●絵画に潜む……。 最初にその異変に気付いたのは、監視カメラの映像を見ていた警備員だった。 深夜の美術館で、見回りをしていた同僚の姿が、視線を外した一瞬のうちに消えていたのだ。かと思えば、次の瞬間には4階にその姿を現していた。初めに同僚が居たのは2階なので、一気に2階分の距離をワープしたことになる。 カメラの不具合か、或いは、自分の気のせいか。 彼は何度も眼を擦り、頭を振って自分の意識を覚醒させる。 だが、返って来た同僚の青ざめた顔が、先ほどの出来事は自分の気のせいなどではないと、そう気付かせる。 「信じられない体験をしたんだ……。聞いて欲しい」 「嫌、聞くまでもない。君は、2階から4階まで、一瞬のうちに飛んだんだろ?」 「あぁ……。その時、真っ黒い腕に掴まれたような気がする」 ガタガタと震える同僚に、熱いコーヒーを飲ませ警備員は監視カメラに視線を移す。 壁一面に無数に並ぶ監視カメラの映像は、5階建てのこの美術館の各所に設置されたものである。深夜ということもあり、映像には誰の姿も映っていない。あるのはただ、壁やショーケースに飾られた無数の絵画や美術品ばかり。 壁にかかった絵画の中から、ずるり、と黒い腕が這い出した瞬間を、彼は見た……。 ●闇に紛れて……。 「絵画の中を自在に移動、或いは、人を引き込み、別の場所にワープさせる能力があるみたい」 美術館は広く、敵の姿はひどく捕らえ辛い。『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、モニターの映像を切り替え、ビル全体を映しだした。 「この5階建てのビル全部が美術館。逃げているターゲットはE・フォース(画霊)。フェーズ2が1体、フェーズ1が2体で、合計3体程いるみたい」 五階建てのビルの中には、数百を超える絵画が展示されている。現在、地域の小、中、高校生の描いた絵を、期間限定で飾っているためこのような量になっているのだ。 「5階だけには、何もない。倉庫とか準備室として使われているみたいね」 絵画もないので、そこに画霊が現れることはないだろう。 「画霊は、絵画の中から腕を伸ばし引きずり込んで、ランダムにビルの何処か、傍に絵画のある場所へワープさせる能力を持っている」 軍団と個々、相手にするならどちらが楽か……考えるまでもないだろう。 「その他、不吉や毒、麻痺や石化など、こちらの行動を邪魔するタイプの攻撃が得意みたい」 気を付けて、なんてイヴは言う。 「あと、飾ってある美術品は極力傷つけないでね。タイムリミットは約3時間。夜が明けるまで」 警備員が怪我をしないように、注意してね。 そう言って、イヴはモニターを切り替える。 そこに映っていたのは、真っ黒い人影。眼だけが爛々と赤く輝いている。 画霊の姿は、闇に紛れて曖昧だ……。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年11月17日(土)22:50 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●事前準備。 最初に異変に気が付いたのは、監視カメラの映像をじっと眺めていた警備員だった。彼が気付いた異変。それは、裏返しになった絵画の存在である。 各階にいくらかずつ、警報機の付いていない絵画が裏返しにされているのだ。 「おい、これを見てくれ! おかしいんだ!」 同室に控えている同僚に声をかけながら、彼はモニターを次々映しかえて、美術館内の様子を確認する。映像を確認していくうちに、彼はあることに気付いた。 「おい、この部屋に近づいていないか!?」 モニターを切り替え、警備員詰め所周辺の映像を映す。そこには、暗がりに紛れるようにして立っている数人の人影。それを見て、急激に血の気がさがるのを感じる。 「なんで、今日に限ってこんな……」 トラブルばかりが起こるのか。 と、そこで気付いた。 「………おい?」 先ほどから、同僚の返事がないことに。 「おい! 返事くらいしたらどうなんだ!?」 そう叫び、背後を振りかえった彼が見たのは、天井から逆さにぶら下がった子供の姿。大きな目で彼のことを見つめながら、もう1人の警備員の口を手で塞いでいる。 「ごめんなさい。まお達はいまからちょっといたずらします」 バチバチと電気を散らすスタンガンを警備員に押し当てる『もぞもそ』荒苦那・まお(BNE003202)。警備員の体から力が抜け、グッタリとその場に崩れ落ちる。 「あ……な、なんだ、お前は?」 天井に貼りつくその姿に、彼はぎょっと目を見開く。 彼は素早く、腰に付けた警棒を引き抜く。子供相手にこんなものをつかうのは気が引けるが、すでに仲間が1人、スタンガンでやられているのだ。警戒をして損をすることはないだろう。 警備員詰め所に緊張が満ちる。その時、ギギと鈍い音がして、詰め所のドアが開いた。 「悪いな。怪我はさせたくないが」 現れたのは禿頭に僧服の坊主『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)だ。部屋に飛びこむなり、緋色の槍を振って警備員の手首を叩く。警棒を取り落とした警備員に、まおが飛びかかった。スタンガンを警備員に押しつける。 ガクン、と一瞬大きく痙攣し、警備員はその場に倒れた。 「すまないでござるな。このままだと障害になってしまうゆえ我慢するでござる」 顔に傷のある男が、室内に入ってくる。 フツからロープを受け取った『自称・雷音の夫』鬼蔭 虎鐵(BNE000034)が、倒れた警備員を縛り上げる。それから、警報機のスイッチをオフに。 気絶した警備員をその場に残し、3人は廊下へ出て行った。 ●美術館の怪異。 警備員を拘束し、警報機をオフにして、リベリスタ達は美術館を進む。幸い、ここに辿り着くまでの間にE・フォース(画霊)には遭遇していない。しかし、敵は絵画から絵画へと移動する能力を持っているため、いつ何時、どこから現れるか分からない。 「悪戯好きの画霊さんですか。私達の反応が見たいのでしょうか?」 首を傾げる雪待 辜月(BNE003382)が、そっと廊下を見渡した。無数に並ぶ美術品と、常夜灯のぼんやりした灯り。闇の中に何かが紛れているような気がひどく不気味に見える。 「今日のびっくりてれぽーと。絵と絵を移動するんだって凄いよねー」 それなら絵をひっくり返せばいいじゃない、なんて『初めてのダークナイト』シャルロッテ・ニーチェ・アルバート(BNE003405)が手近な絵画に手を伸ばす。 伸ばされたシャルロッテの小さな手に、しゅるりと影が巻きついた。 「……ぅえ!?」 絵画の中に、赤い目が光る。影に紛れるように現れたソイツが、恐らくは今回のターゲット・画霊なのだろう。画霊がにやりと笑った気がした。 「わ、わわ」 短い悲鳴を上げるシャルロッテ。影に引かれ、すでに片腕は絵画の中に引き込まれている。 「相手してやりたいのは山々っすけど、ワープさせられると面倒っすからね」 シャルロッテを掴んだ影に向け『LowGear』フラウ・リード(BNE003909)がナイフを振り下ろす。しかし、そんなフラウの腕を、別の絵から飛び出してきた画霊が掴んだ。 「こっちもっすか……」 「敵は1体じゃないんだ! 気を付けろ!」 フツが槍を構え注意を促す。シャルロッテを助けようと虎鐵が腕を伸ばすが、一手間に合わない。シャルロッテの体は、絵画の中へと引き込まれていった。 同様に、フラウの体も絵画の中へ。フラウを助けに向かったまおもまた、ついでとばかりに絵の中へと引き込まれていった。 「出来ればあまり傷つけたくないのだが」 杖を構え『破壊の魔女』シェリー・D・モーガン(BNE003862)がそう呟いた。どこから敵が強襲してくるか分からない以上、付近の絵画全てを警戒するしかないのだが……。 シェリーの傍にあった絵画から、画霊がすっと顔を出す。画霊の赤い目と、シェリーの視線が合った。瞬間、シェリーの動きがピタリと止まる。 足元から順に、彼女の体が石と化す。それを見て、辜月が彼女に駆け寄る。そんな辜月の首に、画霊の腕が巻き付いた。 先にシャルロッテ、フラウ、まおの3人をワープさせた画霊たちが戻って来たのだろう。3体の画霊に襲われ、仲間達はシェリーと辜月を助けに寄れないでいるようだ。 「絵渡しって便利そうよね……」 冷や汗を流しながら宇佐美 深雪(BNE004073)が画霊の腕を蹴り飛ばす。障子でも蹴り破いたような手応えのない感触。画霊の腕が闇に溶け、散った。 しかし、すぐにまた影が集まりその腕は修復する。ダメージは受けているようだが、部分的に傷つけたくらいでは、すぐにまた再生するようだ。 「面倒ですね」 深雪が唸る。 その間に、影に掴まれた辜月は絵画の中へと吸い込まれていった。助けを求めるように伸ばされた辜月の腕を、シェリーが掴む。 「うっ……。妾の膂力など、たかが知れているがな」 それでも、せめてこの手は離すまいと手に力を込めるシェリー。辜月もろとも、シェリーの体が絵画に引き込まれ、消えた。 「参ったな……。纏まっていたのが、逆効果だったか?」 フツが呟く。密集していたせいで、自由に攻撃も出来ず分断されてしまった。後に残されたのは、フツ、虎鐵、深雪の3人。一時退却のつもりなのか、すでに周囲に画霊の気配はない。 「まったく、面倒な相手でござるな」 大太刀を鞘に戻しながら虎鐵が唸る。 「もっと注意しておくべきでした」 分断された仲間に連絡を取るべく、兎耳を揺らしながら深雪はAFを取り出した。 「4階で合流だそうです。急ぎましょう」 AFを閉じて、まおがそう言う。それを聞いて、フラウはガシガシと頭を掻いた。 「遠いっすね。ここ、1階っすよ?」 しかし、速く合流、というのには同意なのだろう。ナイフを鞘に戻して、フロアの地図に寄っていくフラウ。どうやら飛ばされたのは、1階の奥にある大部屋のようだ。 周囲には、学生の描いた絵が所せましと並んでいる。どうやらここは学生作品の展示場所らしい。警備員詰め所に向かう際に、通過しなかった場所だ。 画霊の出入り口が、そこら中に並んでいるようなものである。とりあえず、と配電盤を開けてフロアに灯りを付ける。 「まお。階段は、入口の方っす……。って、なに見てるんすか?」 まおは、じっと壁にかかった風景画を見つめていた。夕方の町並みを描いたものか、赤を基調とした色合いが眩しい。そんな風景画の中心付近に、画霊がいるのが見える。 「じーっと見られても、まおは平気ですので。じー」 「だからって、見つめ返すのはどうなんすか?」 呆れたようにそう呟いて、フラウはナイフを取り出した。 一方その頃、3階では辜月とシェリーが肩を並べて廊下を歩いていた。4階の仲間に合流する前に、フラウ、まお、シャルロッテと合流すべく絵画のないエリアへと向かっている所だ。 「やはり、纏まって動くのは、良い的だったな」 かといって、別れて行動というのも心もとない。2人きりで薄暗い美術館を歩き回るのは、ひどく気味の悪いものだった。 「3階は、絵が少ないから少しは安心ですね」 なんて、ひきつった笑みを浮かべる辜月。そんなシェリーと辜月の前に、数点の絵画が並んでいるのが見てとれる。金色の額縁に入ったそれは、この町出身の画家が描いた貴重な物らしい。 3階は主に、この町に縁のある品や、大昔の出土品などの歴史資料が集められているのだろう。 その中の1枚から、ずるりと影が溢れだしてくる。 「来たね……。ここで倒して、進んだ方がいいですね」 「ふむ。この手の機械は未だ使い慣れぬな」 先に敵を倒して合流する、という旨を伝えようとシェリーがAFを取り出した。 次の瞬間、グリモアールを手にした辜月目がけ、画霊の腕が襲い掛かる。 「ひっとりっきりー……♪」 なんて、囁くように歌うシャルロッテ。2階に飛ばされた彼女は、フラウとまおが上がってくるのを、1人で待っている所だった。退屈なのか、階段に腰掛けたままパタパタと足を揺らしている。その度に、装飾過多なほどレースやフリルの付いたスカートが揺れる。 「こっそり忍び込んだり動いたり出来ないのがしょんぼりなの」 と、寂しそうに呟いた。 そんな彼女の足元から、何か甲高い音が聞こえてくる。刃物と刃物が打ち合うような、硬質な音だ。ん? と、首を傾げるシャルロッテ。じっと物音に耳を澄ませていたが、ふと、その音の正体に思い当たる。 これは、戦闘の音だ。そのことに気付いたシャルロッテは勢いよく立ちあがって、階段を駆け下りて行った。 「私からは逃れられないよー」 「一気に削ってやるっすよ」 姿を現した画霊に向けて、ナイフを突き出すフラウ。突き出されたナイフを画霊の爪が受け止める。同時に、壁を駆けてまおが接近。鋼糸を伸ばし、画霊の腕を切り裂いた。 「ぺちぺちです」 まおの影が起き上がり、やもりの形を取る。まおはその上に飛び乗って、画霊に飛びかかる。 宙を舞う気糸と、閃く刃。画霊は、それを避けるように絵画の中へと逃げこもうとする。しかし、画霊が飛びこもうとした絵を、まおが素早く糸でかっさらう。 「逃がさないっすよ」 タン、と軽い音をたて床を蹴るフラウ。這うような低姿勢で駆け抜け、擦れ違いざまに画霊を切りつける。画霊の影のような腕が伸び、フラウの肩を引き裂いた。血が飛び散って、床を汚す。 床を踏みつけ、クイックターン。ナイフを持った手を伸ばすものの、すでに画霊は別の絵の中に潜った後だった。 画霊の姿が、絵に溶けて消える。咄嗟に周囲を見回すものの、画霊の姿は見当たらない。 と、そこへ弓を構えたシャルロッテが駆けこんでくる。 「あれぇ? 戦闘中じゃなかったのぉ?」 「戦闘中っすよ。ただ、逃げられたっす」 ナイフを手に周囲を見回すフラウと、首を傾げるシャルロッテ。そんな2人を尻目に、絵画を眺めて回るまお。 まおの眺めていた絵から、影の腕が飛び出した。一瞬でまおの腕を掴むと、影はそのまままおを絵に引っ張りこもうとする。 「まお!」 「へばりついて堪えます!」 面接着で、床にへばりつくまお。画霊は引き込むことを早々に諦め、絵画から飛び出してきた。体を揺すり、影を周囲に撒き散らす。 それを受けたシャルロッテが、バランスを崩して床に倒れる。そんなシャルロッテの頭上を、フラウが飛び越えて行った。フラウの接近に気付き、画霊が絵の中へ戻ろうとする。だが、そんな画霊の体に無数の気糸が巻き付き、それを許さない。 「ナイスっすよ、まお」 ぐっ、と親指をたてるまお。接近したフラウのナイフが、空気を切り裂き、宙に閃く。伸ばされた画霊の腕を切り裂き、それでもなお、フラウの動きは止まらない。流れるような動きで続けざまにナイフが振るわれる。 床から起き上がったシャルロッテが弓を引き絞る。禍々しい黒い矢を番え、画霊に狙いを定めた。きりきり、と弦を引き絞る音。フラウは攻撃を止めて、背後に飛んだ。 「ペインキラーの始まりだよ―」 フラウがその場から離脱する。と、入れ替わりにシャルロッテの放った矢が画霊に襲い掛かる。 「高火力命中砲台―」 矢は、画霊に命中し呪印を刻みつける。ジワジワと、矢かた溢れる黒いオーラが画霊を包み込んでいく。逃れようともがく画霊だったが、気糸に囚われ叶わない。 やがて、画霊の姿は溶けるようにして、消えていった。 「精密なショットは性に合わないな。出来るなら絵画ごと纏めて吹き飛ばしたいところだ」 杖から無数の魔弾を放つシェリーが、そんな物騒なことを呟いた。魔弾の先には、絵画からその身を伸ばす画霊の姿。 「駄目ですよ。貴重なものなんですから」 と、嗜める辜月。グリモワールを構え、シェリーの背後から戦闘を見守る。2人の傍には絵画が存在しないので、強襲を受けることはないだろう。しかし、かといって安全かと言うと、そんなことはない。 絵画から絵画へと移動する画霊の相手をするのは、少々骨が折れそうだった。 「わかっているが……。お主、その絵画ごと焼き尽くしてくれようか!」 魔弾を避け、絵画へと逃げこむ画霊。絵画に消え、今度は別の絵から姿を現す。 「近くに出ますよ、たぶん」 今までの経験から判断したのか、辜月がそう告げる。辜月の言葉の通り、すぐ傍の絵から画霊画が飛び出してくる。画霊へと杖を向け、魔弾を放つ。 画霊もまた、影を撒き散らしそれを迎えうつ。魔弾と影がぶつかり、弾けた。 魔弾の一部は、そのまま画霊の身を突き破る。一方、画霊の放った影もまた、シェリーの体に纏わりつき、その身を痺れさせる。 「今助けるよ」 シェリーに駆け寄る辜月。グリモワールが淡い光を放つ。同時に、画霊の腕が、辜月に襲い掛かる。影の爪が、ライトを反射し、怪しく輝いた。 「逃げろ、辜月!」 シェリーが叫ぶが、しかし間に合わない。画霊の爪が、辜月の身を引き裂いた。 麻痺が解けたシェリーが、杖を振るう。画霊は杖を避け、2人から離れた。倒れそうになった辜月の体をシェリーが抱き止めた。 「あ、ありがとう。それより、チャンスですよ、シェリーさん」 シェリーに抱き止められた辜月が、グリモワールを画霊へと向けた。画霊は、絵画へ向かって逃走中のようだ。 「あぁ、なるほど……」 杖の先を、画霊へ向けるシェリー。 画霊の向かう先に、絵画は一枚しかない。恐らく、そこへ逃げこむつもりなのだろう。 「今です!」 2人分の魔弾が、画霊に襲い掛かる。丁度、絵画へと飛びこもうとする画霊の赤い目が、見開かれる。直後、その影のような体を無数の魔弾が貫いた。 「ふん、良い的だな」 シェリーが呟く。2人の目の前、画霊は千々に裂けて消えた。 顔を見合わせ、2人は大きなため息を吐いた。 ●絵画に潜む。 「どうやら、残りは1体だけのようですよ」 AFを閉じて、深雪がそう告げる。分断された他の仲間から、画霊を1体ずつ討伐したと連絡を受けたのだ。 「じゃあ、後はそこら辺にいるやつだけだな」 槍を構え、フツが言う。フツと背中合わせになった虎鐵が、腰から大太刀を引き抜いた。 「いよいよ拙者の出番でござるな」 全身から闘気を溢れさせる虎鐵。2人から若干の距離をとって、深雪が絵画に視線を移す。 彼女の死角から、黒い腕が伸びる。「出たぞ!」と、それに気付いたフツがそう叫ぶ。咄嗟に深雪は身を捻ると、黒い腕を回避し、逆にその手を掴み取った。 「それじゃぁ、手早くすませましょう」 合気道染みた動きで画霊を絵画から引きずり出す深雪。素早く体を沈め、真下から画霊を蹴り上げる。炎に包まれたしなやかな脚が、画霊を貫いた。燃え上がる影。素早く体を回転させ、さらにもう一撃、画霊に蹴りと叩き込んだ。画霊の体が、天井まで弾かれる。 「このまま、終わらせます」 深雪がそう呟いた。次の瞬間、宙に浮く画霊の体から、影が飛び散る。 「うっ……。あぁ!」 影に弾かれ、床に倒れる深雪。這い上がる影に拘束され、身動きが取れない。影の腕が、深雪に迫る。しかし……。 「そうはさせねぇ」 朱塗りの槍を突き出し、腕を受止めるフツ。大きく槍を旋回させ、画霊の爪を弾く。するり、と画霊の体が槍の真下へと沈みこんだ。 「おおぉぉぉ!」 画霊へと、虎鐵の太刀が振り下ろされる。真っすぐに、全力で降り降ろされた太刀は、しかし、画霊には当たらず、床に突き刺さるのみ。虎鐵の脚を、画霊の爪が切り裂いた。 「ちょこまかと……」 唸る虎鐵。画霊は、するすると床を這って絵へと逃げこもうとする。 「そうはさせねぇ!」 式符を投げるフツ。式符は瞬時に鴉へと変じる。画霊の逃げこもうとした絵を、鴉がかっさらって行った。逃げ場をなくした画霊が、その場に起き上がる。 そこへ、大上段に太刀を構えた虎鐵が迫る。太刀を持った虎鐵の肩の筋肉が盛り上がる。虎鐵の体から、人間離れした迫力が溢れているのが分かる。虎鐵の身体が、眩く輝いた。 「一気に終わらせてもらうでござる!」 輝く太刀を画霊に叩きつける虎鐵。1閃、2閃と太刀が宙を舞う。続けざまに振るわれる太刀の嵐が、画霊の体を削っていく。 最後に残った画霊の頭部を斬り捨て、太刀を鞘に仕舞う虎鐵。 「後は、警備員を解放して終わりでござるな」 虎鐵の耳は、無数の足音を捕らえていた。どうやら、分断されていた仲間たちが近くまで来ているらしい。 画霊討伐依頼、これにて完了……。 窓からは、眩い朝日が差し込んで来ていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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