●ブリーフィングルーム 「フィクサード組織が暗躍している」 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)が開口一番伝えたのは、陰謀の動きであった。 「彼らは徒党を組み、体制の支配を目論んでいる。これを見逃したら現体制は一気に変動してしまうだろう。放ってはおけないよな?」 伸暁の表情は真剣そのもの。彼にしては珍しいこの勇姿、この任務に関してはどれほどの大きな陰謀が動いているというのだろうか。 「敵フィクサードは多数。どいつもこいつも漲るフィジカルに溢れた闘士達さ。苦戦は免れないかもしれないが、何、お前達ならやれるさ」 自信と信頼に溢れた伸暁の表情。その姿にはリベリスタ達も成功を確信せざるを得ないだろう。 「団体と団体、最高級の限界バトル。エクストリームファイティング、俺はお前達の勝利を待ち望んでいるぜ ●土俵の匂い染み付いて ……しかし事はそう上手くは運ばなかった。 例えフォーチュナのいないフィクサード組織といえども、いつか来る襲撃を予想することは出来る。そう、彼らはアークのような組織による攻撃を常に警戒し、待ち望んでいたのだ。その来るべき戦いを。 「ふふふ、よく来たな! いつか我々の力を恐れた襲撃者が来ることを確信していたでごわす!」 待ち伏せしていた彼らの罠に、リベリスタ達は追い込まれていた。 その場に存在していたのは通常を遥かに越える大きさの巨大な土俵。周囲を包囲するは脂肪と筋肉に包まれた、活力溢れる多数の巨漢達。 リベリスタ達は土俵の中央に追い込まれ、包囲されていた。 ――ほらそこ、どんな罠張られたら土俵に追い込まれるのかとか言わない! 彼らの中でも特に気迫に溢れた一人の力士がリベリスタ達を見下し、宣言する。 「我々の常識を超えた相撲力を持ってして角界を支配し、相撲界に革命を引き起こす……この野望、見過ごされるとは思って等いなかったでごわす」 その鋭い眼光はリベリスタ達の魂を射抜き、彼が並の力士ではないことを実感させる。そう、この男は高い実力と名声を持っていた。 ――そう、彼は幕内力士。前頭十二枚目、千代石英その人であった。 「しかし、この土俵に上がった以上我々から逃れられると思うな――この千代石英率いる、十三人の円卓の力士から!」 彼の号令と共に、周囲を囲む力士達が一斉に立ち合いの構えへと入る。彼らの錬度は高く、一矢乱れるその構えからは高い実力と自信、連携を感じ取る事が出来た。 周囲から迫る、凄まじい圧力。それは巨体と相まって、リベリスタ達の緊張を否応なしに高めていく。 緊張がピークに達した時、千代石英がニヤリと笑い、告げた。 「さあ……力士道精神にのっとり、正々堂々立ち合い開始でごわす」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:都 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年06月21日(火)22:23 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●ある土俵上 「くっ、卑怯な奴らめ! まんまと引っかかっちまったぜ……」 『三高平のトリックスター』呉実 陣牙(BNE000393)は悔しげに呟く。 最初からクライマックス。伸暁からの依頼を受けたリベリスタ達は、絶賛ピンチであった。 角界を変えると訴える力士集団を止める、その為に彼らはフィクサード力士達の秘密相撲部屋に進入したのだ。だが。 「罠で正々堂々って、理不尽。不条理」 ぼそぼそと不平を呟く『原罪の羊』ルカルカ・アンダーテイカー(BNE002495)。最もそれも仕方のないことであろう。 何故なら今、リベリスタ達はフィクサード達の罠にはまり、巨大な土俵の中に囲い込まれているのだ。どうしてこうなった。 「我々の革命を止めようとするものが現れるならば、それを護り達成するのが我らが使命。手段など選んでいられないでごわす」 フィクサード達のリーダーである幕内力士、千代石英。彼の瞳は巨体の上からリベリスタ達を見下ろし、使命に燃えていた。いや、酔っていた。 「千代石英率いる十三人の円卓の力士……研鑽された技、簡単に破れると思うな」 不敵に笑う千代石英。その言葉に、一人の男が不敵に笑う。 「円卓の力士、か。だがこちらは円卓の騎士。八対十三だが、はっ! 量より質よ!」 『百獣百魔の大横綱』降魔 刃紅郎(BNE002093)。王たる彼はこの不利な状況にも決して臆することはない。共に集いし仲間達を勝手に円卓の騎士とし、威圧的な気配を放つ。 というか、いつ横綱になりましたか、アナタ。称号みて吹いたのですが。 「その通り。王が引かぬというならば、騎士たる私が引くわけにもいくまい。 自らの道を信じる姿勢は認めたい所だが、この手段。それが貴様達の信じる相撲道か? ……笑止。ならば私の信じる騎士道というものも見せてやる」 『騎士道一直線』天音・ルナ・クォーツ(BNE002212)が怒りに燃える。曲がらぬ騎士道を愛する彼女にとって、歪んだ手段が許せないのだ。 そして今回の彼女は高いモチベーションがある。騎士たるもの、護るべき王が存在するというのはやはり燃えるのだ。例えその場限りで支えあう仲間だったとしても。 最も王様たる刃紅郎も、騎士が居てまんざらではないようだ。妙に楽しそうなのはそのせいか。 「よかろう、ならば力士道精神に則り、正々堂々立会い開始でごわす」 「現役の幕内力士がフィクサード。業界にもフェイトを得た人物がいるなら、アタシの夢もまだ追いかけても良いのかしら?」 不敵に対する千代石英。そして幕内力士である彼を見て何を思うか、『重金属姫』雲野 杏(BNE000582)。自分が未だ辿り着けぬ夢の再確認か。 ……だが一方、その言葉に、一人の人物が悲しげに呟いた。 「千代石英がフィクサードだったなんて……」 心底残念そうに言葉を吐く『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)。 「弟子の人達も……最近良い試合する人が増えたって聞いて、喜んでたのに」 いや、なんでそんな悲しそうなんですか。相撲好きなんですか。 角界においての一定の成功者である千代石英。その彼の蛮行に失望を隠せないのだろう、うさぎの態度に何故かしんみりした空気が漂う土俵上。 「相撲界は腐敗しているのだ。ここで我々が改革しない限り、衰退の一途を辿るだろう……ならばそのための汚名、ここで受けよう」 千代石英が悲しい空気を振り払うように宣言し、構えた。同時に弟子達も囲みを整え、構える。 それはまさに円卓。土と藁で出来た、力士道に燃える者の集う空間。 「わかりました。ならばその覚悟ごと、あたし達が打ち砕いてみせますっ!」 力強く宣言した『ドラム缶型偽お嬢』中村 夢乃(BNE001189)が握り締めた粉末を土俵に撒いた。土俵入りには塩を撒く。それは取り組みの始まりを告げる狼煙。 そして一斉に咳き込み、くしゃみを始める一同。それには撒いた本人、夢乃も含まれる。 ――胡椒であった。 ●土俵際防衛 「そ、それでは改めて立会い開始でごわす」 仕切りなおし。千代石英の言葉に刃紅郎が不敵に笑う。 「ふん、我は帝王学を学び、勿論相撲も習得した」 マントを翻し、刹那の時間で服装が変わる。それは燦然と輝くまわし。土俵の戦士の戦闘服。 「我が真の力士道……完璧な立会いで教えてやる」 身構える刃紅郎にどよめく力士達。その全身から放たれる威風はまさに王者の貫禄。相撲も習得したといわれて、思わず信じかねない存在感である。 「凄まじい気迫……ならば我が出るしかあるまい。――発気揚々」 千代石英の号令と共に、再度一斉にに立会いの構えを取る力士達。その全身から漲る気迫は、次にくる一撃の危険さを物語っていた。 土俵上の空気が一気に張り詰め――弾ける。 「来るぞ! 皆、簡単に倒れるでないぞ!」 『巻戻りし運命』レイライン・エレアニック(BNE002137)が叫ぶと同時に、力士達が飛び出す。その速度、圧力。列車……いや、特急列車というべき勢い。 その圧倒的立会いに、リベリスタ達は各々の対策を取った。 速度を生かしてかわそうとする者。真正面から受け止めようとする者。それぞれが避け、避け損ない、正面からの衝撃に身体を強かに痛めつける。 だが、彼女は違う。 「別に相撲のルールには……空を飛んではいけないというルールはないわよね?」 何故なら彼女にはそれがある。雲野杏には一対の翼がある。土俵の束縛を逃れ、自由に舞うための翼が。 宙を舞う杏、その手には愛用のギター。彼女が愛機を掻き鳴らすと同時に、凄まじい電撃が土俵上を駆け巡る。 「ぐああぁぁぁっ!?」 紫電に打たれ、足を止める力士達。一部逃げ惑う味方。当たらないのだが、さすがに広いけど狭い土俵に電光吹き荒れると怖い。 例えどれだけ稽古を積もうとも、力士が電撃に耐える特訓などするわけがない。しかし彼らは耐えた。健全な肉体と精神で耐えた。何故ならば。 「力士たるもの、雷電には負けても落雷に負けるわけにはいかんでごわす!」 意味がわからない。だが確かに彼らは耐え、リベリスタ達に猛攻を加える。 だがリベリスタ達も負けてはいない。素早さに優れるものはその小兵っぷりを活かし力士達を翻弄にかかり、腕力に優れるものは正面から受け止める。 中でもうさぎの判断は冷静であった。自らの身軽さを活かし、相性の良いでっぷりとしたあんこ型の力士達へとちょっかいをかけ、自らに纏め、捌いていく。 「ほう、あやつ相撲を良く知っておる」 思わず千代石英も感嘆の声をあげる。あんこ型は動きがどうしても鈍くなるため、近代相撲では細身の小兵にしてやられることが増えているのだ。 最も全員が全員相撲を理解しているわけではない。圧倒的質量の猛攻に押され締め付けられ、皆の疲労は溜まっていく。 その状況を支えているのは天音である。 一見騎士の風体をしている彼女だが、その実癒しの力を持っている。天音が剣を振るうと暖かい風が汗臭い風を払い、皆の傷をその右目が刻む時とは逆に巻き戻していく。 「すまぬな、治癒は得手ではない故に。戦線に参加する事が出来ない」 「大丈夫です、あたしがフォローしますから! どーん!」 申し訳なさそうにする天音に対し、彼女を庇いつつ戦う夢乃が応える。 その二対の盾で力士の圧力を抑え、鉄のつっぱりで押し返す。機械化により増えたその重量は力士に押し負けることもなく 「重くないですから! メタルフレームにしては!」 あ、すいませんでした。 一方、なりふり構わず奮闘する男もいた。 「うおおおお!」 陣牙が吼える。力士に押されて吼える。 腕っ節が強いが決して彼は相撲を習熟しているわけではない。当然土俵の闘いにおいては、力士に一歩劣る。 だが、耐える。必死に耐える。なりふり構わず耐える。例えば―― 「ええい、離すでごわす!」 「やだね! 絶対に土俵から出てやらねーもん!」 しがみついている。なりふり構わず、相手の髷と褌を掴み、必死にその巨体にしがみついている。足までロックしている。 まるで子供の喧嘩のようなみっともない動き。しかしその姿は決して負けないという執念に溢れていた。 「ええい、このままでは埒があかん……お前ら、わかっているな!」 刃紅郎とがっぷり組みあい、一進一退の相撲を繰り広げる千代石英が叫んだ。 「思いっきり可愛がってやるのだ、こやつ等を!」 ●真の力士とは KAWAIGARI。それは角界の呪われた儀式。 一対一を旨とする相撲において、多対一の戦いを強制する地獄の行い。 ――今、その深淵がベールを脱いだ。 「どすこーい!」 「ごっつぁーん!」 力士の威勢の良い掛け声が響く。 一糸乱れぬ円卓の力士達の連携により、リベリスタ達がピンボールのようにあちらへこちらへ弾かれる。 張り手が出れば体当たり。吹き飛べば掴んで押し返す。たたらを踏めばバットが飛ぶ。……バット? さておき、彼らの連携は恐ろしいものであった。相撲経験薄いながらも健闘していたリベリスタ達にみるみる打ち身が増え、体力が奪われていく。 「ふはははは! 所詮素人の相撲、プロの力士に勝てるわけがなかろう!」 千代石英が勝ち誇る。だがその時。 「いい加減にしてください!」 ――絶叫。 土俵の上に悲痛な叫びが響く。その声の主は、角界の未来を信じる人物、うさぎであった。 「連携とかおかしいでしょう!? 一対一の鎬の削りあいが、相撲の、醍醐味でしょうがぁ!?」 その言葉に、思わず土俵上の全てが止まった。 時の止まりし円陣上。うさぎの心の叫びが続く。 「ありえない! 状況的に団体戦になるのは仕方ないにしても一騎打ちにしなさいよ! それのどこが相撲だ!?建御名方神に謝れ馬鹿! 千代石英も弟子にそんな戦い方教えてどうするんですかぁ!」 魂の叫びであった。 角界のこれからを信じていた矢先に千代石英のこの裏切り。さらにこのようなことまで見せ付けられ、我慢の限界に達したのであろう。 「そうよ! もうちょっと力士らしくしなさいよ!」 「それでもプロか!」 「謝れ! ファンに謝れ!」 杏の物言いを皮切りに、口々に力士達へと罵倒が飛ぶ。もしこれが観客席だったならば、座布団も飛んでいたに違いない。 「う、うるさい! 我々は角界の改革の為に手段を選んでなどいられない……」 「まさかこれが革命だとか抜かしたりしないでしょうね?」 言葉を遮るように投げつけられたうさぎの言葉に、千代石英が思わず詰まる。 「今の角界、清廉潔白であるとは言いがたい」 言葉を継ぐように、刃紅郎が語り始める。 「貴様達の中に、歪めども義憤はあった。故に強引な革命に走ろうとしたのだろう? だが、現状は大勢で囲んでのKAWAIGARI。これでは相撲を愛する者も失望するであろう」 その言葉、まさに演説。王が王たる所以、圧倒的な威風。 「ぐぅ……っ」 言葉を失う力士達。しばし土俵上に生まれた沈黙。 だが、これは戦いである。それを逃さぬは戦士の判断。そしてその隙を作るは心の迷い。 「よっしゃあ、隙ありぃ!」 陣牙が突如気合を入れ、しがみついた力士ごと土俵の下に転がり落ちる。 「な、同体引き分け狙い!?」 突然のことに、転がった力士が驚愕の声を上げた。だが、陣牙は立ち上がり、転がる力士に堂々と告げる。 「いいや……負けはあんただけ。だって俺、力士じゃねーもん!」 「なん……だと……」 絶句する敗北力士。そして彼だけではない。リベリスタ達はその機を狙い、一気呵成に反撃へと出た。 「おにいさんこちら、手のなるほうへ」 囲みの外から聞こえる少女の声に、力士達がどよめく。土俵の外は場外、敗北者の領域である。 だが、今現在彼らは直面してしまった。土俵の外で敗北するのは自分達だけだと。土俵の外では生きられない、ガラパゴスな生物が力士なのだと、痛感してしまったのだ。 場外に抜けたのはルカルカだけではない。他にも多数のリベリスタが場外へと抜け、相手にとっての危険領域へと潜り込んだのだ。 「い、いかん。土俵際に近づいては……」 思わず後ずさり、土俵中央へと固まる力士達。そこに。 「ぽろりもあるよ」 ルカルカの身に着けた鉤爪が一閃する。その狙いは違わず力士の弱点の一つ、回しへと直撃する。爪は布を切り裂き、布は風に舞い…… 「きゃあああああぁぁぁぁ!?」 【しばらくお待ちください TVM・テレビ三高平】 失礼しました。 回しを失えば不浄負け。力士にとってのアキレス腱、神に祝福された戦士達には弱点があるものだ。 ところで夢乃さん、さっき悲鳴上げながら指の間から見ていたような―― 「気のせいです!」 そうですか。 弱点が発覚し、安全圏が確保されれば後は脆いものである。 ある者は刃が回しを切り、ある者は力任せに土俵から引きずり下ろされる。電光が土俵上に吹き荒れ、次々と円卓の力士達は敗北者となっていく。 「な、なんということだ……我々の相撲革命が……」 「歪んだ力での改革などこのようなものだ。革命が成功するのは民が正しき時のみ」 愕然とする千代石英へ、戦いの始まりから土俵上に居座り、挑み続けていた刃紅郎が告げる。 「う、うおおおお!」 再び身構えた渾身の立会いから、千代石英が真っ直ぐ刃紅郎へと重戦車のような突撃が放たれる。これが、彼の考えた完璧な立会い。 ――だが。 「目覚めよ。そして再び真なる力士道によって角界の平和を護るのだ!」 王者としての責務。千代石英の突進を刃紅郎は正面から受け止めた。彼の運命は、ここで倒れる事を許さない。 「ぬううぅぅん!」 ゲージは満たされた。無数の張り手が千代石英へと襲い掛かり……その足は、土俵を割る。 ●また元の角界に ――数日後。 テレビにはいつものように、大相撲の放送が流れている。 そこで立ち会うは千代石英。幕内力士として、再び正しき道を歩き始めた神事の戦士。 彼は敗北後、アークによって確保され改心。フィクサード相撲からリベリスタ相撲へと奇跡の転身。 現在は、大相撲はエリューションの力に頼らず幕内で力を競い、事件ある時は正義の力士として弟子達と共に解決へと歩き出す。 表と裏。世界と角界。二つの平和を護るスモウファイターとして日々活躍している。 「正々堂々とした力士道、か」 テレビを見つめる天音が呟く。騎士道と力士道。道は違えどそれは一つの理念である。 「何、あいつなら力技でなく綱取りで角界を変えていけるさ」 後日貰ったサインを満足げに見つめながら陣牙も言う。何故なら千代石英の顔は晴れ晴れとしていたから。 そして誰よりも食い入るように画面を見つめる一人の人物。 「相撲が好きなら相撲をしなさい。……ばか」 その表情の乏しい顔がどこか嬉しそうに見えたのは、気のせいではないに違いない。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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