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栄冠のグランドスラム

●彼等の栄光
 とある中学校に弱小とうたわれた野球部があった。
 その年の部員はぎりぎり野球が出来る九人ジャスト。誰か一人でも欠ければ試合さえ出来ないという野球部は、部員数の観点からも常にクラブ存続の危機に晒されていた。
 しかし九人の部員たちは協力しあい、何とか廃部を免れていた。
 そして、彼らは持ち前の根性とチームワークで地区大会を勝ち進み、野球部創立から初めての優勝を飾った。これできっと部員も増え、もっと楽しい野球が出来るはず。
 そんな期待と希望を抱いた最中、最大の不幸が訪れる。
 地区大会の帰り、彼らを乗せた小型バスが大事故に巻き込まれてしまったのだ。
 酷い事故だった。それゆえに九人の部員たちは誰も助からず、無念の死を遂げてしまう。

 それから、かの学校では妙な噂が立つようになった。
 真夜中のグラウンド内に、生前と同じように野球練習を続ける彼らの幽霊が出るのだと――。

●彼等に終わりを
「運命って、どうしていつもこんなに残酷なんだろうな」
 アーク内の一室にて、『ジュニアサジタリー』犬塚 耕太郎(nBNE000012)は以前に起きたという事件のあらましを仲間に話し終え、ひどく悲しげに耳を伏せた。
 真夜中の学校に現れる野球部員の幽霊。
 その正体は思念がエリューションと化したもの、つまりはE・フォースだ。
「野球部員は夜になると部活をはじめるらしい。でも、それを邪魔しようとすると襲い掛かってくるんだってな。それと、その姿は血塗れで事故当初そのままだって話だ……!」
 想像して恐ろしくなったのか、耕太郎は尻尾を丸める。
 しかし、すぐに首を振った少年はフォーチュナから聞いた未来の詳細を伝えはじめた。

 彼らは普段の部活動そのままに投球練習やランニングなどを行っている。
 しかし彼らの領域であるグラウンドに踏み入ると、対象が邪魔者と見做されてしまうのか、九人全員が襲い掛かってくるのだ。
 今までも、何人かが幽霊の練習風景を見ている。
 誰もが怖がって近付かなかった所為で被害はなかったのだが、真相を確かめようと好奇心から出掛けた二人組の少年が今夜、E・フォースの餌食となってしまう。
「だから俺は助けに行きたい。被害に遭う奴らだけじゃなくて、野球部の奴らも!」
 思念体である故に、厳密に言えばソレらは野球部員そのものではないのかもしれない。
 だが、死して尚も其処に在り続けるのは辛すぎる。
 志半ばで逝ったとは云えど、誰かが引導を渡してやらねばならないだろう。
 悲しみか、それとも別の違う感情からか、耕太郎の腕は僅かに震えていた。だが、何かを決意したらしき少年は拳を握り締める。
「……大丈夫。俺もちゃんとやってみせるからさ。行こうぜっ!」
 そして耕太郎は顔を上げ、仲間達を安心させるような明るい笑みを見せた。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:犬塚ひなこ  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年11月12日(月)23:05
●現場概要
 とある中学校内部。時間は真夜中。
 敷地内に警備などはなく「校門前」と「裏門」の二種類の入口のどちらからでも簡単に侵入する事が出来ます。
 グラウンド内には特に障害物などはありません。
 校庭内に足を踏み入れた途端に戦闘スタートとなりますのでご注意ください。 

●二人組の少年
 例の中学校に通う少年たち。
 皆様が駆け付ける頃には校門前に差しかかっています。被害を出したくない場合、どうやって止めるか、戦場となるグラウンドに近付けないかが重要になります。

●E・フォース
 血塗れのユニフォームを着た野球部員。全部で九人。
 顔は潰れて判別出来ず、言葉を発することはありません。
 戦闘では『残影剣』『ハイスピードアタック』『魔閃光』に似た力を使います。

 勝利するとE・フォースは消滅します。
 どのような形で応戦するか、事後に何をするかは皆様の御心次第に。

●NPC
 犬塚 耕太郎(nBNE000012)が同行します。
 全力を尽くし、皆様と一緒に戦いますので宜しくお願いします。
参加NPC
犬塚 耕太郎 (nBNE000012)
 


■メイン参加者 8人■
マグメイガス
風芽丘・六花(BNE000027)
インヤンマスター
四条・理央(BNE000319)
ホーリーメイガス
ルーメリア・ブラン・リュミエール(BNE001611)
ソードミラージュ
ヘキサ・ティリテス(BNE003891)
★MVP
覇界闘士
喜多川・旭(BNE004015)
クリミナルスタア
セシル・クロード・カミュ(BNE004055)
クロスイージス
斎藤・和人(BNE004070)
覇界闘士
遊佐・司朗(BNE004072)


 真夜中、昼間は生徒たちで賑わう学校も今は闇の中。
 周囲には人っ子一人おらず、辺りも不気味なほどに静まり返っている。常識的に考えるならば、この時間帯のグラウンドで誰かが野球練習に励むなどということは有り得ない。
 だからこそ、かの少年達も好奇心に負けて夜の学校に繰り出したのだろう。
 件の学校の校門前にて、少年達の姿を見つけた四条・理央(BNE000319)は静かに歩みを寄せる。その気配に気付き、少年は一瞬びくりと身体を強張らせた。
「うわ! 吃驚した、幽霊かと思っ……え?」
 闇の中から現れた彼女に驚くも、すぐに生身の人間だと気付いた彼等は胸を撫で下ろす。だが、紡ぎかけた言葉が止まり、その視線は理央が発動させた魔眼へと吸い寄せられた。
「君達、すぐに帰った方が良いよ」
 今日は警備員が力を入れて巡回している。だから見つかる可能性が高いんだよ、と告げた言葉には催眠の力が宿っていた。魔力の効果を受けた少年達は素直に頷き、何の疑問も抱かずに学校前からふらふらと歩き去っていく。
 その後ろ姿を見送った後、『モンマルトルの白猫』セシル・クロード・カミュ(BNE004055)はグラウンドへと視線を向ける。視界の中に見えるのは今も尚、生前と同じ行動を繰り返す野球部員達の姿だ。
「未練のあまりエリューションと化すって事象は珍しくはないけど……ただ、それが野球とはね」
 仲間と共に校庭に足を向け、セシルは溜息を零す。
 近付けば近付くほどに、凄惨な事故を思わせる外見がはっきりと見えて来る。
「ほんっと残酷なもんだな、運命って奴は」
 『住所不定』斎藤・和人(BNE004070)は青春真っ盛りで亡くなった彼らを思い、自らの過去に考えを巡らせた。打ち込めるものがあることは羨ましかった。
 それだから余計に、このような結果になったことが口惜しく思える。
 『ジュニアサジタリー』犬塚 耕太郎(nBNE000012)も頷きを返し、校庭を見据えた。
「よりによって、だもんな……」
「それでも、わたし達はやらなきゃ。いくよう!」
 その隣には野球道具を抱えた『囀ることり』喜多川・旭(BNE004015)が居り、すっと息を吸い込んだ。
 上手くいくかはわからないけれど、と前置きをした彼女はボールを耕太郎に渡し、自分はバットをびしっと校庭側に突き付けた。
 同時に耕太郎が敢えて部員の気を引くように投球する。そのタイミングに合わせ、『ひーろー』風芽丘・六花(BNE000027)がグラウンドに足を踏み入れ、大きく呼び掛けた。
「おまえらー! アークやきゅーぶが試合を申し込みに来たゾ!」
 刹那、練習をしていた野球部員――E・フォース達が一斉にリベリスタの方を向く。
 血塗れの姿に虚ろな瞳。よく見れば眼球を失った者までいるようだ。恐ろしいまでに悲惨な外見を持つ彼等の眼差しを受け、『デンジャラス・ラビット』ヘキサ・ティリテス(BNE003891)は一瞬は怯みそうになる。
「夢を目前にして、か……運命の加護ってのは、コイツらにこそあるべきなんだろうけどさ」
 しかし、気を強く持った少年は身構えながらも相手の反応を待った。
 リベリスタ達は彼等の生前を思い、敢えて野球勝負を仕掛けようと考えていたのだが――。
 九人は此方を邪魔をする者として認識してしまったらしく、攻撃を仕掛ける気配をみせた。『ハティ・フローズヴィトニルソン』遊佐・司朗(BNE004072)は頭を振り、呼び掛けの失敗を実感する。
「駄目、なのかな……。真正面から戦うしかないみたいだね」
 彼等が応じるのならば、野球勝負にて決着をつけたかった。
 しかし、エリューションと化した彼等は試合に臨むことすら出来ぬようだ。其処に歯痒さを覚え、『なのなのお嬢様なの』ルーメリア・ブラン・リュミエール(BNE001611)は悲しげに瞳を伏せる。
「やりたい事ができないって、辛いよね……」
 彼等は野球に賭けた夢を奪われ、未来まで失った。
 手にするはずだった栄光にはほど遠く、それらは今や未練だけを残して彷徨うのみ。
「でも、それなら……ルメたちが終わらせてあげる!」
 ルーメリアは凛と顔を上げると、グラウンドに立つ九人をしっかりと見つめる。其々の胸に解放と救済の意志を抱き――リベリスタ達は身構え、始まる戦いへの思いを強めた。


 暗闇は色濃く、不穏な空気が辺りに満ちる。
 両者の間を夜風が吹き抜けるよりも疾く、何よりも先に動いたのはヘキサだ。
「ノってくれねーなら仕方ねぇ……。力尽くで叩き潰すッ!」
 宛ら、兎の脚を思わせる純白のブーツで地面を蹴りあげ、勢いを付けたヘキサは部員達の精神へと打撃を与え、掻き乱そうと狙う。解き放たれた魔力は見る間にE・フォースを包み込み、その注意はヘキサ自身に向けられることとなる。
 ――お前らを救いたい気持ちは、オレも同じ。
 言葉にはせずともヘキサの思いは仲間達と繋がっていた。その心を自然と感じ取り、耕太郎も弓を射る。頑張ろうな、と彼が呟いた後にセシルも静かに双眸を細め、早撃ちで応戦していった。
 流水の構えを取り、戦いに備えていた司朗も敵を見つめる。野球には詳しくないが、思えば乱闘試合などという展開もあるにはあるのだったか。
「そんじゃあ、乱闘といこうか?」
 口許に薄い笑みを刻み、手近な相手との距離を詰めた司朗は炎を纏った拳を振り上げ、ひといきに攻撃を仕掛ける。燃えさかる熱は部員の一人を包み込み、その身に激しい焔を宿らせていった。
 其処へ旭が駆け、一気に間合いを詰める。
 至近距離からの雪崩落を狙い、肉薄した旭は一瞬だけはっと息を飲む。
「……っ!」
 間近で見ることになった彼らの顔は焼けただれ、直視することも辛いほどのものだ。様々な感情が綯い交ぜになったような気持ちを、ぐっと抑え込んだ旭はなるべく顔以外を見ようと心掛けた。
(あれ、でもこの動きって……?)
 その際、ふと感じたのは野球部員達の立ち位置だ。完璧とは言えないまでも、その配置は何処か野球のポジションを思わせるものだと感じられた。
 理央も同じことを思ったらしく、何とも言い切れない思いを抱いてしまう。
「そうか、君たちも本当は野球がやりたいんだね」
 彼らの心の奥の叫びを垣間見た気がして、理央は呪印による封縛を幾重にも展開させた。誰の身にも危険が及ばぬように。何よりも、野球を愛した部員達の手を血で穢してしまわないように――。
 その身が汚していいのはグラウンドの土埃。そして、青春に流した汗だけだ。
 こうして、望まぬ形で人に襲い掛かる彼らの存在は此処で終わらせなければならない。愛用の改造銃を握り、和人は旭達と同じ敵を狙い打つ。
「こーやってお前らを片付けにゃならんってのも含めて、皮肉ばかりだな」
 そして、鈍器にも成り得る程の銃は鉄槌として相手を穿ち、一人目の部員を地に伏せさせた。
 だが、E・フォース達から次々と放たれる暗黒のオーラはヘキサを襲い、他の仲間達にも衝撃を齎す。そんな中、敢えて前に出る戦法を取る六花は身体に響く痛みを堪え、敵に向けて吠えた。
「なめんなー! くらえ、フレアばーすとキック!」
 フレアバーストを蹴りモーションと同時に解き放った六花は力を振り絞る。
 少女自身、野球にはあまり明るくないらしい。しかし偶然にも、その炎の魔力はまるで分身する魔球の如き勢いで部員達へと襲い掛かる。
 何人かを火炎が包み込む最中、ルーメリアは傷を受けた仲間へと聖神の息吹を施す。
「試合じゃなくても、ばっちこいなの! 貴方達のチームプレイ、見せてもらうの!」
 本当は彼らが少しでも試合に興味を示してくれることを願っていた。だが、それが叶わないのだと感じた今はただ戦いに真剣に挑むだけだ。ルーメリアは揺れ動く思いを抱きながらも、六花やセシル達の背を支え続けた。
 そんなとき、セシルの部位狙いの一撃が二人目の部員を屠る。
 その照準は彼が装備していたグローブやシューズへと向けられており、それらは木端微塵になっていった。淡々と攻撃を続けるセシルは今、野球選手の命というべき用具を潰せば優位に立てるのでは、という考えで戦っている。
「私としては任務遂行できるなら何でも良いの。……壊させてもらうわ」
 そして、彼女は次なる標的を狙って拳銃を構え直す。
 非情にも思えるが、世の理から外れた存在に対する答えなどないのかもしれない。敢えて大切な物を潰すことで野球からの未練を断ち切ること。それもまた、別の正解やもしれぬのだから。


 戦いは巡り行き、野球部員達の数も減っていく。
 しかしリベリスタ達も消耗しているのは同じであり、未だ油断は出来なかった。
 瞬時に加速し、襲い来る部員達の大半はヘキサに引き付けられている。持ち前の速さを活かして立ち回る少年だったが、五体を同時に受け止めるには些か厳しいものがあった。
「わかるぜ、お前らが文字通り命かけてたのは。なんせ弱小校が優勝できるまで成長したんだもんな」
 並大抵の根性じゃねぇよ、と部員達に語りかけたヘキサは幾度目かの蹴りを見舞った。
 刹那、其処に大きな隙が生まれたことを感じ取った彼が目にも止まらぬ連続の蹴撃を打ち込む。その合間も身を蝕む痛みを何とか耐え、ヘキサは双唇を噛み締めた。
 其処にルーメリアが詠唱によって大天使の吐息を発動させ、癒しの風を巻き起こす。
 理央も天使の歌を紡ぎ、足りぬ分の補助に回った。二人の力により戦線は保つことが出来ていたが、すべてに手が回るわけではない。和人は応戦しつつも、いつか何処かに綻びが出るかもしれぬと感じていた。
 そんなとき――刹那の隙を突き、二体同時の残像攻撃が六花を襲う。
 危ない、と司朗が呼び掛けるも六花は左右から迫る一撃を受け止めきれず、激しい衝撃を受けてしまった。バットを使って打ち込まれた殴打は、まるで野球のスイングのよう。
 大丈夫かと耕太郎が問いかけるが、少女は耐えきれず膝をついてしまった。
 しかし、体力が底を突きながらも拳を握り締めた少女は自らの手で運命を引き寄せる。
「そんなに、そんなにやきゅーがすきかー!?」
 気力を振り絞り、指先でびしりと敵を示した六花が力強く立ち上がった。お返しだとばかりに零距離から打ち込まれた一条の雷は見る間に拡散し、敵全体を感電させてしまう。
 危機からの回避に理央がほっと胸を撫で下ろし、自分も攻撃へと転じた。
「死んでも残る野球への熱意は感心するけど、人に被害を出すのは言語道断だね」
「チームプレイはそっちだけじゃないの。ルメ達だって!」
 不吉な影を生み出した理央に続き、ルーメリアは傷付いた仲間の後押しをするように更なる癒しの力を解き放つ。星儀の力が敵を打ち倒し、形勢は徐々にリベリスタのものになってゆく。
 繰り広げられる攻防によって、敵の数は半減していた。
 蓄積した疲労はあれど、息を整えた旭は弱った標的へと眼差しを向けた。
 風すら斬り刻む速さの蹴撃から生み出された一陣の風は、弱った部員を切り裂いて夜に融ける。
「野球への気持ちも大事だと思うけどねえ。やっぱり、いつまでも縛り付けられてるのも違うよね!」
 だから、もう眼を逸らさない。
 旭は凄惨な姿そのものを見据え、すべてを見届ける気概で立ち向かい続ける。そうして、幾度目かに解き放った大雪崩撃はいつしか、六人目の部員を打ち倒していた。
 残るは後三人。
 セシルは当初からの姿勢を崩さず、ひたすらに銃撃を打ち込んでいった。元より、死人を弔う趣味は無く、人の価値と云うのは今こうして生きているという事実だけが示すもの。
 だからこそ、死人の意志である存在になど慈悲は持たない。それがセシルのスタンスだ。
 彼女の放つ銃弾が部員の一人の態勢を揺らがせ、ひといきに力を奪い取る。
 其処に機を見出した和人は銃の撃鉄を起こし、しかと狙いを定めた。おそらく相手に当てることさえ出来れば、これが最後の一撃になる。ならば決して外すまいと力を込め、和人は引鉄に指をかけた。
「悪いな。この方法しか、お前らの救いにならねーみたいだ」
 次の瞬間、射撃の勢いに押された部員がその場に倒れ込む。
 その姿が実体を失って消えてゆく様を横目で見遣った後、司朗は残りのE・フォースを視界に捉えた。既に追い詰めたともいえる場面だが、本当の最後まで手を抜いたりなど出来ない。
「そんな姿になっても思いだけは真摯だって感じるからね。全力でやるよ」
 振り上げた脚で風を斬り、司朗は斬風の刃を巻き起こした。
 何よりも、血に塗れてまでグラウンドを踏み締めた彼等の思いに失礼にならぬよう。思いの丈を込めて解き放たれた風刃は、八人目の野球部員を真っ直ぐに貫いた。


 最後に残ったのは、たったひとりの野球部員。
 早々に攻め切るのが吉と見たセシルは銃を構え、部員のグローブ目掛けて射撃を打ち込んだ。弾け飛んだ破片がグラウンドに散り、強い夜風が吹き抜けてゆく。
 理央は再び星儀を施すべく標的の不運を占う。そして、具現化した黒い影が野球部員に纏わりつき力を奪い取っていった。この流れならば、あと僅かで全てに終幕を下ろすことが出来るだろう。
「しっかりと眠らせてあげるよ」
 彼らに穏やかな最期を与えたいと願い、理央は眼鏡の奥の双眸に青年を映し続けた。
 相手もふらつきながらも魔力を抱く閃光を解き放ったが、抵抗すら今は虚しい。ヘキサは彼からの一撃を軽くいなすと、強く掌を握り締めた。無念と未練が交ざって生まれた思念は悲しすぎる存在だ。
 何よりも、この世に留まり続けることこそが悲劇に他ならない。
「ボロボロじゃねーか。何でそこまで頑張るンだよ! ……もう、いいだろ?」
 ヘキサは悲痛な面持ちを湛え、左右に頭を振る。
 少年が抱く辛い思いを肌で感じ取り、続いて行動した旭もぽつりと思いを口にする。
「もっと野球したかったんだろなぁ。でもね、これで最後にしよ」
 そして、旭は一気にグラウンドを蹴りあげ、接敵した。終わらない苦しみと念をこの世界から断ち切り、無に還す為に――穿つ一撃は相手の態勢を突き崩し、勢いのままに倒れさせる。
 だが、最後の野球部員は其処で消えたりなどしなかった。
「おのれ、まだ立つのか!」
 思わず六花が身構え、マジックミサイルを撃ち放つべく駆け出そうとした。しかし、部員の動きが攻撃動作ではないことに気付いた理央が制止し、少女はきょとんと首を傾げる。
 万事に備えつつも、リベリスタ達は野球部員の動向を見つめた。ふらふらと立ち上がった彼は、先程に耕太郎が投げて気を引いた野球ボールへと手を伸ばす。
「もしかして、ボールを投げようとしてる……?」
 司朗がはたと気付き、辺りを見渡す。すると視界に先程に旭が用意して来た野球道具一式が目に入った。そのうち、バットは幸運にもルーメリアの傍に落ちており、すぐにでも拾いあげられる距離にある。
 きっと、これが最後の最期。
 彼の投げようとしている球を受けるべきだと感じたのはヘキサだけではなく、ルーメリアもだ。
「ルメが受け止めて……ううん、打ち返してあげるから、投げてみてよ。――全力で!」
 バットを拾った少女はぎこちないながらも構え、投球を待つ。
 そして、ボロボロのグローブから解き放たれたボールは真っ直ぐに宙を舞い――。

 刹那、甲高い音がグラウンドに響き渡った。
 一瞬の事に誰もが声を失い、空を見上げる。其処には暗い夜空へと吸い込まれるかのように飛翔してゆく野球ボールがあった。真白な点にも映るそれは宛ら小さな星の如く、遥か遠くへと飛んでいく。
「すげー、ホームランだ!」
 遠くの空を眺め、嬉しげな声をあげたのは耕太郎だ。
 戦いの最中だった事も忘れてぱたぱたと尻尾を振る彼に続き、六花も無邪気な笑みを浮かべた。そんな中、不意に和人が驚いた様子を見せる。
「見ろよ、奴が消えていくみたいだ」
 彼が指差す方には幻のように薄れていく野球少年の姿があった。司朗は思わず言葉を失ったが、何故だかその光景が満足気に見えた気がした。
 満足してくれたんだね、と旭が呟いた言葉もきっと、強ち間違いではないだろう。
 何故なら――消えゆく彼の表情には、もう暗い念など何処にも宿っていなかったのだ。
 既に戦う力も失っていたのか、E・フォースは跡形もなく霧散してゆく。
「逝ったのね。まあ、私が何れくたばるその日までくらいは、心の片隅程度には留めておいてあげるわ」
 私に出来るのはそこまで、と呟いたセシルは空を見上げる。
 彼女に倣った和人も星々が煌く夜空を仰ぎ、消えていった野球少年達を思った。
「……天国でも、仲良く野球やれよ」
 月並みな言葉だけれど、それが和人の心からの素直な思いだ。
 それでも、最後に立ち会った自分達は何かをしてやれただろうか。その答えが分かる日は来ることはないが、ただ願うことだけならば出来る、と和人は静かに瞳を閉じた。
 ――そして、その夜。
 かつて栄冠を目指した少年達が駆けたグラウンドに、元の在るべき静けさが戻った。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
野球への思い、少年達への思い、そして戦いへの思い。
皆様のそれぞれのお心、しかと受け取りました。彼らにはやり遂げられなかった事がたくさんありますが、最後に向けて頂いた思いはきっと、少なからず救いになっているはずです。

ご参加、どうもありがとうございました。