●組曲 死者は何も語らない。この世界は生きている者の領域。死者が語るべきことはない。 だが死者の声を聞くことができる神秘がある。生と死の境を曖昧にし、その仲立ちをする神秘。 ネクロマンシー。そう言われる術。 「泣いておる。そうか……苦しいのか」 とある山道、一人の老人が道端で誰かに語りかける。そこには誰もいない。ただ小さな岩があるだけ。 それは墓石。かつて戦国と呼ばれた時代に名もなき兵士たちをまとめて弔った物。その事実は時とともに人々の記憶から薄れ、ただの景観となっていた。 老人はその岩から泣き声を感じていた。しわくちゃの顔を悲しそうに歪め、声に同意するように何度も頷いていた。 「そうか……。もっと戦いたかったか。無念じゃろう無念じゃろう」 老人は持っていたケースを開く。老人とともに時を過ごしてきたビオラを手にして、音色を奏でた。聞くものを穏やかにさせる旋律が山に響く。その旋律の中に、死者を操る神秘が含まれているなど誰が想像できようか。 「体はこちらで用意しよう。その無念、晴らすがいい。『楽団』に加わるのはその後でよいぞ。 恨みを晴らしたその後で、カントーリオ様の組曲の為に存分に励むんじゃ」 山から少し離れた墓地。 墓石が倒れ、そこから骨が立ち上がる。骨と骨のつなぎ目を神秘の力でつなぎ合わせ、あたかも生きているかのように動き出す。 復讐を。我が領地を滅ぼした者に死を。 もはや彼らを雇った一族も占領した者達も歴史の中に消えていったのに。そこにいるのは何の関係もない者たちなのに。 髑髏の武士はゆっくりと行進する。ビオレの音色に従うように。 ●アーク 「イチニイマルマル。ブリーフィングを開始します」 録音機にスイッチを入れて、資料を開く。『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は集まったリベリスタたちの顔を見ながらこれから起こるであろう神秘の説明を始めた。 「……神秘による虐殺を止めてください」 和泉を知るものは彼女の言葉に疑問符を浮かべる。一瞬言いよどみ、そして曖昧な指令を出す彼女に怪訝な顔を向けた。 「すみません。こちらも情報が不足しています。 わかっている範囲で説明します。とある村で突如墓から死体がよみがえるという事件が起きました」 「? Eアンデッドってことか?」 リベリスタの言葉に首を横に振る和泉。これがEアンデッドなら指令はもっと簡単だっただろう。 「わかりません。これがエリューションによるものなのか、あるいはアーティファクトによるものなのか。とにかく死体が起き上がり、村人を襲う未来が予知されました。 髑髏の襲撃者は寺を襲って武器を調達し、その足で村人を襲います」 モニターに映し出されるのは白骨死体の行進と、血まみれで伏す住職。そして背後でビオレを奏でる老人。 その老人の演奏に合わせて、住職の体が起き上がる。その瞳は濁って何も写していない。明らかに死んでいるとわかるのに、その動きは生前以上の力強さを感じさせる。 魔術に詳しいものはその様を見て、ひとつの単語にたどり着く。 「――ネクロマンシー」 「先日バロックナイツの『ケイオス・“コンダクター”・カントーリオ』の日本進入を確認しました。死者の操作に長けるとの噂ですが、なんにせよ情報が不足している状態です」 なるほど、とリベリスタは納得する。確かにアークでは初のケースだ。術者を倒せば死者は止まるのかもわからない。とまらないのかもしれない。どちらにせよ『万華鏡』が出した結論は、情報不足だ。 「最優先目的は死者達を止めることです。タフネス――という言葉が死者に当てはまるかはわかりませんが――も高く、性格も獰猛です。腕が壊れても構わず突き進んでくるでしょう。 そして可能なら、多くの情報を得てください」 「この老人を捕まえれれば、それが一番なんだろうな」 「はい。……ですが」 和泉の不安をリベリスタは察する。未知の能力を持つフィクサード。死者を相手しながら実力のわからない相手を捕らえるのは容易ではない。それに手を裂いて死者を倒せなければ本末転倒だ。 とにかくできることをやるしかない。 気合を入れて、リベリスタたちはブリーフィングルームを出た。 ●復讐ラメンタービレ 「じ、住職さん!? どうしたんですかそんな大きな槌もっ――え?」 「が、骸骨が……!? 助けてく……っうあ!」 「おかーさん、おかーさーん!」 かくて組曲は始まりを告げる。ビオレを奏でる老人は、静かにつぶやいた。 ――復讐ラメンタービレ(悲しく)。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年12月02日(日)22:33 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
● 先端を切ったのは『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)。愛刀の『黒曜』を引き抜き、声高々に叫ぶ 「我が名は戦場ヶ原舞姫! 貴様らの領地など攻め滅ぼしてくれよう。かかって参れ!」 その声は戦場に響き、骸の兵団はその刃を舞姫に向ける。、半身をずらして隻眼で睨む。この一瞬こそ攻防の要。相手の刀を脇差で反らしながら舞姫は倒れている母と子を見た。 「……確認するまでもねぇな」 倒れている母親の様子を見て『さすらいの遊び人』ブレス・ダブルクロス(BNE003169)は歯を食いしばった。黙祷をささげる余裕するらない。目の前に迫る骸骨を相手しなければならないからだ。舞姫に多くが殺到したが、それでも全てというわけではない。銃剣を手に迫る日本刀を受け止める。 「ごめんね。だけど、貴方を救わないとお母さんの犠牲を無駄にしてしまうの」 母親の死に泣きじゃくる子供の下に『エンジェルナイト』セラフィーナ・ハーシェル(BNE003738)が走る。白い羽を広げ、優しく子供の元にたどりつくと両手で子供を抱えた。頭を軽くなでてから、立ち上がりざまに回転する。遠心力を利用して子供を死体の群れから離すために投げた。 「ようチビ。お前さんのお袋さんは立派だぜ」 その子供を受け止めたのは、『機械鹿』腕押 暖簾(BNE003400)。子供を抱えたまま戦場から子供を逃がそうと後ろに走る。体を張って自分の子供を守った母親に敬意を表する。十分な位置まで下がったら中折れ帽の位置を直して、子供の目を見た。 「後は俺達に任せて逃げな。お前を守ったお袋さんの意思を俺達に継がせてくれ」 母親の死体を前に戸惑う子供を前に、暖簾は子供に中折れ帽を被せてやる。 「こいつを預かってくれ。終わったら取りにいくから」 子供は涙をこらえながら小さく頷き、村の方に逃げていく。 「かつての兵士という話ですが……近代兵器はご存知でしょうか」 重機関砲と小型ミサイルランチャーを複合させた兵器を手に『Trapezohedron』蘭堂・かるた(BNE001675)が骸たちに向かい砲撃を開始する。迫る骸たちを纏めて攻撃しながら、その奥に控える老人を見た。ビオラを奏でる死霊術士、マリオ・ジュリアーニ。奏でる音色は優しい。最も聞き入っている時間はないのだが。 「マリオは、優しい音色を奏でることが出来るのに……」 『絵本 みにくいアヒルの子』を抱えながら、『みにくいあひるのこ』翡翠 あひる(BNE002166)が悲しみの声を上げる。マリオが奏でる旋律の元、死者の群れは悲しみを生むために行進するのだ。止めなくちゃ。その意思をこめて体内のマナ循環をコントロールする。 「そうだな。この音は一朝一夕のものじゃない。いい音だと思うぜ」 洋楽は詳しくないんだがな、と一言付け加えて『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)は倒れている母親の方に向かう。死霊術士に利用されてはかなわない、とばかりに抱きかかえて後ろに下がった。合掌してから母親の足をロープで縛る。心苦しくあるが、仕方のないことだ。 前もってフツが展開していた人払いの結界のおかげで村人がこちらに来る可能性は大きく減った。だが、可能性はゼロではない。騒ぎが続けば人はまだまだやってくるだろう。 「こんにちわ、かしら? 死霊術士」 蒼のドレスの裾をつかみ、優雅に一礼する『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)。その言葉に魔力を乗せて、相手のことを探る。死霊術士。『楽団』。すでに『万華鏡』でわかった情報から、ジュリアーニ自身の戦闘手段まで。 「見かけによらず、体力旺盛のようね」 「音楽家は体力勝負なのですよ。長時間、集中して楽器を奏でるので」 旋律を奏でながらジュリアーニが答える。自分を調べられたことに怒りを覚えることなく、変わらず自らの学期を奏で続けた。 骸骨達と住職の死体が声にならない叫びを上げる。それは使者の叫びか、あるいは殺戮者の鬨の声か。 リベリスタはそれぞれの破界器を構えて、その声に応じる。数は多い。だけど臆することなく前に踏み出した。 ● いかに舞姫が回避に優れていようと、七つの刃の攻撃をすべて避けきれるものではない。六割近くを避けて、残り四割の中の半分がかすり傷。それでも塵も積もれば山となる。 唐竹に迫る刀を弾いて反らせば、袈裟懸けに刃が迫る。傷の痛みに嘆く間もなく右薙ぎと刺突が迫る。連増攻撃のわずかな隙を見出して身をひねりその攻撃を避けるも、右切り上げの凶刃を受けて膝をついた。 「……この程度でっ!」 地面を叩くようにして受身を取り、脇差を盾のように突き出して構えを取る。同時、右切り上げを行った骸の肋骨が地面に落ちた。交差の際に刃を重ねておいたのだ。額に汗を流し、にやりと笑う舞姫。 「死者はおとなしくしてるんだな! オン!」 フツが印をきり、結界を展開する。目に見えぬ結界が空間に展開され、死者の動きを鈍くする。人払いの結界に結界縛。様々な境界を展開しながら、緋色の槍を構える。腰を落として前衛の壁を抜けてきた死者の兵士に槍を繰り出す。呪いが死者に付与される。 「大丈夫か、あひる!」 「うん……フツも、無茶、しないで、ね……っ!」 フツは前でも後ろでも戦えるタイプだが、けして前衛専門というわけではない。無茶をすれば倒れてしまうだろう。それを心配してあひるはフツに注意をし、癒しの歌を奏でる。ビオラの旋律とは異なる優しい歌。歌に魔力をこめ、リベリスタたちを癒していく。 「あなた達は、ここに居るべきじゃないよ……!」 カタカタと歯を鳴らしながらリベリスタに襲い掛かる骸たちに、あひるは悲しそうな視線を向ける。助けたい。だけど助けることはできない。砕いて終わらせることしかできない自分達に悔しさすら感じる。 「よう、挨拶が遅れたな。無頼で術士の機械鹿、宜しくなァ!」 黒蛇をモチーフとしたフィンガーバレットを手にはめ、暖簾が標準を定める。狙うのは骸骨の足。まずは動きを封じてしまおうと矢次に撃つ、撃つ、撃つ。小気味よく弾丸は大腿骨に命中し、砕いてその動きを止め―― 「……ちっ、くそったれが」 暖簾が見たのは、足が砕けても這うようにして動く骸骨の姿。痛みを感じず、足が折れてもその怨念は尽きない。死霊のしぶとさと常識外れに舌打ちする。 「既に人を殺めた貴方達に容赦はしません」 セラフィーナが姉から受け継いだ『霊刀東雲』を手に死者の群れに向かう。右に左にステップを踏んで相手を惑わし、その動きを刀に乗せて切りかかる。その残像が消えるころには、暖簾が足を砕いた骸骨は動かなくなっていた。 「もう一度眠らせてあげます!」 十を超える死者の群れとリベリスタの戦いは、混戦を呈してきた。舞姫の回避性能を盾として、怒らせて骸を集結させ、それに乗らなかった死者をブロックする。そして、 「いくぞ、戦場ヶ原!」 「構いません! 一気にきてください!」 「セラフィーナ、いくわよ」 「はいっ!」 「砲撃、開始します!」 号令とともにブレスとかるたと氷璃が動く。 「マリア、あなたの技を使うわよ」 とある少女の顔を思い浮かべ、氷璃が幾重の魔法陣を生み出す。文字、大きさ、色、角度、それらすべてが意味を持ち、氷璃の魔力に呼応して黒の光を生みだす。漆黒の光が骸たちを石に変え、その動きを止めていく。 「派手にいきますか」 ブレスの『Crimson roar』に風が纏わりつく。前に後ろに。状況に応じて戦場をスイッチできるのがブレスの強み。今は前に出るときだ。暴風は刃となって一筋の太刀となる。それは死者の群れをなぎ払うように振るわれた。 「一気に殲滅します」 かるたの『強襲型携行砲台【Trapezohedron】』が火を噴いた。重機関砲で弾幕を作り相手の足止めを行い、小型ミサイルランチャーで一気に蹴散らす。死者には安らかな救いを。砲撃の後に近接戦闘ようにモードを変更し、歩を進めるかるた。 度重なる範囲攻撃。舞姫とセラフィーナを巻き込みながら、しかし確実に骸たちを殲滅していく。その猛攻にひとつ、またひとつと屍が土に返っていく。 攻撃に巻き込まれた舞姫とセラフィーナも無事ではない。運命を燃やしてその場にとどまり、互いの武器を構えなおす。こちらの被害も大きいが、敵に与えた打撃も大きい。 「阿僧祇転の陣をここに! アサムカーハ!」 時機を見てフツが準備していた最後の結界が完成する。展開される結界の色は無色。景観を変えることなく相手を閉じ込める結界。無限に近い広さを持って、死霊術士を閉じ込める。 どれだけ骸が壊されようとも微動だにしなかったジュリアーニの表情が動く。結界の効果を看破したのだろうか、リベリスタを見る瞳にわずかな熱がこもった。 「ふむ……音の響きが変わりましたか」 リベリスタの矛先が死霊術士に向く。ビオラを奏でながら、ジュリアーニは戦闘態勢に入った。 ● 「私は死体を抑えておきます」 「お願いします」 かるたと舞姫が死霊たちを押さえている隙にセラフィーナがジュリアーニに向かって走った。振り下ろされる日本刀がジュリアーニの肩を裂く。剣閃が七色に輝き、その残渣が消える間もなく刀は翻る。 「復讐ラメンタービレ? 的外れな曲ですね」 「ふむ?」 「彼らが復讐すべき対象はもうここにはいません。遠い昔に埋もれてしまったんですから。それに……住職さんを殺したのは貴方です。本当に復讐されるべきは貴方でしょう?」 「なるほど、私が彼等を蘇らせたのは事実。その結果によってあの聖職者が死んだというのなら、確かに私が殺したことになりますな。 それが何か?」 「何か……ですって?」 「私が彼を殺したとして、何か問題でも? 復讐する対象がなく、無関係な人間が死んだとして、何の問題があるのです?」 その言葉にセラフィーナを始めとしたリベリスタは愕然となる。殺人を正当化するフィクサードはいた。しかし、これは何か違う。 「『死』とは命ある総ての者に与えられる最後の安らぎ。どんな理由があろうとその眠りを妨げる事は赦されないわ」 氷璃がジュリアーニを見ながら口を開く。情報を得ようとその挙動を捕らえ―― 「シニョリーナ(お嬢さん)。先ほどから私の死霊術を調べているようですが、思想の時点で躓いているのですよ」 「どういうことかしら?」 「死は終わりではない。生と死に境などなく、死者にも生者と同じように心や声がある。 人種や国境で差別するように、生か死かで差別するようでは死霊術の理解ができようはずがありません」 ――リベリスタは一斉に理解した。 マリオ・ジュリアーニにとって、殺人は罪ではない。そもそも死の概念が異なるのだ。彼にとって死は終わりではない。ゆえに生死の境がないのだ。せいぜいが生者は『回復スキルが効く相手』で、死者は『死霊術スキルが効く相手』というだけでしかない。 「命は……体を入れ替え、使い捨て……人を傷つける道具じゃないよ……」 「スィ(はい)。私はすべての死者と生者を尊敬しています。道具などと思っていません」 あひるの言葉に一礼して答えるジュリアーニ。 「ゆえに今日殺したもの達とあなたたちを、カントーリオ様に紹介しましょう。すばらしき戦士達だと」 「はっ、結局それが目的かパスタ野郎! 遠路遥々御苦労だが、演奏会はお開きにさせてもらうぜ!」 「果たしてそれが可能ですか?」 暖簾の言葉に表情を変えずに答えるジュリアーニ。 「確かに運命の恩寵を受けているあなた達は強いでしょう。歪夜十三使徒第七位を倒した実力は聞き及んでいます。 しかし運命の恩寵は有限。『楽団』の死者は無限」 『白の鎧盾』――ポーランドで『楽団』に滅ぼされたリベリスタ組織の名を思い出す。彼等も無限の死者に圧倒され、滅び去ったのだ。 「それでも抵抗されますか? 私はどちらでも構いません。気長に待つだけです。曲はまだ、始まったばかりなのですから. ほら、お仲間さんが一人倒れましたよ」 ジュリアーニが指差す先で舞姫が地面に崩れ落ちた。さすがの彼女もこの数が相手では避けきれなかったようだ。 舞姫が押さえていた死者の群れが動き出す。その刃が舞姫に向かい振り下ろされた。 「危ねぇ!」 かるたとフツが傷だらけの舞姫を守るように死者を押しのける。 「倒れても容赦無し、ってか。リベリスタの死体もほしいもんな」 どこかで計算違いをしていたかもしれない。彼の目的は『村人の命でアンデッドを作るのだ』と。しかし、それは大きな間違いだった。彼は純粋に『死体』を求めているのだ。神秘の類を隠そうとしないのも、リベリスタを誘うことも含まれているのだ。 「ここで生き延びても、順番が前後するだけです。『箱舟』は沈む。遠くない未来に」 「うっせぇ!」 ブレスがジュリアーニのビオラを狙って銃のトリガーを弾く。神秘で強化された弾丸がビオラを穿ち、 「壊れないだと!?」 「銘こそありませんが、あなたたちの破界器と同じ代物です。破壊は容易ではありませんよ」 「つまり死霊術と楽器は関係ないのね」 氷璃の言葉にジュリアーニは変わらぬ口調で答え、銃撃によって途絶えていた演奏を再開した。 「さて、どうでしょう。想像にお任せしますよ」 死霊たちが動き出す。リベリスタたちの攻撃で受けた傷も多いが、それでもその歩みはしっかりとしたものだった。 ● 「きゃあっ!」 セラフィーナの悲鳴が響く。ジュリアーニに指差されて霊的な流れを狂わされた。そのまま倒れ伏す。 「ネクロマンシー、その力で、死者を救えるかも、なのに……」 リベリスタの数が減れば、押さえられる死者の数も減る。押さえ切れなかった骸骨が後衛に迫り、回復手のあひるを襲った。運命を削って起き上がるが、目の前の骸骨が消えたわけではない。 「あひる!」 フツをはじめ、前に立つものはできるだけ死者を押さえようとするが、数が多すぎる。それに加えて、 「……っ! ブレイクとMアタックか、これ!」 「麻痺の弾丸も織り交ぜてきやがった! 威力はともかく、コッチの継戦能力を削りにきてるぞ」 ジュリアーニの攻撃がリベリスタの攻撃を妨げる。 暖簾とブレスがジュリアーニの攻撃で膝を突く。一撃必殺のデュランダルほどのパワーはないが、それでも死霊の攻撃と合わさると効果が高い。息を吐き、血をぬぐい、運命を削る。死霊のしぶとさに辟易してきた。 「これで終いです!」 かるたの一撃が住職の動きを止める。生と死を問いかける一撃。四肢を砕いても脳を潰しても気にせず突き進む死者。やはり力技で倒すのが一番か、と思い直す。 「無粋ね……っ!」 氷璃は黒の魔力で骸の動きを拘束する。しかしすべての骸がそれで動くをとめることはなく、それを逃れた骸骨の刀が少女に振るわれる。華奢な氷璃は運命を燃やすことで倒れることを逃れた。静かに悪態をつくも、余裕がないのは火を見るより明らかだ。 多数の死者で相手を圧倒すると同時に、本人の戦闘力で状況をコントロールする。死霊術士の基本戦術だ。それを身をもって知ることになった。 死者の数をもう少し減らしてから死霊術士と戦いに挑めば、ジュリアーニ参戦後も巻き返しが可能だっただろう。攻めるタイミングを見誤ったか、と誰かが臍をかんだ。多人数を押さえ込む手立てがもう少しあれば、あるいは。 あひると暖簾が懸命に癒しに回るが、それ以上の数で死者の刃が舞う。そしてついにあひるが凶刃に倒れた。悔しいが、ここが限界だ。 「退くぞ!」 まだ動けるリベリスタが、倒れているリベリスタを回収する。皆満身創痍だ。特に舞姫の傷は深い。死霊術士は死体を求める。倒れて動けない相手を死者の仲間入りさせるように、何度も暴行を加えられた結果だ。 「殿は私が!」 かるたが目くらましの弾幕を放った。巻き上がる土煙にまぎれて、リベリスタは場を離れていく。 ジュリアーニはリベリスタを追わない。ただその声が背中に届いた。 「ブォナノッテ(よい夢を)、アーク。いずれまた会えるでしょう」 ● ざくざくと暖簾は歩を進める。 村にすでに『人』はいない。逃げたか、あるいは殺されたか。 探し物はすぐに見つかった。子供に預けた帽子だ。 それは預けた子供と一緒に見つかった。その子供は喜びの表情を浮かべ―― 「死んでる、わね」 「母親の死体を見たんだろう。動く母を見て生き返ったと思ったか」 「……そのまま、お母さんに……?」 「死霊化した力で、おもいっきり抱きしめられたんだろうな」 「痛みを感じなかったのでしょうね。それだけが救いです」 子供は喜びの表情を浮かべたまま――母に抱かれて安らぐような表情のまま、命を失っていた。凶悪な力で抱きしめられて、奇妙に捻じ曲がって。 暖簾は子供が持っている帽子を手にして、深くかぶる。最後の最後まで、子供が守ってくれた帽子。 「『楽団』……!」 もはや人のいない村で、リベリスタの怒りの声が響く。 それがこの事件の終了の音となった。 ――そしてどこかで、ビオラが響き渡る。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|