● セリエバ。それは運命を食らうアザーバイド。 それを召喚すべく七派フィクサードの『六道』『黄泉ヶ辻』『剣林』の一部が手を組む。 『六道』のバーナード・シュリーゲンはアザーバイド召喚技術を求め。 『黄泉ヶ辻』のW00は運命を食らう異世界の猛毒に興味をもち。 『剣林』の十文字晶はその猛毒に侵された娘のために槍を持つ。 召喚場は『万華鏡』の届かない海の上。当てもなく探すには、海は広すぎる。 しかし手がかりはある。 召喚場に向かう船。その船が持つ情報。 それを集めれば、セリエバ召喚場への道を見つけることができるだろう。 ● 「そう言えば、以前にアークと出会った時も、こんな冷える海の傍だったのう」 冷たい風の吹く港で、六道派のフィクサード悪道虚無(あくどう・きょむ)は呟く。 まだ11月の半ばではあるが、海が近いだけあって風は冷たい。フィクサードとして高い実力を持つ彼だが、年のせいかこの寒さは少々厳しい。革醒を果たしたからと言って、一部の例外を除けば、寒さに強くなるわけではないのだ。 にも関わらず、この老魔術師がわざわざこんな所までやって来たのは、『六道第三召喚研究所』のバーナード・シュリーゲンの依頼によるものである。バーナードはアザーバイド『セリエバ』――その能力故に、ボトム・チャンネルに現れれば崩界すら招きかねないと言われる危険な存在だ――の召喚を目論み、そのための儀式を行おうとしている。虚無が依頼されたのは、召喚に用いるアーティファクトを運ぶ船の依頼だ。 「全く、もっと暖かい季節にやってくれれば良いものを」 本来であれば、偏屈極まりない性格をした虚無が、船の護衛等と言う依頼を受けることは珍しい。不機嫌そうにしている眉が、こんな場所にいることは不本意だと告げている。 しかし、それを枉げる程に、この依頼には魅力的な要素が多かった。 運命を喰らうアザーバイドのデータは、彼にとっても興味深い所。 加えて、恐らく止めに来るのはアークだ。 この1年間、自身で調整したエリューションの実験として、一般の施設を襲う他、フィクサードとの戦いを繰り広げてきた。その成果を試すのなら、やはり着々と実績を上げているアークが一番だろう。 「連中も力を付けているのだろうが……さて、どうなることやら」 その時、初めて少しだけ機嫌を和らげた。 これからの戦いを夢想しているのだろう。 「旦那様、『寅』並びに『未』達の準備が整いました」 そこにやって来たのは、虚無の使用人であり、護衛でもあるメイド服の少女リリアンナだ。 一見場にそぐわない姿に見えるが、見えないように武装もしており、戦う準備は十分だ。 「良くやってくれた、リリィ。さて、船の上の屍人共も出向の準備を終える頃。アークが来るならそろそろか……」 ようやく口を緩める虚無。 戦いの夜はこれからだ。 ● 「『セリエバ』、あんた達も噂ぐらい聞いたことがあるんじゃないか?」 唐突に切り出す『運命嫌いのフォーチュナ』高城・守生(nBNE000219)。 次第に冷え込みが厳しくなってきた11月のある日。リベリスタ達はアークのブリーフィングルームに集められる。そして、リベリスタ達に対して事件の説明を始めた。心なしか、彼の表情はいつもよりも真剣に見える。 『セリエバ』という名に心当たりのあるものは思い出す。 『六道』『黄泉ヶ辻』『剣林』に属する一部のフィクサードが協力して召喚を目論む、危険度の高いアザーバイドだ。 「あんたらにお願いしたいのは、こいつの召喚に使われる磁界器を載せた船の出航阻止、及び航路に関する情報を手に入れることだ。ようやく、『万華鏡』が情報を掴んだんだ」 『セリエバ』の召喚儀式は『万華鏡』の力が及ばない海上で行われる。しかも念の入ったことに、フィクサード達は主要ポイントの情報を徹底して隠匿した。海域そのものに魔法陣を描き、儀式の場を分散したのだ。これでは、末端の者を抑えても、儀式の中枢を止めることは出来ない。 そこで、事件に関わったリベリスタ達は考えた。 『万華鏡』の力で儀式に用いる物資を積んだ船を抑えるのだ。 ある程度の船が持つ行き先を手にすれば、そこから召喚場の中枢がどこにあるかを推測することは可能だろう。 「船が出る場所はここの港だ。船はE・アンデッドの乗組員が動かしているようだな。それ程、戦闘力は高くないがそこそこに数はいる」 守生が機器を操作すると、スクリーンに地図を表示させる。フィクサード達が人払いを済ませており、周囲に人はいない。そのフィクサードという単語にリベリスタが反応する。 「あぁ。正直、そっちの方が厄介な相手だ。この場には船の出航を護衛しているフィクサードがいる。六道派に属するフィクサードだ。名前を悪道虚無」 エリューションの使役を行う、老達なマグメイガスだという。 戦闘力の高いエリューションを率いる、危険な老人だ。 「こいつの僕だろう、エリューションが多数いる。いずれもE・ビーストだな。虎型のものと、羊型のもの。とりわけ危険度が高いのは、虎だ」 スクリーンに表示されたのは、獰猛な印象を与える虎のエリューションだ。凶暴に研ぎ澄まされた牙と暴力に特化して膨張した筋肉は、進行性革醒現象の深度は高いことを示している。特筆すべきは翼を有していることで、高い機動性と飛行能力を持つことは想像に難くない。 羊のエリューション達はそれに比べると大人しいものだ。しかし、吸血種因子を有し他者の血を自分の生命力に変えることが出来る上に、その毛皮が優秀な防御力を持つのだという。 「以前にも悪道虚無は、メタルフレームじみたエリューションを使役して事件を起こしていた。こいつらも似たような経緯で生まれたんだろうな。何にせよ、強敵なのは間違いない。十分に気を付けてくれ」 説明を終えた少年は、その鋭い瞳で睨むように、リベリスタ達に送り出しの声をかける。 「あんた達に任せる。無事に帰って来いよ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:KSK | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2012年11月30日(金)23:35 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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● 「悪食相手の歓待の準備か。愉快なパーティーなら一枚噛ませて貰おうか」 「ふん、散らかすのを得意とするリベリスタが良く言う」 「なに、ちゃんと掃除はするさ。綺麗さっぱり、主賓が現れない程度の掃除をな」 埠頭でエリューション越しに魔術師、悪道虚無と相対し、『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)は不敵に笑う。巨大な虎を始めとした凶暴なエリューションを前にしているというのに、物怖じする気配が欠片も無い。 (これってすごい大事な作戦だよね。敵が強そうで恐いけど……負けられないよ) 『食堂の看板娘』衛守・凪沙(BNE001545)は呼吸を整える。 この任務は崩界をもたらす強大なアザーバイド召喚を阻止する一歩。 万が一に「運命を喰らうもの」セリエバが召喚されたら、多大な被害が出るだろう。それこそ、ナイトメアダウンを引き起こし、新しくはラ・ル・カーナの危機を招いた『R-TYPE』の二の舞になりかねない。そう思えば、戦う勇気も湧いてくる。 その一方で、いつもと変わらないのが『√3』一条・玄弥(BNE003422)だ。 (やっかいな敵が多いですが、お銭のためにがんばりやすかねぇ) 報酬が出る以上、彼にとってこの戦場も他の戦場と違いは無い。卑劣漢、下衆、といった言葉がふさわしい男だが、この一点に関してのみは信頼のおける男なのである。 彼らの後ろから幼い少年が胸を張りながら出てくる。ユーヌや凪沙も小柄な部類に属するが、『ジーニアス』神葬・陸駆(BNE004022)の場合、幼い上に小さい。しかし、態度はでかい。 「カレイドの範囲外から事を成すとは天才的なやり方だ。それは認めよう」 マントを翻し、ポーズを決める陸駆。 「だがそれ以上の天才がここに二人もいるのだ。セリエバだかなんだか知らないが、天才的作戦を戦略演算でひっくり返してやるのだ!」 「ふん、天才とは生憎と儂が一番嫌いな言葉でな。ならば、その天才とやらを儂の魔道で捻ってくれる。儂の探究、簡単に止められると思うな」 まなじりを吊り上げて睨んでくる虚無を見て、陸駆は「もう1人の天才」こと、『毒絶彼女』源兵島・こじり(BNE000630)にも言ってやれと促す。 「迷惑な話よね。探求心? 魔術師? 違うわ」 促されたこじりは、髪をかき上げてやれやれと言った風情で言い放つ。 「ただ我が儘で、独善的で、自己中心的なピーターパンシンドローマーでしょう?」 一斉に殺気立つフィクサード達。この場にいるもの達にとって、虚無は師に当たるからだ。 しかし、そんな中、虚無のみは上機嫌な雰囲気になり、突然からからと笑い出す。 「その通りだ、毒舌の独説家。ならば、そんな人種が力を持っておる時、何をするかも分かるであろう?」 「分かり過ぎる程にね」 言うが早いがエリューションの中に切り込んでいくこじり。表情は不機嫌そうだ。 その時、後ろにいた3人のリベリスタが大地を蹴って、空を駆ける。 目指す先は幽霊船。 馬鹿正直にエリューションと殴り合う義理は、リベリスタ達には無い。エリューション及びフィクサードを足止めしている間に、船本体を狙う策に出たのだ。 しかし、そのような状況にも関わらず、虚無は動じない。 むしろ、いよいよもって楽しそうに口を歪めた。 「そう簡単に行くと思ったのか、リベリスタ?」 ● 思いの外、妨害を受ける事無く、『九番目は風の客人』クルト・ノイン(BNE003299)、『リベリスタ見習い』高橋・禅次郎(BNE003527)、『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)の3人は船の前へと到着する。 「幽霊船」というには新し過ぎる船の上で、様々な服装をしたE・アンデッド達が荷物を動かしていた。死した人々が生前のように、黙々と働く姿は、恐怖を通り越していっそ滑稽なほどである。 たしかに、「セリエバ」に関わる都合上、フィクサードをあまり連れて行きたくない。一般人を働かせるのは割に合わない。エリューションを作業員に使っている理由は、大方そんな所なのだろう。 しかし、そんなことを悠長に考えている暇は無い。 時間に決して余裕など無いのだから。 「その船、止めさせて貰うよ」 クルトが船内のエリューションに狙いを定めた時だった。 船から黒い魔力の大鎌が現れ、リベリスタ達に襲い掛かってくる。 「クッ」 急いで防御の構えを取るも、その鋭い刃が腹に食い込むのまでは止められない。 「リベリスタ達が来たぞ、応戦だ!」 「どうやら、読まれていたようだな。しかし……」 船にはあらかじめ、2人のマグメイガスが配置されていたようだ。たしかに、相手も船を護ることが目的である以上、あり得る話だ。しかし、ここで退くわけには行かない。禅次郎は銃剣を構え、船の中へと真っ直ぐ飛んで行った。 「えぇ、セリエバの召喚など、させる訳には行きません」 魔力の杖を構えると、ミリィは目の前の現実に向けて、素早く戦闘動作を共有させる。 「さぁ、戦場を奏でましょう」 ● フィクサードの合図と同時に、エリューション「寅」が解き放たれる。 すると、エリューションは存分に暴力衝動を発揮し、リベリスタ達に襲い掛かる。『将軍級』の名にし負う戦闘力だ。高い破壊力を持つ攻撃で、幾度も喰らいつく。戦いを長引かせれば長引かせるほど、状況はリベリスタ達へ不利になる。 「なるほど、僕達の手を読むとは、お前も天才か」 「違うと言っておるだろう、天才少年」 「ならば、アークの天才の力を見せてやる!」 「人の話を聞けと言っておる」 「高木京一、貴様の指示で僕の天才IQを53万以上にできるな?」 「任せて下さい。セリエバ召喚を防ぐためにも、この戦い、勝たなければ行けませんからね……そこです!」 『子煩悩パパ』高木・京一(BNE003179)の見極めたポイントに陸駆が閃光弾を投げ込む。すると、たちまち戦場を光が包みこむ。その間隙を突いて、凪沙の身体が空に舞う。 「邪魔させないよ!」 凪沙はそのまま、空中で宙返りをするかのように蹴り上げる。 すると、空間が切り裂かれるように衝撃波がエリューションへと、そして、フィクサードへと襲い掛かる。素早く主を庇いに向かうリリアンナ。さらにそこへこじりが切りかかる。 「ご機嫌いかが? 虚ろなお嬢さん」 「悪くはありません、あなた方を退かせれば、良くなるかも知れません」 「そうね、私も貴方達を死体にしたい。今回の私はそれだけよ」 脱力したような状態から、こじりの全身に闘気が駆け巡る。そして、その闘気は巨大な鋏のようなものが振り抜かれると同時に爆発を起こす。 「いやぁ、元気でんなぁ」 フィクサードと切り結ぶ同行者を見ながら、玄弥はエリューションに切り裂かれた自分の肩口から流れる血をぺろりと舐める。 「命は惜しいがお銭も欲しい、悩ましいですなぁ、おぃ。」 敵は強大、しかしその分、報酬は大きい。 ハイリスク・ハイリターンと言うのも善し悪しだ。 最終的に勝利したのは金銭欲だった。 玄弥の持つ武器「金色夜叉」から現れた暗黒の瘴気が、エリューション達を喰らう。 そして、傷ついたエリューション達へとさらに襲い掛かるのは、氷よりも冷え切った冷たい雨だった。 その中心から聞こえるのは、呪いの雨より、冬の海風より冷たいユーヌの声。 「年寄りの冷や水か。折角だ、三途の川の秘密を解きほぐしに旅行などいかがか?」 「興味深いがお断りさせていただこう。むしろ、アークでは夏に南の島で遊ぶのであろう? であれば、冬に黄泉の国へと観光に行くのはどうだ?」 呪いの雨が降る中、虚無が詠唱を完成させると、その手からは黒い鎖が現れてリベリスタ達へと襲い掛かる。 戦場はいよいよもって、混迷を呈するのだった。 ● 「すいません……先生……」 クルトの放った掌打を浴びて、最後に残ったフィクサードが倒れる。 迎撃のため、船にいたのはいずれもマグメイガス。高い火力での攻撃力を持つが、白兵戦を得意とするリベリスタと直接刃を交えるとあっては、さすがに不利と言わざるを得なかった。 もっとも、船に向かったリベリスタ達と言えど、それは同じこと。 元々少ない回復役をエリューションとの戦いに投入した結果、こちらで傷を癒すことは叶わない。そこへ高火力の攻撃だ。力量ではリベリスタ達の方が勝ってはいたものの、傷は決して浅くない。こちらで、戦闘する想定が無かったとは言え、エリューションの援護もあったため、クルトとミリィの傷は深い。 それでも、だ。 「セリエバか。枝だけで脅威だったよ、召喚なんてぞっとしないねぇ」 過去、クルト・ノインはアークの命令に背いて出撃し、そこで「セリエバの枝」と出会った。「セリエバ」は、枝1本だけでリベリスタ達に脅威足らしめるアザーバイドだ。その召喚を防ぐためならば、この程度の怪我で止まってはいられない。 「向こうの状況も決して良くないようです。急ぎましょう」 「あぁ、そうだな。セリエバ、運命を喰らう魔物か。ある意味、運命を武器としている俺達にとっては天敵だ。休んでいる暇は無い」 アクセス・ファンタズム越しに伝わってくる情報を連携するミリィ。船を止められるタイムリミットは刻一刻と迫っている。彼女の言葉に頷くと、禅次郎はエリューションの中に駆け出して行った。 (願わくば、最後迄倒れないチカラを……) 運命を喰らう敵を倒すために、自分の運命を投げ打ってでも戦う。 ある意味で矛盾した想い。 それでも、リベリスタ達は進むのだった。 ● 「幽霊船ってのはゾットシネーナ、ダケド……」 『光狐』リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)の持つ2つのナイフが闇に閃く。たまらず、悲鳴を漏らすエリューション。 「多少踏ん張らねートナ」 フォーチュナの告げた通り、エリューションの速度は尋常なものではなかった。しかし、本気を出した彼女のトップスピードが相手ではさすがにどうしようもない。圧倒的な破壊力も幼い少女に翻弄されてしまう。 「フハハ、アークは強敵相手との戦いに慣れておるというのは良く聞くが、そう来るとはな」 「そのようなことを言っている場合でしょうか、旦那様?」 「よそ見している場合でもないよね」 派手に空中を飛び跳ねながらリリアンナへ蹴りを見舞う凪沙。反撃する気など与えるものか。相手が纏ったエネルギーがダメージを返してくるが、そんなものを気にしてはいられない。 そして、そんな部下の戦いを気にも留めず、虚無が眺めているのはエリューション「未」達の様子だった。 エリューション達は、見る見る内に冷たい冬の海へと叩き落とされていた。 こじりが渾身の力を込めて武器を振るうと、その度に海へと落ちて行く。 挙句の果てに。 「身動きとれんやつを殺るのは楽ですなぁ」 くけけと下卑た笑いを浮かべて、玄弥が丁寧にトドメを刺していく。 足場の無い水中では思うような身動きが取れない以上、さすがにこれではどうしようもない。 もちろん、リベリスタ達も無傷ではない。むしろ、当初は押されていたと言っても良いだろう。しかし、戦場の役割がスイッチしたことで、港の戦闘は好転しつつあった。 「小手先だが、邪魔な悪戯程度には十分だろう?」 全身を朱に染めながらユーヌは呪を紡ぐ。 すると、巨大なエリューションの身はみるみる拘束されていく。 最早、阻むものは無い。 リベリスタ達は、フィクサード達に攻撃を一斉集中させる。 「天才ファントムレイザー!」 IQ53万(推定)を誇る少年の声と共に、フィクサード達の周囲を見えざる刃が取り囲む。 そして、陸駆がそっと手を動かすと、それらは一斉に降り注ぐ。 全身から血を噴き出して倒れるフィクサード達。 「まだ、うちのタマに噛まれるほうが痛いというものだ。そろそろ降参したらどうだ!」 「まだ、です……旦那様に手出しはさせません……」 「いや、それには及ばん、リリィ」 満身創痍の身体を引きずって立ち上がろうとするリリアンナを虚無は手で制する。 その視線の先にいるのは、船に向かったリベリスタ達だ。 「改めて御機嫌よう、悪道虚無。船は私達が制圧しましたが、あなた方はどうします?」 「船は航行不能だ。これ以上の戦闘は無意味だと思うが?」 いずれのリベリスタも傷は深い。 しかし、禅次郎に宿る力は、自らの痛みを敵への攻撃に還すもの。あるいは皮肉な話だが、この傷の深さこそが、時間内にエリューションを倒せた理由なのかも知れない。 「海図情報もいただきました。これ以上いただけるものと言えば、あなた方の命位しかないのですが、如何でしょうか?」 自分の頭を指でこんこんと叩いて見せるクルト。儀式の場所は彼の頭に収められている。ことさら丁寧な口調で、それを強調して見せる。相手に「退く理由」を作るために。 「ふん、言ってくれるな。まだ、エリューション共はほぼ無傷で残っておる。対して、貴様らも限界が近いものは多かろう?」 「何れにせよ、落としどころは必要です。今の状態で戦闘を続けたところで互いに被害を増やすばかり。データと言うのであれば、既に十分取れたと思いますが」 そして、魔力杖を虚無に向けるミリィ。 「それでも戦闘を続けようとするのなら、相応の覚悟をして貰いましょう」 沈黙が支配する。 聞こえてくるのは風の音。あるいは、遠くから響く汽笛の音だ。 しかし、その沈黙を破ったのは、ほかならぬ虚無自身だった。 意外なほどの大声で笑い出す。 「ククク……はーっはっはっは!」 「いよいよボケが来たか?」 「いやいや、ここまで至れば是非も無い。この場は退かせてもらうぞ。バーナードへの義理も十分果たしたし、中々に今宵は愉快だった。行くぞ、リリィ」 言うが早いが、アーティファクトより色白の馬を召喚し、倒れている部下達を載せて行く。 リベリスタ達が薄々察していた通り、自分の命を懸けてまで依頼をこなそうというタイプではなかったようだ。とすると、最後の挑発もわざとだろう。 攻撃の隙を伺うものもいたが、さすがに「寅」が睨みを利かせている以上、それは厳しい。 「また機会があれば会おう、楽しみにしているぞ」 そして、エリューションを従えて去って行く老フィクサード。 見送るこじりの表情は複雑だ。 「ホント迷惑な話よね」 不機嫌と言っても良い。 何に腹が立つかと言えば、あのフィクサードが自分に似ているように感じてしまうこと。 だから、こんな剣呑な本音を漏らしてしまう。 「六道、いえ、七派全て私に跪けば良いのに」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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