●六道 「は? 今なんていいました?」 六道の研究室の一つに間の抜けた声が響いた。 「出撃だ。キマイラ『サムライ』を出すぞ、って言ったんだ」 「そりゃ構いませんが……」 歯切れ悪くその研究員は承諾した。命令をした六道のフィクサードもその気持ちはわかると、表情で同意していた。 「何で今更『サムライ』なんですか? 確かにここ数ヶ月の研究で『ダウン現象』の発生率もほぼなくなって、キマイラの完成度は高まりました。『サムライ』は確かに戦闘力も高く安定したキマイラだと思います。 ですが、リベリスタへの襲撃なら先にだしたの『マギス』との融合体の――」 「判ってるよ、そんなことは。そいつは本番用だ」 「本番?」 「この襲撃は『余興』なんだよ。気まぐれな『兇姫』様のな。 曰く『前菜があるからメインディッシュが引き立つのですわ』だそうだ」 「うへぇ。ご機嫌だな。逆凪の彼氏とイイコトでもあったんですかね」 「余計な検索は命を縮めるぜ。事情はともかく正式な出撃依頼だ。口よりも手を動かせ。 データの最終調整もこの襲撃に重ねるぞ」 ●キマイラ 港に立つ一人の男。ボロボロの着物を羽織り、手にした日本刀も、所々刃こぼれしている。 だがその立ち様に隙はなく、その表情は鬼気迫るものだ。 はるか遠くの船に、自らを改造した者たちがいる。町に行き、殺戮を。その命令に逆らうつもりはない。殺すこと、戦うことは大好きだ。 「我、悪鬼羅刹の具現。立ちふさがるものは武を持って排除するのみ」 妖刀に集う幽鬼がその声に応じるように叫びを上げる。饗宴の始まりを楽しむように。 ●アーク 「正体不明のエリューションが街に向かっている」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は集まったリベリスタたちに向けて淡々と説明を開始する。 「フェーズ不明。分類不明。過去に報告例があるけど、『万華鏡』では正体が捕らえきれないエリューション。六道のフィクサードが絡んでいるのは確か」 イヴの言葉と同時に、モニターに映像が写し出される。第一印象は『映画に出てきそうな貧乏素浪人』だ。時代錯誤の服装と手にした日本刀以外は普通の人間に見える。 「推測だけど『ノーフェイス』と『刀のEゴーレム』が混じっている。あと『Eビースト』もあるみたい」 「……うわ」 『万華鏡』が予測した能力を見て、リベリスタは呻きを上げた。単純に『人に似たエリューション』との戦闘と思っていたのだが、そうでもないらしい。 「ダメージを受けた刺激でEビーストの一部が体から生えてくる。その分攻撃力もあがるし、敏捷性も増す。追い込めば追い込むほどノーフェイスよりもEビーストに近くなる」 「かといってダメージを与えないわけにはいかない、か。面倒だな。 ――で、六道のフィクサードが今回も絡んでいる?」 「ん。遠くからこのエリューションの動きを観察している。 こちらの戦いに積極的に手を出すわけではないから、相手にしなくていい」 「いい気分ではないけどな」 相手が相手だ。そっちに手を割いている余裕はないだろう。 「このエリューションが街までいけば、多くの人が殺される未来が見えている。それだけは防いで。 けして楽観はできない相手だけど、皆ならできるって信じてる」 イヴの言葉に背中を押されるように、リベリスタたちはブリーフィングルームを出た。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2012年11月11日(日)00:08 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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● 「回復じゃー!」 「いっぱい治すからねっ!」 『回復狂』メアリ・ラングストン(BNE000075)と『いつか出会う、大切な人の為に』アリステア・ショーゼット(BNE000313)の光がリベリスタの傷を癒す。 鬼気として、そして喜々として刃を振るうキマイラ『サムライ』。その攻撃力は高く、回復を使うものは最初から全力で神秘を行使していた。その『サムライ』の姿を恐ろしいものを見る目でアリステアは見ていた。 「……ねえ? あなたはなぜ戦うの?」 「そこに斬る者がいるからだ」 例えば大切なものを守るため、とかだったら分かる。だが戦いそのものが目的、というのはアリステアの想像できない相手だった。剣士と呼ばれる人はアークにもいる。その中には粗野な人もいれば、血を好む人もいる。だけど、このキマイラはその上を行く狂気だ。 「ふふ、ふふふ、ふふふふふ」 「って、何してるのシャルロッテちゃん!?」 アリステアは自らの体を傷つける『初めてのダークナイト』シャルロッテ・ニーチェ・アルバート(BNE003405)を見て、驚きの声を上げる。こっちはこっちで違う狂気だよぅ。 それはともかく、シャルロッテは自らの傷の痛みをオーラに変える。夜を思わせる黒いオーラが矢尻に集う。オーラで鋭さを増した矢が『サムライ』に放たれた 「……私は外さないよ?」 「火力のために自らを傷つけるか。見事なりその覚悟――むっ!」 言葉と同時に刃が煌く。鍛えられた刃と刃が交錯し、そしてすぐに離れる。 「あたしは剣士の貴方と戦いたかった」 強さのために六道に魂を売る。『禍を斬る剣の道』絢堂・霧香(BNE000618)はそのことが許せなかった。鋭い一撃は『サムライ』がかなりの鍛錬を重ねたことがわかる。だからこそ。 「リベリスタ、新城拓真」 『サムライ』の真正面に立つ『誰が為の力』新城・拓真(BNE000644)。手には打ち刀と自動拳銃。鞘から刀を抜き、静かに問いかける。 「剣を交わす以上、そちらの名を聞きたい」 「名は捨てた。ここにいるのはただの悪鬼。そして汝の名、墓標に刻むまでは覚えておこう」 「悪鬼だろうがかまわない。まだ人の部分があるのなら、俺は剣士として相対しよう」 「温いな」 どれだけ誹謗されようが、拓真にとってはかまわない。その拘りこそが『拓真の道』を歩む自分にとって重要なことだから。霧香も同じ思いで刀を振るう。 「虎鐵、絶対に倒すぞ」 「当たり前でござる。雷音が見ていれば百人力でござる!」 『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)の指揮が伝わる中、『自称・雷音の夫』鬼蔭 虎鐵(BNE000034)は長年使っている日本刀を抜いて『サムライ』に正眼に構える。そのまま気合とともに相手に打ち込んだ。同タイプの剣士。虎鐵はその一合で相手のタイプを理解した。おそらく元はデュランダルだったのだろう。だが、 「おぬしの刀には魂が籠もってないでござるな!」 「刀に魂など不要。人を殺せる技術があればいい。否、必要なのはエリューションすら滅ぼす業!」 「戦いだけを求める修羅。その言葉に偽りなし、ですね」 その攻防を見ながら『蒼銀』リセリア・フォルン(BNE002511)は気迫に飲まれないように愛刀『セインディール』を握り締める。力ではなく速度で刀を振るう武技。リセリアの剣閃が光を生む。その残滓が消え、『サムライ』の肌に赤い線が残った。 「その凶気に塗れた刃、此処で討ち祓わせていただきます」 「その身で味わうがいい。獣の力と妖刀を得た我が刀技を」 「3つ合わせたからスゴイ強い? 馬っ鹿じゃねーのー、1×1×1は1だろー」 『サムライ』の言葉を笑い飛ばすように『世紀末ハルバードマスター』小崎・岬(BNE002119)は言う。そのまま禍々しいハルバードを振りかぶる。重量の乗った一閃は鋭い風の刃を生み、『サムライ』を袈裟懸けに傷つける。 ――ふざけているように聞こえる岬の言葉は、実のところ正鵠を得ていた。複合の力を得た『キマイラ』はそれらの特性を含めたとはいえ、『一体』なのだ。突破口はそこにある。とはいえ、 「油断されるな。数に勝るとはいえ相手は六道の『キマイラ』。隙を見せれば苦汁をなめるのはこちらだ」 『生還者』酒呑 雷慈慟(BNE002371)がそんな岬をたしなめる。岬は「わかってるよー」とほほを膨らませながらそれに応じた。乱戦の間隙を縫うように一匹の鳥が六道の船に向かって飛ぶ。五感を共有させた使役動物。それを六道の船に向かって飛ばす。 「六道。キマイラを使い、何を企てているのだ……?」 戦闘に意識を向けたまま、六道の船に鳥を向かわせる雷慈慟。完成に近づくキマイラ。六道の動向を探れば、その『先』がわかるかもしれない。 「六道のお姫様主導の研究もいよいよ佳境ということなのでしょうか?」 リベリスタたちとエリューションの配置を想像し、効率よく回転するように指示しながら『子煩悩パパ』高木・京一(BNE003179)は思考にふける。襲撃を重ねるごとに完成度が高くなる。皮肉なことだ。平和を守るためのリベリスタの行為が、逆にキマイラの完成度を高めることになるとは。 「皆さん、生きて帰りますよ」 「了解した。高木殿」 京一の指示に従いながら『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)がナイフを構える。その動きは『人を効率よく無力化する』ことに特化した軍隊格闘技。ウラジミールは相手の間合いを計りながら、じわじわと距離を詰めていく。 キマイラの完成体。それが生まれればどれだけの被害が発生するのか。その放置はできない。先ずは目の前の敵を排除するのみ。スイッチを入れるように、長年使っている言葉をウラジミールは口にした。 「任務を開始する」 ● リベリスタの作戦は二方向からの挟撃である。広範囲に攻撃を仕掛ける『サムライ』の被害を減らすためである。 先手を取ったリセリアを筆頭に岬や虎鐵が攻めると同時に、『サムライ』を挟むようにウラジミールや拓真が動く。その後ろから二手に分かれた後衛が届く範囲でそれぞれの班を回復する形である。そのまま『サムライ』を傷つけていくリベリスタ。 「おおおおおおお!」 ダメージの蓄積がキマイラの体に変化をもたらす。刀を持っていない腕に巨大な牙のようなものが生えた。 「見極めさせてもらうぞ」 ナイフを手にウラジミールが変化した腕に切りかかる。足元の石を拾うように緩やかな動きで腰を落とし――気がつけば跳ね上がるようにナイフは振るわれていた。流れるようにナイフは繰り出される。それでいて防御の隙がない。変化した右腕の動きを、うまく制限していた。 「改造されて得た力を振るって満足なのですか」 リセリアは獣のようになる『サムライ』を見る。自ら望んでキマイラ手術を受け入れたのだろうか。そこまでして力がほしいのだろうか。家族にあこがれて神秘の世界にとどまるリセリアには理解できない感覚だ。 「――哀しいですね、修羅に墜ちるという事は」 修羅の刃を紙一重で回避し、リセリアは『サムライ』の境遇に同情した。強く力を求めた結果、倫理を踏み外す。彼も元は清らかな心で武を嗜んでいたのだろう。 「まったくでござる。ああはなりたくないでござるなぁ」 虎鐵は愛刀で『サムライ』に斬りかかる。元フィクサードの虎鐵は、一歩間違えれば修羅になっていた可能性がある。もしかしたら目の前のキマイラは、虎鐵がそうなるかもしれなかった可能性のひとつだったのかもしれない。 (――そうならなかったのは、雷音のおかげでござる) 後ろで戦う少女のことを思う。修羅になれなかった理由のひとつ。修羅にならなかった理由のひとつ。絆という半分の糸がつながる限り、虎鐵は修羅になどなるはずがない。 「人であるなら、その心にこの剣を」 拓真は大地に足を踏みしめ、体中の筋肉を引き絞る。ただ力をこめて硬くなるのではなく、弓の弦のように柔軟に力をこめる。裂帛とともに一歩踏み出し、力を刀にこめて一気に振り下ろす。肉を裂く確かな手ごたえ。 「獣であるなら、その身体に剣を刻み付けよう。我が武、存分にご覧あれ!」 幼きころから鍛え上げた双剣スタイルを捨て、我が武の道を進む。時に斬り、時に撃ち。変幻自在の攻防を見せながら拓真は『サムライ』の心と体に剣を刻んでいく。 「他人に求めて手に入る程度の力とか、高が知れたもんに決まってんだろー」 岬は自分の身長以上の斧槍を振るう。『サムライ』が得た力は確かに強い。だが、その強さは六道の強さによって得られたものだ。 「百鬼夜行の時に会ったサムライとは大違いだよー」 いまだ目覚めない岬の破界器『アンタレス』を握り締め、三ツ池公園出の戦いを思い出す。斬った分だけ強くなるアザーバイド。それに比べれば他人に与えられた強さ程度恐れる道理もない。仮初めの修羅に向かい、恐れることなく『アンタレス』を振り下ろす。 「毒を癒すのは私が。アリステアさんは傷のほうを」 「ありがとう。高木のおじさんっ」 京一が毒を癒す神秘を施せば、アリステアがリベリスタの受けた傷を癒す神秘を味方に施す。二分された戦場のすべてに神秘は届かない。届かせようと近づけば『サムライ』の餌食になる。 「やれやれ。攻撃する余裕がありませんね」 京一は戦闘に入ってからずっと癒しの神秘を施している。余裕があれば攻撃を仕掛け用と思っていたのだが、そんな余裕はない。 「? 高木のおじさんも戦いたいの?」 「いいえ。ただ全力で癒せばいずれエネルギー切れでたおれてしまいそうなので」 「それまでに倒すしかない」 雷慈慟は不安になる後衛に静かに告げる。『サムライ』に気の糸を放って注意を引きながら、その都度飛んでくる攻撃に肝を冷やす。 「すまないがこの回復層あってのこの作戦だ。二人には全力でお願いする」 その言葉にうなずいたことを確認した後で、雷慈慟は戦場を注視する。キマイラを少しずつ追い詰めていくリベリスタたちの動き。時に交互に、時に同時に。時に波状に。 メンバーをを二分する作戦は、被害を分散させるという意味でうまくいったと言えよう。 だが二分することのデメリットも存在する。 (……まさ、か) そして『サムライ』の動きがそのデメリットをつくような動きをしていることに、雷慈慟は気づいた。 ● メンバーを分けるということは、戦力を二分することに等しい。 総合的な戦力は変わらないが、二分しているので片側を一点集中されると突破される可能性があるのだ。 『サムライ』は二刀のときに貫通攻撃を連続していた。回復役のメアリを狙って。 「……っ!」 度重なる攻撃にメアリは膝を突く。倒れたメアリの代わりに雷音が回復に回ることになる。 「雷音っ!」 「安心しろ、虎鐵殿。雷音嬢は私が守る」 集中砲火の可能性を考慮して雷慈慟が回復を行う雷音を庇う。その分火力は減るが、彼女が倒れればこの班の戦線は崩壊する。 (何だ……。理性が吹き飛んでいるのに、この的確な動きは?) 雷慈慟の疑問に答えたのは、彼が庇っている少女からだった。 「あのキマイラは、誰かに操られているように見えるのだ」 雷音は魔術的な視線でキマイラを見て判断を下す。アーティファクトか何かでコントロールされているような動きだ、と。 誰に? 考えるまでもない。雷慈慟は使役動物の五感を通じて『六道』の方に意識を向ける。 「……そのまま攻めろ。……次は……」 風に乗って聞こえるのは、確かに戦場への指示。邪魔をするか、と思ったが使役しているウミネコでは高が知れる。キマイラ打破に意識を向けた。 そして『サムライ』の形状が変わる。腕が生え、さらに動きが増す。四本の腕が繰り出す斬撃。その動きはもはや獣に近かった。 「雷音の前では……倒れないって決めてるのでござる!」 「まだ、倒れませんよ!」 虎鐵とリセリアがその攻撃に膝を突く。運命を燃やして立ち上がるが、疲労は大きい。 「まだだよっ! 六道に魂を売ったあなたの剣では倒れてやれない!」 「ああ、六道の研究成果を認める訳にはいかない!」 霧香と拓真も剣を杖にして立ち尽くす。運命を削り、悪魔に魂を打った修羅を睨む。 「いよいよと化けて来たな。あと少しだ」 「うんっ! いっきにいこう!」 「ええ。ここが堪え所です」 ウラジミールが傷口を抑えながらナイフを構え、アリステアが癒しの歌でその傷を癒す。京一の指示の元、リベリスタはキマイラに破界器を集中する。 「武辺を気取る事も出来ねー半端野郎をぶっ潰しに行くよー、アンタレス!」 「ふふふふ、私の傷をあげる」 岬とシャルロッテが『サムライ』の爪の範囲外から攻撃を仕掛ける。この距離なら相手の攻撃は届かない……と思っていたところに飛んでくる怨嗟の声。 「爪と死霊の声の二連撃……!」 「このタイミングでエネルギーを削りにくるとか、本当にいやらしい戦略だな!」 キマイラは爪で自らの周りにいるものを傷つけながら、回復を行うアリステアと京一を中心に、エネルギーを削りにくる。霊的な加護の強い二人は早々倒れることはないが、それでも気力を削られて、回復の神秘回数を制限されるのは嬉しくない。 そして――『サムライ』が最後の形態になる。妖刀が体に飲み込まれたかと思うと角のように額から生え、その顔も鋭く変化する。後もう少し。そこまで追い込んだ証だ。 だがリベリスタの疲労も激しい。気を抜けば負けると、誰もが理解していた。 ● キマイラは獣のように地に伏せ、全身の力を使って縦横無尽に駆け巡る。主な狙いは倒れたメアリがいるグループ。リセリアと虎鐵がその突撃を受けて地に伏した。岬が運命を燃やし、雷慈慟も己の運命を削って意識を保つ。 「流石の悪意合成体か……だが だからこそ!」 「酒呑さん! エネルギーの回復を!」 京一が『サムライ』が切り刻んだ切り傷を癒す光を放ちながら、雷慈慟に視線を向けて叫ぶ。自らに仮面をつけて冷静さを保つ京一は、常に二手三手を先読みして動こうとする。だからこそ現状の危険さがわかる。退くべきか、まだいけるか。今その境界線にいることを。 「ひゃっはー! いくぞー、アンタレス!」 倒れたリセリアと虎鐵の代わりに岬が入り込む。斧槍の重量を最大限に生かすような岬の動き。その凶悪な破界器に注目されがちだが、岬の真価は『この斧槍を使いこなすことに特化している』ことにある。自らをそのために鍛え、そしてただまっすぐに戦いに挑む。それが岬の強さ。 「これが最後の回復だよっ!」 アリステアが癒しの光を放つ。回復専門と称する彼女とはいえ、高コストの回復を連続で行えばいつかは回復の神秘も途絶える。マナを取り入れながらの神秘行使もこれが限界だ。 「……っ!」 戦闘開始から『サムライ』を抑えていたウラミジールが、獣の一撃を受ける。自らの運命を削って全身に力をこめる。口から血を流しながら獣の頭をつかんだ。交錯する獣とウラミジールの視線。攻める者と護る者。その意地が一瞬ぶつかった。 その一瞬が好機となる。 キマイラの欠点――それは単体であること。協力し合うリベリスタだからできる連携攻撃。一瞬の間にリベリスタは動く。 「終わらせろ」 「俺が志すは正道、自身の力と技を練り上げてこその武」 ウラミジールの言葉を受けて拓真が走る。世代を超えて受け継がれる精神と戦闘技術。それにより磨かれた心技体。それを人は『武』と呼ぶのだ。 「俺はただ歩み続ける。この命ある限りこの道を──」 その一撃は生死を問う一撃。拓真の一撃は『サムライ』の首を刎ね、その生命活動を停止させた。 ● キマイラの首が地面に落ちてから数秒。リベリスタは誰も動くことができなかった。 「終わった……ぁ」 最初に膝を突いたのはアリステアだった。精根尽き果てたとばかりに膝を突いて崩れ落ちる。 「遺体は……相変わらず残らないか」 力尽きたキマイラが溶解していくのを見て、ウラミジールが息を吐く。過去のキマイラ事件でもあった事例だ。自壊用の処置が施されているのだろう。用意周到なことだ、と軍帽の位置を直す。 「雷音、大丈夫でござるか!? 怪我はないでござるか!?」 「……それはボクの台詞なのだ」 虎鐵は倒れたまま雷音の手をとって心配し……当の本人に呆れられていた。受けたダメージは無事とは言いがたいが、緊急を要するダメージではない。 「六道は?」 「あそこです。相変わらず足の早い」 問いかけるリセリアの声に京一は指を向ける。遠く消えていく船の姿がそこにあった。 怪我人に応急処置を施し、アークに連絡を入れる。怪我人は多いが、それでもアークの勝ちだ。 雷慈慟は使役動物を六道の船から離れるように命じる。去り際にウミネコの五感を通じて聞いた彼らの会話。それを思い出す―― 『悪くない結果だ。あの数を相手に善戦したな』 『これでデータ調整は完了した。仕上げに入るぞ』 『あの作戦に間に合わせるぞ。もうすぐ出番だ』 『最終ナンバー――ナタク』 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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