●紅に染まる夜 平屋の校舎の屋根の上を一つの巨体が滑走する。 すでに廃校となった学校の周りには人気はない。 そこを訪れた影は一匹の獣。近くに棲む野良犬だ。 それに目掛けて飛び込む巨体。吹き飛ぶ野良犬。 吹き飛ばされた野良犬の周りを赤い瞳が取り囲む。 その正体を知った野良犬は果敢にも飛び込んで行ったが……無数の蹴りを叩き込まれ、そのまま命を失った。 ●うさうさわらわら 「うさうさは好き?」 真白イヴ(nBNE000001)はそう問いかける。 「飼育小屋のウサギがエリューションになったみたい」 事件が起こるのは少子化の影響で廃校になった小学校。廃棄された飼育小屋に棲みついていた野生のウサギのエリューション・ビーストが今回のターゲットである。 ターゲットはフェーズは2。すでに周囲のウサギに『増殖性革醒現象』を引き起こしており、そちらのフェーズは1。 主な攻撃は体当たりで吹き飛ばし……『ノックバック』で標的を孤立させた上で、フェーズ1のウサギ達に集団で襲いかからせる狩りを行っている。フェーズ1のウサギ達には特筆すべき点はないが、その数が十羽と多いため、単独で攻撃を受け続ければ危険なのは間違いない。 「大きさは多いほうが普通のウサギの二倍くらい。原因になったほうは……」 そう言って広げた手の大きさはフェーズ1のウサギのほうで1メートル近い。もう一方のほうなど、見上げた天井を指差して……。 「……あのくらい」 というほどだ。高さは軽く見積もっても2メートル以上。確かにそんな巨体に体当たりされれば吹き飛びもするだろう。 「大きいけど機敏に動くから気をつけて」 そう忠告して、イヴはキミ達を廃校へと送り出した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:草根胡丹 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年06月20日(月)22:20 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●ウサギ想いし者達 「人間は敵、か。野生生物としてはあるべき認識だと思うけれど、ちょっと寂しいわね」 学校へと向かう暗い夜道で東雲 未明(BNE000340)は呟いた。 「ぼくは悲しいよ。同志をこの手にかけないといけないだなんて……」 『素兎』の二つ名を持つ天月・光(BNE000490)は愁いを秘めた表情でそう語る。もし彼等がフェイトを得られていたならと思うと、余計にその思いが募る。 「うさぎさん、普通のならもふもふしたかったけれどなぁ。エリューションじゃあ、そんな暇はなさそうだね……」 「いつ人を襲うかしれぬ存在。見過ごすわけには参りません!」 高崎・千尋(BNE002491)も余り気が進まないようだ。こちらは同志だからではなく、相手を愛玩動物として見ているからだが、放っておけば被害は野良犬程度ではすまなくなるだろう。今、向かっているのは廃校ではあるが、そこから離れた場所にまったく人が住んでいないわけではない。彼等が縄張りを広げるようなことがあれば、立花・英美(BNE002207)の言うように人が犠牲になる可能性は十分にあるし、その時は一人や二人の犠牲では終わらないだろう。 「ぬぅ……もふもふしたかったのじゃが仕方ないのう」 御布団 翁(BNE002526) も心底残念そうに呟く。悲しいことだが、最初から敵意剥き出しの相手にそんなことをしている余裕はないだろう。 それ故にか七布施・三千(BNE000346)は懐中電灯を手に先を急いでいた。張り切って警戒しているようで、視線を彷徨わせながら、時折後続の様子を窺っている。この辺りに兎がいるわけではないだろうが、警戒しておくに越したことはない。 他の皆も思い思いの形状の懐中電灯を手にしていた。深い闇の中、頼りない光ではあったが、足元を照らすには十分。道に迷うこともなく目的の廃校へと辿り着いた。 ●飼育小屋にいる者 「もふれないのも哀しいわ。折角こんな、大きいのに」 飼育小屋の中で蠢く存在を前に、未明は溜息と共にそう告げる。 「――嫌いではないけれど、何事にも限度が在るわ。でもコートの材料にするなら丁度良いサイズかしら?」 少しサイズは大きい気もするが、質の良いコート素材として厳選するならそのくらいのほうがいい。宵咲 氷璃(BNE002401)はしっかりと値踏みをする。 「この危険なふわもこを……あ、いえ。この危険なうさぎをふるもっこ……あ、いえ。この危険なうさぎが人を襲う前に排除しなければなりません!」 同様にしっかりとそのふわもこっぷりを視線で堪能していた英美は、多少迷走しつつも目的を思い出す。ここまで来て迷いがあるのはそれだけこの兎達がふわもこだからだろう。 「森の魔将ホワン・リン。ふわもこ、ソーセージに続きウサ公を食いに来た!」 その点ではホワン・リン(BNE001978)は潔い。問答無用で大自然の弱肉強食の掟を貫き通しているのだから。 「……そうね。貴方達の犠牲を無駄にしない為にも、今年の冬は兎の毛皮のコートとマフラーで決まりよ」 「……だめかのう、兎布団……」 「コートとマフラーで決まりよ」 「……あ、いや、しかしちょっとくらいなら……」 「決まりよ」 「しょんぼりなのじゃよ……」 そんなリンに触発されたのか……最初からそのつもりではあったが、氷璃も可能な限り有効利用することに決めた。聞いたサイズに間違いないのなら小さな方はマフラーに、大きい方はコートにするのにぴったりだろう。翁の布団の分まではとても回らない。思いっきり否定されてしょんぼりとした翁に哀愁が漂い始めていた。その頭についているウサ耳が『寂しいと死んじゃうよ』と主張しているようにも見えたが、翁はウサギではないので大丈夫だろう。 「さぁ、しばらく大人しくしててもらうわよ?」 事後処理についての論争はやめて、早速作戦を開始する。未明と千尋は飼育小屋の入口に立ち、大ウサギが出られないように立ちはだかる。 ……が、そこで違和感を感じた。飼育小屋の中に大きな影があるのは間違いないが、普通の兎の倍はあると言う小さな姿は見当たらないのだ。 「ハハッ、兎を舐めてると死ぬよ!!」 その理由に気付いた光はそう警告を飛ばす。飼育小屋の中には無数の穴。そして、校庭にもあちこちに穴がある。その穴と言う穴からウサギ達が飛び出した。 「数が多いゾ、11匹いる!」 リンは瞬時にその数を数え、叫ぶ。闇の中で土に汚れたその姿と数を正確に把握したのは、狩人としての目、故にだろうか。 「この数で収まるように、が、頑張って倒すよぉ」 周囲から放たれる殺気に千尋は少し怯えながらも戦闘態勢を整える。 事前に気付かれた原因はおそらくは光源。接近する不審な気配に、その数が多いことに気付いた大ウサギはあえて目立つ場所で控え、他の小ウサギ達を周辺に配置したのだろう。僅かではあるが、知能まで発達しているようだ。それも狩られる側ではなく狩る側としての知能だ。 ゆっくりと起き上がる大ウサギ。穴という穴から赤い瞳を光らせ、獲物を待ち受ける小ウサギ。 戦いは初手から厳しいものになりそうだ。 ●モグラならぬウサギ叩き 「精霊十文字斬りっ!」 両手の斧をリンは全力で叩きつける……が、それは穴に隠れたウサギにあっさりと避けられた。威力を重視した単調な攻撃では動きを読まれ、穴の中に逃げられてしまう。 作戦としては小ウサギから先に片付ける方向で事前に話し合い、一致していたのだが……この状況では一羽倒すだけでも難しい。だからと言って、大ウサギを先に仕留めてしまえば、この穴を通ってどこかに逃げられることとなる。出口はそう離れた場所に作られてはいないだろうが、そうなれば全てを仕留めるのにどれだけの時間と労力が掛かるのかわからない。 「君たちが自由を得たいということはわかってる。兎(ぼく)たちはいつでも自由を求めるものさ」 ちなみに現状でどれだけ時間が過ぎているかと言うと光が小ウサギ全てと個別面談を終えてしまうくらいの時間が過ぎている。 「ボスが倒れる前に全部倒ス! 逃げられると厄介」 それだけの時間が過ぎても小ウサギ達の数はまったく減っていない現状に、リンの声には僅かだが焦りが混じり始めていた。稀に攻撃が当たることもあるのだが、致命傷には程遠く一羽も倒れてはいない。 小屋のほうを振り返れば千尋と未明が二人で大ウサギと対峙している。 「……ホントこんなにいるのに、もふれないなんて残念!」 穴に隠れられている状況。大ウサギの足止めのために小屋から離れられない状況。更に倒す以外の選択肢を閉ざされた状況と、色んな意味でもふることが出来ない現状に未明は苛立ちを隠せないでいた。 「ああもう、これが普通の兎だったらどんなに嬉しかった事かしらっ」 小ウサギ達の猛攻に遭いながら、未明は防御を固めてやり過ごす。がじがじと噛み付かれるのはかなり痛い。 「ボ、ボクも……皆を護りたいんだ。だから……頑張るよぉ」 そして入れ替わりで吹き飛ばされた千尋が今度は全力防御。 出入口は一つ。二人で塞げば一人が吹き飛ばされても問題はない。 小ウサギが群れて襲い掛かるこのときこそがチャンスではあるが、毎回吹き飛ばされる方向が違う上に、そちらに意識を集中させると背後を見せたものに襲い掛かってくるため、そちらにばかり注意を集中させられない。 千尋が大ウサギにヘビースマッシュを叩き込んでもあまり効いている様子はない。小ウサギを倒すまでの時間を稼がなければならない現状で、それは良いのか悪いのか。 「逃げられては敵わんからのう……兎を倒すのは心が痛むが致し方ないのじゃ……」 翁はそう言いながら懐かな何かを取り出す。 「ほーれ、兎さん達。ごはんじゃぞーい」 「これが欲しいならこっちにおいでよ?」 翁が取り出したのは人参。光もいつの間にか人参を取り出し、小ウサギ達の目の前をちらつかせる。小ウサギに餌を与えて穴から引っ張り出そうという試みだ。 警戒しているのか、中々顔を出さないが……穴の中に突っ込むとぽりぽりと言う音が聞こえてきた。このままでは穴から出ないので何の意味もないが……。 「それが欲しいならぼくたち倒していくといい!!」 威勢良く叫ぶ光が何かを引っ張りあげると月夜に一羽のウサギが空を舞った。こんなこともあろうかと人参にワイヤーを仕込んでおいたのだ。ちなみに翁のほうは人参が食われただけである。もふることも出来ずにまた哀愁が翁の背中に漂い始めていた。 「燻し出してみます」 穴から出てこないのなら追い立てればいい。英美は矢の先に何やら取り付け、煙を出すように細工してから穴に突っ込んだ。 「穴から飛び出したり、廻り込んだりしてきたのを狙います」 しばらくして煙に燻りだされて飛び出した小ウサギを三千はマジックアローで射抜く。ここが正念場と思っているのか、いつも以上に張り切っていた。 「ふわもこでも……たとえふわもこでも! 父の弓は……パーフェクトです!」 穴は複数が繋がっているため、どこから飛び出してくるのかはわからないが……英美は別の場所から飛び出してきた小ウサギを正確に貫いた。一撃で仕留めるには至らない。しかし、弱った状態では別の穴に逃げ込むまでの時間は遅くなるし、突き刺さった矢が邪魔をして素早く穴の中に入ることはできない。 「兎、喰う! 精霊十文字斬りっ! 精霊十文字斬りっ!!」 それを狩人たるリンが見逃すはずはない。他の穴から飛び出し、氷璃のマジックミサイルで弱った小ウサギも含めて弱肉強食の掟に従って容赦なく屠っていく。 英美は慌てふためく小ウサギの思考を読み取ると、吹き飛ばした相手を襲うという連携を崩されたウサギ達が予想以上に困惑しているのがわかった。 「さぁ、兎の立場を思い出して大人しく狩られなさい」 大ウサギの吹き飛ばしを待ち構えている余裕がなくなり、背後を見せている相手の隙を突くことも出来なくなった小ウサギは氷璃に告げられたとおり、完全に狩られるだけの存在に成り果てていた。 そんな小ウサギ達の悲鳴を聞いた大ウサギは怒り狂って小屋を壊し、雄叫びを上げた。 ●大ウサギ喰われる 「今宵の斧は血に飢えてイル」 小屋が崩れ、二人だけでは抑えきれなくなった穴を埋めるようにリンは移動し、取り囲む。 「ちび兎狩はお終い!」 光も小ウサギから大ウサギへと標的を切り替えた。小ウサギはまだ残っているが、無傷のものはもういないし、すでに半数が息絶えている。 「食べたいものは倒したものを食べるといい。それが自然の摂理だからね」 「奪った命に感謝して獲物を喰う。これ、密林の常識!」 その辺り光とリンは共通していた。それに呼応するようにゆっくりと大ウサギは光のほうを向いた。 「君の耳は僕が狩らせてもらうよ!」 「食べる事なら、あたいの担当だゾ!」 光が撃ち込んだソニックエッジの振動を大ウサギの耳が鋭敏に聞き取ったのか、動きが止まる。そこに容赦なくリンは猛攻を仕掛けた。 「やられっぱなしだった分をお返しよ!」 更に未明のソードエアリアル。前後不覚状態に陥ったのか、再び動き出した大ウサギはふらふらとした足取りで数歩歩いた後、頭を振って何とか正気を取り戻す。 その間もリベリスタ達の攻撃は続いていたが、その毛皮と皮下脂肪に阻まれ決定打を与えるには至っていない。しかし、動きが鈍くなってきているのを見る限り、効いていないわけではなさそうだ。 先ほどのお返しとばかりに大ウサギは怒りに任せて光を吹き飛ばす。強烈な一撃に体勢を崩した光に残っていた小ウサギが殺到した。 「光、其処を離れなさい。一掃するわ」 だが、小ウサギ達の動きには最初の頃ほどの勢いはない。多少噛み付かれたが、光はすぐに体勢を立て直してその場を離脱し……そこに氷璃がフレアバーストを撃ち込んだ。続けて放たれた攻撃で残った小ウサギの大半が息絶える。 「ぬっ、そこじゃぁぁ!」 瀕死に近い状態の小ウサギが一羽穴に逃げ戻ろうとしたのを翁のトラップネスト……という名の布団が的確に捉えた。穴に戻ろうとした小ウサギは見事に逃げ道を塞がれ動きを止め、そのまま三千に射抜かれて永遠の眠りに付く。 そして、小ウサギという戦力を失った大ウサギはフルボッコされた。 ●ふわもこ 「嗚呼ふわもこ……」 動かなくなった無数のウサギ達を前に英美は嘆き悲しんだ。 「――後は任せるわ。終わったら呼んで頂戴」 氷璃はそう告げると大ウサギに背を向ける。毛皮は欲しいが、服を汚すのはイヤなのだ。それに慣れた人間のほうが綺麗に剥げるはずである。 「ぼくは自分で倒したものは埋めてあげるよ。兎たち一兎一兎のことをぼくは忘れないからね」 光はそう言って千尋と共に骨だけになった小ウサギと大ウサギを埋葬する。 後に残されたのはかまぼこ板に『同志眠る』と書かれた墓標だけ。 「……すまんのう、お前さん達に罪はなかろうに……」 翁は物凄く寂しそうにその墓標に手を合わせる。哀愁漂うのは布団に出来なかったから、と言うわけではないと思いたい。ちなみに毛皮は氷璃が、お肉はリンが中心になって予定通りに美味しくいただきました。 そんな廃校舎の校庭に動いているウサギの姿。皆が一瞬身構えたが……明らかに大きさが小さい。と言うか、普通サイズだった。 最初にリンが告げた数が多かったのはその中にエリューション化していない兎も混ざっていたからだったらしい。もし何もしなければその兎もまたエリューション化していたかもしれないが、他のエリューションを全て始末した今となっては放置しても問題はないだろう。 「人は、何時だって自分勝手な生き物なんじゃ。その事は決して忘れてはいかんのじゃよ……」 そして、エリューション化したウサギをもふれなかった分、残された一羽のウサギはひたすらもふられ続けたそうな。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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