●脳内にて英語再生推奨 それは何処かの基地内。 2012/XX/XX Thursday(木曜日) AM5:00 歩哨より定時連絡が途切れる。 警戒態勢を発令、現状把握に分隊を出動させる。 「どうなってやがる……」 そこはただの倉庫だったはず。 しかし広がっていたのは血の海、そこら辺に野戦服を鮮血に染め返した仲間達が転がっていた。 「刃物だ」 別の兵士が死体の首筋を銃口で突っつく。 狙ったかのように大動脈が引き裂かれ、この有様と言うことらしい。 「チクショウ……」 今にもそこらへ弾幕をぶちまけたくなる衝動を抑え、兵士はぎゅっと唇をかみ締めた。 怒りは今は押さえ込み、頭を冷やし、心を燃やす。 小銃を構えて静かに辺りをクリアリングし、憎き仇を探していく。 そして最後に残ったのは奥の倉庫、潜むポイントも多く、不意打ちするには持って来いだ。 だが逃げ道が無い場所でもある、つまり敵はここで待ち構え、皆殺しにするつもりでいる。 自信満ち溢れる遠まわしな挑戦状は、彼らの心を焼き焦がす。 扉の脇にある壁に張り付き、ハンドサインと同時に張り付いた一人が片手だけで、ドアを乱暴に押し開く。 斜めから部屋を覗き込む戦友達に死角はない。 すっと滑らかな動きで倉庫へ突入し、銃口が獲物を捜し求める。 ――いない。 着かず離れずの間隔を保ちつつ、巨大なキャビネットが並ぶ倉庫を進む兵士達に嫌な寒気が走るほど静かだ。 「クソ野郎、どこいきやがった?」 「黙って探せ」 溢れる憤り、早く引き金を引き、仇を取りたいとうずうずしている。 そんな彼らの頭上で白銀が煌く。 「っ!? 伏せろぉぉっ!!」 それに気付いた一人が叫ぶ。 素早く反応した男達は一斉に身を屈ませるが、一人が反応に遅れてしまう。 「っぁ!?」 司令塔を失った胴体が膝から崩れ、真紅の噴水を撒き散らしながら床に倒れていく。 ごとりと転がった生首は虚ろに天井を見上げていた。 「くそっ!? 何だ!? 何が起きたんだクソがっ!!」 敵は見えない、再び闇から飛来する冷たい反射が風を切り迫る。 「がっ!?」 「ぐぶぇっ!?」 不意の飛び道具を受けた兵士二人が潰れた声と共に派手に倒れていく。 胸元には、見慣れぬ形をした投擲武器が突き刺さったまま……。 「そこかっ!!」 射線から割り出したポイントに向けて、兵士が発砲。 カービンから吐き出された鉛は纏まった軌道を描いて突き進むも、一閃の光が全てを断ち切る。 「嘘だろ……ライフルだぞ!?」 マスケット銃や火縄銃などではない、音速を貫く高速のフルメタルジャケットだ。 地面に転げ落ちた弾の残骸にあんぐりしている間も、投擲武器の反撃はやってくる。 「くそっ! ならとっておきをくれてやらぁ!」 銃の下部に設置されたグレネードランチャーからガス音を響かせ、爆発弾頭は放たれた。 大体の敵の位置に向けて放たれたそれは、地面にぶつかると共に爆音を響かせ、高温の熱と衝撃波、そして砕けた鉄片を撒き散らす。 黒い煙が立ち込め、流石に敵も息絶えただろうと思いきや。 ゴッ! お礼と真っ黒な球体に導火線という、誰が見ても分かる物体が頭上から落ちてきた。 「爆弾だぁぁっ!!」 一斉に逃げ出した兵士達ではあったが、逃げ遅れた数名が巻き込まれ、遭えなく血肉と共に宙を舞う。 「クソッ! 仲間を引きずって逃げるぞ! このままじゃ嬲り殺しだ!」 一方的な奇襲に一時撤退の命が下る。 ここは体勢を立て直し、更なる人数で圧倒するか、容赦なく車両兵器を投入する必要があるだろう。 何せ、数では圧倒的優位であり、性能としても屈強の兵共が容易く葬られているのだ。 息絶えた仲間を引き摺りながら出口を目指す彼らの前に、とうとう宿敵は舞い降りる。 「何だこいつは……これはまるで……」 「NI、NINJA……」 放たれた火炎放射に飲まれる兵士の最後の言葉であった。 ●米国では拳銃よりクナイ 「せんきょーよほー、するよっ!」 今日も元気いっぱいのご挨拶、『なちゅらる・ぷろふぇっと』ノエル・S・アテニャン(nBNE000223)と仁王立ちに無愛想な表情を浮かべる兄、紳護がリベリスタ達を出迎える。 「今日はね、こんなえりゅーしょんさんを倒してきてほしいの」 予知を記したスケッチブックを開き、トンとテーブルの上に立てると……なにやら黒尽くめの人影が描かれていた。 しかも、何故か分からないが日本語ではなく、アルファベットでこう記されているのだ。 NINJA クレヨンでへたくそに書かれた文字だが、まごう事無くアルファベットでしっかりと間違いなく書かれている。 だが、何故忍者と感じではなく、アルファベットでNINJAと書かれているのだろうか? 「このNINJAさんは悪いNINJAさんなの、だからこのままにすると、悪いことたくさんしちゃうんだよ?」 純真無垢の生まれたての子猫の様な性格のノエル……筆者はそのつもりなのだが、それはともかく。 そんなノエルにはちょっとした特技がある。 3種の言語で会話が出来るのだ。 母親から日本語、父親からフランス語と英語を学び、ネイティブのレベルで喋る事が出来る。 何が言いたいのか? というと言うに関しては御尤もだ、だが想像して頂きたい。 あの花咲く様に笑う笑顔で、さも当たり前に、ネイティブの発音で、英語の発音で、NINJAという瞬間を。 居合わせたリベリスタが台詞に違和感満載で混じった『NINJA』に、必死にこらえて肩を震わせる様子をご理解頂けるとありがたい。 無論、ノエルはその理由が分からず、こてんと首を傾げるだけだが。 「……こんな話がある、とある国で学校に忍者が出たという通報が警察に入ったらしい」 たとえ日本でも忍者は出現しない。 むしろ海外で何故忍者が湧き出すのか? 忍者の名産地でもあるというのか? ツッコミ待ちもせず、淡々と紳護は続けた。 「その通報の結果、警察が大勢出動し、学校を包囲。更には特殊部隊も狩り出され、大騒ぎになった事があったそうだ」 その国、馬鹿なんじゃないか!? と堪らずツッこんだリベリスタもいるか知れないが、気にも留めず紳護は本題に入る。 「さて、今回のターゲットだが……E・フォースが2体、それぞれフェーズ2に該当する。発生した経緯はノエルの予知によると……」 紳護が口を噤む、視線は逸らされ、切り出しにくそうな様子を見たノエルがニコリと笑みを浮かべた。 「にんじゃ好きのがいじんさんの思いがあつまってできたみたいって、いってたよね?」 おい、ふざけるな。 どれだけのリベリスタがそう思ったかは分からないが、ふざけた理由で生まれてしまったものは仕方ない。 なんだか冷え切った視線を向けられる紳護は気まずそうに咳払いをすると、振り払う様に作戦プランの解説に入ろうとスクリーンに戦場の映像を映し出す。 「本題に入る。出現ポイントはこの時代劇の撮影にも使われるこのテーマパークだ、江戸時代の街並みをイメージした作りになっているらしく、それらしい家々が並んでいる」 茅葺屋根の長屋や、木造の大きな建物等、色んな建物が密集し、舗装されていない道と、いかにも外国人観光客が好みそうなポイントだ。 しかもここでは忍者ショーという、ちょっとしたイベントもあるらしく、それをみて感化された観光客の思念がこんなものを生み出したのだろう。 「ここに忍者の形になったエリューションが2体潜んでいる。一般人への被害と秘匿を考慮し、夜間に作戦を実行してもらう。敵の土俵に踏み入って戦うような状態になる、十分気をつけてくれ」 夜闇に紛れて、襲い掛かる忍者の本領が遺憾なく発揮される。 だが、こちらも練達のリベリスタ達が挑むのだ。対応する手段は十分あるだろう。 「攻撃手段は刀による近距離攻撃、投擲武器による遠距離攻撃、爆弾による変わり身の術もあるらしい。それと忍術も使うようだ」 ベタベタな忍者像で作られたエリューションの内容に、ため息が聞こえたとかどうだとか。 詳しい情報は資料に纏めてあるらしく、目を通してくれと紳護がメンバーに配布していく。 「ノエルもNINJAさんみたいなぁ、しゅばば! と動くのみてみたいの」 きゃっきゃっとはしゃぐノエルにくすっと微笑むと、リベリスタたちはプラン検討に入るのであった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:常陸岐路 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年11月29日(木)23:21 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●盲点 (「いやはやいやはや忍者とかいってもねー私風歌院文音は極普通の女の子ですからねーいやーまったくもってわからない人種ですねー」) 『アークの鴉天狗』風歌院 文音(BNE000683)の心での独白は棒読みに近い。 分からないといっても、既に人間から離れた存在であるリベリスタがのたまうものではないだろう。 『あー、てすてすてす こちら風歌院さんですよ。簡単に見つけたーとはいかないようです』 透視と暗視ゴーグルの組み合わせで、敵を探り出し、不意打ちを防ごうと高いところから偵察を行っているのだが難点が生まれていた。 ライトグリーンの世界は鮮明に見えるが、色が無いというところが痛い。場所によっては黒く染まるし、透視すれば壁の向こうも見えよう。 だが、敵がくっきり見えるかどうかは別だ。 じぃっとしているだけでも、薄い緑は壁の向こうの景色と混ぜてしまう。 敵に生体反応でもあれば、熱感知の方が温度で見分けられるかもしれないが……残念ながら持ち合わせていない。 暗闇の中、光源無しに進むリベリスタ達。 懐中電灯も準備していたが、使用していないのは『フェイトストラーダ』ユイト・ウィン・オルランド(BNE003784)がとある事に気付いたからだ。 懐中電灯の強い明かりは逆に邪魔にならないか? まさにその通り。 光を増幅させる暗視ゴーグルに眩い懐中電灯はNG、光が差せば白く焼きついて使い物にならなくなる。 能力は別としても、ゴーグル持ちが多い以上、なるべく使わない方が良いというわけだ。 「これ、ちょ、ちょっと寒くない? さぎりお姉ちゃんは大丈夫?」 素肌に凍みる冬風に『おこたから出ると死んじゃう』ティセ・パルミエ(BNE000151)は小声を震わせ、『碧海の忍』瀬戸崎 沙霧(BNE004044)に問いかける。 「私は慣れてるから大丈夫だけど、パルミエさんにはキツイかもね?」 彼女は水中戦を得意とする故、冷たい水にも潜る。 それに比べれば寒風は優しい方なのだろう。 くすっと微笑を浮かべる沙霧に、ティセは渋々我慢を続けるが耐え切れるのやら。 「茂みに隠れてたりしてそうだが」 『正義の味方を目指す者』祭雅・疾風(BNE001656)も千里眼と暗視装置を組み合わせて広い範囲の索敵を試みるが、景色は微動だにしない。 傍では対照的な忍者二人、『影なる刃』黒部 幸成(BNE002032)と『ニンジャウォーリアー』ジョニー・オートン(BNE003528)が目を配らせている。 片方は正統派忍者といった風貌、片方は今回の敵がイメージした忍者――もとい、NINJAに近い。 (「おお! 忍者だ! こんなにも忍者がいるよ!」) 目を輝かせ、『いつか出会う、大切な人の為に』アリステア・ショーゼットは前衛に立つ忍者達の姿を見つめる。 (「私も忍者っぽい格好すればよかったかなー」) スカートの裾をつまみ、既に実践済みのティセのほうを見やるが、くしゃみをするのを見て即刻止めておこうと思い直す。 ついでに気も引き締めなおし、索敵を続け様としたその瞬間。 『動きましたよー!』 文音の目に映る緑色の景色に溶け込んだ敵が茂みから飛び出すと、奇襲攻撃を遮る様にティセと幸成が割り入る。 ターゲットを切り替え、二人へ手にした刀とヌンチャクを振り回すNINJA。 何故ヌンチャクだ、間違いなく土産屋のスポンジ製ヌンチャクに感化されただろうと問い詰めたい。 「きたない、さすがNINJAきたない!」 「その様な攻撃っ!」 人並みはずれた反射能力も重なり、不意打ちは失敗に終る。 攻撃の軌道を逸らし、後衛に抜けない様に計らいつついなす。 ぱっと見で忍者と分かるものの、ベーシックなものではない。 何か呟いた様だが、英語なのだから。 ●忍者とニンジャとNINJA時折クノイチ 「そっちは任せるわ!」 「心得た!」 幸成が押さえ込むNINJAとは別の方へと沙霧は距離を詰めると、手に巻きつけた紐を解き、鞭の如く振るう。 先端が音速を超えた一瞬を、空気の壁を叩く音ともに敵へと叩き込む。 手応えはある、しかし。 「っ!」 唐突に敵の姿は煙に包まれると同時に丸太へと変わる。 そして、足元には黒丸の爆弾が転がった。 「何で爆弾!?」 飛び退いて避けるも、忍ぶという言葉に合わぬ派手な攻撃に沙霧は不満そうに吐き捨てる。 確かに、火薬の匂いがこびり付いては気付かれやすそうでもあり、そもそも壁を壊す為としてもバレバレだろう。 『ティセさんの傍ですよー』 文音の知らせに直ぐに反応するティセが雷の舞を振るう。 しかし、これは無駄にそれらしい身のこなしで避けられてしまう。 その間も幸成が暗器での一撃を当て、担当したNINJAを押さえ込む。 「吹けよ嵐! 変身!」 掛け声と共に疾風の体を光が包み、一瞬にして武装を整える。 烏天狗を思わせるようなフルフェイスマスク、スケイルアーマーを思わせるスーツに陣羽織を模した防具部分。 NINJAとはまた違うヒーロー忍者となった疾風が大型のナイフに迸る電撃を纏い、NINJAへ襲い掛かる。 しかし、再び変わり身の術。 「ぐぁっ!?」 爆弾を避けようと試みたのだが、あいにく今度は散弾状に吹き荒れる手裏剣の突風。 モロに浴びてしまった疾風の体力は大きく削がれてしまう。 「疾風おにぃちゃん!」 「大丈夫、まだいける」 心配そうに見つめるアリステアに、力強い声で答える。 ダメージは大きかったが、体力の半分を割るほどまでは無いようだ。 『あー、出現した場所は疾風さんの後方、このままだと抜けちゃいますねー?』 「通さぬでゴザルよ!」 文音の索敵にジョニーが応え、後衛とNINJAの間に割り込む。 完全に進行方向を塞ぎにかかったジョニーに、敵の足も止まる。 「Ha!」 「SeiYa!」 発音が英語に近い掛け声と共に、1体は立ち塞がる幸成へ、1体は飛び道具で沙霧を狙う。 「その程度っ!」 「っと、危ないわね」 振り回される鎖鎌を身を逸らして避け、幸成には傷一つ与えられない。 沙霧も少々危なかったが、寸でのところで飛んできたクナイを全て避け、無傷だ。 今、戦いのペースはリベリスタにあった。 「このまま畳み掛けるでござるよ!」 再び幸成がオーラの糸でNINJAを縛りつけ、ダメージを与えつつ、注意を自分へと引き付ける。 彼の呼び掛けが猛攻の呼び水となり、攻撃要員が一斉に襲い掛かる。 先程と同じ敵を沙霧が狙うも、避けれれてしまう。 いや、避けられたというよりは範囲内へ敵を追いやったというべきか。 電気を纏ったティセが、射程内へ踏み込んでいるのだから。 「ところで技にあったハイクって何ですか?」 一撃目を叩き込むと同時にもの問う。 「一応いうけど、ワビサビはワサビとは違うよ! ヒッチハイクと間違えてない?」 何故そこに飛んだ? 問いの内容はともかくとして、完全に捉えられた忍者はティセの連撃を余す事無く体で受け止めさせられる。 「あたしの知ってる忍者は……金髪に鮮やかな青い装束で、犬を連れてジャスティスだよ!」 ついでにそいつは巫女が好きそうだがこれ以上綴ると大変な事になるので省略。 思いの全てと共に、一回転の爪撃を繰り出し、青い閃光が舞い散る。 ズタズタに引き裂かれたNINJA達は、相当のダメージを受けたようだ。 「轟け雷光!」 続けて疾風が飛び込み、電流の一閃を振るう。 吹き抜ける風の様に速く、一瞬にして焼き焦がす落雷の如く激しい連続攻撃がNINJAを追い詰める。 まさに疾風迅雷とはこのことだ。 体勢を崩されていたNINJA達に変わり身の術を使うほどの余裕は無い。 (「敵もNINJA! 味方にも忍者! こんなフォースが発生するなんて流石日本!」) ユイトはにんまりと笑みを浮かべつつも、仕事だけはきっちりこなしていく。 防御に関する情報を共有化させ、仲間の陣をより強固なものへと固めていくのだ。 (「思っていたより、読み取るのは大変ですね」) 先程からリーディングで援護を試みる文音だが、再び予想外の事があった。 敵の性質上、無数の思念が絡みついた存在ゆえに、意識や思考にノイズのように沢山の声が絡み付いてくるのだ。 察知しようにも、こうにも雑音が多くては叶わない。 それでも、高所から敵を見下ろして索敵は続けており、変わり身の術で突破されることは防いでいた。 敵の攻撃も再び、全て回避に成功し、勢いは止まる事を知らない。 流石のNINJAもこれ以上はやられてはならないと、尻に火がついたか速度が増していく。 沙霧の紐をすり抜け、ティセの爪を掠める程度に抑え、疾風のナイフは変わり身の術に再び嵌めてやる程、切れが良い。 『少し下がりましたね、距離を詰めないとー』 「今だっ!!」 距離が離れたという事は、この一瞬は見方を巻き込まなくて済む。 ユイトは何かを投げ込み、待ちに待ったチャンスを逃さない。 弧を描いて飛来したのは閃光手榴弾、それも並みのものではない。 リベリスタ、フィクサードですら視野を焼き潰され、体を痺れさせるほどの強烈な光だ。 夜闇を切り裂く白き花火が納まる頃、ジョニーが追い撃つ。 「本当のNINJAというモノを見せつけて進ぜよう!」 丸太の様な隆々とした脚から繰り出される蹴りは、大気を巻き込み、風を圧縮する。 三日月の様にゆがんだ空気の層が走り抜けた。 右斜め、続けて左斜めと切り裂かれたNINJAの体が千切れていく。 「my Gotー!」 せめて日本語で散れと、リベリスタ達が異口同音に心の中で追悼の言葉を送るのであった。 ●NINJAの本気 「ハイク ノ ジカン ダ!」 わざわざ技名を名乗り出た上で、NINJAは幸成へと襲い掛かる。 先程から全ての攻撃をかわし続けている彼からすれば、一発逆転狙いの大技は下手な賭けに見えたことだろう。 だが、一人やられ、追い詰められたからこそ、より一層力を沸き立たせたのかもしれない。 「ブンシン ノ ジュツ !!」 側転を始めたNINJAは残像を残すようにして分裂し、5人に増えていく。 そして何故か釵(サイ)という琉球王国の武器を構えると、一斉攻撃が幸成を襲う。 縦横無尽に駆け回るNINJA、こうも数で圧されては逃げ場が無い。 「ぐ……っ!」 「HA!」 再び接近すると同時に分身は自爆、深いダメージと共に幸成が膝から崩れる。 「今、直してあげるからね!」 アリステアの詠唱が、神の力を呼び込み、具現化していく。 彼女から放たれる癒しの風は、忽ち幸成と疾風の傷を癒す。 反撃と襲い掛かるリベリスタ達だが、NINJAに情け容赦は無い。 先程までの優勢が嘘の様にダメージを与えられず、それどころか変わり身の術と忍具(偏見アリ)で猛攻を見せる。 「これがNINJAの本気か?」 「相手のスペックはそう高くはない筈……とはいえ、アレが厄介ね」 沙霧の指し示す言葉に、ユイトが頷く。 少々高い回避力があの術と合わさり、じりじりと押し返されてきた。 ユイトもアリステアのEP回復を施しながらも、敵の僅かな隙をも見つけようと目を凝らす。 (「そろそろ頃合でしょうかね」) 攻撃の届かぬ上空から情報戦を担当していた文音が、タイミングを見計らって急降下を開始。 チラチラと敵の視線を感じることもあったが、互いに攻撃の届かぬ距離に入る為、どうにも出来ない。 そんな相手が急襲を掛ければ、流れを変える糸口になる筈だ。 背後というよりは頭上というべきか、落下速度を加えた黒きオーラを振るい、鞭の如くしなる先端がNINJAを穿つ。 ぐらりと揺れたところで人ならぬ眼光が、彼女を睨む。 (「拙者のような外国人が持つ、忍者への憧れが集結して生まれたエリューションでゴザルか……」) ジョニーは流水を思わせる一連の動作を続け、神経を研ぎ澄ます。 大河の如く押し流す力、流れる水の如し身のこなし。 (「その気持ち、よーく分かるでゴザル。NINJAはクールでゴザルからな!」) 敵と違ったのは願うだけでなく掴み取った事。 元の忍者とは離れていようとも、心に決めたニンジャとなり、皆を守る。 それが彼の忍道。 「ハイク ノ ジカ」 「ハイクを詠むのはお主の方だ! オンドリャアー!」 大技を繰り出そうとする隙を突いての雷の拳が吹き荒れ、NINJAへ吸い込まれる。 強引にねじ伏せるが如く浴びせるも、まだだとNINJAの目から敵意は消えない。 「先程の礼、受け取るでござるよ!」 影と気で作られた糸がNINJAへと絡まっていく。 反撃の隙など与えないと、幸成が堅実に攻撃を繋ぐ。 離せともがくNINJAだが、練達したこの拘束をそう易々解ける筈がない。 体が痺れ、より弱りきったところへ沙霧が続く。 「これで終りよ!」 手に絡み付けた紐を解くと、ふわりとNINJAの首へと纏わせていく。 ゆっくりに見えるのはそこまでだ。 パァン! と大気を叩く音と共に振りぬかれた腕が首を捻る。 正月の独楽回しを創造すればたやすいか、小気味良い音と共にNINJAの首が半回転し、崩れ落ちていく。 消えていく亡骸が、彼らの勝利を示していた。 ●疑問 「ねーねー。にんじゃ、って『しのぶもの』何だよね?」 戦いが終り、アリステアが仲間達の傷を癒しつつ、疑問を口にする。 「然様、心の下に刃、心を御し、こらえるものでござるな」 幸成が頷きながら答える。 「あのひとたち、何をしのんでるのかなー。よくわかんないねー?」 「忍者とは己が身を『刃』と成し、皆の『心』を守る者。 つまり自身が刃となるための鍛錬を忍ぶということではゴザらんか?」 ジョニーの答えも間違ってはいない。漢字の意味を捉えればその通りなのである。 アリステアもなるほどと納得した様子を見せる。 「でもあのNINJAなんだか卑劣だったよね? 飛び道具とか凶器とか罠とか!」 口を尖らせ、ティセが納得いかなそうに口を挟む。 「時代劇の撮影で来た事もあるが、外人の忍者への憧れは凄いからね。魅せるとすればああいうのが必要だったのかもな?」 かく言う疾風の格好も、魅せる忍者故に本物とは少しかけ離れているが、これはこれでカッコいいものだ。 「敵もNINJA! 味方にも忍者! こんな忍者空間に心躍らないはずがねぇよ!」 ユイトが口にした想いが集まった結果が今回のエリューションだったのが良く分かるだろう。 「でも、この世に歪んだ忍者像がある限り、彼らは何度でも現れるわ……」 「恐ろしいこといわないでくれますか?」 上空で偵察にしてた文音からすれば、あれほど見つけづらい相手は面倒なことだろう。 彼女の苦労を感じたか、沙霧が苦笑いを零す。 「いろんな人の思念が忍者さんを生んだっていうのなら、似たようにお殿様! とかお姫様! とか出てきたらいいのに――ああでも戦う事になったら嫌だからやめとこ」 総員で頷く。 「という可能性も、なきにしもあらずね……ホント、私たちの生きてる世界って不思議なことばかり起こるものね」 それがエリューション、腐っている(BL的に)エリューションがいるぐらいだ、ある意味当たり前かもしれない。 嫌な当たり前だが。 「ところで、何で忍者が釵とかヌンチャクとか使うのかしらね……」 きっとアジアは一纏め。 傷も癒え、日が昇る前にリベリスタ達は帰路へ着くのであった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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