● 光に手を透かしてみれば、 青い筋が何本も何本も、 ぐちゃぐちゃに絡み合っています。 皮にはいくつもシワシワが刻まれていて、 関節なんて、まるで茹で過ぎたソーセージのよう。 嗚呼、なんてグロテスクなのでしょう。 嗚呼、有機質の人体というのは、なんて鬼魅の悪い物でしょう。 食事をとる時には、情念のようにすっと湧いてきて、 咀嚼して嚥下したものが、踵を返してお口に戻ってくるのです。 わたくしは、お人形になりたいのです。 糸やネジ巻きで動く彼女達の、なんてうつくしい。 わたくしは、嗚呼、お人形になりたい―― ――寒い。 六道の研究者は、ベッドから上半身を起こし、ぶるっと身体を震わせた。 自身の裸体に目を落とし、膨らみと膨らみの間に走る赤い傷と縫い糸を、指先で愛おしくなぞってから、ベッドを出る。 白のフリルコートを羽織って暗い部屋を裸足でひたひたと歩き、黒画面の中に緑の文字が整然と並ぶ端末に、"mail"と短くタイピングすると、メールが一通届いていた。 「あらあらまあまあ、想いというものは、強く願えば実現してしまうの?」 とある六道崩れの研究者を殺す任務をやっていて、イタチごっこには飽きが来ていた。 完成度が高まった『キマイラ』を使って、もっとハシャぎたい。 「嗚呼、わたくしはとてもうれしいのですわ。紫杏様。余興だなんて」 更には、ある男と取引で得たものが、なんて愉快で痛快で、Ahahahahahhhhaaaa。 「"できそこない"の『クレヱル』ちゃんは、ポトフーがお好きよね?」 六道の研究者は首を正して、目を壁際に移すと、頭を垂れて直立する人形が一つ。 人形は、カチリと音を立てて、顔を上げる。 ●殺戮球体関節人形 -Chimaira Wepon- 「住宅地に『エリューション・キマイラ』が現れました」 『運命オペレーター』天原 和泉(nBNE000024)の言葉に、小さく息を飲む様な音がした。 和泉が資料を配る。 数ヶ月前に、突然多く事件を起こしたと思えば、ぱたりと止んだ『六道』絡みの事件。 六道は、主流七派の中でも研究や求道を主とする集団である。 キマイラは、六道の首領の妹である『六道 紫杏』が率いる研究機関の成果であり、それはアザーバイドとも生物とも、他のエリューションとも異なるモノだった。 「識別名は『クレヱル』。数ヶ月前より完成度が上がったのか、強力になっています」 和泉は、端末を操作して映像を流す。 なお、遠くからキマイラの暴れる様子を観察する六道の者がいるらしいが、戦闘に手を出す気は無いという。 「能力について詳しいことを調べるには時間が足りませんが――形が綺麗すぎます。何か、在るような気がします」 和泉は深く頭を下げると、ここで映像が始まった。 ――それは、少女の形。 背中から、八基のチェーンソーを生やしていて。 胸の真ん中にはブリキの箱が回転して、関節は球体でできてる。 縦巻きの髪をゆらゆらさせて、ヒラヒラのゴシックロリヰタの衣装で身を包み。 硝子の目から赤い涙を流しながら、くるくるくると独りプリマのように。 小さい唇。下唇の中央から顎にかけて入る線。 そこから、顎部が左右にぱかっと割れて、昆虫の様にカシャカシャ肉を咀嚼する。 悲鳴のような音をめいっぱい立てて、八つのチェーンソーを足みたいにして動いて、薙ぎ払い、道行く人を、殺して殺し。 緋色の花弁ともつかない、醜悪なものを、ぶち撒けながらに身に浴びて。 夜にくるくるくるくると嚥下する。…… |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:Celloskii | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年11月21日(水)23:32 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●踴る殺戮人形 -Killing Doll- 月冴ゆる夜。 叢雲は、幻想的で朧朧と。 とん、とん、きり、きり。 別段と特徴の無き住宅街の小道は、しかし、この日ばかりはミネストローネの様に、ただ赤かった。 昼のように明るく、場には赤いピアニーの花弁が、潦(にわたずみ)に斑を描くように。映る水月は歪夜のようでいて。 『人形』は、散らばった花弁と同じ色をして、そぞろ歩いて仕掛けの音を鳴らし。 きりきりと"まだ原型を保つ人を見る"。…… ――引き裂くような機械音が夜に響いた。 場に在った一般人の悲鳴は、機械音に混濁して掻き消える。 『人形』は、写った人間をピアニーの花弁の様に散らそうと、悪意を向ける。 節足動物の足の如きものを背中から八つ生やし、先端に備わる八つのチェーンソーを足のようにして、がしゃがしゃと動き、コンクリートの地面を削りながら。 「どっかで聞いたような兵器をくっつけたキマイラとはな。……ッ!」 『赤錆烏』岩境 小烏(BNE002782)が、狙われた一般人の女性と『人形』の間に割って入った。 狂気の兵器が触れた瞬間に、所々の肉を鋸引きされる様な激痛が、脳天まで駆け抜ける。これが二回。 「痛ぅ……奴は仲間が足止めする、その隙に逃げるぞ」 狂乱する一般人には話が通じず、小烏は一般人の頬を軽く叩いて、避難を促す。 「行け」 『終極粉砕機構』富永・喜平(BNE000939)も、小烏と同じくして、場にある男女の一組の避難を促す。 引き裂かれながら避難を促す小烏を眼前に、直ぐ様、"墓標"とも言うべき巨銃を構えて呟く。 「……破壊に殺戮、なんと下らない人形劇か」 「あの角を曲がったら後ろを振り返らずに只管走りなさい」 喜平のやや後に『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)がふわりと降り立つと、その姿に、男女はなりふり構わず走り去った。 「まぁ見物料は払わしてもらうよ、其れが客としての礼儀だろう?」 と喜平は言葉を続けて、 「――本当に。人の心も身体も弄んで作られた悪趣味なガラクタばかりだわ」 氷璃は、喜平に意見を重ねる。 注視するは『人形』の背に備わる“よけいなもの”。 「キマイラもWシリーズもコトリバコも、蓋を開ければ同じもの」 本当に、悪趣味なガラクタね。と反芻する。 「うふふふふ、あはははは。出来そこないの人形さん」 『ヴァイオレット・クラウン』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)は『人形』の前に立った。小烏が避難させた一般人への進路を塞ぐ様にして、しっとりと人差し指を唇に立て、 「教えてあげる。有機質と無機質の融合こそが最高の姿なのよ♪」 その手に納まった銃口を『人形』の胸部へ向けると、エーデルワイスの横を、青き揺らぎが、蜉蝣のように現れた。 『蒼き炎』葛木 猛(BNE002455)は、掌に拳を打って、『人形』に向かって構える。 「派手に始める前に、余興に興じておこう……って事だろうが相変わらず気に入らねェやり口だ」 穿たんと拳を固め、腰を落とし。 「余興だろうがなんだろうが、乗ってやろうじゃねぇか!」 猛が、動かんとして、未だ動かざる数秒に、強結界が場を包む。 『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)は、書をパラパラと捲りながら残る一般人の記憶を薄れさせ。 「吐き気がするほど可愛らしいお嬢さん、今宵はボク達と遊戯をしよう」 兇気のお姫様の「前菜」に付き合わされる身としては度し難い。だが、止めないといけない。手を届かせなければならない。 前菜からメインディッシュに移るその情報もろともに。 「あれは俺達が何とかする。早くここから逃げろ」 『鋼鉄の砦』ゲルト・フォン・ハルトマン(BNE001883)は、身を呈しながら一般人の男性を逃がす。 「この化け物を作るために何人の人間を犠牲にしたというんだ」 『人形』。これを作った六道に。無力な自分に。沸き立つ情を覚え、次にゲルトは押し殺す。 不愉快さと苛立ちと、煮えくり返る腸と。 きりきりと『人形』の目が、逃げ遅れたもう一人に向いた。 首の可動範囲はとうに超えて、歪な有様を晒す人形は、そして 「人を実験体にして化け物を生み出すなんて、やる事がエグいよね~」 『狂獣』シャルラッハ・グルート(BNE003971)が振るった赤きチェーンソーが、『人形』を弾き飛ばす。 「一般人はどうなろうとシャルは構わないんだけど、でも戦場で死なれたら邪魔なんだよねー」 ケタケタと嗤って、似たような得物をくるりと構え直せば、獣の如き咆哮が生じる。 咆哮に返すかの如く、『人形』は、昆虫の様に顎部を左右に開き、金切る悲鳴を上げる。 ――――ッッッッッ!!!!! エーデルワイスの発砲音と、猛の拳が命中する鈍き音が混濁すれば、まるで歪な合唱の様に、場は震えた。 ●四封の匣 -Kotori Bako shippo- リベリスタの布陣は、一般人を守るように散開した6名と、進路を妨害する3名。 『人形』――クレヱルを中央にして。 小烏は額に汗を浮かべて、距離をとった。 ただ二発。ただ二回のチェーンソーが、小烏の体力の大分を毟り取っていった。 「やれ全く、厄介なものを景気よくバラ撒いてくれる奴等だ」 辛うじて、運命をくべるまでには至らないが、人形の悲鳴でも受けようなら、即座に膝を着くであろう深き傷。 大きく全面を抉られて滴る血。破邪の光を発して止血する。 「気ぃつけろよ、1人倒れたらドミノ宜しく被害が広がるぞ」 声を張り上げる小烏に、向こう側から了解の合図を出して、喜平は駆け出した。 「……さて、狙い通りなら嬉しいんだが」 大きく得物の巨銃をスイングして『人形』の胸部を叩く。狙うは箱。叩くと同時の発砲。次々、銃弾と打撃を交え、『人形』の様子に視線を動かすと ――――ッッッッッ!!!!! 鼓膜の奥を震わせる様な悲鳴が広がった。 近接する誰しもが、情を司る中枢を揺さぶられる感覚を覚え、怒りに近い激情が湧き上がる。 が、直撃でなければ、スッと雲散する。誰に向けて放たれたのか。 ――――ッッッッッ!!!!! 見れば、シャルラッハ。向こう側にいた一般人。 輪唱するかのように第二波が注ぎ、シャルラッハの目は狂奔に染まる。 「それじゃ殺し合い、始めよっか♪」 獰猛な笑いを浮かべるシャルラッハを尻目に、エーデルワイスは次に視線を小烏に移す。最後にクレヱルへと戻し、呟いて。 「……血と鉄と炎の加護よ,今宵の咎人に裁きを」 一歩だけ身を引く。 八つのチェーンソーをめちゃくちゃに振り回す攻撃の脅威は、想定通りでもあった。 喰らい続けると不味い、というものではなくて、そも"喰らったら不味い"というべき代物。 「私に貴方の心臓を捧げなさい、クレヱル」 抜き打ち、速射、跳弾、次々と。クレヱルのブリキの箱の、喜平が殴りつけて少しめくれた穴を、こじ開ける。 クレヱルは苦しげな悲鳴とも呻きともつかない声を上げて、大きく上体を反らす。チェーンソーは宙を泳ぐ。 どうぞ、とエーデルワイスが促すまでもなく、猛はここを見逃さない。 「パッと見た事、確かに人の形をしちゃいるが……ま、油断は禁物かね」 引いた肘に、固めた拳。落とした腰を捻り、弩弓の様に。視線はブリキの箱へ。 「壱式――」 クレヱルが上体を反らしてガラ空きとなった、ほんの数秒の間。 「――迅雷!」 蒼きジグザグの光となって箱を貫く。 硝子細工の様な目と視線が合う。異様な角度をしたその頭部に、"考えは正しい"と判断する。 やはり、人間の関節の角度や稼働部位を想定して動くのは止した方が良い。 近接した際の攻撃は、様々な角度から切り裂かれる事だろうと。 氷璃は、少し離れた位置にいた。 今、解き放たんとする呪氷の矢と、見据えた先の球体関節人形に何とも言えぬ因果を覚えて。 「形が綺麗なのは綺麗な型に流し込んでいるからでしょうけど」 矢を引き絞るような予備動作で、生み出したものを解き放つ。 「運命。巡り巡る事だって――」 氷の矢が飛翔して、接触の刹那にクレヱルの全身は、霜に覆われる。次にピキリと凍結する。 雷音は深淵を覗く。 「お前のその箱のために4人の命が失われたと思うと吐き気がする」 知るか知らぬかで言えば、胸のブリキの箱は、"八開の使い手が作った物"である事。 そして、このキマイラが、人と破界器のキマイラである事―― 「5人、なのか……」 凍結しているキマイラが、血ともつかない紅涙を流している意味を知った。 一つ目の賭けは負け。次に繋がる情報は無い。 ならばと直ぐに星儀を放る体勢へ移る。その束の間に、それでも、解き放ってやることが今やるべき事に他ならないだと、雷音は胸裏を切り替えた。 雷音の様子を見て、ゲルトも動く。 「雷音を落とされる訳にはいかない」 小烏の様子から、近接が圧倒的に不味い事は明白。 とにかく"後半"は、雷音が必要となるのだから。 戦いに駆り立てられる狂奔に、『狂獣』は金の瞳を大きく剥きだして、身を委ねた。 シャルラッハは、獣のように躍りかかって、唸る相棒を振り下ろす。 「ハハ……」 ガリガリと外殻が削れる音がした次に、吹き出す鮮血の如き体液が、眼前を綺麗な赤に染め上げる。 「ハハハハハハッ! 緋色の花弁が舞い散るような、鮮やかな血をもっと流してよ!」 腹の底から、自然に込み上げる愉悦を、遠慮もなしに、遠慮する必要もなしに。 「腹の底から込み上げる、心地良い喘ぎ声をもっと聴かせてよ」 余りある愉悦が、更にシャルラッハの身体を動かし、自身が放つ赤きオーラと、目の前の体液が調和する。 オーラの真紅。人形から吹き出す体液の真紅。場の真紅。水月の真紅。 ――自身の真紅。 横薙ぎに振るわれたチェーンソーと、むちゃくちゃに振りぬかれたチェーンソー。 ただの1撃に灼熱を覚え、灼熱に運命をくべる事が脳裏によぎる。早々脱落なんて、ごめんだ。 ――――ッッッッッ!!!!! 真紅真紅真紅真紅真紅真紅真紅 近接する猛と喜平にも、まるでチェーンソーの雨の如き風景が、太い雨糸となって注ぐ。 ブリキの箱は更に回転を増して、シャルラッハが傷つけた"そこ"を、粛々癒す。 ●鋼鉄の胎動 -O.Wepon Chimaira- まるで、夜空すら赤い。 シャルラッハが、運命をくべて立ち上がる頃合いと、喜平と猛が立ち上がる頃合いは、同時。 ばら撒かれる致命的な攻撃は、回復を受け付けない。 「とんでもないな」 呟いた猛は、血反吐を思いっきり吐き出して、口中をすっきりさせる。 この場は、明らかに逆境に他ならない。 「オーバードウェポンだろうが、なんだろがぁ……!」 胸裏に沸き立つものを、両の拳に乗せるように放つ一撃は、通常より大きく電光が迸る。 「俺の前に立ち塞がるなら、ブッ潰す!」 猛が拳を繰り出す刹那に、肩の上を銃弾が通り過ぎる。銃弾に劣らぬ速さで打ちぬくはブリキの箱。 接触同時に、箱の一面が露出して、ここに拳が突き刺されば、中身は消し炭となって―― ――異変が生じる。 最初に、ギチギチ、と虫の関節めいた音が鳴った。 ゴシックロリヰタの衣装が隆起して、人形の外殻に亀裂が走る。 蝶のような羽根が、服を突き破って胸部から生じて、背中からは節足類の如き足が生えてくる。 天に仰け反って、頭部の上下が逆さまとなる格好で、硝子の様な目がリベリスタ達を凝視すると、ここでぱきりっと、端整な顔が砕けた。 隙間より覗くは、虫のような複眼。 新しく生えた足によって、"足の役目"を終えた八基のチェーンソーが次々と連結する。 輪胴型に整列した八基は、デタラメに唸りを上げ、加えて輪胴そのものもドリルのように回転し―― 「ふむ……やはり、如月・ノーム・チェロスキー大先生の」 エーデルワイスは、銃口から昇る硝煙を吹き消して、チェーンソー部分の作成者の名を呟く。 この兵器は、黄泉ヶ辻のもの。キマイラの部品で使われている事から、黄泉ヶ辻と取引でもあったか。 シャルラッハは立ち上がる。 「……そのでっかいチェーンソーは見た事あるよ」 携えた得物を構えて、チェーンソーの塊を見る。アークに来て、初めての依頼で遭遇した因縁がある。 「最初はそれにやられたんだっけ、本当にすごい武器だよねー」 散る火花は花火。機械の嘶きは喧騒。戦火。戦争-パレード-そのものが、この兵器にあるんだと憧憬に近い感情が"再び"蘇る。 「そっちに恨みはないけれど、あの時の分を纏めてお返しするよ!」 足を止めないシャルラッハを眼前に、喜平は口角に血を滴らせながら、拭う手間を惜しんで次手を考察する。 「さぁて……トンデモない展開になってきました」 この人形は、火力が高い上に重ねてくる。 一般人が離脱した後、次に誰が狙われるのか。少しだけ、考慮が要る話だったか。 そしてこの変化。負荷を掛けている機構中枢があるのだろうか、と数秒の内に巡らせて―― 「まだ、手はあるさ」 初撃の後に一歩引いていた小烏は、降り注ぐチェーンソーの外にいた。 そして即興ながら。 「ゲルト兄さん。ジャスティスキャノン撃てるかい?」 小烏はブレイクフィアーで厄を祓い、クレヱルを挟んでその先のゲルトに声を投げた。 雷音を庇う様に立っていたゲルトは、意図を察する。 誰が狙われるかを多少に思索して、狙われているのは、ブロックをしている3人の誰かであるならば。 「間に合うか」 ゲルトは、キマイラを逃がさない目的で持ってきたジャスティスキャノンを放つ。 「間に合わせます」 散開した布陣。 氷璃が向こう側から語りかけ、先じて呪詛の篭った氷の矢を放つ。 このキマイラは許してはならない。呪われたキマイラ。呪われた兵器。 使い手となって散っていったフィクサードを胸裏に過ぎらせて、凍らせる。 ――が、即座に霜は砕け散る。歯噛みをする。 「……これは世界にあってはいけないものだ」 雷音は、この一撃が多き負傷者を出すか否かの一手である眦を決して、陰陽・星儀を放つ。 星々の力が呪詛となって、キマイラに注ぎ、全員の視線は輪胴型のドリルに注がれる。 分解されない。 ドリルは砕けずに、そしてゲルトの放ったジャスティスキャノンの怒りを振り払い、キマイラは咆哮を上げた。 ――――ッッッッッ!!!!! 「お人形遊びはこれで終わりだよ」 シャルラッハは、キマイラのその左右に開いた顎部に、真紅のチェーンソーをねじ込んだ。 「ハハハハハハハハ!!!」 笑いながらに、顎部を削ぎ落とすと、キマイラはイカれたチェーンソーを振りかざす。地面ごと前衛を薙ぎ払う。 「一押し。破滅的な一押しを」 触れる後の先に、喜平が振るった墓石が、無機質な昆虫の複眼を砕く。乗じるように、猛がもう一撃。 「余興だってんならよぉ、ンな舞台でぶっ倒れて堪るかよ……!」 ぐしゃりと、クレヱルの顔面が潰れる触感が伝わった次に、キマイラのチェーンソーが通り過ぎた。 前衛が居なくなった。 全方位を視界に捉える虫の複眼と、あさっての方向に向く無機質な硝子の目は、小烏へと向く。 猛攻を加えるリベリスタの甲斐も無念に。 「……任せたぜ。自分が倒れれば、これで――詰」 初手で強烈に受けた小烏は、攻撃を受けるその間際に、守護結界を遺す。 「お疲れ様です……」 フライエンジェならば飛ぶ事が出来る。飛翔するキマイラの鼻先を、氷璃が塞ぐ。 いざとなれば、ブロックに入る事。砕けた人形の顔を撫でるように、氷の呪詛を放ち。 「――勝敗は決しました」 氷璃のこれが、劣勢を覆す、静かな一手。 次の標的は"ゲルト"である。その進路を"氷璃が塞ぐ"状況。 進路を塞がれたキマイラが、唯一ゲルトを攻撃する方法は『悲鳴しかない』。 そして、ゲルトは悲鳴が齎す怒りに対して『耐性』がある。 「さて」 一歩引いて、体力を温存していたエーデルワイスは、静かに銃口を、上のキマイラに向けた。 「そろそろスクラップとなる時間よ」 銃声。火力は十二分に残る。 「被害が大きくなってしまったが……雷音! 畳むぞ!」 ゲルトの声に、雷音は頷く。倒れた4人に報いるには―― 「勝つのだ」 雷音の陰陽・星儀により、今度こそ輪胴型のチェーンソーが砕け。 万が一にも、キマイラの悲鳴でゲルトが斃れるという状況が無くなったならば、これが詰みの最終形。 あっけない終わり。 実にあっけなく、人形劇は終演する。…… ●手繰り寄せる操り糸 -Doll Master- 「あらあら……クレヱルちゃんったら。負けてしまって」 『人形細工師』は、溶けて消えたキマイラを千里眼で確認した後に、うふふふと、歓喜に満ちた声を上げてひらひらと帰路につく。 「あの落ちぶれ科学者も、面白いものを作りますわねえ」 始末の為に命を狙い、助命を許す引き換えに得たものは、並々ならぬアーティファクト。 「さ、お次は何がよろしいかしら。火炎放射器と、ドリルと……」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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