●夢見がち 『白野 千絵里(しらの ちえり)』は絵本が大好きな小学生だ。 もう5年生にもなろうというのに、彼女の趣味は少し年下の子達向けの、絵本を読むこと。 この頃は少し難しい漢字もわかるようになってきた。そのせいもあり、最近はひらがなばかりの絵本を読むのが、逆に疲れるとも感じている。 学校が終わり、千絵里はいつものようにお気に入りの絵本を手に取ると、楽しそうに絵本を眺めていた。 しかし段々と眠くなり、千絵里は眠ってしまう。 夕飯の時間になっても千絵里は目を覚まさない。 ちょうどその時読んでいた白雪姫のように、死んだように眠り続けるのだった――。 ●戦慄 リベリスタ達は衝撃を受けた。 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が、ランドセルを背負っている。 ランドセル――、小学1年生から小学6年生の間と、実6年もの間を共に過ごす子供達の相棒だ。 その積載量はかなりのモノで、昨今ではA4ファイルもらくらく入るサイズの物が存在するなど、最大積載時の重さは亀の甲羅を彷彿とさせる。 イヴはランドセルを下ろすと、中から資料を取り出し、一同に配っていく。 「今回は標的、エリューション・ゴーレム、フェーズ2、通称『カタリーナ』を撃破し、絵本の世界に囚われている、白野千絵里を救出してもらうわ。今回の作戦において、問題となるのは2つ。白野千絵里を救い出すには絵本の世界へ入らなくてはならない事と、彼女を眠りから覚ます『王子様』が必要なことよ」 白雪姫でいう王子様の役割は至って簡単だ。白雪姫に『王子様からの目覚めのキス』をすればいいだけだ。 だがその言葉を聞いたリベリスタ達には、戦慄が走る。 「ちょっとまってくれ、それはつまり……」 「えぇ、そうよ。最低でも一人、小学5年生という年頃の少女の寝込みにかこつけ、王子様という免罪符の元「目覚めのキッス」をする猛者が必要なの」 「……」 「仲間たちの前で、寝ている小学5年生の、唇を」 「わ、わかった! もういい! もういうな!!」 リベリスタ達は震えが止まらなかった。幾度となく恐ろしい強敵を退け、危機を乗り越えてきたリベリスタ達も、このような事態に遭遇する事があっただろうか。 小学5年生といえば恋に恋するお年頃。もはや親子の愛情表現ですら、そのような行為は許されない。 そんなことを仲間たちに見守られながらやる勇気は、たとえどんなに勇敢な戦士にも備わってはいないのだ。 「絵本の世界とってもほとんど現実と変わらないわ。ただ一般人の目を気にする必要がなかったり、どんなに破壊行為を行なってもよかったり、『周りを気にする必要がない』というだけ。よかったわね、一般人にまで見られなくて」 「な、なぁ、それって女がキスするとかってのはダメなのか? 同性ならギリギリスキンシップって事でなんとかなることもあるだろう……?」 「キスさえできれば男女どちらでも構わないわよ。ただし覚悟して、もし運命の王子様が同性で、同性の相手に唇を奪われたとしたら。彼女は今後どんな恋愛観を持つことでしょうね?」 寒気がした。もし自分を永久の眠りから救ってくれた相手が同性で、その女性に唇を奪われていたとしたら、彼女はどうなってしまうだろうか。 まだ恋に恋するお年頃。強い衝撃が加われば、あやふやな恋愛観などあっという間に変わってしまう。 女性が王子様役を務めるという事は、幼い少女の『健全な』発育を害する危険が、極めて高いのだ。 「あぁそうそう、戦闘に関してだけど、戦闘時には大勢の兵士を相手にする事になるだろうから、多人数戦を想定しておいてちょうだいね」 エリューション対策はひどく少ない説明で締めくくられ、再びイヴはランドセルを背負う。 そして「この言葉を送られるのは、一体誰になるかしらね?」と発した後、続けて唇が動く。 『このロリコンどもめ』と。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:コント | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年11月21日(水)23:25 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●我が道を行く それは紛れもない白馬であった。 雄々しくもしなやかな肉付き。軽やかに上げた前足。蹄鉄を踏み鳴らす姿を見て誰が見間違うだろうか。 敵である兵士達はおろか、リベリスタ達まで驚く。 『親不知』秋月・仁身(BNE004092)が、白馬に乗ってやってきたのだ。 これには『へっぽこぷー』メイ・リィ・ルゥ(BNE003539)も絶句した。 全員が全員『空を飛んで敵をやり過ごす』と作戦を立てる中、まさか正々堂々敵の前に姿を見せ、真正面からやり合おうなど誰が考えようか。 「ば、バカだ。バカがいる……!」 仁身は携えた魔弓を構えると、高らかに叫んだ。 「人の恋路を邪魔するものは、我が瞳術の餌食としてくれる! 道を開けよ!」 気迫に押され目前の兵士が尻餅をついた。 否、単なる気迫ではない。テラーテロールによるものだ。 『怯むな! たかが子供一人、のこのこ一人で攻めこんできたバカを討ち取れ!』 しかし兵士達は津波のごとく押し寄せる。 たった一人と一頭だけでは、流石にこの数を相手するのは無茶というものだ。 「さて……、困った王子様だ」 流石に見かねたのか、『語り手を騙りて』ジョバンニ・F・アルカトル(BNE004038)のスターライトシュートが敵兵を薙ぐ。 白馬がその隙に敵中から飛び出すと、ジョバンニは仁身を誘導し、仲間達とは別の方向へと飛翔する。 「こちらは城の方角とは違うのでは?」 「いいんですよ、こっちで」 彼は元々、仲間たちを確実に場内へ送り込むため、囮になるつもりだった。 少々事態は思いがけない方向へ流れたが、予定通りジョバンニ「達」は、敵の注意をひきつけている。 囮としては上出来だ。 二人が別の方向へ逃げる中、他のリベリスタ達は一気に城へと向かう。 彼らの眼中に敵兵はなし。その意中にはある言葉が思い返される。 『――白野千絵里を救い出すには絵本の世界へ入らなくてはならない事と、彼女を眠りから覚ます『王子様』が必要なことよ』 彼らの願いはひとつ。白野千絵里を無事救いだし、生還する事。 『仲間たちの前で、寝ている小学5年生の、唇を』 そしてある者は欲し、またある者は欲するものにある言葉を言うべく、その一瞬のためにここにいるといって過言ではない。 『このロリコンどもめ』、すべてはこの一言に集約されている。 言う者と言われる者の戦いは、今まさに始まったばかりだ。 ●天丼、天井 それも紛れもなく白馬であった。 純白の毛並みはシルクのように美しく、細身の身体に引き締まった筋肉。まるでペガサスのようだ。 跨る少女はリボンを解く。 全身を白に覆われた『運命の王子様』レイチェル・ウィン・スノウフィールド(BNE002411)の姿は、今この時だけは麗しのホワイトナイトだ。 『お前もかよ!?』という一同の驚きもなんのその。レイチェルは解いた髪をたなびかせ、実に満足気である。 「わ、仁身ちゃんの馬より立派なんじゃない? 気合入ってるねぇ」 「どう? 結構様になってるでしょ?」 メイが察するように、レイチェルの白馬はこの日のために用意した特注だ。 白馬の王子に相応しい白馬を用意する手の込みよう、レイチェル王子の意気込みが伝わってくる。 城内は馬で乗り入れられるほど天井が高く、通路もそこそこに広い。6人と1頭が固まっていても狭さは感じない。 外からは絶え間なく騒音が聞こえてくる。反対に城内は意外に静かで、兵士達が出払っているのが伺えた。 「どうやら一階を見回っていた兵士達は、加勢のために出払っているようですね……」 『ピジョンブラッド』ロアン・シュヴァイヤー(BNE003963)はあたりを見渡すと、足音の少なさから独り言のようにつぶやく。 リベリスタ達が静かに耳を澄ましても、やはりこちらへ迫る足音はない様子だ。 本来なら必要最低限の見張りを確保しておくものだが、そこはお伽話の世界。 兵士達も攻めこんでくる相手がいなくて、いささか実戦経験が足りないのだろう。。 『哀憐』六鳥・ゆき(BNE004056)もまた、敵が来る気配がないとわかれば、早速敵の親玉探しに思考を巡らせる。 エリューション・ゴーレム、フェーズ2、通称『カタリーナ』。 物語の登場人物に擬態する能力を有し、そのため敵は王妃か魔法の鏡に姿を変え、この絵本に潜伏していると考えられる。 「――となれば王妃様のいらっしゃる部屋は、城の中でもより上の階。魔法の鏡もそこにあると考えるのが妥当。まずは階段を探すのが上策かしら」 「さ、カタリーナを探そう。捕らわれのお姫様を救い出さなくちゃ!」 白馬が歩みを進めると、一同も警戒しながら城内を進み始めた。 ●この世でもっとも美しい者 ――3階、リベリスタ達の姿は王妃の寝室前にあった。 サーベルと短剣が舞を終え、ピタリと敵勢の中で動きを止める。 『超絶甘党』姫柳 蒼司郎(BNE004093)は緊張を顔に出さぬよう気を張っていたが、敵兵の脆さに拍子抜けしてしまう心地であった。 「こんなもんか……? どれだけ破壊活動を行なってもいいって聞いてたから、てっきり大乱闘になると思ってたが……」 「乱闘だったら外にいってきたら? 盛り上がってるよ?」 外を眺めながらメイがそういえば、蒼司郎も窓の外を眺める。 するとそこでは、もう一人の白馬の王子様が奮戦している真っ最中であった。 その様子を見れば、なぜ自分たちがほんの数人の兵士としか出会わなかったのか頷ける。 「なにをいっているんだい。ここまでは鍛錬しただけの一般人と戦っていただけ、いわばウォーミングアップ。本番はここからだよ」 ロアンは懐中時計を懐にしまうと、 キリリと鋼糸を引き絞る。 目前に佇む扉の先から感じる、異様な気配。 その先に『何か』が待ち構えていることは確かだった。 「いくぞ……!」 蒼司郎の呼びかけに応え、リベリスタ達は身構え。 扉を蹴破る。 開かれた扉から、光が降り注いだ。 巨大な窓に取り付けられたステンドグラス。その中央に形作られた女性の姿。 『素晴らしいでしょう?』 ステンドグラスの下、大勢の兵士達に囲まれた『彼女』の声が、リベリスタ達の聴覚をくすぐった。 彼女の姿に見惚れた兵士達を下がらせ、虹色スポットライトの下へ姿を現す。 『この世で最も美しい私に相応しい、この世で最も美しい私のための、この世で最も美しいオブジェよ』 この場の誰もが彼女を知っていたが、リベリスタ達ははじめ、彼女が誰なのかわからなかった。 その姿は視線を釘付けにし、その声は美しくも妖艶さを秘めている。 彼女こそがこの物語、白雪姫最大の敵『王妃さま』だ。 ●一点突破 「これが王妃……さま?」 「なんと美しい……。男心を鷲掴みにする豊満な肉付き、それでいて妖しく悩ましい身のこなし……。絵本に記されている王妃様とは、このような方だったのでござるか……!」 彼女の美貌には流石の『女好き』李 腕鍛(BNE002775)も黙ってはいなかった。 「なるほど……。元々彼女は白雪姫が現れるまで、この世界でもっとも美しい存在だと言われていたわけです。であれば、現在この世界の登場人物となっている僕達にとって、彼女が絶対の美女であるのも必然……。まさかメインディッシュ(お姫様)の前に、こんなサプライズが用意されているとはね」 ロアンは否定する事の出来ない感情を押し込めると、辺りを見渡した。 正面には王妃と大勢の兵士。壁には立派な鏡が立てかけられている。 王妃を狙うにも鏡を狙うにも、大勢の兵士達を相手にする他なさそうだ。 「なぜだか彼女を手に掛けるのは気が引けるけれど、カタリーナは王妃か鏡の二択。鏡を壊して事が済まなければ、やるしかありませんわ」 「まいったなぁ、あんな美人傷つけるなんて、俺にはできませんヨ?」 自制心の強い蒼司郎だけでなく、女性であるゆきすら動揺を隠せないでいた。 この世界はすでにカタリーナの術中。 その中で戦うという事がリベリスタ達にとって、圧倒的に不利なのは間違いなかった。 『さぁ我がしもべ達よ! 王妃に不埒を働く者たちをうちとれい!』 『オォオオオオオオーーーーーー!!!!!』 王妃の一声で兵士達が一斉に武器を構える。 その気迫はここまでに出会った兵士達の其れとは次元が違い、一人ひとりが歴戦の戦士であるかのように勇ましい。 『王妃の目の前だとそんなにやる気が違うのか』と、一同は突っ込まざるを得なかった。 「みんなしっかりしてよ! ボク達の目的を忘れちゃったの?! ボク達の目的は現実の世界に生きるお姫様を助け出すこと、空想の世界の人間を気遣ってる場合じゃないよ!」 メイが檄を飛ばす。一同は気を引き締める中、兵士達は一斉に襲いかかってきた。 「空隙に満ちよ、万魔打ち据える熱き光の波!」 邪悪を退ける閃光が瞬く。レイチェルの神気閃光が敵兵を包み、焼き焦がした。 『ヲォオオオオオーーーーーー!!!!』 勇兵は止まらない。4人、5人と次々に斬りかかれば、前衛のリベリスタ達は防戦一方だ。 「くっ、しかし女性が相手でなければ手加減無用! 拙者も本気で行かせてもらうでござる!」 腕鍛の業炎撃が剣を砕けば、勇猛な兵士の一撃を気迫ごと押し返した。 『相手が男なら問題ない』女性を傷つける事に抵抗がある者にとって、それは敵の策を打ち破る活路となる。 無数の刃にその身を切り裂かれながらも、ロアンはクレッセントと共に舞う。 自他の鮮血を綯い交ぜにし、ダンシングリッパーで迫り来る敵の勢いを殺してみせた。 「とにかく王妃か鏡、どちらかを仕留めましょうか」 「となればなすべきことは、中央突破だ!」 後方から蒼司郎が飛び出した。 ハイディフェンサーによって金色を纏い、崩れた敵陣を突っ切る。 敵兵が振り下ろした刃が蒼司郎の左肩を直撃する。 だがそこからは紅い血しぶきではなく、銀色の肉体が垣間見えた。 跳躍。 蒼司郎の渾身の一撃は鏡を砕く。 「やったか!?」 兵士達の動きが止まり、次々にその場へ倒れる。 王妃もまた気を失っている様子で、先ほど壊した鏡がエリューション・ゴーレム、フェーズ2、通称『カタリーナ』であったようだ。 「なぁんだ、鏡がアタリだったんだ」 元々物語の登場人物を片っ端から撃破していくつもりだったメイは、暴れたりないのだろうか、少し不満気だ。 「やあ、遅れてしまったね」 その声に一同が振り返ると、そこにいたのはジョバンニであった。 「あら、アルカトルさん。貴方達が囮になってくれたお陰で、こうして無事カタリーナを倒すことができましたわ。……秋月さんは?」 「あぁ。ボクと違って、彼は最後の最後まで、敵を引きつけていてくれたようだよ」 道中に仲間達へ翼の加護を授けた事と、戦闘による消耗で、ゆきの余力はあまり多くは残っていなかった。 代わりにメイが負傷したロアンを治療する傍ら、ゆきはジョバンニの視線に誘導されるまま、城の外に視線を向ける。 「まぁ……!」 城下町の広場。倒された大勢の兵士達の山の上に、彼の姿はあった。 傷だらけで大の字になり、仁身は青空を見上げる。 そよ風が傷口に染みるのか、仁身は眉を顰める。 ただその表情は、不思議と心地よさそうに見えた――。 ●眠り姫の目覚め カタリーナを撃破し、無事脅威を退けたリベリスタであったが、未だ白雪姫『白野 千絵里』を発見できずにいた。 今回の任務のもう一つの目的は、白野千絵里を永久の夢から目覚めさせる事。 そのためリベリスタ達は手分けして、広い城内を探索する事にした。 「――いいのでござるか? 本当においていって」 一同が探索を始める中、腕鍛は傷ついたロアンの身を按じ、未だ寝室にいた。 「あぁ……、返り血程度なら拭けばいいと思っていたけど、これだけ血まみれだと流石にすぐには汚れが落ちそうにない。お姫様を血で汚すわけにはいかないからね」 「傷だらけになっても彼女を救おうとした。そんなロアン殿をおいてなど……!」 「腕鍛、レディをまたせるものじゃないよ」 「ロアン殿……。……行ってくるでござる」 腕鍛は走りだした。千絵里がどこにいるかはわからない、ただ漠然と一番高いトコロにいる、そんな気がした。 より高い場所へ。階段を駆け上がる。 途中でアテもなく辺りを探し回っているレイチェルや、猟犬によって捜索をする蒼司郎とすれ違う。 上へ、上へ。そして気がつくと、まるで鳥かごのような小さな寝室へ行き着いた。 そこに姫君は眠っていた。 「貴女が……、白雪姫(白野千絵里)でござるな……」 一目見てわかった。視線に入った途端、世界を彩る『色』が鮮やかになる心地。 この絵本の世界でもっとも美しい存在、『白雪姫』。 彼女に出会った時の衝撃は、腕鍛を一目惚れさせかけないほど。 思わずリンゴの香りがするオーデコロンを零してしまい、その匂いに気づかなければ、きっと彼このまま恋に落ちていたであろう。 心臓が脈打つ。腕鍛は動悸を感じながらも深呼吸をして平常心を保ち、小さなハンカチにオーデコロンをふりかけた。 少女の寝顔を覗きこむと、動悸が速くなるのがわかる。 幼い。そのあどけなさはまさしく小学五年生の少女だ。 美しい黒髪。白い肌。双方の色合いの差がお互いを引き立たせ、そこには完成された美が存在する。 そっと白雪姫の顔を覆うようにハンカチを被せ、唇に視線を向けた。 思わず『ゴクリッ』と息を呑む。 触れたら壊れてしまいそうで、そんな彼女という存在を傷つけないよう、腕鍛はできるだけ慎重に顔を近づける。 影が重なる――。 それと同時に彼女の肌にみるみる血の気が蘇り、心臓が動く音が聞こえてきた。 ――眠り姫が目覚める。 彼女は視界が覆われているのに気づいたのか、ハンカチを取ろうと手を上げた。 「……おはよう、お姫様」 腕鍛が話しかけると、彼女はその声に気づいてピタリと手を止めた。 「お願いがあります。そのハンカチをどうかとらないで」 そっと彼女の手に触れれば、人の其れにはない肉球が触れて。 『――……、ねこ……さん?』 「悪い魔女に少し負けてしまって、醜い野獣の姿にされてしまったので、顔をお見せする事はできません。魔女はチェリが忘れたころに元に戻ると言っていました」 『そっか。ごめんね、私のために……』 「恐縮ですが、王子。そろそろ戻らなければ」 突然の声に腕鍛は振り返る。ジョバンニだ。 ビックリした、そんな顔で腕鍛が無言の抗議をする中、ジョバンニは千絵里に話しかける。 「お姫様、王子は貴女を救う為、月より参りました。ですがボク達は月の住人。夜を迎える前に戻らなければ、月は世界を照らす事が出来ないのです」 『? つきだから……つきのうさぎさん?』 彼女の頭の中では、きっと二匹の兎がここに佇んでいるのだろう。 ジョバンニは腕鍛に外を見るよう指で合図をする。腕鍛が外を見ると、世界の『天井』が崩れ始めていた。 カタリーナ亡き今、白雪姫が目覚め、物語は終わりを迎えようとしている。 急がなくては。 「忘れた頃にまた会いましょう。その香りを頼りにまた来ます」 『もう行っちゃうの……?』 「王子は、月から貴女の事をいつも見守っていますよ」 ●真の勝利者とは ――世界が崩れ。絵本の中に取り込まれていた者達は元の世界へと放り出された。 千絵里の部屋からリベリスタ達が急いで撤収する中、蒼司郎だけは焦る様子もなく部屋の中に残る。 すぐに千絵里は夢の世界から目を覚まし、蒼司郎に気がついた。 しかし蒼司郎は多くは語らず、ただ微笑みながら言葉を投げかける。 「おはよう、良い夢見れた?」 千絵里は窓の外を見上げると、絵本の世界と違い、外はすっかり暗くなっていた。 夜空を見上げると月を見て、微笑む。 『――うん、いいゆめ、みれたよ』 ――拠点に戻ってきた蒼司郎であったが、そこに待ち構えていたのは予想だにしない状況であった。 なんとそこでは腕鍛と白雪姫――、千絵里とのやり取りの一部始終を写した『ビデオ』が放映されており、王子様の公開処刑が行われていたのである。 「やめるでござるぅ! やめるでござるぅぅぅ!!」 「まあ…なんて。なんてお可哀想な性癖ですこと。さぞご苦労された事でしょう…? いたいけな幼子の唇を奪う気分はいかが?」 ゆきは可哀想なモノを見るような眼差しを向ける。 「いいなぁ……」 一方王子様役を熱望していたレイチェルは、その光景を羨ましそうに眺めていた。 このビデオの撮影者であるメイは、これらの事態にまさに『メシウマ』といった様子だ。 実に誇らしげである。 おまけに王子様役を狙っていたロアンまで、毒気しか感じない全くの笑顔で口を開いた。 「このロリコンどもめ」 「「このロリコンどもめ」」 「「「このロリコンどもめ」」」 ちなみにこのビデオ、作戦状況を記録した貴重な資料として、アークに保管されることとなったという――。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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