● 七派の一角も崩れ数か月、裏世界の事情は諸行無常の理、其の物である。 主流七派の一つである『三尋木』と言えども違わず、『潮時』であるのだろう。 引き際を、首領である『三尋木凛子』は間違えない。 そも、全ての発端はアークの存在だ。 此方が少しでも動けば……否、動く前に『動こうとすれば』彼等の鼻が異常レベルで効く。 やりにくい。 非常にやり辛い世の中に変わり果てたものだ。 そんな日本に、どうして留まる必要があるというのか? まさか三尋木も、日本に留まらなければいけない理由がある訳でもあるまい。 今はもう無いけれども……日本から手中に収めたかった裏野部でも無いし。日本最強の名を誇りたい剣林でも無い。日本を中心に表の社会にも枝葉を伸ばし過ぎている逆凪でも無い。 六道、黄泉ヶ辻についてはよく解らないものの、分かりたくも無い為に置いてはおき。 恐山にだけは、似た何かを些かにも感じるものの……別派閥だ。決して何処かで相容れない部分が存在するのだろう。 故に三尋木は『別』へと目を向ける事は、致し方無い事と言えばそうなるのだ。 ● 「皆さんこんにちは、本日も依頼を宜しくお願い致します」 頭を下げた『未来日記』牧野 杏理(nBNE000211)は慣れた様に、いや、人形の様な面持で話を始めた。 今回は海外へと行ってもらいたい、という事だ。 場所は、カンボジアのアンコールワット。 ――古き欲望の染みついた町。 「あちらのリベリスタはよく仕事をしているみたいですね。 ちょっと前まで子供が危ない目にあう意味で色々危険な所でしたが、最近はそういうのも減りつつある。 それ関係であれ、それが関係無いであれ、フィクサードも一斉に摘発されたみたいで……と、まあ、皆さんが行って欲しい場所の現状の説明はそんな所です」 勿論これだけを聞けば、リベリスタが浄化作業を続けているのならば、態々アークが動く必要は無いと思えるだろう。 理由としては、長々説明する必要があるようだ。 「危険な街として有名な場所『だった』。 例えば、誘拐とか、拉致とか、そういう子供達が助け出されたとして、行く場所も、帰る場所も無く、放り出されていた――としたら? 彼等は悲しい程に純粋なのでしょう。自分達がどうやってこれから生きて行けば良いのかさえ、分からない子たちが存在していたとすれば」 まさか。 其の子供達が、また別の組織に利用されようとしている―――? とかそういう事では無いのだが。 「似たようなもので、近いもので、でも違う存在になっている。 表向きは、保護された――という事なのでしょうけれどもね。例えばそれが、『三尋木凛子』の為に生かされている存在に成ったとしたら――?」 ● 「……というワケで、俺の役目は終わったも当然ですね」 『Crimson magician』クリム・メイディルは解放感溢れる笑顔と一緒に、何処か寂しげに呟いた。高級そうなソファに腰掛け、足を組み、手もたれに肘を乗せて、更に其処に顎を乗せる。 「もうちょっと凛子ちゃんの美貌を、一番近い場所で見惚れていたかったんですけどねぇ……」 そもそも、凛子が日本で優雅に過ごせる様に番犬をしていたのが実の所、クリムではあるのだが。 「おじさんもう疲れた、やだやだ戦うの面倒だし、アークとか怖い人ばっかりじゃあないですか」 ソファに足をあげて横になり、眠る様にソファに沈んだ赤い燕尾服。だが其の腹部に跨り、勢いよく乗っかったのは小さな小さな子供二人であった。 「ねーねーダンチョウさん! 鳩出してよ鳩!」 「やだーやだー鳩なんて! 手足拘束して箱につめて、脱出ゲームしてもらうのー」 「鳩だよ!!」 「脱出ゲームだよ!!」 腹の上でギャーギャー喧嘩し始めた二人を見て、片手を伸ばしたクリム。其の握った拳を開いた時、二輪の花が鮮やかに揺れながら出現した事に子供は目を輝かせた。 「麗しくも美しき淑女の御二方、今は此の花だけで我慢して下さい」 花を受け取った子供達は、笑いながらまた何処かへと走っていく。其の後姿に手を振りつつ……ソファの両脇に立った二つの影に言った。 「可哀想ですよね。 五回目の誕生日を迎えれば、『売られる』というプレゼントを喰らう運命を背負っていた子供達ですよ。拾った時は、此の先、如何生きて行けば良いか分からない、絶望塗りたくった無表情をしておりましたが……―――今ではやっと笑ってくれるようになりました! サーカスをやって良かった事は、サーカス公演が彼等彼女等の心を明るくしてくれるという事で、そういった意味では凛子ちゃんも適材適所な場所に送ってくれたものです……が、はは……」 明るい話題に花を咲かせてみたものの……拭いきれない錆びのような香り。其れが鼻を虐めれば虐める程に、戦えと言われているような気がして。 無造作に放り投げられたものがクリムの目の前に落ちた。 ――アッッ、ああっ、アアアッ!!? 「はぁぁぁ? あのですねぇ、もうちょっと話が可能な程度の原型で留めて欲しかったのですが」 両腕両足を吹き飛ばされ、下顎まで吹き飛ばされている。 滑稽な形で『殺して欲しい』と泣いて蠢くのは、如何見ても恐らくは、人であったのだが。 「俺の番犬は優秀ですねえ」 「「父さん」」 ソファ両脇の影はクリムの顔に似た、兄妹朱螺と、朱里だ。二人は阿吽の呼吸で話を始めた。 朱螺が少しずつ動かなくなっていく人へと指をさした。 「リベリスタ組織『ジャッジメント』の諜報部隊の一人だね。『嬉しい事に』、他の奴等は逃げてくれた! ボクの足でも追いつけない距離から千里眼なんて、ねえ? チキンなのかなあ、次見つけたらキチンと潰して箱に詰めて送り返しておくよ」 「捕まえられて、簡単に吐いたのよ其の子。恐らく捨て駒だね。で、此処の場所がバレた訳だけど。数日もしない内にぶっつぶしに来るはずだけれども?」 「「どうするの、父さん」」 「んー……さァてね。盛大なショーでも開催してみちゃいましょうか!」 ソファの端に放り投げだされていた聖杯を手に取り、装飾を指で撫でていく。 こんな場所であるから使えるものだが……正直、あまり此の聖杯を好いてはいない。 「こんなものに頼らずとも、やってみせますよ」 ● 杏理はまた喋り出す。 「皆様にやって欲しい事は、『子供達の保護』と、『リベリスタ組織の撃退』です」 話を聞くに、アンコールワットではお抱えのリベリスタ組織『ジャッジメント』が存在している。 彼等は少し頭が固いのか、それとも彼等なりの正義であるのか、『フィクサードは見つけたら即吊るす』くらいにはフィクサード除去に熱心に成っているという。 そんな彼等もまた、ある子供を利用して荒稼ぎしていたフィクサード組織を壊滅させたのだが、其の組織が抱えていた孤児院……つまり、潰したはずの『孤児院(事の発端)』が再興しているのが気に喰わないらしい。 其処に三尋木が関わっている事は既に分かっている。 何故ならば、その『ジャッジメント』から三尋木を如何にかする様に援軍要請が来ている為だ。リストアップされた中に明らかに三尋木所属である顔があれば疑う余地も無い。 成程、彼等も頭は悪くないという事か。 触れた事も無いフィクサード達を除去するに、一番関わりが深い組織に応援を頼むのは当たり前の事だ。故に我等は行かねばならない……。 「援軍要請を、私達は『表向き』には飲みました。 私達が現地に着き次第、孤児院を如何にかするつもりみたいですが……、私は、いえ、アークは此の要請を飲みたく無いのです。 まさか、仮にもリベリスタ組織である彼等が『手段問わず、子供達諸共敵を潰す』為に力を貸せなんて言って来るんですから……!!」 其の為に、リベリスタ組織の撃退が理由の一つと成る。 そしてもう一つ。 「三尋木が子供達を保護したのは、首領、三尋木凛子が何かしら使うからでしょう。『番犬』が子供達を護っているのは其の為です。 なので、リベリスタ組織を撃退する其の間にも、子供達を保護して欲しいのです。時村家が用意した孤児院に移す為です、彼等はあそこには居てはいけない……」 三尋木からしてみれば、首領の持ち物を持っていかれる事は防がねばならない事。 だが、もう一つ。 もし、三尋木がジャッジメントを潰せばアンコールワットに未だ錆びれても残っているフィクサード組織たちに、恩を高値で売れるという利点がある。 故に、三尋木はジャッジメントと交戦する事に意義がある。 子供を隠すならばもっと頭のいい方法があるはずだ。見えている場所に餌を置いたのは其の為だろう。 故に、ジャッジメントだけを止めたとしても三尋木が牙を剥いてくる理由がある。 三尋木『が』ジャッジメントを殺さなければならないからだ。 「状況的には、三つ巴になるかもです……。なお、カンボジア政府は此の一連のE能力者関係のいざこざには首を突っ込みたくないようなので、例えば子供達を引き取って欲しいといっても知らん顔ですね。 場所は孤児院、周囲には戦闘に支障になるものはございません。 表の玄関と裏口がある孤児院ですが、裏口から子供達が避難を開始しているはずです。 リベリスタ組織ジャッジメントは表から攻めていますが、時間差で裏口から本隊が攻めて来ます。其の、本隊の存在は三尋木は気づいておりません。 情報をどう使うか。 ジャッジメントを如何欺くか、裏切るか。 三尋木に交渉を仕掛けるか。 方法は、お任せ致します。 ただ、アークが派遣するリベリスタの人数とジョブは全てジャッジメントにはバレちゃいますね。 事にあたるために、皆様と、もう一人……同行致しますので……」 アンコールワットへ案内すると、『ジャッジメント所属』の褐色肌の美人な少女がブリーフィングルームへと招かれた。 勿論、彼女は『ジャッジメント』が呈した条件をアークが飲んでいない事を知らない。 「わあ! 世界でも有名な、此処がアーク、素晴らしい!! あのバロックナイツさえ退かせたり、殺したりしたリベリスタ組織の手を借りれるなんて、まるで、夢見たいです!!」 何も知らないまま、彼女は言うのだ。 「フィクサードなんてクソですよ、クソ! 皆様に、早く全世界のフィクサードを一掃して頂きたいなって、思ってます! えへへ、私の親もフィクサードに殺されました、其の日から奴等は同じ人だと思ってないんです。ね? 私みたいな人を作らない為に、全部、全部、全部全部全部全部」 殺さないと、潰さないと、消え去らないと。 ● クリムは言う。 「俺が、リベリスタだけにはなりたくないって思う理由が目先の敵みたいな存在のせいですよねえ」 異端は全て浄化せねばならない。 悪の根源は全て断たねばならない。 暗闇は全て払わなければならない。 例えば其れが、罪も無い人々を罰する事になったとしても。 例えば其れが、人道外れた酷いやり方であったとしても。 犠牲が無ければ、安寧は訪れない。 大の為に、小を犠牲に。 其れが『リベリスタ組織』のあるべき姿である。 『ジャッジメント』は決して、子供の時に夢見たお話の中の救世主なんかでは無い。 リベリスタは決して、正義のヒーローでは無い事を此処に証明しよう。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:VERY HARD | ■ ノーマルシナリオ EXタイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年09月18日(木)22:14 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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