●エアークレイドル 甲 飛行機は鳥を真似て生まれた。 ならば、飛行船は魚を真似て生まれたといえよう。大空を泳ぐその優雅さは語るべくもない。 青天の下、街の上を遊覧するのは白い一隻の硬式飛行船その名も「ゆりかごめ」である。 この青空の白鯨はやがて暴走をはじめる。 エリューション・ゴーレム:フェーズ2『エアークレイドル』として。 ●作戦名は募集中です? ブリーフィーリングルーム。 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は資料に目を通しつつ、眼鏡をクイと調整する。 「本作戦は、遊覧硬式飛行船『ゆりかごめ』乗客の救出ならびに標的『エアークレイドル』の撃滅を目的とします」 爛々とやけに眼鏡が輝いてみえるのは、気のせいだろうか。 「標的は関東某都市圏の市街上空にて『ゆりかごめ』運行中に突如として活性化、低空を制御不能のまま巡航をはじめます。『ゆりかごめ』の移動速度はヘリやジェット機に比べて格段に遅いですが、それでも自動車並みの時速を出せます。 ゴンドラ部には搭乗員3名、乗客5名の計8名が閉じ込められています。内部から一切の操作を受け付けず、脱出機構なども正常動作しない上、全員がヘリウムガスによる酸欠で事件発生直後に昏睡しています。ヘリウムガスは安全性が高く不燃性で有毒ではありませんが、大気中の酸素濃度が低下すれば酸欠を招き、死に繋がりかねません。 乗員の空きは四枠です。 最大四名まで『ゆりかごめ』内に事前に潜入させることができます。それ以上の人員を配すると運命が変動しかねないための措置です。 残りの人員は、アークの所有する輸送ヘリに乗り込んでください。ヘリは安全確保のため、遠距離攻撃の有効射程まで接近することができません。 『エアークレイドル』は巨大ですが、原型は飛行船につき見た目よりずっと軽量で脆くもあります。なお硬式は軟式と違い、骨組みがあります。エリューション化に伴い、一定の耐久力はあるとみてよいでしょう。 また標的の撃滅に際して、破壊した船体は地上へ自由落下することになります。「ゆりかごめ」の遊覧ルートなどから計算した結果、大半が都市上空を飛行している為、一時的に海の上を通過する数分間のみ、被害を最小限にして『ゆりかごめ』船体を不時着させることができます。ルートの強制変更か、早期の撃墜が求められます。 以上をまとめた結果、本作戦において諸氏は『乗客の救出』『標的の撃滅』『ゆりかごめの着水』の三点をクリアーする必要があります。 困難な条件ですが、幸いにしてエアークレイドルは戦闘向きではありません。乗客の無事と落下地点の確保さえできれば、みなさんならば速やかな撃滅が可能でしょう。 ただし、外部に二体、ゴンドラ部に一体のエリューション・エレメント:フェーズ1『ヘリウムハウンド』が徘徊しており、エアークレイドルの実質的な防御機構を担っています。 以上です」 いつになく入念な作戦概要だ。 ミリタリーオタク疑惑のあるフォーチュナー天原和泉が張りきっているのは、このせいか。 きっと軍用ヘリコプターの出番というところが夢をときめかせるのだろう。 「本作戦は『空中・救出戦』です。 とても特殊なケースにつき、リベリスタ諸氏にも相応の準備と対策が求められます」 ビシッと起立し、天原和泉は晴れ晴れと敬礼するのであった。 「それでは、作戦の成功を祈ります!』 「ところで作戦名は?」 「作戦名は……募集中、です?」 ●エアークレイドル 乙 「わぁ……」 窓辺にはりつき、少女は感嘆のあまりに言葉を失った。 離陸する飛行船「ゆりかごめ」。 ほんのすこしずつ、ゆっくりと船は天高くへと昇っていく。 いつも暮らしている街が、ちいさく、ちいさくなっていく。 「お父さん! ありがとうっ!」 「良いんだよ、パパもね、つばめに見せてあげたかったんだ」 幼い少女――雲井つばめは父の膝にしがみつき、それから不思議そうに見上げた。 「つばめがよろこぶから?」 「そうだね。それもあるけど、パパはここでママに告白したんだよ」 つばめはコロコロと鈴の鳴るように笑う。 「やだー、のろけてるー」 どこにでもある光景を、どこにでもはない特別な場所でふたりは繰り広げている。 優雅な大空の散歩はまだはじまったばかり。 やがて海が遠くに見えてきた。港湾に面する、おだやかで広々とした海だ。 すぅっと意識が薄れてゆく。 ゴンドラ部にはヘリウムガスが充満し、重度の酸欠状態に陥りつつあった。 操縦席では機長らがなにか必死に言葉をかわしていたが、それもやがてぱたりと潰えた。 少女はしずかにまどろみへ誘われる。 ここは空のゆりかご。 砂が滑り落ちるように速い睡魔に、怖いと思うことさえ、ほんのちょっとしかできなかった。 そして二度と目覚めることはない。 その運命を変えるべく、リベリスタは天を仰ぐ――。 いざやソラへ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:コント | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年11月14日(水)23:37 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●16% ――関東 某都市圏 市街上空―― 「ひと、さん、ご、まる。皆さん、いよいよ10分後です!」 『運命オペレーター』天原 和泉(nBNE000024)は、資料片手に輸送ヘリの広い空間を往復する。 「今回、ご要望の通りに予備を含めて十分な数量のパラシュートと命綱、それに氷河女史のご指示通りに医療キット一式を用意させていただきました」 『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330)は備品のチェック作業を中断し、白衣を翻して振り返った。 「ええ、備えあれば憂いなしです。」 凛子のAFを介して、この会話は“別働隊”にも各自、聴こえている。 紛争地を渡り歩く軍医であった氷河 凛子の医学的見地に裏付けられた言動は、とても力強い。 「みなさんはドリンカーの生存曲線という医学用語をご存知でしょうか? 呼吸停止の経過時間に応じた生存確率のおおよそな目安です。蘇生開始が3分以内であれば生存率は75%、しかし5分以上では25%まで低下します。8分を過ぎれば、まず生存は見込めません。 要救助者は重度の酸素欠乏症に陥ることが想定されます。ヘンダーソンの分類によれば、大気中の酸素濃度が10%を切った場合、常人は意識不明に陥りチアノーゼを発症、更に8%に至ると昏睡状態に陥ります。6%以下の空気は一呼吸でも死に直結します。ましてや、酸素濃度0%の純粋なヘリウムガスを吸引したとしたら――。 即死もありえる、そう心得てください」 重い。ひたすらに重い。 凛子の言に、誰しもが息を呑んだことだろう。 凛子は手短に医学的メカニズムを説明する。要約すると、酸素濃度0%の気体を吸引するということは16%の血中酸素を奪われることになる。血中酸素は脳の働きに直結する。脳が死ねば、人は死ぬ。革醒者に比べて、常人というのは脆過ぎるのだ。 「潜入班の皆さんへ。事前にお伝えした通りです。必ず、乗客の昏睡だけは避けてください。昏睡すれば自発的な呼吸も危うくなるのです。自覚症状が現れるのは16%、敵の姿が見えなくても乗客にめまいや吐き気の症状が現れたら即座に対応してください。なぜならば――」 氷河 凛子は最後にこう締めくくる。 「医者に死人は治せないのですから」 ●オペレーション:モビーディック・ハーメルン 『紅炎の瞳』飛鳥 零児(BNE003014)は赤髪を乱暴に掻き毟った。 機械の右腕で、だ。 AFを介して凛子の言動に耳を傾けていた零児は、やり場のない感情に無意識につい本来の利き手を動かしてしまった。日常には不適合な鉄の右腕だ。こめかみを一筋の血が伝った。 「わぁ! 海だよ、パパ!」 「そうだね、もうこんなところまで来たんだね」 雲井つばめと父親ら一般客は、都市上空の眺めを堪能しているようだ。 「ちょ、お前ねぇ……」 『デンジャラス・ラビット』ヘキサ・ティリテス(BNE003891)は青ざめた表情だ。 「おわかり? オレら、一般客なわけよ」 「活を入れてたんだよ」 「はぁ、左様で」 ヘキサは白兎の耳をかっぽじりつつ、内装を見渡して溜め息をつく。 「どうした」 「このゴンドラ、どんだけ原型を留めてくれるかなぁと」 「残してどうする?」 「思い出は大切だと思うわけだよ、わかる?」 「わからん」 零児の瞳の奥底に、ちいさな焔が揺らめいてみえる。 「俺はこの手でヤツを跡形もなく破壊するまでだ。思い出は、また新しく作ればいい」 「……ま、生きてたらね」 ぴくんっ。 その時、ヘキサの耳が踊るように跳ねた。にやりと不敵に頬が釣りあがる。 「さぁて開始だぜ、オペレーション・ハーメルンの!」 「モビー・ディックだろ?」 「あ?」 正式作戦名「モビーディック・ハーメルン」。 その命名を巡り、両者の間にいかなる攻防があったかは各自の想像に委ねばなるまい――。 轟と船体がぐらつく。 『ライトニング・フェミニーヌ』大御堂 彩花(BNE000609)は誰よりも早くに動いた。 極めて優れた平衡感覚を発揮することでふらつきを抑え、流水の型を構えて臨戦体勢に入る。 酸素濃度15%――。 一般客は大きな揺れにどよめき立った数秒後、次々にめまいや吐き気を訴えてその場に崩れ落ちていった。いよいよ敵襲だ。 「駄犬! わたくしの前に現れ出でなさいっ!」 そう叫んだはいいが、左右を見廻しても敵――ヘリウム(He)ハウンドの姿を発見できない。 敵は気体を操作する、ヘリウムガスのEエレメント。その上、ヘリウムは無臭だ。姿を隠しているのか。あるいは見えない敵なのか。彩花は落ち着いて、敵の所在を見極めようとする。 「彩花さん、足下ですっ!」 『』小鳥遊・茉莉(BNE002647)の一声と共に、彩花は凍てつく拳を振りぬいた。 床をぶちぬく。 破片が舞う。その破片さえ、魔氷拳の神秘によって凍てつき砕け散る。 ――命中した! しかし。 『グルルルァァァッ!』 獰猛に飛びかかるHeハウンド。 彩花の片腕に喰らいつく。彩花の悲鳴が船内に響く。 酸素濃度13%――。 Eエレメント、Heハウンド。 半透明の白犬は、首輪は四肢と頭部のみ色合いが濃く、実体度が高い。 「そんな、なんで無傷なのっ!」 その違和感の正体を、すぐさまに茉莉は見抜いていた。その持ち前の、超直観によって。 「ダメです、魔氷拳じゃダメなんです!」 「どうして!」 「ヘリウムは絶対零度でも凍らないんですっ!」 「えぇっ!?」 噛みつかれたまま振り解けず、彩花はハウンドに必死で抵抗する。 少量の血が飛散した。 深々と牙を突き立てられているのだ。激痛に耐えつつ、彩花は反撃の機会を伺う。 酸素濃度11%――。 大気を操る神秘による働きか。加速度的に、空間内の酸素濃度が失われていきつつある。 ここに至って彩花は息苦しさを覚える。リベリスタさえ苦しいのだ。一般人にとって、これ以上は生死に関わる。 彩花は悔しさに歯噛みする。 しかし、だ。事前の予測通り、Heハウンドは“重み”に乏しく軽い分だけ、パワーに欠ける。彩花は見かけこそ可憐な少女だが、内部の骨格や筋肉は機械的に強化されている。ゆえに噛み千切れないのだ。 「ふっ、その牙はお飾りなのかしら。見誤らないでくださる? わたくしを“やわ”な女だなんて」 不敵に、苦悶を笑みによって殺して彩花は挑発する。その稼いだ時間は無駄ではない。 茉莉は魔陣展開を行い、魔力を高めてチャンスを待つ。ヘキサもまた集中を重ね、ハウンドと彩花の離れる一瞬のスキを斬り伏せようと狙っていた。 何より、彩花へ攻撃が集中している間、一般人の安全は守られる。かえって好都合なくらいだ。ゆえに彩花は乙女の柔肌をも喜んで捧げることができた。 轟ッ! 飛鳥 零児の剣――剣と思わしき鉄塊が、激烈な闘気を以ってドア部をまるごと切り抜いた。 「解体する――!」 次々と零児の剣はゴンドラに風穴を空けていく。 酸素濃度10%、11%、12%、13%――。 流入する新鮮な風によって、たちまち酸素濃度は好転する。破壊という役目をひたすらに果たす零児の瞳は、今まさになぜ『紅炎の瞳』の称号を関するかを物語っていた。 「あ……」 彩花は突如、ぐらりと膝をついてしまった。ハウンドは咬みついた歯牙を介して無理やり血中酸素を削っていたのだ。しかし眩暈の正体が分かったからこそ、彩花は悪態をついて勝ち誇ることができた。 森羅行――。深く静かな深呼吸の後、再び彩花は力強く立ち上がる。 「残念ね、私の鋼のハートは犬ッコロには射止められないわっ!」 比喩ではない。彩花の心臓(ハート)は事実、彼女の熱い血潮を滞りなく巡らせ続けるのだった。 彩花を狙っても無駄と判断したハウンドは牙を抜き去り、次の標的を定めんと頭を振る。 「その表情、素敵でしたよ、彩花さん」 葬操曲・黒。 茉莉の心身より湧き出でた黒き血潮が、縛鎖の瀑布となってハウンドを呑み喰らわんとする。 射線軸上をギリギリ逸れた彩花の真横を、ドス黒い奔流がうなりをあげて暴走する。 「ナイスっ!」 「今です、ヘキサさんっ!」 「オーライッ!」 踵を叩き、シルヴァームーンの白刃を空に晒す。 葬操曲・黒を浴びてもがき苦しむハウンド目掛け、ヘキサは一直線に迫る。 「ウサギの牙に」 一蹴、銀月が白犬の喉元を抉る。音より素早いとでも言うのか。衝撃音さえ一拍遅い。 蹴りあげられたハウンドの身体が天上にて跳ね返り、地へ堕ちゆく。 「喰い千切られろォッ!!」 一蹴両断。 真っ二つとなって消滅する、番犬。 空に残るのは銀の三日月、その残影のみであった。 ●スカイハイ 果てなき青空にて。 『合縁奇縁』結城 竜一(BNE000210)は口笛を吹き鳴らして、ゆりかごめを見やった。 「ヒューッ! こいつぁーヘヴィなミッションになりそうだぜ! なあ、相棒!」 相棒――『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)。 まぶしい陽光が、彼の異名の由縁を際立たせている。 フツはにやりと良い笑顔で、答える。 「ああ、全くだ」 「なあに、お前が居りゃー安心さ。オレたちゃー最高のチームだぜ!」 意気投合するふたりをよそに、残るヘリ班の二名はマイペースだ。 氷河 凛子は事前の準備に余念がなく、オペ子ならぬ天原と最終チェックを行っている。 『chalybs』神城・涼(BNE001343)は素知らぬ振りをしつつ、漆黒の愛銃ブラックロアを磨いている。 「さて、ハリウッドデビューといこうか」 けたたましいローター音と共に、輸送ヘリは一気にその機動力を発揮する。 全員が然るべき装備を身につけ、翼の加護を得、展開された後部ハッチ上にてその瞬間を待ちわびる。 「よん、さん、ふた、ひと、まる! 今です!」 「イィィィィィヤッホーーーーーッ!」 竜一をはじめ、一斉に四人は大空へ身を投げた。 「ミッションスタート! 飛ぶぜ!飛び移るぜ!俺は鳥だ!鳥になるのだ!」 青空は果てしない。眼下には灰色の都市群と、ぽっかり空いた港湾の丸い海。 頬を、全身を、そして鼻腔を潮風がくすぐる。 『ヴォォォォォオオオオオ』 霧笛のようないななきをあげて、エアークレイドル(AC)は活性化をはじめた。 『ゆりかごめ』であった存在が瞬く間に変質し、巨大な白鯨へと変ずる。ゴンドラ部はコバンザメのようにくっついている。 徐々に、そして急速に、相対距離が縮まってゆくごとに、リベリスタ達はその巨大さを目の当たりにする。思わず息を呑まざるをえない。 着陸態勢に入ろうかという刹那、ついにACの迎撃がはじまった。 大気を操り、無数の風の刃を対空砲火として弾幕を張ってくる。 「おいおい、どーする相棒!」 「このまま突っ切るっきゃねえよ」 各自、武器を盾にしつつ翼の加護による機動力を活かして対空弾幕を潜りぬけんとする。 全員が大なり小なり被弾した。負傷は軽微だが、先手を奪われた形だ。 されとて着地には見事、成功せしめる。 こうなってはACの攻撃手段は皆無だ。すかさず、迎撃せんと防御機構である二匹のHeハウンドが現れ出でた。 涼はブラックロアのセーフティを解除しつつ、宣言する。 「オペレーション:ブラックフェザー第二フェーズ開始だ! キルゼムオール!」 ――作戦名が違ぇ! などと冗談に返してやれる余裕など、誰にもなかった。 四人の布陣は、エアークレイドルの前方から上面にかけてのゆるかな傾斜上だ。 最後列は作戦の要たる氷河 凛子である。凛子は全員へ翼の加護を掛け直し、サポートに徹する。 その凛子を守るべく、焦燥院 フツは中盤で睨みを利かせる。大きな隙を生まぬよう警戒しつつ、式符・鴉によって敵を牽制攻撃しようとする。 前衛は竜一と涼の飛車角だ。 竜一は正攻法とばかりに真っ向から挑み、デッドオアアライブを爆裂させる。一撃目では仕留め損なった。フツの式符・鴉が襲来する。それもまた紙一重でかわされる。 ハウンドは風の刃を繰り出して攻撃するも、竜一は的確に裁いてかすり傷程度に留めてみせた。 「相棒、次はずしたらふっさふさに植毛してやるからな?」 「おま……なんて恐ろしいことをいいやがる!」 軽口を叩き合えるのは余裕の証拠だ。凛子は頬をゆるめ、神城 涼の方を見やった。 瞬ッ。 電光石火の一撃だ。 涼は俊足によって背後を奪い、ハウンドの首を掻っ切ってみせた。ものの見事の瞬殺劇だ。 「ここは空のゆりかご――、闇の腕で眠れ」 竜一は賞賛の口笛を吹く。 「やるねぇ」 涼は武装を漆黒の拳銃ブラックロアへと切り替えると、銃身が焼きつかんまでに連射をはじめる。 骨組みを裂け、弱所を見極めてエアークレイドルを撃つ。撃つ。撃つ。 「鉛の睡眠薬を処方してやるぜ!」 エアークレイドルは大きく身を揺さぶる。軽く跳躍して振動をかわして、一方的に攻め立てる。こうなれば撃滅は時間の問題だ。 最後のHeハウンドが慌てて涼を排除しようと迫ってくる。つまり、隙だらけ。 「式符・鴉!」 「ハゲ・オア・モヒカン!」 連携は見事に決まる。挟み撃ち。Heハウンドは雷切(偽)に爆砕された。 「おい、まて技名」 「生か死か。つーよりお前の状況に最適な表現を選んだ」 そこへ、AF回線越しに連絡が入ってくる。 『飛鳥だ。そっちはどうだ?』 『こちら竜一、良いニュースと悪いニュースがある。良いニュースは、ハウンドを倒した。悪いニュースは、今から『ゆりかごめ』は落ち――』 『こちらはたった今、心臓部を破壊した』 ゴウンッ。 急に傾く船体。無事に湾内へ着水はできるだろうが、想定より早い。救出が間に合うか、そこがネックだ。 『ちょっと待て、つか心臓部なんてあったのか!』 『小鳥遊です。じつはゴンドラ上部から破壊を進め、心臓部に当たるであろう結晶体を見つけまして。港湾の安全地帯ど真ん中ストライクに着水させるには絶好のタイミングでしたので、迅速に破壊したところ、この通り』 凛子とフツはお互いにアイコンタクトをかわすと竜一らに先んじて、乗客の救出へ向かった。 『とにかくそっち行く! みんな決めるぞ、クライマックスだっ!』 『お父、さん?』 『お、おい、オッサン! しっかりしろ!』 『まずいぞ、すぐにヘリへ運ぶぞ!』 『いやぁ、いやぁぁっ! お父さん!』 ●作戦終了 着水と救助。タイムリミットの迫る中、八名の革醒者達は全力を尽した。 功を奏したのは凛子の判断だ。つまり、昏睡させずに乗客の意識を保たせていたことだ。 酸欠の症状も重度に至らなかったため、凛子の聖神の息吹によって約一名を除く全員が一定まで回復した。機長ら搭乗員はプロだ。その先導によって全員が一致団結して脱出にあたることができた。 輸送ヘリへの移送は、翼の加護を得たリベリスタ達の手によって迅速になされた。命綱となるロープを活用しつつ、ひとりひとりを背負って移動する。 「大丈夫です。下を見ないでしっかりと掴まってください」 しかし着水までの残り時間は刻一刻と迫る。 「我々の脱出は最後でかまいません、早く乗客を安全なところへ」 安全のため、輸送ヘリは雲井親子を最後にして機長と副機長の二名を残して離れてしまう。 ゆるやかに、高度が落ちていく。限界だ。 船内に残ったのは彩花とフツだ。 「そんじゃ……」 「参ります!」 緊急ダイブは敢行される。 落下制御と簡易飛行。二人はあえてパラシュートを展開せずに飛び降りた――。 報告書に以下の記載がある。 小型船に救助された際、彩花はズブ濡れのスケスケになっていた、と。 「お父さん! 目を覚まして!」 輸送ヘリの中、雲居つばめは涙ぐんで必死に呼びかけていた。 寝台の上では今まさに雲居父の蘇生が行われていた。酸欠が引き金となって他の持病が併発、心肺が停止しているのだ。バックバルブを介して酸素ボンベにより換気を繰り返しつつ、白衣の凛子はAEDを使用する。 そうした医療行為に重ねつつ、凛子は神秘による回復も計った。やれるだけのことをやるのだ。 「お父さん、絶対に助かるよね! 先生!」 「死ぬときは死ぬんだよ、人間ってのは。絶対なんて言えないよ、けど」 滴る汗。真剣な眼差し。 「――全力で助けるよ」 その刹那、背後では飛行船『ゆりかごめ』が盛大に着水する。船体は水面に激突した衝撃で、原型を留めぬまでに変形する。残るは残骸のみ。 「……ごめんな」 このヘキサのつぶやきを、誰が耳にしたかは定かではない。 『飛行船ゆりかごめ墜落、奇跡の全員生還』 事件は新聞の一面を飾った。 飛行船は、希少な乗り物だ。その墜落事故を完全に隠しきれるわけもない。無論、一部は隠匿された形での報道だが。 医療行為にかこつけ、氷河 凛子は記憶操作を施した。怪物の存在は消し去ることができても、恐ろしい事故に遭遇したという記憶と事実までは雲居つばめから消し去ることはできなかった。 大空への恐怖心という傷跡を、つばめへ残してしまったかもしれない。 「贅沢な心残りかもしれないが」そう、凛子は仲間たちに吐露した。 「お父さん、つばめね、夢ができたの」 「そうか。それはなんだい、つばめ」 「お医者さんっ!」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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