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<兇姫遊戯>機械仕掛けの姫は嗤う

●六の底
 共食い。フィクサードを雇って恐山より奪った賢者の石。
 混沌。逆凪の御曹司にして恋人である凪聖四郎より贈られた強力なアザーバイドのデータ。
 そして今まで積み上げてきた多くの時間、数々の実験。教授からの助言、激励。
 今や『それ』らは限りなく『完璧』に近い状態であった。後は、今すぐにでも、次なる計画に進むだけ。
 だが、その前に――

「――ほら、遊び心って大切じゃなくって?」

●それは突如として送りつけられた映像データ
「アローアロー! アークの皆様方、御機嫌如何かしら。アタクシ主流七派『六道』の六道紫杏と申しますわ。
 実はね、とっても楽しくて素敵な事を思い付きましたの。ほら……前菜があるからメインディッシュは引き立つし、メインディッシュがつまらないとデザートまでつまらないわ。そう思わなくって?
 うふふ。それでは本題をお話ししますわね。
 貴方達の事ですから、もう『キマイラ』は御存知でいて? アタクシ、今からお散歩に出かけようかと思いますの。『その子達』と一緒に。ちょっと街で遊ばせてあげようって。ふふ。適度な運動は大切って、プロフェッサーも仰っていたわ。
 でも……アークの貴方達は、アタクシがそんな事したらすっかりカンカンの怒髪天でしょう? だから、街の代わりに貴方達が遊んであげて頂戴。来てくれなかったり物足りなかったら……『仕方がない』わ。その時は夜の街でランデブーですわ、あはっ。
 それで、アタクシ達が現れる場所ですけれど……知りたいかしら? でも、教えませんわ! キャハハハハハハハっ。カレイドでお捜しあそばせ!
 さぁ早くしないと大変ですわよ、街がすっかり真っ赤な色したトマトスープになってしまうわ!
 ――洪水(血の海)から群衆を救うのが方舟(アーク)のお仕事でしょう? それでは、お待ちしておりますわ。Bye-bye♪」

●緊急出動
「――皆々様、聞こえますか? 私ですぞ!」
 移動の車の中、備え付けられたモニターに映ったのは『歪曲芸師』名古屋・T・メルクリィ(nBNE000209)だった。焦りを含んだ顔。その理由は誰もが知っていた。
 ここ最近の神秘界隈の闇で蠢く生物兵器『エリューション・キマイラ』――複数のエリューションの特徴を持つ人造生命体――その事件の黒幕的存在、六道紫杏。
 それは唐突だった。彼女名義で送られたデータ。そこに記されていたのは、紛れもない『犯行声明』。
 曰く。
「『キマイラを街に放たれたくなかったらそいつの相手をしろ』――全く、六道のお姫様は裏野部か黄泉ヶ辻にジョブチェンジしたいんでしょーか」
 メルクリィにしては珍しく毒を吐く。それもそうだろう、あの犯行声明が送られた直後から予知能力を文字通り全身全霊でフル稼働させ、ようやっとつい先程に『場所』を突き止めたばかりなのだから――今、車の中にいるリベリスタ達は『ゆっくりしている暇はない』と移動しながらのブリーフィング真っ最中なのだ。
「皆々様が向かっているのは都市近郊の高速道路ですぞ。時村の方で道路封鎖の根回しはしました故、一般人や神秘秘匿については心配なさらず……既に『その場』にいた方々は、もう、『いません』から」
 だが、放っておけば更に被害が出る。辛い事実だが今は悲しんでいる暇はない。
「皆々様に課せられたオーダーは『キマイラによる虐殺の阻止』ですぞ。キマイラ達の詳細データは追って送信致しましょう。
 キマイラ達は前回の事件の時より完成度が高くなっているようですぞ。その生物兵器を用いてこれから何を行うかは――『メインディッシュ』とやらは依然不明ですが。いやはや、不気味ですな」
 今回もまた『実験』とやらなのだろうか?不意に一人が投げかけた問いに、然しメルクリィは緩く首を振った。
「どうやら、今回ばかりは『実験』ではないようです。もうデータを熱心に集めなくても良い具合に完成度が上がった故、かと――あぁ、『完成度が上がった』という理由が大きいでしょうね、今回の一連のキマイラ事件は」
 例えば。新しいスキルを覚えたら、使ってみたくなるでしょう?素敵な服を手に入れたら着てみたくなるでしょう?
「同じ事、ですよ。気紛れな『お姫様』らしい話です。遊び心、悪戯心、出来心の類なんでしょうな」
 そして、とメルクリィは緊張を孕んだ声色で言う。一間を空けて、曰く。
「――今回、皆々様とキマイラ達が交戦するであろう場所の付近に、六道紫杏本人が現れます。当然ですが護衛付きです。頭数こそ少ないですが、少ない故に精鋭でしょうな。
 彼女達はただ皆々様とキマイラとの戦いを眺めているだけです。自ら手を出す事はないでしょう」
 彼女達が居るのはここですぞ、とモニターに記されたのは山奥の廃ビルだった。『付近』、そう彼は表現した。確かに付近と言えば付近だが、往復するにはそれなりの時間がかかりそうだ。おそらく、行って帰ってくる頃には戦いにケリが付いているかもしれない。
「彼女達は戦いが終われば迅速に撤退します。戦いが終わってから向かっても接触出来ないでしょう。つまり……」

 六道紫杏と接触する為には、戦力を分かたねばならない。

「先にも申し上げましたが、キマイラ達も、紫杏様達も、どちらも危険な実力を持ちます。中途半端な戦力ではあっと言う間に蹂躙されてしまいますぞ。
 特に紫杏様は謎が多いですが、これだけは確実です――『六道の兇姫』という二つ名は、『彼女の危険性を最も的確に表している言葉』であると。
 ですが、紫杏様と接触すればそのリスクに見合う情報が得られるかもしれません。……尤も、確実とは言い切れませんが、ね」

 情報を諦める代わりに、人々を護る為の確実さを選ぶか。
 今後の一手の為に、多大な危険を顧みず賭に出るか。

 それはリベリスタ達に委ねられている。
「皆々様なら、きっときっと大丈夫! 私はリベリスタの皆々様をいつも応援しとりますぞ――どうかお気を付けて。どうか、ご無事で」

●絶対狂気のお姫様
 遠くに街の煌めきが見える。
 それを目指し、暴力を撒き散らしながら進行する『作品』が見える。
 灰色のビルの天辺。異形に玉座宛ら腰掛けているその女の名は六道紫杏といった。
 彼女の傍らには二人の男が控えている。一人は執事風で、一人は白衣の上から年季の入った外套を着ている包帯面だった。
「ねぇスタンリー」
 紫杏が、傍らの懐刀に話しかける。されど彼は首を振って、
「嗚呼麗しき紫杏様、我がマスター、私如きに御声をかけて頂き至極光栄ですが私めはスタンリーではありません。お嬢様の新しき懐刀、ベルンハルトでごさいます」
「あら、間違えてしまいましたわ。うふふ。あれとは13の頃から一緒だったもの。全然壊れない優良品だっのよ。クッキーを作るのがね、上手だったの」
 懐かしそうにしている癖に、欠片も悲しみの類はなく。かつての懐刀を生き物とすら見ていない。
 恐ろしく、故にその逸脱の純粋な事よ――控えた包帯面の男、フレッド・エマージは崇拝の目を兇姫に向ける。彼女の護衛に抜擢された事で天にも昇る気持ちをぐっと心に留め、あくまでも冷静な口振りで問うた。
「姫様、それでマツダの旦那はどうなったんです?」
「――」
 紫杏は言葉を発しなかった。代わりに、遠くを見澄ましたまま『クスリ』と笑んだ。それが答えだった。
 ゾクリ、としたモノが背骨を舐め上げる。嗚呼。キマイラも、自分達も、所詮はこの気狂い姫様の玩具なのだ。――道具なのだ。
 それでも良い。狂気の沙汰ほど、この世界は美しい。

 嗚呼全ては姫の為に!


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:ガンマ  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ EXタイプ
■参加人数制限: 10人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年11月12日(月)23:24
●Danger!
 このシナリオはフェイト残量によらない死亡判定の可能性がございます。

●目標
 キマイラによる虐殺の阻止
 情報を持ち帰る(※サブ目標。満たさなくても失敗にはならない)

●登場

◎紫杏ユニット
『六道の兇姫』六道紫杏
 メタルフレーム。外見は二十歳前後。
 国内フィクサード主流七派『六道』首領『六道羅刹』の異母兄妹、六道のお姫様。
 天才にして狂人、恋人と先生以外の人間を人間と見ていない。いっそ『純粋』と呼べるほどに我儘で尊大、残酷。
 二つ名に恥じぬ凶悪な危険度を誇ります。高い身体能力というよりは『発明品』と『頭脳』が彼女のメインウェポンです。とは言え、身体能力は決して『低い』分類ではないのでご注意を。
・アーティファクト『独裁テレジア』:スキル含む全ての攻撃に魅力を付与する。その他不明。
・アーティファクト『The Room』:???
・Ex犯罪王の密室定義:神単、極悪火力
 その他アーティファクト、EX不明

キマイラ『如意輪戦車』
 骨と金属でできた車輪を二つ持つ巨大生首。目と耳の部分から肉の砲身が生えている。
 攻撃にノックB、雷陣、麻痺を伴う場合あり。命中値高い。自己再生能力があり、生命力が強い。

『兇姫の懐刀』ベルンハルト
 メタルフレーム×クロスイージスの男。新しい懐刀。紫杏崇拝者で被虐趣味。
 クロスイージス中級スキルまで使用。武器はフォークのアーティファクト『チカチーロの舌Ⅱ』(スキル含む攻撃に出血or流血or失血を付与)
・EXメテオクラッシュ:ノックB、ショック、必殺

『悪夢蛆』フレッド・エマージ
 顔を包帯でぐるぐる巻きにしているメタルフレームの男。
 後述する心臓マゼンタを自らの心臓に寄生させ、半一体化している。
 一般戦闘スキルに火炎無効、非戦スキルに痛覚遮断など。
 心臓マゼンタと半一体化している事で身体能力が高く、自己再生能力があり、生命力が強い。
 自他問わず触れた血液から蛆虫を作り出す能力をもつ。作り出す数は血液の量に依存する。
・マゼンタα改:近単、連、流血、必殺
・マゼンタγ改:遠2複貫、弱点、失血
・マゼンタΩ改:全、ショック、ブレイク、
・Exベルゼビュートの召使い:遠範、HPEP吸収、呪殺、出血

キマイラ『心臓マゼンタ』
 フレッドの心臓及び血液に寄生し、彼と半一体化している液状のキマイラ

蛆虫
 心臓マゼンタが血液から作り出した蛆虫状の赤いゲル。人の頭部大
 個々の能力は低め。飛びついて動きの阻害・噛み付きによる持続ダメージを行う
 3T経過で赤いゲル状の蝿となり能力値アップ。強力な吸血攻撃を行う(HPEP吸収、流血付与)


◎絶ユニット

キマイラ『虐殺用弩級生物兵器・絶』
 脈打つ巨大な黒球体状の触手塊。触手にはズラリとラッパ状の砲門が突き出しまくっている。
 常時10mの飛行状態。飛行ペナルティ受けない。何かしら状態異常になると降下し、近接攻撃も当たるようになる。
 WP高、魅了無効。自己再生能力があり、生命力が強い。
・生存不許可弾幕:P。全。毎ターン自動攻撃。3Tに一度、強力な全方位レーザーになる
・ブラストレイ:遠2貫、弱点、呪い
・ショックバレット:遠2複、鈍化、ショック
・毒爆弾:遠2範、猛毒、流血
 等。攻撃にノックBが伴う場合あり

キマイラ『シルバーグレンデル』×3
 肉と水銀と粘菌をミキサーにかけてゲル状にした様な2m強のゴーレム状キマイラ
 常時[反]状態。防御値高め。自己再生能力があり、生命力が強い。物理型。
 水銀状になる事が出来、ブロック無効
・インパクト:近範、Mアタック、ブレイク
・銀杭:遠2貫、致命
・絡み付く:近単、麻痺

キマイラ『シエン』×3
 紫色の手が大量に生えた人間サイズのクリオネみたいなモノ。蝶の羽が生えている。
 回避値高、自己再生能力があり、生命力が強い。神秘型。
・メディカル鱗粉:遠、仲間BS解除
・葬送曲・黒々:溜めの無い葬送曲・黒
・溶解陣:遠範、ブレイク


※紫杏ユニットが絶ユニットの戦闘に介入する事はありません。
※紫杏ユニットは絶ユニットの戦闘終了後、速やかに撤退します(リベリスタが戦闘を終えてから向かっても接触不可能/往復にはかなりの時間を要します)

●場所
 時間帯は夜。街や星明かりでそれなりに明るい。

◎A:絶ユニットエリア
 郊外にある高速道路。広い。

◎B:紫杏ユニットエリア
 山奥の廃ビルの屋上。広い。Aからうんと離れた位置にある。
 山奥故に車などの使用は不可能に近いでしょう。

●STより
 こんにちはガンマです。
 六道キマイラ。お姫様登場。選択によってはベリーハード。
 皆様の本気と覚悟をお待ちしております。

 生き残って下さい。
参加NPC
 


■メイン参加者 10人■
プロアデプト
歪 ぐるぐ(BNE000001)
クリミナルスタア
不動峰 杏樹(BNE000062)
覇界闘士
ヘルマン・バルシュミーデ(BNE000166)
ナイトクリーク
源 カイ(BNE000446)
ソードミラージュ
絢堂・霧香(BNE000618)
スターサジタリー
リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)
覇界闘士
衛守 凪沙(BNE001545)
覇界闘士
宮部乃宮 火車(BNE001845)
★MVP
ソードミラージュ
リンシード・フラックス(BNE002684)
ソードミラージュ
セラフィーナ・ハーシェル(BNE003738)

●666
 彼女にとって世界は玩具箱である。
 遊び手である彼女以外は全て玩具である。
 そしてその玩具達は彼女を楽しませる為に存在しているのだ、と。そうあるものだ、と。
 彼女は『それが自然で当然だ』と疑いもなく思っている。
 そしてその世界は例えようもなく幸福だと、心の底から信じている。

●SIDE:A――1
 嗚呼暗い暗い夜をも懸命に照らす彼方の街明かりのなんと殊勝な事か。辺りを包む影の気配に電力を以て対抗するその姿のなんと懸命な事か。
 殺されるかもしれない事など露知らず。流された血を、死を、欠片も知らず。無知な赤子が笑う様に。全くだ!
「キマイラの親玉、造物主か」
 悪趣味だな。と『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)は吐き捨てた。本当にお遊びで作ったような造形物。この後にメインディッシュとデザートまであるなんて、至れり尽くせり過ぎて胸焼けする。吐きそうだ。あぁ。あぁ、造物主なんて大嫌いだ。いつもいつも偉そうな顔をして、何様のつもりなんだ。
 杏樹の手に在る魔銃バーニー、その黒を飾る赤兎の布が、修道女にして暗黒街の淑女である彼女の金髪が夜風に靡く――血の臭いを孕んだ剣呑な風。それでいて嫌に冷え込んだ風が、『禍を斬る剣の道』絢堂・霧香(BNE000618)の頬を撫でた。
「六道紫杏……ホント、狂ってる」
 湧き上がる不快感に柳眉を吊り上げ、奥歯を噛み締める。キマイラ(あんな化け物共)に街を蹂躙させようだなんて。あらゆる禍を断ち斬り、救うべきものを救おうとする剣の道のが自らの道だと邁進する彼女には到底看過できる筈もなく。彼奴等に言われたままそれを止めるのも甚だ癪だが――指先で撫でるのは妖刀・櫻嵐、桜色の飾り紐が揺れる。
「……なら、望み通りに斬ってやる。絶対に好きにはさせない」
 抜き放つ刃、白銀が夜に煌めく――『朔』の名を持つ漆黒の外套より現れた霊刀東雲、その透き通る刃に『エンジェルナイト』セラフィーナ・ハーシェル(BNE003738)の横顔が映った。
 ――キマイラ。人を殺す為に、人を、アザーバイドを、エリューションを、様々な生物を混ぜ合わせて無茶苦茶にして創り出された悲しい存在。本当なら素体となった人達も救ってあげたかった。
(でも……今の私にできるのは今夜、これ以上犠牲者を増やさないことだけ)
 ごめんなさい。心の中で謝罪する。名も知らぬ者達へ。命はありながらも、もう二度と元には戻れぬ者達へ。
「キマイラの事件が続いてる裏には、犠牲になった人間や動物がいるんだよね」
 統合格闘支援装備 四式“角行”で武装した拳を握り直す『食堂の看板娘』衛守 凪沙(BNE001545)の気持ちもセラフィーナと同様だった。彼らの事を思えば、勿論それ以上の犠牲を増やさないよう努めるのが自分達のやるべき事だ。本心を言えば――遠くで見てるところに乗り込んで殴ってやりたいが。まだ、彼女の力では難しい。
「……悔しいね」
 漏らした声は夜に紛れる。一方で、『鏡操り人形』リンシード・フラックス(BNE002684)は虚ろに彼方を見遣ったまま呟いた。
「遊びで多くの人を殺す……まさに狂人ですね……」
『人形』でも分かる事だ。他者の命を面白半分に奪う事など。さっさとその首を掻っ切りたい所だが――それは今の自分の仕事ではない。源 カイ(BNE000446)は顔を顰める。本当に、つくづく、不愉快だ。六道の思惑の上で踊らされるのは。ましてやキマイラを生み出した張本人を楽しませる為ならば、尚更に。
「……負けられません」
 瞳に宿すのは冷徹、拳を堅く握り締める――最中に脳を過ぎるのは、『ここに居ない三人の仲間』の事だ。「どうかお気をつけて」と送りだしてどれくらい経ったか、まだ彼等は『目的地』に向かっている最中であろうか。心配だ。だが、それは彼らだって同じだろう。
「お三方は、私達を信じて、こちらを任せたはずです……その信に応えなければ」
 リンシードの言葉の通りだ。ならば、仲間を心配させない為にも――自分達は。戦わねばならない、一心不乱に。勝たねばならない、絶対に。
「六道、滅ぼすべし」
 両手に教義を、この胸に信仰を。『蒼き祈りの魔弾』リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)は蒼の目に凛と殺意を燃やし、聖別された二丁拳銃「十戒」「Dies irae」をロザリオより召喚した。グリップを握り締めた。
 この祈りの魔弾と己の全てを以って、狂った姫への返答を。
 生命を冒涜する罪深き者共に天罰を。
 紫杏へ向かいたい気持ちを抑え、リリは一歩前へ。任務と人命が第一。自分は――自分達は、必ずキマイラを鏖す。
「……どうか、ご無事で」
 呟き、見遣った。血肉がぶち撒けられたアスファルトの上。不気味に蠢く狂った異形、キマイラ達。夜に浮かぶ黒い月――虐殺用弩級生物兵器・絶の異様な姿がリベリスタ達を睥睨した。蠢く巨体。禍々しい殺気。露骨なまでの暴力性。絵に描いた様な気味の悪い『ばけもの』が、そこに居た。
 されど退く事は出来ぬ。決して。故にリベリスタ達は武器を手に、闘志を目に、立ち向かうのだ。
 ――例えこの身が傷付こうとも。
「さあ、『お祈り』を始めましょう」
 リリの声が静かに響いた――刹那、激しい弾幕が、リベリスタ達の鬨の声が、夜を劈く。

 戦いは始まった。もう止められぬ。どれだけ血が流れようとも。
 唐突に。気紛れに。或いは、必然的に。

 リベリスタ達の編成はいっそ『奇妙』とも呼べた。戦闘に於いては生命線と形容されるだろう回復手はおろか、後衛陣はたったのリリ一人。即ち、誰もが前衛にて火力を振るう戦士だった。回復手段がない、しかしそれは逆に『常時絶対攻勢』という凄まじい火力を意味していた。
 吐き出される弾幕の中、いの一番に跳び出したのはリンシード、セラフィーナ、霧香、ソードミラージュの三少女。
「―――」
 リンシードが吐いた言葉は、キマイラ達の感情を刺激する言葉の毒。絶、2体のシルバーグレンデルの意識が少女に向いた。這い寄って来たゴーレム型キマイラの内一体に張り付き、リンシードは襲い来る猛攻を回避する。防御する。肌を掠める。
 多少孤立しても構わない、と彼女は表情一つ変えずに思う。捨て駒上等、自分は人形。少しずつ、小さな傷が増えていく。白い肌に赤い線。
「……少しだけ我慢してください。この悪夢を終わらせてあげます」
 このキマイラだって、元は人間なのかもしれない――セラフィーナの視線の先には後衛に位置するシエン、その手が、生々しい人間の手が。嗚呼。姉より受け継がれた黎明の刃を構えた。
 光の飛沫が舞い散る様な刺突。
 霧香も別のシエンへ同様の技を繰り出した。が、手応えより直撃には至らなかった事を知る。シエンの回避能力は高い。そして残りの一体が絶へメディカル鱗粉を飛ばす――そうはさせるか、それに吶喊する凪沙であったが、その行く手をシルバーグレンデルが阻んだ。放たれる杭状の一撃が彼女の肩を穿つ。痛みが脳を劈く。それでも足は止めず――出し惜しみなんて、ない。こんな状況、最初から全力で行かないでどうする。
「邪魔だぁああっ!!」
 握り締めた拳に宿すは炎、全力を以て叩きつける。キマイラに組み込まれた反撃の防御陣が凪沙の肌を裂くが、傷に怯えて攻撃が出来るか。徹底攻勢。
 絶が複数人に向けて巨大な弾丸を放った。螺旋を描いて唸りを上げるそれの内の一つがカイに着弾し、衝撃波が彼を苛む。体内の軋む音を鼓膜の裏で聞いた。
「ぐっ……」
 揺さぶられる意識、伝わる痛み、されどそれを癒す手段はここに無く。ならば同じ痛みを与えるだけだと、右手首を外し銃身を解放した専用武装機械義手UCW-Armgun Ver.Ⅱを構えた。
「戦力不足はこれで補う……有りっ丈の弾丸をお見舞いしてあげますよ」
 冷酷に言い放ち、打ち放つのは蜂の襲撃の様な猛射撃。絶が常に撒き散らす弾幕を切り裂き、シルバーグレンデル以外のキマイラ達へ襲い掛かる。
「……リリ、大丈夫か?」
「えぇ、私は平気です」
 自分を護る様に立つ杏樹の言葉にリリは頷く。天へ向ける双銃。装填するは殲滅の祈り。

「等しく来たれ、天の怒りよ――全てを焼き尽くさん!」

 全ての者が絶対者たる神の前で等しく審判にかけられるが如く。怒れる天帝の矢――空に放たれた弾丸は蒼い稲妻となり、曲を描いて遍く戦場へと降り注ぐ。裁きの時は来たれり。それはリリの剣であり、盾。敵を打つ為の手段であり、皆の傷を一つでも減らす為の目的。
 一帯を焼く蒼焔の中――簡易飛行によって浮かび上がった杏樹は魔銃バーニーを構えた。その頬を絶の弾幕が掠める。横一閃の赤。重力に従って垂れる縦の赤と重なり、それは宛ら主の鮮血が掲げられた十字架の如く。
「逃れられると思うな」
 超速で撃ち放つ、弾丸。弾丸。弾丸。Bullet-666-――魔力を帯びたその数は神に挑む獣である。絶はその砲を、シエンはその翅を、シルバーグレンデルはその身の金属光を見逃さず。
 激しい攻防の中、絶は再び空中へと浮かび上がった。その砲から吐き散らし続ける弾丸がリベリスタ達に襲い掛かる。消耗。砂時計の砂が落ちてゆく如く。その砂を戻す手段は無い。砂が落ち切る前に、撃破せねばならぬ。出来なければ――大量の血が流れるのだ。彼方に見える人類の火。生命の灯火。何も知らない人間が、何も知らずに死んで逝くのだ。
「そんな事――絶対に、させないッ!!」
「この戦闘に、私の背に、多くの命がかかってるんです。私は……負けられません。絶対に、諦めません!」
 霧香、セラフィーナは刀を構えてシエンに挑む。煌めく剣閃、切り裂く一撃。
 その迎撃に3体のシエン達が放ったのは、リベリスタ達にとっては馴染み深い技――葬送曲・黒。漆黒の鎖が戦場を切り裂き、リベリスタ達を飲み込む、食い千切る。カイに、凪沙に、杏樹に、呪縛の黒鎖が肉を抉って食い込んだ。苦痛の声。そこへ閃くのは、絶が放つ巨大光線――
「……っ、」
 極悪極まりない一撃を、リンシードは辛うじて転がる様に回避した。立とうとして、足に違和感。見る――右足の足首から先が酷く焼き潰されていた。痛みを通り越す程に。
 そこへ襲い掛かって来るのはリンシードのアッパーユアハートによって意識を刺激された3体のシルバーグレンデル達。立てるか? 否、立たねばならない。立たねばどうなる? 答えは分かっている。無理矢理に立ち上がった。
「諦めません、最後まで……あんな奴の思い通りなど……許せない……」
 何より、自分が許せない。回避を。この身が動く限り。身体のギアも引き上げて。
「これ以上、罪を重ねるわけには……!」
 血を流しながら、人形少女はひた踊る。真っ赤に焼け爛れた右足は、赤い靴の童話にも似て。
 火力と火力のぶつかり合い。悉くが全身全霊を尽くしている。
「……! 来ます!」
 リリの声が迸る。瞬間。絶が放っていた弾幕が一瞬止んで――白。塗り潰される。一面の交戦。生存を徹底して許さぬが如く。更にショックバレットが無慈悲に全員を追撃した。
「う、ぐ……!」
 損傷が激しい。回避手とは、その高い回避力にリソースを注いでいるが故に耐久面など他の面に難が出るのだ。セラフィーナは痛みに耐えながらも踏み止まる。構える刃――鬼王をも貫いた夜明けの剣。闇を斬り、光を齎すべく。明けぬ夜は、無いのだ。
「全てを救うには、私の力は全然足りません。けれど、貴方達だけは……!」
 いずれこの元凶を、六道紫杏を止めまる為。誓いは刃に。吶喊する。
 負けるものか。
「通りたければ……私を殺してからにしてください……負けて、街が蹂躙される所は見たくない……です」
 リンシードもゴシックロリータ服を血だらけにして、ふらつきながらも剣を構える。先を消費してでも。

●SIDE:B´
「あ、見て見て」
 と、紫杏は機械の指で差した。彼方、ハイウェイの上の激戦。閃くのは剣閃、拳、弾丸。「凄い凄い」と姫は手を打ち笑う。
「リベリスタって強いのね。たった7人なのに、あそこまで絶達と渡り合っているのよ。ねぇ、見て見て。凄いわ、凄い」
「左様で御座いますね我がマスター、紫杏お嬢様。貴方様の仰る事は疑いもなく真実です」
「あっ、あそこも見て。3人居るわ。こっちにくるみたい。あらあら、一体何の御用なのかしら?」
 楽しそうに彼女は笑う。そこにはリベリスタ達に対する侮蔑的な意味合いは無く、寧ろそういったネガティブな物は欠片もなく、ただただ純粋に楽しそうに、笑っていた。
 彼女が楽しそうで何より。されど二人の従者は――片方は防御のオーラを身に纏い、片方は己の手首を切り裂いて血液からゲル状の蛆虫を作り出し――『襲撃』に、備える。

●SIDE:B――1
 森の中を駆ける。夜の森、暗い森。たった3人。
 繋いだアクセス・ファンタズムより聞こえてくるのは、仲間達が戦っている音。音声だけでもその熾烈さは容易に知る事が出来、『意思を持つ記憶』ヘルマン・バルシュミーデ(BNE000166)は不安に駆られる。向こうは大丈夫だろうか。震える指先。不安と、怖いので、心がパンクしそうだ。無理矢理に深呼吸を一つ。整う筈もない呼吸。
「ようやく臆病者共の姫様お出ましかい……ったく、引き篭もってこそこそやってりゃ良いモンをよぉ」
 舌打ちの様に『消せない炎』宮部乃宮 火車(BNE001845)は言い捨てる。クソが。クソが。クソッタレが。因縁なんざ大嫌いなんだ。いつか全潰しにしてやる――とはいえ。今回は、その遊びとやらに付き合ってやろうじゃあないか。
「ただまぁなんだ? 優雅な見学邪魔すんのだきゃあ大いに賛成だぜ!」
 好戦に吊り上がる口唇。剥き出した歯列。廃ビルの扉を鬼暴の一振るいでブチ開けて、そのまま走る。階段を上る。
 それに続く『Trompe-l'œil』歪 ぐるぐ(BNE000001)が浮かべるのは、わくわくとした感情を堪え切れぬと言った笑みだ。にやついている、とも形容できる。
 ――世には価値観が人と違って、自分に素直過ぎる人が居る。
(それが狂気と称されるなら、その狂気こそボクの求める高純度の個性だ)
 中でも、六道紫杏。中でも彼女にシンパシーを感じる部分が比較的多い。今回彼女がここに来たのは極々純粋な欲求だ。『六道の兇姫』と謳われ恐れられる彼女と遊びたい。自分と同じ景色を見ている人なんて居ない、別に同じ人間である必要はない、面白ければいい、そう思うが故に。だから。こう言うのだ。笑顔で。

「あしょんでー」

 ――辿り着いた屋上、ドアを開くなり一言。御挨拶に指を鳴らし、花を出す手品。プレゼント・フォー・ユー。されどその花は思案に届く事なく、蝿が捕らえて喰い潰す。
 三人の視界に映ったのは、キマイラに座して微笑む兇姫、その前に並んで布陣する懐刀と悪夢蛆。それから目に見えそうなほど濃密な殺気だった。最中に火車は一歩前に出る。
「おぅおぅ蛆やらなんやら支配下に置くだけあって蜂の女王みてぇなやっちゃな?」
「蜂の子の天麩羅って意外と美味しいのよ! 貴方を天麩羅にしたらどんな味がするのかしら?」
 火車の言葉に紫杏は嬉しげに機械の触角を揺らして笑った。あーこいつマジで頭イカレ――
「よ~く来たな宮部乃宮ァア? 俺に会いにきてくれたのかよぉ!?」
 ――煩いのが来た。火車の視線の先には、フレッド・エマージ。包帯面の男。その下の顔面を劇的にビフォーアフターしてやった匠は、他でもない火車である。それ故か、フレッドは異常なまでに火車を憎んで憎んで夜も眠れない程に呪っていた。
 さてさて、そんな『愉快な蛆虫君』は一体どんな反応をするのだろうか。呼んでみようじゃないか。
「聞いたってくれよ女王さんよぉ? 木っ端のオレにすらてこずるわ排除出来ないわ っつー出来損ない糞蛆虫君がさぁ? なんかよぉ? アンタの恋人? 逆凪の凪超えだの師匠超えだの そういった事画策してんだとぉ!
 流石にみっともねぇんじゃねぇの!? こんなの傍に置いとくってのは! ぎゃっはっは!」
「ぐぬぁああああ言わせておけばテンメェエエえええごごごっごろじでやるぅううう゛ううすうぇあおお゛あげがげがががぼががじゃぎゃぇががが!!」
 もう後半はマトモな言葉になっていなかった。怒り狂ったフレッドが心臓マゼンタを全身から溢れさせ、火車へ猛吶喊を仕掛ける。ぶつかり合った。血液状のキマイラで武装された拳が、業炎を纏う鬼暴の拳が、互いの顔面へ。
「ッッハハァ!! よぉ愉快な道化面(ピエロフェイス)! 今日もゴキゲンに口から糞タレてっかぁ?」
「てめーは殺す! 殺す!! 殺す殺す殺す!! 絶対に殺す!! 必ず殺す!!」
「『殺す』しか言えねーのかよボキャ貧かてめぇ!? 脳味噌じゃなくって糞でも詰まってんのかぁああ!?」
「うるっせぇええよクソガキャァア!! お前! アレだ! てめーの四肢もいで顔面の皮ァひっぺがして燃えないゴミに捨ててやるァアアア!!」
 凄まじい、言葉と拳による暴力の応酬。蛆虫を踏み潰しながら踏み込んだ火車の拳がフレッドを殴り、怒りの咆哮を上げるフレッドの心臓マゼンタが火車を切り裂く。殺意と殺意のぶつかり合い。
「あらフレッドったら、お友達かしら? うふふ、良い事ですわ!」
 紫杏は相変わらずだった。というより、別にフレッドが聖四郎や教授を超えるのは彼女にとってとても喜ばしい事だ――自分の玩具が凄い事を喜ばない子は居ない。
「全くエマージめ、下らない挑発に易々と乗りおって……マスターの御顔に泥を塗る気か」
 お嬢様の耳に悪影響だと懐刀のベルンハルトは顔を顰める。
 そこへ。
「おいっ!!」
 彼を呼ぶ声。何だ、とベルンハルトが振り返ったそこには――ヘルマンが、幻想纏いより取り出した4WDをキックのシュートでかっ飛ばすという光景が。
「なっ――!?」
 予想だにしなかった展開にベルンハルトは目を見開くも、ジャスティスキャノンを放ってそれを打ち砕く。飛び散るパーツの中、ヘルマンは震えそうな奥歯を噛み締め地面を蹴った。怖い、凄まじく怖い、怖い怖い怖い。
 けれど、怖いままでも立ち向かえればいい。
「はッ!」
 繰り出す蹴撃。ベルンハルトはそれを構えたフォーク:チカチーロの舌Ⅱで受け止めたが、伝わる内部破壊の衝撃に呻き声を漏らした。得物を一振るいすると同時に間合いを開く。
「……なんか貴方、前の懐刀より弱そうですけど、本当にお姫様を守れるんですか?」
 間合いを測りつつ、ヘルマンは挑発の言葉を吐く。ふん、と懐刀は鼻で笑った。
「あんたスタンリーと知り合いですか? ハッ、あんな根暗と仲良しだなんて、程度が知れますね」
「そうですか。役者不足かもしれませんが、あなたの相手はわたくしです」
「ハハハ、オーケイ。死ぬ覚悟は当然おありですよねぇ?」
 厭味な笑い。踏み込み、ベルンハルトが振り上げた得物を全力で叩き下ろした。隕石の様な一墜、メテオクラッシュ。赤が散る。防御に構えたヘルマンの腕が深く裂けた。痛い。血が沢山出てくる。噴き出した血が弧を描く。怖い。でも。怖いけれど。退けない事情があるのだ――絶対に。
 鋭い蹴撃で攻め立てながら、脳裏を過ぎるのは『懐刀』、ここには居ない男。その目を、希望も絶望も何も無い真っ暗な目を、思い出す。そして、思うのだ。ベルンハルトは確かに強い、だが――
「『懐刀』は、もっとずっと、絶対的な恐怖でしたよ!!」
 十字の砲撃を浴びながらも、集中し回し抜いた蹴りの一撃がベルンハルトの頭部を捉えた。土砕掌、破壊の衝撃に彼の目耳鼻口より血が吹き上がる。薄黒くくすんだヘルマンの脚甲に飛び散る。
「……ぐ、ごっ……!?」
 懐刀の自慢は防御力だ。だがヘルマンの使う蹴撃はその防御を無視する一撃。なんと相性が悪い相手か。オートキュアーによって傷を癒すが、それでも。顔中を血だらけに、赤い視界でヘルマンを睨む。執事は口元から垂れる血を拭った拳の動きで、ベルンハルトの持つチカチーロの舌Ⅱを指差した。
「見覚えのあるアーティファクトですね、それはあなたが持ってていいようなものじゃない」
 それは、彼が命を奪ったキマイラ――かつて人だった者が、正義の為と我武者羅に生きていた男が持っていたアーティファクトだった。こんな奴が手にする資格は、無い。垂れた血に滑る拳を握り締めた。

「あら、皆楽しそうね!」
 繰り広げられる激戦に紫杏はころころと笑んだ。さて――その目が捉えるのは、ぐるぐ。紫杏はキマイラから降りていた。そしてそのキマイラとぐるぐが、対峙している。彼女と目が合った。
「ボクは紫杏さんに触れたい」
「困りますわ、アタクシに触れて良いのは聖四郎さんだけですもの――嗚呼、でもプロフェッサーに撫でて貰ったりハグして貰うのも大好きよ」
「ちがうちがう、物理的な意味じゃなくって、本質的な部分」
「本質的な部分?」
 にこやかに紫杏は首を傾げる。本質的な部分――つまりぐるぐはこう言いたいのだ、『独自技を全部見せろ』と。その技はその人を体言する結晶だと思っている。故に、他の情報ソースを求める事はせずに、ただ全力で遊んでもらう為に、ぐるぐはノックダウン・コンボを紫杏への行く手を阻む如意輪戦車へ繰り出した。迎撃にキマイラが放つのは電撃の弾丸、火花が散る。
 それを見、それらを見、戦闘には加わらず静観していた紫杏は頷いた。
「つまり、貴方はこうして欲しいのね?」
 パチン、と指が鳴る。発明品が軌道する。The Room――指を鳴らすと共に現れたのは、戦場を包む薄黒い立方体。
「「――!?」」
 明確に違和感に気が付いたのはヘルマンと火車だった。
「なん、だ……!?」
 繰り出した筈の業炎撃。火車の拳から伝わったのは――『弱い』。自分の力が、いつもの力じゃない。その隙を着いたフレッドのマゼンタγ改が三人に襲い掛かった。物理的な攻撃。である筈なのに、物理に秀でる火車とヘルマンに常より大きなダメージを与える。
 そして理解した。

 物理的能力と神秘的能力が、『入れ替わった』。

「下らねぇ小細工しやがって……!」
 それでも火車が信じるはこの拳。
「どうしたって死ぬ訳にはいかないんですよ、わたくしは!」
 地を蹴る。対峙者へ、ヘルマンは蹴りを繰り出す。
「ほら――貴方がアタクシと遊びたいって仰ったのよ? 鬼さんこちら、手の鳴る方へ。ロンドン橋を渡りましょう、全部が落ちてしまう前に」
 笑う紫杏が指先をぐるぐに向ける。貫通力の高い極細の気糸が一直線に放たれ彼女の脚を貫いた。スーパーピンポイント。奇しくもぐるぐと同じ、プロアデプトか。
「そうこなくっちゃ」
 片膝を突きながらも、不敵に笑んだ。

 遊ぶなら、全力じゃなきゃ退屈でしょ?

●SIDE:A――2
 リンシードのアッパーユアハートによる撹乱は非常に有効だった。先手を打つその手段で仲間がブロックされる事を防ぎ、且つ、常に半数前後のキマイラが彼女に意識を向けているというリベリスタにとっては好ましい状況を作り上げていた。
 だがその代価に、リンシードの消耗は誰よりも早く。そして、『集中』をしたシルバーグレンデルの一撃が遂に少女の身体に深々と突き刺さった。
「……っ、……!」
 見開いた眼。薄い腹部を貫いた銀の杭。ごぼっ、と血を吐いて、意識が赤く、黒く、沈む。そして、今までリンシードが引き付けていたシルバーグレンデル達が他のリベリスタへ向いた。
 リンシードさん、とカイは叫んだ。奥歯を噛み締める。最中にも、絶の放つ全方位レーザー。また、誰かが、運命を消費した。
 リベリスタ程の巧みな戦術を持ち合わせぬとは言え、キマイラもブロックや集中、立ち位置調整を行うようになってきている。リベリスタの思い通りに行動しない。特にグレンデルは液状となる故に『盾』にする事には些か不向きで、シエンは飛行が出来る故に羽をもつ者にしかブロック出来ない。そしてその『巧みでない』部分を凶悪な生命力で補っている。
 望んだのは短期決戦――しかし、しかしだった。ただでさえ、3人分のカードは無い。苦戦。じわりじわりと。侵食される様に。
 だからこそだ、カイは自らの命をコインとしてでも運命を捻じ曲げる賭けに挑む。
「……面白半分で人の命を奪い取る……何時までもいつまでも、こんなろくでもない連中の思い通りにさせてたまるか!」
 護る為。倒す為。繰り出す弾幕。不破不屈であれ。それは二度、激しく戦場を穿ちシエンを撃墜する。
 絶が放つ毒弾――毒の煙に苛まれ、しかし杏樹の銃は真っ直ぐと、狙い定める。霧香とセラフィーナの刃に切り裂かれ、残り一体となったシエンへと。
「全ての子羊と狩人に安息と安寧を。Armen」
 引き金を引く。不可視の殺意でできた弾丸が次々と発射され、シエンの頭部を執拗に狙い打った。爆ぜる。中身が飛び散る。血潮を引いて地面に落ちるシエン――その彼方に、禍々しく浮かぶ巨大キマイラ。鋭く見据え、魔銃の銃口で己が左胸を指し示した。
「私を殺したきゃ、ここに杭でも打ち込むんだな」
 敢えて心臓を強調するジェスチャーで挑発。ならば望み通りと言わんばかりにシルバーグレンデルが銀色の杭を打ち出した。脇腹を深く抉る。だがその足は、堅く地面を踏み締めて。立つ。撃つ。撃つ。
 背中の十字は守る為。その拳とその弾丸が届く全ては彼女の縄張り(サンクチュアリ)。制圧せよ、紅き剣十字の下に。ここは無法領域、無法こそが絶対唯一の法。
 その聖域に守られて、リリは弾丸を放つ。絶が放つ弾丸に彼女自身も血みどろだが、傷付く事など恐れない。硝煙漂う血風に殉教者の法衣が靡く。教えに殉ずる覚悟の証。六道になど屈するものか。

「「AMEN!!」」

 二人の修道女が構える三つの銃口が、蒼い呪弾が、神速の早撃ちが、絶を穿つ。
 霧香も戦羽織に大量の赤を咲かせながらも戦場を駆けた。されどその行く手をシルバーグレンデル達が阻む。
「邪魔だぁッ!」
 裂帛の気合、霧香の姿がブレる――多重の残像、幻影の刃が閃いた。その脇を走り抜け、凪沙はリリの呪いによって高度が下がった絶へ思い切り拳を振り被る。
「喰らえっ!」
 叩きつけるは絶対零度の拳、強襲。

 想定外に長びく戦い――限界が近い。
 ドラマを、全力を、持てる全てを用いても損害は余りにも大きく。おそらく、もうフェイトを使っていない者は居ない。また一人が倒れて、全員が血だらけで、弾む息が掠れていて、足元も覚束ず。
 しかしそれが『諦める』理由になるか?

 答えはNOだ。

 絶とてリベリスタ達の猛撃にボロボロになっている。如何に再生能力があるとはいえ、それを上回る火力で押されれば意味が無い。
「理不尽な洪水を止めるのが私の役目だ」
 絶のレーザーからリリを庇った杏樹は血唾を吐き捨てながら言った。絶対に一匹残らず殲滅してやる。物足りないなんて言わせない。メインディッシュの前に腹一杯にしてやる。
「退くつもりはない。最後の一体まで、骨の髄まで、血の一滴まで、徹底的に喰らい尽くす。覚悟しろ」

 嗚呼。嗚呼。神様。
 やっぱり、私は貴方が嫌いです。
 大っ嫌いです。

 だから、立ち続ける足は、せめてもの反抗。倒れるものか。ドラマをも支配して、杏樹は立つ。
 殺されるものか。
 死なせるものか。
 倒してみせる。
「使命を果たす為、何度でもこの身を差し出しましょう。私はその為に在るのですから」
 放った弾丸は祈りの数。込める火力は怒りの炎。リリは信じる。仲間を、勝利を、自らを。
(見ていますか、六道紫杏)
 夜の彼方。居るのだろう、狂った姫へ。
(私は貴女を認めない。同じ神秘の探求者として、御心と共に歩む者として。貴女の思想と作品、やり方……全てを否定します)
 深呼吸、狙う。照準。
「その為にも、ここで貴女に屈する訳にはいきません――我等に十字の加護よあれ!」
 誰一人として、大切な者を失う訳にもいかない。引き金を引いた。蒼い軌跡を描く魔弾が飛んで行く。
 その身は信じる教えと方舟の為に、邪悪を滅する神の魔弾。遍く敵を攻め滅ぼす瞬間まで、決して止まる事は無い。止まる事など許されない。
「全ての邪悪を否定し、滅せよ!」
 祈りを込められた双弾が絶を穿ち、呪いで蝕む。
 運命を、命を賭けよう。
「あたしの手の届く場所で、誰も死んで欲しくない」
 霧香は櫻嵐を握り直し、凛然と前を見据えた。
 もう誰かの犠牲に助けられるのは嫌だ。
 もうあの時の様な思いをするのも嫌だ。
 二度と。二度と。
「あたしが……あたしの剣が守りたいのは、大切な人達」
 その為なら命だって運命だって、差し出してやる。嗚呼、『誰かの犠牲が嫌だ』なんて、矛盾を抱えながら。それでも。それでも。彼女は。

「絶対に、絶対に守るんだ――あたしの全部投げ出してでも、守ってみせる!!」

 祈った。
 望んだ。
 霧香だけでない、ほぼ全ての者が。
 切実に。狂おしい程に。自らを犠牲に。
 仲間を立ち上がらせる奇跡の力を。
 敵を滅ぼす奇跡の力を。

 されど。

 嗚呼。

 ――運命は、確率は、残酷だった。

●SIDE:B――2
 叩き下ろされたフォークが、ヘルマンの機械化した肩口をごっそりと抉って行った。吹っ飛ばした。噴き出した生暖かい血が頬にまで飛び散る。
「う、ぐっ……!」
 止め処ない血。失血。血を流し過ぎてフラフラする。痛い
「あっはは、そのまま死にくされあそばせ!」
 対峙するベルンハルトも蹌踉めきながらも踏み込んでくる。しかしヘルマンは素早く起き上がると、彼の言葉を大声で否定した。
「わたくしには死ぬ覚悟なんてありません!」
 交差する攻撃。睨ね付け合う。
「臆病者には臆病者なりの覚悟が、死なない覚悟ってのがあるんですよ」
 その為なら、生き抜く為なら、運命だって捻じ曲げてやる覚悟だ。自分は死なないし、仲間も死なせなない。絶対にみんなで帰る為。
 脚にチカチーロの舌Ⅱを突き立てられているのも構わず、無理矢理に押し切って蹴り飛ばした。息を吐く。と――視線を感じて。見た。紫杏が、見ていた。思わずびくりと身構える。すると返って来たのは愛らしいウインクだった。それに、身構えたままヘルマンは訊ねる。乾く咽に唾を押しこんでから。
「六道紫杏、あなたの懐刀はどこへやったんです。もう折れてしまいましたか」
「あら貴方、スタンリーのお友達? うふふ、アタクシがあれを折る訳ないじゃないの。安心して、あれは元気よ!」
 生きてる――彼はまだ、生きている。
「ちゃんと研究所に居るのよ。何処の研究所に居るかは――秘密! でも、元気なのは本当ですのよ。あのね、報告書に書いてあったんですけどね、時々、うわ言みたいに誰かの名前を呼ぶんですって。『ヘルマンさん』って。
 ……あ。ひょっとして、『ヘルマンさん』って、貴方なのかしら?」
「――……、……、……、そうです」
「わぁ! 運命って、不思議ですわね!」
 喜ぶ兇姫。呆然とするヘルマン。立ち上がったベルンハルトが吶喊する。それに応戦しながら――あの人ともう一度、話がしたい。
 もう少しで何かが見えそうだったから。

 一方で。ドラマを支配し踏み止まった火車の拳がフレッドへ――ヘルマンと紫杏のやり取りを気にした隙を突いて、叩き込まれる。
「言ってんだろ? 余所見してんじゃあねえッ!!」
 体に喰いつく蝿を腕に一振りで薙ぎ払い、踏み潰し、血と焔で真っ赤に染まった火車は歯列を剥き出した。拳に燃える『爆』の文字。火炎。忌々しい、フレッドは怒りを露わに身構えた。火車に向けて広げる手――この動作は。知っている。故に、『チャンス』だ。
「もうバレてんだよ! ソレは! 何度も同じ手……っ ……喰うかボケェ!!」
 先手を打って踏み込んだのは火車。振り被った拳が、叩きつけられる。フレッドの腕。ぐしりと鈍い音、彼の腕があらぬ方向を向いた。
「~~っ 痛くねぇ、痛くねぇよ、テメェの拳も、火も!! 痛かねぇんだよクソがぁああ! これで終わりだ!!」
 痛覚遮断、火炎無効、ただただ憎き火車殺戮を目標にしているが故。拉げた腕で無理矢理に放つベルゼビュートの召使い。わんと湧く蝿が火車へと襲い掛かる。
「『これで終わり』だとぉ……?」
 しかし火車は後退をせず、大きく踏み込む。
「『ここからが本番』だろぉが!!」
 逆境。底力。起死回生。言葉通り。愚連-紅蓮の火の二枚羽で飛び来る蝿を往なし回避し、叩き付ける業炎撃。
「テメェ等の苦痛に歪む 顔と悲鳴が心地良くってなぁ……?」
「そのスカした態度が気に喰わねぇッ……ブチ殺してやるァ!!」

 轟音。

(高純度の輝きはきっとぐるぐさんをより本物に近づけてくれる)
 もっと遊ぼう、遊ぼう遊ぼうとぐるぐは語る。死なないとか、死んでもいいと思っている訳も無く、遊びたい時に遊ぶのに全力でいつも通りに過ぎない。だから紫杏はそれに応える。何かを唱えた。複雑怪奇な数式の様にも聞こえた――瞬間、真っ黒な匣がぐるぐを閉じ込める。
 犯罪王の密室定義。それは完全なる密室殺人。トリック不明の極殺攻撃。
「ほら、貴方がやってやってと言うからやったわ? 貴方は何をして下さるのかしら」
 紫杏は戦うつもりは無かった。部下とキマイラに任せるつもりだった。それでも、全力な人には好感が持てるから。
「……っ、」
 フェイトを燃やし、ぐるぐは立つ。そしてそれは『撤退』を意味していた。追撃せんと放たれた如意輪戦車の砲撃を辛うじて躱し、ぐるぐは走り出す。逃げる為。
「また遊ぼーね」
「さようなら、ひょっとしたら永遠に」
 はいそうですかと逃がす六道ではない。一斉砲撃。弾幕の中。
「宮部乃宮てめぇまた逃げやがんのかコルァアア!! 逃がすかァア!」
「やかましいわ最初から最後までテメェは邪魔してねぇでウジウジしてろよボケがっ!」
 マゼンタΩ改、全員を襲う衝撃の中、火車はぐるぐとアイコンタクトを取る。頷いた。そして、

 飛んだ。

 ヤケになってビルから飛び降りたのではない。火車を掴んだぐるぐが翼を広げる。速度を上げて滑空する。
「飛行ならまかせろー」
「また遊んでやるからよ?」
 振り向き様、火車は挨拶代りに中指を立てた。

「今更逃げる気ですか!? 私を放置する気ですか!?」
「そうに決まってるじゃないですかっ!」
 一方のヘルマンもベルンハルトの猛攻を突っ切り、全力で走り、駆け抜け、走っていた。ビルの壁を。面接着。90度の世界。両足を同時に話したら落ちる、落ちて死ぬ、でもゆっくりしていても死ぬ、ならば走る他に無い。背中を重力が押す。走る。生存執着の儘に走る。今更ながら腕が痛いのを思い出した。あと、肩も、胸も、腹も、どこもかしこも、そう言えば傷だらけじゃないか。ああ怖い。だから走る。

●SIDE:A&B
 深い森の中、3人は合流した。全員が全員酷く傷付いている。こんな状態で追撃なんぞされようものなら、それこそ全滅だろう。だがその気配は無い。否、『無い』と自分達が勝手に思い込んでいるだけかもしれない。
 迅速に書けた。仲間達と合流する為。急いで走った――先程から、全く連絡が繋がらないから。

 斯くして、3人は見る。

 静寂の中。全身に酷い傷を追って、血沼に沈む仲間達を。
 それが意味する事は――
「……!」
 ヘルマンが振りむいた先は、街が在る方向だった。

 彼方に見えていたその灯火は、

 ……壊されていて。

●SIDE……
 赤い――赤い――赤い――赤い――何もかもが、誰も彼もが――
 ゴボリ、と。街の排水溝に、血が満ちる。死が満ちる。

 でも、こんなものじゃない……
 キマイラが『完璧』になれば――もっと――

 その為にも――……



『了』

■シナリオ結果■
失敗
■あとがき■
メルクリィ:
「お疲れ様です皆々様、……今はゆっくり休んで、傷を疲れを癒して下さいませ」

 だそうです、お疲れ様でした。
 絶ユニットは10人でも十分ハード足り得るエネミーです。故に10人でも勝利する為には相応の立ち回りが必要です。それを7人、となればもっと念入りな立ち回りが必要となります。敵は思い通りに動いてくれるものではありません。

 MVPはリンシードさんへ。敵がブロックできない状況を作り出す手、非常に有効でした。心意気もクールです。

 ご参加ありがとうございました。