●ドカンドカン 深夜。 仕事の疲れと愚痴を馴染みの飲み屋で落としてきた男性が、駅から自宅へとおぼつかない足取りで向かっていた。 気分がいい。月も綺麗だ。 人気の無い暗がりをゆっくりと歩いていた男性は、しかし家の近くの工事現場に迫ったところでその音を耳にした。 ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ…… 何か、重いものが地面を転がっているような音。さらに、金属質な衝突音、続いてガラガラと何かが瓦解したかのような破砕音。 何の音だろう? 酔いもあってか大胆になっていた男性は恐怖より好奇心が先に立ち、工事現場の立ち入り禁止と書かれた先へと足を踏み入れていく。 そこで見たものは、現場を所狭しと転げまわるねずみ色の筒だった。 コンクリートで出来た土管? 驚きの中見ていた彼は、さらに驚く。土管と目が合ったのだ。 そう、目だ。 ピタッと止まった土管の中ほどに、目が一つ。横長の目の中の、猫よりもさらに細い縦長の瞳が、爛々と紅い輝きを放ち彼を睨め掛けていた。 恐怖から外へと向かって後ずさる彼の前で、ゴロリと重い音を立ててゆっくり土管が動き、片端を男性の方へと向ける。 そこには闇があった。向こうの端など見えず、中身など見えず、ただまったくの黒があった。 その黒の中に、先ほどの瞳と同じく紅い輝きが灯った瞬間、本能的に感じた危機感に男性は駆け出した。 現場から一気に逃げ出した彼の背後で、激しい爆発音が轟く。 ●空き地の主 「次の朝、作業員が来たときには地面はならされて、綺麗な空き地になってしまっていたらしいわ」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、状況説明の最後をそう締めくくる。 それは市内のとある工事現場で数日前に起こった事件。 しばらく放置されてきた空き地が、ようやく引き取り手と目的が決まり工事が開始されたのだが、2週間分の作業が全てまき戻されてしまった形になる。 「土管は、E・ゴーレムで間違いないと思う」 ひとりでに動き回り、進路上に存在するものを踏み潰して行く。 金属製の柱を体当たりで叩き壊せる強度、踏み潰せる重量。色はコンクリートのままだが、似て非なる異界のモノに変質しているのは明らかだ。 どうやら長さもある程度変化するらしく、避わすのも一苦労。さらに両端からの強力な砲撃も可能。 土管というよりかは伸縮自在の大砲が転がっているといった方が近いかもしれない。 「調査と万華鏡で視えたものを併せると土管ゴーレムは、日中に工事現場内で”何か”を設置したら、夜の間に動き出して破壊していくみたいね。 破壊が終わると、地面の中に埋まっていくのも視えたわ」 活動範囲が今はまだ現場の中だけで済んでいるが、この先フェーズが進んでしまった際にはどうなるか。楽観はできない。 「人や工事現場の外に土管ゴーレムの被害が拡大する前に、なんとか倒して欲しいの」 ミッションの最後に、イヴは意思を確認するように一人一人へと視線を送り、最後にポツリと付け加えた。 「気をつけてね」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:仁科ゆう | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年06月20日(月)22:18 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●準備 「なるほど……ありがとうです!」 『クレセントムーン』蜜花 天火(ID:nBNE002058)との会話を終え、動物達がそれぞれ住処へと帰っていく。 「天火さんの聞き込みの結果……とくにこれがないとダメってことはないみたいです!」 動物達との会話による収穫を、えっへんと胸をはって主張する天火。 いまいちハッキリとしない動物達からの情報だが、分析してみると工事は3日間同じ工程、前々日に持ち込まれた資材を使っていたことがわかった。 特定の”何か”に反応してのことではない、と思われる。 「ありがとう、天火さん。それじゃ中央に1列に、皆でどちゃっとモノを配置していこうか」 そういって、『駆け出し冒険者』桜小路・静(ID:nBNE000915)は懐中時計型のアクセス・ファンタズムから赤いコーンを取り出していく。 「しっかしこのスワンボート、本来の使い方はしたこと無いけど、こういった時にすっごくちょうほうするわよね」 そういってズッシリ重いスワンボートを取り出した『ガンナーアイドル』襲・ハル(ID:nBNE001977) 同様に『天翔る幼き蒼狼』宮藤・玲(ID:nBNE001008)もスワンボートを取り出し、さらにバス停も配置していく。 「天火さんも赤いコーンを設置するです」 天火も静と同じコーンを2個取り出し、ひとつはそのまま設置。もう1個はリュックのように背負って持ち運べるよう、ロープを渡していく。 「お? 皆で持ち寄ったものを一列に並べる流れ? ではぐるぐさんのアクセも置きましょ置きましょ」 『Trompe-l'œil』歪 ぐるぐ(ID:nBNE000001)もやかんやらトランペットなんかを取り出していき、最後に取り出したものを高々と掲げてみせた。 「マイラジコン、その名もアグナム!」 かっ飛べアグナム! とそのまま入念に動作チェック。土管が出てくる夜まではまだ時間があるため、時間つぶしにはちょうどいいのかもしれない。 布団6点セットを空き地に広げていた『闇猫』レイチェル・ガーネット(ID:nBNE002439)が、その様子をみて持ってきていた荷物を取り出す。 「あとは……空き地でピクニック? おにぎりや飲み物も準備してきてますので」 「天火さんも用意してきたです。倒れないように熱中症対策も万全ですよー」 ござに日傘にお弁当にスポーツドリンクまで完備したピクニックセットである。 「ピクニックか……。昼のうちに英気を養っておくといいか。一応結界を張っておこう」 『不機嫌な』マリー・ゴールド(ID:nBNE002518)はちょうど良いモノを持っていなかったということで、結界役を買って出た。 まだまだ日は高い。土管が現れるその時を8人は笑い合い会話を続けながら待っていた。 ●出現 夕日が沈み、静かな夜が訪れる。 数時間をこの空き地で過ごした8人の前に、果たして土管はその姿をようやく現す。 それは唐突に起こった。地面の一角が突然轟音と共に弾け飛び、土を押しのけてコンクリート(みたいな色の)長い物体が転がり這い出てくる。 その姿は、ザ・土管! 土管以外の何者でもない。 強いて違いを上げるとすれば、人が一人スッポリ楽に納まるほどのあるやや大振りな直径と、真ん中にギラリと光る瞳があること。 「でっかい土管だよ! すごーい!」 玲は実物の土管の大きさに驚いているぐらいだ。 「やれやれ……土管……のぉ。ま、肩慣らし程度にはなるじゃろうて」 立ち上がって『鬼神(自称)』鬼琉 馨(ID:nBNE001277)がアクセス・ファンタズムを起動し、武装と同時にどっしりとした構えを取る。 「ま、せいぜい若い衆の足を引っ張らぬよう勤めさせてもうらおうかの」 8人は配置した障害物を囲むように、ばらけて陣取る。 さらにぐるぐ、玲、天火、レイチェルは夜闇を照らす光源に、用意してきた懐中電灯を腰から下げて灯りをつける。 「工事現場に現れるドガンドカン砲撃する土管とは……っふ、このガンナーハルの相手にふさわしい相手よね。このドカン土管をみんなで粉砕して、実力を示し工事現場も解放して一石二鳥にして見せようじゃないの!」 出現時の轟音は恐らくその砲撃だろう。距離をとったハルは両手に銃を構えながらやる気をみなぎらせていた。 土管はといえば、ゆっくりその場でぐるりと回転し、そのギラギラとした瞳で空き地の中の様子をじっくりと観察している様子。 「土管の奴、空き地を守ろうとでもしてるのか? 空き地に思い入れがあるなら悪いが阻止するぜ」 「あの土管にとって、拘るべき何かがココにはあったのでしょうか。どうであろうと今のソレはただの危険な化け物、排除させてもらいます」 静とレイチェル、2人の放った言葉に反応したわけではないだろうが、目標を見定めたのか、さきほどと反対周りに、今度はぐるっと素早く回転する土管。 「単純にモノを踏み潰すのが好きなだけかもしれないがな。グシャーってやるの気持ちいいし。されるのはゴメンだが!」 土管の瞳が大きく開き、爛々と輝く。 「よぉ」 ガンを飛ばして威嚇したマリー。中心に向かって突撃をしようとした彼女に、むしろ向かってくるように速度を上げて土管がゴロゴロ転がってくる! 間一髪で避けるマリー! が。 「やだ! ホントに伸びた!」 玲が思わず口にした通り、土管の長さが急に長くなり、間一髪で避けたと思われたマリーが土管に轢かれてしまう! さらに土管はゴロゴロ転がり続け、片輪ドリフトのように急激な方向転換をすると、中央に並べられていた障害物を一気に踏み潰す起動を取る。 「動く土管さんと遊ぶです!」 天火は赤いコーンの片方をアクセス・ファンタズムにしまいこみ、もう一方に巻いたロープを使い背負って走り出す。 対してぐるぐは待ってましたとばかりに、マイラジコンの電源をON! 「いっけー! アグナーム!」 ドカンから逃げろー! とばかりに、ゴロンゴロン不吉な音をさせながら迫る土管から全速力で離れるように操作する。 だが……あっあっ追いつかれ…… 「ア……アグナーム!」 バギッ! 一直線に追いすがってきた土管に、あわれアグナムはペシャンコに潰されてしまった。 愕然と膝をつくぐるぐを他所に、障害物を一直線に踏み砕いた土管は、またしてもきゅっと急激に、今度は天火に向けて方向転換をする。 「こっちに向かってきたけど……おお、受け止められる気がしません」 矛先が自分に向いたのを確認し、天火が逃げるスピードを速めていく。 ●DO CAN 「畜生……避けるのが難しいか……」 さきほど踏み潰されたマリーは、体中の痛みをこらえて立ち上がった。 「なら迎えうってやるさ。どんだけ硬ぇか知らねーがぶった斬るまでだ」 そう小さく零すと、天火を追いかける土管へ向かって駆け出す。 土管は、情報どおりに非常に堅かった。 「まったく、効いてるんだか効いてないんだかわからないじゃない!」 2丁拳銃での攻撃も、確実に命中はしているものの、表情がない相手だけにどれほどの痛手を与えられているのか判断がつかないことに苛立ちを見せるハル。 「スキャンが成功するといいんですが……今は効いてることを祈るしかないですね」 ハルの反対側からダガーを投げつけているレイチェルも、エネミースキャンによる土管の状態の把握が上手くいっておらず、しかしいつでも攻勢を仕掛けられるように隙を狙っていた。 「土管が退かんってね!」 攻撃に動じない土管の姿にぐるぐも軽口をたたきながらコンセントレーションで集中力を高め、一瞬の隙とチャンスを見極めていた。 凡そコンクリートとは似ても似つかぬ堅牢な土管、その防御力をかいくぐるため、玲と馨は内部からの破壊――土砕掌を狙って接近戦を仕掛ける。 「上手く極れば良いんだけど」 玲は素早さを活かして土管へと近づくと、そのまま回転する土管へと飛び乗った! 乗った。 乗ったが、天火を追って不規則な挙動と高速回転をする土管の上では体勢を維持できず、回転に巻き込まれ地面に落ち、土管に轢かれてしまった…… 「玲! 大丈夫!?」 静の声に、ふらふら手を上げて応える玲。 その姿を確認し、ハルはアクセス・ファンタズムからバス停を新たに取り出して、土管に銃を打ち込み注意を自分の方に向ける。 「ほらほら、こっちにもまだ邪魔なモノがあるわよ!」 銃撃で気付いたのか、新たな障害物が設置されたのを感知したのか、またまた方向転換をする土管。 向かってくる土管に、バス停から距離をとるハル。 その軌道上にはぐるぐがいた。 「<飛行>で飛べば、砲撃だけに注意すればいいかな?」 向かってくる土管、近づいてくる土管、ゴロゴロ音を立てて迫り来る恐怖の土管! 「ものは試しさフライハーイ」 強く大地を蹴りつけ、ぐるぐは空へと舞い上がる。 すると、その足元をゴロゴロ音を立てて土管は通り過ぎていく。 「おぉ……盲点というかフライエンジェにしかできない回避方法ですね!」 仲間からの感嘆の声に、むくむくともう一つの可能性も試したい気持ちが膨れ上がってくる。 「穴より高い位置にいれば砲撃もあたらないのかな……?」 ●ドッカン 土管がバス停を踏み潰したのと、静がアクセス・ファンタズムから愛用の自転車を取り出し、泣く泣く囮として設置したのはほぼ同時。 離れた2地点に、自転車と、コーン(を背負って逃げる天花)の2つが存在していた。 判断に迷ったのか、他の原因があってか、土管が一瞬動きを止めたのを見逃さず、レイチェルとぐるぐが目配せをする。 「ぐるぐさん!」「こんびねーちょん! やろやろー!」 土管の両端、大砲の砲身部分を狙って2人の攻撃が放たれた。 2人の放った銃弾と投剣は、奥底に鈍い赤光を浮かべる発射口に吸い込まれ、次の瞬間、8人の耳に幽かな破裂音が届いた。 遥か遠くで小さなネズミ花火でも爆発したような音。 それでも、何がしかの確信を持つには十分な手応えだった。 土管は、その場でぐるんと高速で回転すると、両端を大雑把にではあるがそれぞれ自転車と天火へと向ける。 「逃げろ! ドッカンアタックだ!」 玲が叫んだ通り、土管の中に紅い輝きが灯る。 8人の中に膨れ上がったのは、本能的な危機感。 「上等だテメェ……!」 マリーは轢かれて痛む体をおして接近を試みる。 「潰せるもんなら潰してみやがれ!」 ドカァ――――――――ッン! 轟音が響き、土管の両端から放たれた紅玉が目標物の近くの地面に着弾し、猛烈な爆発を引き起こした。 被害は、コーンを背負っていた天火が一番大きいだろうか。それでも類稀な直観で寸でのところで直撃を避けたために爆発でのダメージにとどまっていた。 それに近いダメージを受けたのが、ぐるぐ、ハル、レイチェルの大砲を撃つ瞬間を狙っていた3人。 砲撃と同時に打ち込んだのだが、刹那のタイミングを捉えきれず、逆に砲口を狙える位置にいただめに爆発に巻き込まれた形になる。 それでも、やはり砲口の中を狙うのは効果的だったようで、自分達がダメージを受けたのと引き換えに、レイチェルのエネミーセンサーでの分析では生命力の低下が見て取れていた。 「逃げてんじゃねぇよ」 砲撃の後、また移動を開始しようとする土管に飛び掛ったのはマリー。 爆発のダメージはいくらかあったが、敵に近づくことで逆に被害が抑えられたのだろう。 自身に跳ね返ってくるダメージも構わずに、放電を伴う強力な一撃を土管に叩きこむ。 「よーし! 俺も今度こそ極めるよ!」 土管の前後を挟むように、玲と馨が接近。 気を送り込み、内部破壊を引き起こす! 生物のように麻痺に至ることはなかったが、手に返る確かな手応え。 さらにタイミングを併せて静が捨て身で雷電の一撃を放つ。 土管の表面を紫電が奔り、プスプスと土と何かコンクリートの焦げる匂いが立ち込める。 ●とどめだ! もう1個の赤いコーンをアクセス・ファンタズムから取り出し背負った天火を、土管は再度追いかけはじめる。 ジグザグ猛ダッシュでガッツリ土管のハートをキャッチしながら、さらに鋭い蹴りで作り出されたカマイタチをぶつけ、その気を引き続ける。 「鬼さんこっちです!」 ぴょんぴょん跳ねるように高速で移動する天火、その後ろをゴロゴロ音を立てて土管が追いすがる。 それだけに機動を読みやすくなり、仲間達の攻撃がより効果的に且つ安全に行われていた。 そして、砲口への攻撃と、内部破壊の一斉攻撃が数度行われた結果、土管の回転に鈍りが見えた。 回転の鈍りはそのまま速度の鈍りへと直結する。 追いつけぬと判断したのか、土管はピタリと動きを止めた。 「チャンスだよ!」「です!」「ここが決めどころじゃのう?」 玲と天火、馨が蹴撃でカマイタチを放つ。 併せて放たれた静の居合いもまた、真空の刃を生み出し、土管の表面を激しく撃ちつける。 斬風吹き荒れる中、身を切るのも構わず突っ込んだマリーの雷撃に、意に介さぬように土管は砲口を天火に向け、中に紅光を浮かべた。 だが! 「いち!」 「「にの!」」 「「「さーん!」」」 砲撃のタイミングは、先ほど身をもって体験をした。 だからこそ、併せられた刹那の瞬間。 ぐるぐとハルとレイチェルの一撃が、見事に放たれる瞬間の砲撃を打ち抜いた! 「タイミングばっちりね!」 轟音を伴った爆発が、砲口の中で巻き起こり……あれだけ堅牢だった土管の謎コンクリート製のボディーがボロボロと崩れていった…… ●そして…… 「勝利を祝ってみんなでぱーっと騒ぐわよ! 勝利の歌声を聞かせてあげるわね!」 「わーいです!」 砕かれたゴミや土管の残骸が散らばった空き地で、高らかに勝利宣言を上げるハル。 一部の仲間達がそれに同調し、ピクニック用に持ってきた食べ物や飲み物の残りで月夜の宴会がはじまった。 しかし一方で……愛用の自転車やラジコンを踏み潰され涙していたものもいたことを忘れてはいけない。 とにもかくにも、ようやく平和がもどった空き地では、夜明け頃まで楽しげな声が響いていたらしい。 ~END~ |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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