●誇り高き士、乱叉竹槍。 瓦屋根が陽光に照る、艶やかな日本家屋であった。 農業が盛んな地域であるのか、周辺は田畑に覆われており、周辺にある建物といえば倉や休憩小屋くらいなものである。 瓦屋根の家自体はとても古いと見え、つくりは立派ではあったが柱が妙に傾いていたり、門の壁が所々剥離を起こしている。 そんな、見ようによっては非常に喉かな家屋に、男達が群がっていた。 田畑や古民家とはどうにも似つかわしくない、身なりの良い連中である。 彼等は門の前にぞろぞろと集まり、手に木刀やナイフ、人によっては銃を持つものまで居た。 「乱叉さん、そろそろ観念してもらえませんかねえ」 言葉に反して威圧的な、そして高圧的な口調で叫ぶスーツの男。 彼はショットガンを肩に担ぐと、色つきのサングラスを指で押した。 「高くつけるって言ってるでしょー。こんなボロ家さっさと手放しちゃいましょーよー、ねー」 そんな、男達を前にして。 「……帰って下さい」 門扉の前に立ちはだかる一人の少女。 紺色の袴に和着物。 白い鉢巻をした長髪。 ぱっちりとした目はまだ幼さが残るが、体つきは18歳のそれであった。 彼女は背中に担いでいた棒状のものを手に取ると、頭上で旋回させ、腕、肩、胸、腰へと流れるように、そして巻き付けるかのように回し、最後に腰の辺りで構えて見せた。 それを見て、男は失笑する。 少女の構えた武器が、何と竹槍だったのだ。 先端を斜めに切りそろえただけの、竹である。 「さもなくば、痛い目を見て貰いますからね!」 どんな武器を繰り出すのかと身構えていた男達は腹を抱えて笑い出した。 嘲笑を浴びつつもなお、少女は構えを解こうとしない。 「おいおい……お嬢ちゃん、それ冗談で言ってんのか。それとも今からポールダンスでも見せてくれんのかよ」 「うるさい!」 少女は気合を入れて地を踏みしめると、リーダーと思しき男をキッと睨んだ。 「この家はおじいちゃんの遺した大事な家です。誰にも渡さないし、絶対に手放しません! どうしてもと言うなら――」 「言うならぁ?」 ニヤリと笑う男。 少女はその後の展開を予測しながらも、歯を食いしばって言った。 「私が、相手になります!」 少女、乱叉・竹槍(らんさ・たけやり)。 これは、彼女が死亡する1分前の出来事である。 ●誇りと思い出と志 「思いを貫くことが愛なら、竹槍が愛で出来ていていい筈だ」 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)は愛も変わらず不思議なことを述べた。 そんな彼が言うには、とあるリベリスタが借金のカタに家を奪われそうになり、抵抗した末フィクサードの集団に殺害されてしまうという事件が起こるらしい。 「まあ借金と言っても、魔眼だの記憶操作だのをガッチガチに使われて、気づいた頃には数千万の借金を背負わされていたっつー悪徳も悪徳、反吐が出る程外道な連中にハメられてのことなんだがな」 そんな借金を残して老人が死亡。 リベリスタとして革醒していた孫が家を守るべく立ち上がるという筋なのだが……。 「いかんせん相手が多すぎる。マトモに戦って一分も持たないだろう。うまく抵抗できたとしても、後々どんな仕打ちを受けるか分かったもんじゃない。正直、これがエリューション退治っつー大義名分がついてなかったとしても殴って止めたいような事件だ」 伸暁はそう言って、モニターにフィクサード達のスペックを表示した。 「敵は基本的にクリミナルスタアで構成されている。何も考えずにリベリスタ10人でぶつかって……まあ五分五分って所だろうと思う。奇襲だのなんだのが使える状況でもないから、恐らく意思の力が勝敗を分けることになるだろう」 割り込みがかけられるタイミングは、冒頭シーンの直後、戦闘開始直前の部分と思われる。割り込み方は自由だが、周囲が田畑ばたけで見通しがよく、普通に考えるなら車で駆けつけることになるため、あまり特別なことはできないだろう。 「依頼の条件はあくまでフィクサードの退治だ。あの女の子を守らなきゃならないってわけじゃない。彼女が死んでも世界はたぶん回るだろう。この家が無くなったとしても、世の中は対して変わらんだろう。でもな――」 伸暁は、重く太い声で、こう言った。 「女泣かせる世界なんて、あっちゃいけねえだろ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 9人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年11月20日(火)23:35 |
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■メイン参加者 9人■ | |||||
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●ある少女を救うという任務 トラックの運転席。『リベリスタ見習い』高橋 禅次郎(BNE003527)はハンドルを握り、深いため息をついた。 「爺さんダマした挙句に女の子を寄ってたかって脅迫とは、クズ・オブ・クズだな。最近の金貸しってのはみんなこうなのか?」 「…………」 助手席で、『斬人斬魔』蜂須賀 冴(BNE002536)は刀を胸に抱えたまま沈黙していた。 否定とも。 肯定とも、とれぬ態度である。 禅次郎は特に返事を待つことなく、座席の背もたれに首をもたげる。 「屑どもに容赦する必要は、無いよな」 昨今の交通規則には沿わない話だが、戦後間もない頃にはオープン型トラックの荷台に七~八人を綺麗に乗せたまま走ることも往々にしてあったと言う。振動の軽減や『振り落とし』抑制のためにスピードは出せなかったとされているが、ことリベリスタにおいてはその心配はない。荒波を走るボートでも、岩場を強制走破するジープの上でも乗りこなせる彼等の身体能力をもってすれば、まあ無理な乗り方ではないと言えるかもしれない。 非常に迂遠な肯定になってはしまうが。 そんな荷台のお誕生日席(?)で、『想い出の家、守りたい』滝沢 美虎(BNE003973)は腕組みをしていた。 「理不尽を理不尽だと檄して貫くのがわたしの力。この状況で手を貸さずして何のための力だろーか!」 「同感です。道理を外れた搾取で人の想いを踏み荒すなど……不快だ」 吐き捨てるように言う『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)。 頷く『鋼脚のマスケティア』ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)。 「何の罪もない人を平然と食い物にする。そんな外道にくれてやるのは金でも慈悲でもない、鉛弾よ」 「おお、気合入ってるな、皆!」 荷台の中でややコンパクトに身体を丸めるツァイン・ウォーレス(BNE001520)。 「ちょいと助太刀といきますかいっと……ん、どうしたアンナ?」 「いや、ちょっと既視感を覚えただけ」 額に手を当て、息を吐く『ソリッドガール』アンナ・クロストン(BNE001816)。 「既視感と言えば……きひひ、今回も随分なじみのメンツって感じだな」 「そうね。今度は……」 瞬きをするアンナ。 流れる景色に視線を移して、また息を吐いた。 随分とまあ、嵌り込んだものだ。 「祖父との想い出、か」 『誰が為の力』新城・拓真(BNE000644)は遠ざかる後方の景色をぼんやりと眺めて、そんなことを呟いた。 「俺が彼女の立場でも、同じように動いただろうな」 「そうね……」 同じように景色を瞳に流し、『大食淑女』ニニギア・ドオレ(BNE001291)は目を伏せる。 「私は、守れなかったから」 「……」 「あの御家はきっと、想い出や、矜持や、信念や……色んなものの象徴だと思うから」 「……ああ」 「守ってあげたいわ」 目的地に近づいていると言う通信が入ってくる。 彼等は其々にAFを掴み、目に光を灯した。 トラックまるで、戦場へ向かう輸送車のように。 殺気と覚悟をないまぜにして、徐々にスピードをあげてゆく。 ●少女、突貫。 乱叉竹槍は、竹槍使いのソードミラージュである。 しかし多勢に無勢。しかもいやらしいことに、男達はまるで弄ぶように服の裾や胸元ばかりを斬りつけ、ナイフ傷と共に露わになった肌にニヤニヤとするのだった。 「おじょーちゃん、そろそろ諦めようぜ」 服はボロボロで身体は傷だらけだったが、竹槍少女は折れなかった。心だけは、折れていない。 「死んでも嫌です」 「あー、その顔、ムカつく」 銃のセーフティを解除し、懐から抜く。 その時、視界の端に妙なものが映り込んできた。 トラックである。 田舎町とは言えトラックが走ることくらいはあろう。 それが畑ばかりの細い道を、一直線にこちらへ走ってくることだってあるだろう。 それが非常識なスピードを出していることもまあ、ありえないとまでは言うまい。 しかしそれがすぐ近くまで寄って来てなおスピードを落とさず、尚且つアクセルを全力で踏み込んだのではと思う程の勢いで突っ込んで来たとあらば、もうあり得る話ではない。 「うううおおおおおお!?」 まさか突っ込んでくるとは思わなかった男達は畑へダイブして回避。対応の遅れた連中はそのまま撥ねられ、やはり畑へと飛び込むに至る。 そんな暴走トラックが竹槍少女の前を通り過ぎるその瞬間。 「う――っりゃ!」 荷台から美虎が身を躍らせた。 速力がついたまま飛び出し、業炎を纏わせた肘を男の顔面にめり込ませる。土に後頭部をめり込ませる程の勢いで倒れた相手をそのまま飛び越え、美虎は両足で激しくブレーキをかけた。 無論、飛び降りて来たのは彼女ばかりではない。 車の後方へと転がり出る形で降り立つアラストールとツァイン。 彼等は身体を丸めてごろごろと後転すると、竹槍少女の手前辺りでブレーキ。 同時に剣を抜き放ち、それぞれ半円状に薙ぎ払った。 その場にいた男達が、まるで草でも刈り取るかのように薙ぎ払われる。 「あ、あなた達は……」 「いうなれば貴女を助ける自称正義の味方です」 「助太刀させてもらうぜ姉さん。この人数だしな、共闘しようぜ!」 ツァインとアラストールは竹槍少女の両サイドを守るように立つと、それぞれ盾(互いに形状は異なる)を構えた。 一拍遅れて、ふんわりとニニギアが後ろへ着地。 恐らくかなり前の段階で荷台で翼を広げ、凧の要領で急上昇を図っていたのだろう。 「乱叉竹槍さんよね? 回復、してもいい?」 「え、ええと……」 ニニギア特有のほんわりとした空気に一瞬飲まれる竹槍少女。 その戸惑いを答えと受け取って、ニニギアは彼女の手を取った。 直後、トラックが(実に今更ながら)急ブレーキをかける。 畑ばかりの整備の行き届いていない道でそんなことをすれば当たり前のように脱線して畑の一部と化すものだが、運転手は器用にトラックを90度回転させてから更に横転。タイヤ側を進行方向に向けて滑って行く。 勢いよく傾いた荷台から、弾かれるようにしてミュゼーヌと拓真が飛び出した。 互いに背を向け、銃口を連続で引く。 物理的装弾数を無視した量の銃弾が捻じれたタイヤ跡を中心にばら撒かれ、畑から顔を出した男達を再び柔らかい土の中へ埋め直した。 二人は空中で身を丸める。ミュゼーヌは着地点の男を鋼の脚で踏みつけ、クッション代わりに着地。一方の拓真は勢いよく刀を抜いて近隣の男に突き立ててブレーキとした。 「リベリスタ、新城拓真だ。多勢に無勢とは、無粋だな」 刀を抜き、男達を睨む拓真。 「不条理に屈さず立ち向かうあなたの意思、天晴ね」 足を抜き、竹槍少女を見やるミュゼーヌ。 二人は銃を構えて互いに反転した。 「誇りと想いを彼らは踏み躙った。俺は彼らを許せない。故に、助太刀する!」 「不当な借金もろとも帳消しにしてあげるわ!」 さて、その一方で。 横転したトラックのドアが天高く跳ね飛んだ。 「蜂須賀示現流、蜂須賀冴。助太刀に参りました……」 のっそりと横転したトラックの上へと這い上がると、冴は口に加えていた納刀を両手に握り、其々鞘と刀に分離させた。 「アンナさん、傍から離れないように」 「痛……たた……」 冴に続いて、額を抑えて運転席から這い出るアンナ。 現地へ到着する前に助手席(助手席が広いタイプのトラックだ)に相乗りさせて貰ったのだが、まさか横倒しにされるとは思わなかった。 シートベルトなど身体を圧し折るための支点にしかならないのだと、身をもって知った。 そして、やはりと言うかなんというか。 停止したトラックの周りには無数の男達が武器を構えて取り囲んでいるではないか。 「いつの間に……」 「ああ、それは俺がひきつけた。まあ派手にやったからな」 運転席で優雅に寝そべる(この場合横たわると言うのが正しい)禅次郎。 フロントガラス越しに敵を見つけると、薄く笑って銃を発砲した。 「来いよ、屑ども」 「「――ラァ!」」 一斉に跳躍する男達。 同時に微発光する十二面体を頭上に放るアンナ。 まばゆい光が解き放たれ、男達の視界を阻む。 それでも無理矢理に繰り出された無数の木刀や鉄パイプを、冴は刀と鞘で全て薙ぎ払った。 「トドメまでは差しませんが……命の保証は、しませんよ」 刃に反射した冴の目が、ぎらりと光った。 ●イクサバ 多勢に無勢という言葉は、人間一個体はどこまで鍛えても一人以上の戦力にはならないのだと言う概念に基づいている。 その概念から見るのなら、リベリスタとフィクサードの戦力差は正に多勢に無勢だった。 悪徳金貸しのフィクサードたちは数十人と言う頭数を揃えている。翌々考えれば少女一人に人手を割きすぎである。娯楽の無いこの土地だ。よほどこの後の『お楽しみ』にありつきたかったのかもしれない。 対してリベリスタの数は竹槍少女を含めても10人。 傍目に見れば、このまま押し込んで潰してしまえる人数の筈……だったが。 「んー、間一髪だったのかな。カレイドシステムの予測って百発百中だね」 「カレイドシステム……なんだそりゃあ!?」 「うえ、知らないんだ。田舎モンっ!」 美虎は前後左右を男達に囲まれていた。 後方からナイフが突き出される。美虎はそれを半身にかわすと、右側の男に裏拳を入れた。前方から木刀を振り下ろされるがそれを片手でキャッチ。右側敵の肩と前方敵の腕を支点にしてひょいと飛び上がると、左側敵の胸を蹴りつけた。 コンマずらしでよろめく四人の男。美虎は地に片手をつくくらいに屈むと、紫電を纏った両腕を螺旋状に振り回した。 ここまでの動きをひと繋ぎで見るならば、四柱の真ん中でぐるぐると踊っているように見えたことだろう。 しかし美虎が両腕を突き上げるようにしたその時には、四人は一斉にばたばたと崩れ落ちたのだ。 銃を掴む男の手が震える。 「借金なかったことにしてさ、家のことは諦めた方が良いよ。アークのカレイドシステムが捉えてる限り、何度でも邪魔しに来るからね」 「く、くそ……!」 両手で銃を構える男。狙いもつけずに発砲。その発射線の下を低姿勢で潜り抜けて足を蹴りつける。 男は咄嗟に下へ銃口を向けたが、その頃には側頭部に美虎の踵と――ミュゼーヌの踵が入っていた。 頭部を派手に拉げさせて倒れる男。 ミュゼーヌはぐるんと反転して発砲。飛来した銃弾が眼前で砕け散る。 「貴方達の銀弾鉄砲とは格が違うのよ。60口径マグナム弾(ニトロ・エクスプレス)の塵にしてあげる!」 ミュゼーヌは高らかに宣言すると、銃を振り回しながら前進。襲い掛かる男達を撃ち払って行く。 「こうやって財産をむしり取るのが貴方達の手口? それともこの家に何かあるのかしら」 「テメェらにゃ関係ねえ! くたばりやがれ!」 男がナイフを投擲してくる。それがミュゼーヌに届く1m前、銃撃によって弾き飛ばされた。 ミュゼーヌのものではない。拓真の自動拳銃によるものだ。 「確かにお前達は上手くやったろう。だがそれだけだ」 背後から木刀で殴りかかってくる相手を紙一重でかわし、刀でなで斬りにする。 「お前達には誇りが無い」 「貴様等のような奴がいるから、私は……!」 よろめいた男を更にぶった切り、冴は刀を構えた。 「何だテメェ、死にてえのか!」 ナイフを腹のあたりで両手で握り、敵が捨て身の突撃をしかけてくる。 冴は鞘で相手の喉を突き、大きくのけぞらせた上で片足を切断。膝から下が無くなった男は半狂乱になって転がるが、それをミュゼーヌがサッカーボールを止めるかのように踏み潰した。 「どうしたの、冴さん」 「…………」 ミュゼーヌの問いかけには答えず、奥歯を噛みしめる冴。 「オラァ、死ねやああああ!」 安い刀を振り上げ、襲い掛かってくる男。 冴は僅かに身をズラし、刀を横振りにする構えをとる。 彼女の刀が男へ繰り出されたその時、アラストールの剣もまた、反対側から男へと繰り出された。 胴体切断、とはいかず。飛び込んできたのと逆の方向に跳ね飛ばされる男。「ルール無用。法に縛られぬ者には相応しい対応だろう」 「アラストールさん……」 「何か迷っているようですね。良ければ後で聞きますよ。ですがその前に――」 同時に振り返る冴とアラストール。二人は(これもまた形状が違うが)鞘を翳して敵の打撃を受け止めた。 かなりの巨漢だ。もとより小柄な二人は、溜め打ちしたであろう二人の打撃を完全には抑えきれなかった。 じりじりと踵が土に沈む。 「おい、誰が目ぇ離していいつったんだ屑ども」 途端、巨漢二人の背後から暗黒瘴気が発生。二人をばくんと飲込むと、生命力の全てを吸い上げてその場に吐き捨てた。 崩れ落ちた二人の巨漢を踏みつけにし、禅次郎は顎を上げる。 「法律でどうこうなる話とは思えんが……神秘には神秘だ。文字通り叩き潰す」 禅次郎はそう言うと、肩に担いでいた銃剣を水平に構え、横合いから突っ込んできた男の頭部をぶち抜いた。 先ほど多勢に無勢が覆される例を述べたが、それは何もリベリスタ達の個体戦力が高かったからと言うだけではない。 「巨大な敵を竹槍で迎え撃つ。そのまっすぐな思いと勇気を笑うなんて、ふやけた感受性ね!」 ニニギアは周囲一帯に天使の歌を展開。 「借金なんて、こんな酷い仕打ちをしてきた賠償でチャラでしょ!」 十秒後、被せるように聖神の息吹を展開。 フィクサードの男達が与えられるダメージを、半分以上は補えるペースでニニギアは回復に専念していた。 それは彼女だけではない。アンナもまた、有り余るほどの物量で回復に励んでいた。 「削り切れるものならやってみろ!」 「負けないからね」 叩きつけるような勢いで回復をばら撒くアンナと、撫でるような優しさで回復を配るニニギア。 やっていることが同じでも、気持ちの入り方は随分と違うものである。 そんな中。 「やあああああっ!」 竹槍少女が敵の腹に竹槍を突っ込む。そのままドロップキックでもするように両足を相手の身体につけて引っこ抜き、その勢いのまま跳躍。別の男へと槍を突き立てる。 そんな冗談のような身こなしで、彼女は男達の中を飛び交っていた。 とはいえ敵の攻撃を避け続けられる技量があるわけではない。 新たな敵に飛び掛った所で、竹槍少女はショットガンで迎撃されてしまった。 血をまき散らし、地面に転がる少女。 「ったく……手間取らせやがる」 男は再びショットガンを発砲。しかし間に割り込んだツァインが盾で銃弾を防いだ。防ぎきれない分は身体にめり込むが、固さには自信がある。かなり防げたはずだ。 ふらつきながらも起き上がる竹槍少女。 「退いて下さい、その男は私がやります!」 「コッチはあなたも頭数に入れて戦ってるのよ。勝ちたかったら無理すんな!」 眉間にしわを寄せて怒鳴るアンナ。 「でも、私がやらなきゃ……!」 「大丈夫。私達と一緒にやりましょ」 す、と。ニニギアが彼女の肩に触れた。 微笑むツァイン。 「誤解しないでくれ姉さん。あんたは攻撃が得意で、俺は防御が得意。つまりコンビネーションってやつだ」 「そいつの言うとおりだ」 両脇を固めるように禅次郎と拓真が寄ってくる。 「あんたが爺さんから受け継いだのは、家だけじゃない筈だ」 「何もかも背負おうとするな。貴女の大切なものは守って見せる。祖父弦真の名と誇りにかけて」 「名と誇りに……」 ちらりと振り返るツァイン。 「なあ、お爺さん名前何て言うんだ。イイ武芸者だったんだろ」 「……長介。猪狩長介と」 にやりと、ツァインは笑った。 「そりゃあ、イイ名前だな」 ツァインはそうとだけ言うと、ショットガンの男目がけて突進した。 攻撃でもなんでもない。移動する盾として、彼は相手の射撃を全て身体で受け止めたのだ。 がつんと、銃口に盾が叩きつけられる。 「今だ、やれ!」 「はい!」 ツァインの肩を駆け上がり、飛びあがる竹槍少女。 彼女の槍が雷のことく放たれ、そして、男の腹を貫通した。 ●さよならは言わずに 『本当にありがとうございました。この家は、私が守ってゆきます』 深々と頭を下げた。 聞けばそうとうな額の借金が存在していたようで、おいそれと消し去るには重みが大きすぎた。 とはいえ法的には払う必要のない金である。元を辿っても詐欺まがいの貸付であったと言うのだから、彼女達に非はない。今回派手に取り立て連中を潰したことで、彼等も手を引くことだろう。 「貸した分はとっくに回収しているだろうし、これ以上痛手をおったら損害のほうが高くつくだろうしな」 「周辺の土地をぶんどってデカい施設を作るつもりだったらしいが……モトをとれなきゃ意味が無いってことか」 「そういうことだ」 トラック(幸運にも壊れていなかった)の運転席と助手席で、ツァインと禅次郎はそんな会話を交わしていた。 背もたれに頭を預けるツァイン。 「乱叉竹槍か。合縁奇縁……また、どっかで会えるかもな」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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