● 潰すよ。いや斬るんだよ。ええやめてよひっぱるんだよ。なにいってんの絞めるんだよ。 五月蝿い、黙れよ。壊すんじゃない。眠ってなよ。 申し訳ないです、緑青様。ごめんなさい、緑青さま。すいましぇん、ろくしょうしゃま。 「やめないか、お前の子だろう。緑青」 ……。 所でさ、表に出た兄妹が心配? 「当たり前だ。あれを私達は世に出ぬ様に守ってきた。回収せねば……あれは我等の物……!!」 妖刀と、魔槍ね。 いいじゃん、可愛い子には旅をさせろと言うし。 「駄目だ、駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ!!! あれは、あれは!! 俺が、この俺が使うものだったんだ!!! それを小娘が見つけおって……そう、あの小娘、あのまま妖刀に殺されるはずだったのだ、それを何処の奴等か解らない者どもに……!! その次もだ!! 魔槍がうるさいから握らせ、殺させようとしたが駄目だった。そして魔槍は世に出た!! この浅村の禁忌が世に出た!! 俺の力だ、他の奴にやるもんか!!!」 人の業とは……かくも、あ、やめとこ。叩き割られたら嫌だし。 「意見するな、呪われた道具の分際で。 お前等のおかげで俺は一族に縛られ、この臭い屋敷で一生を過ごしている。 愛してない者と結婚し、子を作り、そしてまた受け継がせる。もう、たくさんだ! 親父をこの手で殺した時に決めたのだ、緑青よ。使われろ。この俺にだ。こんな世の中ぶっこわす」 ………その心、同情した。 良いよ。 我が主、浅村和生。 ――我、悲願、たる、主を、欲す。 逃げなよ、我が最高傑作たる兄妹達。 父とは鬼だ、もはや戻れぬ修羅の路に来てしまったみたいだ。 ● 「つまり、浅村って武器職人の家系で、代々禁忌的武器が表に出て悪用されない様に護っている」 『そうだ、我が主、浅村りと。覚えが早いのは良い事であるな』 「えへへ、どうしたしまして。で、で、それで?」 『それでだが、中には我等を利用して悪行を働こうとする者が居てな、それで我は起こされたのだが想定外か、主、貴様がたまたま我を握ってしまった。 まあ、あの時は貧弱な小娘だったのでな、殺して他に憑りつく事しか考えていなかったがな、はっはっは!!』 「はっはっはー! じゃない!! それもっと早く言ってよ。下手したら叩き割られてたんだよ、きみ。ていうか私も色々トラウマがつらつら……」 『我は主がいないと何もできない身であると同時に、使われないと錆びるのでな。 愚妹については錆びるではなく寂びるが正しいか。今は何処で何をしておるのか』 「で、話戻すけど、その私の家族が悪行働くってこと? それって相当やばいよね?? ねえ、それ止めさせるからさ、教えて、誰?」 『知らぬのか、主の父だ』 「……え、ええ、あのね、今その浅村家っていうか、私今、私の家に居るんですけど……」 『うむ、気を付けた方がいいな。先より下から何かが此方に大量に向かっておるぞ? 我を使え、そして逃げろ、できれば誰にも見つからずに』 「もっと早く言ってよ!! あと絶対見つかる!! もう何がどうなってんだか情報が足りなさすぎるよ!!」 ● 「妖刀、魔槍、最後には鬼の鉄槌ですか」 『未来日記』牧野 杏里(nBNE000211)は資料を捲りながら言った。 「色々説明が長いので、よく聞いてくださいね。まず経緯から説明します。 意思を持つ武器を生み出せる一族――『浅村一族』というものがあります。ですが今はその力はありません。 で、代々先祖の作った『呪われた武器』を保管してきましたが、悪用する者が発生。 主犯は浅村の族長とでも言うべきでしょうか、『浅村和生』。それが『鉄槌』をもって『妖刀』の回収をし、その後、表舞台に出てその武器を利用して殺戮を始めます。 なので、その前に止めて下さい」 リベリスタが浅村の地に着く頃には浅村家の長女『浅村りと』が妖刀を片手に逃げ回っている事だろう。 「場所は浅村の本家。りとさんの居場所は解らず、その和生の居場所も不明です……。 二階建ての大きな屋敷というのは知っているのですが、どうも鉄槌の力のせいか、内部が万華鏡でも見えなかったのです。 まあ、古いお家ですので範囲的などんぱちは大変な事が起きそうですね。中はある程度広い、文字通りお屋敷ですよ」 鉄槌の力は恐るべきものであり、妖刀魔槍にもあった『人を操る能力』の強力版に加えて、『武器を従える力』を持ち合わせている。 和生の一声で周辺の一般人が操られる訳だ。周辺の一般人とは和生の家族そのもの、つまり家族総出が敵と成るという事だ。 「武器を従える力について説明します。 持ち主の手から離れて、独立してしまった武器を遠隔操作で操る事が可能です。 つまり、皆さんの武器もその対象になる事が考えられますので、お気をつけて。 でも独立されたなら呼び戻せば良い。捕まえなければいけないのがネックですかね。 それでいて、既に操られている武器が三種あります。刀、槍、弓です。幼い子供の声が聞こえるのは気のせいでは無いかもしれませんね。これらは緑青を護っています」 「浅村和生の……憎悪はそこらへんのフィクサード以上です。説得は無駄と思って良いです。こんな事言いたくありませんが、最悪、一族を滅ぼすくらいの勢いで行った方がいいかもしれませんね、あっちも人生を賭けて、死ぬ気で来ています、どうか、お気をつけていってらっしゃいませ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2013年04月03日(水)22:51 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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● 「全部入りそう?」 「問題無いのだ、たぶん」 売り飛ばせばいくらになるだろうか。それくらいに大きい屋敷の手前。 『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)が一歩二歩と家の中へと歩を進める。その横で家の明るさに懐中電灯を仕舞った『断罪狂』宵咲 灯璃(BNE004317)は、じゃあお願い!とにっこり笑った。 玄関入ってすぐ横にある時計は、急げと言うばかりにカチコチと針を進めていた。急ぎ、『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)が感情探査を行うより早く。そして、雷音が擬似世界の構築が完成するよりも早く。 「どうやら『りと』ってのに会いに行く前に、厄介なのが来たみたいだな」 「さっすが、俺のユーヌたん!! すりすりむぎゅっ」 「竜一、すまないがそれは後でしてくれないか……?」 『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)の研ぎ澄まされた耳は異音を感知した。『合縁奇縁』結城 竜一(BNE000210)はユーヌの人差し指がさす方向を見る、迫る影の骨格からは男だろうか。 だが影は一つでは無い。宙に浮かぶ、影も連れていた。 カチカチ音をたて、姿を現したのは武器三つ。そして険しい顔をした男が一人。 「家宅侵入罪だぞ、去れ」 「浅村、和生だな?」 「そうだが」 『鋼鉄の砦』ゲルト・フォン・ハルトマン(BNE001883)は目を細め、そしてその手に盾を構える。 りとよりも先に、ラスボスに出くわしてしまったのは予想外と言えよう。すぐに戦闘が行われると思われたが――その男、浅村和生はくるりと此方に背を向けたのだ。 それは、侵入者より先に確保するべき物がある焦りか。見抜いた竜一は片方の腕に武器を持ち、その剣先を男の背へと向けた。 「まあ、待てってな、おっさん。刀はやらないからな?」 「なんだと? 貴様等、殺すぞ」 鋭い眼光同士がぶつかり合う、その時。 ドタドタ響いた足音と焦った感情が一つ動き出し、ユーヌとミリィは一斉に上を見た。おそらく『りと』なのだろう。 「元気ねぇ、お姫様は」 『禍を斬る緋き剣』衣通姫・霧音(BNE004298)は妖刀を鞘から滑らせて抜刀。煌めいたそれに赤い目を映して、貴方の声が聞けたら楽しかったわね、と呟いた。 そしてまたその瞳がゆらりと動く。 「あら、何処行くっていうの?」 「先も言った、貴様等なんぞ相手にはせん」 和生は浮いている武器を連れ、家の奥へと歩を進めていく――だが、りとの所へは行かせる訳にはいかないのだ。 「待て!!」 咄嗟だ、ゲルトは和生の背を掴まんと飛び出した、だがしかし。彼の前。眼に光が無い小さな少女が刀を持って立ち塞がった。 「ここは、任せるぞ。緑青の子達よ」 その少女の背後から、ぞろぞろ出てきたのは浅村一家。皆、虚ろな眼を持ち、その口から唾液を垂らして刀を引きずっていた。 「彼等は一般人です、間違えても殺さないよう」 ミリィはその存在を見た瞬間、仲間に念を押した。武器を弾けば――おそらくあの魔眼のような命令も止まるはずだ。 (操るですか……) それにしても、目の前のは――なんて嫌な光景。まだ救えるだけ良いが、あれだ、楽団を思い出しそうになる。 同じく不機嫌に眉を動かした『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284)。 「雷音の詠唱終わるまでの辛抱だな、ミリィ」 「はい、犠牲は少ないに越したことはありませんから」 そして戦闘は彼女の言葉から始まる。 「善処はしよう」 頷いた、ユーヌ。続いてその口からは言葉の暴力が空を裂いた。 「子は親を越えられないという言葉がある。貴様等はどうだ? 屑鉄の不良品」 「!! 不良品ッ、なんかじゃ、ない!!!」 小さな少女が振りかざした刀は、ユーヌの胸を大きく裂いた。 ● ――うわああああああ!!! りとの絶叫が響いて、灯璃は彼女を見た。 「ちょ!!? 早く!!」 「うむ、遅くなってすまないな、できたのだ!」 瞬時、屋敷を覆う神秘の籠。 虚ろな眼の少年の刀を盾で止めていたゲルトの目の前で、その少年が消え――無かった。もはや神秘の膜で守られた存在か。 だがリベリスタはその対策はしてきた。戦闘は省略していいよね、浅村モブは皆不殺で転がされたそうだ。 『先祖返り』纏向 瑞樹(BNE004308)が一般人を部屋の奥へと連れて行き、そこへ寝かした。 ――階段をのぼり、ミリィが廊下の奥を見た、その時。 「うああああああ、どいてー!?」 「へひ!?」 どっかーん。 吹っ飛んできた、浅村りと。それをミリィは受け止めながら廊下奥の壁に背を叩きつけた。 「いった……うお、腕グロい」 「あ、あの、初めましてりとさん。こんな挨拶の仕方で申し訳ないですが」 ミリィの目からりとの刀を持つ腕が折れているのは見えた。だが刀はまだ無事だ。少しほっとしながらミリィは彼女に言わなければならない事を伝えようとする――だが、その前にりとが片腕でミリィの肩を強く掴んだのだった。 「ちょっと!! こんな所に迷い込んじゃったのお嬢ちゃん!? 駄目だよ逃げて!! 今すぐフルマッハで!!」 「はい!? いえ、あの突然ですがどうかお力を貸してください!」 「血走った眼。嫌いでは無いわよ」 廊下中央では和生が緑青を振りきる。そこから生まれた悪意の漆黒が射線上のリベリスタを飲み込んだ。 その中で霧音は櫻嵐の剣先で闇を切り裂き、和生の頬に赤い線を引く。攻撃を受けての置き土産、闇を跳ね返すテクニカル。だが反射はひとつでは無い。 「かかったか、一人で複数相手は大変そうだな?」 「貴様ァ……!!」 『Friedhof』シビリズ・ジークベルト(BNE003364)のラグナロクはリベリスタ全員を反射の恩恵で飾っていた。まるで罠にかかった鼠はそちら、と言うようにシビリズの口は笑って裂ける。 その手前で体勢を立て直した霧音が刀を持つ。 「私の中の記憶が守れってうるさいのよ、手加減はしないわ」 「ふん」 だが和生の攻撃が終わらなかった。次に緑青を振りかぶった時、その鉄槌は櫻嵐を弾き飛ばす――が、ビィンと張られた紐が霧音と武器を別つのを阻止する。 「紐か、小癪な」 「余所見する程の余裕はフラグだっぜ!! だがその前に!」 竜一は手を伸ばす。 緑青を守護する一つの刃――青色の刀へと。柄を掴んで、その瞬間頭に流れ込んだのはその意志だ。 戸惑った少年の声が響く。 『え、な、何!!? 離せ、黒髪!!』 「うっせえ!! ただの道具になんかしねえから安心しろ!!」 『へ、はぁ!?』 敵である武器を掴みに来るのは予想外だ。 歴戦を戦い抜いて来た片手の一太刀と、仕方なく付き従っていた一太刀を掴み、その刃達をすかさず和生へと振る。 だが、まだ武器は緑青の指示の下にある。混乱を余儀なくされた竜一は仲間を攻撃した。 リベリスタは彼等をより戦いやすい中庭へと誘導するために動こうとしていた。その中でもユーヌの言葉は和生の痛い所をついて効果的に回っていた。 「未練たらたら。いい年して締まりがないな」 「小娘が、よく口が動く!!」 後退するユーヌに釣られて和生の足が一歩二歩と前に出た。和生の形相が面白いか、笑いかけるそのユーヌの笑顔もまた、和生の怒りを買うのだ。 誘導は結果的には成功した。窓から飛び降りたユーヌを先頭に、再び和生と対峙しては、攻撃はユーヌへといった。 庭は広く、だからこそ動ける。 「鬼さん此方、手の鳴る方へ――♪」 鬼は怖い怖い鉄槌持ち。ならその鉄槌、へし折ってやると灯璃は剣を放つ――緑青を囲む武器へと。結果的には灯璃の刃は取り巻きの武器を一人で倒すくらいには善戦していた。 「はいはい、おまえらの相手はこっちだぞー!」 笑顔で楽しそうに、それでいて灯璃の目線は和生の持つ緑青を見ていた。 まだ一人、屋敷の中に居たのは竜一。 「いい加減、に、しろ!!!」 『はああ!?』 頭に流れる声に叫び続けた彼が、やっとこさ武器の押さえつけて混乱を脱出。それは少々時間がかかったが。 「大丈夫だ、雑には扱わねぇし」 『……それ、本当だな? 強い奴は好きだ。力を貸そう、主。俺は露草。お前の名前、何?』 「結城竜一!! この世で一番のイケメンの名前だ!」 『それはどうでもいいな』 灯璃は再び懐中電灯を点け、同時に片手で投げた何十もの刃が武器と、和生を切り裂いた。 「キレやすい体質? それちょっと面倒な性格だよね!」 「この!!」 灯璃は投げた刃から繋がる糸を引いて手の中に戻す。切り裂いた時に刃に着いた和生の血を振り落しながら中指を突き立てた。 攻撃はそれだけで止まらない。 「そんなに憎いですか、使命が」 「ああ、憎い! だから俺は全部ぶっ壊してやる」 鮮明に輝く槍が和生の腕を掠った。瞳が交差し、交わった問と答。 何故、堕ちる所まで堕ちてながら業に捕われるのかユーディスには理解し難いと心が軋むが、それでも。 「今からでも、違う道を探す事はできないのですか!?」 もう一度、ユーディスは武器に力を入れて輝かせた。突き出す槍の先、和生の肩の肉を引き裂く。 「できるわけが、ない!!」 そして反撃する和生は真っ黒に輝く葬送の光を生む――それはユーディスを縛り、呪い、動きを鈍らした。 「あんたの事は解った。でも何で大嫌いな物の為に自分の人生潰そうとしてんの?」 「違う、壊してまた一から俺の人生をするんだ、今度こそ自分の人生を!!」 綺沙羅は後方より氷柱の雨を召喚し、それを敵全体へのプレゼントとする。氷柱を緑青で割り、睨んできた和生に綺沙羅はこくりと顔を斜めにした。 「ふぅん? 随分遠回りな様だけど。あんたの人生まだ終わってないでしょ」 嫌いな女なら別れれば。嫌な家なら売り飛ばせ。 ほら、いくらでも路っていうのはあるじゃないか。何故それが解らないんだろうかと綺沙羅は思う。言葉にするなら、そう。 「まるで駄々こねる子供だ」 「見れば解る。情緒不安定」 事情は分かった、だがそれが全て許される免罪符になる訳が無い。 ゲルトはもはや和生に何を言っても無駄だろうと悟る、ならば使える一手はりと、娘の言葉。 中庭に尻餅ついて降りてきたりとを背に隠し、ゲルトはりとを見た。 「俺たちはアークだ」 「え!?」 「もしかしたら殺すしか無いかもしれない。だが、そうならないよう、力を貸す。だから協力して欲しいんだ」 「娘として父親の悪行を止めたいなら協力するよ。ぶん殴りたいだろうし、守られっ放しとか嫌でしょ?」 灯璃とゲルトの言葉にスイッチが入った。そっか、もうお父さんそんな所まで来てしまったんだと一瞬だけ悲しい顔をしたのを灯璃は見逃さない。 「辛いのは、察するよ。でも、灯璃も手伝うから」 「うん、大丈夫、私が助ける」 りとは、かくして青褐を抜刀した。 (何か、居る) ミリィは瑞樹を見た。持続されている感情探査が何かを拾う……その正体は一般人の手から離れた刀たちだ。瑞樹が持って来てしまっていた。 今この時、敵は和生一人と武器が二つかと思われたが、後方より計八つの刀が緑青の呼びかけに応えて再び目覚めた。 ミリィが危ないと叫んだ。だが遅い、瑞樹を弾き飛ばして離れた刀は再び敵となった。影人を生み出す綺沙羅の胸からその刃が突き抜け、同時に吐いた血はキーボードを赤く彩る。 「大丈夫か!? 任せろ、今なんとかする」 『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)は即座に聖神を放つ。綺沙羅だけでは無く、りとも含んでリベリスタの傷を癒しながら仲間を鼓舞した。 しかしだ、状況は危険か。最奥に居る和生、その目の前にリベリスタ、その背後に武器八つ。完全な挟み撃ちができあがってしまった。 「案外、狡猾な武器でしたか、緑青とは」 『ちょっと違う。主のためなら勝たせるために思考するってことかな』 ミリィに向い、月明かりに照らされた緑青がきらりと光る。そして、ミリィの横に影が一人増えた。 「一緒に戦うよ」 前衛に、りとが青褐を抜刀してミリィの横に並んだのだ。 「大丈夫だよね。きっとお父さん、元通りなるよね! そうだって、言って?」 「……はい!」 眼光、鋭く尖らせたミリィの次にりとは幻影剣を放つ。 これまで二度も命を助けられたその組織。手を貸さない理由が無い。 幻影に夢を乗せ、いつかまた家族でご飯でも、と。 「うん、今もきっとアークに助けられているんだね」 『やめてくれ』 りとの前に映る父の姿。 彼等(アーク)は止めてくれるだろうという絶対の自信が胸にあった。 『やめろ』 大丈夫――怖くない。 霧音は走った。たった一人で何ができるかも解らなかったが、疼いた。その身で向かってくる刃の群れを己が受けようと足掻くが手が足りない。 霧音の背後から風が吹いた。 「そっち行――ッ!!」 エルヴィンが、一体の刀を抑え込みながら叫んだ。 和生の目的とは、まずは青褐の回収。武器に指示が可能な彼は命ずる――『奪い取れ、そのために手段は選ばない』と。 りとの心臓に剣先を向けた十近いの刃が一直線に舞った。 「り、と……さん!!?」 幻影が父親の手前で消えた。刃は、一斉にりとの背に突き刺さっていった。 ● 「りとさん!?」 ユーディスが振り返った時には、倒れ伏したりとの身体に容赦無く刃は突き刺さっていた。フェイトが飛ぶまで、フェイトが消えるまで、何度も。 「逃げ、て、あお、か、」 もはや動かない少女の手から青褐が離れた。最初で最後の命令のために青褐はその身を闇に消す。 「早々に刃引きしておくべきだったか?」 それに切りつけられたユーヌ。だが、まだ体力は余裕とは言えないが、ある。 そんなユーヌの横をユーディスは駆けた。 「何故、何故です!! 青褐、深緋、緑青。正しく使い手を得れば、彼らは正しく在れると解るはずだった!!」 その証拠が青褐とりと、深緋とその主であったではないかと和生の頬を叩く。 「正しい持ち主? 違う、全て俺のものだ!!」 「その考え、いつか身を滅ぼすと解らないですか!?」 「ユーディス、もういい、無駄だろう。娘を殺してああなら、もう」 廃人か。 和生の背後――ゲルトが十字の光に思いを乗せた。 何を言えばいいか、言っても無駄だ、なのにこれを生かすのか? ぐるぐる回る感情――だが、攻撃は止める事はしない。 十字は掠った、だがそれで止まらない。緑青をその手で掴んで和生の行動を妨害しに出た。素手で掴むのだ、激痛を覚悟したゲルト――だが、違った。 「悲しい、のか?」 流れ込んだ意志が、真っ青よりも青く、真っ黒よりも冷たく。 じわりと涙を誘いそうになるその感情を『悲しみ』と解釈せずになんとするか。 その緑青に剣が飛んだ。灯璃の一撃――精密なそれが緑青を射抜くがヒビが入っただけでまだ少し力が足りない。 「ああ、もう! あとちょっとなんだけど……」 『痛いなぁ』 そりゃそうでしょ、と灯璃は再び剣を投げようとする。だがひとつ、言っておきたい事が。 「悲願たる主を得ても導く先は修羅の路なんて哀しいよね」 『……』 緑青に表情というものがあれば、きっと難しい顔をしたのだろう。灯璃はその彼の反応に笑いながら剣を放つ。 「キミが元凶とは言わない。でも、それでもキミは脅威だ……ひとつの家族を壊すくらいにね」 灯璃の剣は、緑青のヒビを大きく広げた。 「――もう手心加える余裕も意味も無いよな?」 『殺る気かい、主!! なら、任せて』 竜一は両手の剣を、爪が食い込んで血が出る程に握り絞めていた。振り上げればそこから血が滴る――その軌跡の先。和生目掛け、全力で刃を一閃。胸の肉を弾き飛ばし、肋骨の一部がお目見えする程に抉った。 「なんだ、もう最初から生死を気にする事無かったのね」 ゆらり、と。霧音は櫻嵐を振り上げた。 「最初から手加減なんてしてなかったわ。殺していいよね、もう」 凶行を止めるために来た――だから、この一撃にそれを成すだけの力を込める。 「何をしている、俺の言う事が聞けないのか!!? 緑青、緑青!!!」 武器達は応えない。大元の『父』が冷たい眼で和生を見つめていた。 「じゃあ、さよならね」 幻影が、和生には何が見えたかは知らないが酷く脅えた顔が霧音の目には見えていた。 縦、一閃。竜一の傷を更に抉るようにして霧音の一撃は呪われた因果を断――だが、フェイトが和生を守った。 「こんなの生かさなくていいわよ」 そう運命に愚痴った霧音に声が聞こえた。 『そっか、僕等はあってはいけなかったか』 霧音の憤りを見て、心優しい少年はそうする終えないと判断した。 「あーあ、人生面白くするのはあんた自身だったんだけど……」 どうしてこうなってしまうんだ。もう、戻れない所まで行ってしまったんだな、と綺沙羅は和生から眼を背けた。 「な、にするんだ緑青!!?」 和生の腕がびしりと血管が筋張り、和生が緑青に支配された。振り上げられた腕。鉄槌の、振り落とすゴールは和生の頭だ。 『これは僕がもらうね』 「わ、悪かった、や、やめてくれ、こ、こ、殺さな、い、いでっ、くれ!!?」 「人生終わらすのも、自分の手だったか」 綺沙羅の声――その後。無様極まった、振り落とされた鉄槌は呆気無く和生の頭を粉砕する。 立ったまま死んだ彼はそのままずしゃりと膝から崩れ落ちた。 『来い』 親は命じる。子へと。 『すまないな竜一。一緒には行けない』 露草は残念そうな声色で竜一の手からその身を弾く。宙に浮いた武器たちは闇に消えた――。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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