● ふわふわ。綿毛のような何かが、駆けていく。 まって、と伸ばした手は間に合わなくて、少女はひどく不安げに膝を抱えた。 見慣れない世界。暑い、とさえ感じる此処で手を離してしまった。 大丈夫だろうか。淡雪のように脆弱な、大事な友達を思う。 真っ白な睫が震える。流れる同じ色の髪が、ゆるゆる揺らされた。 どこにいっちゃったの、と、呟いた声は泣き出しそうに震えていた。 ● 「……どーも、今日は、『運命』って言うよりお願いがあるわ」 疲れた顔。何時もよりなんだか少し寒いブリーフィングルームで、資料を見つめる『導唄』月隠・響希 (nBNE000225)はひらり、手を振った。 「つい昨日、この世界に遊びに来たアザーバイドが居る。攻撃性はなく、世界にも愛されてる。愛すべき隣人ね。 ……その子、ペットと一緒に散歩に来たらしいのよ。でも、ペットが迷子になった」 だから、それ探すの手伝って。端的に告げられた言葉。おおよその目星もつけてある、其処まで告げたフォーチュナが、続きを話す前に。 椅子の後ろ。隠れていたのだろうか、真っ白な少女が、不安そうに顔を覗かせた。 「……紹介が遅れたわ。彼女がその、異邦人。霙って言うみたい。会話は可能だから安心して。 で、ええと……まぁ、そんな難しくないとは思うんだけど、今回のお願いには時間制限があってね。 明日の、朝日が昇るまでにそのペット見つけて欲しいの」 ぐいぐい、手を引く少女の頭をぎこちなく撫でながら、フォーチュナは眉を寄せる。 「あー、この子、雪女みたいなものでね。彼女のペットもそう言うものなの。『風花』って言う、真っ白くてひんやりした、もこもこ。兎っぽい。 この子達にとっては、この世界の気温は少し高いのよ。霙は力が強いから問題ないけど、ペットはそうも行かない。 霙からあんまり離れると、溶けてなくなってしまうんですって。……だから、あんたらに頼んだの」 ここまで大丈夫? 傾けられた首に、頷く面々。 「……探しに行くのは今からだから、もう夜ね。今回、狩生サンは『老人は早寝早起きです』とか言って丸投げしてったから居ない。 ので、あたしが一緒に行くわ。……まぁ、手は無いよりいいだろうし。良ければ宜しく」 それじゃあ、後は現場で。纏わりつく霙と、やはりぎこちなく手を繋いで、フォーチュナは部屋を後にした。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:麻子 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年11月30日(金)23:07 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● さらさら、降り注ぐ白は粉砂糖にも似ていた。 柔らかな手触り。触れても溶けないそれは、灯りを含んで仄白く煌いて。 「わあ、あかるーい!」 雪の夜は好きだった。鮮やかな緑色を細めて。『囀ることり』喜多川・旭(BNE004015)はくるりと回る。 防寒対策もばっちり。楽しげに笑って、そっと屈む。目線を合わせるのは、予見者の後ろの小さな姿。 「だいじょーぶっ、ぜったいみつけるからね!」 指を差し出す。約束のしるし、と微笑めば、控え目に絡んだ指に笑みは深まる。 そんな彼女と同じく、霙の傍に屈んだ『蒙昧主義のケファ』エレオノーラ・カムィシンスキー(BNE002203)は挨拶と共に、緩やかに首を傾ける。 「見つけたらちょっと抱っこさせて欲しいのだわ。……駄目?」 「ううん、……風花も、よろこぶとおもうの」 おずおず。返った声に礼を告げる。更け始めた夜に、友人を思い出して微かに笑った。生憎、誰かさんと違って、自分は宵っ張りなのだ。夜はまだまだ、これから。 「風花さんって、自分のお名前わかるんでしょうか?」 「わかると、おもう。かざはな、ってよんであげて」 マントの下にはほっかいろをぺたぺたして、防寒対策はばっちり! 異世界のお客さんを助ける事も、アークのお仕事。『娘一徹』稲葉・徹子(BNE004110)は決意を胸に大きく頷く。 徹子、がんばります! 初々しい様子を眺めながら。『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)はそっと、溜息にも似た吐息を漏らした。 こんなにも大人しい来訪者ばかりであるなら、楽でいいのだけれど。不安定な世界の最下層には、常に危険が舞い降りる。 そんなものばかり相手にしていると、どうしても。殺伐とした偏見を覚えてしまう。この少女も実は、なんて思って。溜息混じりに首を振った。 「やれやれ、平和主義者のつもりなんだが」 どうもいけない、と切り替える。穏やかな日常に癒されるのも、偶には悪くは無いだろう。 手早く、手渡されるのは暖かい湯気を立ち上らせるカップ。肩から提げたクーラーバックを背負い直して、『幸せの青い鳥』天風・亘(BNE001105)は予見者と霙の前に立った。 「ふふ、異界の雪も貴方も幻想的で素敵ですね」 御機嫌よう、と下げられた頭。恭しいそれに少しだけ驚いた少女と、何時も通りね、と笑う響希に悪戯に片目を伏せて見せて。 彼が取り出すのは、真っ青な布。何も無い右手にふわり、被ったそれ。きらきら、輝く瞳の前でカウントダウン。 「3、2、1……はい、どうぞ」 掌に、一輪。咲くのは透き通るような硝子の花。霙の手へと移されたそれに、緊張気味だった表情が嬉しそうに緩む。 わたる、と控え目に呼ばれた名前に表情を緩めた。一緒に行きましょう、と言う声に頷いた顔を見て、一息。 「あたし居なくても大丈夫でしょ? ……じゃ、後宜しく」 繋いでいた手を、亘へと。少しだけ緊張気味の顔にいってらっしゃい、と言ってやれば、何度か頷いて共に歩き出す。 地図はばっちり。連絡手段もばっちり。普段はもっと殺伐とした状況で使う技術を全て注ぎ込んで。リベリスタは、風花捜索隊として動き出した。 ● さらさらの雪は、優しく押して固めてやればふんわりと丸まって。 幻想纏いに取り込んだ写真と見比べて、頷き一つ。『BlackBlackFist』付喪 モノマ(BNE001658)は真剣そのものの表情で、雪が積もるのを待っていた。 その間、流すのは、霙が心細げに風花を呼ぶ声。加えて、時々混じる、風花の鳴き声(モノマの物真似)。 見知らぬ世界で迷子になる何て、きっと寂しいだろうから。こうしていれば出てこないだろうか、思いながら転がし始めた雪球が程好い大きさになれば、次に行うのは成形だ。 「んー、こんな感じだったかな?」 出来る限り、もこもこ、ふわふわ。目をつけて、耳もつけて。あっ此処ちょっと足りない。全体的に雪を乗せてやったら、もっとふわふわもこもこだろうか? 漸く完成したそれは3つ目。そっと地面に並べて、満足げに頷いた。 実に良い出来である。こだわりのディティールは、何処から見てももふもふふわふわ。嗚呼、こうやって並ぶと中々良い。特に4つ目なんて…… 「あっ、いた!」 もふもふが振り向く。白い中に、ちょこんとある南天の瞳。見知らぬ人影に驚いたのだろう、唐突に駆け出す。霙が呼んでいる、なんて声も届かない。 まさに脱兎。嗚呼、今度はまさかの鬼ごっこか。あっと言う間に消えた姿を見送りながら、一つ溜息。 「風花、見つけたぞ。……但し捕獲は出来なかった」 目標は、全力で逃亡中。そんな通信に、リベリスタ全員が問答無用で駆け回る羽目になるのは、言うまでも無い。 「雪が降る夜の公園で遊んだ後に朝帰り……なんて、秘密のお話っぽくて楽しそうではありませんか?」 連絡を耳にしながら。ふわり、浮き上がって流れるのは銀の髪。聞く者によって、睦み合う恋人達のお話か、飲み帰りの酔っ払い達のお話か、解釈が変わるのがポイントだ。 薄く笑って見せる『銀の月』アーデルハイト・フォン・シュピーゲル(BNE000497)を見上げて、響希は面白そうに目を細めた。 「じゃあ、今夜は特別って事?」 「ええ。今夜、解釈がもう一つ――」 きらきらと、夜闇に広がる銀世界を見下ろした。優しさと厳しさ。相反するようでよく似たそれを教えてくれる冷たさに、そっと息をつく。 世界は綺麗だった。そして、そんな世界の中で、人は独りでは生きられない。 目を細める。それを教えてくれた来訪者の為にも、逃げ出した兎を早く見つけてやらねばなるまい。 トレンチコートの裾が、積もった雪と触れ合う。じわり、と濡れていくのも気に留めず、『fib or grief』坂本 ミカサ(BNE000314)はコンクリートが打たれた細い通路を覗き込んだ。 服は、洗えば元に戻るけれど。大切な兎を見つけてやらなければ、あの幼い顔は曇ったままなのだろう。 それは少しばかり、心苦しいから。地道に、痕跡を辿りながら捜し歩く彼の瞳が捉えたのは、まだ真新しい幾つもの足跡。 読み通り、他より冷えの早いコンクリートを好んだのだろうか。踏み締めるように駆け回った後を辿れば、離れたところに見える後姿。 「……今、そっちへ駆けて行ったよ。後は追ってみるけど確認宜しく」 走り回る、だなんてもう柄じゃないけれど。偶にはやってみるのも悪くは無いだろうか。馴染んだ革靴が、降り続ける雪を踏み締める。 散らばったリベリスタ達は、それぞれ持ちうるスキルを徹底的に駆使していた。 「ふむ、こっちには来ないようだ。旭、そっちに行ったぞ」 連絡を受けたユーヌの瞳。障害物など無いに等しいそれが、駆け回る白を視認する。足音的に、此方には向かっていないらしい。 「風花ちゃーん、霙ちゃんが探してるんだよー」 だから逃げないで、と。一生懸命呼びかける旭に一瞬止まりかけたものの、やはり見知らぬ人は怖いのだろう。止まらない白を怯えさせないように、けれど素早く追いかける。 その様子を、亘の幻想纏い越しに聞く霙は仕方の無い子、と困ったように笑う。その表情の影に、微かに滲むのは不安の色。 彼女をつれて公園を歩き回っていた亘は、優しく微笑んでその髪を撫でてやる。 「安心してください。必ず、風花さんを連れて来ますよ」 ね? と首を傾ければ、小さく縦に振られる頭。ぎこちなく伸びた手をそっと繋いだ。折角だから、好きなものの話でも。そんな提案に、少女の表情が少しだけ柔らかく緩む。 ● 白い姿が、駆けてくる。熱源を辿るエレオノーラの瞳が細まった。地面に降りて少し、視線を下げる。 「あたし、霙ちゃんのお友達よ。頼まれて探しにきたの、戻りましょ?」 霙が心配している。怯えさせない様に出来る限り優しく。言葉が届くのかも分からないけれど、告げられた言葉に風花はぴぃ、と鳴いた。 霙ちゃん、と呟けば耳が動く辺り、主人の名前は分かるのだろう。すぐにでも駆け出してしまいそうなそれと睨み合い(?)を続ける中。エレオノーラの報告を受けて、駆けてきた徹子はすぐさま彼の隣に屈んで、その手を伸ばす。 否。伸ばそうとして、思い止まった。もしかして、と思ってホッカイロばっちりなマントを仕舞い込む。直後、ノイズ交じりに聞こえるユーヌの声。 『……風花は、熱いのが怖くて逃げているのかもしれないぞ』 防寒すれば当然その身体は熱を持つ。もしかしたら、見知らぬその温度も怖がっているのでは。 その予測を確かめる形になった徹子は、小さくくしゃみをひとつ。上着を失った身体に雪交じりの風は酷く冷たくて。けれど、暖かいのは毒だから、ぐっと我慢した。 「ちちち、こわくない、こわくないですよー……」 手を広げた。大丈夫。囁くような声で呼びかければ、漸く此方を向いた真っ赤な瞳。安心させるように、一つ頷いて見せた。 じりじり、最初は少しずつ。害は無い、そう判断すればあっと言う間。少しだけひんやりとした、徹子には大きすぎるふわふわ毛玉がその腕の中へと飛び込んでくる。 尻餅をついた。けれど悪い気はしなくて、その身体をそうっともふもふする。ふわあ、と漏れた感嘆の吐息。 「霙さんっ、風花ちゃんですよ!」 「よかったぁ、……もう、勝手にどこかにいっちゃだめなのよ」 みつけてくれてありがとう。亘と共に駆け寄ってきた霙の表情が漸く緩む。良かった、と一様に緩んだ空気の中で。 同じく寄ってきた旭が、控えめに首を傾けた。 「ね、霙ちゃん。風花ちゃんってわたしが触ってもだいじょーぶ? とけたりしない?」 モノマの待つ休憩所前に移動しながらの質問には、勿論、と大きく頷く。もうこわくないよね、と尋ねればもこもこは同意する様にふるりと震えた。 大丈夫だとしても、恐る恐る。本当にそうっと伸ばされた手が、毛に埋まる。ひんやり、柔らかな毛並みは羽毛布団のようで。思わず表情が緩んだ。 「ふわふわもこもこはもふるしかねぇな!」 さっきは驚かせたのだろうか。最初は優しく、怯えた様子が無ければもう力一杯。もふもふを堪能するモノマに、若い子は元気ねぇ、と笑うのはエレオノーラ。 勿論自分ももふもふはしたいけれど。若い子に順番を譲る位は、大人の嗜みとして当然なのだ。 その考えはミカサも同じで。もふもふしたいと言う溢れんばかりの気持ちを抑えていた彼に回ってきた風花は、随分と慣れた様子で此方を見上げてくる。 実にもふもふ。何時もの様にそのもふもふを心行くまで味わうのも良いけれど。伸ばしたのは指先だけ。 そっと頭を撫でてやれば、擦り寄ってくる姿に少しだけ目を細めた。嗚呼、やっぱりもふもふって最高だ。 ぺたぺたもふもふ。唐突に屈んだユーヌが作るのは、雪だるまらしきもの。 手乗りサイズに仕上げて、頭には耳らしきものを二つ。 ∩ ∩ (●_●) ( ) なんと言うか非常に、ある一部分が怖い気もしないでもないのだが。もこもことしたそれの隣に今度は淡々と、頭だけを並べていく。 ∩ ∩ (●_●) ( )(●_●)(●_●)(●_●) 「ふむ、それなりに可愛い出来だな」 作成者は酷く満足げですが。出来ればこっちを見ないでいただけると非常にありがたいお顔です。 ● 「……よっし、かんせー! どーお、にてるー?」 「おー、うまいじゃねぇか。似てる似てる」 モノマの雪うさぎの隣にちょこんと並ぶ、旭の作った雪うさぎ。そして、ユーヌの作った雪だるま(?)。 その間に風花を入れてみれば、中々に似ている気がして。すごいすごい、と手を叩いた霙の様子に、旭もまた嬉しそうに微笑んだ。 もう一個作ろう。楽しげに言葉を交わす彼らの代わりに、風花を預かるのはエレオノーラ。 おいで、と手招きすれば大人しく寄ってきた大きめの身体が、甘えるように膝に飛び乗る。決して大きい訳ではない、寧ろ少女と言って差し支えない彼(80代です)にとっては中々の重さ大きさだが、まぁそれも悪くは無い。 「ひんやりしてふわふわ……かわいい子ね」 なでなで。優しく頭を撫でてやれば、嬉しそうにぴぃ、と鳴く声。嗚呼可愛い。でも、流石にずっと膝に乗っていられると足が痺れる気もした。間違っても顔になんて出さないけれど。 そんな面々を眺めながら。アーデルハイトはまっさらな雪を見つめて、その身を投げ出した。 ふわり、優しく沈む身体。冷たい感触は、動き回った身体には心地よくさえ感じて。そのまま大の字に仰向けになった。 見上げる空は美しい星空なのに、空から落ちるのは星ではなく真白い雪。 「あは、あはははははははははははっ――」 まるで子供の様に。酷く楽しげに笑い声をあげた。銀色の髪が雪と混じって、仄かに湿り気を帯びていくのも悪くは無い。 動乱の日々に生きているからこそ、偶にはこうして、何も考えずに、訳も無く。笑ってみたくなる事もあって。 嗚呼。この想いは伝わるだろうか。この世界を良く知らない、まだ幼い来訪者にも。 そう、こんな、動乱ばかりの世界でも。此の世界は―― 「こんなにも、素晴らしいのです」 目を細めた。はらはら、舞い落ちる雪を感じながら、吐き出した吐息は同じ位、白い。 ぺたぺた。手袋越しではうまく行かないから、と、晒された長い爪が雪を集めて固めていく。その様子を眺めながら、ミカサは微かに溜息を吐いた。 「……もう少し、暖かい格好をしても良いと思うよ」 「いや、精一杯だった、って言うか……あの子が」 暑がるかなぁって。普段の格好にコート一枚と手袋。その手袋も、霙と居る間は外していたらしい響希は、嗚呼寒い、と吐息を漏らす。 なにやら、あそこで雪遊びに興じている蒼い羽の誰かさんが、気を回しているようだから。 それに甘んじる形で誘いをかけたミカサの手元には、既に出来上がった雪うさぎ。ふわふわで、紅い瞳のそれに可愛い、と小さな笑い声が聞こえた。 視線が合う。何? と傾げられた首になんでもない、と言いかけて。思い直したように口を開いた。 「寒いの? 鼻赤いよ」 嘘、と慌てて押さえる手。嘘だよ、と告げた声に含まれる愉悦の色に、不服とばかりに眉が寄る。もう知らない。照れを隠す様に立ち上がった響希が向かうのは、旭の下。 ピンと伸ばされた人差し指。楽しげに笑い声を立てて。 「雪合戦する人この指とーまれっ!」 可愛らしい呼びかけに、集まるリベリスタ。チーム? 個人? 交わされる言葉の中で、驚いた様に目を白黒させる霙に旭は首を傾ける。 「ゆ、ゆきがっせん……?」 「えっとねー、雪を丸めて投げ合う遊びだよー?」 見た事無いかな、と尋ねれば、大きく頷く。毎日毎日雪が積もれば、遊ぼう、だなんて思わなくなってしまうのだろうか。 緊張気味に、それでも参加する、と頷いた彼女の前で。腕を振り被るのはモノマ。 「いくぞ! 俺の剛速球受けてみろ!」 なんて言いつつ、雪玉は柔らかめ。全力投球されたそれが、亘の頬を掠める。やりますね、なんて言葉と共に飛び交う雪玉。面白い、と小さく呟く声に安堵した。 なんたって、身体能力はずばぬけているリベリスタ。よく見るそれに比べて随分と素早く球が飛び交う中でも、ユーヌは飄々と交わして見せる。 ふわくるり。あっちへふらり、そっちへふわり。捕らえ所の無い彼女が不敵に口角を上げる。 「私を捉えるには、随分と鈍い玉だな?」 そんな彼女の横で、見事に顔面で玉を受けるのは徹子。へぶちっ、なんて可愛らしい悲鳴と共に、首の中に入ってきた雪を慌てて掻き出す。 リベリスタの身体能力で、なんて思っていたけれど。条件は諸先輩方と同じである事を完璧に忘れていた。同じく後ろから雪玉を食らったらしい響希と、顔を見合わせて笑い合う。 楽しい時間は本当にあっと言う間で。気付けば白み始めた空に、帰らないと、と呟いたのは誰だったろうか。 「……あの、」 控えめな声。ぐ、と拳を握って、寂しそうに揺れる瞳を一生懸命開いて。少女は共に遊び続けてくれたリベリスタを見上げる。 擦り寄ってきた風花が、小さくぴぃと鳴く。落ちる沈黙。幾度も開かれては閉じた唇が、漸く微かに空気を震わせた。 「さがしてくれて、……遊んでくれて、ありがとう」 「……また遊びに来てね」 もっと寒くなれば遊びやすいだろう。優しくエレオノーラが囁けば、何度も頷く。名残惜しむ様に見つめて、けれど漸く、その手が宙を掴む。 ふわり、開いた穴から感じるのは異界の冷気。一瞬だけ振り向いて。またね、と囁くような声。振った手は、彼女に見えただろうか。 あっと言う間に掻き消えた後姿。積もった雪が、溶ける様に消えていく。 白む空。痛い程に冷えた空気の中に、はらはらと。落ちてくるのは、この世界の白。うっすら、積もったそれをエレオノーラのブーツが踏み締めた。 雪は好きよ、と。囁く程の声が空気を揺らした。遥か北。冷たく吹き荒ぶ空気を思い出した。それはどれ程長く生きようと、特別な記憶であり続ける。 そこに、どんなものがあったとしても。吐いた息はやはり白い。トレンチのポケットに手を入れて、ミカサは静かに空を見上げる。 時間は長くは無かったけれど。互いにとって、この邂逅が良い思い出になっていると良い。言葉に出さずに目を伏せた。 淡い雪が、降り積もっては溶けていく。冷たくも仄かに暖かな空気と共に、リベリスタはそれぞれの帰路についた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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