●音もなく忍び寄る……。 寒さも増してきたある秋の昼下がり。突如空から舞い降りて来たそれを、雪の欠片だと誤認した者がどれだけいるだろうか。 小さな山奥の集落での出来事である。最寄りの駅まで、車で数十分かかるなど、交通の便に多少の難ありだが、それでも一応は文明から取り残されることなどもなく未だに存続している。 村人は、総勢200人といったところだろうか。 そのほとんどが、灰色の雪が降り始めた直後から、体調を崩し始めた。 自力で歩ける者は、村に1つだけある診療所へと押しかける。その日、この平和な村にしては非常に珍しいことだが、診療所と駐在はかつてないほど慌ただしい一日を送ることになる。 彼らもまた、灰色の雪に犯され、体調を崩しているのだが、それでも仕事を休むわけにはいかなかった。 とはいえ……。 いつまでもそれが続く筈もなく。 この数時間後、村人たちは全員、自力で動く事が出来なくなった。 症状としては、高熱や眩暈、吐き気など風邪やインフルエンザに似ている。だがしかし、感染から発症、悪化までの速度が尋常ではなかった。 原因不明の病に犯された村の様子を、民家の屋根の上からじっと眺めている者がいることに、誰も気付かない……。 ●病毒感染……。 「アザ―バイド(ケウケゲン)……。今回の騒動の発端。ケウケゲン、っていうのはこっちで勝手につけた通称だけど」 と、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が村の様子をモニターに映す。 そこには、顔色悪くグッタリしている村人たちの姿。老人が多いのは、少子高齢化の影響だろうか……。 幸い、というか、今のところ死人などは出ていないようだが。 しかし、このまま放っておくわけにはいかない。このまま放っていても、自然に治る確証などないわけだし、ケウケゲンをそのまま放置、というわけにもいかない。 「なお、ディメンションホールはまだ村のどこかに開いているみたい。どこか分からないから、ケウケゲン討伐のついでに探して、壊してきて」 モニターの映像を次々切り替えるイヴ。木造の民家、寂れたアパート、水車小屋のある河川敷に、集会所、とっくの昔に廃校になった小学校や、老人達の憩いの場となっているゲートボール場。駐在所と診療所には、人が詰めかけて混雑している様子。 そして、意識の混濁した村人の上に降り注ぐ灰色の雪。よく見るとこれは、雪ではなく毛玉のようだが……。 「これらの毛玉が、ケウケゲン。だけど、毛玉をいくら潰しても無駄。村中にバラけた、全部で10体のケウケゲン本体を叩く必要がある」 病毒を撒き散らすケウケゲンには、意思のようなものはないのだろう。 ただ、習性として病毒を撒き散らかすだけ。 「ケウケゲンの姿は、非常に目立ちにくい。よく見てないと、見失うかも」 注意して、とイヴは言う。モニターの映像を切り替えると、そこには民家の屋根に止まった灰色の毛玉が映っていた。大きさは1メートル程だろうか。 埃かなにかが固まったような灰色の毛玉だ。真ん中に、赤い目が1つだけ覗いている。 感情の色が窺えない赤い目だ。ぼんやりと光っていて、ひどく不気味に見える。 「状態異常と、遠距離からの攻撃が得意。気を付けて」 不意打ちとか、面倒だから、とイヴ。 「村人たちを攻撃に巻き込まないようにね。これ以上病毒を重ねがけされると、本当に危険」 現在降っている灰色の雪は、体調を悪くさせる程度のもので、命の危険は少なくとも今のところはないようだ。BSとしての(毒)とは違い、風邪に似た症状を引き起こすだけのものらしい。 「降っている毛玉は風邪に似た症状を誘発させるだけのものだけど、攻撃として使用してくる毛玉は、こちらの命さえ奪いかねない毒……」 気をつけて。 と、イヴは言う。 「タイムリミットは、夕暮れまで。闇が深まると、ケウケゲンは村から逃げていくから。それから、ご老人が多いから、早目になんとかしないと、死人がでるかも」 それまでに、討伐なり送還なりを完了させることが、今回の任務だ。 行ってらっしゃい、とイヴは小さく手を振った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年11月23日(金)22:54 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●山村に蔓延る病魔 山奥の村は、静寂に満ちていた。シン、と静まり返った村の様子は、知らないものが見ればここはゴーストタウンではないか、とそう誤解してしまうだろう。住人の気配はなく、ただ灰色の雪が降り注いでいる。その灰色の雪を良く見てみれば、それが雪ではなく毛の塊、綿のようなものであることが分かるだろう。 そっと、降りしきる灰色の雪を手の平ですくい風見 七花(BNE003013)は眉をひそめる。 「相手に悪意がないとはいえ被害がでています。毛玉さんには悪いですが……」 これ以上、被害が拡大する前に退治することになるだろう。そう思うと、異世界から迷い込んだ毛玉状の生物が哀れだった。 「ガスマスクも、気休めにしかならないかもしれませんね」 体にだるさを感じるのだろう。確かめるように肩を回す『ブラックアッシュ』鳳 黎子(BNE003921)は、ちらりと空に視線を向けた。どうやらこの灰色の雪は、どこか遠くから風に乗って流れて来ているようだ。 現在降りしきっている灰色の雪は、ケウケゲンと呼ばれるアザ―バイドがばら撒いている病原菌の塊だ。その粒子等を吸い込むことで、身体に不調をきたす。現に、村のあちこちにぐったりと人が転がっているのが見てとれる。 「灰色の雪、か。はぁ……すげぇ光景だな……」 ふと足を止め、村中に降り積もった雪を眺め『ヤクザの用心棒』藤倉 隆明(BNE003933)がそう呟いた。彼も他のメンバー同様マスクを装着している。もっとも、彼の場合はこのような場合に限らず常にマスクを着用しているわけだが。 「悪意なく災厄を振り撒くというのも……困ったものですね」 道端や民家の軒先でぐったりしている村人たちに、注意深く目を向けながら『名伏しがたい忍者のような乙女』三藤 雪枝(BNE004083)がそう漏らす。彼女たちの向かう先は、廃校となった小学校である。その道中、すでに相当数の村人たちを目にしてきたが、まともに意識のあるものはいない。時折呻いているものは何名か見かけたが、まともに話を聞けるような状態ではなかった。 「見えて来た……」 と、呟いたのは七花だ。灰色の雪の向こうには、廃れた印象の校舎が見える。 そんな校舎から繋がる体育館に向かって、何かの影が駆けて行く。 「見つけた。始めようぜ、迅速かつ確実に、だ」 隆明が歪な形のリボルバー拳銃を握り締める。視線で仲間たちに合図を送ると、一気に駆けだしていった。黎子と雪枝もそれに続く。 しかし……。 「気休めに……なりますかね」 マスクを押さえ、ピタリと黎子の足が止まる。視線の先には体育館。その出入り口から、紫色の霧が溢れている。 「マスクの効果があるといいのですが」 濃い紫の霧と、降りしきる灰色の雪。どうやら、廃校舎に巣食うケウケゲンは1体ではないらしい。 ●病毒を撒き散らす毛玉 「毛玉……。大きさ1mの生きた毛玉って、正直気持ち悪いのですが! しかも動くし、毒を吐く!」 紛れもなく妖怪です! なんて叫びながら『クオンタムデーモン』鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)が仕掛け暗器を振るう。その小さな体には不似合いなゴツイ装備に身を固めたツインテールの女性が、灰色の雪を撒き散らしながら暴れまわる様は、一種異様な光景である。彼女の眼前を跳ねまわるのは、巨大な灰色の毛玉であった。 「無音瞬殺、速効勝負です」 毛玉の背後から影に紛れて『必殺特殊清掃人』鹿毛・E・ロウ(BNE004035)が飛び出す。腰に携えた日本刀を引き抜き、一瞬で毛玉を真っ二つに切り裂いた。毛玉の断面から、紫の霧と灰色の毛玉が大量に散布される。吸い込まないよう距離をとり、ロウは日本刀を鞘に戻す。 「これで2体目か……。任務は順調のようだな」 ケウケゲンの潜んでいた水車小屋を覗きこみながら軍服を纏った中年男性『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)がそう呟いた。道中、民家の屋根の上に1体。そして、水車小屋でロウの発見したもう1体。合わせて2体。ケウケゲンは全部で10体なので、残りは8体である。 ロウに発見され、逃げ出そうとし、そしてケウケゲンは倒された。地面に転がる毛玉を見て『破壊の魔女』シェリー・D・モーガン(BNE003862)はふん、と鼻を鳴らす。 「臆病ならば、こちらに出てこなければよいものを」 ロウによって切断された毛玉は、次第に崩れていっている。どうやら、命を失っては形すら維持できないらしい。その際に風に乗って飛んでいく毛玉もまた、病毒の源であるのかと思うと、ゾッとしない。 「しかし、場所も確認せずに巡回しては無駄に時間を浪費するだけだ」 シェリーは、道中手に入れた村の地図を広げる。水車小屋は丁度村の真ん中付近にあるようだ。 「民家とアパートが並んでいる区画がある。効率を考えるなら、ここに行ってみるべきだ」 ウラジミールが横から地図を覗きこみ、居住区域であろう場所を指先で叩く。 「お台所とか、室外機の隙間とか汚れが溜まるんですよねー。天井裏なんかもどうです?」 なにがそんなに嬉しいのか、汚れて狭そうな場所を次々上げながらロウはうっとりと目を細める。そんなロウの様子を呆れたように見つめ、あばたは小さくため息を吐いた。 「あとは、灰色の雪が吹き出ている場所も探すべきでしょう」 「空から見れぬのが痛いな」 ここまで通ってきたルートとポイントにチェックを入れて、シェリーは地図を閉じた。 一方その頃、廃校舎ではケウケゲンとリベリスタの逃走劇が繰り広げられていた。この廃校舎、小学校としての機能を失った後は、村人たちの物置として使用されていたらしく、あちこちにガラクタや農機の類が転がっていた。その隙間を縫うようにして、ケウケゲンは逃げ続けている。 「外から回り込みます!」 面接着で雪枝が校舎の壁を駆け上がる。それを見送って、他の3名は校舎内へと入っていった。 外から銃弾を撃ち込む事によって体育館から追い出すことに成功したものの、そのまま逃亡を図られ、現在それを追走中である。フワフワとした動きで、ケウケゲンは駆けまわる。どうやら3体ほどのケウケゲンがこの校舎には潜んでいたようだ。 「ここなら、交戦時に村人を巻き込むことはなさそうですね」 七花が右腕を前に突き出す。すると、突如として彼女の頭上に禍々しい大鎌が現れた。手で指揮をとるようにして鎌を操るものの、ちょこまかと飛びまわるケウケゲンに、上手く狙いを定められない。 「効率よく動かねぇとな」 隆明が素早くリボルバーの引き金を引く。放たれた弾丸はまっすぐにケウケゲンの胴体を撃ち抜いた。静かな校舎に、銃弾の音が響き渡る。一瞬、ケウケゲンの動きが止まる。その隙に、七花が腕を振り下ろす。空気を切り裂きながら大鎌が宙を舞う。同時にケウケゲンの体から毛玉が噴き出した。 毛玉の嵐が七花を襲う。 毛玉が、七花を包み込むその直前、彼女を庇うように隆明が間に割って入る。 「BS回復は七花にしかできねぇからな、頼りにしてるぜ」 毛玉に囚われ、隆明の体が床に倒れ込む。七花が治療の為、隆明に駆け寄る。ケウケゲンは七花の放った大鎌によって切断され、消えた。 飛び散る毛玉と紫の霧を突っ切って、黎子が駆ける。残る2体のケウケゲンを追って、校舎を駆けあがっていく。一向にケウケゲンとの距離は縮まらないものの、順調に上階へと追い込むことには成功。最上階に辿り着いた所で、黎子が動く。2本の三日月型の大鎌を手に、床を蹴る。 踊るようにステップを踏み、ケウケゲンに駆け寄った。 「虱潰しですよ」 ケウケゲンが灰色の針を放つ。体に何本もの針を受けつつも、黎子の動きは止まらない。大きく鎌を振り回し、ケウケゲンを追いたてて行く。その度に、ケウケゲンの体から毛玉と霧が飛び散った。 毒を受けているのだろう。黎子の顔色が急速に悪くなるが、それでも彼女は笑って見せた。 「後から治してもらえばいいんですよ」 なんて、言ってケウケゲンを追いたてる。霧を吐きだし、ケウケゲンが逃走を図る。階段を上がり、屋上へ。しかし、ケウケゲンが屋上に辿り着くまえに、ドアが開き雪枝が姿を現す。 「とっとと退治して、村を救わせてもらいますよ」 小太刀と苦無と両手に構え、階段を飛び降りる。ケウケゲンと交差した瞬間、その体を切り裂いていく。床に着地すると同時に身を捻り、反転。軽いステップで更にケウケゲンに斬撃を加える。 「透視って便利ね」 透視を利用して、壁を駆け上がりながらも校舎内の様子を確認していたのだろう。だからこそのベストな登場タイミング。雪枝の動きが止まるのと同時に、ケウケゲンは毛玉を撒き散らし崩れ落ちた。 雪枝は小太刀と苦無を仕舞い、顔色の悪い黎子に手を貸して校舎を降りて行く。 階段の下から聞こえてくる足音は、恐らく隆明と七花のものだろう。 「次はどこに向かうべきかな?」 「駐在所か、診療所……ですかねー」 「行動開始だ」 ナイフを握りしめ、ウラジミールがアパートの屋上を見上げる。アパート屋上には毛玉を撒き散らすケウケゲンの姿。足音を殺し、階段を上がっていく。 「事は迅速に行わなければな」 ウラジミールの後ろに、シェリーが続く。長い銀髪が風に揺れた。灰色の雪が降りしきる中を歩む彼女の姿は、どこか幻想的でもある。 一方、ロウとあばたは、アパートの傍にある民家へと向かう。民家の周囲に、大量の毛玉が溜まっているのを確認したからだ。 「軒下や土間の隅っこが怪しいんですよねぇ」 「出来る小細工もないしな。地道に探しますか」 暗器を手に、あばたがそっと軒下を覗きこんだ。瞬間……。 「うわっ!」 軒下から、気色悪い色の光線が放たれる。咄嗟に地面を転がりそれを避けるあばた。暗器を放つが、回避される。軒下に潜んでいたケウケゲンが、慌てたように飛び出してくる。刀を引き抜きロウがケウケゲンを追う。ケウケゲンから射出された灰色の針が、ロウに刺さった。 「……っお!?」 ロウの体が揺れる。足元に転がっていた木材に躓いたようだ。そのままあばたに倒れかかる。 「ちょ、邪魔!」 あばたが叫ぶが、すでにケウケゲンは逃げだした後だ。民家と民家の間へと逃げこんでいく。後に灰色の毛玉を撒き散らしながらの移動なので、後を追う事は容易だろう。アパートの屋上へと向かったウラジミール達を呼び戻すことも憚られ、AFを通じて援護不要の旨を伝える。 どうせ、民家とアパートは隣接しているのだ。いかんともし難くなれば、すぐにでも合流できる。 あばたは、ロウを押しのけ立ち上がり、ケウケゲンを追って行った。 「こちらも手早く済ませよう」 AFを閉じてウラジミールがそう呟く。シェリーは無言で頷くと、杖の先に魔力を集める。あと一階分上へ上がれば、屋上だ。先制攻撃の用意を整えた。 次の瞬間、2人の足元から大量の毛玉が噴き出した。 「もう1体いたのか!」 シェリーの体が、毛玉に包まれる。ウラジミールは身動きを封じられたシェリーを咄嗟に担ぎあげると、そのまま無言で屋上へと駆けあがった。 「治療をしよう」 道中、シェリーの不調を治療し、そっと床に降ろす。 2人が上がって来た階段から、紫の霧と共にケウケゲンが姿を現した。また、屋上にいたもう1体も2人の登場に気付く。 「任務開始だ」 床を蹴って、ウラジミールが飛び出した。ケウケゲンの放つ針をナイフで捌き、接近する。一方、シェリーは背後から迫るケウケゲンへと、杖の先を突きつける。 シェリーが魔弾を放つと同時に、ケウケゲンの瞳から光線が放たれる。光線と魔弾が衝突し、相殺。その隙に、ケウケゲンは床を這うようにして、シェリーに接近する。 ケウケゲンが紫の霧を吐きだした。 シェリーが背後に飛ぶ。シェリー同様、後ろに下がっていたウラジミールと背中合わせになる。 「朗報だ。ディメンションホールを発見した」 「悲しいかな。前後から挟まれている……」 「それなら、左右からだな」 ウラジミールが呟くと同時に、2人は屋上の柵へと跳んだ。ケウケゲンの視線がそれを追う。 「逃げられぬよう一気に仕留めるぞ」 シェリーの杖の先から、稲妻が迸る。放たれた稲妻は手前にいたケウケゲンを一瞬で包み、焼いていく。後方のケウケゲンは、なんとか直撃を避けたようだが、あちこち焦げて煙を上げる。ウラジミールが前へ跳ぶ。擦れ違いざまにナイフを突き刺し手前のケウケゲンに止めを刺す。そのまま後方のケウケゲンへと駆け寄った。 ケウケゲンの背後には、ディメンションホール。毛玉がウラジミールの腕を這いあがるが、それを無視しケウケゲンを掴んだ。駆ける勢いそのままに、ケウケゲンをディメンションホールへと叩き込んだ。 「任務完了だ」 ディメンションホールを潰し、ウラジミールはそう告げた。 「わたしは銃がないとてんでダメというのは反省材料です」 暗器を手にケウケゲンを追うあばた。毛針を防ぎ、毛玉と霧を払い、光線を回避する。跳ねまわる毛玉に苦戦しているようだが、次第に追い詰めて行くことには成功しているようだ。 ケウケゲンは、壁にぶつかるとボールのように弾み、その反動を利用して逃げまわる。軽いのか、ふわっと風に乗る事もある。 「ふわふわしているんだろうか」 などと言っている間にも、ケウケゲンはあばたへと針を撃ち出す。あばたはあえてそれを避けることをせず、暗器を放った。暗器がケウケゲンの体に刺さる。 「むむ……」 あばたの首元に針が突き刺さる。呻き声を上げながらも、あばたは気糸を伸ばし、ケウケゲンを刺し貫いた。ケウケゲンの動きが鈍る。ケウケゲンの赤い瞳が、あばたの姿を捕らえた。 しかし……。 「退路を断つのは、基本ですから」 お掃除の専門家です、なんて言ってケウケゲンの背後からロウが姿を現した。腰に下げた刀を一瞬で引き抜き、居合いに似た動きでケウケゲンを斬り捨てた。ケウケゲンの体が崩れ落ちる。 ロウが目を細めて笑う。 と、同時に先ほどあばたの放った暗器が、ロウの頭に当たって落ちた。 ケウケゲンによって付与された、彼の不運はまだ終わっていないらしい。そんなロウを尻目に、あばたは地面に横たわったケウケゲンの残骸を足の先で突いていた。 ●静寂に満ちる山村 灰色の雪を掻きわけて雪枝が駆ける。彼女の振るう小太刀と苦無の下を、ケウケゲンが潜り抜けて行く。駐在所で発見したケウケゲンを追ううちに、彼女達は診療所の付近までやってきていた。周囲には多くの村人が倒れている。診療所に向かおうとして、ここで意識を失ったのだろう。 「くっ……。やりにくいですね」 雪枝が呻く。身を捻るように方向転換。小太刀を仕舞い、彼女は黒いオーラを放った。放たれたオーラは逃げようとしていたケウケゲンの片方の頭部に纏わりつき、その命を削り取っていく。 更に、ケウケゲンの体に宙に浮く不気味な大鎌が突き刺さった。大鎌を放ったのは七花である。ふゥ、と一息吐いて、崩れ落ちたケウケゲンに目をやった。もう1体のケウケゲンは隆明と黎子に任せておけば問題ないだろう。 「三藤さん、手を貸してください。この辺りの村人を安全な場所に運びます」 診療所は目と鼻の先だ。このまま路上に放置するよりは、診療所内に連れ込んだ方が、後々治療もし易いだろう。天使の息を使用し、村人たちの病魔を払う。 「危険な状態の人がいた場所をメモしているから、これも診療所に置いていこうか」 そう言いながら、雪枝は傍に倒れていた村人を担ぎあげた……。 「この辺りに村人はいませんねー」 それなら、と黎子は大鎌を地面に突き刺すと、両腕を大きく左右に広げる。と、同時に彼女の周囲に無数のカードが現れた。射程範囲から隆明が離れたことを確認し、カードを動かす。嵐のような勢いでカードが宙を舞い、ケウケゲンに襲い掛かった。 毛玉と、紫の霧と、カードの嵐。溢れる毛玉と霧が、黎子を襲う。じわり、と黎子の体を毛玉が包み込み、霧を浴びる。急速に体長が悪くなるのを感じながら、黎子は地面に膝を吐いた。 カードの嵐が止んで、ケウケゲンの姿が見えるようになる。全身を切り刻まれ、毛玉と霧を撒き散らすその姿は、実に不気味で禍々しいものだった。 なるほど、妖怪。と黎子が呟く。そんな黎子の傍らに、隆明が立つ。 ポン、と彼女の肩を叩くと、隆明は笑った。 「さて、それじゃあ終わらせてくるか」 リボルバーを仕舞い、拳を握りしめる。それを見て、ケウケゲンが無数の針を放つ。隆明は、針による弾幕の中を、全速力で駆けて行った。全身に何本もの針を浴びながら、ケウケゲンに接近。 大きく振りあげた拳で、その灰色の体を殴り飛ばした。 ふわ、っとケウケゲンの体が宙に浮き……。 そして、一瞬で毛玉を撒き散らし、崩れた。 ケウケゲンの毛玉が風に運ばれて飛んでいく。毛玉とケウケゲンの残骸は、溶けて消えて行く。全てのケウケゲンが消滅したことにより、村中に積もった灰色の雪も、同様に消えて行くことだろう。 「終わったな……。んじゃ、帰ろうぜ」 黎子にそっと手を貸して、隆明は大きくため息を吐いた。 戦闘が終わり、山奥の村に静寂が満ちる。心地よい風の音に耳を澄ませ、隆明はケウケゲンの消えて行った空を見上げた。 遠くの空が赤く染まっているのが見える。それは夜の訪れの、そのはじまり……。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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