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風にのって

●殺戮への欲求は恍惚感を伴って
 渡されたのは、腕輪。
 古めかしいデザインのそれは嵌める気にもならなかった。
 けれど身体が勝手に動く。
 右腕に腕輪を持って。左手が腕輪を受け入れて。
 あぁ、戦いたい。
 戦って、戦って、人を殺してみたい。
 恍惚とした感情がわきあがる。
 これを渡して消えた知らない人。
 あなたはどうしてこれを私に託したの?
 私はどうしてこれを受け取ったの?
 私が人殺しになることを望んでた?
 でも――いいや。
 人殺しってなんだか気持ちよさそうなんだもの。
 あー、早く獲物が来ないかな?

『黒い突風』天神・朔弥(nBNE000235)は携帯を弄っていた。
「依頼の話じゃないのか?」
 さっさと話せよ、と言外に促され朔弥は携帯を閉じる。
「女子中学生がノーフェイスの殺人鬼になった」
 語りだす依頼の内容に顔をしかめながらそれでもフォーチュナとしての役割を果たす。
「原因はその女子中学生が左腕に嵌めてる腕輪型のアーティファクトだ。
 短時間で脳を寝食し、『人を殺したい』という欲求にもっていく。
 で、人を殺している最中にエリューション化したがフェイトは得られずノーフェイスになった」
 少女の名前は高田 マイ。
 目立たない、大人しい少女だったという。
「アーティファクトは殺戮衝動を呼び起こす他、装着者に風を操る能力を与える。
 これは訓練次第でかなり強力な武器になるようだ。
 あと、装着者の身体能力の限界の箍を外す。
 ノーフェイスとアーティファクトの力は相当なものだから単体とはいえ苦労するかもしれない。
 まあ作戦次第だろうが。
 攻撃方法は風を巻き起こした竜巻をぶつける、風の爪を作って飛ばす、あるいは切り裂く。それに肉体による打撃攻撃が主だな。
 竜巻は全体攻撃だから注意してくれ。
 エフェクトとしては戦鬼烈風陣にちかいかな。
 風の爪は何ていえばいいかな。空気を圧縮させて刃物のようにするというか。
 原理的にはカマイタチに近いかな。
 食らったら切り傷位じゃ済まないだろうが。
 このマイって子、風を扱うのにかなり長けていると見てよさそうだ。
 油断はするなよ。
 ――アーティファクトを与えた人物に関しては調査中だ。
 アーティファクトの影響で目に付いた人間を殺そうとする筈だから話は難しいだろうが……もし葬った後で墓参りに行く気があるなら、花でも供えてやってくれ。植物が好きだったらしいから」



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:秋月雅哉  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 2人 ■シナリオ終了日時
 2012年11月06日(火)23:18
アーティファクトによって人生を歪まされた少女の殲滅依頼です。
風を操るので簡易飛行が可能。
攻撃方法はオープニングの通り。
風に乗って勢いをつけて突っ込んでこられると陣形が崩れる危険があります。

よろしくお願いいたします。


参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
デュランダル
日下禰・真名(BNE000050)
ソードミラージュ
仁科 孝平(BNE000933)
インヤンマスター
石 瑛(BNE002528)
クリミナルスタア
イスタルテ・セイジ(BNE002937)
レイザータクト
ミリィ・トムソン(BNE003772)
ナイトクリーク
月野木・晴(BNE003873)
クロスイージス
斎藤・和人(BNE004070)
ナイトクリーク
アーサー・レオンハート(BNE004077)
■サポート参加者 2人■
スターサジタリー
劉・星龍(BNE002481)
ホーリーメイガス
石動 麻衣(BNE003692)

●風を操る少女
 廃ビルの屋上。
 時折つむじ風が巻き起こる。
 高く澄んだ少女の笑い声が響いた。
 どこか狂的なその笑い声に呼応するようにつむじ風の勢いが増す。
「きゃははっ!」
 女子中学校の制服のスカートが翻る。
 少女の身体が浮いた。
「最っ高! これで殺せる獲物がきたらいうことないのに!」
 目は正気の光を失ってどんよりと曇っている。
「あれ……?」
 少女――高田 マイは夜間の廃ビルのフェンスの上に立った。
 風を調整して落ちないようにする。
 自分がいる廃ビルに入ってこようとしているのは何人かの人影。
「ラッキー♪ 漸く人が殺せるのね」
 マイは口元をゆがめて笑った。
 腕には古びた腕輪がはめられている。
 このアーティファクトの力によってマイは風を操る力を手に入れた代わりに自我を失いつつあった。
 今の彼女にあるのはアーティファクトが与える殺戮衝動のみ。
 彼女の心は空っぽだった。
 空穂のように。
 控えめで、穏やかで目立たなかった高田 マイという少女はもう何処にもいない。
 いるのはアーティファクトに支配されたノーフェイスだ。

『御嬢ちゃんにこれをあげよう』
『……いえ、あの』
『つけてごらん。悩みも嫌なこともなくなるよ』
『あの……私、は……』
 つけてごらん。もう一度囁かれる。
 手が勝手に動いて古びた腕輪を受け取っていた。
 脳が警告を発しているのに腕の動きは止まらない。
 左腕にはめられた腕輪はまるで生まれた時から其処にあったようによく馴染んだ。
 頭が爆発するんじゃないかと思う量の『何か』が腕輪を通じて入り込んでくる。
 あぁ、私、壊れるのかな――……。
 それが高田 マイの途切れる前の最後の意識だった。

「嫌なこと思い出しちゃった」
 ふわり、とフェンスから降りて屋上から屋内へ繋がるドアを眇める。
 もうじき獲物がくるはずだ。
 待ちに待った、獲物が。

「人生なんて何時でも何処でも狂う機会は転がっているわ。
 神秘か人為か自然か程度の違いよね、悪意がありそうな分だけ人の所為にしやすくて良いんじゃない?」
『夢幻の住人』日下禰・真名(BNE000050)がくすくすと笑いながら屋上を見上げる。
「アーティファクトによってノーフェイスとなった少女。
 残念ながら彼女をごく普通の生活に戻すことは困難の模様、ならば、僕達は彼女によって犠牲者が生み出されぬようにするのみ。
 そして、可能ならば彼女がノーフェイスとなった原因を調べることが出来るようなものを持ち帰るのみ」
『宵闇に紛れる狩人』仁科 孝平(BNE000933)は一度唇をかみ締めたあと廃ビルのドアを開いた。
「まだ中学生なのに、人殺しの道具にされるなんて不憫ですね。
 もっと早く出会っていれば元の生活に戻してあげられたかもしれないのに残念です」
 強結界を張って人が出入りする可能性を低くしてから『蒼輝翠月』石 瑛(BNE002528)が続く。
「アーティファクトのせいでこんな事に……心が痛みます」
 眼鏡の奥の青い瞳を伏せて『メガメガネ』イスタルテ・セイジ(BNE002937)が沈痛に呟いた。
「彼女もまたアーティファクトによって、人生を歪められてしまった一人なのですね。
 それはきっと、よくある話。
 よくある話ですが、それだけに気が重い。
 世界はソレだけ悲劇に満ち溢れているのだから。
 それでも見過ごしてしまえば、多くの人が傷ついてしまうから。
 任務開始。さぁ、戦場を奏でましょう。
 ――悪しき夢に、終焉を」
 静かに、誓うように言葉を紡ぐ『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)が歩を進める。
「おー怖ぇ怖ぇ。
 いきなりンな腕輪渡して消えた奴がいんの?
 ちょっとしたテロじゃんそれ。
 そんなんで人間辞めさせられるとかさ、こーやって殺されるハメになるとかさ、絶対嫌じゃん、誰だって。
 今回は腕輪渡したヤローの事は分かんねーみてーだけど。
 ……取りあえず、仕事をしますかね」
『住所不定』斎藤・和人(BNE004070)がわずかに顔をしかめて呟く。
「アーティファクトを渡されただけの少女を倒すのは心が痛むが、エリューション化しフェイトが得られなかったのであれば致し方あるまい。
 崩界を防ぐため、そしてその手を罪で汚させないためにも、ここで倒して終わらせるとしよう」
 アーサー・レオンハート(BNE004077)が眉を寄せたあと決意を固める。
 五階建ての廃ビルの階段を登り終え、後は屋上への扉を開くのみ。
 プロストライカーを事前付与することによって集中力が極限まで高まり、それによって異常に強化された動体視力でコマ送りの光景を眺めながら『デモンスリンガー』劉・星龍(BNE002481)が頷く。
『おとなこども』石動 麻衣(BNE003692)も突入の準備が出来たことを示すように頷いた。
 足元から意思を持つ影が伸び上がり、術者である『紺碧』月野木・晴(BNE003873)の戦闘援護の準備を整えたのとミリィがタクティクスアイで驚異的な範囲の視野を手に入れたことを確認してから孝平が自身もトップスピードで全身の状態を速度に最適化し、反応速度と身体能力のギアを大きく高めてから扉を開く。
 自然のものではない風が吹き抜けた。
「あっは、いらっしゃい」
 楽しげな声に十人のリベリスタたちは若干眉根を寄せる。
「どうしたの? 私と楽しいコ・ロ・シ・ア・イ、してくれるんでしょう?」
「俺月野木晴だよー。君は?あ、あとお花何が好き?」
「高田 マイ。中学生よ。……お花? あぁ……前は好きだったけど今は人殺しに興味津々なの。楽しませてねっ」
「中学生。じゃ、同い年くらいかな。人殺しって、それほんとに楽しいの?
 ふーん……俺にはよくわかんないや! 3回考えてわかんなかったら投げる主義だし!
 んーでも君のやりたいようにやったらいいと思うな!
 俺は俺でやりたいようにやるっていうか、今回はまあ君の邪魔する事になるわけだけど」
「きっと楽しいわ。考えただけでドキドキするものっ」
 マイが腕輪をはめた左腕を掲げると突風がリベリスタたちを襲う。
 中には真空の刃が潜んでいた。
「御機嫌よう。
 貴女が誰かを傷つけてしまう前に、私達は貴女を止めに来ました」
「余計なお世話だよ。私は人を傷つけたい、殺したいんだから。
 貴方たちから殺してあげる」
 風に乗って高速で距離を詰めるマイが先頭にいた孝平の身体を風の爪で切り裂く。
「今のうちに陣形を!」
 その一撃を敢えて受けた孝平の言葉によってマイを取り囲むような配置で陣形が組まれた。
 ミリィが自身の持つ攻撃のための効率動作と防御のための効率動作を瞬時に仲間と共有することで全員の戦闘能力が大幅に高まる。
「人を、殺したいのでしょう?
 獲物を、望んでいたのでしょう?
 貴女の望んでいたものは、此処にあります。
 終わらせましょう。更なる悲劇を断ち切るために」
「あっは♪ 話が分かる人って好きよ」
 ミリィの言葉に再び突風が吹き荒れる。
「ところで夜の屋上って冷えますし中に入りませんか?
 廃ビルでも少しは暖かいですよ」
 少しでも風を扱いにくい場所へ誘導しようとするイスタルテの言葉にマイが微笑む。
「突風で柱なぎ払って全員ミンチになっていいなら、入ってあげる」
 誘導、失敗。
 イスタルテが射撃を行うが風で軌道を外されてしまう。
「一般人に仇をなすあなたをこのまま見過ごすわけにはいきません。
 蒼空に輝く翡翠の月!クリスタル・イン参上!」
 出会いがしらの攻撃でポーズをとり損ねていた瑛が拳法家のようなポーズを取って口上を述べる。
「あら、私がいきなり攻撃しちゃったから出遅れちゃったのね。ごめんなさい」
 マイが少し困惑したように微笑んだ。
 その間に瑛は守護結界を展開している。
 印を結んで展開された防御結界は味方全体の防御力を高めてくれた。
「人殺しは貴方が思っているほどいいものじゃないですよ」
 決して止まらないと思わせるような澱みのない連続攻撃でマイを追い詰めながら孝平が静かに語りかける。
「殺してみなきゃ分からないわ」
「殺してからじゃ手遅れでしょうに」
「それでも殺したいのよ。いいえ、殺さなくてはならないの」
「救えないし救わないし、いつもの事なのよねェ、人殺し。
 別に何も感じないしねぇ。貴女、パンを食べる時いちいち快楽を感じる?」
「人殺しって言うパンは食べたことがないからわからないわ。でも……貴方の言葉を借りるならパンを食べなければ生きていけない。だから殺す。それだけよ」
「処置なし、かしら」
「殺し合いって素敵ね。生きてる感じがするわ」
 真名とマイのやり取りはどこか薄ら寒いものを感じさせる。
 マイが両手を組み合わせて何か呟くとそれまで異常の規模の突風と中に潜んだカマイタチの刃がリベリスタたちを襲った。
 偶然にも狩る者と同じ名を持つ麻衣が詠唱で清らかなる存在に呼びかけ味方全体を回復させる福音を響かせた。
 星龍が魔力と意思を凝固して作り出した呪いの弾を風の影響なく撃ち込み、マイの身体に傷をつける。
 マイに近づきながらシャドウサーヴァントを発動させたアーサーが全身から放つ気糸でマイを締め付ける。
 その後ヘッドショットキルを放った。
「しかしまー、素敵に狂っちまって。
 普段どんな生活してた?
 好きな食べ物は何だった?
 得意な教科は?
 もう欠片も覚えちゃないんだろーがな。
 来いよ、嬢ちゃん。
 全部……は無理かも知れねーが、受け止めてやんよ」
 和人が両腕を広げてみせる。
「ふふ、優しいのね」
 マイが再び風に乗って和人との距離を詰める。
「貴方の血を見せてくれない?出来たら内臓も」
「残念だ。狂っちまう前に助けたかったぜ」
 細い腕を掴み銃で殴りつける。
「フェイトを得られていりゃ一緒に戦うこともできたかもしれねぇのにな」
 残念だ。
 もう一度呟いて殴り続ける和人。
「本当、残念だねぇ。友達になれたかもしれないのに」
 晴が魔力で破滅を予告する道化のカードを作り出してマイに投げつけ、距離を詰めて死の刻印を刻み、心底残念そうに呟いた。
「神秘の力、残酷なものです。まだお若いのに……」
 イスタルテが風を操る間もなく攻撃を受けている少女のアーティファクトにむかってすさまじい早撃ちを行う。
 アーティファクトは何か硬質な物質で出来ているらしく射撃を弾いても傷一つつかなかった。
「不幸でも……気の毒でもないわよ……」
 額や唇を切ったのか血で汚れた顔を毅然と上げてマイは言う。
「今は、『私』は、楽しいんだものっ!」
「本当に楽しいかい? 今までの生活全部忘れちまって、こんなボロボロになって。……ボロボロにしたのは俺たちだけど……。
 花が好きなことも忘れて、誰にも知られずに死んでいく。
 なぁ、本当に楽しいかい?」
「……っ! 何よ、同情!?」
「仮に同情だったとしても……俺たちは嬢ちゃんを殺さなきゃなんねぇ。
 だったら、俺たちにくらい本音打ち明けて逝ったらどうだ?」
「わたし……私、は」
 マイが顔を両手で覆う。
「どんどん分からないことが増えていって、大事なものはどんどん無くなっていって。ただ人を殺さなきゃいけないって思いだけが大きくなって。
 私じゃない私が大きくなっていって、相談できる人もいなくて……もう身体、自由にならなくてっ……」
 アーティファクトが生んだ好戦的な人格は元の人格を蝕んでいった。
 そして今リベリスタたちの前に立つのは、大人しくて、控えめで、花が好きだった――本来のマイ。
「私、もう嫌……こんなのは、もう嫌っ……!!」
 悲鳴のような叫びに、いや、その前から。
 攻撃の手は止まっていた。
「よく言った。……終わらせてやるよ。嬢ちゃん、好きな花は何だ?」
「どんな花も……その花のよさがあって。でもお墓に供えるなら百合の花……白い、百合」
「必ず供える。安心して逝きな」
 銃声が響く。
 精密射撃は過たず華奢な少女の心臓を撃ち抜き、その命を終わらせた。
「後味悪いったらありゃしねぇ……」
「友達になれたらよかったのに」
「パンを食べなくては死ぬしかない、か。飢え死によりは苦しくない死に方だったわよねぇ」
「……アーティファクト、回収しましょう。もうこんな悲劇が起きないように」
「そうだな……それと」
 アーサーの言葉に全員がそちらを向く。
「墓参り、だな。
 どのような理由であれ、彼女の命を奪ったのは俺たちだからな」

●願わくば風に乗って舞い上がり、天の国の門を叩けますように
 報告を終え、アーティファクトを調査班に渡した後マイと戦ったメンバーは墓参りに来ていた。
 真新しい墓石に刻まれたのは『高田 マイ』の名前。
 共同墓地に彼女専用の墓地を建てた。
 身寄りがなかったのだ。
 そして、神秘は守らなければならないという理由で葬儀もひっそりと行われた。
 表向きには失踪として処理されるのだろう。
「マイちゃん……百合の花だよ」
 麻衣が大きな花束を供える。
「くるのが遅くなってごめんね」
「遅くなった分何度でも足を運べばいい。……自己満足かもしれないが」
「最後に彼女が意思を取り戻せたのは……幸運だったんでしょうか。
 それとも不幸だったんでしょうか」
「幸運だったんじゃないかな。何も分からないまま、何も知らせないまま逝くよりは」
「……そうですね」
「線香を」
 星龍が短く促し、ミリィが線香に火をつける。
 次いで、蝋燭にも。
「願わくば風に乗って舞い上がり、天の国の門を叩けますように……」
 全員が黙祷する中、自然の風が優しく吹き抜けて紅葉した葉を一枚落とした。
 戦いに翻弄され、命を落とした少女を悼むように。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
ご参加有り難うございました。
最初狂少女のまま終わらせようかと思ったのですが好きな花を参加者の方に供えて頂きたいと思い正気を取り戻す方に。
後味は悪くなったような、でも救いはあったような、と矛盾した感想を抱いております。

またご縁がありましたら宜しくお願いいたします。