●たった五文字に全てをこめて 「愛している」 ●エリューション・フォース この一言を言う為に費やした、長い長い遠回り。 出会い、話し、理解し、喧嘩し、別れ、そして仲直りして。 今だに直してほしい欠点はあるけど、それを含めて大好きだ。 この五文字で全てが伝わるとは思えないけど、この五文字に全てをのせて言葉を出す。 だけどこの気持ちは伝わってはいけない。なぜなら―― ●アーク 「ニイマルゴオマル。ブリーフィングを開始します」 録音機にスイッチを入れて、資料を開く。 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は集まったリベリスタたちの顔を見ながらこれから起こるであろう神秘の説明を始めた。 「目標はエリューション・フォース一体の打破です」 和泉の言葉と共に写し出されるのは、とある湖のほとり。人気のない湖から首を出す蛇のような思念体。 幻想纏いに転送されるEフォースのデータを確認するリベリスタ達。確かに強敵だが、この数ならそれほど危険ではない。油断しなければ大丈夫……と思っていたリベリスタの耳に更なる情報が入る。 「護衛に一人の……フィクサードがいます」 一瞬言いよどんだ和泉を怪訝に思うリベリスタ達。 「二宮和美。この湖の近くにいる神社の娘です。 二宮家は小さいながらも革醒者の一族で、地方を守っていました」 「ちょっと待て。それでどうしてフィクサードなんだ? 彼女が家を裏切って出奔したとかそういうのか?」 和泉は首を振って言葉を続ける。 「この湖には昔『水蛇』と呼ばれる伝承がありました。曰く、『村の安寧のために湖の蛇に生娘を捧げる』というもので、二宮家はそれを退治したというものです。このエリューションはその『水蛇』の思念体が復活したものでしょう。 二宮和美はその思念体と出会い……対話を試みました」 「対話?」 「はい。そしてそれは功を為します。結果、このエリューションとフィクサードには友愛に似た関係が生まれたようです」 それは本来あるべきではない事例。平和に物事が済んで喜ぶべき……とはいえないのだ。 エリューションの放置は世界の崩壊に繋がる。例え温和なエリューションでも、放置はできないのだ。 「なるほど。それでフィクサードか」 「……対応は任せます。最優先目的はエリューション・フォースの打破です」 ●二宮和美 最初は敵同士だった。先祖の因縁の相手。それを退治することは二宮家の使命だと。 実力差は明白で。でも『彼』は気を失った私を殺さずに治療までしてくれた。 思えば、本格的な戦闘を受けたのは『彼』からだ。それまでは革醒時の身体能力を力任せに振るっていただけ。 何度も挑み、何度も負けて。時々引き分けて。 そのたびに優しく介抱されて。落ち込む私に言葉をかけてくれて。 いつからだろう。この血の通わない幽霊が見る目が、表情の読めないその顔が。 私に屈託なく微笑んでいるように見えたのは。 その度に胸はほのかに熱くなる。その理由が理解できないほど、私は子供じゃない。 ――『彼』は倒さなければならないと判っているのに。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年11月17日(土)23:12 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「革醒者とEフォースとの恋、ですか……」 『朔ノ月』風宮 紫月(BNE003411)は『万華鏡』で知った今回の事件を反芻する。 「相手に意思がある以上、そういった事も在り得るのでしょうね」 かなわぬ恋。禁忌の恋。言い方はさまざまだが、紫月の言葉にリベリスタの反応はさまざまだ。 「人とエリューションが、ですか……お互いに報われるものではないと判っているでしょうに」 悲恋を嘆くのは『シスター』カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)だ。身寄りのない彼女は人と人の縁によって助けられて生きてきた。だからこそこのような悲しい繋がりは終わらせねばならない。それが誤りというつもりはないけれど、終わらせなければならないのだ。 「情で家の伝統を、お役目を捨てますか。私には到底できぬことですね」 憤慨の意を示すのは『蛇巫の血統』三輪 大和(BNE002273)。ナイトメアダウンという大事件で家を失った大和にとって、家があるのに役目を放棄する二宮和美には思うところがあるようだ。 「愛で強くなる者がいる。生きる力にする者がいる。愛で狂う者がいる。愛のために死ぬ者がいる。今回の相手は、どうなんだろうな……」 息を吐いて『折れぬ剣《デュランダル》』楠神 【ハーレム】 風斗(BNE001434)が沈痛な思いを口にする。今までリベリスタとしてさまざまな愛憎を見てきた。ハッピーエンドもあれば、直視しがたいものもあった。今回は、どうなのだろうか。 「そうですね。ところで『十四行目の墨付きカッコ内』はどうにかならなかったのですか?」 『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)は地文へツッコミながら、無表情に風斗に答える。 「その……いろいろすまん」 「謝って済む事と済まない事があります」 「……どうしたうさぎ? それとは別に怒ってるようだが」 「……別に」 無表情の中の機微を感じた風斗がうさぎに問いかけ、同じく無表情に顔を湖のほうに向ける。そこには一体のEフォースと、一人の革醒者。 二宮和美。エリューションに恋をした革醒者。 彼女に対する思いはさまざまだが、根っこのところでは共通していた。つまり、 「エリューションは討つべき存在です」 『不屈』神谷 要(BNE002861)は黒いコートを羽織り、前に出る。リベリスタとしてエリューションを滅する。それは世界のためだ。 「申し訳ないけれど、わたしたちがわたしたちの『人間としての』生活を守るため、人間の敵とは戦うほかないのです」 改造を重ねたたロングバレルのピストルを構えて『メタルハーレム』鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)は二宮を一瞥する。言うべきことは特にない。それはお互いわかっていることだから。言葉を重ねることに意味がないのなら、弾丸という行動で示すのみ。 「……ぼくはなんとなくミズナの気持ちがわかる」 『ガントレット』設楽 悠里(BNE001610)は篭手を装着した手で拳を作る。握った拳は強く、そしてエリューションを見る視線も同様に強い。 二宮とミズナはリベリスタの構えを見て、その殺気に応じるように構える。 湖畔に風が吹く。湿った冷たい空気の中、リベリスタたちは闘気を滾らせ大地を駆ける―― ● 「いきますよ」 うさぎがリベリスタに飛行の加護を与えると同時、悠里が空を駆けてミズナと湖の間に移動する。二宮とエリューションを湖に向かわせない作戦だ。 流れを止めることなくリベリスタは各々のポジションに散開する。二宮を押さえる者。ミズナを押さえる者。後衛で回復を行うもの。 「水蛇エリューションの撲滅。承知いたしました」 『マスクウェル』を手にあばたはミズナに視線を向ける。自らを銃を撃つための機械と律し、瞳と右腕の感覚に集中する。それ以外の部分は銃とその衝撃を支えるための部品。狙い、撃つ。思考さえ置き去りにして、引き金を引いた。 「いい腕だ。それに迷いがない」 銃弾を受けたミズナが賞賛の声を上げる。 「当たり前です。わたしたちにとってあなたは『敵』なのですから」 にべもないあばた。それはリベリスタとしての使命ではなく、単純に彼女の性格ゆえ。真面目で嘘のつけないところもあるが、彼女は神秘の根絶を望んでいる。故にエリューションへの対応もむべなるかな。 「……そう何発も撃つ心算はありません、行きます」 紫月は弓に矢を番え、ゆっくりと引き絞る。背筋を伸ばししっかりと対象を見る。相手の動きを読み、風を読み。幾度となく繰り返した構えと、それに伴う経験。放たれた一射は吸い込まれるようにミズナに刺さる。 「私達が現れた理由は、恐らくご理解して頂けるかと。……納得は、していらっしゃらないでしょうけど」 「理解はしている。納得もできる。自分がどういう存在なのかも理解している」 「……そこまでわかった何故?」 「理由ができた。それだけだ」 ミズナの言葉に紫月は心を痛める。これが恋と言うものか。そしてそれを裂く自分たちの行為に。しかし、言い訳はしない。この弓はエリューションを撃つ弓。それを持つ以上、妥協はしないと決めたのだ。 「アークの者だ! 水蛇ミズナ、お前を討伐する!」 風斗は赤く光る剣を構え、ミズナに迫る。目線で仲間に合図をして振り上げた剣を二宮のほうに向けた。大地をしっかり踏みしめ、二宮を弾くように剣を振るう。烈風と衝撃がミズナと二宮との距離を離す。吹き飛んだ二宮を押さえるように大和と要が迫る。 「ミズナ! お前の存在は、やがてこの世界を崩壊させる。彼女の住む、この世界をだ。それをわかっていてなお現界を望むのか!」 「その通りだ革醒者。世界にとっての害悪だと理解してなお一時の生存を望む」 「わからん……それがお前の『愛』なのか!?」 唾棄するように問いかける風斗。自らの愛のために他のものを犠牲にする。そんな愛が許されていいはずがない。 「そうだ」 答えは静かに短く。ゆえにゆるぎなく、そして強い意志を感じさせる。ならば倒すのみ、と風斗は心を殺して剣を握った。戦士とはストイックであるべきなのだ。 「それが『愛』ですか」 うさぎは『11人の鬼』と命名された奇妙な形の破界器を手にミズナに死の刻印を刻む。破界器の動きを止めることなく、ミズナに問いかけた。 「で、その気持ちは伝えていない? 自分がエリューションだから伝えてはいけないと思ってるんですか?」 「然り。この想いは和美にとって重荷になるだけだ」 「ふざけるな! そんなに手遅れになってから後悔してえのか! 馬鹿め!」 冷たく言い放つミズナの一言に、攻撃の手を止めて激昂するうさぎ。 「好きになる事が間違いだ何て事があるか。愛する事に罪なんかあるもんか。 私はそんなの絶対に認めない」 それは誰に向けての言葉なのか。言葉を発しているうさぎ自身に、自分の言葉が突き刺さる。いつだって後悔は先に立たない。失ってはじめて後悔するとわかっているのに。わかっているのに。 そしてその時間と機会を奪うのが、アークのリベリスタとしての使命なのだ。そのことに後悔も疑念もない。だけど、 「……畜生め」 悪態がうさぎの口から漏れる。じくり、と胸が痛んだ。 ● ミズナと二宮のコンビネーションは、師弟関係であるがゆえに息があっていた。ミズナの視線が抵抗力を奪う呪いを与えると同時に、二宮が氷の拳で相手の動きを封じにかかる。 「予想はしていましたが、見事なコンビネーションですね」 カルナは胸元で手を組んで、祈りようにして意識を集中する。羽を広げて十字架を意識し、心を水面のように穏やかに保つ。カルナを中心に広がる光がリベリスタの傷を癒し、同時にまとわり付いた氷や不幸を払い落としていく。 「すべての父よ。祝福を……」 癒すこと。仲間を守ること。そのためにカルナはここにいる。すべてのものに祝福を与えるために。その資格はないかもしれないけど、それを為す力は確かにカルナにはある。ならばそれを行使するのみ。だがひとつだけ、カルナは聞きたいことがあった。 「貴方は退屈しのぎに遊んでいただけではなく、本当に和美さんの事が……?」 「そうだ」 「……その言葉、彼女に伝えてください。彼女のことを思うなら」 カルナは二宮の『この後』を危惧して、ミズナに頼む。ミズナは倒す相手だとわかっているのに。 そして敵であるリベリスタの言葉を、ミズナは受け止める。頷きの意は見せなかったが、一蹴することはなかった。 「ミズナ!」 「そちらには行かせません」 吹き飛ばされた二宮の進路をふさぐように要が入る。二宮の氷拳をラージシールドで塞ぎながら、相手の怒りを誘うために十字の光を放つ要。シールドそのものと神秘の守り、何より要自身の技巧が拳の威力をかなり軽減していた。 「私たちの目的はエリューション退治です。出来れば邪魔立てはして欲しくないのですが」 要の宣誓に二宮は拳を握って言葉を搾り出す。 「……ええ、わかっています。それがリベリスタの使命であることも」 「それでも邪魔をするんですね」 はい、とうなづく二宮。意思のこもったその答えに要は盾を構えなおす。突破させるわけには行かないという思いと、彼女に悲劇を与えなければならないという使命を再確認する。 「申し訳ありませんが、貴女にはここへ居てもらいます」 二宮が振り上げた拳に大和の気糸が絡める、大和は糸を払おうとする二宮の動きの先を読んで封じ込めた。力をこめて引き合いながら大和は問いかける。 「家よりも、使命よりも」 それは相手の答えがわかっている問い。そうとわかって問いかけるのは結局のところ八つ当たりに近いものがあることを大和は自覚していた。ナイトメアダウンの悲劇により家を失った大和が、家があるのに使命を捨てた二宮への。 「貴女の抱いた想いは大事ですか?」 「――ええ」 迷いはあったのだろう。苦悩もあったのだろう。だけど今はしっかりと二宮は答えを返す。その言葉を聞いて、大和は表情を引き締める。負ける気はないと二宮を縛る糸を強く握り締めた。 二宮への押さえをを確認して、悠里が鉄鋼に稲妻をまとわせてミズナに迫る。ジャブから入ってのワンツーパンチ。紫電が拳の軌跡のまま帯電し、秋の空気に消えた。そのまま稲妻の武技を放ちながら、悠里はミズナに話しかける。 「僕たちは、いつか君と同じ立場に立つかも知れない人間だ」 革醒者。それは革醒してフェイトを得たもの。しかしフェイトを得なかったものは世界の敵となる。そしてフェイトを得たとしても、その恩寵を失えば―― 「リベリスタなら誰もが考えた事があるだろう。自分がノーフェイスになった時の事を」 「いずれは自分が世界の敵になる、と。そういいたいのか」 無言で首肯する悠里。フェイトがなくなりノーフェイスになった人間を見てきた。実際に見たこともあれば、人から聞いた話もあった。明日はわが身と思い苦悩し、そして悠里は結論をだした。 「僕がノーフェイスになったら、自分を愛する人に殺して欲しいと思う。 みんながそう思うかはわからないけど、きっと僕はそう思う」 心に描く愛するものの顔。死が避けられないのなら、せめて最後は彼女に。 「傲慢かもしれない。重荷を背負わせるかもしれない。……それでも僕はそう思う。 きっと君も――」 悠里の言葉をとめたのは、ミズナの無言の視線だった。静かに何かを伝えようとする瞳。敵意ではなくただ見つめるその瞳に、思わず言葉が止まった。ああ、やっぱりそうなんだ。 稲妻は水蛇を穿つ。その願いはかなえさせてあげたいけど、フェーズ2のエリューションは手を抜ける相手ではない。それでも悠里はできるだけ救おうとその篭手を振るう。 ● 時間は巻き戻る。 「二宮家ですね。この度は管理する土地で騒動を起こすことになり、まことに申し訳ありません」 戦いの前、大和を始めとしたリベリスタは二宮家に挨拶に向かった。非礼を詫びると同時に、二宮の様子を探るために。 「娘さんに対しては、特に思うところはありません。ただ、負傷はすると思うので、治療の用意はしておいてください」 事務的に対応する風斗。その言葉を受けて、二宮家の家長は静かに頷いた。四十を越えた一児の父。戦いから離れているのだろう。あまり強そうには見えなかった。 「事情はすべて知っているんだよね。どうしてあなたたちは中立を保つのかな?」 悠里の問いかけに、男は静かに告げた。 「ミズナはエリューションです。そのことに変わりはありません。 ですが……奇妙な友愛が生まれてしまったのも事実です」 「だけど討伐する対象と仲良くするなって注意する事ぐらい……」 悠里は不注意を責めるように口を開いて、すぐに噤んだ。エリューションは倒さなければならない。そんなことは彼らもわかっているのだ。だが、ずべての革醒者が強くあるわけではない。 「それにミズナもわかっているんです。自らの存在の意味を。 きっと彼は――」 死に場所を求めているのです。 ● 戦いは始終リベリスタに有利に進んだ。 「逃がしません。貴方と私の覚悟の違い、教えてあげます」 大和が背負っているものは重い。それは今は形骸化した家の使命。今まで背負ってきた使命を感じながら、二宮に糸を絡める。 「悪くない一撃ですが、倒れるわけには行きません」 要は二宮の拳を受け流しながら、十字の光を放つ。かつて自分が弟と死別させられたように、今彼女に想い人と死別させようとしている。盾から伝わる衝撃も軽くはないが、その事実のほうが要の胸を痛めていた。 「皆さん、後もう少しです」 ミズナが降らす雨がリベリスタを襲う。呪いを含んだ雨は、しかしカルナの癒しによりリベリスタに深いダメージと呪いを与えることができないでいた。 フェーズ2のミズナの体力は高いが、複数のリベリスタによる攻撃に絶えられるものではない。 「決断するのが遅すぎるんだ、この畜生めが」 うさぎが死の刻印を植えつける。奥歯を強くかみ締め、悔いるようにミズナを切り刻む。じわじわと滅びに向かう毒が、ミズナを蝕んでいく。 「人に恋をするには、あんたは私わたしたちと『違い』過ぎた。不幸な事に」 「言い訳はしません。貴方を撃ち貫きます。この身はただそれだけの弓」 あばたの弾丸と紫月の矢がEフォースの体を傷つける。ミズナと二宮の恋心を知り、その結果恨まれるかもしれないとわかっていて破界器を振るう。二人が結ばれる結末はない。それは誰もがわかっている。誰かが手を下さなければならないのなら、それは自分たちだ。 「願いを叶えさせて上げたい。けど……!」 悠里はミズナを二宮に討たせてあげたかった。が、それを行うには全員の息を合わせる必要があり、急な作戦変更を行うにはミズナの抵抗は激しかった。 「手を抜く余裕はありません! これで決めます!」 「仕方ない、行くよ!」 悠里の雷拳が貫くようなストレートを当てると同時、風斗の剣が縦に振り下ろされる。赤と黄色の十字がミズナに刻まれる。訪れる沈黙。水蛇が笑うように口を開く。ただ一言、 「……見事」 賛辞とともにミズナの霊体が風景に溶けるように薄くなっていく。Eフォースの最後。それを悟り、リベリスタたちは破界器をおろす。 「これ以上の戦闘に意味があるとは思えません。どうか拳を引いて頂けませんか?」 要の投降に従い、二宮は拳をおろす。もとより、彼女は愛する者の最後を前に戦える状況ではなかった。 『水蛇ミズナ、後悔せぬように消え行きなさい。──伝えようと、伝えまいと』 紫月がハイテレパスでミズナに告げる。恋の邪魔をする気はない、と瞳を閉じて。 ほかのリベリスタ達も遠巻きにミズナと二宮を見ていた。エリューションと人間はいえ、愛するものを引き裂くのは、けしていい気分ではない。だが、それが世界のためなのだ。 「愛している」 ミズナは二宮に告げる。たった五文字にすべてをこめて。 「ありがとう」 二宮はミズナに言葉を返す。たった五文字にすべてをこめて。 別れの言葉は短く。 だけど彼らにはそれだけで十分だった。二宮の頬に涙の道が生まれ、地面に落ちる。 ミズナの姿が完全に消えるまで、誰も動くことができなかった。 帰路。一番最初に口を開いたのは風斗だった。 「……なあうさぎ」 「なんです? 風斗さん」 「恋愛って、いいものなのかな?」 たっぷり五秒。皆の動きが止まった。無表情のままうさぎが沈黙を破る。 「…………愛の力でパワーアップできるんじゃないですか?」 「え、と。何か気に障ることでも行ったか、俺?」 生まれた微妙な空気に、他のリベリスタが口を挟む。 「あー、ないわー」 「さすがハーレム。そこでそうくるのか」 「なっ!? そんな風評には屈しない!」 「風斗くん。確かに風評かもしれないけど君にも原因はあると思うよ」 「今まさに、現場を見せていただきました」 「設楽さんとラレンティーナさんまで! 俺はストイックにしめるつもりだったのに!?」 そんな声を遠くに聞きながら、二宮和美は顔を上げる。 そこには愛する者はもういないけど。死別のつらさはまだ消えたわけではないけど。 それでも心の中にミズナは生きている。 たった五文字の言葉を糧にして、そのリベリスタはゆっくりと立ち上がった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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