● 私は罪悪たるものを許容したことなどない。 もちろん日常を平穏に過ごしたとして、それを行ってしまうことがないとは限らないし、また私自身全ての罪悪たる行動、思想あるいはその他罪悪にあたるものを禁ずることは不可能であることを感じていた。だから行動してしまうことは如何ともし難い。 そうは言っても、それをしてしまうことが許されるわけではない。 罪悪を為してしまったからには相応の罰を受ける必要がある。それは謝罪であったり、何かしらの罰則であったりもするだろう。それを許容しないこともまた罪悪に違いない。 そしてそう言った事柄は、自分であっても変わりがない。私はその思想に従って行動してきた。私は自分が罪悪だと感じたものは、悉く相応の形で責任を取らせている。また自分が何かしらの罪悪をしたとしても、同じことをしてきたつもりだ。 どれだけ相手が悪だとしても、それ以上の悪を為せばきっと私も悪に違いない。 だからフェイトを得、エリューションなる存在と対峙した時、私は私の信念が揺らぐのを感じた。 それは存在自体が悪なのだ。世界にとっての罪悪なのだ。それがこの世界における現実であり、彼らにとっては消失することが相応の罰であった。彼らは世界を崩界させる、罪悪だ。 どうしても、それが許容しきれない。人間であれどリベリスタであれど、もしかすればフィクサードであれど、罪悪を為していないものを罰する必要などなく、またそういった存在であること自体が罪悪であることを示すものではないだろう。森を見て木を理解したつもりになるのは、非常に恐ろしいことだ。 だから、消滅することが肝要であるとされている彼らという存在が、非常に悩ましい。 ● 「エリューションは世界の崩界を招く。こんな簡単な悪なのに認めたくないなんてまるで、フィクサードみたいだと思わないかい?」 『鏡花水月』氷澄 鏡華(nBNE000237)が軽い口調で問いかける。彼女がアークのリベリスタに依頼の説明をするのは初めてのことだ。冷静を装っているが、僅かに声は震えている。 「とあるフリーのリベリスタチームとエリューションが交戦しているみたいだね。戦力的には互角か、あるいはエリューションの方が上かなって位。 最終的にはリベリスタ側が撤退。トップの赤菱って子が途中で戦うの止めちゃったみたい。戦闘の要だった彼がいなくなったことで戦況は完全にエリューションの優位に。全滅寸前で彼が指示出してそのままどこかへいっちゃうみたい。彼の仲間も、彼についていきたいって感じで彼と行動している人が多いみたいだから、どんな指示にも割と従っちゃう感じだね。 でも残されたエリューションをそのままにしておくのは流石にマズいからね。皆には救援に行って欲しい。 もしかしたら赤菱たちにも対応する必要もあるかもしれないね。彼、思想的に立場が結構危ういし、行動を見てもこのままフィクサードに転身、って可能性も否定できない。 ……ま、そこら辺は皆に任せるよ。あくまで可能性だし、最低限エリューションを倒して来てくれれば構わない。 じゃ、よろしくね」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:天夜 薄 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年11月13日(火)23:34 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● それらは赤菱透の心に忍び寄る影を体現したかのような姿をしていた。黒と白、二つの影は彼に答えを求めるように責め立てる。誰かに牙を剥くというのはそれすなわち一つの罪であることに違いはない。だからそれらは既に罰せられるべき存在であることは、疑いのないことなのだ。 けれども透の手は鈍る。思考に纏わり付いた疑問が一つ一つの行動を阻害する。エリューションという存在そのものが含有する害悪についての懸念である。もちろん人に害を為したのであればそれらは殲滅すべきだ。だが人に害を為す『だろう』という可能性の概念を、どうしても受け入れきれない。 「どうした、透?」 「……何でもない」 透は仲間から声をかけられると、即座に返答する。彼のチームが、彼なしに成り立たぬことは、他ならぬ彼がよく知っている。故に今自分の手が覚束なくなっている状況が、殊更に危ういことだということも、分かっていた。分かっていたのだが、こびり付いた疑問が、やはり拭いきれなかった。 戦場に現れた光の道が、透の身体を通り抜けていく。痛みはそれほど感じないのに、攻撃の意思が薄れていく。倒さなければいけないのに。心が揺れ動く。灰色の影が、自分に近寄ってくるのを呆然と見ながら、透はただ立ち尽くした。 その時、透は遠くから駆けてくる集団を見た。夜闇の中、はっきりとした形は見て取れないが、恐らく自分に危害を加えないだろうと彼は瞬時に判断する。やがて彼らは透たちの戦う空き地へと到達すると、各々の目的を以て動き出す。 「なんだお前ら、アークか?」 「ああ、邪魔はするなよ。エリューションを前に喧嘩する必要もないからな」 『燻る灰』御津代 鉅(BNE001657)は自身の近くにいたリベリスタに面倒くさそうに声をかけると、黒色の影と対峙した。そして息つく間もなく大量の気糸を伸ばすと黒影の身体を縛り付けようと試みる。黒影は屈むように見を逸らし、僅かに傷を受けつつも鉅に近接すると、その身を鉅と合わせようとする。鉅は危険を察知すると、何かが起きるより先に黒影と距離を置いた。 「潔癖な奴ほどドツボに嵌る。答えなんてねえのに、嫌な話だぜ」 吐き捨てるように言いながら、『悪い夢』ランディ・益母(BNE001403)は白い影の前に立つ。攻撃範囲に人がいないのを素早く確認すると、ランディは振り回した得物から烈風を吐き出させ、白影に叩き付けた。手応えはあったが、白影は僅かよろけただけで平然としていた。 「随分と難儀なお悩みですね」 『ライトニング・フェミニーヌ』大御堂 彩花(BNE000609)はもはや攻撃の気配のない透を見つつ言った。透は苦々し気に彩花の顔を見る。 「アークには私の悩みもお見通し、か」 「この場は手助けしますよ。ここでエリューションを見過ごし、誰かを犠牲にしてしまうのは恐らく『罪』でしょうから」 『大雪崩霧姫』鈴宮・慧架(BNE000666)は透に近付く灰と向き合い、攻撃の構えを取る。じりじりと攻撃のタイミングをうかがう 「安易な考えでフィクサードに転身するなどという結論は、今は踏みとどまって欲しい」 『カゲキに、イタい』街多米 生佐目(BNE004013)は透に声をかける。 「それと君の悩みは容易に結論が導けることではないだろう。ま、この場は私たちに任せてくれ」 リベリスタは、やがて灰の群れに接近し、交戦を開始する。透は唇を噛みながら、その様子をただ、見ていた。 ● 「要するに自分の中で納得出来ねーから見て見ぬ振りしてーって事だろ」 それは透に告げる言葉のようであって、虚空に向けて放たれいるようでもあった。それでも『住所不定』斎藤・和人(BNE004070)の言葉は透の迷いに釘を刺すように、淡々と述べられた。 「そりゃお前はそれで良いかも知れんが、俺等はこれが仕事なんでね。 さて、始めっか。」 和人はそう言うと、素早く灰に接近して得物を思いきり振り下ろして叩き付ける。攻撃を受けた灰は僅かに震えながらも即座に起き上がり、攻撃の反動の最中にあった和人をその指で差す。和人は瞬時に距離を置こうとするが間に合わず、その指で差された部分に激痛が走る。 和人を見つつ、未だ回復が必要ではないと見なした『いつか出会う、大切な人の為に』アリステア・ショーゼット(BNE000313)は、透に気を遣りながらも聖なる光で灰を撃つ。このエリューションは誰かを傷つけたかもしれない。だがそもそもエリューションとは世界に害を為すもの、『いるだけで罪悪』たる存在なのだ。 それって、なんだろう。アリステアにも、透のように苦悩に苛まれるまでではないものの、疑念は過る。 『世界のため』。そう言って、リベリスタは命を奪っている。けれども悪いことをしてないものと比べれば、リベリスタの方がより罪人に近しい存在なのだろうか。それは、決して簡単に答えの出る疑問ではない。 だから、各々の中で結論を出すべきものなのだ。透のように足を取られることもまた、答えを出すための一つの過程に過ぎない。 「……殺さなくて良いなら、そうしたいさ、本当は」 『花縡の導鴉』宇賀神・遥紀(BNE003750)の放つ戦場を駆ける光線は、灰を貫きつつ減衰して消える。不安定に、不確定に、漂うように揺らめいた身体は、僅かな痛みも感じずにいたかのように攻撃を受けるとほぼ同時に反撃に転じる。ユラリと動き、鋭く攻撃を放つ。 「けれど、俺達が許容してしまったら誰が抗う術の無い人達の盾になる?」 リベリスタを続ける以上は運命に愛されなかった命を奪うこともあるだろう。だがそれは世界に害を与えるものから、命を守るためなのだ。そのためにエリューションを倒すだろうし、だからといって必要悪などと言って、自身を正当化する気も遥紀にはない。 「躊躇がないんだな、本当に」 透は呟くように言う。迷いに捕われた彼の腰は重い。 慧架は灰が自身の影に忍び寄るのを見、距離を取って灰の出方をうかがう。やがて攻撃の気配が無くなると一転、一気に間合いを詰めて地面へと引き摺り落した。 「私は、私の為す正義のため戦います」 灰は、ゆっくりと体勢を立て直すと甲高く叫ぶような声を上げる。頭を襲う激痛を感じながら、慧架は耳を塞いで難を逃れる。やや身体がふらつくのを感じながらも、慧架は続ける。 「貴女が、エリューションの罪悪を理解したいと思うのなら、知りたいと思うのなら、それこそこんなところで死ぬべきではないです。戦うべきです。そうだとは、思いませんか?」 鉅は黒影を、ランディは白影を、何とかブロックするのに成功している。彩花は灰からの攻撃をしっかりと防ぎつつ、相手の勢いを利用して雷撃を纏った拳を叩き込む。アリステア・遥紀は共に回復の役目を全うし、生佐目は暗黒の瘴気で周囲の影を冒していた。和人が銃弾を撃ち込んで灰を牽制する最中、透はゆっくりと前を向く。迷いの結論は出ていない。だが、この場の結論はただ一つだ。彼は無言で、戦場に身を投じた。 ● 「己が身で知るが良い……影よりなお暗い、暗黒がある事を」 生佐目のまき散らした暗黒は、影より更に濃い漆黒を以て灰を侵食する。灰は弾けるように身体を仰け反らせたが、瘴気が空気に溶け込み消えた頃、痛みに嘆くように叫んだ。ガンガンと頭に響いた音は彼に前後不覚をもたらして、その切っ先をあらぬ方向へと向けさせる。 「危ねえな!」 和人は生佐目の様子に注意しながら灰へと接近し、大上段から一撃を叩き付けた。一瞬の怯みを見せたものの、動きを止めることなく和人に攻撃の矛先を向ける。それを妨げるように慧架は鋭く灰へと蹴撃を加え、続いて彩花が雷撃を叩き込んだ。 立て続けの攻撃に全身に綻びを見せながらも、その灰はもたげた頭を持ち上げ、ゆっくりと動き始めた。 「随分としぶといんですのね」 彩花は苦い顔をして言う。灰は這い寄るように彩花に近付くと、そっと彼女に腕を伸ばす。その指先から殺気を感じ彩花は地を蹴るが、身体の一部に痛みが走った。灰に指差された部分には焼け焦げた跡が見られたが、彩花は一切確認することなく拳に力を込めた。 「ランディさん!」 最中、慧架はランディの様子を見、叫ぶ。ランディは攻撃体勢のまま石化し、白影がその身体を超えてゆっくりと、灰の方へと向かっていた。慧架は灰へと放とうとしていた攻撃を止め、急いで反転して白影と対峙する。そして瞬時に距離を詰めて雪崩のごとく白影を地面へと叩き付けた。 倒れた白影の身体が光を纏い始める。ゆったりと起き上がり始めた白影がそれを完了した頃、その光は筋となって周囲へと飛んでいった。その一つ一つは、白影の周囲にいた灰へと伸びていった。 だがその直前、これまで響いていた叫びとは性質の異なる叫び声が、戦場を席巻した。アリステアがそちらを見ると、灰の一つが声を上げながらゆっくりと蒸発していた。光の粒となって消えていく様を見ながらアリステアは安堵し、遥紀と共に癒しの息吹を起こして仲間に対して回復を施した。 生佐目が得物から瘴気を吹かせている途中、彼の横に透が現れた。彼は自分を見て少し驚く生佐目を見ながら、詫びるように言った。 「任せろと言われた手前済まない……が、私が相手にしていた敵だ、取り逃がしかけた罪は償う必要がある」 生佐目は、ふっと笑むと言葉を返した。 「任せてくれと言ったが──その結論、見せてもらおう」 透は頷くと、仲間と共に戦場へと分け入った。まもなく、灰の二体目が叫ぶ声が響いた。 「済まないな、鈴宮!」 石化状態から復帰したランディが戦列に加わり、素早く得物を抜き撃って切り裂いた。真っ二つになりかねぬ程の斬撃に襲われた灰はしかし、僅か残された体力で牙を向く。影の踏みつけから生じた痛みがリベリスタの体力を削るが、それ以上の攻撃が残された二つの灰に降り注いだ。 蒸発する。緩やかに消えるそれに、リベリスタはもう興味はない。 ● 「厄介だね、全く」 鉄の味を噛み締めながら鉅は吐き捨てた。様々な異常に冒されながらも、黒影の行動を御し続けた彼の身は、傷だらけであった。十分な回復があったからこそ持ちこたえられはしたが、そうは言っても一人で抑えるには余りに強大すぎる敵であった。 「だが、そいつもここまでだろう」 伸ばした気糸を引っ込めつつ、鉅は背後で戦う仲間の様子を理解した。どっちつかずの灰色は消滅した。残されしは白と黒である。そして『彼ら』もこの戦場における決意はしたようだということも。 「真面目だな……分かりたくもない」 「御津代さん! お待たせしました!」 彩花がスッと鉅の前に出て、黒影に鋭く拳を振り下ろした。陰鬱な雰囲気を抱え込んだそれの気が震え、黒い液体のようなものがポツリと落ちる。 瞬間、黒色のオーラが黒影の周囲に現れ始め、やがてオーラは炎のように揺らめきながら黒影を包んだ。叩き込まれた黒色の瘴気は、黒影に当たって分断された。 「くっ、遅かったか!」 生佐目が言うと、黒影は咆哮するような音を上げる。同時に体内から上空に向けて放出された楔が降り注ぎ、呪いをまき散らした。 だがその楔の雨を抜け、ランディが強引に踏込んで黒影に接近した。振り上げられた拳と強靭な意思は真っすぐに、黒影の纏う壁を破壊せしめんとしていた。 「ぶっ壊れちまえ!」 強烈な一撃が打ち込まれると、やがて何かが崩れる音がした。そして黒影は唸るような大声を上げた。怯みを見せる黒影に向け瘴気が飛び、閃光が飛び、得物が振り下ろされた。 白影は唸る黒影へと光の筋を渡し、回復する。だがそれは集中攻撃の前では、微々たる量に過ぎない。 黒影は再びオーラを周囲に蔓延らせ、それを纏おうと試みる。しかしそれよりも、生佐目の漆黒の方が、速い。 「行き掛けの駄賃にもならんだろうが──取っておけ!」 体中の痛みを呪いとして得物に込める。やがて生佐目が黒影に刻んだ傷は激しい呪いを伴って黒影の生命力を根こそぎ奪っていった。唸り声が徐々に小さくなる。叫ぶ体勢で静止した黒影は、そのまま少しづつ薄くなり、やがて消えた。 慧架の動きが止まる。足から、指先から、身体が硬直していくのが分かる。だがそうなったとして、彼女にはもう不安はない。全てのリベリスタの攻撃が集中する。攻撃の軌道があやふやな白影は、彼ら全てをさばききることなど、出来ていない。 やがて白影は光を纏う。だがそれは他の仲間がいれば意味をなすことだが、それを残すのみとなった今、僅かに時間を延ばす程度にしか役立つことは、なかった。 白影は強烈な光と、リベリスタたちへの傷を残し、消えていった。その散り様は何処か、儚 くもあった。 ● 「未だ何もしていない、か」 遥紀は言うが、透は即座に返した。 「可能性を議論するのは、あまり好ましくない」 透がエリューションという存在に疑念を抱くのは、他でもない、『害を為す可能性』があるから倒すというのが、受け入れきれない所にある。 「だが、フェーズ3、4までになったら? 何千、何万の被害が出るかも知れない」 「……正直言うとね、私は不特定多数を守りたいという高尚な考えはないんだよ」 「危害を加えたから、倒すってだけか?」 透は黙って頷く。 「俺たちが相手にする存在が孕む危険は、そんな陶酔で対処していい相手か?」 「分からないが、その時は私が死ねばいい。それが罪悪を取り逃がした私への罰となる」 「あんまり軽々しく死ぬって言葉を使うんじゃねえよ」 釘を刺すように、ランディが言葉を挟む。 「仮に、だよ。私は罪悪が罰せられないことに、納得のいかないだけだからな。罪悪でないことに、罰が当たられることも同様にね」 「俺はこの不条理って奴を根本から失くす為に戦う。じゃねぇと世界の為にって殺された命が無駄になる。 お前はお前の思うようにすればいい。ただ、お前の今までを無かったことにはできねぇ。 どんな形でも、お前に救われた連中もいるんだろ? どんなジレンマの中にあってもその事実は揺らがない筈だ」 透は視線を落とす。彼は自らの行動を救うためと位置づけてやってきたわけではない。殊更にネガティブで、ポジティブの方面に気が向くことは、少なかった。 見かねた和人が言葉を投げる。 「頭ん中の基準にえらく自信があるみてーだが、もっと頭柔らかくしてかねぇとこれから何処行ったってやってけねーぜ。どんな社会や組織にも『ルール』はあっからな」 「これでも随分と柔らかくなった方なんだがね」 苦笑しつつ、透は言った。 「心に留めておこう」 「それに貴方の罪悪感は自分が傷つくことから逃げる方便にしか見えません」 透に向け、彩花がゆっくりと言った。 「エリューションを葬る罪悪を理解したつもりで、世界を蝕む罪悪とで矛盾している。……もっとも、だからこその悩みなのでしょうけどね」 「私も『いるだけで悪』なんて認められない。認めたくないよ……」 彩花に続いて、アリステアも言葉を紡ぐ。 「いいこといっぱいすれば、フェイトが芽生えたらいいのに。そんなことができたらいいなって思うよ」 でもそれは今は叶わぬことだ。誰も彼もそれが分かっているからこそ、罪悪感に苦しむことになる。 「でも実際には無理だから……私は。この世界にいる、私の大切な人たちのために、戦うことにしたの。戦って戦って、いつかフェイトがなくなっちゃったら、迷惑をかけないように、誰かに倒されたい。怖いけど、それが。フェイトを貰った私のけじめなんだ。因果応報、っていうか。沢山の命を傷つけた報いはいつか返ってくる。 そう思ってるんだ…。あなたは、どう運命に向き合うの?」 「私は……」 彼はそこまで言って、口を噤む。すぐに結論が出ることではない。それは自分自身が最もよく、知っていた。 「……向き合い方でも、考えてみようかね」 「一つだけ、言っておこうか」 鉅は血の味の滲む口からタバコの煙を吐き出して、呟くように言った。 「お前達、人生で今まで一度たりとて、『被害が出るのが確実視できるのに実際の被害が出るまで動かなかった者』に憤った事はないのか? あるのなら自分がそれと同じになり下がりかけている事の意味を考えるんだな」 「程度によるがね。──まあ一考には値するだろう。忠告、どうも」 そうして透と彼の仲間は踵を返す。去り際、生佐目は彼らに向け告げた。 「知っているか。ビスケットとクッキーは、定義の差でしかない……護ると意志する事は、変わらないのだろう、貴方も、私たちも」 透は静かに微笑みを投げかけ、去った。やがてリベリスタたちも戦場を後にした。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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