●ハッピーバースデーを貴方に 「時に蝮原様」 「何だ名古屋」 「お誕生日ですな」 「誰のだ」 「貴方様のですぞ」 「……」 「あれっ 何で徐に立ち上がるんです」 「……」 「あれっ 何でそんなさっさと歩き出すんです」 「……」 「ちょっ」 「うるせぇほっとけ」 「ま、蝮原様ー!」 ●何でもない日じゃない日 「……逃げられました」 事務椅子に座り込んだメルクリィが苦笑を浮かべた。なんでも咬兵の誕生日会でも開こうかと思ったのだが、それを察したのか以下略。 「皆々様が嫌いとかそんなんじゃなくって、単にパーッとワイワイキャッキャするのがガラじゃないというか苦手というか……照れ臭いんだと思いますよ」 不器用というか何というからしいと言うか。 「まぁ、そういう訳で蝮原様のお誕生日です。彼はどうやらまだ三高平市内に居るみたいですから、折角ですしお祝いして差し上げませんか?」 と、メルクリィは柔く笑んで締め括った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ガンマ | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年11月17日(土)22:41 |
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■メイン参加者 28人■ | |||||
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●46回目の今日1 さて、今日はもうとっとと帰るか。アーク本部から出たばかりの咬兵は息を吐く。と、背後から呼ばれるのは名前。振り返る。手を振る悠里が駆けて来る。 「こんにちは、蝮さん。メルクリィさんに聞いたけど誕生日なんだってね! おめでとう!」 「あ? あぁ――」 あのロボ野郎――思いながらも悠里へ正対する。彼は「それと」と続けた。笑顔のまま。 「……いつかの砂蛇と戦ってた時に、別の場所で戦ってくれてたじゃない? そのお礼も言ってなかったから。ありがとう」 正直、悠里にとってあの時の事を思い出すのは苦痛だ――沢山の一般人を犠牲にする決断をして、友達の彼女まで失わせてしまって。 あまりにも残酷な運命に深く深く傷付い心は、きっと一生癒える事はない。それでも、だ。痛みを伴っても、共に戦った者には礼を言いたかった。辛い気持ちを笑顔の下に押し込める。 その笑顔に咬兵が違和感を抱いたかは分からない。ただ彼は「お前もご苦労だったな」と一言、常よりほんの僅かに優しい口調で。 「今日は色んな人に祝われるかもね? 気づいてないかも知れないけど蝮さん、結構人気者だよ?」 ちょっぴりからかいを交えながら言う。咬兵の溜息。複雑そうな表情。それが嫌悪感からくるものではなく、本当に『実際、複雑』なのは悠里を始め誰もが知っている。 咬兵は「そうかい」と言い残して歩き出すが。 「いきなりで申し訳ごないですがHappy birthday蝮原さん」 羽音が聞こえたかと思えば、空色の翼を広げた亘が咬兵の目前に降り立った。 「ちゃんとお話しするのは初めてでしょうか。天風亘と申します」 宜しければ以後お見知りおきを。瀟洒な礼を一つ。この機会が訪れた運命に感謝を。 「ふふ、一度ぜひお話してみたかったのです。本当は一緒にお酒を飲んでゆっくりと貴方と話したかったのですが、自分未成年なんですよね」 なので――何やら皆が色々企画してる様だし――その前の余興として。浮かべる微笑。 「……拳で語り合いたく伺いした所存です。どうかお受けして頂けないでしょうか?」 「あー。いいぜ。来な」 咬兵は立ったその姿勢のまま緩く首を傾けた。瞬間、亘は全速力を以て相模の蝮へと吶喊する。スキルも得物も使わない、牽制も要らない。信じるは己が身一つ。圧倒的にやられるだろうが。 (でも自分は……己が誇りを拳にのせるのみ!) 最速の一撃を――繰り出した。無骨な掌がそれをぱしっと容易く受け止めた。「あ」と、亘が声を発した次の瞬間には、衝撃。乱れる視界。気が付いたら青い空。嗚呼、殴り飛ばされて地面に倒れたのだと知った。 「悪ィがホーリーメイガスは自力で探してくれ」 遠のいて行く足音。加減されたようだが、ジーンと痛みが響く頬。それを摩り――満足で幸せだ。結果はどうあれ、少しでも彼に自分を知って貰えたのであれば。 さて「今日は色んな人に祝われるかもね」と言った悠里の言葉通り。 「貴方が有名なメルクリィの相方、ミスター蝮原ですか」 貴方との勝負を望みます、とエーデルワイスが無頼の行く手を阻んでいた。 「俺が名古屋の相方? へぇ、そら初耳だな。……で? お嬢ちゃんは俺と何して遊びたいんだ」 「どちらが相手の帽子をより早く撃ち抜けるか……平和的でしょ? 血と鉄と炎の加護のもと、後腐れなく決めましょう!」 擡げる指先にはコインが一つ。弾いた――最高峰のクリミナルスタアの力、この目に焼き付けさせて貰おうじゃないか。 「祝砲代わりに受け取りなさいね、この弾丸を!」 コインが落ち『た』。放つ弾丸。世界の時間が遅くなる。ゆっくりとスローに流れる弾道の軌跡。咬兵の放った弾丸はエーデルワイスの弾丸を掠め、その軌道を書き換え、そして――彼女の帽子を撃ち抜いた。一瞬だった。 「で――景品は?」 冗句っぽく、愛銃を仕舞った咬兵が問う。 「なら、私の帽子と交換しませんか、おじ様? 私からの第二のプレゼントですわ、うふふふふ」 勝負が終わった後ってユニフォームとか交換するんでしたっけ? と。へぇ。咬兵は一つそう言い。歩き出し、擦れ違い様にエーデルワイスの帽子を手に取り。 「じゃ、貰って行こう」 あばよ。ひらひら振られる道化の帽子。エーデルワイスはニッコリ笑んだ。嗚呼、今日は愉しい日。 「よーマムシのオッサン。ちょいとツラ貸してくれよ」 次に咬兵が出会ったのは瀬恋だった。ちっと聞いて欲しい事があるんでね、と。「言ってみろ」、咬兵が促すままに瀬恋は口を開く。 「……アタシは今まで生きる為に戦ってきた。人の為に戦うなんて余裕はなかったし、馬鹿らしいとすら思ってた。 でも、ここでずっと戦ってるうちに思い出した。カタギに迷惑掛ける事を嫌って、仁義通してたヤクザやってた父親の事をね」 溜息。見上げる空。青い色。高い雲。 「結局、アタシに流れる血って奴には逆らえないのかもね」 瞬き一つ。息を吸って、緩やかに吐いて。「でもさ、中々悪くない気分だよ」――視線を戻す。真っ直ぐに。 「だから、これからは坂本の名を背負っていこうと思ったのさ。そいつが、アタシの『血の掟』さ」 それは所謂『決意表明』。咬兵は静かに聴いていた。ややあって、言う。 「そうかい。なら、俺は見届けさせて貰うぜ。お前の『掟』が何を創るのか――何を築くのか」 その笑みに。何だか変に照れ臭くなって、瀬恋は間を保つ様に誕生日の祝いを投げ渡す。 「そーいや、今日誕生日なんだろ? やるよ。大したもんじゃねーから別に大事にしなくて構わねえぜ」 「ありがとよ。……そうだ坂本、これやるよ。なに、『シューティングゲーム』で取っただけだ」 ばふ、と。咬兵が瀬恋の頭に被せたのは、先のエーデルワイスの帽子。「可愛いじゃねぇか」と 冗句めいた一言に、全く、と瀬恋は肩を竦めるのだった。 それから、響く足音は一つだけ。 エリエリは咬兵の広い背中を見付け、「こんにちは」と声をかける。振り返る目と視線が合った。 「蝮原さん、本日がお誕生日だそうですね、おめでとうございます。これ、つまらないものですがどうぞ。クッキーです」 言葉と共に差し出すクッキー。「ありがとよ」の言葉と共に受け取られる。 「押し付けられたと言って相良さんとの会話の糸口にでもしてください」 「……あぁ、そうしよう」 子供、特に少女には存外素直らしい。それも雪花の存在故か――等。思った後、エリエリはぺこりと頭を下げた。 「いつも孤児院に来てくださり、ありがとうございます。屈託なく接してくれ、感謝しています」 でも。そう続けて顔を上げる。視線は俯けたまま。 「……わたしたちは、そういう境遇の子供たちの集まりです。だからわたしは、フィクサードがきらいです」 手を握り締めれど、甲に開いた穴。温かくならない指。咬兵は唯、静かに少女の言葉を聴いている。 「蝮原さんがそんな人じゃないのは、しってます。いろんな人がいるの、しってます。フィクサードはきらいですが、あなたに恨みはないから――」 ようやっと、また目を合わせて。 「でも、どうしてもぎこちなくなることをゆるしてください。がんばりますので、また遊びに来てください。おねがいします」 開いた一間。一秒がやたら長く感じる。だがそれも一瞬、エリエリの頭に置かれる無骨な掌。不器用に撫でながらも「仕方ねぇな」と呟いた声は、何処となく常よりも柔らかかった。 ●46回目の今日2 三高平駅――はなんか待ち伏せしてそうな予感がして、咬兵は三高平公園沿いを歩いていた。 ――おっけー、おっけー。まずは照れ屋さんを捕まえなきゃなのですね! 「ヒャッハー、蝮狩りだっ!」 そういう訳で舞姫さん出陣です。曰く、 「ふははは、ラブリーエンジェルな舞姫ちゃんにかかれば、愛のぱぅわーで、おじさまをゆんゆんと探し出すなど、びふぉあぶれっくふぁーすとですわ!!」 だそうです。 そんなこんなで、咬兵の前方。カツ、カツと響くピンヒール。妖艶なウォーキング。セクシーな悩殺リボンドレスを纏った舞姫がズキュゥウウンと登場! 「――ねぇ、アナタ。ハッピーバースデーにする? それとも、ア・タ・シ?」 うふ~ん♪ 「お前……」 「きゃー、ちゅーはまだダメよ! 舞姫ちゃんのみなぎるエロスとほとばしるバイオレンスに、おじさまったらメロメロキュンなのね、きゃっ!」 やんやん♪と身をくねらせる舞姫に咬兵は思う。黙ってたら美人なのに……まぁそこがこいつの味なんだが……あと10年後が楽しみだな……。 と、そんな咬兵に舞姫はプレゼントを差し出して。 「可愛い舞姫ちゃんを選んだあなたには、手作りクッキーをプレゼントです! お誕生日おめでとうございます♪」 「あぁ、……あり「へっくちゅん!」 咬兵の言葉と重なるくしゃみ。うぅ、と舞姫は鼻をズビリと鳴らて身震いをした。 「この格好は、11月の寒空には向かないですね……」 お前なぁ、と咬兵は溜息を吐く。それから、自分の外套を脱ぐや舞姫にぽんと投げ寄越し。 「俺の所為で風邪引かれたなんざ面倒臭ぇからな」 勘違いすんじゃねぇぞ。と、不器用な無頼は歩いて行く。 そして公園の入り口に差し掛かろうか、という時分。咬兵の前に立ちはだかったのは隆明だった。 「お初にお目にかかります蝮原咬兵さん。俺は藤倉隆明、チンケなヤクザ者でございます」 まずはお祝いの品をお納めください、と酒瓶を手渡す。ありがとよ、と彼が受け取る間に隆明は深呼吸一つ。 「不躾ですが一つお願いがあります。俺と、手合わせしていただきたい」 「お前もか。構わねぇぜ、来いよ」 快諾の声――相模の蝮の話はよく聞いている。彼は隆明からしたら遥か高みの存在だ。本物の極道だ。彼の若頭が手放しで褒める相手だ。憧れずにはいられない。 (それに挑めるチャンスはそう無いだろう、今しかねぇんだ!) 挑む。やることは一つ、真っすぐ行って殴るだけ。己の拳が高みに届くと信じて――瞬間。暗転。一瞬だった。殴られた事を知ったのは地面に仰向けに倒れてから。 「ありがとう、ございました……今度は、静かなところで、酒を飲みましょう」 隆明が気を失ったのを見届け、無頼は歩き出し――背後の気配。振り返る。フツがいた。 「お前さんなら、今日だけ三高平市から逃げることくらい簡単だろう。それでもまだ市内にいるっつーことは……素直じゃねえな、ホント」 「……今日が誕生日だって忘れてたんだよ。そんで今まさに逃げてる所だ」 されどフツはウヒヒと笑う。 「まァ、相良の嬢ちゃんにはもうお祝いされてんだろう。手作りのマフラーかなんか貰ったりしてサ」 「さぁどうだかな。……で? お前は手袋でもくれるのか?」 「オレからのプレゼントは、モノじゃなくて、この一撃だ。――アークのリベリスタが、ちゃんと強くなってるってことを見せてやる!」 言うや、大きく踏み込みながらアクセス・ファンタズムから取り出す魔槍。勢いに乗せて鋭く一突――されど。刃の根元を掴んだ咬兵の手が切っ先がそれ以上進むのを阻んだ。押すも、引くも、能わず。 「……本気で刺すつもりで突いたんだが。避けないどころか、まさか表情一つ変えねえとは」 「続けるか?」 「遠慮しとくよ」 苦笑、離された得物を仕舞いつつ。 「やっぱすげえなァ。その強さも、46年の人生の積み重ねってことなのかね」 「どうだろうな」 「来年の誕生日には、冷や汗の一つくらいかかせてみせるぜ」 「あぁ。……楽しみにしてるぜ」 フツに別れを告げて咬兵は再び歩き出す。だが程なくして足を止めたのは、彩音が「やぁ」と声をかけたからだ。 「名古屋君に聞いたのだが誕生日だそうだね、まずはおめでとう。それから、ありがとう」 「……何故お前が礼を言う?」 「誕生日を祝うというのは生まれてきてくれてありがとうという感謝を示す行為でもあるそうだよ。私の育ての親の言なのだがね」 で、蝮原君――彼女は薄く笑みを浮かべる。 「私は君の話を聞きたいと思っているわけだよ。アークに来る前の話、来てからの話。生まれてから今日に至るまでのこと。どんな些細なことでも構わないさ」 「俺の話なんざ聞いても得しねぇぞ」 「損得の問題ではない、他人に何かを話すことは苦手かもしれないが、私は君の話し相手になりたいのだよ。話すことで再確認できることや発見できることもあるだろう」 誕生日という節目に少し自分を振り返るのも悪くないと思うよ?と、彩音は咬兵を促す様に歩き出す。立ち話もなんだから、ベンチにでも座ろうと。 咬兵の話を簡単に纏めると、こうだ。 昔はただ我武者羅だった。嘗ての組長と共に馬鹿みたいに突き進んだ。彼がこの世を去ってからは――雪花がこの世に生まれてからは、ただ彼女の成長を見守った。彼に託された組を護りながら。 しかし――砂蛇に命を変えても護るべきものである雪花を傷付けられて。己の無力に憤りを覚えた。結果として雪花は無事だったが、この事は『彼』に死んで詫びても足りない。 それからアークの友軍となって。なんだかんだ、ハチャメチャなリベリスタ達だが――嫌いではない。これからも雪花を頼む、と。 吐き出す葉巻の紫煙。その行く先をミリィは見詰め、咬兵の隣に座って居た。曰く、ワイワイするのが苦手ならいつも通りのやり方で。逃げられるのは寂しいから――それにしても『ガラじゃない』か。実に咬兵らしくて思わず笑みが零れてしまう。 「……何だ? 面白い事でもあったか」 「あ、いや……そうそう、プレゼント。確り用意しましたよ!」 咬兵の見守る中、ミリィはプレゼントを取り出した。 「蝮原さん、いつも帽子を被っていますし、拘りでもあるのかな……って。 で、出来る限り似た物を選んだので、予備にでも使っていただけたら嬉しいな……って」 ささっと手渡す。その目を見て、言葉と一緒に。それからコホンと咳払い一つ。 「お誕生おめでとう御座います、蝮原さん。これから過ごす一年が、充実した日々でありますように」 貴方との出会いに、感謝を。 「――、」 咬兵が浮かべたのは、微かな笑みだった。 「……ありがとよ」 立った一言の礼だったけれども、その物言いは柔らかい。手渡されたばかりの帽子を被ると、先まで被っていたそれをミリィの頭へ。被せる序にくしゃりと撫でて。 と、そこへ。 「あ、いたいた……ようやく見つけたわ」 響く羽音と共に、咬兵の傍に降り立ったのは久嶺だった。 「探したのよ……暗視まで使って!」 「そいつぁご苦労さん、宮代」 「まったくだわ!」 言いながら肩を竦め――さて。改めて向き直る。 「いつもお世話になってるお返し、誕生日ケーキのお届けよ。 甘いものは苦手だったかしら……まぁ、ちょっとビターなチョコケーキにしたから、一口だけでも食べてくださいませ」 「ありがとよ。因みに俺は別段甘いものが苦手って事ァないぜ。不味いモンが嫌いで美味いモンが好きなだけだ」 冗句めいて言いながら贈り物を受け取る。さて幻想纏いに仕舞ってはいるが、改めて色々貰ったなぁ、と。 それを察し、久嶺は「ふふふっ」と笑みを浮かべる。 「歳を取るのはあんまり嬉しくないだろうけど……祝われるのは悪くないんじゃない? みんなそれだけ蝮原さんに感謝してるってことよ!」 彼の隣、ベンチに座しながら。 「それと、結構悩んだのよー、プレゼント。子供なアタシじゃ蝮原さんの好きなタバコもお酒も買えないんだから。 はぁ、アタシも早く大人になりたいものだわ……大人になった暁には、蝮原さんと一緒にお酒を飲む! それまでお互い元気にいましょうね?」 「子供時代っつーのはその時しかねぇからな、今は今を楽しみな。それから……そうだな。楽しみにしておこう」 共に見遣る空。高い青――不意に久嶺は咬兵を呼んだ。振り返った咬兵へ、 「それじゃあ、その、最後に……ハイタッチ!」 差し出した手。一瞬の間。咬兵の柔い苦笑。「仕方ねぇな」と合わされる手。 ●46回目の今日3 蝮原さん、何処にいったんだろう? アンジェリカは街中を千里眼で見渡した。彼はただ照れて逃げてるだけ。だからすぐに見つかるだろう――そう、思って、脳裏を過ぎる『神父様』。 「蝮原さん……!」 そして、見つけ出した咬兵に駆け寄るや抱き付いた。涙に潤む目を顔ごと彼の腹に埋めて。 「蝮原さんは、何処にも行かないよね……」 「あ? 俺はここにいるじゃねぇか。一体どうした?」 訝しむ様な声にアンジェリカは咬兵から離れる。目を擦りながら、「つい神父様の事を思いだして」と謝罪した。気にすんなと彼は言うが、嗚呼、でもそんな事を言いに来たのではないのだ。今日は、お祝いに来たんだから。 「お誕生日、おめでとうございます……」 淡い笑顔でお祝いを。それから、プレゼント――ソプラノボイスで奏でる祝い歌。咬兵の為に心を込めて。咬兵は静かに聴いていた。 そして、歌い終われば一言。 「我儘言ってごめんなさい。……歌わせてくれて、ありがとう」 ニコリと笑った、 そこへ。 「祝ってやる!!!! まむっさーん!! 誕生日おめっとうううう!!!」 猛然と。咬兵目掛けて、笑顔で全速力で猛突進を仕掛けるのは――俊介。 だがしかし躱された! 超反射神経!地面に顔面ダイブそしてちゅっちゅ。アスファルト。 だがしかしめげなかった! 鼻血を出しながら立ち上がってもっかいしがみつきに行けば、仕方なさそ~に好きにさせてくれた。なので抱きついたままもふもふくんかくんかくんかくんかくんかくんかここでゴツッと殴られました。 それでも俊介は笑顔で、額を摩りながら。 「まむっさん、誕生日おめでと! 俺よりずーっと経験あって、年くってて、頼りにしてるんだぜ!! 大好きなんだぜ!! また依頼とかよろしくなんだぜ!!」 「分かった。分かったから……あぁ、もういい」 もふもふくんかくんかくんかくんかくんかくんか。咬兵の溜息。 「で、誕生日プレゼントなんだけど……やはり、指……とかのがいいのか? 極道だけに……」 三歩後退。「は?」と眉根を寄せる咬兵。 「いいよ、まむっさん、の、ため、なら、指でも、内臓でも、もって、て、くれ……」 「要らねぇよ……」 寧ろ貰っても困る、と続けかけて。 「マムシーーー!」 竜一の声が割って入る。目の前にスライディング参上。 「誕生日おめ! ってことで、勝負だーーー!」 という訳で彼が持ってきたのは将棋盤。曰く、 「あ? ステゴロ? バカか! マムシとタイマンやりあって勝てるか! 俺は負ける勝負はしねえんだよ! 俺は戦うのが好きなんじゃねえ! 勝つのがすきなんだ!」 だそうです。 「将棋? まぁ……別に構わねぇが」 「言ったな! 将棋に定跡などねえ! 打ち筋は自分の力でつくるもんだよ!」 「なら見せて貰おうか」 そんなこんなで俊介とアンジェリカが咬兵に引っ付いて観戦する中、ゲームスタート。 「フッ……駒が泣いているぜ(どやぁ」 2分後。 「えーっと、うん、あれがこーして……えっと……」 更に2分後。 「……その一手、ちょっと待った! やっぱ、こっちの手で……」 そっから1分後。 「あ! その王手も待って! ヤバイって! ア、アッーーーー! 俺の飛車が!」 グワッーーーーー! 「投了です……」 「……どうコメントしたら良いのか俺にも分かんねぇ」 何故いきなり街中で将棋なのか。中の人ぜんぜん将棋のルールわかんないというのはさておき。 「くっそおおおお! 誕生日だから手を抜いてやったんだからな! バカーーーー!」 うわぁんと逃げていく。その背を見、咬兵は呟いた。 「……実際、複雑だぜ」 そんな竜一と入れ替わりで、五月がててっと咬兵の下へ駆けて行く。今日は咬兵の誕生日だからだ。だが、敢えて五月は宣言する! \何も考えてなかった/ 誕生日、それを当日に知った時のこのハラハラ感を如何にかして欲しい。如何するべきか。如何するオレ。如何する。ライフカードを握らされてる気持ちだ。 きっと皆が沢山祝ってくれるから、オレは言葉だけになってしまうかな――なんて思いつつ。彼の前にて立ち止まる。背の高い無頼の目を真っ直ぐに見て。 「や、やぁ、誕生日なのだろう……おめでとう」 君が生まれてきた事に感謝を。「あぁ」と咬兵は応える。 「ありがとよ。で、何か用か?」 「蝮、オレと手合わせしないか? え、ええと、じゃんけんとかで!!」 「じゃんけん?」 「絶対楽しいぞ? 前に友人とした時は暇を持て余してると言われたが楽しいぞ?」 猫耳をぴこぴこ、シュバッと身構える。 「さあ、最初はぐーだ!!」 「……じゃーんけーん、」 ぽん。 ――後に彼女はメルクリィに相談したという。 「なぁ、誕生日ってさ、どう祝えばいいのかな。オレはあんまり祝われた事がないから、つい惑ってしまったのだ」 「ふむ……私が思うに、大切なのは『祝おう』という気持ちかと!」 そうメルクリィは答え、彼女の頭を優しく撫でた。 ●46回目の今日4 多分きっと、運命とか宿命とか悪運とか腐れ縁とか碌でも無い物が一緒くたになった結果――終と咬兵は偶然ばったりと遭遇しちゃう筈! っていうか遭遇した! 「あ! 咬兵さんだ☆ こんにちはー! でもって☆」 すーはーすーはー――せーの☆ 「おーめーでーとー♪ おーめーでーとー♪ こーへーいーさーんー♪ もーっと もっと うーえーをーめーざーせー♪ お誕生日おめでとー☆」 「……!? な、おい」 街中だとか人目があるとかそんなモノはまーったく気にせずに大音量で歌を歌う。流石の咬兵も呆気に取られる。だが終は嫌がらせで歌っているのではなく、寧ろ愛。 「お前……」 ちょっと静かにしろ、そんな言葉も歌声に掻き消される。ので、ちょっと無頼のデコピン。 「うぇー」 でも泣かない。足早に去っていくその背中にサムズアップ! 「今日一日、碌でも無くも素晴らしき誕生日を過ごしてね☆」 足早に去った理由に『照れ臭かったから』が皆無といえば嘘になる。 果たして――終の歌声を聞きつけた夏栖斗がやってくる。 「蝮のおっちゃーん!」 その背中に声をかけ、直後――叩き下ろす炎顎。されど殴打の感触は零。 「やっぱ不意打ちでもあたんねぇか……あ、声かけちゃったから不意打ちでもないじゃん」 「それ以前に俺ァビーストハーフだぜ」 で。咬兵は夏栖斗を見遣る。 「お前も俺と遊びてぇのか?」 「当然! 誕生日祝いなんて恥ずかしいんだろ? だからさ、そういう事。少しは自信あるんだぜ? 自分の強さに」 言下、放つのは強襲する蹴撃。得意技。躱される。詰まる間合い。蒼穹の拳――端的に言えば腹パンだ。全身の全てが軋んで意識がぶっ飛ぶレベルだが。地面に転がる。嗚呼。そのまま空を仰いで。 「もっと、力が欲しいんだ。僕は正義でありたい。正義には力が必要だ。守りきれなかったものもたくさんある。 だから、それを少しでも少なくしたい。限界なんて決めたくないんだ。正義とか、蝮のおっちゃんに言うのはなんか変な感じかもだけど」 「まぁ……お前はお前の進みたい道を進めば良いんじゃねぇか」 立てるか?差し出された手を受け取って。笑顔を浮かべ、起き上がる。 「気が向いたらまた手合わせしてよ。あと、誕生日おめでとう!」 「あぁ、ありがとよ。そんで――」 振り返る。指は銃の形。背後に居た恵梨香の眉間に。 「『手を上げろ』」 「……流石は相模の蝮」 降参だ、と手を上げる。恵梨香は千里眼とESPを駆使し咬兵を捜索し、隙を見て背後からホールドップを言い渡そうとしたのだが。「今日は戦闘訓練までは結構です」と告げれば彼は腕を下ろす。 それから話すのは、雪花と任務で同行した事。雪花もいつまでも守られている存在ではなく、戦士として成長している事。 そして、いずれ雪花も恵梨香も咬兵を追い越す存在になるという宣言。 それに咬兵は笑った。馬鹿にしたからではない、「楽しみだ」と。心待ちに彼方の未来を見るかのように、細められた目。 「さて……難い話はこれまで。今日はおめでとうございます。貴方は貴重なアークの同盟者。寒さに体調を崩して戦線離脱されても困りますからね」 言葉と共に贈られたのは手編みマフラーだった。受け取った咬兵に「では」と続けて曰く、 「向こうで待っている人たちもいる事ですし、行きませんか」 「あ? 何の事だ」 「誕生会パーティーです」 「は?」 聞き返しながら、タックルしにきた陸駆の頭を掴んで止めた。 「むふぉ!」 『教えるのだー、効率よくいくのが天才なのだー』――そうメルクリィに訊いて、彼の未来予知と陸駆自身のあっとうてきな知力を持って割り出した最高のタイミングの筈だったのに。 「で、何だ」 「うむ……蝮原咬兵、はじめましてだな。アークの天才、神葬陸駆だ。覚えておくのだ」 ようやっと開放されては無頼へ向き直る。言葉を続ける。 「貴様の生誕だな。『ありがとう』それと『おめでとう』」 「……感謝される理由が分からん」 「ご祖母堂が言っていたのだ、生誕の日は生まれたことに感謝する日だ。だからありがとうで間違っていないのだ」 「成程な……」 「なぁ、蝮原咬兵。聞いていいか? アークは三高平は貴様にはどう映る? 僕は、ここに来たばかりだ。早速手痛い敗北はあったがな。フィクサードの目から見たこの街の話を聞いてみたい」 どんな答えでもきっと何かを得るだろう。その言葉に、ふむ、と咬兵は一間を空ける。 「……一見して危なっかしい組織だが、敵には回したくねぇな」 そんな言葉の直後、クラクションが一同の耳に届いた。皆が見遣れば軽トラックの運転席から烏が顔を出していて。 「まぁ、46にもなって誕生会というのがくすぐったいという気持ちは良く判るがねぇ」 同い年なので、その辺は痛い程――という挨拶も程々に。「乗れよ」と。 「何故だ?」 「色々追っかけられて疲れてるだろ? 逃げるぜ」 「……」 ちょっと疑ったものの、溜息の後に車内に乗り込む咬兵。だって恵梨香も夏栖斗も陸駆もすっげー見てきたからだ。乗らないのかと。 そんなこんなで、烏は咬兵へシガーライターを放り渡し出発進行。 目的地? 『新田酒店』! 「……おい」 「んなわけで、蝮原の旦那はおめでとうさんで。個別襲撃受けるならば纏めての方が楽だろうから諦め宜しくと」 ま、祝い酒、祝い酒。咬兵の型にポンと手を置き。 「年に一度くらいこう言う日もって、数度くらい有る気もするが、賑やかしくやるのも悪くないものさな」 そして烏に促されるまま新田酒店に入った咬兵を迎えたのは――お馴染みのリベリスタ達で。 ●祝い酒 「蝮、誕生日おめでとう」 「おめでとう蝮原さん!」 「蝮さんハッピーバースデー!」 「咬兵さん、お誕生日おめでとう。守護神は開店おめでとう」 鷲祐、快、椿、ロアンの言葉が咬兵を出迎えた。呆気に取られる咬兵。 「あ、ちょ、逃げやんといてな!?」 先手を打って椿が言い、彼の前へ。 「これ誕生祝の花束」 「紅椿組から花輪かぁ……仁蝮組的に気にする? 俺、雪花さん敵に回したくは無いなあ、とか思ったり」 「って、それは別に組とかからやないからな? うちが個人的に用意した花束やからな?」 快の言葉に振り返って即突っ込み。「なんだそうだったのか」と薄い苦笑を浮かべる咬兵に、椿は溜息を吐いて向き直る。 「まぁ、年齢的に誕生日言うても嬉しないかもしれへんけど……それでも、今日は蝮さんが生まれたって言う一年に一回の記念日やからな! お祝いさせてや!!」 「めでたいめでたい……で、いいんじゃよな? いやほら、人によっては年齢気にする人もおるし……」 誰とは言わんが。誰とは言わんが! 大事な事なので二度言ったレイラインが神妙に頷く。 「ま、まあ年齢の事は置いといて一杯やろうぞよ!」 「祝杯は『三高平酒蔵』から純米大吟醸の限定酒! 一本だけ手に入ったんだ」 「さけがのめるのめるぞーさけがのめるぞー♪ おたんじょうびは! いわいざけである!」 「べ、別に僕が飲みたいからとかそんなんじゃないよ? まあまあ、一杯いいの奢るから!」 笑顔で酒瓶を取り出してみせる快、咬兵の退路を全力で塞ぐベルカ、呼んでおいたメルクリィの横にて言うロアン、彼等だけではない。皆の笑顔。 嗚呼。 「……実際、複雑だぜ」 「実際複雑だって? なに、そう難しく考える事は無い。1年ですぞ。1年。我々の様な者が、そんなにも長い時間を平穏無事に生き延びられたのです。 これを祝わずして何を祝おうと言うのか!」 高らかに声を張るベルカの手には、杯。掲げられる。鷲祐も咬兵へ緯線を遣り、 「……まさかアンタに背を預けて闘い、果てはこんな風に卓を囲むなんて、あの時……去年の夏だったか? あの頃は思いもしなかったな。 まぁ、俺のつまらん話はこのくらいにしておくさ。今日は楽しんでくれ。アンタが主役だ」 「……そうだな。そうさせて貰おう」 斯くして。 「同志蝮原! 貴殿の1年に、乾杯です!」 かんぱーい。ベルカの声と共に杯の搗ち合う音――そういう訳でどんちゃん、わいわい、宴である。 「見よ、神速の解体術――ッ!!」 鷲祐が己が俊足を以て肴の運搬を行う。からあげ、ジャーキー、ナッツ、カラスミ、鶏、牛、マグロ、ご期待下さい。 「車の運転は御法度だ。相模の蝮。貴様も例外ではないッ!!」 「あぁ……飲んだら乗るなだな」 「……いずれ俺の速さに付き合ってもらうぞ」 残像を残しながら告げる言葉。 その傍らで椿はおつまみとして和食を広げていた。勿論手作りである。因みにベルかはお酒をウマウマしながらありがたくゴチになっていた。 「蝮さんも食べてってなー……いや、ケーキとかパーティーっぽい料理や無くて申し訳ないけどな……」 「構わねぇよ。益してや『13代目』の手作りならな、有難く」 「ちょっ!」 薄笑みを浮かべる咬兵、ロアンは一言「おめでとう」と言い彼に話しかける。 「咬兵さんって元フィクサードなのか……僕がアークに来たのってつい最近だからなぁ。前の事はどうでもいいや。人生色々あるよね」 「そうだな、まぁそれが人生なんじゃねぇか」 とまぁ、改めて乾杯。 「今度良かったら手合わせお願いしたいな。歴戦のクリミナルスタアの戦いっぷりが気になるし」 「いつでも構わねぇが」 なんなら今すぐにでも。と冗句めいた言葉に「遠慮しとくよ」と苦笑。 「メルクリィさんお酒飲める? あまり強くないのならこの辺りだけど」 「あぁ大丈夫です、快様が色々用意して下さったので」 吟醸酒の酒粕で作った吟醸甘酒、ラムネ、葡萄ジュースetc。下戸には有難いと予報士は答えた。それはよかった。皆で飲むお酒っていうのも良いものだ。 「……あっ、妹には飲んでた事内緒にしておいてね」 「妹が居るのか。ま、そうしておいてやる」 応えた咬兵の隣、着席したのはウラジミール。「露骨に逃げていたそうではないか?」と。 「逃げて解決する事でもないだろうに……余裕ある態度で臨むのが大人というものだろう?」 「あ? いいだろ、『大人』なんだから」 それに今は逃げていないからいいじゃねぇか。そう答え、四方山話。酒宴はいっそう賑わいを見せる。 「いつも俺達リベリスタを後ろから見守ってくれて、ありがとう。 『日本代表』の背中は遠いけど――絶対追いついてみせるから。だから、もうちょっとだけ、よろしくね」 「あぁ、楽しみにしてるぜ」 ほろ酔いの快に笑みで応える。その傍らでは酔っ払った椿がメルクリィに肩車を強請り、そして肩車され、楽しそうにはしゃいでいる。 「にゃっはー、いい感じに回って来たわい……にゃふふ♪」 お酒に弱いレイラインはベロンベロンだ。絡み酒かつ笑い上戸、楽しげに笑みを浮かべて。 「こりゃーめるくりぃ~! お主もぐいっといかんかいぐいっと!」 「えっ私はお酒に弱いので……ってベロベロじゃないですかレイライン様」 「にゃんじゃ~? わらわの酒がのめにゃいってかー!?」 \パリーン/ *<|;´w`|>∩ <グワアアアア 椿を肩車したままダウン。椿も落ちる。 「にゃふふ……愉快愉快じゃて♪」 まぁそれも酒の肴、楽しい宴。咬兵の背中をばっすんばっすん叩きながら。 「騒がしい例中ばかりじゃが、これからもよろしくのう? 蝮原……いや、咬兵!」 「……そうだな。これからも、宜しく頼む」 賑わいは、日が沈んだ後も続く―― ●四日の終わり どんちゃん騒ぎの余韻を肌の下に、咬兵は今日が終わりを告げる夜の中を歩いていた。 さて……路地裏、ひっそりとした酒場に入り。 「ああ来たでござるか。こっちこっちでござる」 そこに居たのは虎鐵だった。予想外の邂逅に咬兵は僅かに目を見張る。彼は『夜になればきっと咬兵が来るだろう』と予め先回りしていたのだ。そこは前に咬兵と行った店だった。 こっち、と手招けば咬兵は浅く息を吐いてその隣に着席する。 「今日はお疲れでござったなぁーその顔みれば分かるでござるよ」 「あぁ、今日ほど濃厚な一日はなかったぜ」 横目にニヤつく顔に咬兵は再度の溜息を。虎鐵は苦笑する。それから――あぁ、そうだ。懐から紙を取り出しながら。 「そうでござる。アップルパイの礼をしてなかったでござるな」 「ん、何かくれんのか?」 「勿論でござる!」 じゃーん! 「一回だけ何でも言う事を聞く券でござる! あげるでござるよ。と言っても拙者にできる程度の事でござるが」 「『何でも』? へぇ……」 「ま、何時も世話になってるでござるし偶にはこういう所で帳消しにしないとでござる!」 ふむ、と咬兵は口角を擡げる。面白そうな色を目に浮かべそれを受け取るや、代わりに出したのは隆明から贈られた酒瓶だった。 「ちょいと付き合えや、……虎鐵」 普段は『鬼蔭』と呼ぶ彼が口にしたのは、彼の苗字ではなく名前。それは彼を友人として信頼している何よりの証であった。 返すのは笑み。 そして、十一月四日の夜は更けてゆく―― 『了』 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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