● 橙の光に照らされて、ジャック・オ・ランタンの形したそのお屋敷は摩訶不思議。 高い高いドーム状の屋根に向けて何本も螺旋階段が伸びている。 大広間にはオレンジにレモネード、グレープ、アップル、宝石みたいに色んなジュースがきらきら光っているし、檻のように高い柵に掴まって煮てない南瓜の硬さの螺旋階段を登ったなら、幾つも扉があるのが見えるだろう。 その扉は何でできている? 深い色したチョコレート、甘い香りのビスケット、それともふわふわマシュマロを巻いたもの? ジェリービーンズを一杯に敷き詰めた薄いキャンディの板かも知れない。 もしくは扉は全く普通、開いた先におもちゃ箱? マホガニー色した大きなそれを開けば、青い煙とお化けが笑って消えていく。 ほら、底には何があった? 金貨の色したチョコレート! 台所で煮詰まっている赤いそれはなんだろう、赤ワインと蕩けた林檎のコンポート。 戸棚を開けばジャック・オ・ランタンが赤く目を光らせて低く笑い、南瓜の皮で顔を描いたパンプキンパイも並んでる。 砂糖の骸骨を紅茶に溶かしたら、大きく口を開けて笑うドーナツと一緒にお茶にしよう! ほら、黒い布で遮られたその部屋の奥にいるのはきっと怖い怖い吸血鬼。 勇気を出して棺桶の前で魔法の言葉、"Trick or Treat!"を唱えたならば、綿菓子の蜘蛛の巣とグミの蛇が降ってくる! 大きなジャック・オ・ランタンの口が開いて中に入れるのは、一年にたった一度だけ。 ハロウィンの夜だけ。 だからおいでよ、見つけたならば。 たった一夜の、楽しい悪夢! ● 「Trick or Treat! あはは、もうそんな年でもないですけどね。まあ楽しめる時は楽しむ性分なので。皆さんのお口の恋人断頭台ギロチンです。さて、それではハロウィンで遊びに行きましょう!」 頭に作り物の角を付け、包帯を巻いた『スピーカー内臓』断頭台・ギロチン(nBNE000215)は笑って名刺サイズのカードを出した。 真っ黒なそこに描かれたのは、地図。 「ジャック・オ・ランタンってご存知ですよね。あのハロウィン時期に出てくる顔の付いた南瓜です。で、あれのアーティファクトが存在するんですよ。ハロウィンの夜にだけ、自分の中に人を取り込むんです」 ああ、でも害はありません。そう言ってギロチンは首を振る。 「神秘に属する者以外はこの南瓜の姿を見られず、ある程度『安定した』存在――つまりフェイトを得た存在しか招かない」 海を越えた地で、子供を愛し『魔女』と呼ばれた老齢の革醒者が作り出した巨大なおもちゃ箱。 彼女が死した後は、知人を伝い年ごとに世界各地を回っているのだという。 今年、彼女の思いが訪れたのはこの三高平。 「中は広い広い空間です。多分大人でも、一晩じゃ回りきれないと思いますよ」 たくさんの仕掛けがある小部屋に隠し扉、小さな穴や隙間を抜けて、階段を登って梯子を上がり、誰も知らない場所を見付けよう。見付からなくったって、お化けもお菓子も事欠かない。 南瓜の目に当たる部分である、大きな窓と出会えた君は幸運だ。 今まで南瓜が見てきた数々の町のハロウィンの夜が、重なってそこに映し出されて光っているのだから。 「この中での禁止事項は大きく二つ。『他人を傷つけない事』『わざと物を壊さない事』です。違反者は追い出されてしまいますから注意して下さいね」 折角の祭りの夜。 謂れが何だとしたって、子供が楽しく過ごせる為に、大人が子供のように目を輝かせて回れるように、亡き老女が作り出した魔法の世界。 だから目一杯楽しめばいい、と、ヴァンパイアの青年は犬歯を覗かせて笑った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:黒歌鳥 | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年11月11日(日)23:47 |
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■メイン参加者 16人■ | |||||
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● 鷲鼻に細い目、くるりと巻いた髪は銀。 真っ黒なローブではなく手作りのパッチワークスカートをはき、黒くて大きいCauldronではなく、鮮やかな赤のホーロー鍋でジャムを作るのが好きだった。 そんな彼女が作り出した、一世一代の代物。おもちゃ箱でびっくり箱。 持てる技術の全てを費やし、愛情を込めて作り上げたそれは数多の偶然を潜り抜け、彼女本人だって二度とは作れない素敵な物へと変貌した。 だから、それが開くのは一年に一度だけ。 後はずうっと、この日の為に眠って力を蓄えている。 それがハロウィンの日なのはそう、だって彼女が魔女だったから! 「うっひょー! ジャック・オ・ランタンの中に入れるアーティファクトなんて夢の様だなぁ」 はしゃぐツァインの様子は、正に彼女が微笑むものだっただろう。 鎧を着こんでデュラハンの仮装をした彼は、お菓子探しよりも訪れた人を驚かすのに心を傾けた。 キャンディの刺さった柱の物陰に潜んで、笑い声が響いた瞬間に顔を出す。 「わ」 上半身を逸らしたのは、誘い主のギロチン。中身が分からず瞬くフォーチュナに、ツァインは兜を外して笑いかける。 「俺だよ俺、へへ、おっどろいたー?」 「ああ、ツァインさん。トリックオアトリート?」 「よーしハッピーハロウィーン! しかし、ギロちんはなんの仮装してんのさ?」 槍の先に菓子の入った袋を付けて差し出しながら、ツァインは首を傾げた。角に包帯。鬼にしては包帯が邪魔だ。ミイラ男ならば角は何だ。実際の所それっぽくしただけで特に意味はないのだが、考えたツァインははっと指差す。 「まさか月ヶ瀬さんか! あの包帯は角隠しだったのか!」 「あれ、夜倉さんには角な……え、あれ、ないですよね?」 ないです。 淡い橙の壁は、本当の南瓜を繰り抜いたかのよう。 巨大な南瓜なのか、それとも自分達が小さくなって迷い込んだのか、下手したら分からなくなってしまいそうだった。 壁に灯るキャンドルは、ゆらゆら揺れる偽物の火。 時折不規則に揺れては、壁に『何か』の大きな姿を描き出す。 「『魔女』か」 何処か温かみのある橙の壁に指を沿わせながら、クルトは故郷を思い返した。魔女達が酒宴を催すというブロッケン山を抱える彼の故国で、聞いたような、果たしてそれは彼女だったのか。 ある意味では無名の『魔女』という存在へ己を変えた彼女は、果たして何を思ってこのアーティファクトを作ったのか。 クルトには推察しか出来ないが、それでも今宵は楽しませて貰おう。 被った帽子のつばをちょいと下げ、マントを翻し竈の後ろに隠れていた扉を開けば下への階段が現れる。 「おもちゃ箱なら、箱の底には取っておきがあるんじゃないかな」 怪盗は、一番のお宝を探すものだから。 仮装になぞらえて呟くクルトは、下へ下へ。 そんな彼とは対照的に、螺旋階段上がる影。 「こういうのってなんだかワクワクするよな」 「はい!! すごくわくわくですっ! 高いところ行きましょう!」 真っ白なコートを纏ったモノマの手を取って、黒のコルセットドレスの壱也は階段を駆ける。 甘い香りのする薔薇は、薄く延ばした飴の花弁。ぺきりと剥いで舌先に。 「はい、先輩」 「ん。お、イチゴ」 モノマも差し出されたそれを口にして、どことなく怪しげな行き止まりを叩いて探ってみる。 指先が押したまあるいボタン、頭上が開いて落ちてきたのは白い大きな『何か』。 二人の頭に当たって、伸ばした掌に着地したそれはマシュマロお化け。 同時にきゃらきゃらと子供が笑うような声が聞こえてきたが――頭上を仰いだモノマはひょいと壱也を抱き上げる。 「う、うあう!?」 「こっから直接上に行けねぇかな。あ、壱也、幽霊っぽい不思議ボイスしてるけど大丈夫か?」 「楽しくて、あ、あんまり聞こえてなかったですけど……!」 壁を駆け上がる彼をぎゅっと掴んで、二人揃って上へ上へ。 「一夜限りのハロウィンハウスとか超楽しそう!」 ベットの下の扉を見つけ、抜けた終は隠された書斎の本棚を探った。 ころりと零れてきた丸いチョコを食べれば、中は弾けるキャンディ入り。きゅうっと目を瞑って机の上のアップルソーダで流し込む。 「生き返る~☆」 爽やかな風味に笑って再度、探索開始。子供好きの魔女ならば、きっと子供が思わず触りそうな場所に仕掛けを隠しているに違いない。 本棚に並んだ本の奥にレバーはない? 引き出しの後ろに隠されたスイッチは? 「お化けさんお化けさん、ヒントないかな~??」 先程から時々聞こえる笑い声。問いかけてみれば、戸棚の一つがガタガタ鳴った。 「あ、見~つけた☆」 扉を開けば、奥に穴。先には秘密の廊下が続いている。この先はどれくらいあるのだろう。誰も行った事のない部屋はあるだろうか。ああ、もう一夜では回りきれないなんてずるいじゃないか。 「まあ、完全攻略不可能なほうが、ハロウィンの夜には相応しいのかもね☆」 だから今は、精一杯楽しんで。終は戸棚の更に奥へ。 ● 賑やかに広間を過ぎるのは、お菓子を探す仲間達。 「いっぱいさがすの~っ!」 「勝手に行っちゃいけません」 今にも駆け出さんとするミーノを、リュミエールの尻尾が留める。 「やー、みんなで手分けして探したら、お菓子も沢山ゲットできっかな!」 「そうですね、はろうぃんはろうぃん♪ お友達と一緒ですからね!」 頷いて仮装の兎耳を揺らすモヨタに、頬に手を当てて『ぼっちじゃない』と感動を噛み締める舞姫。 「……けど、舞姫知ってる。グループの中でのぼっちが一番の孤独」 「そんな事ありません、皆で一緒でございます! LOVE!」 人差し指と親指合わせ、半分ずつのハートマーク。笑った愛音は、式符を使って己を+1。 「量産型愛音! 出番でございます!」 「おお、これで更に沢山探せるな」 「キラキラを沢山集めるのが今日の愛音の望みでございますよ!」 目を細めたフツに、愛音は大きく頷いた。 「お菓子を見つけたらちゃんと愛音に……ダメ! 食べちゃダメ!」 影人を制止する愛音の様子を見るに、前途は微妙に多難である。 瞳を和らげて見るのはエレオノーラ。外見は他のメンバーと大差ないが、実年齢から考えると孫レベル。魔女の如き深い愛情は持たないとしても、その賑やかさが、僅か眩くて愛おしい。 「あんまり走り回って、転ばないようにね」 「だいじょうぶなのっ、ミーノにはこんかいひみつへーきがあるのっ」 ぐっと握った拳を挙げたミーノは、スタンバイしていた亘の肩へ。 「はっしん! わたるロボっ!」 「ラジャー、天風号発進!」 「あ、コラだから勝手に行くと危ネーっての」 肩車して上階に飛び上がった亘とミーノを、リュミエールが自前の速度で追いかける。 そんな様子を笑いながら見上げ、彼らも扉を各々扉を開いた。 「よーし、まずは……ってうお、落とし穴!? なんかちっちゃいお化けがわらわら出て来た!」 思わず閉じかけたのを押さえ、モヨタはお化けの群が消えるまでしげしげと眺める。ぽっかり開いた穴は真っ暗、けれど何か、光ったような。 部屋の片隅にあったカボチャ型のランプで照らせば、底に眠っていたのは茶色の木箱。 開いたそこで、魔女が笑っていた。 「おお!? コウモリとネズミもいる。すげー!」 魔女の帽子の先をちょっと齧ってみれば、甘いマジパンの風味。黒いコウモリはチョコレート製。デフォルメされた可愛いネズミは蕩けるミルク味キャンディ。 「あら、モヨタちゃんいいもの見つけたわね」 エレオノーラが腕に抱いたのは、陶器製の南瓜の置物。 入っていたのは一口サイズのパンプキンパイ。散らしたパンプキンシードがアクセントのそれを口に運べば、自然の甘さが広がった。 「一番素敵なお菓子を見つけた子が一等賞ですよ!」 舞姫が手にしたチーズケーキは、南瓜のクリームが混ぜられて、赤と緑のドレンチェリーの目が覗くハロウィン仕様。薄く塗られた飴で橙の光に煌くそれは、まるで宝石箱のよう。 「宝物を探すのでございますね!」 愛音が手にしたクッキーは、金貨のように真ん丸。バターの香りがするそれは、噛めばさくりとした食感。潜んだチョコレートが、口の中で溶ける。 「怪しい場所は全部探しましょうね。遊び尽くしましょう!」 「もちろんなの~、わたるロボおやつっ!」 「ラジャー!」 ミーノに請われ、亘は手にしたジェリービーンズをその手に渡す。口に入れたのは何の味? ブラウンはチョコレート、それともコーヒー、もしやキャラメル? 「遊び尽くすか、マーいいけどなー」 絵の額縁はビスケット。剥がしたそれを一枚ミーノに渡し、リュミエールもぱきりと食べた。 気のない返事と変わらない顔だが、別につまらない訳ではない。ミーノと亘の傍らで、リュミエールも南瓜の中を駆ける。 「待て、ミーノ! 見つけたお菓子を、最初から食べまくるのは良くない。ここが迷路だとすれば、奥に行けば行くほど、豪華なお菓子が待っているはずだ……!」 真剣に語るフツだが、言っている事はお菓子である。目先の事に惑わされずもっと大きなものを求めよ、と言い換えれば徳が高くなる気もするが、そもそも彼だって忘れがちだが十七歳の男子高生なのだから別に高くなくても構わなかった。 「む、それはいちりあるの……!」 「ウム。残念だが、このお菓子は置いて先にすす……」 一歩踏み出したフツの足元で、何かがかちり。同時に小さく足元が揺れる。 音の出所を探るように見上げてみれば、何かが転がってきていた。 「ナンダあれ。岩?」 「いや、違う、アレは……カボチャ型のアメだ!」 ごろごろごろ。半透明の南瓜は、螺旋階段と廊下を下り、一直線に皆の方へ。 「チクショウ! あんなものに追いつかれたらアメだけでお腹いっぱいになっちまう!」 「えっ、うまいもんまだ一杯あるのに!」 「よし、皆、ここはオレに任せて先に行け! このアメは……オレがここで、『食い』止める!」 「あ、ちょっとフツちゃん」 クッキー片手に出て来たモヨタに頷いて、エレオノーラの制止も聞かず。 フツは振り返らず親指を上げて、転がる飴へと走り出す。 「伝説のお菓子は……お前たちに、任せたぜ」 気がついたら壮大な話になっていた。 ● 手を繋いで回る夏栖斗とこじりは、階段上り秘密の小部屋。 少し冷たいこじりの指先が、夏栖斗のそれと絡んだ。 戸棚を開いた先のパイは、シナモンを利かせた林檎入り。夏栖斗が一口食べてみれば、程好く苦いカラメルが、林檎の風味を引き立てた。 「はい、これ、美味しいよ」 掌よりも小さく作られたそれをこじりに差し出すも、彼女は瞬いて見返すだけ。 「あれ? ダイエット中?」 「? 私、そんなに太って見えるかしら」 「え。いや、全然。むしろもう少し太ってもいいくらい」 「……それは、何処の部分を見て言っているのかしら?」 いや何処って訳でもなくて、と続けようとしたのを制するように、夏栖斗が持ったアップルパイ――彼が齧ったほうを、こじりは一口。 全く甘くない訳ではないが、それでもチョコレートやキャンディとは違い、食べられる甘さ。 女の子は甘いものが好き、なんて言うけれど。そうじゃない事をちゃんと理解してくれているのは、やはり嬉しい事だ。 「まあまあね」 「そう? 同じやつなのに?」 「同じじゃないわよ」 「そういうもんなの?」 「そういうものなの」 首を捻る夏栖斗に、こじりは重ねる。 パイは全く同じもの。それでも違う。違うけれど、それは同じ事。分け合って、二人で一緒に食べるから、それは違う特別になる。分かってる癖に、と軽く額を突いたこじりに、夏栖斗は笑った。 「じゃあ、もっと美味しいの見つけよっか、二人で」 「ま、付き合ってあげるわ」 もう一度、手を繋ぐ。 嬉しくて緩んだ顔を少し隠す様に斜め前を向いて。力強く握られた手が心地良いのを隠す様に何気なく斜め上を向いて。 橙の廊下を並んで歩く二人の影の後ろで、お化けの影が笑っていた。 壁を駆け上がり、階段を上り、煙突の様な細い隙間を二人で抜けて、辿り着いた先に広がるのは見知らぬ景色。 橙色に灯る灯りが、町々を照らしている 「わー、やりましたね! 結構登ってきた甲斐がありました!」 辿り着いてようやく一息ついたモノマの膝に、壱也が笑って収まった。 「そういえばまだ壱也に言ってなかったな、トリックorトリート!」 「えっへん、ちゃんと作ってきましたよ、トリート!」 トートバックから取り出したのは、ここで手に入れたお菓子ではなく壱也の手作り。 「おー! 作ってきてたのか、うまそうだな」 「たくさん食べてくださいね!」 「勿論。残さず食べるんだぜ」 頷いたモノマに、笑って壱也は囁いた。ハッピーハロウィン! 他の部屋は灯ったキャンドルで明るかったが、ここだけは窓の光に頼るが故に少し暗い。 「あ、やりましたね、ぼくこういうのはだけは運がいいんですよ」 「それは何より、ちょっと落ち着いて飲める所がいいからね」 幾度目かの扉を開き、二人とは違う側の『目』である窓に辿り着いたギロチンと快は笑う。 「ワインの新酒と言えばヌーボーだけど、それより二週間程早く解禁になるワインがあってね。イタリアワインの新酒ノヴェッロって言うんだけど、付き合わない?」 「喜んで!」 そんなやり取り一つ経て、窓に辿り着いた二人が開くのは本当の子供には内緒の『お茶会』。 お茶菓子のビターチョコレート。机の上に転がして、窓から零れる灯りを見やる。 顔を白く塗った子供が、ジャック・オ・ランタンを片手に道の向こうへ駆けて行く光景を見ながら、快がぽつりと呟いた。 「――嘘にする、って……難しいね」 窓の向こうに広がるのは、紛れもなく『日常』の一部。彼が守りたい誰かの夢。 例えばこれを壊そうとする者がいるならば、快は武器を手に取り抗うのだろう。 けれど、それでも、届かないものは多過ぎる。全てを守りたいと願っても、現実は余りに鋭く彼の掌を傷付け、その血に塗れた命を未来を闇へと落とす。 理想そのものが破綻したものであると、いつか諦めてしまうのか。 「俺はね……助けられない事が怖いんじゃなくて。助けようとしなくなることが、怖いんだ」 それは即ち、彼が彼でなくなる事だから。 「……ね、新田さん。アークに来るまで、ぼくずっと諦めてました。どうせ変えられないんだって」 自分は映像として見るだけだから、目前で喪う事のどれだけを理解できるかは分からないけれど、と付け加え。 「例えどれだけ取り零したとしても。嘘にしようとしてくれた。変えようとしてくれた。それだけで助けられてるぼくみたいなのもいるって事、少しだけ、覚えててくれれば幸いです」 彼の手が伸ばされたその瞬間に、既に自分はすくわれているのだと。 笑って、フォーチュナはそっとグラスを合わせた。 ● 楽しい一夜に、広がるお茶の香り。 入り口に刻まれていた吸血鬼の顔に負けずに扉を開けば、そこは大きなテーブルの部屋。 「フツ様の勇姿、この愛音しっかりと記憶したのでございます!」 「や、まさか食い止めた途端に小さい飴に弾けるとは予想外だったな」 ジャック・オ・ランタン型の籠にみっしりと飴を詰めたフツが、テーブルをセッティングする愛音に笑い掛けた。 「もう、無理しないのよ」 言いながらポットの蓋を開けたエレオノーラが途端に飛び出した湯気のお化けにぱちりと目を瞬かせる。 「うう、ちょっと痛かったけど沢山回りましたね」 「しかし千切れなくて残念だナー」 ぴょんと飛びでた髪の根元を擦る亘に、全力でそれを引っ張った元凶のリュミエールが頷いた。 机に広がるチョコレート、マシュマロキャンディ、パイにクッキー、ケーキにビスケット! 席に着いたならば、皆で揃って夜のお茶会を始めよう。 「ふふーん、一番素敵なお菓子を見つけたのは、わたしですね」 「愛音もキラキラが沢山見つかったのでございますよ」 「え、なんかすげーもの見つけたのか?」 胸を張った舞姫に、愛音が紅茶を片手に笑い返せば、モヨタが一つ首を捻る。 示すところが同じだと悟った二人が、顔を見合わせて。 「皆と食べるお菓子が」 「一緒に過ごすこの時間が」 「「いっちばん素敵」でございます!」 カップを合わせて、皆と一緒に笑うミーノが、ふと、いつの間にか開いていた廊下の先を見た。 そこにいたのは、見知らぬ人。 パッチワークのスカートをはいた魔女。 ミーノが瞬く間に消えてしまったその人は、きっとアーティファクトが持つ記憶の欠片、お化けと同じ幻影に過ぎないのだろうけれど。 それでも彼女は、嬉しそうに笑っていた。 ――Happy Halloween,my dear Trick-or-Treaters! |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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