● 「畜生、あいつら馬鹿にしやがって!」 水雲高校ロボット同好会会長兼副会兼一般会員、一条達也(いちじょう・たつや)は誰もいない夜の部室でゴミ箱を蹴っ飛ばす。もっとも昼間だった所で、彼以外の部員はいないのだが。 残念なことに、水雲高校には彼以外のロボット製作に興味を持つ生徒はいなかった。むしろ、奇異の目で見られることが多く、実績も出ないために馬鹿にされることも多い。今日の昼間も、部員募集のチラシを配っていたら笑われた。 「絶対に来年の大会では、見返してやるからな」 取り出したのは、今年のロボット競技大会に向けて作ったロボット「カリバーン」。キャタピラの下半身を持ち、上半身は幼い頃に達也が好きだったアニメのロボットをモチーフにしている。完成していたにも拘らず、大会規約に部員の数が足らず、日の目を見ることが無かった悲劇の機体だ。そして、達也だけの秘密を有したマシンでもある。 部室を出ると、誰もいない校庭の片隅で「カリバーン」を動かす達也。その手に操られて動く「カリバーン」は、高校生が作ったとは思えない細緻なアクションを行っていた。 「よし! 今度はロケットパンチだ!」 今度はリモコンを操作せずに、叫び声を上げる。 すると、どうしたことだろうか。 「カリバーン」の両腕が外れ、そのまま飛び出したかと思うと、的として用意されていたドラム缶を易々と破壊してしまった。 「百発百中だぜ! それにしても何でこんなことが出来るようになったんだろうな」 当たり前のことだが、一介の高校生にこのようなロボットが作れようはずは無い。 ある日、突然このように常識であれば考えられないような動きをするようになったのだ。 「こいつは大会に出せないと思うけど、何でこうなったのかは知りたいな。その仕組みさえ分かれば、今度の大会で優勝して、あいつらを見返すことも夢じゃない! そして、みんなの尊敬を集めるようになり、行く行くは総理大臣になって、僕のプロマイドは女子高生にバカ売れに……フフ、フフフフフフ」 妄想は何処までも広がる。 未来の自分の姿を夢想する達也の顔にだらしない笑みが浮かぶ。 と、そんな時だった。 「アレ? 操作が効かないぞ?」 突然、操作を受け付けなくなる「カリバーン」。 今まではこんなことなかったというのに。 慌ててガチャガチャとコントローラーを動かしてみる達也だが、「カリバーン」には何の反応も無い。 「おいおい、マジかよ? いや、お前なら出来るはずだ、カリバーン! なせば成る! お前は男の子だろ!」 必死にコントローラーを動かす達也。そのせいで、突然伸び上がった、自分を覆う影にも気づかない。 「動け! 今、動かなきゃ、何にもならないだろ! ……ん?」 そして、ふと気付く。目の前に聳える鉄の巨人の存在に。 「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 達也の前に立つ巨大な影、それは紛れも無く「カリバーン」の姿をしていた。 ● すっかり秋らしくなった11月のある日。リベリスタ達はアークのブリーフィングルームに集められる。そして、リベリスタ達に対して、『運命嫌いのフォーチュナ』高城・守生(nBNE000219)は事件の説明を始めた。 「これで全員だな。それじゃ、説明を始めるか。あんたらにお願いしたいのは、エリューション・ゴーレムの討伐だ」 守生が端末を操作すると、スクリーンにはキャタピラの下半身を持ったロボットが現れた。 「んー、まぁ、言いたいことは分かるけど、続きを聞いてくれ」 コホンと咳払いすると、説明を再開する守生。 「現れたのはフェイズ2、戦士級のエリューション・ゴーレム。とある高校のロボット同好会で作られたロボットが革醒したものだ。一応、識別名はこいつの名前に従って『カリバーン』としてある」 ロボット競技、と呼ばれる競技がある。レギュレーションに応じたロボットを製作し、その確かさを競うというものだ。実はかなり長い歴史を誇り、高校生の大会もかなりの規模及びレベルになっているのだという。 「で、この『カリバーン』は以前から革醒していたみたいなんだが、力が弱いせいで検知できなかった。それがエリューション化の進行によって検知できたんだ。単体だが、進行度の割に強力な個体だ。被害を出す前に、確実に止めて欲しい」 さらに、守生は端末を操作すると、スクリーンに地図を表示させる。『カリバーン』が存在する学校だ。 「『カリバーン』は、この校舎に製作者の学生と一緒にいる。今から向かえば、ちょうど強制進化が完了したタイミングで到着するはずだ。そこで倒して欲しい」 幸い夜の校舎で人は多くない。人払いの準備もしておけば、周囲を気にすることなく戦うことも可能だ。 「それで……なんだが、これは補足。依頼自体とはあまり関係ないんだけど」 少々歯切れ悪そうにものを言う守生。バツが悪そう、とも言えるだろうか。 「可能だったらで構わないが、現場にいる『カリバーン』の製作者にもフォローをしてもらえれば、とも思う。目の前で形を変えたとは言え、自分の作ったものを破壊される訳だからな」 もののついでで良い、と付け加える守生。相変わらず不器用な少年である。 「説明はこんな所だ」 そこまで言って、居住まいを正す守生。 「あんた達に任せる。若い命を真っ赤に燃やして……」 コホンと再び咳払いをすると、その鋭い瞳で睨むように、リベリスタ達に送り出しの声をかける。 「あんた達に任せる。無事に帰って来いよ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:KSK | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2012年11月20日(火)23:24 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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● 「はっ、でけぇな。こりゃ、歯応えがありそうだぜ」 「へ? ……だ、誰?」 無骨極まりない金属の手甲に包んだ両の拳を打ち鳴らし、『BlackBlackFist』付喪・モノマ(BNE001658)は楽しげに笑みを浮かべる。 そして、達也はその足元で腰を抜かしていた。突然、目の前で巨大化した自分のロボット。そして、いきなりの闖入者。状況が理解出来ずに頭が真っ白になるのも致し方ない所だろう。 「御機嫌よう、一条達也さん。混乱しているところ申し訳ありません」 『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)は達也を庇うように前に出ると、エリューションに向かって突き出すように杖を構える。 「カリバーンを……あの子を、止めさせていただきます」 「ちょ……ちょっと待ってくれよ!」 達也が慌てる。 ミリィの方が年は幼い。 しかし、その大人びた雰囲気と備えた覚悟が彼に理解させる。 ミリィの言う「止める」は「破壊する」と同義だということを。 そして、『運命狂』宵咲・氷璃(BNE002401)は絶対零度に冷え切った声で、それを明白な言葉にする。 「貴方が一条達也、ね? 制御不能に陥ったカリバーンが暴走を始めたから、悪いけれど校舎を破壊する前に破壊させて貰うわ」 「アレを作ったのは俺なんだ。ちゃんと、制御してみせるって!」 手元のリモコンを手に取ろうとするが、生憎と転んだ拍子にぶつけてしまったのか反応は無い。それでも、必死に達也はリモコンを操作しようとする。 そんな彼を『ピンポイント』廬原・碧衣(BNE002820)はスッと手で制する。 「いいか、古今東西人の制御を離れ暴走したロボットはどうなってきた?」 相手の目線に合わせて、優しく諭すように。 「アレはお前の制御を離れて好き放題に暴れだしてしまった。出た被害の責任を取れるのか? 私達については…そうだな。こういう状況になったときの専門家みたいなものだ。ほら、立てるか?」 碧衣が手を差し伸べると、達也も彼なりにプライドを振り絞ったのだろう。自分で立ち上がってみせた。そんな姿を見て碧衣は微笑むと、安全な場所まで誘導する。 「危ねぇから、大人しくしてろよ?」 モノマはその場を去る達也に対してぶっきらぼうに言うと、緩やかに戦いの構えを取った。 ● 「それじゃあロボット競技、試合開始と行こーぜ!」 『Gloria』霧島・俊介(BNE000082)のテンションは高い。 普段であれば勇名を馳せるアークのリベリスタだが、詰る所は男の子なのである。 「まあ、相手はロボットじゃなくて、魔法使い達がお相手だけどな」 嬉しそうに言うと、体内の魔力を活性化させる。それに伴って、わずかな輝きを帯びるバトルスーツ。 「ロボットかー。何て言うかこう、ワクワクするよな。俺がガキん頃にも色々売ってたな」 そして、ここにも男の子が1人。 『住所不定』斎藤・和人(BNE004070)、41歳。職業リベリスタで血液型はA型。 彼が子供の頃と言うと、ちょうどロボットアニメというジャンルがブームとなっており、様々な作品が作られた時期である。彼の場合、厳しい家の事情で手に入れるロボットの玩具を手に入れることは叶わなかった。それだけに思う所もあるのだろう。 要するに、男と言う生き物は、子供の部分を中々捨てられないもんなのだ。 「ウオ!! ロケットパンチきたこれ!!」 「そう来なくっちゃな」 エリューションの腕がロケット噴射でリベリスタめがけて飛んでくる。 喜びの声を上げる俊介と和人。 そして、そんな男共も含めて冷ややかな視線で分析する『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)。 「いやはや姿だけは立派だな。ヤラレ役ならこなせるだろう。さて踊ろう、玩具と遊んで遊ばれようか?」 そう言って、大地を蹴ると鋭い動きでエリューションに接近する。 背丈の低いユーヌからすると、相手の体躯は圧倒的だが、それに臆する彼女ではない。 そんな彼女に向かって、エリューションは巨大な拳を撃ち出す。 「主役には役者不足だな。中身が足りない」 飛んできたロケットパンチをひらりとかわすユーヌ。 すると、胴体に戻ろうとして減速した腕をがっしりと、伸び上がる影が捕えた。 「ロボット壊すのはちょっぴり心が痛むけど……これもお仕事!」 影に見えたものは『ビタースイート ビースト』五十嵐・真独楽(BNE000967)の操る破壊のオーラ。 「涙をのんでがんばるぞっ」 真独楽が念を凝らすと、腕の装甲に皹が入った。 ● それにしても、と氷璃は思う。 「競技用のロボットにしてはやけにダサいわね。上半身と下半身のデザインがバラバラな所為かしら?」 どうしても目の前のエリューションからは、アンバランスな印象を受けてしまう。何を言った所で、「カリバーン」がいわゆる中二病――思春期の青少年にありがちな承認欲求――の産物であることは否定できないだろう。どこぞのフィクサードがいれば、一切の躊躇無く破壊しているはずだ。 「競技用なら競技用、趣味なら趣味として極めてみればいいものを。そうすればロボット同好会にも自然と人が集まるでしょうに」 嘆息をひとつ。 観察ついでの感想はこの程度にしておこう。 お陰で詠唱の間の暇つぶしと、相手の動きを見ることが出来た。 「お眠りなさい」 氷璃の言葉と共に現れた黒い鎖が、2本の腕を縛り上げる。 その気になれば胴体を封じることも出来ただろうが、既にその身をエネルギーで覆っており、攻撃は危険だ。 一方、モノマは返ってくる衝撃に対しても、臆す事無く拳を振るう。 自分の体力を考えれば、この程度の怪我は誤差の範囲だ。 「その程度かよ! それと、もう1つ言ってたかったことがあるんだがな……」 炎を纏った拳を振り抜くと、すぐさま大地を踏み締め、その勢いを利用し逆向きに殴りつける。 「こんな所で暴れてんじゃねぇっ!!」 炎の竜巻でも起こしているかのような荒々しさからは、普段ののんびりとした姿など想像もつかない。 その怒涛の如き勢いの前に、エリューションはロケットパンチで反撃を試みるも上手く行かない。先ほどの鎖で動きは封じられているのだ。その隙を突いて、リベリスタ達は着実に部位を狙った攻撃を行う。 「さっきのお返しだ! アークの大魔導師の神秘術、見せてやんよ!」 展開した魔法陣から現れた魔力の矢が、エリューションの腕を狙い撃つ。 ロボット好きな男の子としては、思いっきりぶつかってみたい。 真っ向勝負だ。 「ま、取りあえずこの状況を何とかせにゃな。未来もクソもなくなっちまう」 そこへ行くと和人はやや冷静。 ロボットへの憧れはあるが、それはそれ。任務は任務だ。 それに。 自分がダメなおっさんなのは自覚している。それでも、目の前で若者が死に瀕しているのを放っておけるほど、最低な生き方をしているつもりは無い。 全身に気を巡らせると、そのエネルギーを纏った腕を振り下ろす。 次第にロボットの片腕から感じる抵抗が弱くなってきた。 「ほらよ、後は任せた」 「まあうん、お仕事だ。それなりに頑張る」 そこへ駆け付けて来るのは、達也の保護を終えた碧衣だ。 「一部の装甲のバランスが悪いがある……だったっけ? ロボットと言えば、弱点あるのがお約束だけど、そこまで徹底しなくていいだろ」 エリューションに手を向ける碧衣の手から、鋼よりも硬く、絹よりもしなやかな気糸が現れる。 狙う先は、達也から聞いた「カリバーン」の弱点。氷璃の指摘している通り、このロボットは競技に向けて作られながら、趣味的過ぎてバランスを欠いてしまった代物。構造に不安定さが残っているのだ。 「くっ」 気糸がエリューションの身体に触れたタイミングで、碧衣の口から痛苦の呻きが漏れる。 気糸を伝わって、衝撃が戻ってきたのだ。しかし、まだ攻撃を受けていない分、体力に余裕はある。覚悟があれば、耐えられない痛みではない。 そして、先に我慢比べに負けたのはエリューションだった。 集中攻撃を受けていた片腕が、動かなくなる。 それでも、エリューションの抵抗は終わらない。キャタピラをフルに動かして、胴部からの体当たりを繰り出してきたのだ。元は小型のロボット。全力でぶつかった所で、子供に傷つけることだって不可能だっただろう。しかし、今や強制進化の結果として、その外見に見合った力と重量を手に入れているのだ。 「キャタピラ……変形したりとかしないかなっ!」 一瞬期待の目を向けた真独楽だが、近くをかすめた威力に目に目を開き、慌てて首を振る。 「じゃなくて! ロマンはあるけど、ソレで有利になられちゃ困るもんね」 大きくて、重たいものがぶつかれば、痛い。 怪我をする。 そんな単純な物理法則がリベリスタ達へと襲い掛かってくる。 対するリベリスタ達も負けてはいない。一層苛烈な攻撃をエリューションに返す。 「てきはきょだいボロット! それでも、ミーノサポートがんばるっ」 鋼のぶつかり合う音が響き合う戦場に『おかしけいさぽーとにょてい!』テテロ・ミーノ(BNE000011)の、巨大な敵への恐れを打ち払うように小鳥のような声が響く。それと共に流れる福音が傷ついたリベリスタ達の怪我を癒す。 巨大ロボットへの憧れは、畏れの反面存在する、大きいものへの憧れだという。 人間は多かれ少なかれ、大きく力あるものに憧れる傾向がある。 達也のロボット好きも、つまりはそういうものに端を発しているのだろう。 俊介や和人も恐らく同じだ。 (しかし、高城は素直じゃねぇな。あいつロボ好きだったのか) 電撃の速さで動きながら、口元を歪めてモノマは思う。 あの捻くれ者のフォーチュナも同じなんだろう。 それでも、目の前のエリューションは潰す。これを放置しておくと、間違いなく多大な被害をもたらすだろう。製作者の意図とは沿わぬ形で。 (カリバーンは、もしかしたら達也さんの気持ちに応えたかったのかもしれませんね。一生懸命なその姿を、間近で見てきたのは彼なのだから) ミリィはふと思う。 考えてみると、話を聞く限り、エリューション化が発生していたのはそれなりに前からだ。その間、このE・ゴーレムは周囲に破壊をまき散らすようなこともせず、達也に従っていたのは事実だ。 達也が様々な想いを込めて、作ったロボットである。その想いを一番近くで見てきた。だからひょっとすると、一部のノーフェイスやE・ビーストと同じように、戦いを好まずに製作者との共生を望んでいたのかも知れない。 そんなものを倒すことに罪悪感はある。 それでも、放置は出来ない。エリューションを生かすことは世界を危うくするのだから。 だから。 「戦場を奏でましょう」 ミリィの哀しい唄と共に発された光が戦場を焼く。 エリューションは両の腕を失い、それでも動きを止めずにリベリスタへの抵抗を止めない。 「子供の玩具を壊すのは気が引けるが、革醒したなら仕方ない。最後の活躍、精々踊ると良い」 体当たりをかわしつつ、ユーヌは印を結ぶ。 「そろそろ芸も尽きたか? さくっと割れるのも様式美だな」 ユーヌが言葉を紡ぐと、それは現実のものへと変わる。 今までエリューションを覆っていた光が、ガラスか何かのように割れてしまった。 慌ててバリアーを張り直そうとするエリューション。 しかし、そこに弾丸のように真独楽が駆け込んでくる。 「まこも命を真っ赤に燃やすよ!」 風よりも速い斬撃で爪を突き立てる。 機動性に劣るエリューションは手も足も出ない。 そして、そこに向かって腕を突き出す俊介。 彼の手前では、必殺の魔力を蓄えて、魔法陣が回転している。 「俺も負けるか! ホリメパーンチ!」 俊介は熱い咆哮と共に、魔法陣に拳を叩き込む。 すると、そこから現れたのは、ロケットパンチを思わせる、鋭い魔力の矢。 真っ直ぐ一直線に放たれた矢がエリューションの胸を貫くと、エリューションは派手に爆発四散するのだった。 ● ことが終わった後で、リベリスタ達はショックに打ちひしがれる達也の前に向かう。四面楚歌の彼にとって、『カリバーン』は数少ない心の拠り所だったのだ。それを失った悲しさは如何ばかりのものか。 「そ、そんな……。俺、どうすれば……」 今にも泣きだしそうな表情だ。 状況の展開が早過ぎて呑み込めないだけで、落ち着けば泣きわめいていたに違いない。 そして、そんな達也をユーヌは一刀両断する。 「熱意の空回りか。ベクトルがずれていたらどうにもならないな。一度頭を冷やすのをお薦めするが。まぁ、ここで諦めるのが一番早いかもな?」 ユーヌの言葉に力無くうな垂れる達也。構わずにユーヌは続ける。 「諦めないなら無力自覚し縋ると良い。評価されたい時点で人に縋ってるのだから」 達也自身が自覚していなかった、いや目を背けていた点にもズカズカとメスを抉りこんでいく。 「好きな事に熱中出来るってのは良い事だ、うん。でもなー制作の腕は兎も角それじゃモテねーわ」 クリティカルヒットの後に、連撃が発生。攻撃はまだ続く。 「どーせ相手そっちのけで一方的にくっちゃべって、ドン引かれるパターンばっかだろ?」 「専門用語を連発、知らないと上から目線、妄想が駄々漏れ、ロボットを作れる自分は凄いから尊敬しろと取れる言動、あなたの『勧誘』って大体そんなもんじゃないのかしら?」 「あんた達に何が分かるって言うんだ! って言うか、何で分かるんだ!? あんた達の目は神の目か!」 和人と氷璃の言葉に身悶えする達也。 思わぬ所で、遠からぬ真実を言い当てているのは一種の才能かも知れない。 もっとも、『万華鏡』はそこまで詳細に予知したわけではない。ただ、少し話を聞いて、考えてみれば分かる話でもある。学校の生徒だって1人や2人ではない。少しくらい、ロボットに興味を持つ生徒がいてもおかしくないだろう。 にも拘らず、勧誘しても部員が増えないということは、つまりそういうことだ。 「そんな内容が含まれていたら人が集まる訳無いでしょう?」 そして、真実と言うものは残酷すぎる程に、人の心を傷付ける。 最後に残っていた自尊心すらもズタズタにされる達也。 「確かに、部員が集まらなかったのは、達也さんにも原因があるかもしれません。自分を肯定して、他に目を向けないで居るのは、楽ですから」 そこへ訥々とミリィが声を掛けると、また罵倒されるのかと顔を上げる達也。 しかし、ミリィの言葉は違った。 「それでも、まだこれで終わってしまった訳ではありませんから。だから、少しずつ変わっていきませんか? 皆で笑いながら、努力しながらロボットを作れる日が訪れるように」 「すげーロボット作って、馬鹿にしてた奴等見返して、皆から尊敬される地位について、モテモテになるんだろ?」 ミリィの言葉に続けて、和人が柔和に笑う。 「将来有望な若者を救えたなら本望って奴だ」 「でも、出来るかな……」 「あんなロボット作れたんだもん。その情熱があれば、もっと強くてカッコイイ、宇宙最強のロボットが作れるよっ!」 真独楽の明るい声が達也を励ます。 無邪気に信じていることがはっきりと伝わってくる。そして、無条件の信頼は人の心に強い心を与えてくれる。 「お前は勝手に動き出すほどのロボットを作り上げたんだ。そうそう出来る事では無いと思うぞ。だから、胸を張るといい」 「ふふ、相手の事を馬鹿にせず思いやって接し、貴方の情熱を伝えればきっと仲間も増えますよ」 碧衣はちょっと目をそらしながら頷く。 嘘にはなるがが、心の支えになってくれるというのであれば、罪ではないだろう。 『幸せの青い鳥』天風・亘(BNE001105)の涼しげな笑顔に釣られて、達也の顔にようやく笑顔が戻る。 「またロボット作って、できたら見に来るよ。約束な。きっと、その頃には一条の努力に目を向ける人が自然と現れるって信じてんよ」 「あのロボは暴走してたから壊しちまったけどな。これに懲りずにまた頑張って作ってくれよな。主人公機ってのは壊れてからパワーアップするもんだろ」 「あぁ、そうだな。分かった、やってみる。早速、今夜からだ!」 ニカッと笑う俊介と、軽く微笑むモノマ。 男の子同士、通じるものがあるのか。強い意志を持った瞳で頷く達也。 次の大会まで時間はあるが、やるべきことはいくらでもある。 「だったら、まこ、変形するやつが見たいなー! 今度見に来てもイイ? 動かしてみたーい!」 「出来るかな……でも、そういやどっかでそんなことやったって人の話が……」 エリューションの残骸はアークの処理班が撤去してしまった。だから、「カリバーン」への感謝と黙とうを軽く済ませ、リベリスタが見守る中、達也は新たなロボットの設計へと向かっていった。 これから彼がどのような道を進んでいくのかは分からない。 それでも、1つ言えることはある。 望む限り、夢を掴むことは、不可能では無い。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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