●恋心 美奈子は真面目一筋で生きてきたキャリアウーマンだった。 小さい頃から要領が良くて、失敗した事など何一つ無い。 ただ一度。一度だけ、社会に出て失敗した。 対処法が解らずおろおろするだけだった美奈子の失態を立て直してくれたのは、普段は何も喋らず、誰とも関わらず、黙々と仕事をしていた同僚、勇人だった。 勿論、年齢=彼氏居ない歴の美奈子が恋に落ちるのは、刷り込みのように早かった。 それから美奈子は仕事に徹するように勇人を観察した。てきぱきとスケジュールも把握した。好みもリサーチした。 これなら大丈夫と美奈子が告白したのが一週間前。その返事は、否だった。 問い詰めた美奈子に帰ってきた勇人の答えは、勇人が隠し通してリサーチ出来なかった一番根深い部分―― 「ごめん、三次元に興味無いんだ。俺の嫁はもう居るから……」 ――美奈子が急病で会社に来なくなって三日後。 流石に勇人も気になったのか、美奈子の部屋へ見舞いに行った。 「勇人君……ごめんね、心配かけて。でも、大丈夫だから。もう少ししたら、きっとまた会いに行くわ」 『会社に戻る』では無かった言葉に首を傾げながらも、勇人はそれ以上にインターホン越しの声が気になった。 それは勇人の心の嫁――『占い天使★ぴくるちゃん』のような、甘ったるいアニメ声だったのだ。 ●箍が外れると怖いという話 「どうしてこうなった」 集まったリベリスタ達へと、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は開口一番真顔で言った。 「え……?」 「だから、どうしてこうなった。それが今回の依頼の最大の敵。色々突っ込んだら負け」 イヴは表情を一切変えないので解り辛い。説明を求めるリベリスタ達にイヴは説明を開始した。 美奈子という真面目なOLが居ました。 美奈子は生まれて初めて恋をして告白をした。そしたら「三次元の女性はダメ」と断られました。 美奈子は失意のままノーフェイスに覚醒してしまいました。その姿は――恋した男の嫁『占い天使★ぴくるちゃん』――ではなく、脳内設定で作り上げたオリジナルキャラクター『みなこちゃん』として。 「どうしてそうなったし!?」 思わずリベリスタの一人が裏手でツッコミを入れた。素晴らしいツッコミのキレだ。 「まあそういう訳だから、ノーフェイスとなった以上は天使だろうと愛の使者だろうと倒してきて欲しい」 「で、……みなこちゃんは何処に居るんだ?」 若干げっそりとした一人が問えば、モニターにマンションが映し出される。 「此処。勇人の家の窓の外。勇人は明日の放送に備えて、放送時間を合わせて前回を見直す。そして見終わるタイミングを見計らって、みなこちゃんは窓から侵入するつもり」 ――突っ込んだら負けだ。 「今から行けば、まだ勇人が見始めて無くて、窓の外でみなこちゃんが様子を伺ってる所に遭遇できる。何とか戦える場所に連れ出して」 みなこちゃんはぴくるちゃんと同じくらいピュアっ娘で、困った人を放っておけない性格。 だから連れ出しは容易だとイヴは言う。 「場所は二カ所候補がある。公園か路地裏。公園は広いけど、人払いの準備が必要。路地裏だと横幅に制限が出るけど、人払いの心配は無い。戦いやすい方を選んで」 そして話はみなこちゃんの資料へと映る。 美奈子が頑張って習得した占い天使の世界観――そこから作り出した「みなこちゃん」という脳内設定。 ぴくるちゃんと同様に、勿論サポート天使も、心を通わして友達になった元堕天使もいる。 それが、『サポート天使・ブチョー』『サポート天使・カチョー』『元堕天使・おともにゃん』。 リベリスタ達、頭を抱える。 「それと、みなこちゃんもぴくるちゃんと志同じの恋の天使。戦いの中でも恋占いをしてくれる。それを逆手に戦闘の主導権を握れると思うけど……違う意味でダメージを受けないようにね」 それじゃ頑張って、と、イヴに半ば投げやりに送り出されるリベリスタ達。 モニターには『占い天使★ぴくるちゃん』のキャラクターソングが流れていた。 『恋愛運が一生無くたって、いつもあたしが心の中に居てあげるっ!』 ―――嫌な予感しかしない。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:琉木 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年11月21日(水)23:29 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●天使ちゃん、おいでませ! 一般人なら寝静まる深夜零時。 後三十分で始まるのは、深夜番組『占い天使★ぴくるちゃん』 「じゃなくて、みなこちゃんか……」 ノーフェイスとなってしまった。それも非常に残念になってしまった美奈子を思って、『銀狼のオクルス』草臥 木蓮(BNE002229)はぽそりと呟いた。AFである狼耳のモルを手に公園に身を潜めながら、非常に気が重い。隣を見るとそこには二次元から飛び出したぴくるちゃん――否、『黄昏の賢者』逢坂 彩音(BNE000675)が居る。 ウェーブした銀髪をポニーテールにして、ギリギリのミニスカート。所謂、ぴくるちゃんコスプレイヤー状態だ。 (すげぇ……) 戦う前から精神力を削られかけている木蓮に対し、『猟奇的な妹』結城・ハマリエル・虎美(BNE002216)は一切全く何も目に入っていなかった。 「恋する乙女って言うのは偉大だよね。そう思わないお兄ちゃん。え、虎美も偉大だって? うふ」 お兄ちゃんったら★ と、一人ハートを乱舞している虎美はひたすら脳内から嫁というか旦那というか兄と会話をし続けている。 (こいつもすげぇ……) 今回自分は持つんだろうか。主に精神的な意味で。 木蓮はみくるちゃんが早く来る事を願うような、願わないような、そんな気分になりながら忘れかけていたシューターとしての集中力を高めていた。 一方その頃、その身を狙われている勇人のアパートのベランダでは、案の定天使の羽をした美奈子――『みなこちゃん』が窓から勇人の事をガン見していた。 「勇人君。待っててね。そのアニメが終わったら、みなこちゃんが貴方の天使になってあげる」 元キャリアウーマンの頃の姿は何処にもない。 うっとりと頬を染めるみなこちゃんは、不意に下からチカチカと定期的に繰り返す光に気付いて顔を向ける。 見れば、袈裟を着たお坊様『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)が合図を出す隣で、アフロにグラサンのパンクファッション『KAMINARIギタリスト』阪上 竜一(BNE000335)が手を振っていた。 ちっちゃな金髪の女の子『ひーろー』風芽丘・六花(BNE000027)に魔女の様な風貌の『ヴァイオレット・クラウン』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)もその後ろに並んでいる。奇抜な組み合わせに首を傾げ、少しだけ勇人の部屋を覗き見てからみなこちゃんはふわりと翼をはためかせ降りてくる。 「なぁに? どうしたのかし――」 「下からのアングルゲットォ!」 「!?」 みなこちゃんが地上に後数mまで降りてきた所で、カシーンカシーンカシーンと物凄いシャッター音が響いた。 「リノ!?」 フツも思わず驚く、リノ・E・レンフィールド(BNE004079)の連続写真連打である。 「あ、僕の事は気にしないでください。三次元女史によるぴくるちゃん二次創作が見られると聞いて! ほら、僕ぴくるちゃんのファンですから!」 「OH、ブラザーリノ、ずるいZE! 俺も写真撮りたいんだZE!」 「みなこちゃん、元アラサーですよ。ぶふっ……おっと」 リノは本気。竜一の演技か本気か解らない言葉に、エーデルワイスが思わず本音を零しかけた。が、ファンと聞いてみなこちゃんの耳には入らない。 「え、嬉しいなぁ。でも私、今はただの女の子になってやりたい事が……」 「みなこちゃん!」 おずおずと顔を赤らめるみなこちゃんの肩を、フツは半ばやけくそに掴んだ。 「お前さんに占ってほしい迷える子羊がいるんだ。アッ、お、オレは別に、う、占いとか、そういうの、信じねーし? だから、冬服に取り入れた方がオシャレなデザインとか、色とか、アクセサリーとか、そういうの、気になんねーし? 僧、じゃなくて、そう! 仏教徒、だし?」 しどろもどろになりつつも必死の説得。後ろから六花が空気を全く読まずに、「とゆーわけでーそこの公園まで付いてくるのだー」と畳み掛ける。 みなこちゃんは困ったようにくすっと笑い。 「もう、仕方ないなぁ……私は占い天使! 迷える子羊にファンの声とあったら、行くしかないよね!」 みなこちゃんは勇人の家に背を向けて、ふわっと純白の翼を広げて見せた。 ●占ってあげるんだから! 「何か……静かね。うん、占い日和かも。だって占い天使の姿は他の人に見られちゃいけないんだ」 占い天使になりきっているみなこちゃんが切なく呟く。 思いっきりリベリスタ達の前で普通じゃないかとリベリスタ達は優しさで突っ込まないであげた。 「そう、運命がお前の占いをせよと言ってるんだよ! 俺仏教徒だけど」 一般人の来訪を遮断する強い結界を張った張本人、フツがしらじらしく笑いかける。うんっとみなこちゃんが頷いて公園に足を踏み入れると、エーデルワイスが手を引いた。さり気なくその腕に血の掟を刻み込み、 「占って欲しいのは、わたしです。気になる方が居るんです! その方は私の所属する組織と敵対する方なのですが……」 「まぁ、悲恋! みなこちゃん全力で応援しちゃうから! 待ってて、占ってあげる。出てきて、ブチョー、カチョー!」 「えっ、もう!?」 「? ブチョーとカチョーいないと占いできないよ」 きょとんと告げるみなこちゃんの後ろには、スーツ姿の天使ブチョーとカチョーが羽ばたいていた。何処を如何見ても、普通の会社で働いているオッサンのミニマム版にしか見えない。 「あ、ずるい! 虎美だって占い受けたいんだから!」 「そっか。もう出ないと……うう、恥ずかしいなぁ」 その様子を見ていた虎美がカッと意気込んで立ち上がった。その隣で木蓮はまごつくが、仕方ない。 「え、え!?」 驚くみなこちゃんの前、ロリゆえの危うさをアピールする一着を着込んだ虎美がみなこちゃんの前に飛び出した。 「本気狩る(マジカル)タイガー推参!」 「う、うぅ……ま、まじかる……へ~んしん★ も、もる天使もくれんさまだぜ!」 続いて飛び出した木蓮AFである狼耳のモルからキラッと魔法道具――否、ライフル『Muemosyune Break』、モルをイメージした可愛い衣装に大★変★身。 木蓮、泣きそう。 「あ、貴女は!?」 「ふ、知らなかったのか? 俺はみなこちゃんのライバルなんだぜ?」 カシーンカシーンカシーン。リノのシャッターが止まってない。 そこにすっと無言で歩み出たのは―― 「嘘……」 若干髪は短いが、その姿はぴくるちゃん。その姿に扮した彩音であった。彩音はまだ何も喋らない。ただ、みなこちゃんを見つめる。 「さあ、みなこちゃん。占うんじゃなかったんですか? 早く占ってくださいよ。どうしたらあの人を物に出来るのでしょうか?」 ずいずいと畳み掛けるエーデルワイス。 そう、みなこちゃんは占い天使。恋を放ってはいけない。だから、ぱっと恋の万年筆を空に掲げて。 「ううっ……占い天使、ピンチ。でも負けない! 良いわ、まずは貴女から、――貴女の恋、占っちゃうぞ★」 「虎美とお兄ちゃんとの事も早く占ってよ!」 「待って待って、順番! 痛っ、いたたた!」 ――これでも一応、みなこちゃんとリベリスタ達の戦いは始まっていた。地団駄を踏むようにさり気なく連続射撃をぶちかます虎美。 肩を竦めたブチョーへ行く手を遮るように走ったのはフツ。驚くブチョーとカチョーにフツは不敵に笑った。 「お前、愛を教えてくれるらしいな? 天使の教える愛が坊主のオレに通じるかどうか、やってみてもらおうか!」 そうも言われれば愛の天使(?)は眉間に皺を寄せる。 「若いですなあ、ブチョー」「そうですなあ、カチョー」 そして二人共がフツへと向いた。 「今はまだ良い……だが、三十路を過ぎた頃からね、一人で食べる弁当が、屋台で食べるおでんが無性に寂しくなるのだよ……」 「ぐっ……ぜ、全然効かねえぜ!」 愛どころか人生の哀切を話し出すブチョーカチョーに思わず一歩下がるフツ。だが、そもそも他者からの魅了を受け付けないフツは全力を持って撥ね除けた。 「嗚呼、逢坂く……いや、ぴくるちゃん! 少し髪が短いですけど、華奢な身体にウェーブ髪! 作り込まれた衣装に」 「リノー。しごとじゃなかったのか-?」 「仕事ですとも!」 お子様全開の六花にツッコまれ、目を光らせる勢いで振り向くリノ。そういえば魔法剣どこいったとAFを探し出す。 「き、今日こそ決着を付けてやるぜ、逃げるなよみなこちゃん!」 冷や汗をかきながら、一回転して取り出したライフルからの連続射撃は、みなこちゃんを待つ間溜めに溜めた羞恥心と共にぶっ放された。中心に狙いを定められたカチョーが小さく呻く。 「カチョー! 貴女……もしかして経理の田中さんでしょ!? 課長にパワハラされてるって言ってた貴女もまさか占い天使だったなんて」 「違ぇよ! 誰だよ!」 この人これでも元アラサーなんだよな。そう考えると切なくなる木蓮だが、今ので色々吹っ飛んでしまった。ツッコミが追いつかないみなこちゃんワールド。 「でも、いいわ。見せてあげる。貴女の恋★ それは――」 気を取り直したみなこちゃんがエーデルワイスに指を向けた。ばきゅん★と可愛く首を傾げる。 途端、ぱっと閃いた。しかし同時にぼろっと涙を零す。 「嗚呼、駄目だわ! 貴女の恋は……全ッ然、掠りもしない! 物に出来る所かきっと歯牙に掛けても貰えないわ!」 ほらっと見せたのはダイス。案外原始的だったみなこちゃん。数値は18である。駄目っぽい。 「ふふ……良いですよ。これが占いの代金よ! 遠慮せずに受け取ってね、あっはははは!」 「きゃー!?」 エーデルワイスの連射は次から次へと急所を狙う。翼だろうが膝関節だろうがブチ抜くそれを、ばっと小さな翼を広げて闇夜から現れたブサカワ黒猫天使、おともにゃんがみなこちゃんを庇った。 「おともにゃん!」 「庇いたければ庇うがいい。庇った分だけお前の命が削れるのだからね」 「悪魔!」 ノーフェイスに悪魔と言われたエーデルワイスは何食わぬ顔で銃口の煙を吹き払った。 直後、ギュィインと音を立ててエレキギターが掻き鳴らされる。それは、 「OPソング……『みすてぃっく・らぶ』?」 すきすきすきすきあいしてる。 あなたに伝えたいのこの気持ち。 竜一の音にみなこちゃんは立ち上がる。 みなこちゃんの前、正確にはおともにゃんの前で竜一はOPを掻き鳴らしていた。 好きなこの手を握りたい。 そんな勇気がないあなた。おひとつ占いいかがです? 12星座に血液型。タロット水晶でペンデュラム。 どんな恋でも占っちゃいます、大吉出血サービスよ。 「貴女の恋、占っちゃうぞ★」 「HEY!」 「おともにゃんー!」 途中に入るぴくるちゃんの声に合わせて、みなこちゃんがポーズを決めたその瞬間、竜一は電撃を纏うエレキギターで思いっきりぶん殴った。 「LADY! 天使なら恋する人を見守るものだZE!」 「だからって殴る事ないじゃないー!」 「ぐぉっ!」 竜一とみなこちゃんが言い合っている後ろで、カチョーが仰け反った。 集中力を高めたぴくるちゃん・彩音がその弓を引き絞り、正確にカチョーの弱い部分を貫いたのだ。パァンと音が響いて眼鏡が割れる。 「カチョー! カチョーは眼鏡が無いと何も見えないのに!」 「ぐぬぬ……許さん……許さんぞおおお!」 ぴくるちゃん・彩音は未だ何も喋らなかった。 ●天使ちゃん、がんばる 迫り来るリベリスタ達の猛攻からみなこちゃんを一心に護り続けたおともにゃんは、その偽りの命の終わりが目前に迫っていた。 「おともにゃん……」 みなこちゃんが泣きそうになりながら言うと、おともにゃんは最後の力を振り絞る。そして、にゃあっと鳴いてカチョーにブチョーにみなこちゃんを、柔らかい光で包み込んだ。 「残念だが……ハートが痺れるような一撃をお見舞いするYO!」 OPを掻き鳴らす合間に叩き付けられた竜一のエレキギターに、遂に力尽きてぽんっと消えるおともにゃん。 がら空きになったみなこちゃんのガードを、もる天使★もくれんが撃ち抜いてその力を消し去ってしまう。 「痛っ……流石、田中さんね。その眼鏡は伊達じゃ無いのね」 「眼鏡って何だ関係あるのか」 みなこちゃんは先程経理の田中さんと言っていた。多分それだろうとツッコむ気力も無い木蓮。 「でも、皆が占いを待ってる! 虎美さん……行くわよ! 貴女の恋は――」 お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんと虎美は脳内会話全開しつつ結果を待つ。待って出たのは、 「うん、まぁまぁかな? 可も無く不可も無く……痛い!」 じっと見ていた虎美はそれはもう無慈悲にみなこちゃんの手足喉顔狙い撃った。酷い。 「何それ? 最高の結果が出るに違いないよねお兄ちゃん。お兄ちゃん私の事愛してくれてるもんね結婚式あげたもんね? うふふそんな結果しか出せないとしたら占い師が悪いんだそんな奴は撃ち殺すべきだよそう思うよねお兄ちゃんお兄ちゃんもそう思う? ほら思ってる事も一緒だし相性はばっちりずっとずっと一緒だったんだもん当然だよねだからこいつら撃ち殺してお兄ちゃんの彼女気取りのあの女も同じようにしちゃおう哀しそうな顔しないでほら私がずっと傍にいるよお兄ちゃんオ兄ちゃんオ兄チャンオニイチャンぺろぺろぺろ……」 「まま待ってよ! 大丈夫、可も無く不可も無いから」 「お兄ちゃ――ん!!」 「この人怖い-!」 ちらっと見えた43のダイスの数値を見ながら、六花はうーんと首を捻る。 「わるものなのかそうで無いのか良くわからなくなってきたけど、とりあえず、こまけーことは後から考えるのだーおまえをたおーす! 前に出てって接近戦がひーろー的にジャスティス!」 おともにゃんの居なくなったみなこちゃん陣へと走る六花に、眼鏡を割られて怒ったカチョーが眼鏡の欠片を投げた。 「ええい、愛だ! 何故愛を解らんのだお前達は! 私は秘書の野口さんを愛して――」 「なんだなんだ。この脳内もーそーは会社のじつじょーか? なまなましー…うあーっ!?」 「お前の愛ってそんなものかよ!」 カチョーの攻撃に転がっていく六花を見ながら、フツは長槍である魔槍深緋をブチョーへと突き刺した。しゅわっと妄想から解き放たれて消えていくブチョー。 「君にもきっと、いつか解る日が……」 「もういいから!」 最後まで煩いブチョーの隣、眼鏡を壊されて怒っていたカチョーにも制裁が叩き付けられる。 「萌えませんので!」 カメラからようやく魔力剣に持ち替えたリノが一刀両断。残りがみなこちゃん一人になれば、今の今まで黙っていた彩音が歩み出た。 「貴方の恋、占っちゃうぞ★」 「えっ……」 その声はぴくるちゃんそのもの。 「実はぴくるちゃんは私が声を担当していてね、つまりある意味では本人というわけだね」 「ぴくる、ちゃ……きゃあっ」 その隙に、彩音は一撃を加えた。座り込むみなこちゃん。 その瞬間に再びリノのカメラが火を噴いていた。二人のやり取りをムービーまでばっちり保存。 彩音はそっと囁いた。 「ぴくるちゃんの恋占い、運命の加護を得られないとこの恋は実らないでしょう」 「え……」 みなこちゃんはノーフェイスという事実を知らない。この世の崩界も知らない。だから瞬いて。 「ひーろーてきに言わせて貰うと、愛なぱわーでフェイト獲得しても良いのよ?」 「………」 六花の言葉に、みなこちゃんは俯いたまま。 「残念ねーちゃんだから獲得してもやっぱり、ふられそうだけどなー」 「はぐっ」 ぐっさりみなこちゃんの胸を刺す六花の言葉。 「相手の趣味にとことん合わせようとするKOOLなスタイル。奇異に思う奴が多かったが俺は嫌いじゃなかったZE」 「私……」 みなこちゃんから『美奈子』へ、理性が戻ってくる。それは、本当に奇跡のような運命の悪戯。 「勇人、君……」 美奈子の背の翼は白く光っていた。リベリスタ達は感じた。運命が、世界が彼女を受け入れたと―― ●『美奈子』 「色々、ごめんなさい」 美奈子はみなこちゃんスタイルのまま頭を下げた。元アラサーには戻っていない。 奇跡のような加護を受ければ、リベリスタ達も処分する必要も無い。 「劇場版の話があったら、監督にみなこちゃん登場を打診してみようか」 「エンジェル! スピンオフ作品が出たら彼の心に残れるZE!」 ぴくるちゃんコスプレのまま彩音が呟けば、二番を歌いきれず唸っていた竜一が指を鳴らす。 「みなこちゃん、サイン!」 すかさず色紙を取り出すリノに、速攻でもる天使の格好をAFに納めて明後日の方向を向いている木蓮。 「まぁ、これが愛……なのかねぇ」 呟くフツの後ろから、虎美が再び歩み寄った。 「ねえ……もう一度占ってくれる? お兄ちゃんとはらぶらぶの筈なんだから」 思わずびくっとした美奈子だが、それでも元・占い天使。恐怖を乗り越えてポーズを取った。 「貴女の恋、占っちゃうぞ★」 「違ーう!」 突然叫んだのはリノ。 「首を傾げる角度が2度足りない! 語尾の「ぞ★」はもう半音軽く上げて! 決めポーズはもっと全身を意識して! そう……そう!」 「え、こうかな? こう?」 「もっと、こう!」 「リノさんが監督をして自主制作しても良さそうですね……」 いつまでも響くリノの指導に、エーデルワイスは呆れて呟いたのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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