●あるフリー記者による事件調査記録 七月十二日、京都。ドラム式洗濯機に上半身を入れたまま溺死するという不可解な自殺死体が発見される。 八月五日、北海道札幌。ガスコンロに顔を押し付け続けて焼死する自殺死体が発見される。 八月十七日、青森。サイドブレーキをかけずに坂道に放置したトラックの進路上で七時間寝そべり続け結果的に轢死した自殺死体が発見される。調査によるとその七時間意識がはっきりとしていた様子。 九月三十日、熊本。ステンレス物干しざおにハンガーを固定し、首を引っ掻けて窒息死した自殺死体が見つかる。発見当時ベランダから外向きに『日干し』にされていた。 十月三日、静岡。五十二時間の間草叢の中で寝そべり続けて餓死した自殺死体が見つかる。拘束された様子や薬物の痕跡は無し。自発的に『死ぬまでなにもしなかった』と見られている。 十月三十日、東京。駅の大時計から逆さにぶら下がる死体を発見。死因は手首の怪我による出血多量。自ら時計にぶら下がり、自らの歯で手首を食い千切った様子。 これらすべての怪自殺事件に関し、『自害者』どうしの接点、共通点、は一切無し。 三ヶ月の間に(発見されただけで)六件にも及んだ、狂気の自殺事件は偶発的なものとして処理され。そのまま継続操作と言う名の打ち切り処理が下された。 しかし……。 「私はこの一連の事件にひとつの関連性を見つけた。ひとつに、彼らは自殺者特有の『前兆』が殆どない。多くの場合自殺者は他者との接触を徐々に減らしていくか、極端に他者との接触を持つかのどちらかになるが、彼らは日常的な接触に留まり、大きな変動は無かったこと。もうひとつに、彼らの携帯アドレスに遺されていた『福笑い』『福助』『富福』などの名で登録されたバラバラなアドレス……いや、そのアドレスから送られてくるメールの文体である」 ICレコーダーに向かって、男は一方的に語りかける。音声メモをとっているのだ。 「メールは翻訳された戯曲のような調子で書かれ、非常に迂遠かつ暗喩的な言い回しが多い。一見して意味が理解できないものばかりだが、ログを辿っていくと徐々に意味が理解できるよう巧妙に作られていた。ログの長さは期間にして約半年から一年。自害者はこの送信者とメールのやりとりをするうち、何らかの発狂状態に陥ったものと推測される」 尚。 「この事件に神秘の力は」 「介在していない」 背後で声がした。 振り返ろうとした男の首に、誰かの手が添えられた。いや、機械でできた義手だ。 ひんやりとした、固い感触。 だがその直後には、首の肉を動脈ごと握り潰し、引き千切っていた。 場所はカフェの片隅。店主や他の客は突然の惨事に悲鳴を上げ、店の外へと飛び出していく。 記者の男はごぼごぼと口から泡だった血を吐きながら、何か言おうと顎を動かす。 「よく気づいたね。純人為的な犯罪に神秘の影を見つけるなんてやるじゃないか。君、リベリスタなんだろう?」 「が……ごふ……」 「いいんだ、無理に喋らなくて。君が言いたいのはこうだろう? 『目的は何だ』『お前は誰だ』」 「ぐ……う……」 顔が青く変色し、眼球を裏返さんばかりに白目をむく男。 その耳元に、唇を寄せる。 「『どうでもよさ』だよ。この世界に散乱しているこの感情を、恐怖の種に変えるんだ。アンダーグラウンドではもう話題になっているよね。『どうでもいい』という感情が狂気に代わり、死のイメージに直結するようになる。それに気付いた人間は須らく『何かを考えなくては』と思うようになる。真の発狂の始まりさ。この世を狂気で包めばきっと……きっと……『楽しい』よ」 男の肩から力が抜け、背もたれに後頭部を落とす。 その姿を見て、くすくすと笑った。 彼は……8歳ほどの少年だった。 ベレー帽にチェックのシャツ。膝が見える丈のジーンズに、スニーカー。 「もう聞いてないよね。いいんだ、それで。これから先は、もっといい席で見せてあげるから」 彼は自分の携帯電話を粉々に握り潰すと、その場に捨てた。 ●『ハッピーチャイルド』というフィクサード 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の説明を、端的にまとめるならばこうだ。 あるフィクサードが多くの人間を心理的に操作し、自殺においやるという事件が多発した。 自殺死体はアンデッドと化し、彼に回収されているという。 その数なんと25体。 これ以上の活動を許せば、新たな犠牲者が出ることは確実である。 何としても彼を直接押さえ、殺害せねばならない。 今回、彼が一時的な拠点としている廃墟ビルを発見。 元病院とみられ、五階建て。 階段や通路が所々破壊・封鎖され、所々の行き来が難しく立体迷路のようになっているが、所在自体は明らかである。 地下一階、霊安室。 正確には部屋の壁を幾つかぶち抜いて非常に広いフロアになっている。 25体のアンデッドと一人のフィクサードがおり、襲撃するにはアンデッドの群をまず排除する必要があるだろうと思われる。 フィクサードの名前は不明。現在『ハッピーチャイルド』と呼称している模様。 幻想殺し、千里眼スキル所持。 戦闘能力は中ノ下程度。 「任務内容は純粋な戦闘行為になる筈よ。立地的にも技能的にもアドバンテージを握られる形になっているから、どれだけ『こなせる』かがポイントになるわ」 それじゃあ、あとはよろしく。 イヴはそう言って、目を閉じた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 9人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年11月14日(水)23:38 |
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■メイン参加者 9人■ | |||||
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●非連続自殺害事件……。 イメージ。 『愛を求める少女』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)は瞬きを二回すると、廃病院の床を凝視した。空間ごと歪むかのような、奇妙な視界の湾曲。その後に訪れる壁向こうの光景。 一階層分を透視しただけで、件の部屋に行きあたった。身体が螺旋状に捻じ曲がった死体や、肩から上だけ綺麗に焼け焦げている死体。一部の骨だけ綺麗に折れた死体や、頭部といパンパンに膨れさせた死体。さまざまな死体の中で、まるでホームパーティーでも開いているかのように、一人の少年がリクライニングチェアに腰掛けていた。 両手を頭の上に組み、天井を見上げている。 ……いや。 今彼は、アンジェリカを見ているのだ。現に、彼と目が合った。 ぱたぱたと金属製の手を振る少年。ハッピーチャイルド。 まるで到来を待っているかのように微笑むと、コインを投げて部屋の電気スイッチを切った。 暗転。 「……なにこれ、余裕?」 アンジェリカは気持ち悪そうに、眉を寄せるのだった。 全国でバラバラに起きた不可解な自殺事件の中心とも言うべき場所に、一人の少年がいた。 彼はメールを介して対象者を発狂させ、自殺にまで追い込んだと言う。 常識的に考えてまずありえない発想だが、神秘の力は介在していないとも言われていた。 「まどろっこしいというか、陰湿と言うか……」 『リベリスタ見習い』高橋 禅次郎(BNE003527)は舌打ちして地下への階段を下っていた。 廃墟の病院と言うだけあって灯りらしきものはない。 それでもあの部屋だけ電気がついていたと言うことは通電されているということで……つまりこの建物が、廃墟でありながら誰かの管理下にあると言うことを意味している。 それは、さておき。 「てかまたこのパターン?」 唇を左右非対称に歪めて、『Le blanc diable』恋宮寺 ゐろは(BNE003809)は吐き捨てるように言った。 前を歩いていた『女好き』李 腕鍛(BNE002775)が振り返る。 「またって、前にもあったのでござるか? 似たような名前はどっかで聴いた気もしないでもない……かもしれないでござるが」 「どっちだよ」 「接触、発狂、自殺のサイクルですね?」 ランプを片手に呟く『残念な』山田・珍粘(BNE002078)。 「質問をすると発狂するというアーティファクトでしたか。名前は確か……」 「ヴィオニッチか」 今あいつはどうしているだろうと、『糾える縄』禍原 福松(BNE003517)は小声で言った。 「しかしつくづく、サイコキラーとは縁があるな、オレも。名前に福の字まで使うとは言い気がせん」 「名前並べても違和感ないしな」 ぽっと呟いた禅次郎を横目でにらむ福松。 『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284)がそんな彼等を無視してボードを叩いた。 「キサは、この件は学級崩界の事件に似てる気がしてる。バラバラに死んでる所とか、アンデッドを大量に用意してる所とか」 「その件もだが……犯人は子供なんだろう。世も末だな」 首を鳴らす『紅蓮の意思』焔 優希(BNE002561)。 「あら、E能力者だったら外見年齢通りとは限らないでしょ。この事件、アングラサイトには都市伝説みたいに流れてるみたい。自殺に追い込むメル友って。決定的なソースが無いから噂止まりだけど……そもそもどうやって流れたんだろ」 「…………」 そこまでの話を耳に挟みつつ、『必要悪』ヤマ・ヤガ(BNE003943)は無言で霊安室への通路を見た。 「やれやれ、そんなに世界が面白うないか、若造め」 足を踏み出す。 彼……『ハッピーチャイルド』の待つ、霊安室へ。 ●ハッピーチャイルドと二十五の死体 「ねえ、そこの君。電気つけてよ。そうそれ、そのスイッチ」 リクライニング式のチェアから身体を起こし、ハッピーチャイルドは言った。 げっそりと痩せ細った死体は、彼に言われた通りに動いて部屋の電灯スイッチをONにした。蛍光灯が明滅し、部屋を綺麗に照らし出す。 「さてと、準備はいいよ……入っておいで」 ハッピーチャイルドがチェアから足をおろし、地面につけたその瞬間。 部屋の扉が外側から跳ね飛んだ。 予測などできるわけのないアンデッド達は三人ほど纏めて吹き飛ばされ、ドアと共に地面に転がる。 「殺すと言う頃は、可能性を奪うと言うことだ。貴様は少なくとも25の可能性を理不尽に奪った。その重みも……『どうでもいい』か!」 腕からバチバチと紫電を走らせた優希が、派手に開け放たれた扉から突入してくる。 通行を塞ごうとすぐにアンデッドが押し寄せるが。それを翳した両腕で薙ぎ払う。 ニッと子供のように笑うハッピーチャイルド。 「『勘違いしないでよね』」 「……っ」 ぴくりと動く優希の眉。 そんな彼の肩を踏み台にして、アンジェリカが天井へと飛んだ。否、天井に手を突き、蜘蛛のようにぺたりと天井に張り付いてバッドムーンフォークロアを展開したのだ。 優希へと群がろうとしていたアンデッド達へエネルギーの渦が直撃。顔や腕の肉を引き剥がしていく。 「何ぼうっとしてるの」 「なんでもない、来るぞ!」 「おいおい向うは随分必至だな」 腕や脚がもげても突っ込んでくるアンデッドの群に顔を引き攣らせつつ、禅次郎はアッパーユアハートを発動。 「おら、来いよ」 アンデッドの注目を集めつつ、食いついてくるアンデッドの顎を銃でつっかえた。 彼等三人の後ろを固めるように……と言うより、入り口を全員で塞ぐように珍粘たちが展開を始める。 「下手に突っ込まなくてよかったかもしれませんね? これじゃあブロック所じゃなくなりますし」 状況の割には余裕そうに言うと、剣に集めていた暗黒瘴気を振り払うように放射する。 アンデッド達の肉を朽ちさせ眼球を押し潰すが、彼らの歩みは一向に泊まる様子は無い。 彼女の肩へ食らい付こうとしたアンデッドの顔面を、腕鍛の拳がカウンター気味に吹き飛ばした。 より正確に言うなら、大きく開けたアンデッドの顎に拳を叩き付け、下あごから上を消失させたのだ。 「おっとこの状況は両手に華でござるな。にははははっ」 余裕そうなそぶりは珍粘と似たようなもので、腕鍛は後続のアンデッドに向けて先刻の死体(この場合本当の死体を指す)を蹴って押し付けると、飛び掛って魔氷拳を叩き込んだ。 そんな彼を取り囲もうと無数の腕が伸びてくる。 「おお、これはゾンビ映画でよく見る光景。恋宮寺殿ー、フラバン頼――」 「ほい」 腕鍛の言葉を聞いていたのかいないのか、ゐろはは華麗なアンダースローでフラッシュ弾を床に転がした。 腕鍛の足元で炸裂するフラッシュバン。 「むでござハヴァ!? 構わず投げた!? 拙者絶対者だから大丈夫って言う前に投げた!?」 「いや知ってたし。ほらなゆちん、暗黒暗黒」 「なゆちん!? また懐かしい呼び名をっ」 腕鍛たち三人が連携してアンデッドを押し止めているその一方……。 「流石に数が多いっ」 福松は目の前に迫ってくるアンデッドの胸や顔へアトランダムに銃を乱射すると、素早く弾丸をリロードした。 そして惜しげも無く再び乱射。 しかしアンデッドはと言うと、顎が外れようが心臓が飛び出そうがお構いなしに襲い掛かってくる。 中には最初から首が無い状態のまま襲ってくる者すらいた。 「人間相手のつもりで撃ったら負けだな。人型のエリューションと考えた方がマシか……くそっ」 今日何度目かのリロード。こうなると両肩に弾帯でも帯びたくなってくる。 「ふむ、増えて来たな……少し退け」 ヤマは福松たちを僅かに押し退けると、杖を地面に突き立ててJエクスプロージョンを発動。周囲のアンデッドを強制的に吹き飛ばした。 とは言え相手は団体。壁まで吹き飛ばすには至らず、後続のアンデッドを巻きこんで押し倒す程度だが……狙いとしてはまさにそれ。彼らの足が鈍った所へピンポイント・スペシャリティを連続で叩き込んで行く。 しかしアンデッドもそれだけで留まることなく。完全に沈黙した死体を跳ねのけて獣のように飛び掛って来た。 「速いっ……!」 杖をライフルのように構えて向け、カウンター気味に魔法弾を発砲。頭を吹き飛ばすが、肩から下だけでヤマへと襲かかってくる。 「下がって!」 そこへ綺沙羅が割り込み、両腕を広げてヤマを庇う。 突き出される相手の貫手。肉が完全に削げ落ち、骨と皮だけになった鋭い指が綺沙羅の顔面に突き刺さる。眼球を抉り、ボーリングの弾のように顔を鷲掴みにすると誰の者ともしれない骨の破片をナイフの如く彼女の耳へ突き刺した。 複雑怪奇に吹き飛ぶ鮮血。 ぐらりとよろめいた綺沙羅の身体に追い打ちをかけるように、複数のアンデッドが群がり、押し倒し、犯罪的なまでに肉や衣服を引き千切って行く。 がくんと息絶える綺沙羅……と、みせかけて。 「うわ、自分が死んでる所とか、グロテスク。あんまり見たくないわね」 綺沙羅はヤマの身代わりになって消滅した『綺沙羅の影人』を見送って、鬼人を召喚した。 群がるアンデッドを押さえつけつつ、更に影人を召喚。 「でももう暫く連続再生、してみるわ」 ●『どうでもよさ』の終着点 戦いは困難なものだった。 頭数で負けている以上ブロックも役に立たず、少しでも気を抜けば取り囲まれ、足止めをかけようにも相手は指の一本になるまで動きを止めない。 そんな中で、回復担当が希少なこのチームにとっては、入り口付近に固まって敵を対応し続けるこの作戦はかなり有効に働いていた。 いざとなったらこのまま部屋を出て廊下で下がりながら戦えば良いのだ。間違ってもバラバラにされてリンチを食らう心配はない。 そんな境界線をいったりきたりするような戦いを続けること一分弱。 「さてと、そろそろ僕も入れて貰おうかな」 それまで様子見をしていたハッピーチャイルドが、機械の手をがしゃがしゃと鳴らしながら飛び込んできた。 それも、側面から回り込むような微妙な位置からである。 側面向かって右側。つまり腕鍛たちの一グループへと襲い掛かるハッピーチャイルド。アンデッドの背中を駆け上がり、肩や頭を飛び石のように渡り、最前列へと躍り出る。 「……あ」 「『僕もいーれーてっ!』」 半眼のまま見上げたゐろはの鼻先を爪先で蹴り飛ばすハッピーチャイルド。 もんどりうって転がり、入り口ドア(優希がぶち破ったのでがら空きだ)を抜けて廊下の壁に激突するゐろは。 「恋宮寺殿!? っとうぉ!」 腕鍛は振り向く動きをキャンセルして腕を翳し、ハッピーチャイルドの蹴りをガード。続いて繰り出された金属製の手(よく見るとかぎづめ状だ)を逆側の手甲で受け止める。直後、相手に素手で後頭部を掴まれ、膝蹴りを入れられる。 僅かに仰け反るが倒れない。飛び退こうとしたハッピーチャイルドに氷結した右裏拳を叩き込み空中でぐるんと反転させると、更に左掌底で業炎撃を叩き込む。 アンデッドを薙ぎ倒して転がるハッピーチャイルドだが、すぐさま身を起こす。だがそれも予想済みだ。腕鍛は腰を捻りながら飛び、空気を斜め方向へ豪快にかき混ぜる。雑技団が舞うような動きだったが、彼の脚は空を裂き生まれた斬撃は離れたハッピーチャイルドの胸元を切り裂いた。 両足で構えつつ着地。鋭く振り返る。 「やま那由他殿!」 「今混ぜましたよね?」 那由他は漆黒解放からの暗黒を発動。ハッピーチャイルドごと大量の闇武具で滅多刺しにした。 「はぐっ……!?」 「何を以って幸福とするかは人ぞれぞれですし、いいんですけど……というか、私としてはちょっと惜しいんですよね。呼んでいたマンガを打ち切られたみたいで」 片眉を(といってももう片方は隠れて見えないが)上げて、珍粘は言った。 「大丈夫、大丈夫だって。キャラクターがひとりやふたり死んだって、マンガが終わったりしないだろう……」 ニヤニヤと笑いながら、ハッピーチャイルドは立ち上がった。 「食い殺せ」 彼が一言述べただけで、アンデッドが一斉に腕鍛たちへ襲い掛かる。 勢いを受け止めきれずに押し倒される二人。 「一点突破はずるいでござるっ!」 「大丈夫よ、こっちもこっちでズルいから」 パチンと指を鳴らす綺沙羅。陰陽術が発動し、大量の氷雨がアンデッド達を凍結させていった。 踏み躙るように粉砕し、髪の毛の先を摘まむ綺沙羅。 「もう一発」 再び大量の氷雨が吹き荒れ、凍り付いていたアンデッド達が残らずバラバラに砕け散った。 「クリーンナップ、終わり」 「みたいだね。じゃ、僕はこれで」 部屋の出入り口までいつの間にか辿りついていたハッピーチャイルドが、手を振りながら振り返る。 その後頭部に、禅次郎のペインキラーが叩き込まれた。きりもみして跳ね飛び、廊下の壁に顔から激突するハッピーチャイルド。 「逃がすわけないだろ。神秘の世界じゃ少年法は適用されてないんだぜ」 顔を起こそうとした彼の後頭部を再び蹴りつけ、壁に再度叩きつける禅次郎。 「もっとも、外見年齢なんてアテにならないがな」 「ンー、まあね」 ぐしゃり、と廊下の壁が砕けた。 ハッピーチャイルドが金属の手で、まるで土でも掴むように抉り取ったのだ。 そして振り返る。 べりべりと、顔の皮膚を剥がしていく。 下から現れたのは、のっぺりとした機械の顔だった。 「ハッピーチャイルド、85歳。よろしく」 「はいよろしく、死んで」 いつの間にか天井に片手を張り付けてぶら下がっていたアンジェリカが、もう片方の手からブラックジャックを発動。黒いオーラが伸びてハッピーチャイルドへと叩きつけられるが、彼はそれを金属腕で払いのけた。 目を細めるアンジェリカ。 例えば、彼が『どうでもよさ』に拘ったのが、彼自身の厭世観によるものだったとする。 だとしても。 「ボクは、悪いことをする子は嫌いなんだ」 手を天井から離して自由落下。スピンをかけてブラックジャックを再び叩きつける。 ハッピーチャイルドの顔面を強かに打ったが、対する彼もそれで退かずにアンジェリカを思い切り殴り飛ばした。 廊下を転がっていくアンジェリカ。 追い打ちをかけようと手を翳し、掌から銃口を露出させる。 が、しかし。発砲された弾がアンジェリカに着弾することは無かった。 代わりに、優希の掌で止められていたのだ。 機械の右手である。 反動で二人は大きく腕を引き、そして再び叩き合わせる。 火花が散って、二人の顔に跳ねた。 「怠惰に身を任せる人間の増力。それに歯止めが効かなくなれば、世界はそのうち終るだろう。だが貴様がその進行を早める権利はない」 「歴史」 「……何」 「歴史だよ。歴史、学校で勉強しなかった? 歴史ってさ、一般人が動かしてるんだよ、いつも」 がしりと手を掴み合う。まるで仲睦まじく手を絡めているようではあるが、優希は相手を握り潰そうと、ハッピーチャイルドは銃撃で吹き飛ばそうとしている。 「その一般人をつついたり、煽ったりするのが歴史の動かし方」 「お前が歴史を動かすつもりか。驕ったことを」 「ちがうちがう。僕は歴史で遊ぼうとしてるんだよ」 「……っ!」 優希の掌を銃弾が貫通。しかし優希は歯を食いしばってハッピーチャイルドを引っ張り上げ、地面へ叩きつけた。 「俺はまだ人間の未来に絶望していない。この世界を乱す因子は、消す!」 仰向いたハッピーチャイルドの頭に、銃口が二つ突きつけられる。 福松と、ゐろはである。 「俺も同感だ。消えて貰う」 二人同時に連続発砲。 顔面を覆っていた機械部分がはじけ飛び、悲鳴なのか破砕音なのか分からない音が響き渡った。 そして銃撃は止み。 「鼻痛った……」 ゐろはは自分の鼻を押さえて呟いた。 バチンと大きく火花を散らすハッピーチャイルド。 彼の喉元に杖の先を押し当て、ヤマは静かに見下ろしていた。 「ヤガはこう見えても俗物での。酒も甘い物も好きだ。他人の面を見ているのも、まあ好きだ。それで殺人が生業ちうのだから腐れ外道と言うほかない……」 ぐ、と力を込める。 「ヤガは今の世界が好きだ。ヌシの望みが狂気と死なら、相容れぬ」 ぐ、と更に力を込める。 「貴様はヤガが殺す。喜べ、滅多にないぞ」 更にもう一度力を込めた途端、ハッピーチャイルドの身体が内側からはじけ飛んだ。 廊下に血肉と機械らしき破片をまき散らし、見るからに、逃れようも無く、どうしようもなく、死んだのだった。 戦闘後の話をする。 どれだけ捜索しても携帯電話やそのデータ類は見つからなかった。 その代り、綺沙羅が見つけたいくつかのマイナーオカルト掲示板では『被害者が死ぬ前に見ていたらしいメール』と言う名目で、いくつかの文章が書き込まれているのを発見した。 その多くは戯曲めいた迂遠な文章で、どこか不気味で意味不明。 「それ故人々は収集を初め、いつかパズルのピースがあった時……新たに誰かが死ぬんだわ」 気持ち悪い。 綺沙羅はそう言って、ノートパソコンを閉じた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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