●DNとは 「満足しただろ、そろそろ口を割ってもらおう」 ご希望を満喫したフィクサードへ、少年が語り掛ける。 この情報を聞く為に、何故かリベリスタを集めて新人アイドル水泳大会まがいな催しをするハメになり、かなり遠回りをさせられた。 参加してくれたリベリスタ達の協力もあり、大成功を収めた水泳大会。 代価を求める問いにこくこくと頷くフィクサードは、嬉々として口を開いた。 「いいぜ、全部話してやるよ。まずDN、お前等はもう知っていると思うが、こいつぁDouble Number(ダブルナンバー)の略称だ。SNに対する、完成品みたいなもんだな」 SN、それはSingle Number(シングルナンバー)と呼ばれる武器の略称だ。 アーティファクトではあるが多少の自我を持ち、自信の所有者を選ぶ特性がある。 それは自身に適合できる存在、そして自身の主たる器があるかを確認することだ。 両方満たせた時にのみ認められ、持ち合わせてなければ酷い目に合わされるという賭けに近いようなものだ。 これと併せて存在が確認されたのがDNである、しかしどのようなアーティファクトなのかは一切の謎に包まれていた為、こうして情報を握る男を捕まえたわけである。 「完成品?」 「あぁ、クセがねぇんだ。SN達は元々とある持ち主達の為に作られた武器で、誰かの所有物だったらしいぜ。けど、その突飛出た力はあまりにも異常で、なかなか使いこなせるもんじゃねぇ」 以前、SN1と呼ばれるアーティファクトにとりつかれた男と戦った記録があるが、その所有者も完全制御していた様子は無い。 適合者と認められはしたが既に死に瀕していた為、半ばSN1に乗っ取られるような形で存命し、大きな制約の上で命を保っていた状態だ。 それは攻撃を受けないという一点。一切の攻撃を回避し、被弾を許さない。 結果、二度に渡る作戦でこれを撃破、回収に至った。 過去の記録を思い出し、納得した様子で頷く少年を見やれば男は言葉を続ける。 「そこで作られたのがDN、SN達の特徴を引き継ぎつつ、武器として安定して量産できる。自我もないし、クソおかしい力は出ないが扱いやすい。武器としては完成品だろ?」 「……そうだな」 量産性に向かず、寧ろギャンブルに近いような適合者を探すよりは、グレードを下げた武器を幾つも揃えた方が戦力補強にはうってつけだ。 戦略的観点からすれば、SNは非常に最悪な欠陥品に当たり、DNは至高の完成品と言えるだろう。 幾ら強い武器を使わせる為とはいえ貴重な人材を使い捨て出来る筈がない、例えフェイトという運命の力を持とうとも、長く戦い抜いた戦士を育てるには金より時間が掛かる。 その時間は何にも変える事はできないのだから。 「奴等は二桁目に1の数字を持ち、一桁目に元のSNの番号を持つ。例えばSN8のDNは18だ」 その答えに、以前は以前の予知報告で見た一文を思い出す。 先程のSN1の戦いにおいて、二度目の作戦で見た未来だ。 SN1の所有者を抱き込もうとした恐山のフィクサードの手には、DN10というナンバーを持つ武器があったのだ。 「SNにゼロはいるか?」 「いや、俺もそこまではしらねぇ……でも、俺が見た情報だとDNは11からだったはずだぜ?」 訝しげに表情をゆがめて答えるフィクサード、恐らく嘘はなかろうと判断しつつ少年は顎に手を当て思案顔だ。 「……最後の質問だ、葵・ウェッソンはどこにいる?」 ●救出作戦 「せんきょーよほー、するよっ!」 『なちゅらる・ぷろふぇっと』ノエル・S・アテニャン(nBNE000223)は元気よくVサインでリベリスタ達を出迎えた。 傍らには兄、紳護の姿もあり、メンバーへ資料を配っていく。 「今日はね、きゅーしゅつさくせんなの」 皆へと向けたスケッチブックには幾つかの家、そして武器を持った棒人間、そして赤丸が着いた家に『あおいちゃん』の文字。 「かじ屋さんの おんなの子がいるの。だけど、わるい人たちが、その子をつかまえちゃったの」 つまり、その女の子=あおいちゃん という事だろう。 全体的な依頼内容は理解したところで、紳護が補足に入る。 「以前、DNというアーティファクトに関して情報を得るため、とあるフィクサードを捉えた。まぁ……吐かせる為に、妙なお願いをされたが、結果として情報を得ることが出来た。DNに関しては、手元の資料を参照してくれ」 続けてコンソールを叩き、作戦ポイントの映像を映し出す。 「作戦目標はDNの詳細を知る鍛冶師、葵・ウェッソンを保護する事だ。DNについて何を知っているかは分からないが、手掛かりを渡すのも危険すぎる。違う形に変わっても、悪用されるのを阻止する必要がある」 最悪のパターンとして量産されるという事も考えられる。 無論、アーティファクトを作り出すにはかなりの労力、資産が必要だとは思われるが、可能性を渡せば何をしでかすか分からない。 低い可能性であっても潰しておきたいと言うことだ。 「ノエルの予知で描かれた絵を元に、使われそうな建物を発見済みだ。ここに一度連れ出された後、護衛を入れ替えて別のポイントへ移送されるらしい」 スクリーンにはぐしゃぐしゃに描かれたノエルの絵、そして特徴的な部分を捉えて見つけ出した建物の映像が映される。 郊外の二階建ての一軒家、既に人は住んでおらず廃屋となっているようだ。 「作戦内容としては、まず深夜に動いてもらう。丁度この時間帯に大雨があり、予知にも雨の間に護衛を入れ替えるような内容があったからだ。ここで待機している交代要員と、廃屋の守衛を静かに処理し、ターゲットと護衛を待ち構える」 今回の場合、闇雲に戦えば良いものではない。 バレれば連絡を入れられて逃げられる可能性は大いにある。 更に、ターゲットと護衛が到着した際も直ぐに逃げ出せないよう状態に追い込んでから確保しなければ、逃げられてしまうだろう。 「付け加えて……葵の妹、志乃・ウェッソンも囚われているようだ。恐らく妹を人質にして脅し、彼女を捕まえたのだろう。交替要員と共にいるようなので、彼女を傷つけず回収して欲しい。……最悪、葵だけ確保できればいい。目標を間違えないでくれ」 妹の救助も付け加えられるものの、この特殊な状況下で追加条件としては辛いかもしれない。 可能な限りという言葉は、残酷に聞こえるかもしれないが仕方ないことだろう。 「それとすまないが、ターゲットと護衛が到着する時間はどれぐらいかは分からない。とにかく迅速に建物を占拠する必要がある、それも静かにだ。ターゲットを確保した後は連絡をくれれば迎えの車を出すが、場合によっては別の手段で護送してもらって構わない」 例え護衛を全て倒しても、追っ手が来ないとはいえない為、逃げるならばさっさと逃げるに限る。 スクリーンには建物の内部見取り図が映し出されるも、何処に敵が潜んでいるかは分からない。 「それとこれも予知にあったんだが……建物周辺や内部で非戦闘スキルは使用しないほうがいいみたいだ。使った場合、使った者の位置が敵にばれるらしい」 理由は分からないが、何かタネはあるだろう。 一通りの説明が終わると、ノエルは不安そうな顔でリベリスタ達を見つめていた。 「眠いかもだけど頑張ってね? それと……風邪に気をつけてなの」 子供っぽい心配に微笑を浮かべるリベリスタ達、程よく緊張も解れ、作戦も練りやすくなったかもしれない。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:常陸岐路 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年11月15日(木)23:01 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●侵入 空から降り注ぐ大粒の雨、闇をより濃くして人影を暈してしまう。 その中でも見つからぬようにと見取り図を元に窓の死角ルートを割り出し、ユーフォリア・エアリテーゼ(BNE002672)が安全なルートを先導していた。 無数の足音も冷たい夜に紛れ的には届かず、8つの影が駆ける。 (「気取られることなく迅速に制圧、か」) 『ヤクザの用心棒』藤倉 隆明(BNE003933)は、この依頼の難しさを噛み締めていた。 沢山プランを練り、想定外の事も考えに考えても時間が足りない。 ぶつかるだけではない難しい依頼に、より一層緊張が高まる。 (「やれねぇことはねぇだろ」) メンバーを一瞥し、プランを練ったときのことを思い出せば分かる。 頼れる仲間達がいるのだから。 銃のシリンダーを回す手の動きは、これを使わぬ様にと願いを込めるかのようにも見えるだろう。 総員が廃墟へ急ぐ中、真っ先に確認すべきポイントがあった。 「窓は無さそうだね……」 『ハッピーエンド』鴉魔・終(BNE002283)が小声で呟いたとおり、そこには光り零れるガラスはない。 情報の中にユニットバスの窓の情報が無いが、あれば事は一気に進む筈と念の為に確かめに来たのだ。 そう、確かに窓は無いのだが。 「あそこから入れねぇか?」 『デンジャラス・ラビット』ヘキサ・ティリテス(BNE003891)が指差すのは換気扇だ。 「ん~、でもどう外しますか~?」 換気扇を覗き込んだユーフォリアが間延びした口調で問う。 入れなくは無いのだが、音を立てずにビス止めされたそこをどう突破するかだ。 「あっ、ちょっと良い案が浮かんだっす」 『LowGear』フラウ・リード(BNE003909)が換気扇の前に割り込むとナイフを抜く。 切っ先をネジ穴にあてがい、クルクルと回せば簡易的なマイナスドライバーに早変わりだ。 既にボロボロの場所ゆえに締め付けも少々緩い、これなら手間取らず静かに外せるだろう。 「大変だ!」 傍で待機していた『SHOGO』靖邦・Z・翔護(BNE003820)の呼び掛けがリベリスタ達に緊張を走らせる。 敵に気付かれたか? 息を押し殺し、各々獲物に手を掛けようとした……まさにその瞬間。 「秋の長雨で人肌恋しくなっちゃった! 誰か抱きついていい?」 ――どこが大変なのだろうか。 マイペースな彼のお願いにガクッと肩透かしを食らうが、程よく緊張が解れたかも……しれない。 (「会った時にすんなりいけるよぉ、此処で葵さんら助けんとな!」) 『レッドシグナル』依代 椿(BNE000728)にとって、この依頼には特別な理由がある。 SN7の所有資格があるとSN1から伝えられ、それに関わるとならば、小さな情報でも重要だろう。 傍で同じ様にレインコートを脱ぐ『銀狼のオクルス』草臥 木蓮(BNE002229)も、彼女とは少し違った因縁を持つ。 (「またSNに関わることになるとは、なぁ」) まさに身を削る想いでSN1と戦い、盾となり、勝利を収めた。 故に悪用された時の恐ろしさは良く分かるはずだ、だが、それとは別の理由も。 (「……水泳大会のことはあまり思い出さないようにしよう」) 二度も体を張って頂けた貴方には敬意を表します。 静かに忍び込むリベリスタ達は、各々のポジションへと向かって行く。 西奥側の部屋には翔護と終、西手前にはユーフォリアとフラウ、東部屋には椿、隆明、ヘキサ、木蓮が向かう。 頭数で言うなら一人辺りに二人掛かりだ。 奇襲が通ればすんなりと行けるが、トラブルが生じてもどうにかカバーも効くだろう布陣。 フラウがAFのマイク部分をコツンとノックし、仲間達に準備完了の知らせが届く。 ワンノックの返事が他の2チーム全員から帰り、後は一つだけ残った準備を待つだけだ。 落雷、その大きな轟きは鮮烈な光を伴って響き渡る。 それが大きな合図となり、一瞬の喧騒が幕を開けた。 ●一瞬 扉が静かに、だが素早く開かれる西側手前の部屋。 フラウが開いた扉から、ユーフォリアが両手のチャクラムを放つ。 高速回転しながら迫る刃の輪は、安定した軌道を描いてフィクサードの体へ吸い込まれていく。 音も小さく、一瞬の攻撃は敵の体でブレーキを掛ける事で肉を深々と切り裂きながら食い込むのだ。 フラウも俊足でチャクラムと並ばん勢いでフィクサードへ迫ると、何かを握った手を蹴り飛ばす。 それは通信機、宙に舞い上がる頃、フラウは敵の喉にナイフを滑らせた。 切り裂かれた気管支が零れる掠れた呼吸音、倒れぬ様に始末した敵を支える。 見事な連携で制圧完了だ。 落雷と共に部屋へと突入を開始する終。 扉の開く音、動きに一瞬だけ窓への警戒が完全に消える。 「キャッシュからのー……パニッシュ☆」 小声のキメ台詞と共に、集中力を高めて狙う翔護がトリガーを引き、精密射撃が放たれた。 寸分違わぬ狙いは射撃音を雨音に溶かし、一瞬にして敵の太股を撃ち抜く。 「っ!?」 ガクリと膝が沈み、体勢が崩れたところへ既に終が距離を詰め終えていた。 家具等に体をぶつけぬ様に入射角を選び、ステップから交差するナイフの一閃が煌く。 脇の下、太股の付け根、四肢の動きを伝える大切な部分を切り裂き、体の動きを奪う。 倒れる体も狙ったとおりの方向に倒れ始め、難なくキャッチだ。 これで西側奥の部屋も完了だ。 更に東側も同じくして部屋に飛び込む。 小鬼を待機させていた椿と共に扉を開き、ヘキサと隆明が突入する。 一瞬の加速、そして視野を振り切る足取りで隆明は敵から身を隠し、敵の影となった。 気付いた瞬間には遅いのだ、鋭利な刃と化した拳が喉を切り裂くように振りぬかれ、風圧の刃が血飛沫を散らす。 (「寝てな、クソヤローが」) 一転集中の破砕の脚が腹部を蹴り上げ、ぐんと体が跳ねる。 しかし、その一撃は両手を交差した防御に阻まれ伝わりきっていない。 元々、椿とターゲットが被らぬ様に打ち合わせをしていたヘキサだが、椿も倒れる敵、倒れぬ敵の姿を一瞬で理解、判断すればターゲットを変える。 サイレンサーをつけた木蓮と椿の銃が一斉に火を噴き、弾丸の追撃に呑まれた。 射数は少ないものの、的確な狙い、そして体を縛る呪いをフィクサードに耐える術は無い。 「大人しくすれば殺さない。……お前ら、命を2個も3個も持ってる訳じゃないだろ?」 木蓮の小声の脅しに、自由にならぬ体で顔を上げるフィクサード。 目の前に銃と刃を向けられれば降参せざるを得ない。 1Fは見事な連携で制圧完了だ。 2Fは東の部屋と同じくどちらも二人ずついる。 1Fには志乃の姿は無い、ともなればどちらかだろう。 先程よりも条件は厳しい、隆明は深呼吸で心臓の高鳴りを押さえ込む。 だがやる事は変わりない、扉の傍、壁に張り付く様にそれぞれ距離をつめ、雷の合図を待つ。 光、そして一間空けてから音と共に突入。 まずは東側、近接戦闘をしかけんと走る終とフラウが部屋の中を瞳だけを動かして一瞥し、コンマ数秒の世界で理解する。 ここにはいない。 ならば制圧するだけだ。 獲物を抜こうとするフィクサードに近づくと、二人はその手を切り払い、反撃を許さず。 痛みに憎悪の視線を前衛組みに向ける一瞬を逃さず、ユーフォリアと紳護が射る。 喉を、胸を、動脈を切り裂き貫く弾丸と刃、血しぶきが飛び散り、体が崩れ落ちそうになっても気味が悪いほど静かだ。 無論倒れる音も響かせない、終とヘキサががっしりと体を抱え込み、静かに横たえるのであった。 同じ刹那の時、西側も突入を開始する。 椿が扉を開き、ヘキサと隆明が突入。そしてそれを援護する様に木蓮が狙いを定めるのだ。 勿論、こちらには志乃の姿がある。4人が人目で理解できるほど異質だ、ゴツイ男達と一緒に縛られたセーラー服姿の少女がいるのだから。 言葉を交わさずとも前衛二人は何をすべきかを、瞬時に判断すると更に加速した。 (「今度こそ蹴っ飛ばしてやらぁ」) 両足で踏み切り、更に一歩を加速させればフィクサードの目が追いすがるには難しい。 鋭い眼光がターゲットの腹部を睨み、振りぬいた蹴撃は今度は敵を穿つ。 胃液を口から撒き散らし、強力な一撃に体が痺れるほどだ。 隆明も再び視野外の奇襲を狙うが、振り切ることは難しくどうにか喉を狙った一撃放てたものの、先程と比べればキレが悪い。 そこをフォローする様に木蓮の射撃が続いた。 傍にいた志乃へ盾にしようと伸ばされた下劣な手を撃ち抜き、椿の呪印の弾丸がトドメとして動きを封じた。 「酷い奴やな、まったく……」 小声で侮蔑の言葉をフィクサードに叩きつける椿は、残った弾丸を順番に押し込んでいく。 呪縛された敵を更に呪い、毒に犯し、徹底的に弱らせる。 実は先程もやったことだが、それに比べても少し念入りかもしれない。 こうして襲撃は無事成功だ。 ●トリック 「貴方達は……もしかして」 縄を解かれた志乃は呆気に取られたままリベリスタ達を見つめ、過去の記憶を蘇らせる。 「そう、オレがSHOGO。キミを救った伊達悪さ。つまりチョイ悪より若干いい人」 「そう、アークから来たリベリスタっすよ」 翔護とフラウの噛み合わぬセリフの組み合わせに志乃は困惑顔。 違うだろと他の仲間達からのツッコミが翔護に集中し、少しだけ賑やかになり、志乃の表情が緩まる。 張り詰めた心の鎖が解け落ち、今やっと安心したのだろう。 「DNの事を知ってたばかりに災難だったね……大丈夫、葵さんも助け出すよ」 こくこくと頷く志乃に、笑みを浮かべる終。 「ここに葵も連れてこられるみたいなんすよ、だから助け出すまでの間、隠れていてくれないっすか?」 「お姉ちゃんも……」 どうやら姉が捕まった事は知らなかったようだ。 志乃とのやり取りを見ていたヘキサは、ふと隣の部屋と移動してく。 それを見た終が後追えば、西部屋で拘束されているフィクサードの胸倉を掴んでいた。 「連絡する手段は全部断ったぜ? さて……なんでこっちがスキル使うのが分かるんだ、てめぇら」 予知にあった非戦闘スキルの使用を読み取る力、それの正体が気になっていたのだ。 「オレも気になってたんだ、何でかな?」 タネさえ分かれば次の戦いの役に立つかもしれない、その考えは後を追ってきた終も一緒だ。 「言うわけねぇだろ、クソが」 (「人質取るなんざクズいマネしやがる奴が、素直に吐くわけもねぇか……」) 「何かのアーティファクトとかじゃないかな☆」 一つの予測を立てた終は、フィクサードの体をぺしぺしと叩いていく。 何か持っていないかとボディーチェックをすると、小型のフラッシュメモリに良く似たものを発見する。 「これ?」 答えは表情に出ていた。 ならば用は無いと、ヘキサは憤りを込めた拳を顔面に叩き込み卒倒させると地面に下ろす。 フラッシュメモリをそのフィクサードから遠ざけると、それから発せられる気配が弱まり、近づけると戻る。 その習性は分かったものの、自分達が使える様な様子も無い。 「専用ってことか?」 「かもね?」 一通りの納得が出来たところでそれを放り捨て、次の作戦準備へと入るのであった。 ●刹那の戦い 「来たぜ、最後のパーティタイム。ダーティに決めちゃうぜ!」 雨粒の滝を見上げる様に照らす光に気付いた翔護は、独特の言い回しで仲間達に伝えると明かりを落とす。 坂道を登る車には、カーテンを掛けられたこの廃墟の光は確認しづらいだろう。 建物と外、その二つから挟み撃ちにする待ち伏せの陣を敷き、リベリスタ達は息を殺す。 黒塗りの乗用車が到着し、ヘッドライトが落ちるが――出てくる様子は無い。 一番近い距離にいる椿と木蓮は耳を澄まし、雫のカーテンの向こうの囁きを探る。 「ア――等、暢――寝てん――?」 「し――ねぇ、起こ――て交替にし――ぜ」 途切れた音、しかし慌てた様子は無い。 仕掛け様とした一歩手前で……敵は動き出す。 両手を縛られた葵は男達に促されるがまま外へと連れ出されると、見張りと相合傘で廃墟へと連行されていく。 レインウェアに身を包んだ男達が得物を手に、葵を囲み、逃げられない程度の守りと警戒。 攻め込む時は違う緊張を覚えつつ、ドアの両脇にフラウと隆明、そしてほんの少し間を置いて陰に隠れる様にヘキサが待ち構える。 先頭のフィクサードがドアを開けた瞬間、二階に待機していたユーフォリアが窓から飛び出し、葵と護衛の間に割り入る様に着地すると、チャクラムを構えた分身したかのように見えただろう。 コンマ数秒毎に繰り返される、急所を切り裂くチャクラムの乱舞が散り、幻影が消え去ると共に赤い花が咲く。 フィクサード達もやられてなるものかと身を捩った結果、ダメージを抑える事は叶ったらしい。 だがそれも無駄な事、一瞬が命となる戦いの中で、ユーフォリアの奇襲はフィクサード達を追い打つ呼び水となったのだから。 好機と張り付いていたフラウと隆明が、拳とナイフのお出迎えで追い討ちに飛び出した。 「がはっ!?」 フラウの疾風一閃はざっくりとフィクサードの胴体を切り裂き、体力を大きく削がれた上、痺れた体は自由を失う。 「くそがっ!」 隆明の渾身のストレートパンチは、フィクサードの必死の回避で掠めるだけで直撃には至らない。 反撃に移ろうとするフィクサードは剣を逆手に握り、光を宿した刃を突き立てようとする姿が隆明の瞳に焼きつく。 「屈めっ!」 勢いを乗せるためのワンステップ、ヘキサは跳躍から薙ぎ払うようなハイキックのモーションへと入っていた。 声に従い、素早く身を屈めれば、仲間のブラインドから飛び出した鋭いとび蹴りが眼前に迫る。 ごきりと確かな直撃を足の甲で感じつつ振りぬき、音速の蹴りに脳を揺さぶられたフィクサードは膝を突く。 刹那の攻防は外側からも同時に進行している。 ユーフォリアの攻撃で崩れたフィクサードを3点から狙う。 門の後ろに隠れていた椿はリボルバーから禍々しい光の弾丸を放ち、狙い通りのポイントへと突き刺さる。 トドメと木蓮が力が入らなくなった敵の頭部を照星にあわせ、そのまま照門から覗き込む。 (「いらっしゃいの言葉もまだだが、帰さないからな」) 1¢硬貨すら精密に撃ちぬく弾丸が雨粒を弾きながら迫ると、高い破壊力を持って突き刺さっていくのだ。堪ったものではない。 突き刺さった弾丸は肉を引き裂きつつ、奥底の大腿骨へ侵入すると皹を走らせ勢いを殺し。 葵へ被害を出さぬ様にと貫通しないポイントを見事に捉え、破壊力を余す事無く伝える。 地面を転がったフィクサードは暫くは起き上がれそうに無いだろう。 「本日ラストのキャッシュからのー……パニッシュ☆」 廃屋の影から翔護が仕掛け、歪む事の無い綺麗な軌道を描き、弾丸が走る。 狙いと隠密製に重点を置いた分か、ダメージは少々低く、大きくバランスを崩す様子は無い 翔護の姿を見つけようと視線がポイントを割り出そうとしている今、物陰で密かに待機した終に気付く事はない。 銀色の軌跡を描き、雨粒が弾ける様に飛び散る。 「ぐぁっ!?」 意識を向けてない場所からのX字の斬撃はよりきつく、音速の一撃で体は痺れていく。 倒しきれていない敵もいるが、動きを封じれればこちらのものである。 「撤退しましょう~」 「だな、追っ手が来ないとも限らないしよ」 ユーフォリアの言葉に頷きつつ、隆明が外に出るとAFからワゴンタイプの4WDを取り出し、撤退準備に入る。 フラウに連れられ、隠れていた志乃が姿を現すと、葵の凍っていた表情に編めとは違った雫が伝う。 「とりあえずアークで保護させてもらえないかな? ここで立ち話も危ないしね☆」 異論は無さそうだ、終に促されるまま二人は車両に乗り込む。 しかしながら、ここで乗り込んでいくリベリスタ達も気付くことがあるだろう。 この車両、頑張っても8人が限界。あと2名はどうするのかと……。 「よし、詰めろ!」 まさかのおしくら饅頭状態と化して行く車内、隆明の提案にどうにかこうにか入り込むも濡れた体が引っ付きあう。 「いくぞ!」 定員オーバーのエンジンが悲鳴をあげ、アクセルを吹かして強引に走り出す。 時折曲がり角でタイヤが沈み込むがどうにか耐えながらも、リベリスタ達は掛ける事無くアークへ帰還するのであった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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