● 「だから、それはお花のお稽古でどうしても必要な着物だって言ってるじゃない!」 ママが怒鳴ってる。違う。ママじゃない。 ミナちゃんのお母さんは優しくって綺麗だねって、京子ちゃんが言ってくれたもん。 あんなに怖い顔で怒鳴ってる人は、ミナのママじゃない。 「そんな理由で馬鹿みたいに高いもの買って! 誰の金だと思ってるんだ!」 パパがテーブルを叩いてる。違う。パパじゃない。 ミナちゃんのお父さんは笑顔が素敵で格好良くって良いねって、結衣ちゃんが言ってくれたもん。 あんなに乱暴な手で机を叩く人は、ミナのパパじゃない。 「あんた何突っ立てんのよ! 邪魔なのよ!」 「なんだ、お前も文句があるのか。母親そっくりだな!」 「なんですって! どういう意味よ!」 「言葉の通りだろうが! 本当に俺の子かも怪しいと思ってたんだ!」 「そうやって押し付けるつもり!? あたしだってこんなコブ要らないわよ!」 ママに叩かれて、パパに突き飛ばされた、要らない子はミナ。違う。ミナじゃない。 ミナは良い子ねって、お姫様よって、お外でママが言ってくれたもん。 ミナは賢いなって、大事な子だよって、会社の偉い人の前でパパが褒めてくれたもん。 素敵なご家族ねって、お向かいのおばさんが、言ってくれたもん。 素敵な。かぞく。ミナが悪い子だからなれないの? 違う。ミナは良い子だもん。 叩かれて痛いのも、ご飯が無くてお腹が空いたのも我慢したもん。 お外でも、パパの会社でも、笑えって言われたから笑ったもん。 じゃあママは。あんなのママじゃない。あんな怖い顔。 じゃあパパは。あんなのパパじゃない。あんな乱暴な手。 「なによ!」 「向こうへ行ってろ!」 ママじゃないママが怒鳴る。パパじゃないパパが手を振り上げる。 みんな、みんな、かぞくじゃないなら、いらない。 ● 「10歳の少女が革醒し、ノーフェイス化しました」 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は努めて事務的な口調で説明を始めた。 「少女の名前は織浦ミナ。新興住宅地に住む、比較的裕福な家庭の一人娘です」 何不自由無く暮らしていた――と思われた少女は、ある夜唐突に革醒し、両親を殺害した、と和泉は言う。 した、と言う事は、既に。リベリスタの問いに、和泉が頷く。 「今からすぐに向かっても、織浦ミナの両親殺害は止められません」 しかし、少女の小さな手は両親を殺めた後も止まらず、様子を見に来た近所の住人や、学校の級友達にまで伸ばされるのだとフォーチュナは続けた。 「彼女は『完璧な家族』を築きたいようです。自分を核に、両親や姉・兄、妹や弟…或いはペットまで。 本来の織浦ミナの家族構成に関わらず、彼女の思い描く家族を構成する為のキャストが欲しいようです」 それを少女は何も知らずに訪ねてきた人々に求める。 あなたはミナの家族? そう尋ねる少女に、普通の人間ならば疑問を抱きつつ首を横に振るだろう。それが自分の最後の動作になると知らずに。 「織浦ミナの問いに否定を返せば、即座に攻撃されます。 周りは住宅地ですから、玄関先や庭先などで派手に動くと人が集まりかねません。 まずは彼女の家族ごっこに付き合いながら、戦闘に向く場所……例えばリビングなどに移動する方が戦いやすいかもしれませんね」 織浦ミナの資料を提示しながら、和泉はリベリスタ達の方を見ずに声を続けた。 「相応の作戦があれば、即戦闘に入るのも良いでしょうし、ままごとに付き合うのも皆さんの自由です。 ただ、織浦ミナとの戦闘は避けられないと思って下さい」 彼女は今やただひたすらに「理想の家族」を求めるだけの存在になってしまったのだから、と和泉の目がそこでリベリスタ達を見る。 示された資料では、可愛らしい少女が一人、両親に挟まれて幸せそうに笑っていた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:十色 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年11月23日(金)22:55 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●はじめまして、わたしの「家族」 ピンポン、とチャイムの音が夕暮れの住宅地に短く響いて消えた。 やがて玄関の内側から軽い足音が近付いて、鍵の外される音がする。 「……………」 突然の訪問者を訝る事も、挨拶をする事もなく無言で顔を出す、一人の少女。黒目がちな大きな瞳に、少し癖のある長い黒髪。どこにでもいる普通の少女だ。 けれど、ここに集まったリベリスタ達は知っている。 ――彼女は既に、運命の手から滑り落ちたものである事を。 そして、少女の口から次に出る台詞も。 「……ねぇ、あなたは、ミナの、家族?」 「なんだ? 一人で留守番させたこと怒ってるのか? そんなこと言われたら、父さんさすがに傷つくぞ」 眉尻を下げて見せたのは『(自称)愛と自由の探求者』佐倉 吹雪(BNE003319)で、革醒した少女は「父」を称する吹雪を素直に受け止めたらしい。ガラス玉のようだったミナの目が、途端に感情めいたものを取り戻し、悲しげな吹雪を映して、おろりと狼狽える。 「あ、あ、パパ? ごめんなさい、わたし、怒ってないよ?」 家族としての認識が正しく刷り込まれたのを確認して、他の面々も「家族ごっこ」へと入っていく。 「ボク達は、ミナのお姉ちゃんだぞ?」 「はい、おねいさんたちはお買い物に行って来たのです」 「ミナの姉」である『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)と『ぴゅあわんこ』悠木 そあら(BNE000020)が顔を見合わせた後に言うのを聞いて、ミナの目が瞬く。 「……お買い物?」 「そうだ。今日はアンジェリカ姉さんの誕生日会だぞ。ほら、こうしてプレゼントのビスケットも……ん? 姉さん、まさか妹の顔を忘れてはいないだろうな?」 ビスケットの袋を見せながら話しだした『カゲキに、イタい』街多米 生佐目(BNE004013) は、きょとんとするミナを見て胸を張って「妹」の立場を主張する。 その後ろでは、『愛を求める少女』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)が、 「ミナはお姉ちゃんの誕生日、お祝いしてくれないのかな?」 と不安げに瞳を揺らして顔を覗かせていた。 そんな2人に、ミナはすぐに首を横に振って笑ってみせる。 「そんな事ないよ! 覚えてるし、お祝い、するよ! お姉ちゃんのお誕生会かぁ……そっかぁ……」 きらきらと、ミナの瞳が輝き出す。 家族集まっての記念日の祝い。それに嬉しげに頬を染めるミナに、運命が少女の手を離しさえしなければあったかもしれない、いつかは訪れたかもしれない幸福な家族の姿を見て、『鋼鉄の砦』ゲルト・フォン・ハルトマン(BNE001883)はその鋭い目を細めた。 が、次には瞳を過ぎた憂いを払い、「ミナの兄」としての役割が始まる。 「俺はお前の兄だぞ? ほら、誕生日会の準備だ。そろそろ家に上げてくれ」 ゲルトの言葉に弾かれたようにミナが頷き、「家族」の役割を纏ったリベリスタ達を家の中へと招き入れる。 「私は、ミナさんのお姉さんのお誕生日をお祝いに来たのですけど」 『不屈』神谷 要(BNE002861)が「家族」や「近隣」の誰かでなく姉の友人として訪れた時、生来の内向性が顔を出したのか、ミナは少しだけ不安げな顔をしたようだったが、『赤錆烏』岩境 小烏(BNE002782)が、 「ミナはお姉ちゃんのお友達を追い返しちゃうのかい? 母さんは賑やかな方が楽しいと思うけどなぁ」 と手にしたケーキの箱を揺らして笑うと、ミナは慌てて要に頭を下げ、小烏の手を引いて要も連れ立ち他のリベリスタ達の待つリビングへと案内する。 後ろで、がちゃん、と玄関の閉まる音が聞こえた。 ミナが「家族」を閉じ込めようとするように。「おままごと」の始まりを告げるように。ミナの運命の終点を憂うように。 ●ハッピーバースデイ・トゥーユー リビングに通された面々は、誕生日会に、その後に訪れる避けられない戦いに、邪魔になりそうな物を壁際辺りへと寄せていく。 家具を寄せた先の部屋の隅には、黙って佇む2人の男女の姿がある。ミナの両親「だったもの」だ。 (「理想の家族」をそれぞれ追い求めた結果か) 小烏は、今やミナには「家具の一つ」のようにしか認識されていない両親を横目に見る。 (今更悔やまれる事ばかりだ) もう少しお互いを理解出来ていれば……と思った所で、何も見つめない両親の目も、「家族」しか見つめないミナの目も、もう元には戻らないのだ。 「よし、じゃあ、ミナも誕生会の準備をお手伝いしてもらえるかな?」 人形のような両親から視線を剥がして小烏が問えば、「母」の声にミナは元気良く頷く。 飾り付けの花を頼むと、ミナは花瓶の仕舞ってある戸棚の上を見上げて眉を下げた。 「高いところ、届かないの……」 「よしよし、これは父さんの出番だな!」 言って、吹雪が肩を落としたミナを抱き上げ、花瓶に手の届く高さまで持ち上げる。 ミナは高い視界に花瓶に手を伸ばすのも忘れ、きゃっきゃと笑い声を上げた。その様はあまりにもごく普通の少女で、吹雪にはそれがやり切れなくなる。 運命に愛されなかった以上は仕方がない。けれど、リベリスタも想わないはずはない。この不運な少女を。 だからこそ、今だけは。最後に、本物ではないかもしれないけれど、家族の愛情を、彼女へ。 「こら、ミナ、お手伝いだろ? 花瓶はどうしたー」 「はぁい!」 笑い声を零しながらもミナは戸棚から箱に入った花瓶を取り出し、床へ下ろしてもらう。 「次はおねいさんとお花を飾りましょう」 白いレースのテーブルクロスと綺麗な食器を用意したそあらが微笑めば、ミナもつられて笑った。偽りの家族へ向けられるものであっても、少女の笑顔は眩しい。 きっと、ミナは両親が大好きだった。大好きで、大好きで、ずっと大好きな時のパパとママでいてほしくて。喧嘩なんか、してほしくなくて。 求める気持ちが爆発して、今に至ってしまった。そあらには、そんな気がしている。 「お花が飾れたら、らいよんちゃんが美味しいお茶を淹れてくれるですよ、ミナちゃん」 「雷音お姉ちゃんが? わぁ!」 はしゃぐミナが飾った花は、いかにも子どもの手によるものらしく拙く出来上がった。それでも小烏はミナの頭をぐりぐりと撫でながら出来栄えを褒め、吹雪も照れて顔を隠す「娘」に小さく拍手した。 それは正しく、ミナが憧れ、そして届かなかった理想の家族。 (ああ、ボクと同じだ) 家具を端へと寄せ、同時にそこから家族の記憶を読み取る事を試みながら、雷音はミナの笑顔を見る。 理想の家族を演じ、理想を求めてそこに縋り付くしか自分を保てないミナ、そして、雷音も。 (いい子であることで捨てられないように) 雷音が思い浮かべるのは、大切な父と兄。血の繋がりのない彼らに義を付けないことで、家族であることを願う自分とミナと、何が違うのだろう。 とめどなく浮かぶ思考を振り切って、雷音はまた一つの家具へと手を触れた。 途端、流れてくるのは母親とミナの記録。 今よりも尚幼いミナが、クレヨンで汚れた手で母親の手に触ろうとした。 「まま、おてて、きれいー」 綺麗なママの、綺麗な手、綺麗な爪。ミナは嬉しそうな顔で手を伸ばし、母親は、険しい顔で伸ばされる小さな手を叩き落とす。 「やめてよ! 汚れるじゃないの!」 鋭い言葉に幼いミナは涙を目の縁に溜めて俯き頷いた。叩かれるような言葉に俯いたまま、ミナは部屋を出て行く。 雷音が読み取った家具の記録は、ミナが出て行った後、ハッと顔色を変えて自分の手を見下ろし唇を噛む母親の姿も途切れ途切れに映して見せた。 母親は強く唇を噛み締め手をきつく握り、それから顔を上げミナの後を追いかけようとして――足を止める。 迷う様子でリビングを歩き回る母親の姿を最後に、雷音の脳裏から家具の記録が薄れていく。 (……愛していなかったはずは、ないのだ) 雷音は、思う。 ただ、優しい触れ方が解らなかっただけで。それが全ての免罪符にはなるはずもないけれど、それでも。 (ボクは知りたい) そう思いを馳せたのはアンジェリカ。彼女もまた、秘められた記憶を探していた。 (いや、信じたいんだ) ミナの両親のミナへの愛を。実の子を愛さない親はいないと、アンジェリカは信じたかった。 やがて、アンジェリカの指先が一つの親子の記録に触れる。 「なんだぁ、こんなとこで寝てやがんのかぁ?」 赤ら顔でリビングにやって来たのはミナの父親だった。 「爽やかで格好良い」理想の父親像とは違う、酔っ払いそのものの格好だったけれど、リビングのソファで、父親を待ち疲れて眠ってしまった娘を見る眼差しは優しい。 次第に、酒の力を借りた父親の口から、懺悔めいた声が溢れて落ちる。 「いつも叩いて、ごめんなぁ。ミナ、痛いよなぁ……ごめん……ごめんなぁ」 言葉が落ちて、涙が零れる。涙は眠るミナの頬の上へ流れ、上手く触れられない父親の手の代わりに、いつか叩いた娘の頬を労わるようにして滑って落ちていった。 或いは、酔っ払いの戯言なのかもしれない。本心では微塵も反省などしていないのかもしれない。 けれど、眠る娘を見つめる両の目は確かに父親のそれだと、アンジェリカには見えた。 やがて準備が整って、リベリスタ達はそっと頷き合う。 全員がテーブルを囲み、誕生日会の主役であるアンジェリカの前に、ロウソクを灯されたケーキが寄せられる。 アンジェリカの面持ちが、こんな場面でも僅かに嬉しそうなのは、彼女の誕生日であるという点は、このままごとの中で数少ない真実であるからか。 「誕生日おめでとう」 「おめでとう、アンジェリカ」 笑顔で祝いを口にする雷音やゲルトの言葉にも一片の嘘は無い。仲間を祝福する、その気持ちもまた、この場所で数少ない本当のものの一つだ。 「……ありがとう、皆」 返すアンジェリカの声も。 「お誕生日おめでとう、アンジェリカお姉ちゃん!」 朗らかに笑うミナの言葉も、きっと。 アンジェリカの目が、「ミナの姉」から世界を守るリベリスタのそれへと変わる。 テーブルを囲む仲間達がそれぞれ戦闘に配慮した位置にある事を確認し、戦闘開始の合図であるロウソクが、そっと吹き消された。 ●家族の肖像 「――あ?」 吹き消されたロウソクを見て、拍手をしようと立ち上がったミナの体にまず叩き込まれたのは吹雪の放つ目にも止まらぬ連撃。小さな体は続け様の刃を受けて大きく揺れ、同じく揺れた瞳が吹雪を、武器を構えた「ミナの家族」達を見る。 「パ、パ? ママ?」 「悪ぃな、ただ愛されたかっただけなんだろうに、こんな裏切るようなことしちまって」 吹雪が詫び、けれど彼の剣先は揺らがない。 「おままごとの時間は終わりだ」 小さく呟いたのは雷音。小さく痛んだ胸は、その台詞がいつか自身に来るかもしれないと思うから。けれど、今は自分の痛みに構っている時ではない。 そあらを背に庇う格好で、雷音は手にした十字架をミナへと向け、不吉の黒い影がミナの体にまとわりつく。 「ごめんなさいです。あたしたち本当は……」 雷音の後ろへと下がったそあらが眉を下げる頃には、ミナの様子は既に笑顔の少女ではなくなっていた。 「なんで? なんで? ねぇ、なんで、おねえちゃん……」 真っ黒な影から抜け出しながら問いかけるミナに、既にまともな理性は薄いように見える。 「ミナ、君は両親を殺したね。それは悪い事だよ。だからボク達は君を叱らないといけない」 妹を叱る口調でアンジェリカは言った。「妹」へと形を持った死の爆弾を打ち込みながら。今だけは家族だから。家族ならば、正さなければ。 「――違う。違う。パパじゃない。ママなんかじゃない。だって、だって……!」 ミナの目が溢れんばかりに見開かれ、充血した目から涙が頬へと伝う。 「家族なら、どうしてミナを叩くの! ミナは良い子にしてた! ずっとずっと我慢してた!」 なのにどうして、みんなもミナを怒るの。悲鳴のようなミナの声が響くと同時、硝子や陶器の割る音があちこちから聞こえ出す。何人かのリベリスタも耳を抑えて顔を顰めた。 ミナの声に反応するように、或いは傷ついていく「娘」の為に、壁際で佇んでいた「両親」がミナとリベリスタ達の間へ滑り込む。 両親の動きに対応出来る位置にいた要も、これを止めなかった。 逃げるのではなく、即座に攻撃をするのでもなく、ただミナを守る為に割り入ってきた行動は、確かに「親」のものである。 ミナには辛い環境だったのだろうと思う。けれど、きっとそれだけではなかったはずだ。その証拠が今の両親の行動だと、要は考える。 (彼らがミナさんの事を確かに思っていたという事に、気付いてもらえれば) 愛していたと。愛されていたと。 (――まあ、感傷なのでしょうけどね) 仲間達へと十字の加護を与えて、要は過ぎ去った感傷を振り切るように武器を強く握った。 屍の目はやはり虚ろだったが、2人は背後にしっかりとミナを庇い、ミナを傷付けるリベリスタ達へと攻撃を仕掛けてくる。 「ミナ。きっとお前は愛されていたんだ。彼らがお前を庇うのがその証拠だ」 十字の光で屍を焦がしながらゲルトが問いかけても、ミナの目は揺れたまま物を言わない。 ただ悲しげに、眼前でリベリスタ達の攻撃を受け止める屍を見つめた後、くるりとスカートを翻して回って見せる。自分を、確かめるように。 「……ミナはミナだもん……」 悪いのはわたしじゃない。わたしはずっと、わたしだった。 「そうだ、君は君のままで、愛されている。君は十分に幸せだったんだ」 凍てつく雨で屍を凍らせる雷音の声は凛として、けれど頬を伝う涙が彼女の内心を現す。 「本当にミナちゃんの事を愛していないのなら御両親は貴方を庇ったりしないですよ?」 「あぁ、この状況が何よりの証明だろう」 雷音や仲間達の傷を癒しながらそあらが語りかけ、屍へと瘴気を放ちながら生佐目が頷く。 「君は、両親の愛情を自ら手放したんだ、ミナ」 残酷に、けれど、「姉」だったからこそ「妹」を正したくて、垣間見た両親の愛情を告げたのはアンジェリカ。 告げられた光景に、ミナの目が瞬き、新たな涙を生む。 「本当に家族がお前を思っていた思い出もあるだろう! 思い出せ!」 今更かもしれない、それでも、知ってほしいのだ、確かに愛されていたと。 そんなゲルトの言葉に、ミナの顔が歪み、開いた唇から声が絞り出される。 「パパ、ママァ……」 それは、優しい偽りの家族ではなくて、辛くても確かに家族だった、両親への。 後悔と懺悔と愛情と、様々な感情の混ざったミナの声が零れた瞬間、虚ろだった両親の表情が動いたのは、気のせいだったろうか。 揺れた唇が笑んで見えたのは、やはり過ぎた感傷なのかもしれない、と声に出さずに要は思い、破邪の剣をミナの父親へと突き立てた。 糸の切れた人形のように、父親は床に倒れ動かなくなる。 「ちょっと遅すぎだぜ、お前ら……」 呟いた吹雪の剣先が母親の胸を貫いたのは、そのすぐ後の事だった。 両親が倒れた瞬間、ミナの唇から零れたのはもう言語ではなくて、悲鳴のような、雄叫びのような、泣き声のような、音だった。 辛くあたった両親への、そんな両親を倒したリベリスタ達への、何より自身への、憤りにも聞こえる声に、生佐目は呟く。 「辛いか、痛いか、姉さん――だが、もう、終われる」 生佐目が己の痛みを呪いへと変換しミナへと送れば、響く悲鳴に新たな苦痛の色が混ざる。 それも、束の間。 「良かったな、嬢ちゃん。嫌な事も沢山あったろうけど、それだけじゃなかったんだよ」 だからこそせめて、しがらみの無い彼岸で、今度こそ互いにちゃんと話せるように。 小烏が穏やかに言って、手元から無数の鳥が羽ばたきミナを囲む。羽音が消える頃、小さな体は冷たい床に横たわっていた。 ●さよなら、わたしの家族 「ミナ、わるいこ、だったの、か、なぁ……?」 最期の声を零すミナの体をアンジェリカが抱きしめる。 「大丈夫だよ。君はもう罰を受けた。ボク達はこれで本当の家族だ」 頬に一粒の涙の跡を残して、アンジェリカは言う。嘘でも、詭弁でも、少女の魂が少しでも救われたならと願って。 ほんの小さく口角を持ち上げたミナには、もはや声を出す余力すら無いようだった。 徐々に下がってくるミナの瞼に手を置いて、生佐目が声を落とす。 「おやすみ、姉さん」 明日もいい日でありますように。 来ない明日を祈る言葉をミナは、解っているのか、いないのか。やはり少しだけ、彼女の家族に笑って見せて、そして、少女の瞼は永遠に閉じられた。 「向こうでは仲良くやれよ」 ミナの体をアンジェリカから受け取り、両親の傍らに横たえてやりながら吹雪が言い、その後ろではゲルトがミナ達家族の為に祈りを捧げる声が短く響く。 雷音は並んで眠る家族を見つめた後、父へとメールを送った。 ――家族ごっこでも、それは本当の家族であると思いますか? 本当の家族とは何だろうか。血縁さえあれば、それだけで。絆さえ繋がっていれば、血などなくとも。 答えの形は一つではないのだろう。 だから、悲しい少女の為に祝いの日をくれたリベリスタ達も、少女の大切な――。 |
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