●届かぬ癒し 舌が肌を這うように動く。生暖かい感覚と唾液のぬめりが嫌悪感を与えた。 舌は首筋を伝い、露になった乳房を沿うように動く。そのまま心臓の位置まで移動し、刻むように唇を付ける。 「ドーダ、文字通りの『溶けるような口付け(メルティキス)』ダロ? ゆっくりとイっちまいナ! ケタケタケタ!」 着崩した服で胸元を抑える女性を見下しながら一人の少女が嗤う。舌で唇を舐め、肌の感覚を味わい愉悦の表情を浮かべるチャイナ服を着た蝙蝠ビーストハーフのフィクサード。 猛毒。そして致命。 それに侵された仲間を前に、一人のリベリスタが杖を構える。 「……『チャプスィ』、貴様!」 「苦しいカ? 辛いカ? 毒がコイツの体を蝕んでるんダ。傷を治すこともできねーゼ」 「まだだ! 癒しの術を使えば――」 「無駄ダ。この『閻水陣』で強化した毒はソレでは消えないのサ。当然、回復もデキネーゼ」 「六道の研究に必要なのは俺のはずだ! なぜクリスまで巻き込む!?」 「必要なのは『強い魔力と負の心をもったノーフェイス』なんだヨ。そのためにはオマエには散々絶望してからノーフェイス化してもらう必要があるのサ。 せっかくのキマイラだ。こいつの死体も一緒に合成してもらえばいいジャネーカ。ずっとつながってナ! ケタケタケタッ!」 嗤うフィクサード。リベリスタの男は無念の心で自らの杖を握り締める。どれだけ癒しの神秘を重ねても毒で苦しむ彼女は救えない。その事実と己の無力さに絶望する。 「お前はもう詰んでるのサ、『白銀』。自慢の癒しもこうなると形無しダナ。救えるものを救うとか豪語しても、所詮お前が救えるものは何もないのサ」 耳朶に響くフィクサードの声。生涯を費やしたといっても過言ではない癒しの術。。今まではそれで仲間を救ってきたのに、この状況では何の意味を成さない。絶望がゆっくりと侵食していく。 「マ、兇姫サマのお遊びに振り回されたと思って諦めナ。運がよければ『作戦』の尖兵に回されるかもしれネーゼ。ケケッ!」 フィクサードはただ笑い声を上げる。毒で苦しむ女性と、絶望で苦しむ男を見下ろして。 ●アーク 「ハードな依頼だぜ、お前たち。タクティクス的にもメンタル的にも」 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)は集まったリベリスタ達に向かって、そんなセリフをはいた。ここにいるメンバーは依頼の難しさを理解してやってきているのだが、改めてフォーチュナは難解であることを告げる。 「六道の連中が昨今『キマイラ』のことで動き出したのは知ってるな? 『キマイラ』は複数のエリューションやらアーティファクトやら革醒者を混ぜたモノだ。アンダスタン? で、その『材料』を求めて六道のフィクサードが動いている」 モニターに映し出されるのは二人のリベリスタとそれを取り囲むフィクサード。リベリスタの一人は息も絶え絶えにして、もう一人は杖を手にしている。 「リベリスタはホーリーメイガスとソードミラージュの師弟だとか。男のほうが師匠で相応の強さを持っている。確か『白銀』って二つ名をもつ強い魔力を持つリベリスタだ。その実力ゆえに六道に狙われた」 リベリスタの幻想纏いに転送されるリベリスタとフィクサードのデータ。そして同時に転送されたアーティファクトの性能に顔をしかめる。 「フィクサードがもっているアーティファクト『閻水陣』……こいつの効果で弟子が死にそうになっている。正直、絶望的だな」 「……何とかならないのか?」 「彼女の命が尽きるまでにアーティファクトの範囲外にゲッタウェイすれば助かる。 だが、それをフィクサードは許さないだろうぜ。特にこのチャイナガールは」 モニターの中で嗤うフィクサード。それを知るものは苦虫を潰した表情を浮かべる。性格が悪く奸智に長けた彼女を出し抜こうとするなら、一筋縄ではいかないだろう。 「最低限の目的は『白銀』の無事だ。それだけを求めるならこのミッションはノットハードだろう。『白銀』の癒しがあれば、戦力的にはこちらが有利になる。 だがそれ以上を求めるならハードだぜ、リベリスタ?」 腕を組んでリベリスタの返事を待つフォーチュナ。 助けなければならない命。アークの使命。そして『チャプスィ』と呼ばれるフィクサード。 難解な状況を前にリベリスタは答えを出す。その答えは―― |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年11月23日(金)23:22 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「ロリが悪いことしてるみたいなんで、ちょっと止めさせてもらうねっ」 軽快な挨拶とは裏腹に、手にしたナイフの一撃は鋭い。『ハッピーエンド』鴉魔・終(BNE002283)は二本のナイフを踊るように繰り出した。速度がそのまま鋭さとなり、流れるように刃がフィクサードを傷つける。 「毎度お馴染みアークの出張サービスでっす」 「「アーク……!」」 二つの声が重なった。ひとつは傷つけられたフィクサードのもの。そしてもうひとつは『白銀』と呼ばれる新城の声。前者は驚きと憎しみをこめて。後者は驚きのみ。 「――嘆かわしいわ。世界を護るべきリベリスタがこのザマだなんて」 驚きの表情をあげる新城の耳に、ため息交じりの声が聞こえてくる。『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)のクールな視線とともに非難の声が飛んだ。薄氷のような青の瞳に蒼銀色の髪、淡雪のような白い肌。手にした黒の魔力がフィクサードたちを傷つけていく。その後でチャイナ服を着た『チャプスィ』に尋ねた。 「七人で二人を囲って楽しいかしら?」 「ああ、楽シイぜ。興味があるなら参加するカ?」 「『チャプスィ』さん話には聞いとったけど、なんや見た目と中身の違いが酷いなぁ……」 さも楽しそうに嗤う『チャプスィ』をみて『レッドシグナル』依代 椿(BNE000728)は銃を構える。呪いをこめた弾丸を放ちながら、タバコを咥えた。火をつける余裕はない。新城とそしてアンダーソン。その二人を助けるためには時間の勝負になる。 「うちらの任務は白銀さん救出……やけど、救える可能性ある命救わんのは気分悪いしな」 「うむ、バッドエンドにはさせないでござる」 『自称・雷音の夫』鬼蔭 虎鐵(BNE000034)は愛刀を抜いてフィクサードを押さえるために刀を振り上げる。フィクサード時代にこの刀で斬ってきた者は多く、虎鐵は多くのバッドエンドを作り出してきた。許されるとは思わないが、せめてもの贖罪をここで晴らそう。 「助けられるのにこのまま手を拱いてるなんて……もう嫌でござる!」 「たった二人助ければいいんだろー。楽な話だー」 赤い宝玉をはめた斧槍を手に『世紀末ハルバードマスター』小崎・岬(BNE002119)は走り出す。フィクサードの一人を押さえながら自分の身長よりも高い張るバードを苦もなく一閃した。生まれた風の刃がフィクサードを傷つける。 「アンタレス、いくぞー。タイムリミットつきの作戦だー」 「ああ、もう誰かが不幸になるのを止められないのは嫌だ」 『ガントレット』設楽 悠里(BNE001610)は稲妻を纏った手甲を振るいながらアンダーゾンをみた。体を猛毒に侵され、苦しみながら刃を振るうリベリスタ。しかし実力差は明白で、『白銀』に見えつけるために弄られている。悠里はこのまま悲劇を待つ性格ではない。たとえ希望が薄くとも―― 「手を伸ばして人を救う。道は細いけど、渡りきれないほどじゃない」 「ええ、その通りです」 『蛇巫の血統』三輪 大和(BNE002273)は自分の影を蛇のように変化させて、フィクサードに襲い掛からせる。死角から迫る重い一撃。通常なら意志の力で直るだろう傷だが、今この瞬間は癒えることがない。『閻水陣』と呼ばれるアーティファクトの効果だ。新城とアンダーゾンを苦しめるモノだが、それはこちらも利用できる。 「さあ、覆しに参りましょう!」 「白銀にクリスも二人一緒の時にラッキーだな。来なくても良い不幸と幸運が同時に来たぜ?」 握った拳に炎が宿る。『消せない炎』宮部乃宮 火車(BNE001845)は唇をニィ、と歪めてフィクサードに殴りかかる。炎熱が殴られたフィクサードの肌に傷跡を残す。不幸とは『チャプスィ』に襲われたこと。幸運とは『万華鏡』がこのことを補足できたこと。日車は顔だけ『チャプスィ』のほうに向けて同情するように話しかけた。 「毎度良く三流手口を使い潰せるモンだ」 「ケケッ。三流ついでに言ってヤルヨ。勝ちゃーいいのサ!」 「じゃあ俺たちが勝って終わりだ! 笑うぜ!」 火車と『チャプスィ』は互いに笑みを浮かべる。そこに友愛はない。殺気と侮蔑を含んだ、怨敵同士の笑み。 「おめーら、加減抜きダ。遠慮なくぶっつぶシナ!」 『チャプスィ』の言葉にフィクサードたちが殺気をたぎらせる。新城航とクリス・アンダーゾン。二人の生存を賭けた戦いの火蓋が、今火蓋を切った。 ● 氷璃が魔力を練る。独特の詠唱法で魔術のプロセスを短縮し、並の術者では制御が困難な四種の魔力を一まとめにして解き放った。 「厄介な効果を自分達で味わう気持ちは如何かしら?」 氷璃の術は『閻水陣』の範囲内において絶大な効果を発揮する。出血と毒が治ることなく、かつその分だけ傷が深まる。人形のような瞳で傷つけたフィクサードたちをみて、くすりと笑った。 リベリスタの陣形は虎鐵、悠里、火車、岬、大和、終の六人が前に出て、椿と氷璃が後方から攻める。リベリスタの構成は、見事なまでに攻撃特化であった。 『貴方が癒し手で助かったわ。私達、誰も回復出来ないのよ』 ハイテレパスを使用してこちらの作戦を伝えた後で氷璃がこう追加したのももむべなるかな。ともあれ一気呵成に攻める作戦である。 だが、逆にそれが災いした。 リベリスタの前衛が六人。フィクサードの前衛が四人。そうなればフィクサードの次の行動は、 「ケッ! 突破されたら敵わなネー。穴埋めっゾ!」 後衛にいた『チャプスィ』とクリミナルスタアが前に移動する。これにより前衛の乱戦が加速する。 「あ、あかんわ! この状況!?」 真っ先に危機に気づいたのは椿だ。フィクサードの狙いは『白銀』をノーフェイス化すること。そうでなくても回復を行うものを先に潰すのは戦術の基本だ。椿は前に出て新城を庇った。『チャプスィ』のナイフが――踊るように回る。回転する度に鮮血が舞い、リベリスタとフィクサードの悲鳴が重なった。 「自分の味方巻き込んでダンシングリッパーとか!? あんた……正気か!」 『白銀』を庇った椿は繰り返される刃により、運命を削る。後衛から敵に不調を与えるのがメインの彼女は、体力的には他のリベリスタに劣る。この結果は仕方のないことだ。 「効率がいいダロ? ここまで固まると爽快ダゼ。ケタケタケタ!」 椿は自分の味方を巻き込んでの攻撃に椿は信じられないという顔をすると同時に、認識を改める。このフィクサードは酷いどころではない。隙を見せれば味方を犠牲にして戦う悪人だと。 「いろいろぶち込もうと思ってたんやがなぁ」 周りのフィクサードに不吉の呪いを与えたかったが、この状態では椿は『白銀』を庇い続けざるを得ない。 このまま『チャプスィ』を殴るか、と迷ったがアンダーソンの救出が優先だ。まずは数を減らすことに専念する。 「……エグイ事をするのでござるのな」 虎鐵は日本刀を手に目の前のデュランダルと刃を重ねる。金属と金属がこすれあう音。じわりぞわりと押しながら、一瞬の隙を突いて力を抜いて相手の押しをいなす。その隙を突いて、味方が攻撃しているフィクサードに風の刃を放った。 「気分を害したなら、帰ってイーゼ。今なら罵倒するだけで逃がしてヤルヨ」 「そうはいかないでござるよ。拙者は二人を見捨てないでござる!」 嗤う『チャプスィ』の言葉を虎鐵は一蹴する。リベリスタとしてフィクサードを許せないこともあるが、元フィクサードとして虎鐵はこの二人を見捨てることができなかった。 「そういうことだー。お前は黙ってなー」 気の抜けた言葉と共に岬が『アンタレス』と呼ばれるハルバードを振りかぶる。声とは裏腹にその一撃にかかる力は強い。ふんばる足に力をこめて、腰を固定うするように踏ん張る。、肩からの力を使って肘、手のひらに力を伝わせて禍々しい斧槍を握り締める。 「一・撃・必・殺! ふきとべー」 後ろに吹き飛ばされる『チャプスィ』。無論それは一時期のこと。すぐに前に出れば問題ない―― 「今です。眠りなさい!」 もっとも厄介な敵である『チャプスィ』が吹き飛んだ隙を逃さずに大和が動く。自らの影を立体化させ、フィクサードに向けて振り下ろした。集中砲火を受けていたそのフィクサードは、その一撃で地に伏す。 「新城さんとアンダーソンさん用に持ってきた『閻水陣』でしょうが……利用させてもらいます!」 「ケッ、厄介ダネ!」 『チャプスィ』が敵味方区別なく効果を与えるアーティファクトを持ってきたのは、ホーリーメイガスとソードミラージュのコンビ相手には相性がいいと踏んでである。アークさえ来なければ、と臍をかんだ。 地面に倒れるフィクサード。リベリスタたちは弾けたように動き出す。 ● フィクサードの一人が倒れたことを合図にリベリスタたちが動き出す。フィクサードが捕らえているアンダーゾン救出に向けて。 「そんじゃいくよっ!」 終がナイフを構えてホーリーメイガスに向かって走る。刃の煌きは雪の結晶。低温の一閃がホーリーメイガスの足を止める。凍りつくフィクサードから目を離して、『チャプスィ』の方をみた。ナイフを構え、変わらず笑みを浮かべるフィクサード。 「神秘界隈では年齢に大して意味が無いのは知ってるけど……十歳の女の子が人を傷つける事を当然のように楽しんでいるって言うのは嫌なもんだよね」 「男尊女卑カ? 差別はダメだぜ、オニーチャン。ケケッ!」 終の吐露を馬鹿にするように笑い飛ばす『チャプスィ』。その様子を見て暗澹な気分になる終。 (それって彼女自身がそういう扱いを受けてきたって事だよね?) 本名も本当の姿もわからない少女に同情する終。ナイフを握り締め、救えないフィクサードの嗤い声をただ聞いていた。 そしてその『チャプスィ』の動きを止めるために悠里が走る。厄介な動きで足止めが効かない彼女に対し、氷の拳で凍えさせようと篭手を構えた。 「僕は君が嫌いだ」 ジャブからストレートのコンビネーション。初手で『チャプスィ』の動きを止めて、二手目で氷拳を叩き込む。霜で白くチャイナ服が染まり、足が止まった。悠里から投げかけられた言葉は『チャプスィ』からすれば聴きなれた言葉だ。 「でも君も六道の犠牲者なんだろう、とも思う」 だが次の言葉は予想外だった。悠里は六道のフィクサードを見て、自らの篭手をみる。この手で救えるものを、救う。傲慢で独善的だけど、救えるものはすべて救う。悠里はそう決めたのだ。 「僕は君も助けたいと思っている」 「ハッ! 相変わらず甘ちゃんだな!」 そんな悠里の言葉に答えたのは火車。フィクサードは殴って黙らせるもの。それを救うなど甘いとしか言いようがない。もっともその言葉に悠里を攻める強さはない。世話の焼ける仲間のために一肌脱ぐか、という気質を感じさせる。 だが今は、 「来い! 間抜け共ぉ笑いながら帰るぞ!」 「は、はい!」 今はアンダーゾンをこの場所から移動させることが先決だ。『チャプスィ』はその様子を……鼻で笑った。 「帰る? 逃げられると思ッテルのカ? 今逃げても、六道や兇姫サマから逃げられると――」 「兇姫サマ、ねぇ? イカレ姫の遊びに振り回されてる奴が言うんだ。説得力あるなぁ?」 火車の言葉に『チャプスィ』の口が止まる。 「オマエって他人をサマとか言うタイプだっけぇ? もっと自由を愛してた気がするがぁ? ま、あんなイカレ姫には逆らえねぇよな。アンタ等玩具はよぉ!」 「ハッ! ドーやらオマエから死にたいヨーダナ」 『チャプスィ』の反応に火車はにやりと笑う。挑発はうまくいったようだ。 『白銀』とアンダーゾンの救出はうまくいった。ここまでは作戦通り。 二人を助けるための最後の一押し。それは―― 「ケケッ。『閻水陣』から逃れない限り、二人とも死んじまうゼ」 『閻水陣』をもつ『チャプスィ』を撤退させること。リベリスタたちは傷ついた体に活を入れて、破界器を握りなおした。 ● 『閻水陣』の存在。そして回復よりも攻撃役の多い両陣。そうなればダメージが加速する短期決戦になるのは当然の流れだった。 「これ以上好きにさせてたまるものか!」 「倒れる訳にいかないのでござる!」 激しい削りあいの中、最前衛で戦っていた悠里と虎鐵が運命を燃やす。その熱が毒を浄化し、傷口をふさいで出血を止める。 「遠慮はいりません。防ぎ得ぬ痛みも持っていきなさい!」 大和の生み出す不吉の月がフィクサードを照らす。その光が戦いの流れをリベリスタに傾け、同時にフィクサードの傷を広げていく。 「自分の不運、ちょっと大げさにしてみよか」 アンダーソンが後衛まで逃げることができれば、『白銀』も一緒に下がることができる。椿は『チャプスィ』の不幸を占い、ツキと呼ばれる物の流れを変えた。元々幸運に恵まれる『チャプスィ』だが、不吉を語ることに関しては椿が一枚上手だったようだ。 『白銀』とアンダーゾンをリベリスタ陣営に逃がし、さらに『閻水陣』の範囲外に逃げるように指示する。躊躇はあったがこのままでは命が危ない。素直に戦闘圏外に走り出す。そして『チャプスィ』は舌打ちし……リベリスタ殲滅のために刃を向けた。二人を追うことはリベリスタの陣を突っ走ることになる。そうなれば集中砲火だ。 「その程度の頭は回るようね」 氷璃は指先に氷を集わせ、息を吹きかける。呪を乗せた氷の矢が一直線に『チャプスィ』を貫いた。とあるフィクサードから得た技だが、氷璃が使えばその威力は十二分に発揮される。クラシカルなゴシックドレスが吹雪に舞い、凍てつく雪のように呪いを振りまく。 「オメーらを倒して追えば済む話ダゼ。――オイ、子の十三ダ」 氷璃の挑発に笑いながら『チャプスィ』が答える。彼女は味方のフィクサードに庇わせて―― 「させるかよー」 岬が盾にしようとしたフィクサードを剣戟で弾き飛ばす。中心に赤い宝玉を埋め込み、いまだ眠っているといわれる『アンタレス』。眠っているといわれ、岬が扱えばそれは一級品の武器に変わる。その波打つ斧槍で吹き飛ばされたフィクサードは、そのまま地面に伏して倒れた。 「ケッ。纏めて死にナ!」 ――そして再び味方を巻き込んで『チャプスィ』が刃に踊る。これにより膝を突くフィクサードもいたが、リベリスタの被害も大きい。 「はっはぁ! いい感じで温まってきたぜぇ!」 「この程度では屈しません!」 「まだ負けないぞー」 火車、大和、岬が『白銀』の回復以上の傷を受けて運命を燃やす。悪辣なフィクサードには屈しない。助ける命を助けて、フィクサードを討つ。その意思をこめてフィクサードたちを睨んだ。 「ケケッ、後一歩カ?」 「ああ、後一歩だ。――テメェの最後がなぁ!」 「ここで決めるでござる!」 「合わせるよ、皆」 「オレものったっ!」 ――火車が拳を燃やす。赤々と燃える炎の拳が交互にに叩き込まれる。 ――悠里の篭手が白く光る。紫電が爆ぜる音とともに迫る。 ――終のナイフが高速で走る。縦に横に。疾風のごとくナイフが走る。 ――虎鐵の刀が振るわれる。剛、と振るわれる一撃必殺の刃が放たれる。 高速のナイフが『チャプスィ』のナイフを弾くと同時に炎の拳が叩き込まれる。刀がその反対側から『チャプスィ』の意識を誘導し、生まれた隙を逃さず紫電の篭手が駆け抜ける。その篭手を蹴り飛ばした『チャプスィ』の足をナイフが裂くと同時に、裂帛とともに刀が一閃する。 「これで終いでござる」 刃金が横一線に走る。『真打・鬼影兼久』から伝わる手ごたえは確かに。 虎鐵が刀をふって飛沫を落とすと同時、『チャプスィ』が信じられないという顔とともに、ゆっくりと倒れこんだ。 ● 「カッ……!」 地面に手をつき『チャプスィ』が起き上がる。肩で息をつき憎々しげな目でリベリスタたちを睨む。 運命を削っての戦闘不能回復。つまり『チャプスィ』にまだ余力はある。リベリスタたちは破界器を構えて次の動きを待った。こちらも運命を削り、体力は多くない。一人倒れればそこから加速度的に戦闘不能者が増えるだろう。そうなれば勝敗はまだわからない。 だが『チャプスィ』は迷うことなく、逃げに走った。自分の命をチップにする気はない、とばかりに。残されたフィクサードたちも、倒れた仲間を抱え破界器でリベリスタたちをけん制しながら撤退に走る。 「……本当に逃げたようです。心の中は私たちへの悪態がほとんどでした」 『チャプスィ』の心を読んだ大和が告げる。逃げたふりをして不意打ちの可能性もあったが、杞憂に終わったようだ。 「傷がふさがっていく……」 フィクサードの攻撃で出血が止まらなかった傷が、塞がっていく。『閻水陣』の効果が消えたためだ。離れた所では『白銀』とアンダーゾンが助かったことを喜び合っていた。 「無事でよかったでござるな。本当に……無事でよかったでござる」 その姿に何かを重ねたのか、虎鐵は涙をこらえながら刀を納めた。 「さすがに疲れたー」 岬が傷を確認しながら座り込む。他のリベリスタたちも似たようなものだった。すこし無茶をしたかもしれない。だがその甲斐あって、『白銀』とアンダーソンを救うことができたのだ。 その場に座り込み、アークの救援を待つ―― かくして兇姫――六道紫杏の遊戯は終わりを告げる。 そう、遊戯は終わり。これより始まるはキマイラの胎動。 『完璧』なキマイラがアークに牙をむく日は、近い。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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