●おやつの時間に 斜陽の陰、寂れた郊外の公園に、彼女はいた。 かちゃり、と陶器の触れ合う音と、乾いた木の葉の音だけが響く。 白いエプロンドレスの少女。湯気を立てる紅茶。 秋色に包まれた、甘い香り。 「……おきゃくさま?」 金髪の少女。碧眼が来訪者を捉え、嬉し気に揺れる。 「さあどうぞ。甘いお菓子はいかが? 紅茶もいれてさしあげるわ」 子供のままごととは思えない、きちんとした紅茶と茶菓子。 いつの間にか来客を取り囲むように座る、うさぎと猫。 勧められるままに紅茶とクッキーを手に取れば、『来客』はやがて動きを止める。 うさぎの示す時計の針に、もう時間だわ、と独り言ちて。 「つづきはわたしのおうちへいらして。きっと楽しいわ……」 歌うようにつぶやいて、少女は弾む。 「ひとりよりふたり、ふたりよりさんにん」 来客の右手を少女が、左手をうさぎが。 「さんにんより、よにん」 紫色の猫が帰り際に、ちらりとこちらを見た。 ●アリス それは、不思議の国から来たような、そのままの少女。 「アザーバイド『アリス』を倒してください」 老朽化した遊具も次々と撤去され、今では遊ぶ者のいなくなった公園。 滅多なことで人が入って来るような場所ではないが、子供達はえてしてそういった少し危険な香りに惹きつけられるものだ。 犠牲者が出る前に、と『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)が公園の場所を指し示す。 「アリスは、公園でお茶会を開き、通りがかった人を招き、どこかへ連れ去ろうとしているようです」 目的、場所、そのいずれも不明。 一見すると非力な可愛らしい少女だが、話し合いで解決できるような相手ではなさそうだ。 「お茶会で供されているものには、決して手をつけないで」 どういった仕組みかはわからないが、アリスのお茶会に出されるものは、飲んだり食べたりしたものの意識を奪っていた。眠っただけなのか、あるいはもっと質の悪い何かなのか。 「そして、決して彼女を逃がさないように、気をつけてください」 危険を察して逃げ出す者や、お茶会に興味を示さない者。いたいけな彼女に害意を持つ者。 そういった者を見るや否や、アリスはたちまち逃げ出してしまうという。 アリスは時計うさぎとチェシャ猫を従えている。 「アリス自身の戦闘能力はそれほど高くありませんが、一人を狙って取り囲むように襲ってきます」 二匹のエリューションビーストに時間稼ぎをさせ、自分はどこかへ逃げ延びるという寸法なのだろう。 「エリューションビーストは最後まで抗い、アリスはいの一番に逃げようとします」 表面上は彼女のお茶会に付き合う振りをしつつ、三者を確実に倒す必要があるだろう。 「戻られたら、みなさんでお茶にしましょうね」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:綺麗 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年11月20日(火)23:21 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●ハロー、アリス 『彼女ら』の他にひとっこひとり見えない公園を訪れたのは、絵本の世界から飛び出てきたような装いのリベリスタ達。 前を歩くは、ふたりのアリス。 「アリス・イン・ワンダーランド……」 つややかな黒髪のアリスは『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330)。名は体を表すという通り、凛とした女性である彼女であったが、可愛らしいアリスの装いも青い瞳によく似合っていた。 「ワンダーランドがこの世界というのは可愛そうですね」 もしも異世界から来た『アリス』に帰る場所があるのなら、帰してあげたいと。凛子はそう願っていた。 対して小柄で可憐なもうひとりのアリスは『リベリスタの国のアリス』アリス・ショコラ・ヴィクトリカ(BNE000128)。 (同じ『アリス』という名前に、同じ様な容姿) 澄み渡る秋の空のような空色のエプロンドレスは、彼女のいつもの装い。縞縞模様の猫のぬいぐるみも一緒だ。絵本の中のアリスと、絵本から飛び出してきたアリスと、瓜二つのアリス。 (できればお友達になれたら……) 淡い望みがアリスの胸に去来する。 「でも、倒さなくてはならないんでしょうか」 「できる限りを尽くすしかありません」 その声に応えるように凛子が言うと、アリスは小さく頷いた。 「異世界への迷子とくればアリスインワンダーランドは定番ですよね」 片眼鏡の瞳は今日も眠たそう、『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)。幼い外見とは裏腹に、妙齢の女性にしてれっきとしたメイドである。 「もっとも辿り着いた先がワンダーでも何でもないこんな世知辛い世界だったっていうのはどうかと思いますけど」 仏頂面で語る彼女は、一行に付き従うように荷物を持って歩く。この中には、これから始まる茶会のための大切な道具が詰まっているのだ。 「……と思ったら原典のアリスも風刺とパロディが溢れてて結構世知辛いんですよね」 最近までアークが関わったワンダーだかパーフェクトだかな世界も結構そんな感じでしたし、とさらりと告げる。 モニカと並んでじゃーん、と嬉しそうにメイド姿を披露するのは、『エンジェルナイト』セラフィーナ・ハーシェル(BNE003738)。 「えへへ。これ、一度着てみたかったんです」 セラフィーナがうきうきと回ってみせれば、色白で華奢な体に纏うメイド服が、ふわりと揺れる。 「何でもmadで片付けられる世の中じゃないが、こちらの流儀でもてなしてやろう」 公園の概要は把握した、と『カゲキに、イタい』街多米 生佐目(BNE004013)は見取図をくるくると巻き、懐に収める。彼女が扮するは帽子屋、マッドハッター。そう、madな帽子屋でキメる。 異様に大きなシルクハットに水玉模様の蝶ネクタイ、ストライプシャツ、スラックス。装いは完璧だ。これ全部、生佐目のお手製である。ワイシャツのストライプはペンキだし、原価はとある店で安く済ませてある。シルクハットに付いた値札が何よりも雄弁にそれを物語っていた。 「Madなんだ、これくらい問題あるまい」 そう、何も問題はない。なにせ、madだからね。 首の鈴がちりんと鳴れば、それは虎猫の訪れ。『WasTheCat』滝沢 美虎(BNE003973)の装いは、猫耳、猫尻尾、真っ白なシャツにサロペット。首から『だいな』の名札もさげて、ばっちりアリスの飼い猫ダイナに変身。 あちらが猫なら、こちらはうさぎ。『大雪崩霧姫』鈴宮・慧架(BNE000666)。大和撫子をイメージさせる長い黒髪の慧架だったが、三月うさぎの格好もよく似合っていた。赤と白のエプロンドレスに黒のレース、青と赤のオッドアイ。紅茶をこよなく愛する彼女は、此度のお茶会に並々ならぬ関心を持っていた。 皆揃えば、さながら不思議の国のアリス。少女の夢で焦がれたその世界。 「憧れの皆さんとお茶会を楽しめるなんて、夢のようですね?」 ふふ、とたおやかに微笑む『Manque』スペード・オジェ・ルダノワ(BNE003654)は、いつもの彼女とはうって変わって、赤と黒にちりばめられたハートのシンボルが目を引く女王様の姿でいた。ある絵画ではハートの女王のドレスにスペードのシンボルが描かれることもあるのだが、今日の彼女は身ひとつですべてを体現していた。髪の色と洋服の対照的な色彩が互いをより鮮やかに引き立てる。 「もしかしたら、アリスさんも……お茶会を楽しめる、お友達がほしいのかもしれませんね」 このお茶会がきっと、楽しいお茶会になりますように。 ●ティータイム、ショータイム 「見て、あれ」 美虎が小声で促した先には、ディメンション・ホールと思しきものがあった。「流す血は少ない方が良いと思いますからね」 探索を手伝っていた凛子も情報を仲間達と共有する。彼女達に告げられた目標は対象の『撃破』だったが、一同は敢えてもうひとつの可能性を模索していた。誰も傷つかなくて済むように、楽しい想い出に変えられるように。 (しかしまあ、やはり外見から来る同情心ってのはあるんでしょうかね) どうやら穏便に返して差し上げたい方もいらっしゃるようで、とその意志に一定の理解は示しながらも、モニカの思うところも尤もであった。外見は可憐な絵本の世界の住人でも、その実何を企みどんな正体なのかはわからないのだ。 「アリス本人に大人しく帰る意思が見られれば送還での解決も考えますが、見込みが無い場合は全力で殺ります」 「そうですね……残念だけど、もしかするとアリスは極悪人かも知れないから」 セラフィーナの言うように、彼女達の想いは、いつ裏切られるとも知れないのだ。 「脅しじゃありませんよ。失敗の可能性を潰し、皆様に安心して説得して頂くための保険です」 倒しはしても殺すまいとするセラフィーナのように、直接加わることこそしないが、陰ながら説得の場を支えるモニカのように。それぞれの形で、新たな目標へと向かい始めていた。 公園は、たちまち鼻をくすぐる甘い香りに満たされた。 「こんにちは♪ うっとりするみたい、素敵な香りですね」 ひょっこりと顔を覗かせたのはアリス。同じ容姿の少女に、『アリス』は目を向ける。 「こんにちは、お茶会ですか? 実は私達もなんです」 「ん、ちょーどいいからみんなでお茶会しよっか!」 続いて声をかけるセラフィーナに、美虎がうまく調子を合わせる。掴みは良好。思いがけないゲスト達の登場に、『アリス』の顔が綻ぶ。 「こんにちは、私はスペードです。 貴女も、アリスさん?」 「スペード、ね。わたしは、アリス。あなた、も?」 きょとんと首を傾げる『アリス』に、アリスが名乗り出る。 「私もアリスっていうんです♪」 「そう。わたしも、あなたも、アリス、なのね」 「宜しければ、ご一緒しましょう?」 「ええ、もちろん! さんにんより、たくさん、だわ」 スペードとの会話の流れに助けられ、アリスとスペードの二人共がテーブルに着くことを許される。さりげなく椅子を置き、てきぱきと動くモニカに倣って、セラフィーナもお茶会の支度を手伝う。あっという間に場を整えると、二人はすっと下がっていった。傍に立って控えると、注意深くこれから起こることに備える。ごく自然な、メイドらしい振る舞いだった。 「私達2人、何だか鏡を見てるみたいです……はい、アップルクーヘンを食べたアリスは身体が大きくなって……あ、でもこれはそんな事はないですから、安心してどうぞ♪」 アリスお手製のアップルクーヘンには、『Eat me!』の札。それじゃ早速、と手を伸ばすふたりのアリスは、仲良くお菓子を半分こ。 「どうもこんにちはアリス。三月兎『マーチヘア』がお茶会に参加しますよ」 紅茶の色、温かさ、香り、茶器。そのひとつひとつから判じて、鈴宮紅茶館店長たる慧架が名乗りをあげる。 「そちらの紅茶ではお茶会が寂しくなりそうです。私のプライドをかけて、私がもっと美味しいものを淹れてみせます」 女子高生時代に紅茶店を開くほどの誇りとこだわりをもって。それは『アリス』の紅茶に手をつけないための技巧ではあったが、それ以上に、慧架の全身全霊をかけた行動でもあった。 しかし、それを解するには『アリス』は些か幼過ぎたかも知れない。慧架の言葉を額面通りに受け取った『アリス』は、不機嫌そうな表情を見せた。 その時高らかに声を上げたのは生佐目だった。 「ご存じ? これなるはクッキー。でも実はビスケット。そうクッキーとビスケットは、見た目の問題――だから、ビスケット」 奇怪な身なりで、調子をつけてビスケットを勧めてまわる。口に含むは飴の欠片が三つ四つ。余談だが、ビスケットとは生佐目との契約に必要なソウルフードの一種である。 「これ、私の手作りなんですよ。自信作です」 セラフィーナが恭しく捧げるのは、動物の形にくり抜かれたクッキー。 「はい、お嬢様。どうぞ食べてみてください」 二人の機転にすっかり『アリス』が機嫌を直す頃には、慧架の下準備も出来上がっていた。少しの冷えも許さない。ティーセットを温め直して、紅茶に備える。このために、ここへ店の道具を持ち込んだのだ。それくらいの手間を惜しむはずもない。 「茶葉はお店で使う既に餞別済みの今期の秋積、オータムナル・ダージリン。 茶器は当店のオータムナルのみ使用する陶器の紅茶ポッド」 慧架が自信を持ってこの舞台へ提供する、紅茶。 「時期だけで風味が変わり、陶器は影響を受けやすい為、温度は95度。沸騰寸前を使用します」 そうすると茶葉が上手くジャンピングします、という慧架の言葉と、慣れた、されど一切の曇りも手抜きもない手つき。『アリス』も、誰もが、思わずそれに見入る。本来ならば少し高い位置から紅茶をいれ、空気を含ませつつ温度を下げるのだが、そこはさすがの慧架。外でのお茶会は少し寒い。今日は定位置から空気を入れるように注ぐ。 「さあ、そのまま風味と本来の甘みで楽しんでください」 これで少しは話し合いもし易くなると良い。甘い砂糖も気後れしてしまうくらいの、温かく素晴らしい紅茶が、その場を満たしていく。すごいわ、と『アリス』が驚嘆のつぶやきをこぼした。 「美味しいカボチャのタルトです。如何です?」 凛子が持参したタルトを食べてみせ、美味しいですよと『アリス』にも促す。 「どれも美味しそうだなー、どれがいいかなー?」 のそのそと歩きまわる美虎の笑顔がまぶしい。さりげない行動に見えるが、一人一人がこうして自分の立ち位置を探っていた。 「あっ、それもーらいっ! いっただっきまーす!」 ひょいと横から手を出してスペードのタルトをつまんでみせれば、スペードがハートの女王様のモノマネをしてみせる。 「タルトを盗んだのは、だあれ?」 思わず『アリス』が笑えば、スペードも笑う。 「ふふっ。似ているでしょうか」 「とっても! でも、そうね……あなたはちっとも意地悪じゃない。ずっと、優しいわ」 猫舌だと言うスペードに、わたしもなの、と『アリス』が相槌を打つ。 (不思議の国のこと。そして、アリスさんの願い) 「わたしね、お茶会を開くのが大好きなの! 素敵なお友達をたくさん集めて、こうしてお庭でパーティーを開くのだわ」 (お話ししたいことは、いっぱい) 彼女のいた世界、愉快で奇怪、ちょっぴりかしましい友達に囲まれていた世界。突然放り出された、孤独な世界。ならば新たな『友達』を得て、穴を通り抜け元の世界へ――それならもっと、楽しいでしょう? ようやく知り得たアリスの意図は、テレパシーによって伝えられる。けれど、『アリス』の腹を探ることが、スペードの目的ではない。 「――お友達に、なりましょう?」 ●アリス・イン・ワンダーランド 『アリス』がスペードにすすめたのは、赤い、真っ赤なハートのタルト。スペードがそれを口に含み、眠ったふりを演じた瞬間が合図だった。 「さあ……わたしと一緒にいらして」 差し伸べられた手。『友達』を連れて、自分の世界へ逃げ帰るつもりなのだろうか。そうはセラフィーナが許さない。誰よりも速く『アリス』の前を遮る。 「誘拐は犯罪です。異世界の住人でも、この世界にいる限りこの世界のルールに従ってもらいます」 姉から受け継いだ夜明けの刀『霊刀東雲』を構えるセラフィーナを見るや否や、『アリス』は弾かれたように背を向ける。 「では、全力で参ります」 凛子が施した加護によってリベリスタ達は小さな翼を得る。 「やはり戦うことになりましたか……」 紅茶を『アリス』に最後に出すことですぐ近くにいた慧架が凛として流るる水の如き構えを取る。 「にゃー!」 美虎の『デビルマッシャー』が唸り、全力の掌打が炸裂する。 「ごめんねー? 昏睡させてどこに連れてくつもりだったのかは知らないけど、思い通りにさせる訳にはいかないんだよねっ!」 アリスは時計兎とチェシャ猫を相手に防戦が精一杯。『アリス』を逃がさないことこそ成功していたが、集中砲火を受けるアリスとスペードの負担は決して小さくなかった。まして自らに刃を向ける存在の言葉を、果たして『アリス』は聞き入れるだろうか? 「ごめん……ごめんね……アリス……」 無意識に頬を伝う涙。運命が、アリスに伝える時間を与えた。 この子は私。私と、同じ。ふたりは、アリス。 「どこにも居場所がなくて……一人ぼっちで……さみしかったんだよね……」 「それなら、一緒に来てくれる、よね?」 答えの代わりに、アリスは『アリス』をぎゅっと抱きしめる。 (賽は投げられた、という訳か。成程) 疼く、疼く。沸き上がる衝動、抑えられぬこの手の疼き。 「Twinkle,twinkle ballet. End mark――Tea party!(要訳:キ印茶会上等――ブチ壊す)」 生佐目から溢れ出す暗黒の衝動が、黒い塊となって駆けていく。連れ去らせるわけにはいかないのだ。 白いリボンは、最早少女を彩る花ではない。兎は歪な時を刻み、猫は猜疑の爪を研ぐ。 (アリスさんを元の世界に送還する。それがわたしの願い) 「わたしと一緒に、来て」 真白のリボンが伸びる。退路を断たれた『アリス』は、意地でも二人を連れ帰るつもりなのだろう。それでもスペードは、攻勢に身を晒しながらも、決して『アリス』を傷つけることはなかった。 「此の剣は、お友達に向けるためのものではないのですから」 突きつけられたリボンが、ぴたりと止まる。 分かっていた。あまりにも乱暴なやり口だって。 目的のために手段を選ばなかったわたしに、それでも、この人は――。 「ねぇ、アリスさん? 離れていても、ずっとお友達ですよ」 『アリス』の瞳を見つめたまま、『アリス』の紅茶に口をつける。 目を閉じる。力なく椅子に預けられたその体を前に、『アリス』は一瞬躊躇いを見せた。運命の加護は、その刹那、スペードに味方した。 「たとえ何があっても。私とあなたがお友達であることは、揺らぎません」 アリスの言葉、スペードの言葉が、『アリス』の頭にこだまする。どんなことをしても、この人達は、わたしを友達だ、と言う。それなのに、わたしは? 『アリス』は逃げ回ることをやめた。その足はDホールに向けて、ゆっくりと歩いていく。 「友達が欲しかったんですか?貴方達だけでお茶会を開くのが寂しかったとか」 おみやげです、とセラフィーナが差し出したのは、クッキーと、彼女のリボン。『アリス』は何も言わずにそれを受け取った。彼女が去っていくゲートの向こう。かつて境界を貫く穴があった場所に、はらりと白いリボンが落ちる。 「アリス……っ! あなたのこと、忘れないから!」 アリスの言葉は、きっと遠くの『アリス』にも届いただろう。 「さて……残ったケダモノさん達の方を、片づけませんとね」 戦意を失って退こうという者を、いつまでも追い回す必要もない。モニカは即座に対象をアリスから残されたEビースト達へ切り替えた。機動力の代わりに得たものは、絶大な破壊力。モニカの『九七式自動砲・改式「虎殺し」』は、極めて精密に狙った物をぶち抜く。 「もう、見切っていますから……!」 一気に間合いを詰めた慧架が、強引にチェシャ猫を捉え、地面に叩きつける。可憐な少女達の外見からは想像もつかない、恐るべき膂力であった。 「Above the world――Gimble,My blood――My Pain(要訳:おもてなそう――我が痛み、錐穿て!)」 生佐目の痛みはおぞましいまでの呪いに変わり、時計兎の白い毛に黒い傷を刻んでいく。 取り込まれた魔力が、凛子の全身をかけめぐる。癒せる手段を得るまでに少々時間がかかってしまったことと、凛子が意図したような一撃離脱の戦法は取れなかったという誤算はあった。けれども、癒しの息吹の力は十分に仲間達を奮い立たせた。敵の撹乱を許さなかったことと、一撃一撃の重さがあってこその勝機だった。 「はーい、いっちょ上がりぃ!」 最後に美虎の破壊的な気が狂った時間を刻む者を内部から打ち砕き、お茶会は幕を閉じる。 危うい部分もあったものの、彼女達は『提示された結末』ではなく、『望んだ結末』を自ら勝ち取ってのけたのだ。 「アリス・イン・アナザーワールド…どっとはらいですね」 凛子の言葉に、一同は頷く。 真っ白な頁に描いた、新たな絵本の結末。 この記憶は、経験は、きっとこれからも彼女達の力になるのだろう。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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