下記よりログインしてください。
ログインID(メールアドレス)

パスワード
















リンクについて
二次創作/画像・文章の
二次使用について
BNE利用規約
課金利用規約
お問い合わせ

ツイッターでも情報公開中です。
follow Chocolop_PBW at http://twitter.com






<凪の終わり・三尋木>狂えない錆びたピエロ


 七派の一角も崩れ数か月、裏世界の事情は諸行無常の理、其の物である。
 主流七派の一つである『三尋木』と言えども違わず、『潮時』であるのだろう。
 引き際を、首領である『三尋木凛子』は間違えない。

 そも、全ての発端はアークの存在だ。
 此方が少しでも動けば……否、動く前に『動こうとすれば』彼等の鼻が異常レベルで効く。
 やりにくい。
 非常にやり辛い世の中に変わり果てたものだ。
 そんな日本に、どうして留まる必要があるというのか?
 まさか三尋木も、日本に留まらなければいけない理由がある訳でもあるまい。
 今はもう無いけれども……日本から手中に収めたかった裏野部でも無いし。日本最強の名を誇りたい剣林でも無い。日本を中心に表の社会にも枝葉を伸ばし過ぎている逆凪でも無い。
 六道、黄泉ヶ辻についてはよく解らないものの、分かりたくも無い為に置いてはおき。
 恐山にだけは、似た何かを些かにも感じるものの……別派閥だ。決して何処かで相容れない部分が存在するのだろう。

 故に三尋木は『別』へと目を向ける事は、致し方無い事と言えばそうなるのだ。


「皆さんこんにちは、本日も依頼を宜しくお願い致します」
 頭を下げた『未来日記』牧野 杏理(nBNE000211)は慣れた様に、いや、人形の様な面持で話を始めた。
 今回は海外へと行ってもらいたい、という事だ。
 場所は、カンボジアのアンコールワット。

 ――古き欲望の染みついた町。

「あちらのリベリスタはよく仕事をしているみたいですね。
 ちょっと前まで子供が危ない目にあう意味で色々危険な所でしたが、最近はそういうのも減りつつある。
 それ関係であれ、それが関係無いであれ、フィクサードも一斉に摘発されたみたいで……と、まあ、皆さんが行って欲しい場所の現状の説明はそんな所です」
 勿論これだけを聞けば、リベリスタが浄化作業を続けているのならば、態々アークが動く必要は無いと思えるだろう。
 理由としては、長々説明する必要があるようだ。
「危険な街として有名な場所『だった』。
 例えば、誘拐とか、拉致とか、そういう子供達が助け出されたとして、行く場所も、帰る場所も無く、放り出されていた――としたら?
 彼等は悲しい程に純粋なのでしょう。自分達がどうやってこれから生きて行けば良いのかさえ、分からない子たちが存在していたとすれば」
 まさか。
 其の子供達が、また別の組織に利用されようとしている―――?
 とかそういう事では無いのだが。
「似たようなもので、近いもので、でも違う存在になっている。
 表向きは、保護された――という事なのでしょうけれどもね。例えばそれが、『三尋木凛子』の為に生かされている存在に成ったとしたら――?」


「……というワケで、俺の役目は終わったも当然ですね」
 『Crimson magician』クリム・メイディルは解放感溢れる笑顔と一緒に、何処か寂しげに呟いた。高級そうなソファに腰掛け、足を組み、手もたれに肘を乗せて、更に其処に顎を乗せる。
「もうちょっと凛子ちゃんの美貌を、一番近い場所で見惚れていたかったんですけどねぇ……」
 そもそも、凛子が日本で優雅に過ごせる様に番犬をしていたのが実の所、クリムではあるのだが。
「おじさんもう疲れた、やだやだ戦うの面倒だし、アークとか怖い人ばっかりじゃあないですか」
 ソファに足をあげて横になり、眠る様にソファに沈んだ赤い燕尾服。だが其の腹部に跨り、勢いよく乗っかったのは小さな小さな子供二人であった。
「ねーねーダンチョウさん! 鳩出してよ鳩!」
「やだーやだー鳩なんて! 手足拘束して箱につめて、脱出ゲームしてもらうのー」
「鳩だよ!!」
「脱出ゲームだよ!!」
 腹の上でギャーギャー喧嘩し始めた二人を見て、片手を伸ばしたクリム。其の握った拳を開いた時、二輪の花が鮮やかに揺れながら出現した事に子供は目を輝かせた。
「麗しくも美しき淑女の御二方、今は此の花だけで我慢して下さい」
 花を受け取った子供達は、笑いながらまた何処かへと走っていく。其の後姿に手を振りつつ……ソファの両脇に立った二つの影に言った。
「可哀想ですよね。
 五回目の誕生日を迎えれば、『売られる』というプレゼントを喰らう運命を背負っていた子供達ですよ。拾った時は、此の先、如何生きて行けば良いか分からない、絶望塗りたくった無表情をしておりましたが……―――今ではやっと笑ってくれるようになりました!
 サーカスをやって良かった事は、サーカス公演が彼等彼女等の心を明るくしてくれるという事で、そういった意味では凛子ちゃんも適材適所な場所に送ってくれたものです……が、はは……」
 明るい話題に花を咲かせてみたものの……拭いきれない錆びのような香り。其れが鼻を虐めれば虐める程に、戦えと言われているような気がして。
 無造作に放り投げられたものがクリムの目の前に落ちた。

 ――アッッ、ああっ、アアアッ!!?

「はぁぁぁ? あのですねぇ、もうちょっと話が可能な程度の原型で留めて欲しかったのですが」
 両腕両足を吹き飛ばされ、下顎まで吹き飛ばされている。
 滑稽な形で『殺して欲しい』と泣いて蠢くのは、如何見ても恐らくは、人であったのだが。
「俺の番犬は優秀ですねえ」
「「父さん」」
 ソファ両脇の影はクリムの顔に似た、兄妹朱螺と、朱里だ。二人は阿吽の呼吸で話を始めた。
 朱螺が少しずつ動かなくなっていく人へと指をさした。
「リベリスタ組織『ジャッジメント』の諜報部隊の一人だね。『嬉しい事に』、他の奴等は逃げてくれた! ボクの足でも追いつけない距離から千里眼なんて、ねえ? チキンなのかなあ、次見つけたらキチンと潰して箱に詰めて送り返しておくよ」
「捕まえられて、簡単に吐いたのよ其の子。恐らく捨て駒だね。で、此処の場所がバレた訳だけど。数日もしない内にぶっつぶしに来るはずだけれども?」
「「どうするの、父さん」」
「んー……さァてね。盛大なショーでも開催してみちゃいましょうか!」
 ソファの端に放り投げだされていた聖杯を手に取り、装飾を指で撫でていく。
 こんな場所であるから使えるものだが……正直、あまり此の聖杯を好いてはいない。
「こんなものに頼らずとも、やってみせますよ」


 杏理はまた喋り出す。
「皆様にやって欲しい事は、『子供達の保護』と、『リベリスタ組織の撃退』です」
 話を聞くに、アンコールワットではお抱えのリベリスタ組織『ジャッジメント』が存在している。
 彼等は少し頭が固いのか、それとも彼等なりの正義であるのか、『フィクサードは見つけたら即吊るす』くらいにはフィクサード除去に熱心に成っているという。
 そんな彼等もまた、ある子供を利用して荒稼ぎしていたフィクサード組織を壊滅させたのだが、其の組織が抱えていた孤児院……つまり、潰したはずの『孤児院(事の発端)』が再興しているのが気に喰わないらしい。
 其処に三尋木が関わっている事は既に分かっている。
 何故ならば、その『ジャッジメント』から三尋木を如何にかする様に援軍要請が来ている為だ。リストアップされた中に明らかに三尋木所属である顔があれば疑う余地も無い。
 成程、彼等も頭は悪くないという事か。
 触れた事も無いフィクサード達を除去するに、一番関わりが深い組織に応援を頼むのは当たり前の事だ。故に我等は行かねばならない……。

「援軍要請を、私達は『表向き』には飲みました。

 私達が現地に着き次第、孤児院を如何にかするつもりみたいですが……、私は、いえ、アークは此の要請を飲みたく無いのです。
 まさか、仮にもリベリスタ組織である彼等が『手段問わず、子供達諸共敵を潰す』為に力を貸せなんて言って来るんですから……!!」
 其の為に、リベリスタ組織の撃退が理由の一つと成る。
 そしてもう一つ。
「三尋木が子供達を保護したのは、首領、三尋木凛子が何かしら使うからでしょう。『番犬』が子供達を護っているのは其の為です。
 なので、リベリスタ組織を撃退する其の間にも、子供達を保護して欲しいのです。時村家が用意した孤児院に移す為です、彼等はあそこには居てはいけない……」
 三尋木からしてみれば、首領の持ち物を持っていかれる事は防がねばならない事。
 だが、もう一つ。
 もし、三尋木がジャッジメントを潰せばアンコールワットに未だ錆びれても残っているフィクサード組織たちに、恩を高値で売れるという利点がある。

 故に、三尋木はジャッジメントと交戦する事に意義がある。
 子供を隠すならばもっと頭のいい方法があるはずだ。見えている場所に餌を置いたのは其の為だろう。
 故に、ジャッジメントだけを止めたとしても三尋木が牙を剥いてくる理由がある。
 三尋木『が』ジャッジメントを殺さなければならないからだ。

「状況的には、三つ巴になるかもです……。なお、カンボジア政府は此の一連のE能力者関係のいざこざには首を突っ込みたくないようなので、例えば子供達を引き取って欲しいといっても知らん顔ですね。

 場所は孤児院、周囲には戦闘に支障になるものはございません。
 表の玄関と裏口がある孤児院ですが、裏口から子供達が避難を開始しているはずです。
 リベリスタ組織ジャッジメントは表から攻めていますが、時間差で裏口から本隊が攻めて来ます。其の、本隊の存在は三尋木は気づいておりません。
 情報をどう使うか。
 ジャッジメントを如何欺くか、裏切るか。
 三尋木に交渉を仕掛けるか。
 方法は、お任せ致します。
 ただ、アークが派遣するリベリスタの人数とジョブは全てジャッジメントにはバレちゃいますね。
 事にあたるために、皆様と、もう一人……同行致しますので……」

 アンコールワットへ案内すると、『ジャッジメント所属』の褐色肌の美人な少女がブリーフィングルームへと招かれた。
 勿論、彼女は『ジャッジメント』が呈した条件をアークが飲んでいない事を知らない。
「わあ! 世界でも有名な、此処がアーク、素晴らしい!!
 あのバロックナイツさえ退かせたり、殺したりしたリベリスタ組織の手を借りれるなんて、まるで、夢見たいです!!」
 何も知らないまま、彼女は言うのだ。
「フィクサードなんてクソですよ、クソ! 皆様に、早く全世界のフィクサードを一掃して頂きたいなって、思ってます! えへへ、私の親もフィクサードに殺されました、其の日から奴等は同じ人だと思ってないんです。ね? 私みたいな人を作らない為に、全部、全部、全部全部全部全部」

 殺さないと、潰さないと、消え去らないと。


 クリムは言う。
「俺が、リベリスタだけにはなりたくないって思う理由が目先の敵みたいな存在のせいですよねえ」

 異端は全て浄化せねばならない。
 悪の根源は全て断たねばならない。
 暗闇は全て払わなければならない。
 例えば其れが、罪も無い人々を罰する事になったとしても。
 例えば其れが、人道外れた酷いやり方であったとしても。

 犠牲が無ければ、安寧は訪れない。

 大の為に、小を犠牲に。
 其れが『リベリスタ組織』のあるべき姿である。
 『ジャッジメント』は決して、子供の時に夢見たお話の中の救世主なんかでは無い。

 リベリスタは決して、正義のヒーローでは無い事を此処に証明しよう。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:夕影  
■難易度:VERY HARD ■ ノーマルシナリオ EXタイプ
■参加人数制限: 10人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年09月18日(木)22:14
 夕影です。VSリベリスタ と、三尋木

 以下詳細

●成功条件:リベリスタ組織を追い返した上で、子供達を保護する
●失敗条件:三尋木がジャッジメントの戦力を5割以上削る。子供達の半数以上が保護できない


☆当依頼では万華鏡による予知が一切存在致しません。


●状況
・リベリスタ組織『ジャッジメント』は子供達諸共三尋木を潰す事が目的です。その為に手段は選びません、最終的に孤児院や子供達を諸共燃やそうとします。
 故に、彼等の意図の通りにアークが動けば好意的に扱ってくれます。
 序盤はネームドリベリスタ+5人の非ネームドが表側から孤児院襲撃しますが、残りのジャッジメントは時間差(三尋木側が一番来て欲しくない時)で孤児院裏口から攻めさせ子供を殺しに行きます。

・三尋木は、リベリスタ組織『ジャッジメント』の戦力を削ぐ事と、子供を生かして首領の手が届く場所へ送る事が目的です。
 三尋木はアークが来る事を知りませんが、出来る限りアークは敵にしたくは無いと思っていますが全くもって限りではありません。
 敵が本隊を仕掛けて来る事を知りません。
 何故だか超勝てる心算満々で、孤児院表側に戦力をつぎ込んでジャッジメント対応します。
 裏口では朱螺と朱里が子供たちを逃がす手伝いをしておりますが、子供を逃がす方法は不明です。

・アークリベリスタが、どう行動するかはお好きな様に


●三尋木『サーカス一派』
・クリム・メイディルが統べる一派です。
 主にサーカス公演による荒稼ぎ、三尋木凛子専用の戦闘精鋭部隊です。

・『Crimson magician』クリム・メイディル(ヴァンパイア×デュランダル)
・穏健派『三尋木』のフィクサード、首領三尋木凛子の飼い犬
 紅神の爪と呼ばれる細く長い刃が着いた大鎌を所持しております
 サーカスの中では一番強い個体です、攻撃力が異常な程に強いです

・左腕が義手型アーティファクト
(P:物神攻強化、攻撃時反動30)

・アーティファクト『射手座の聖杯』
 以前依頼に出ていましたが、能力が別のものに変更されておりますので確認不要です
・遠距離範囲内にて一般人、革醒者問わず三人死亡するごとに発動、所持者の能力値強化
 悲しみは力と成り、憎しみは狂気へと代わる。

・『White Bunny』因幡・白兎(ビーストハーフ×インヤンマスター)
・バニーガールの結構いい歳の女性
・サーカスの団員であり、ある程度一人でも戦える程度の戦力です
 スキルはインヤンマスターのスキル、及び、式神使役を活性化しております

・『ファニーファントム』赤神・朱螺、『ファニーラビット』赤神・朱里
・朱螺はヴァンパイア×ソードミラージュ、朱里はヴァンパイア×デュランダル

・朱螺
 RANK3までのスキル使用、EX MistPhantom(物遠2単BS出血流血失血呪い)
 魔術知識、暗視を活性化
 二十一歳の男性
 命中、回避、速度がぶち抜けて高い性能です、武器は二刀のナイフです

・朱里
 RANK2までのスキル使用、絶対者、回避は低いですが物攻が異常に高いです
 一四歳の女の子。以下のアーティファクトを所持しております

・アーティファクト『屠殺者』
 武器型アーティファクト、形状は槍。いわゆる、魔槍
 常に刃部位から焔が漏れ出しており、所持者をも蝕み、焦がしていく代物

・その他三尋木フィクサード×13人
 戦力的には上記の4人よりは劣る存在ですが、万華鏡の探査も無い為に敵の情報は人数のみになります。



●リベリスタ組織『ジャッジメント』
・彼等は『フィクサードは浄化するべき。フィクサードに関わっているものも浄化するべき』という考えで生きている為、其処に慈悲も情けもありません。機械のような人達です。

・アルエ
 アルエと名乗る少女です。ジョブはソードミラージュで手練れのようです
 彼女はアンコールワットまでアークを案内する役目を請け負いました
 超フレンドリーかつ、神様でも見てるかのような目でアークのリベリスタを見ています

・ヤナ
 ヤナと名乗る男性です。ジョブはマグメイガスであるようです
 彼はジャッジメントのリーダー格を担っております、司令塔です

・ダリド
 ダリドと名乗る女性です。ジョブはクロスイージスであるようです
 超耐久、ヤナを護る為に存在していると言ってもいいでしょう

・その他ジャッジメント組織のリベリスタ×15人
 上記の2人よりは戦力として劣りますが、手練ればかりだそうな
 情報では、前衛8人、後衛4人、回復3人の編成だそうです


●孤児院の子供達
 総勢、24人
 6歳から、12歳までの子供達です。
 三尋木が守ってくれると思っているようで、誰一人パニックにはならずに冷静に三尋木の指示に従います
 しかし、三尋木がいなくなった場合は限りではありません

●Danger!
 このシナリオはフェイト残量によらない死亡判定の可能性があります。

それでは宜しくお願い致します

参加NPC
 


■メイン参加者 10人■
ナイトバロン覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
アウトサイドクロスイージス
春津見・小梢(BNE000805)
★MVP
ハイジーニアスクロスイージス
ゲルト・フォン・ハルトマン(BNE001883)
アウトサイドスターサジタリー
雑賀 木蓮(BNE002229)
ハイジーニアスホーリーメイガス
エルヴィン・ガーネット(BNE002792)
アウトサイドスターサジタリー
雑賀 龍治(BNE002797)
ノワールオルールクロスイージス
ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)
ハーフムーン覇界闘士
翔 小雷(BNE004728)
アウトサイドソードミラージュ
紅涙・真珠郎(BNE004921)
アウトサイドアークリベリオン
水守 せおり(BNE004984)


 業、轟。
 最早、消化試合だ。
 バケツでひっくり返した様な血塗れの周囲に、燃える魔槍。
 幼い少女、朱里の。蝕まれていくのは身体か、心か。
 それよりも許せない事が積み重なって。

「お前等ァァ!! 返して、返してよ!!
 お前等なんて、お前等(リベリスタ)なんてだいっ嫌いよ!!!
 全部、全部、殺す!! お前等全部、此処から生かして帰らせないわ!!
 絶対、絶対よ!!!」

 運命あれ、奇跡よあれと、朱里の持つ屠殺者は何時までも嗤っていた。
 揺れる陽炎のせいで、少女の瞳に正常は世界は。

 もう、映らない――。


「嫌な……予感がするな」
 『鋼鉄の砦』ゲルト・フォン・ハルトマン(BNE001883)は率直な感情を口にした。
「らしくもないな」
 『八咫烏』雑賀 龍治(BNE002797)が間に声を挟む。が、浮かない顔の彼は何処までも浮かない。
 鋼鉄の名を冠する彼が突如、ネガティブ色の思いを言うのは或る意味では異常であっただろう。さてしかし、何故だろうか、進めば進むほど『息詰まり』を感じるのだ。
 幼い少女が耳元で泣いている様な、其れに対して何もできない様な。
 どうにでもなるが、どうにもならない事が近づいて来るような。
 寂しい風景のせいだろうか、乾燥しているように見える風景、此処は。

 そう、此処は。

 ―――カンボジア、アンコールワット。

 『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)は細くした瞳で、揺れる車外を見つめていた。いや、見つめているようで頭の中に映像が入って来ない様、虚ろを見ていただけかもしれない。
 彼が、此処に来るのは二回目である。
 フォーチュナである杏理は、『アンコールワットは変わりました!』と陽気には言っていたものの、表面的な部分では何も変わっちゃいないと、誰よりも理解していたのは彼だけであっただろう。
 だって、子供が誰一人として――……此の先を語る事は、関係無い事なので止めようか。
「ブルーですねえ、カレー食べます?」
「……あ、うん。うん!!? カレー!? そういえばカレー臭ッ!」
「臭いとは酷いですね、良い香りと言ってください」
 アンニュイな夏栖斗を現実に引き戻したのは『本気なんか出すもんじゃない』春津見・小梢(BNE000805)が絶えずもぐもぐしているカレー臭のお蔭でもあった。
「外国でもそれか! 俺様腹減って来たなあ」
 『銀狼のオクルス』草臥 木蓮(BNE002229)が愛想良く、頭から生やした角と葉を揺らして笑ってみるからか。車内は何故だかアットホームな感じにはなっていた。
 何時でも、何処でもマイペースを突き通す小梢だ。例えバロックナイトが訪れていようとも、小梢一人はカレーを喰いながら真っ赤な月だなあなんて月見するんじゃないかと思うほどには。
 そう妄想していると木蓮の顔にも自然と笑みが浮かぶのがアットホームな原因であったかもしれない。
「ふふー、日本の皆さんが食べるカレーはこういった味なんですね!」
「おー、分かる? 小梢スペシャル。作ったの別の人だけど」
 今から戦場だと言うのに、キャッキャと声を出して笑うのはアルエであった。
 ブリーフィングの後、軽く日本食を嗜んだ彼女は、彼女なりに「舌が肥えてしまったから地元のものは食べれないですぅ!」なんてフレンドリーさを振りまいていたのだが、それも、何処まで持つものか。
 横眼に見ていた『騎士の末裔』ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)は悟られない程度の苦笑いをしながら、見ていられないと外を見た。
 こんなに愛らしい子が、子供諸共殺す、だなんて。
 ジャッジメント組織に対して、「如何かしている」と思っていた事は顔に出てしまうだろう、今だって窓に映る自分の顔がアルエには見せられないものだと理解しているつもりだ。
 同じく『どっさいさん』翔 小雷(BNE004728)もだ。アルエを敵と認識している訳では無かったのだが、心の何処かで許せない部分が糸を引く。引っかかって取れないような、そんなもどかしさがあるのだ。
「ままならない……ものですね」
「そうだな」
 そう、ユーディスは静かに瞳を閉じ、小雷は頭の上で揺れる耳を閉じた。
 誰が、……誰が火種を放り投げるのか。
 其れを待つかのように。
 そうして賽は投げられる。誰かが言ったのだ。アルエに。

「孤児院の子供達についてなんだけど……」

 アークは殺さない。
 アークは子供を別の場所に移送する。
 だから、殺さないで欲しい。
 その返答は―――。

「……は?」


 次に瞳を開けた時、其処は戦場であった。寂しい程にぽつんと佇む孤児院と、
「おやぁ、日本であるならば予想可能でしたけど、アークの眼って海外でも有効でしたっけ?」
 『Crimsonmagician』クリム・メイディル(nBNE000612)が、顔を斜めにこてんと傾けて苦笑いをしていた。
 できる限り会いたくなかった相手が来たのだ。
 というか、会いたくないから海外に逃げたのに……。
 追って来られたらむしろ、此の世界の何処に行けば良いのだという疑問を持った苦笑いだっただろう。
 そんな事、アークはいざ知らず。そんなの関係ねえというやつか。
「教科書にもあったけど、ココは難しい国なんだねえ」
 話題を逸らす様に『ムルゲン』水守 せおり(BNE004984)は彼方此方を見回しながら言った。
 彼女一人、それと小梢ばかりは穏やかな雰囲気を出すものの、周囲はピリピリと肌でさえ感じる程に殺気帯びている。
 怖い怖い。
 ……だなんてせおりは心中思うのだが、此ればかりは仕方ない事なのだと、再び心の中で頭を左右に振り回していた。……しながらも、横眼でクリムの目線を捕えて思考を行き来させる事は止めずに。
『こんにちは、おじさん、せおりっていいます!。あのね、全力交戦は避けたいなあ、如何にかならないかなぁ~?』
『箱舟さんも、事情がお有りの様で。此方も、箱舟とはやりたくありませんが。全力をしないとジャッジメントを半数でも潰せないので……聞けませんね』
『でも見返りはあるよ? 此処では味方するので、三尋木がジャッジメントに勝利したことにしていいし?』
『俺らは、あくまで彼等の戦力を削る必要があるだけです。勝利とか敗北という概念じゃないんです。味方は嬉しいですが、其方の目的、予想可能ですが聞きたいですね』
『ん……子供をね、保護したいんだアークは』
『そうだと思いますよ。だって凛子ちゃんの餌食にしたく無いのが、アークの目的でしょうからね。残念ですが、御破算です』
『……交渉、決裂ならこちらも全力しちゃうよ?』
『アハハ、始めから脅迫のつもりでしたか? これだからリベリスタは……』
「強欲ですよね。それは俺らも変わりませんけれども」
 遠回しの宣戦布告。
 気が乗らない戦闘だ、アークから言わして貰えば。
 だが、そうも行かない。
「アハハハハハ!! アークを連れて来たからには、ジャッジメントに負けは無いよ!!
 残念だったね、日本のマフィア!! 戯れも此処までよ、此の街から、いや、此の世界から消えて無くなりなさい!!
 お前等みたいなゴミ虫がいるからこの街は何時まで経っても綺麗にならないのよ!! フィクサードが、死ね! 死んでしまえ!!」
「……なんですか? 此の良く喋るお嬢さんは」
 アップテンポのアルエに対して、超苦笑いでスルーを決め込んだクリムの目線はアーク側に『どう接すればいいか分からない助けて』と訴えかけていたのだが。
(さぁ、の)
 下手に三尋木とナカヨシをしてジャッジメント組織に不穏を広げるのは良くないと判断した『狂乱姫』紅涙・真珠郎(BNE004921)は応えを出しながらも、深紅のドレスを汚した土を払って終わった。
 先程だってそうだ。
 子供を生かしたいと言って、アルエの反応が思い出される。

『――は? まさか、そんなアークの皆様が? そんな事を言うだなんて……。
 子供は既に汚らわしいんですよ、奴等の洗脳に侵されているかもしれないんですよ! ゴミですよ、ゴミ!
 でも、ゴミもリサイクルしようはいくらでもありますよね……そういう事なら、殺さないように頑張ってみますけど……。
 けど、攻撃に巻き込まれてしまった不幸な事故なら、仕方ないですよね!!』
『うん、もういいからカレー食べてよっか』
『ぶぼぐぁっ!!?』
 小梢、アルエの口にカレーを乗せたスプーンを突っ込んだ。

 まるで話が噛みあっていない。
『赤親父、おぬしとはもっと会話が出来ると思っていたがの?』
『これはこれは深紅の姫君。光栄ですね。まだ何か言いたい事でも? いえ、この場合は念話したいことでも、と聞いた方がらしいでしょうか』
『交渉のカードはまだ残っておる。三尋木が箱舟を撃退した、というこれから必ず発生する未来を約束しよう』
『……確かに名は売れますがね、俺は別に『箱舟倒した』名声が欲しい訳では無いんですよ』
『おぬしらは此の頭の固いリベリスタ組織の戦力を削りたい事は知れておる………、おぬしら、まさか!』
『アハハ、そうですよ。此処で戦力を削れば、ジャッジメントは敗走中にアンコールワットのフィクサードに潰される。それくらい恨みを買っている組織ですしね。
 そっちの方が貴方達の上層部が政治をしなくて済むんじゃありません? 三尋木もフィクサードから感謝されて色々やりやすくなる。それは凛子ちゃんが喜ぶ。
 死人に口無し。
 リベリスタがリベリスタ組織を裏切るなんて汚名、つけたくは無いでしょう?』
『その為には、自分の命さえ惜しまない……と申すか。大した首領愛じゃな、其の覚悟が聖杯じゃの?』
『頼らずともやり遂げますがね、俺は長く生き過ぎた。七派の、特に裏野部が成長していく姿も見て来ましたし、衰退する様も見届けた。
 悪は必ず滅びます。正義側の都合でね。
 だから此の戦乱で自分の命が落ちようが、今更構いませんよ。女性の年齢に触れるのは失礼でしょうが、貴女もそうでしょう?』
『……話を、戻す。味方が欲しいか、欲しくないかだけじゃの。だが此方は子供を頂く』
『子供は首領命令なのであげれませんし、ジャッジメントを殺す手伝いをする訳でも無いのでしょう? それは味方では無く、都合にあわせろと言った所でしょう』
『そうか、の。……ならば、娘ごと頂こうかの』
『なんで朱里がいる事を……? まさか!!!』
 クリムは勢いよく裏口の方向を見た。
 そうも言っている間に、戦闘は始まっていた。


「こ、こらぁっ! 子供たちに近寄るな! 近寄るなって言ってるでしょー!!」
「君達とは交戦せよと言われていない。というか来るかさえ知らなかったんだ、確かにボク達、敵同士だけど……さ!」
 子供に近づけまいと槍と、二刀のナイフを構えている朱里と朱螺。
 言ってしまえば、クリム達の交渉は今の所、破綻していた。此の時点でゲルトやユーディスは朱里と朱螺の抑えへと廻る。
 ……されど、人数では圧倒的という程にアークが有利であった。
 たかが、2人の子供に7人のリベリスタが集ればできる事なんて限られるのだ。
 久しぶり元気だったか?、なんて悠長に言える暇さえ無い。既にゲルトを燃える槍で貫いている朱里は声色を低くして怒っていた。
「そこどきなさいよぉ!! 退かないと……」
「退かないと、どうなるんだ」
「……ッ!! そ、そりゃ、燃やし尽くして灰にしてやるんだから!!」
「俺は絶対者だが」
「うるさいうるさいうるさーい!!!」
 対して朱螺の短剣を見事にかわしたユーディスは、そのまま彼の腕を抑えて言う。
「無駄な……争いだとは思いませんか? 大人しく引き渡して頂ければ、子供達の命は助かるのですよ」
「ボクもそう思う、そう思うんだけど……血が、色濃い血縁が、駄目っていうから仕方ないじゃないですか!」
 空いていたもう片方の腕が一閃された時、ユーディスの胸上部がぱっくりと斬られて血が舞った。お互い、二歩ずつ引き、ユーディスは傷口を抑えつつ短剣を構えた朱螺を瞳に映した。
「そんな提案……ズルいんですよ、ボクは何時でも『そっち側』でいたかったのに……」
 よく似ている。
 クリムの面影を持った男の瞳が木蓮とあった。
 ズキンと、痛んだのは木蓮の喉元か。あの日、あの時、恋人の目の前で『彼』に首を切られてから舐められた苦い思い出。
「思いだすんだよなぁ……」
 大丈夫か、なんて言葉には出さなかったが、龍治の大きな手が木蓮の頭を撫でた。それだけで、木蓮は頑張れるから――。
「さて、龍治も行こうぜ!」
 今クリムを見てしまえば即刻断罪砲でどかんどかんだっただろうが、裏口対応で良かったと内心ホっとする木蓮ではあった。

 状況が分っているのか解っていないのか、保護すべき子供の表情は明るい。遊びに来てくれたのか、なんて言いだす程に場違いな子供達は何処までも純粋だ。
 其れを1人、1人ずつ魔眼によって命令を下していく『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)。
「俺が走れと言ったら、あの車に乗り込むんだ」
「え、でも赤いお姉ちゃんとお兄ちゃんの言う事聞かないとだめって」
「それでもだ! 言う事聞いてくれよ、な、良い子だろ?」
「えー……ん……わかった!」
 手をあげて笑顔を向けた子供に、エルヴィンはその頭を軽く撫でてやった。

 が。
 突如血飛沫と共に子供がエルヴィンの方向へ倒れた、崩れた。
 子供を撫でていたはずの腕が、真っ赤な血を地面に垂らしながら震える。

「……は?」
 エルヴィンは茫然と、今何が起きたのか分からないという表情をひとつ落した。それもそうだ、今しがた撫でてやった子供の背中に血塗れの鎖――否、葬送曲が刺さっているのだから。
「お前等は……お前等は!!」
 抱き上げた少年の体温が急激に下がっていく、痙攣している腕が何度もエルヴィンの胸を叩いた。
 前方では、そりゃもう『クズ』が。
「おーっと、今赤色の娘を縫おうとしたらちょっと目の前に壁があったから『致し方なく』殺してしまったが仕方ない! フィクサード殺す為に『小さい犠牲』くらい仕方ない!」
 状況は揃っていた。
 リベリスタ側の交渉が決裂し、アークが三尋木を抑えながら子供を移送しようとしている。
 表側は表側で戦っている為に裏へ戦力が回って来ない。
 非常に、非常に三尋木にとっては最大の最悪な状況であった。
 だからこそ、来てしまったのだ。

 ―――審判(ジャッジメント)が。

「おい!!!!!!!!」
 反射神経が思う儘に声を荒げたのは、夏栖斗で。
「殺さないって、言ったはずだ!!!!!!」
 噛みつくような表情に変わりつつ吼えたのは小雷であった。
「誰だって平和に生きたいだけなんだ、なんで殺す、なんで、殺す!!!!」
 火が点いたかのように地面を蹴り飛ばし、ジャッジメント側のマグメイガスに殴りかかりに行った夏栖斗だが、直前でソードミラージュの女が廻り込んで来た為に足を止めるを得ない。
「何やってるんですか、箱舟の顔の方。フィクサード殺すのに邪魔だから殺したんですよ、だって見えないんですもの、子供が邪魔で」
「彼等は小さい犠牲じゃない!! 無駄に犠牲を増やすのなんか意味無いだろ!!」
 ジャッジメント側に仕掛けてしまった事により、アークは此れより三尋木とジャッジメントと三つ巴が開始される。
「昔の俺……か?」
 反吐が出る。
 小雷が溜息を吐いたのは、走馬灯のように甦る記憶のせいか。目の前の敵のあまりのクズっぷりか。
 迫ったデュランダル、此処で何もしないのであれば烈風の陣に子供が巻き込まれていたであろう。
「そうは、させん」
 例えどんな状況に成ったとしても、小雷は子供たちを護ると決めた。
 既に1人、エルヴィンの腕の中で痛みにもがく子供がいるのだ。
 この時点でエルヴィンは『走れ』と命令を下し、魔眼が効いていた3人だけは用意された移送車に乗ろうとしていたのだが、此の、腕の中の4人目も命令に従わんと蠢きながら。
 エルヴィンこそ回復手であったからこそ幸いであった、子供が即死を免れた事も幸運であった。
「今、治すからな……生きてくれよ!!」
 そう語るエルヴィンを背に、小雷はデュランダルの振り回された大剣を素手で掴んで止めたのであった。
「つくづく、狂信者共は期待の斜め上にいってくれるな」
 ジャッジメントが仕掛けて来るのが、あまりにも早い到着だった。未だ子供の手配も済んでいない中、やっと木蓮が移送車を出した所であったのに。
 されど、果たさねばならない依頼の条件を。任務遂行の為。
 其の時だけ龍治は機械の様な考え方であったが、結果的には正しい在り方だ。リベリスタとしては。
「俺の弾丸から何人が逃げられるか数えてやってもいいな」
 膨れ上がった火種は、爆発するかのように力を帯びて敵へと向うのであった。


「なんで……なんで、私達(ジャッジメント)、アークの皆さんと戦っているの!?」
 理解できない。
 わからない。
 状況が読めない。
 読みたくない。
 そう言っている顔でアルエは首を振っていた。
「そんな事ないよね! 皆さん私達と戦ってくれるって、言ったよね!!?」
 泣きそう、今にも泣きそうな顔。アルエは嘆願するような掠れかけた声で言うのだが……、真珠郎や小梢、せおりは顔を見合わせた後、言った。
「アルエちゃんごめんねえー! 私、ジャパニーズマフィアの家の子だし!」
「潮時じゃの」
「塩味のカレー? それもまた美味そう」
「ちょっ、小梢ちゃん何時までカレー食べてるの?」
「我も腹が減ってきたの」
「カレーが美味い」
「塩味のカレーって流石にどうなの?」
「塩味じゃの」
「カレーだから美味いこと確実」
 ツッコミ役が不在。
 足の止まっているアルエにクリムの鎌が襲う。だが鎌を足で蹴り飛ばしたせおり、其の背後で真珠郎がダリドへと仕掛ける。
「貴方達、一体何処の味方なのよ!!」
 叫んだダリド、直後に真珠郎のナイフが胸を突き刺せば淡い鮮血が宙に舞った。まるで鼻の先がついてしまうくらいの近さ、真珠郎がダリドの顔を覗き込みながら言うのだ。
「さあの、無駄な犠牲を出したくない、ただそれだけじゃ――と、まきのんは言っていたの」
 しかしながら、表口の組みこそ未だ此の戦いの終止符の打ち方は見えてこない。敵と見なされ攻撃してくる三尋木も居るのだが、更に。
「い、え、フフ、嘘、嘘だぁ、嘘、嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘!! 嘘だああああああああ!!!!!」
 愛らしい表情さえ何処に消えたというのか、アルエが狂った面持ちで逆手に持ったナイフで切りかかる、が、カレー用スプーンでナイフの先端を止めた小梢。
「お前等ぁぁああ!! お前等ぁぁ!! お前等なんかアークじゃない、そうだ、おまえらあーくじゃない!!」
「うるさい、カレーにツバが飛ぶ」
 小梢さん未だにマイペース。スプーンで押し返したアルエは着地をしてからも果敢にとびかかって来た。
 許せないのだろう、それは分る。だが。
「貴方達は、私達の何を知っているというの?!」
 小梢の後方より、手を前に構えたせおり。
「それじゃあ一丁、飛ばしてみちゃうよ!」
 絶大なる意志の力で――ジャッジメントごと後方に吹き飛ばした周辺に砂煙が勢いよく舞った。
 あまりの爆風に、孤児院の前方の扉や窓硝子が破壊された程だ。其の破片が周囲に飛び散る中、クリムの胸倉を真珠郎は掴む。
「状況が変わっての。我等は審判と遊んでやらねばならん」
「だから、アークに攻撃するな、と?」
「違う。娘を助けたいか、助けたくないか、それだけじゃ。あの槍は何ぞ嫌な臭いがするから朱里ぽんから取り上げろ」
「嗚呼……」
 嗚呼、その時。三尋木のフィクサードが1人、ジャッジメントの攻撃に飲み込まれて消えた。
 ひとつの命が聖杯におっこちた。そう、此処は美味しい食卓の上である。命を賭け金に命を喰らう――。
「俺は……」
 クリムは力強く真珠郎を飛ばし、先に居るジャッジメントへとダイブした。あと2人、あと2人さえ食ってしまえば。


「いい加減にして! 其処退いて!! ご都合主義なのよ何処の組織も!!」
「ボク達を相手にしてる暇じゃあないだろう、アークはジャッジメントとは違うんだろう?!」
 轟と燃え上がる槍を振り回し、周囲を焦がす朱里と。此の場で最速で動ける朱螺の抑えをするゲルトとユーディス。
 後方より、ジャッジメントの攻撃と三尋木の攻撃をまともに受ける2人は特に体力の減りが早かったと言えるだろう。だがそれでも防御が誇る2人だ、稀なるそこら辺の者とは体力の減りは僅かばかりに遅い。
 特にゲルトだ、確かに朱里を抑えていたのだが、同時に守っていたのだ。
 速度と回避に誇る兄こそ敵の攻撃をすんなりとかわすものの、妹はそうもいかない。
 だからこそ、狙われたのは朱螺の方であった。
「なあ、お前等家族なんだよな……?」
 木蓮が、ふと再び目が合った朱螺に唐突に聞いてみた。其れは興味本位そのものであっただろうが。
 こくんと頷いた朱螺に、己が無くした兄を重ねて見えてしまった。似ても似つかないものだが、しかし、何故だか込みあがってくる思いは一体なんだろうと馳せ。
(俺様は……クリムを殺したい、けど、俺様の家族を殺した奴と同じ事をしようとしてるだけじゃ)
 刹那、砂塵を巻き上げながら放たれた葬奏。血を撒き散らし、避けようとした朱螺にもクリティカルという限界はある。顔面を射抜かれ、左目から後頭部に貫通した鎖。飛び散った血はユーディスの顔面さえ染めた。
「朱螺さん!?」
 第二波には巻き込ませんと背中で朱螺を隠したユーディス。其処に朱里が駆け寄って、朱螺を抱きかかえた。
「お、お兄ちゃ……っ」
 朱里が叫ぶより先に、限界だと泣き叫んだのは子供たちの方である。
 魔眼も最早効かぬパニックの状態だ。いくら監視役の赤神兄妹が居た所で、状況が詰まれば安堵なんて出来ないのだから。
「うるせえなあ餓鬼が、フィクサードの手に染まった餓鬼がァァ」
 ダークナイトの男が漏らした言葉にエルヴィンが言う。
「本当に、それでいいのか……?」
 彼は彼で、子供達を移送しようと躍起に成っている。今此処で邪魔じゃない子供も殺すだなんて矛先を向けられればたまったものでは無い。
「やめだやめだ、アークは俺らを裏切った。穢れた子供ごと殺してしまえ」
 と思ったら、矛先向けて来た。
 あまりの物言いにエルヴィンの拳がダークナイトの男の頬を穿つ。飛ばされて、地面に倒れたダークナイトであったがすぐに体勢を戻して睨みつけて来る。
 ダークナイトの気迫もすさまじいものであったが、逆毛立つ様に吼えたエルヴィンも負けてはいない。
「お前等がやっている事はフィクサードとなんの変わりがあるっていうんだよ!」
「うるせえ、偽善者が!! 綺麗ごとだけじゃ救えねえんだ此の世界は!!」
 「ひ」と小さく喚いた子供の手前、大柄なダークナイトの男が槍を振り上げる。だがその合間に入るのはエルヴィンで、両手を広げて護ろうという体勢を取る。
 駆けて来た木蓮が、ダークナイトを止めさせようととびかかる――其の前に銃声、腕ごと槍を弾き飛ばしたのは龍治であった。
「此方は裏切ってはいない。最初に子供は殺すなと言ったはずだ」
「うるせえ、うるせえ!!」
「ふん、都合悪い事は耳を伏せるのか? それでも貴様等リベリスタか?」
 そう、呟く間にも空中から放たれた炎弾がジャッジメントたちへと降り注ぐ。まるでメテオのような其れに誰もがたじろく中で、龍治はエルヴィンに「子供達を」と目で告げた。
「いい加減に、しろ!!」
 小雷が葬奏曲を放ったマグメイガスの顔面を殴り倒した。だがそれで止まるジャッジメントでも無い。小雷の肩にも葬奏の音色によって傷ついた部分が赤くはれ上がっている、直撃は受けなかったものの、思う様に動かせない右腕に眉間のシワを寄せながら言うのだ。
「子供の命は護りたい……ただ、それだけなのだが」
 分かり合えないというのか。ならばと、小雷は粛清する事も躊躇わない。


 息は荒い。
 たった3人で三尋木とジャッジメントを殺さないよう、殺させないように誘導するのは、率直に言えばかなり大変な仕事だ。
「も、もぅ、だめ………だけど、やらないと!!」
 此処での枢はせおりであった。彼女のノックバックにより敵やリベリスタの隊列をずらして、交戦を乱す事により極限まで難である難を抜けていた。
 もう一度、と放つ意思の力に吹き飛ぶジャッジメント。その合間を縫って出て来たアルエが、未だに壊れた笑みで走ってくる。
 真珠郎の放つアルシャンパーニュに抑え込もうとするも、彼女も同じく手練れのソードミラージュ。掠って攻撃が届かないその時こそ、崩れる前兆でもあったか。
「大変だよねェ! ノンノン、死線の上で踊らにゃソンソン?」
 白兎の回復さえ間に合わず―――。
「ぜええええええええいん、失せろおおおおおおお!!」
 アルエの攻撃が三尋木の1人を殺した、時。

 AF回線にひとつの連絡が入る。
「そっちにいった」
 と。

 子供は、とエルヴィンが数を数えながら。なんとか規定の数は揃えられたものの、だからといって全てを助けなければ安堵はできまい。あの三尋木に何に利用されるのか、想像しただけでも恐ろしいものだ。
 泣き喚く子供も、エルヴィンになついたのか彼の足にくっついてくる。其れを宥めながらではあるものの。
「潰さないと、根っこから全部……!」
「まだ、言うのかよ! こんな、罪も無い子供相手に」
 何故リベリスタ同士で争っているのだろうか、其れは確かに疑問ではあるものの。
 小雷の手は止める事を許されない。
 後衛に単身乗り込む事に成功した小雷は、一番の火力であろうと思えるマグメイガスの男に気を撃ちこんだ。一緒に与える麻痺が彼の詠唱する喉を響かせる事を止める。
 血眼のようになって弓矢を射ってきた男のそれと視線がぶつかる――嗚呼、昔の己もこういう風に見えていたのかと思うと少し、気が重くなるのだが。其の断罪だと言うのか矢は小雷の首を射抜いた。
 噴き出す血を己が手で止めながら、巻かれた武器に血化粧が厚く塗られていく。
「人が人に罰を与えること自体烏滸がましいのだと……」
 何故、気づいてくれないのだ。その思いを込めて。
「じゃあな、昔の俺」
 弓ごと拳で貫いていく小雷。殺さず、と言われていたものの、どうしても止められなかった拳がスターサジタリーの顔面を粉砕する――、フェイトの加護があっただけまだ殺してはいないものの。
 敵の矛先、未だ朱螺へと向いている。ユーディスとゲルトが背で兄妹を護る形となっている以上。
「僕が引き受ける!!」
 と、高らかに宣言した夏栖斗が言の葉の魔力を持ってジャッジメントの矛先を全て己へと向けさせた。
 いくら耐久が誇る彼とは言え、一気に攻撃が集中してしまえば体力数値の減る速度も異常の極みだ。だがそれでも彼は立っていた。
 内心、馬鹿馬鹿しいと。今ある状況の意味を問えども答えは見つからない。
 前方から横にふられてきたソードミラージュの女のナイフ。其れを歯で噛んで止めた夏栖斗に、小さくビクリと震えた女。
「何を見て来たか知らないけどさ……こんなやり方、全部潰すやり方、絶対に間違ってるから僕等は止めるんだ」
「……何を」
「リベリスタだって、時にはリベリスタと止める事だってあるんだ!! よく、聞いて!!」
 ソードミラージュの手を抑え、デュランダルの剣を踏んで止めた夏栖斗の四肢は四方八方塞がりだ。
 其の中、龍治が言いたい事を代弁する。
「聖杯だ。よく聞け、三尋木には聖杯がある。死んだ者の数で所有者が圧倒的な力を手にするものだ。
 それがあるから俺らは殺せないし、殺すのを黙ってみている訳にもいかん。分かれ、リベリスタだろうが」
「遅いんですよ、それ。ねえ、龍治さん?」 
 声に、龍治が振り向いた――刹那、胸を強い力で打たれたような、熱さと痛みが襲う。
 大鎌の先端、彼の血を吸い込んだ其れ。
「クリム!!」
 木蓮が叫ぶように言った名前、そして叫ぶような笑い声が響く。

 あはっ……くっ、ぶっははっ、あははははアハハハハハハハ!!

 1回だけ壊れた事があった。
「あの時龍治さんモいらッシャイましたよネぇェ、ホら、染色さんガ馬鹿やらカシた時ですヨぉ」
 聖杯が、命を吸っている。強化された能力、聖杯の効果。
 胸倉掴まれている龍治の、吐息がかかる程にクリムの顔が彼の顔に近づいた。完全に目がイっているクリムが、本当に今までの彼と同じなのかと一番よく解ったのは龍治であっただろう。
 再び降り上がった鎌、だが直前に龍治の銃が零距離から火を噴いた。
 銃声直後に分かたれた2人、右目に穴を開けながら、其処から血をボタボタと散らしながらゆらりと立ち上がったクリム。
「お、おとう、さん……」
 既に息が切れかかっている朱螺を抱える朱里を眼に、父親として思わない事は無い。
「此の場の全員……ブッ殺死まsow金ェ???」
 振り上げた鎌、止まれない、止まれないのだ。
「クリム! 待ってくれ、殺したらお前も壊れる、そうだろ!?」
 木蓮が歩むクリムの服を掴んで止めようとしたが、空を掴んだだけで止められない。
「なあ、クリム!! 殺すだけが解決法じゃない、そうだろ、なあ、そうだろ!!?」
 木蓮が追いかける、己の家族を殺したフィクサードに復讐する自分を重ねているかのように。
「クリム、なあ、クリム!!」
 涙声になっても、だが彼は止まってはくれなかった。
 愛しの愛しの凛子様。
 彼女に献上する子供は譲れない。父親として、凛子の飼い犬として、止まる事は許されない―――。

「そうじゃ、無いだろ」 

 ゲルトは言う。
 そして―――運命の歯車が止まった。

 兄の事、父親の事、状況の事により震える14歳の少女の為に。
 大鎌を振り上げ、ジャッジメント組織に突進する彼に合わせるように、ゲルトも足を動かした。振るわれる大鎌、其れを腕を掴んで止めながら。
「止め……ルな、止メル、ナ……!!!」
 カタコトで喋る彼に、優しく諭すのだ。
「クリム、三高平に来い。フィクサードでもリベリスタでもない、単なるサーカス団として暮らさないか?」
 勿論、クリムの力は今例えるならば異常という言葉そのものだ。だが其れに対抗可能な力を持っていたのは、まさに奇跡を見に宿した結果であっただろう。だからこそ脅えない、囚われない、恐怖も怒りもネガティブな感情は其処には無く、ただ、あるものは彼の娘の為には彼を救わないといけないという、ただの、愛そのもの。
 押されていくクリムの腕、ビキッとヒビが入った聖杯。あと少し、あと少しで。
「サーカスをしているお前の子供達はいい顔をしていたぞ。散々好きに生きてきたんだ。もう子供の幸せの為に生きてもいいんじゃないか?」
 フィクサードとして生きて来たクリムには返しきれない恨みはあるだろう。溜めたヘイトも多いだろう。だが、それでも、ゲルトは負けじと彼へ手を伸ばし続ける。
 ゲルトの身体が淡く光り、刹那、爆風が彼等中心に巻き起こり、周囲の砂や建築物が風により崩れていく。まるで超小規模な台風が其処にあるかのような事態だ。
 リベリスタも、フィクサードも、其の風に飛ばされぬように体勢を低く保つ中、駆け付けたアルエが言った。
「これが……奇跡? 綺麗………」
 淡い光は救いの光、聖杯の呪いを打消し彼から力を奪い、力を奪われれば此の場の全員を殺す事も叶わない。此れで良いんだと、ゲルトは笑う。あまりにも、あまりにも対価は大きすぎると言えるのだが……。
「おややー?! なんだこれー!」
「ふむ、やりおるの」
「カレーが更に美味い」
 更に全身をボロボロにしながら表から抜けて来たせおり、真珠郎、小梢が言う。

 そう、これが浄化の輝きか。

「これだから、アークは……面白いんですよねぇ」
 苦笑いをしたクリム。
 箱舟の面白き事、何時でも美味しい殺意を向けて来たかと思えば、都合良く生かされてしまった。最早、ジャッジメントを餌にフィクサードの好意を得る事もできなければ、子供を献上する事も叶わないだろう。
 其の凛子からの粛清も高くつくであろう。しかし子供の為を思えば、もう、三尋木には戻れないという事だ。
 此の状況を作り上げた彼――ゲルトだが。
「朱里」
「なんで、どうして……!!」
 光を粒と成って消えて行く彼の身体。朱里は其の一粒一粒を掻き集めながら、必死に、必至に。ゲルトの腕が朱里の頭を撫でた、最早その撫でている感覚も彼には感じないのだろうが―――泣く事はできないが、ゲルトは笑う事はできると、最後まで笑って言い続けた。
 もう、怖がるものは何も無いだろう? と。戦うのが嫌だと嘆き続けた、君の為。
「まだ、もっともっともっと話したい事がいっぱいあるの、まだ話して欲しい事もいっぱいあるのよ!? 1人だけ、1人だけ何時もズルい!!
 何時も助けてくれてありがとうってお礼さえまだしてなかったのに、やっと今から分かり合えるはずだったのに――!!」
 大粒の涙が朱里の瞳から溢れた。返しきれないくらいの感謝を、あと数秒も待ってくれない。
 もし、神様が此の世界にいるのなら。ゲルトは思う、あと、少しだけ時間が欲しいと。

 彼女と生きる、時間を。

「愛している、一緒に―――」
 しかし待ってはくれない。
 最後の光が、天高く消えて行く。
「何よ、最後まで言ってからいきなさいよ……馬鹿、馬鹿、馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!!」
 業、轟。
 最早、消化試合だ。
 バケツでひっくり返した様な血塗れの周囲に、燃える魔槍。
 幼い少女、朱里の。蝕まれていくのは身体か、心か。
 それよりも許せない事が積み重なって。
「お前等ァァ!! 返して、返してよ!! お前等なんて、お前等(リベリスタ)なんてだいっ嫌いよ!!!
 全部、全部、殺す!! お前等全部、此処から生かして帰らせないわ!! 絶対、絶対よ!!!」
 槍を持ち上げた、だが、槍の尖端を夏栖斗が持った。
 彼のトンファーから吹き上がる炎と、槍から溢れる辛さの炎が相殺されていく。
「もう、止めよう?」
「……わかってる。わかってる、わよ、うるさい、わ、ね」

 大の為に、小を犠牲に。それって、こういう事なの……?

 ――――――
 ――――
 ―――

 たった少しの奇跡であったが。好転した事実もあった。
「あれが、リベリスタだよ……」
 座り込んだアルエ、傍らには殺そうとした子供が一緒に座っていた。
「私達、間違ってたよ。ごめんね……ごめんね」
 ぎゅ、と抱きしめた子供がにっこり笑ったのは、きっと幸先の良さを暗示していた事であろう。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
皆様お疲れ様でした、結果は上記の通りとなりましたが如何でしょうか?

今回、一番発生しないだろうなと思っていたラストを迎えて正直びっくりしている所です
まさかベリーハードでこうなるとは
事態を好転させたゲルトさんにはMVPを送ります
お疲れ様でした、ゆっくり休んでください

サーカス一派は三尋木を(勝手に)抜けました
日本には勿論いられないでしょうし、今後アークの手を煩わせる事は無いでしょう
世界の巷で、ひっそり公演しています
赤神の朱里ちゃんだけは危険な槍と一緒にアークでリベリスタ見習いをやるそうです

長らくクリム・メイディルにお付き合いして頂いてありがとうございました