●『EDICONEG』という種 「人の命は金で買えても、人の心は金で買えない。いい言葉だと思うわ。すごくもっともだと思う」 虹色の髪をした女が、ワインの注がれたグラスを持ち上げた。 まるで世界を液体越しに眺めるように、目を細める。 女の眼もまた、虹色だった。 髪の一本ずつが別種の色をして、光彩の筋もまた一本ずつが違う色をしている。まるでカラーグラフのような目が、僅かに横へスライドした。 「人の心を買うには、努力をしなくちゃいけないの。勿論人間ひとりを生存させていく、もしくは殺した後で社会的に処理できるだけの財力を予め有している必要もあるわ。けど、いくら札束で叩かれたって、人の心までは支配できないでしょう? それはたぶん、フィクサードっていう貴方達だって一緒の筈よ?」 注がれた赤ワインをうっとりと眺める。 けれど一口たりとも口にはしない。 ただ眺める。 ワイン越しの世界を眺める。 「どんなに力づくにしたって、心を折るような業を使ったって、人ひとり買うことができない。財力や力なんて、その程度のものなの。だからね、努力をしなくちゃ」 女はそう言って、ワイングラスを傾けた。 40度、60度。端から溢れた一滴がグラスを伝ってこぼれそうになった途端、女はグラスを逆さまにした。 びしゃびしゃと、ばしゃばしゃと、ワインが零れ落ちていく。 それは足元にひざまずいた少年に降りかかり、金髪をしっとりと濡らした。 しかし彼はうっとりと、まるで性感のように息を吐いた。 「ありがとうございます、ご主人様」 「いいのよエヴァンズ、感謝なんていらないわ。それよりも、濡れた靴を綺麗にして頂戴」 愛しげに睫毛を伏せる女。 彼女の唇から発する音全てが快感であり幸福であるというように、少年は肩をびくびくと震わせた。 「はい……フランチェティイ様」 宝物を持つように、もしくは生まれたばかりの赤子を抱き上げるように、女のハイヒールを手に取る。 舌を僅かに出して顔を伏せ、先端を使ってとても器用に水滴だけを舐め取っていった。 その様子を、微笑みをもって眺める女。 やがて顎を上げ、正面の男に言った。 「人を買いたいなら、努力をしなくちゃ」 タキシードに白いスカーフ。男は、執事のような恰好をしていた。 眼鏡を手の付け根で押し上げると、小さく唸る。 「貴女様の言っていることの意味が、全く理解できませんね」 そして、男は後ろを振り返った。 22人。 何の数だか分るだろうか。 「フランチェティイ様、ワインをお注ぎしましょう」 「フランチェティイ様、ケーキが焼き上がりました」 「フランチェティイ様」 「フランチェティイ様」 「フランチェティイ様」 「フランチェティイ様」 「フランチェティイ様」 人種国籍さまざまな少年たちが、うっとりとした表情で跪いている。 年齢は7から10歳程度。 全員少年にして。 フィクサードである。 「とにかく、お茶の時間にしましょうか」 執事のような男はそう言って、スカーフを畳む。 彼の髪と眼もまた、虹色であった。 ●虹色のアザーバイド 「アザーバイドという種類の敵性体を、皆はもう知ってるわよね?」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)はさも当然の様にそう述べて、資料と思しきファイルケースをテスクへ置いた。 アザーバイド。 別チャンネルより来訪した異世界人であり、時としてそれは機械生命体であったり魔城であったりするが、多くの場合この世界の人間にほど近い外見をしていることが多いとされる。 無論、彼らはこの世界の人間ではない。それ故、場合によっては存在しているだけでこの世界の崩壊を招くこともあった。 「――EDICONEG(エディコウン)」 英語とも。 フランス語とも。 ロシア語とも取れぬ発音である。 いわばそれは別世界の言葉を無理やりこの世界の言語に置き換えたかのような、とても歪で不安定な名前だった。 「彼等は、『存在しているだけで』崩界を促すアザーバイドよ」 エディコウンは虹色の目と髪をし、色合いを除けば人間に酷似している。 精神を感受する能力をもち、この世界に現れて間もないが、既にこちらの言語を解している。 彼等に戦闘能力らしきものはなく、物理的に破壊することが可能で、その上会話を行うこともできる。 ここまで述べれば、彼らが平和的かつ人道的な種族だと考えるかもしれない。 確かに彼らは平和的で、尚且つ人道的だ。 しかし倫理的では、断じてない。 「彼等と長期間接した人間は倫理観が狂うの。『人間がどうであるべきか』が分からなくなるのよ」 それは。 それはとても静かな、崩界とは言えないだろうか。 「発見したエディコウンはフランチェティイという女性とアスターという男性の二名のみよ。でも彼女に感化されたのか、それとも元からそうだったのか、フィクサードの少年が22人ついているわ。何か干渉を行うのであれば、恐らく障害になるでしょうね」 イヴはそれらの情報をまとめた資料を突出し、こう言った。 「この事件を解決することが、あなたの任務よ。方法は任せるわ。『存在するだけで崩界を招く』彼女達さえなんとかできるなら、それでいいわ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 9人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年11月15日(木)23:00 |
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■メイン参加者 9人■ | |||||
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●話し合いの意味 暗雲を追いかけて青空が逃げてゆく。 白い雲が散らばった空の下、『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)は陽光を掌に受けた。 「世界はひとりひとりの倫理で動いていくものだ。かといって、価値観の違う異邦人を問答無用で討伐するのもまた、違うと思うのだ」 「なんでもかんでも戦いで終わらせるのは簡単っすからね」 蒸れがあるのか、眼帯の裏に指をひっかけて『LowGear』フラウ・リード(BNE003909)は言う。 「その分、大切なものまで切り捨てちまってる気がするんすよねー」 「ふむ、切り捨て……話し合いで解決できるなら、それはそれで良いですな」 フラウの言を受けて、『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)もこくりこくりと頷いた。 穏やかに微笑む『磊々落々』狐塚 凪(BNE000085)。 「敵でないことを願うばかりですけど、まあ一戦交えるのも一興かな、と」 「人の形をしてるくせに人間じゃないのが思い切り伝わってくるしな」 やや物騒ではあるが、『銀狼のオクルス』草臥 木蓮(BNE002229)も凪の云い方に頷いて見せた。 地面を強く振む『墓掘』ランディ・益母(BNE001403)。 「だが逆に、彼等を利用すれば間違った倫理を正すこともできるかもな」 「……人間の発想じゃねーな、それ」 「かもしれん」 などと。 多種多様に意見を交わす仲間たちをよそに、『必殺特殊清掃人』鹿毛・E・ロウ(BNE004035)と『閃拳』義桜 葛葉(BNE003637)は肩を並べて歩いていた。 「皆さん色々考えるもんですねー。ま、僕ぁお掃除屋さんですから、お仕事なら誰でもするりと片付けますよ」 「俺は……拳を振るうのはそうと決めた時のみだ。力は分かりやすいが、万能の物差しではないからな」 「それで『先ずは御話合い』、と」 「そゆこと」 『Le blanc diable』恋宮寺 ゐろは(BNE003809)が振り返りつつ言った。 フリルだらけの服に褐色肌。気怠そうな目つきで、なぜか三段式の脚立を肩に担いでいた。外見と中身が同時に裏切り合っているかのような女である。 彼女は片手で指折りすると、今日の方針を述べた。 「えーと、エディコウンと話し合いに持ち込んで、帰れるなら帰す、帰れないなら殺す。言うこと聞かなかったら殺して、話し合いにもならなかったら殺す。でOKね。じゃ、また」 ●恫喝交渉 ありていに言って、それは豪邸だった。 門の前には二人の少年が立っていて、白黒の綺麗な服を着て、門と併せてアシンメトリーな風情を放っていた。 二人の少年は異口同音に述べる。 「いらっしゃいませ」 「いらっしゃいませ」 「ここはフランチェティイ様のお屋敷でございます」 「ここはフランチェティイ様のお屋敷でございます」 「御用件はおありでしょうか」 「御用件は無いのでしょうか」 奇妙な出迎えに若干たじろぐ凪だが、雷音が両手を開いて前へ出た。 「ボクたちはリベリスタというものだ。君達の主人に会わせて頂きたい。心配なら武器は預けよう」 「ケーキとか、持ってきたっス」 「どうか納めて欲しい」 雷音の左右を固めるように菓子包みを突き出すフラウと葛葉。 一瞬だけ目を合わせる二人の少年。 この期に及んでと言われるかもしれないが、雷音たちは彼らがフィクサードであることは既に分かっている。と言うより、見て分かった。 「実質的には名乗られてすらいませんが」 「名乗るどころか無名のようなものですが」 「来るものを拒むなとフランチェティイ様は仰せですので」 「来るものを拒むなとフランチェティイ様は仰せですので」 「こちらへどうぞ」 「こちらへどうぞ」 ……などと言って。 雷音たちは少年たちに武器を預け、広い部屋へと通された。 長いテーブルの端だけを使って、虹色髪の女がワインを飲んでいた。 言うまでも無く、『エディコウン』フランチェティイである。 彼女の横では、同じく『エディコウン』のアスターが慇懃な態度で直立していた。 「どうぞいらっしゃい。椅子に掛けて」 「ありがとう」 部屋の壁際に控えていた少年に(彼等もフィクサードだ)椅子を引かれ、雷音たちはテーブルについた。 距離にして2m。 交渉の距離だった。 凪はテーブルにティーカップをひとつ置くと、その淵を指で撫でた。 「これはフェアリーというアザーバイドから頂いた『妖精のティーカップ』です。必ず美味しい紅茶が飲めるんだとか。使って見ませんか」 「あら、ドラえもんの秘密道具みたいね」 「ド……」 口を開けたまま一瞬だけ沈黙する凪。 「お勉強、好きなの。浅い部分しか知らないけれど、漫画も好きよ? でもちょっと、カップを借りるのは遠慮しておくは」 「紅茶はお嫌いですか?」 「違うの、その、ちょっとね……」 虹色の目を細めて、フランチェティイは言った。 「他人のカップに口をつけるのって、嫌じゃない?」 テーブルに、彼らの持ってきたケーキや、少年たちが淹れたと思われる紅茶が出された。 勿論目の前でポットから注がれ、最初にフランチェティイが口をつける。 凪や雷音をはじめとする六人のリベリスタがこのテーブルについていたが、彼らの意見や主張はほぼ同じだった。 所謂、一点集中型の話し合いである。 故に、重なる部分を所々割愛して描くこととする。 「あのー、この人達のこと、知らないッスか」 フラウは話の途中、丁度良い所で数枚の写真を提示した。 ほぼ同時期に参加した『人間カフェ』という悪趣味な店の関係者を撮影したものだ。ちなみに、この関係者は全員死亡している。 「んー……人の顔の判別は出来る方だと思ってるけど、見たことないわね。私達に関係ある人達?」 「いえ。知らないならいいんス」 「あら、そう」 追及せず、あっさりと引きさがるフランチェティイ。 会話の切れ目と見て、九十九がカップを置きながら話を続けた。 「それで、どのような理由で『こちら』に?」 「よく聞かれるわね。でも、そうね……偶然零れ落ちて来てしまった、ようなものよ。私にとってもオカルトな出来事だから、上手く説明できないけれど」 「たまたまゲートに転げ落ちて来た、と言うことですな。そのゲートは?」 「空中に空いている穴のようなものよね? 気付いた頃には無くなっていたんだけれど……」 「帰れるならば帰りたい」 「そうね。家族や故郷が、私にもあるもの。あ、この世界でも、そう言うものって大事なのよね?」 「ですな」 九十九が雷音へと視線を移す。 見立てで分かることだがエディコウンの二人にフェイトらしきものは無い。 状況から言って討伐対象なのだが。 「聞きたいのだが、誰かに軟禁されているのかな?」 「ナンキン……ええと、閉じ込められるっていう意味の?」 「そうだ」 「あんまり山から下りて来ないでほしいとは言われているけれど、特別軟禁状態にされてる様子はないわね。と言うより、できないんじゃないかしら」 「…………ふむ」 長期接触による倫理の喪失。人間性の欠落。それは恐らく(居ればの話だが)軟禁する側の人間にも適用されると思われる。溶岩を手で囲って留めるようなものだ。 雷音は咳払いをひとつだけした。 「なら、はっきり言おう。君たちがここにいると、ボク達の世界にとって迷惑なのだ。帰って欲しい。君達に武力があるように、こちらにも武力がある。そのやり方は好まないが」 「………………」 フランチェティイは困った顔でアスターを見た。 アスターはと言うと、『私は知りませんよ』という顔をして眼鏡を手首で押し上げている。 「帰る方法が?」 「ランディやロウが、別のゲートに捻じ込めばどうかって言ってる」 周囲のフィクサード達が急激に殺気立ってきたのを感じて、木蓮はフォローに入った。 「それ、私の世界に帰れる確証があるんでしょうね?」 「……ごめん、無い」 「それはチョット、流石に嫌というか……酷くない? 端的に『あっちいけ、でないと殺しちゃうぞ!』てことでしょう? 折り合いというか、妥協点を見つけるとか」 「ごめん。できれば自主的に帰って欲しいんだ。でないと」 「…………」 葛葉が無言で拳を握り、テーブルの上に置いた。 フランチェティイは見るからに苦々しい顔をして、アスターの顔を見た。 アスターは肩を竦め、ため息をつく。 「私には、皆様の言ってることが納得できませんね」 選手交代、と言うわけではないのだろうが。 アスターは抑揚の少ないトーンで語り始めた。 「初めは友好的恫喝交渉かと思っておりましたが、其方にとって都合の良い条件が『既に存在していること』を前提に語られていますし、条件に沿わない場合は実力行使に出るとしている以上……我々の意思に関係なく、皆様は実力行使に出るという意味だと捉えざるをえませんが?」 時間を僅かに遡る。 「……やはりゲートは無いか。帰れないってのもブラフじゃなさそうだな」 館の外側。特に警備らしいものは無く、ランディは悠々と植え込みの間を歩いていた。 外壁を普通に歩いてロウが下りてくる。 「邸の構造は大体把握しましたよ。他には……まあ、ピンとくる情報は無かったですねえ。そう言えば、保護の話とかどうなりました?」 「え、無理じゃね」 茂みを普通にかき分けて、ゐろはが顔を出す。 「接してるだけで倫理ぶっ壊れる奴を保護とか、地下数百メートルに監禁とかすんの? 食糧エレベーター輸送とかして」 「廃ウラン処理じゃあるまいし……いやでも、冷静に考えたらそうですなあ。何処の誰に任せるとしても迷惑になりそうですし」 「一応人間がそれなりに出入りしている形跡はあるが、俺達も含めて誰でも受け入れる方針らしいからな。特定の組織がどうって割出しは無理そうだ」 「なんかスキル用意したらよかった?」 「それは、やってみないと分からん」 「ふーん……あ、やば」 脚立に腰掛けていたゐろはが、びくりと背筋を震わせた。 「どうし――」 「感情探査来た、連中殺気立ってるって言うか一部こっちに気づいてるって言うか、あっぶ――!」 転がるように脚立から降りるゐろは。 その頭上を数発の弾丸が通過した。 門番の少年たち(ランディたちは初対面である)が白黒の銃を構えていた。 「この邸を嗅ぎまわっているのは貴方達ですね」 「この邸を嗅ぎまわっているのは貴方達で間違いないですね」 「殺します!」 「死んでください!」 飛来する銃弾を刀で弾くロウ。 弾いた弾が壁に跳弾するが、続けて撃ちこまれた弾はロウの肩に直撃した。 斧を担ぐランディ。 「やむを得んか」 「え、単騎突撃は危険じゃ」 「俺にとってはむしろ戦いやすいんだよォ!」 ランディはミサイルの如く跳ね飛ぶと、少年二人へ烈風陣を叩き込んだ。 圧倒的な破壊力によろめく少年たち。 しかし反対側から別の少年たち(無論フィクサードである)が飛び出して退路を塞いでくる。 茂みから飛び出してきた少年を、出会いがしらに脚立でぶん殴るゐろは。 「ねえこれヤバくない?」 「決定的なヤバさですねー、いやはや」 糸目のまま微笑むロウ。 そして彼等は頷き合い、近くの窓を破って屋内へと逃げ込むことにした。 ●交渉決裂 時間軸が漸くここで重なった。 アスターが手首で眼鏡を押し上げ、木蓮がテーブルに手を突き、壁際のフィクサード達が武器に手をかけ、場の緊張が最大限に張りつめたその途端。 外に繋がる窓ガラスを破壊し、少年が屋内に転がり込んできた。 胸を刀で貫通され、地面に縫い付けられるが如く倒れる少年。 彼を刺し、その上で窓を破って屋内へ飛び込んできたのは、ロウである。 大の字に仰向いた少年は生命の最後を搾り出すかのように叫んだ。 「フランチェティイ様、アスター様、逃げて下さい! 彼らは敵です!」 そこからの動きは速攻だった。 壁際の少年たちが一斉に銃を構え、葛葉と凪はテーブルを横倒しにする。 反対側から剣を抜いて飛び掛ってくる少年たちに対し、二人は振り向きざまに攻撃を繰り出だした。 「やれやれお茶会が台無しです」 「戦闘となれば、仕方ない」 この時点において。 交渉に臨んでいた六人は自分の武器を少年たちに預けている。 つまり素手の状態だった。 ただでさえ正面から当たれば苦戦すると言われている相手に対し、武器無しで挑むのはかなり分が悪い。 「ナイフ、ナイフが無いッス! 誰すか武器なんて預けたのってうちらだ!?」 銃弾に晒されながらも必死に身をかわそうとするフラウ。 「武器は!?」 「多分隣の部屋だ。とりに行くか?」 「出なきゃ死ぬだけでしょう?」 三人は頷き合って、部屋の出口へと走った。 それを追いながら銃撃を加える少年たち。 木蓮と雷音も陰陽氷雨とハニーコムガトリングをばらまきながら身を寄せ合った。 「こっちはどうする!?」 「武器無しで勝てる相手とは思えない。フラウたちと一緒に隣の部屋へ移るぞ」 「分かった、気を付け――うお!」 意を決して走り出そうとした二人へ、少年たちが飛び掛って行く。 その数10人。どう考えても押し返せる人数ではない。どころか二人は思い切り押し倒された。 「ととと、二人とも大丈夫ですかな」 さり気に銃撃をすいすいと避け、悠々と隣の部屋へ移ろうとしていた九十九が近寄ってくる。 雷音と木蓮の腕を引っ張って救出すると、彼らは一目散に部屋を離脱した。 一方のフランチェティイ達とて、部屋から逃げないわけにはいかなかった。 「こちらへ、裏口から逃げて下さい。車がありま――うあ!?」 エディコウンの二人を裏口へ誘導しようとしていた少年が消し飛んだ。 ランディのデッドオアアライブが直撃したがためである。 下半身だけになった少年を前に、フランチェティイとアスターが振り返る。 「俺の得物はそっちだアスター。俺はお前に興味があってな」 「男色の趣味が」 「そんなふうに見えるか?」 「いいえ、全く」 眼鏡を抑え、身構えるアスター。とはいえ、彼に戦闘能力はない。 なので、少年が彼を庇うように立ち塞がる形となっていた。 「アスター、どうするつもりよ」 「貴女様は黙って逃げててください」 「ちょっと……!」 その間、別の少年がフランチェティイの手を引いて逃走していく。 アスターを呼ぶ声だけが、扉の向こうから聞こえた。 改めて斧を構えるランディ。 「アスター、お前は何だ。エディコウンが倫理観を狂わすなら、同種同士でも適用されるんじゃないのか?」 「同種どころか、私いる世界はお互い狂わせ合うのが常識ですが」 「……何だと?」 「相手に理解を示さない。相手を否定し続ける。他人と最大限関わらない。それが私の居た世界では当たり前でした。だからでしょうかね、フランチェティイさんはこの世界の『共感』と『理解』を軸にした文化形態にいたく感動していたようでした。柄にもなく勉強などして……まあ、私には理解できませんが」 「えーっと、エディコウンってそいつでいいの?」 アスターとランディが話していると、後ろからゐろはが脚立を引き摺ってやってきた。なぜか脚部分に血がこびり付いている。 「近づくな! アスター様に手を出すなら」 「邪魔」 ゐろはは素早く少年の腹に拳を入れると、襟首を掴んで引っ張り込み、後頭部を掴んで立てた脚立に叩きつけた。 派手に血を吹いて倒れる少年。 「エヴァンズ君……」 「まあ、理解できないのはお互い様だ。悪いな」 「いえ、お気になさらず」 ランディは大きく踏み込み、斧を横一文字に振った。 当たり前のように。 物理法則にもとづいて。 『エディコウン』アスターの胴体は上下に分割されたのだった。 その後のことを手短に語る。 リベリスタ達は預けられていた武器(客人対応だからか非常に丁寧に保管されていた)を傷だらけになりながらも取戻し、まさに命懸けで20人近いフィクサード達と戦闘。 かなりの痛手を負いはしたが勝利し、対するフィクサード達は残らず死亡した。 エディコウン2名の内アスターは死亡。 フランチェティイは多くの犠牲を払いながらも逃走した。 その行方は、ようとして知れない。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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