてしまったのでスじゃ」 男が倒れるのを見ながら、小五郎は静かに言う。 「……貴様ァ!」 倒れる後輩の様子を見て、ユウイチは熱り立った。息も絶え絶えな身体を無理矢理動かし、智夫に向け走り出した。その拳は思いきり智夫に振り下ろされ、彼の意識を朦朧とさせる。興奮する彼を、木蓮が正確に撃った。 「なあ、食うつもりだったんだろ? それにしては情が移り過ぎじゃねえか?」 木蓮が言葉を投げかけると、ユウイチは憤怒の形相で彼女を見た。そして唸るような声で答えた。 「てめえに、わかるもんじゃねえよ」 「……わかりたくもねえな」 ユウイチを撃とうと再びライフルを構える木蓮に向け、ユウイチは接近する。だがリベリスタの攻撃が彼にそれを許さない。 「なあ……鹿と人間、どっちの味がするか興味ないか?」 木蓮は問いかけると同時、引き金を引いた。答える間もなく、銃弾はユウイチの腹を打ち抜いた。 「……興味、ないな」 痛みに、ユウイチは動きを止める。ゆっくりと、木蓮の方に顔を向けながら、掠れた声で言った。 「どうせ、まずい」 「……そうかい」 木蓮が寂しそうにユウイチを見つめる最中、アラストールが剣を振り上げてユウイチに接近する。剣は光を帯びて輝き、アラストールはそれを思いきり振り下ろし、ユウイチを切り裂いた。ユウイチは仰向けに倒れていく。バタリと、地に叩き付けられる音の背景には、カチャカチャと何かが打ち合わさる音が響き渡り始めていた。 「とっとと解放してやんなきゃな」 和人はその音を聞きながら、呟いた。ユウイチがどういうことをしていたエリューションなのか、また彼の周囲はどういう状況だったか。それを知るものには、この音の主が何なのか、分かっている。 やがて骨となってもなお動き続けているアンデッドの姿が、リベリスタの目に映る。かつてユウイチの食った人間が革醒し、彼に付き従うようになったものだ。和人は、まだ息の残っているユウイチを見下ろしつつ、言った。 「あいつ等との生活は楽しかったか?」 世話をしてくれる誰かがいる。そういう環境に、和人とて憧れないわけではない。だがそれが『彼ら』であるのは駄目だと、和人は思う。何が駄目なのか、ユウイチには決して理解できないだろうことも、また。 「次に生まれた時はマトモな手段でやれよな」 吐き捨てるように言うと、和人は迫り来るアンデッドの群れに向け走り出す。 「最後に、いいですか?」 レイチェルは、再びユウイチに問いかける。ユウイチは殺意も、怒りも無い無表情で、レイチェルを見た。レイチェルは彼をジッと見つめる。自分は今、どんな表情をしているんだろうと思いながら。彼には今、自分はどんな風に見えているんだろうと、思いながら。 「今まで一番美味しかったのは、どんなひと?」 ユウイチは掠れた声で、ボソボソと答えた。 「母親が美味かったのは……正直、怖かったな……」 冷徹に答える彼の表情が、レイチェルには殊更不気味に見えた。 「そうですか……ありがとうございます」 レイチェルは静かにスッと狙いをユウイチの頭に向け、気糸で正確に狙い撃った。頭蓋を抉り、ユウイチの生命を完全に削り取る。その終末を見ずに、レイチェルは仲間と共にアンデッドを討ちに向かう。ユウイチよりも遥かに数は多い。だがしかし、主を失った彼らが抗える時間は、それほど多くはない。 ● フツが突き出した一撃が、アンデッドに二度目の死を与える。膝を折り、地面に倒れ伏すと、アンデッドの身体を構成していた骨は一斉に散乱した。カランカランと音を立てて、一片の骨がフツの足下に転がる。その様子を見つつ、やがてフツは周囲を見る。 ユウイチの配下にあったアンデッドは、彼が死んだことによりリベリスタにはそれほどの脅威にはならなかった。手数の多さや攻撃の鋭さからリベリスタに傷をつけたものの、その程度は低いものであった。ユウイチの元に駆けつけた時六体存在していた彼らは、その全てがバラバラな骨片に成り果てていた。 義衛郎は散らばった骨を一つ一つ拾い集めていた。彼らはユウイチに食われ、現世に縛り付けられていた、被害者に過ぎないのだ。見捨てたままで立ち去るのは、あまりに悲しすぎる。 フツはやがて顔を伏せ、念仏を上げ始める。小五郎はそれを見ながらふと、呟いた。 「運命とは残酷なものですな……」 静まり返った戦場に、彼の声が哀しく、響き渡った。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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