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茜色のなみだ


 どうして、どうして
 神様はどうして私をこんな姿にしたのでしょう


 二人は幼馴染で幼いからずっと一緒だった。
 花より団子とお弁当を取り合い、向日葵畑でかくれんぼ、山に入って栗拾い競争をして、一緒に雪だるまを作る。
 思い出が無い年が無い程に、共に歩んできたのだ。
 小さい頃は何とも思っていなかった手を、気恥ずかしさから離してしまった時期を越えて。
「高ちゃんの手、こんなにあったかいんだね」
「お前の手もあったかいな」
 お互いの手の温もりがこんなに暖かいものだったのだと知った。
「俺はさゆりをお嫁さんにしたい」
「うん。いいよ。高ちゃんのおよめさんにして?」
 街の高台にある展望台は茜色と群青が混ざり合った色。二人と同じように混ざり合った色。
 繋いだ手を一生離さないと誓い合ったその場所で、二人の運命は大きく分かれた。

 ――高ちゃん危ない!
 危ない。危険。キケン。

 展望台へと吹き付ける猛烈な風に、彼の体は紺と橙の中空に投げ出される。
 まるで連れ去られるかの様に。弄ばれるかの様に。ゆくっくり空を舞う彼。
「きゃあああ! 高ちゃん!? 高ちゃん!?」
 一瞬遅れて甲高い彼女の声が高台に木霊した。
 咄嗟に伸ばした手は本来であれば彼を掴む事無く、悲しみの涙と一緒に顔を覆うはずだった。
 けれど……
 彼の命と彼女の命が天秤に掛けられて。
 神様は彼女に彼を助けるための力を与えた。その対価は彼女の旋律を世界から排するということ。
 その瞬間、彼女は世界が奏でる五線譜の上から転がり落ち。
 ――『人』では無くなった。




「彼は助かったけど、彼女はノーフェイスになった」
 ブリーフィングルームの空調機器から吐き出される微量の音と同じ程度の声で、
『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は集まったリベリスタに告げた。
 適度な室温調節はしているはずなのにどこか寒々しい。
「ノーフェイスは通常の人より少しだけ力が強くなったみたい」
 落ちていく彼を掴んで引き上げる事が出来る程度だけど、と続けモニターに映し出された茜色の空に目を向けるイヴ。
 ちょうど彼が舞い上げられている所で止まっている映像。
「それから、風」
 端的な少女の口調に耳を傾けていたリベリスタが「風?」と問いかける。
「彼が空中に投げ出されたのは、風のE・エレメントの仕業」
「一度は助かった彼だけど、この後すぐに風のエリューションによって殺される。ノーフェイスも彼を助けようと応戦するけれどダメ」
 ノーフェイスの力ではどう足掻いても彼を助けることはできないのだ。
「このままだ2人とも死んでしまう。だからノーフェイスと風のE・エレメントを倒して」
「彼女も殺せって……?」
 リベリスタの一人が不服そうに眉を寄せる。
 もはや彼女はノーフェイス。たとえ数秒前まで『人』だったとしても、もう戻れない。
 彼女は彼が好きだった。彼も彼女を愛していた。
 けれど、彼の手を掴むことが出来た代わりに、世界の寵愛を受けることが出来なかった。
 五線譜から外れたままの『彼女』では、いずれ『彼』を殺してしまうのだ。
 そんなこと、問うたリベリスタだって分かっている。
「そう……ノーフェイスも」
 カレイドシステムが起動してから、幾度となく発せられてきた言葉を白い少女は躊躇わない。
 けれど、心が痛まないわけが無い。それでも小さく息を吸い込んでイヴはもう一度言うのだ。
「殺してきて」
 表情の無い平気そうな顔をして。『人』だったノーフェイスを殺せと。
 彼女が、その手で『愛おしい人』を殺してしまう前に。
 ――お嫁さんにして?と照れながら笑った『彼女』であるうちに。
「お願いね」
 白い少女は目を伏せた。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:もみじ  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年11月04日(日)23:48
 お互いの手の温もりはかけがえの無いものでした。

 こんにちは。もみじです。
 よろしくお願いします。


●目的
 ノーフェイス、E・エレメントの撃破
 其れによる一般人の保護。


●シュチュエーション
 夕方。茜と群青が混ざり合う黄昏時です。
 街の高台にある展望台です。
 広さは問題ありませんが、落ちるとリベリスタでも危険です。
 あまり人が来ない場所なので、人払いは必要ありません。


●エリューションの詳細

『つむじ風』フェーズ2のE・エレメント×4体
 展望台の上空20mを浮遊している風のエリューション。
 悪戯に人間を展望台から突き落とします。
 エリューションが降りてきている時には近距離攻撃が当たります。
・体当たり:神近単、ノックB、ダメージ中。特別に全力移動後このスキルを使用可能です。
・切裂く風:神近範、出血、流血、ダメージ中
・酸欠空間:神近単、虚脱、ブレイク、ダメージ中
・空気の体:パッシブ。ブロック出来ません。

『持田さゆり』少女だったノーフェイス
 明るい笑顔とちょっぴり泣き虫な普通の女の子です。
 彼と一緒に幸せな家庭を築く事を、小さい頃から夢見ていました。
 覚醒したばかりの為フェーズは1ですが徐々に進行していきます。
 戦闘が長引けばフェーズ2となり、理性、人間らしい感情を失います。
・かばう:一般人をかばいます
・たたく:物近単、平手打ち、ダメージ極小

『島井高司』一般人
 爽やかで真面目な好青年。
 彼女をとても大切に想っており、幸せにしてあげたいと思っています。
 戦闘に巻き込まれて死亡する可能性があります。


●コメント
 リベリスタなら難なく倒してしまえる相手でも、幸せな二人には死を与えるものです。
 彼と彼女にどのような言葉をかけていただけますか。
 皆様の心情をお待ちしております。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
スターサジタリー
ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)
ホーリーメイガス
汐崎・沙希(BNE001579)
ナイトクリーク
御津代 鉅(BNE001657)
マグメイガス
イーゼリット・イシュター(BNE001996)
ダークナイト
山田・珍粘(BNE002078)
クロスイージス
神谷 要(BNE002861)
ダークナイト
カルラ・シュトロゼック(BNE003655)
クリミナルスタア
式乃谷・バッドコック・雅(BNE003754)

●gust
 スマルトの青さとマリーゴールドの赤さが空を染め上げる夕刻。
 西の空は一秒ごとにパープルネイビーの色を増していく。二人が繋いだ手を離す時が近づいていた。
 運命は誰にでも微笑む訳ではない。幾度となく戦場を駆けてきた『鋼脚のマスケティア』ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)は、善悪によって左右されない世界の寵愛を平等であり不平等であると思い。
「ここは私の守るべき世界だけど……そういう所、嫌いよ」
 オリオンブルーの瞳を伏せ、世界の旋律から外れてしまった人達を守ることが出来ない事を悔やんだ。
 自分がもしこの手綱を手放さなければならない事があったなら、どんなに辛いのだろうと。
 それでも彼女は前を向くのだ。グーズグレイの足を幻視で隠しても、進むことを止めないマスケティア。
 彼女の横に並ぶのは『下剋嬢』式乃谷・バッドコック・雅(BNE003754)。撫子を象った指輪の感触を指で感じながら、この世界の理不尽さに眉を寄せる。自身も幼い頃から辛酸を嘗めてきたからだ。
「……まあいいわ、出来る事をやりましょ」
 雅のジョーンシトロンの髪が揺れる先、ダスクのサングラスを掛けた『燻る灰』御津代 鉅(BNE001657)は、手間が増えただけだと悪態をついた。
「まあフェイトを得なかった以上仕方ない、フェイトを得たものとしてそれくらいの仕事はするさ」
 鉅は2人の名前を覚える気はない。殺してしまう相手に深入りする程厄介なことは無いから。
 その度に大きく揺れ動く自身の心を理解しているから、いつもダスクのサングラス越しに世界を見るのだ。
 水縹の髪がさらりと流れる。『水底乃蒼石』汐崎・沙希(BNE001579)はその口を開くことは無く。
 同じように『逆襲者』カルラ・シュトロゼック(BNE003655)も押し黙ったままだった。
 口を開くことが罪だという様にカルラは険しい表情で高台に向けて足を踏み出す。
 俺は、殺してやりたいヤツが沢山いる。けど、そうでない相手を殺さなければならない時もある。
 カルラは分かってるのだ。これまでにも沢山その手で命を奪ってきた。高台にいる二人よりもっと小さな子供も殺したのだ。だから、相手がどうだとかいう理由で躊躇うことは、カルラにとって許せない事だった。
 手にした螺旋暴君【鮮血旋渦】はカルラが殺してきた全ての人の血を吸って、その力を振るってきたのだから。いまさら、立ち止まるわけにはいかないのだ。

「はーい、ちょっと後ろに下がっててくださいねー」
『残念な』山田・珍粘(BNE002078)が展望台に座り込んでいた高司とさゆりの前に立つ。
 珍粘……いや、那由他・エカテリーナは二人を一瞥して心の中で笑った。
 まあ、なんて素晴らしいんでしょう。人の選択が、運命を変える瞬間を見れるなんて。
 今日は、とっても素敵な日になりそうですね。くすくす……。彼女はその可憐な口元を小さく綻ばせた。
 那由他の目にはこの悲劇がとても素敵なものに見えたのだから。
 さあ、舞い踊りましょうー。アカシックレコードを携えて。グラファイトの黒が貴女に終焉を差し上げますよ。
 くすくす……。
 神秘探求同盟第六位・恋人の座は笑う。恋人たちの終わりを、嘲笑う。
 けれど、これは終わりのない悲劇だと『敬虔なる学徒』イーゼリット・イシュター(BNE001996)は思った。
 さゆりの命はここで尽きるかもしれない。しかし、高司はこの先も生きていくのだから。
 悲しみを嘆きを背負い涙を流す未来が見えているのだから。それを、もたらすのは私達だと。
 やるせなさをかみ締めて、イーゼリットはつむじ風に漆黒の葬操曲を解き放つ。
 マリーゴールドの空に浮遊していたつむじ風を1体、鎖で雁字搦めに縛りつけた。
 風は唸りを上げ、展望台の上空から人間を空へと押し出そうとする。鉅はその衝撃を受け止めた。
 タバコの火が風に煽られ飛んで行く。咄嗟の判断で直撃を交わしたものの、展望台のガードが無ければ、その身を高司と同じ様に空へと投げ出していた。
 ダスクのサングラスの視線の先、風が自身を真空の刃と化して襲い来るのを鉅は見る。
 守るべき2人の前に立つのはナポレオン・ブルーのコートを羽織ったミュゼーヌだ。
 迫り来る風に怯むことの無い、堂々たる威厳は、目の前で起こっていることが理解できていない2人に、少なからず安心感を与えるもの。
「大丈夫よ、安心して。私達はあの怪異から貴方達2人を守るために来たの」
 けれど、彼女には運命が微笑まなかった。『不屈』神谷 要(BNE002861)は仲間の言葉に偽りが無いのと同時に、その後彼女を殺さなければならないという事実を言えない事にナイフを握り締める。
 さゆりは運命の旋律から零れ落ちてしまった。それだけの話だというのに。
 世界は簡単に崩壊へと傾いていく。それを阻止するのがリベリスタという簡単な構図。
 ──ただ私が本当に護りたかったモノは……
 要はレイヴンのコートの襟を少しだけ口元に寄せた。そして、後ろにいるさゆりに声を掛ける。
「貴方のその『力』のお陰で高司さんの死を免れる事が出来ました」
 さゆりは最初、自分に話しかけられているのが分からなかった。目の前で起こる戦闘は、今の一瞬まで一般人であったさゆりの頭の許容範囲を超えていたからである。
「え……、力? 何なのそれ?」
「混乱も当然ですが今は高司さんを守る事だけに集中を」
「高ちゃんを、守る?」
 今にも泣き出してしまいそうなさゆりを庇うようにして、高司は大切な彼女の前に出る。
「さゆりを守るのは俺の役目だ。さゆりは俺の後ろにいればいい。俺が絶対守ってやるから!」
「高ちゃん……」
 高司はさゆりを守るように、自分の後ろに隠した。さゆりは高司の背中にぎゅうとしがみ付く。
 スマルトの青さが少しずつ空に広がっていく。もうすぐ、この温もりを無くすことを2人はまだ知らない。


 ロングバレルから打ち出される音速の弾丸は全ての敵を射程に収めた。激しく身体を打つスコールの様に音よりも早くマグナム弾がつむじ風に着弾する。ほんの一瞬遅れて怒涛の音色が辺りに響き渡った。
 しかし、ミュゼーヌのマスケット銃から繰り出される攻撃は、本来討伐すべきさゆりをまだ傷つけてはいなかった。それは、仲間全員の総意であり、彼女自身の願いでもあった。
 万が一にも、さゆりがフェイトを得るのではないかという、限りなくゼロに近い可能性を願ったのだ。
 鉅の全身から燻る煙のように立ち込めた、スモークグレイの気糸がつむじ風を覆う。上空を浮遊している風は突如現れた灰色の煙によって地面にたたきつけられた。つむじ風は縫いとめられて動けない。
 鉅のシシリアン・アンバーの瞳は揺らぐことも無く、敵を見据え淡々と課せられた任務をこなして行く。
 こいつらを放ったままノーフェイスの方の事にすったもんだする暇はない。
「まずはこっちを叩き潰す」
 風に煽られた灰色の髪は普段より無法地帯と化していた。愛用のコートもバタバタとはためいている。
 研ぎ澄まされた感覚はつむじ風の進行方向を読み、卓越されたバランス感覚はその攻撃さえも回避する。
 カルラは暗黒の炎を纏わせた螺旋暴君を思うがままに振るった。回転駆動に乗ったアガット色の咆哮はつむじ風1体を無に返す。
 しかし、続けざまに風の真空の刃がカルラを襲った。己がランスを地に立て、風の攻撃を食い止めたが、仲間に視線を投げると、同じく血をボタボタと流している雅がいた。
 その後ろには高司とさゆりの2人が戦々恐々とした表情でお互いの手を握っている。
 カルラはその2人に言葉を掛けなかった。出てこなかったわけではない。
 高司にさゆりの死を伏せると決めた時点で、彼は口を閉ざすことを決めたのだ。
 俺は、話すなら両方、そう考えていた。だから、片方に言わないなら、どちらにも何も伝えない。
 手早く終わらせるための都合のいい話は仲間が用意してくれる。
 感傷? 自己満足? 何をどれだけやったところで、それに違いがあんのかよ。
 この2人に用意されたハッピーエンドなどありはしないのだから。だからこそ、カルラは口を閉ざしたのだ。
 服を血に染めて雅は守るべき2人の前に立っている。さゆりのフェーズ進行はまだ兆しを見せておらず、
 雅は少しだけ安心した。……まだ、正気を保っててくれよ。
 最期の言葉を聞かなければならないのだから。しかし、雅は思う。こんな感傷は綺麗事だと。
 クソみたいな世界のルールで愛し合う2人のうち1人を殺さなければならないのだから。
 つくづくこの世界の理不尽さに嫌気が差した。

 つむじ風は猛烈な勢いで真空刃を作り出しリベリスタを攻撃していた。鮮血が空に舞う。
 しかし、水縹の髪がさらりと揺れる。タンザナイトを抱いた様な光を放ちながら、沙希は聖なる存在にその筆先鋭い万年筆で手紙を書くのだ。綴る想いは希望と絶望、怨嗟と崇敬、愛情と憎悪。心象渦巻く人間賛歌。
 高位存在はそれに応える。優しく強く。沙希の仲間を癒していった。
 彼女は言葉を発しない。けれど、内に秘められた想いは誰よりも人間的で傲慢。
 自分を愚者とするのならば、人類全てが『楽しいモノ』になるのだ。沙希はこの素敵な世界が大好きだった。
 人が内包するあらゆる欲を肯定し、それを愛おしいと思う。希望と絶望は彼女にとって同じ事だったから。
 ノーフェイスはこの後、行方不明になっているかもしれない。突風の際に転倒し高台から落ち、其処をダンプカーが通過し見るに堪えない状態になるのかもしれない。
 けれど、高司とさゆりに誰かが『もっと良い終焉』を贈ってくれるなら彼女はそれを肯定するのだ。


 イーゼリットの葬操曲が、ミュゼーヌの弾丸の嵐が、鉅のスモークグレイの気糸が敵を無に帰していた。
 短い戦いの終わり。
 ―――そして、終焉の始まり。

 リベリスタ達が一斉に、高司とさゆりを取り囲む。
 武器を下ろしているわけではない。殺気高いままの人間に囲まれれば、誰だって恐怖を覚えるのだ。
 バチッ
 突然、さゆりの目の前で高司が倒れた。
「高ちゃん!? ……どうしたの!?」
 スタンガンを片手に雅が2人を見下ろしている。
 さゆりには意味が分からなかった。今まで風の怪異から守ってくれていた人達が、急に暴行を加えてきた。
「何で、こんな事するの!?」
 さゆりはリベリスタから必死に、大切な人を守ろうとしている。
 けれど、ノーフェイスになったとはいえ、力でリベリスタに適うはずもなく。
 那由他が後ろから羽交い絞めにした。その間に、雅は高司を安全な場所に移動させる。
 さゆりから高司を引き離す。
「や、やだ! 高ちゃん! ……やめて! 高ちゃんにひどいことしないで!」
 拘束され、身動きが取れないノーフェイスにミュゼーヌは語りかけた。
「ごめんなさいね……彼には、見せない方が良いだろうと思って」
「見せない……? 何を?」
 リベリスタが押し黙る。けれど、さゆりを羽交い絞めにしていた那由他だけが、耳元でくすくすと笑った。
「さて、もう判っているとは思いますが、既に貴方は『普通』ではなくなっています」
 要が沈黙を押し破り、現実をノーフェイスに突きつける。
「普通、じゃない?」
 そう、普通ではないのだ。考えてみれば分かること。一番最初につむじ風が高司を空へ舞い上げた時、
 その力で展望台へと引き戻したのだから。
 けれど、咄嗟の事で理解などする前に、よく考える前に、この場所にいるのだ。
「そして、今の貴方の状態から…この先貴方がどうなってしまうかも何となく理解しているのではないでしょうか?」
 8人のリベリスタに囲まれ、後ろから拘束され、武器を構えて前に立たれている状況。
 それが意味するものは、いったい何だろうか。
 いや、そんなはずはない。だって、風の怪異から私達を守ってくれたのはこの人達なのだ。
 けれど、状況は変わる事無く。マリーゴールドの赤さが少しずつ、スマルトの青さに侵食されていく。
「今、自分の身に何が起きているか……感覚で理解しているんじゃない?貴女はこのままだと、世界に呪いを撒き散らす存在に成り果てるわ。そうなれば、貴女の大切な人達…友達、ご家族、そして――」
 それだけは、決してさせたくない。とミュゼーヌはオリオンブルーの瞳でノーフェイスを見つめた。
「呪いを撒き散らす? ……意味が分からない」
 くすくす……。グラファイトの黒が笑い出す。恋人たちの終焉を祝福するように楽しげに笑い出す。
「まだ、分かりませんか?貴女も討伐対象に含むんですよ」
 那由他の指がノーフェイスの顎をすうっと撫でていく。
「自覚が有るか無いかは分かりませんが。貴女はいずれ自我を無くして、先程の風のようになってしまいます。そうなる前に、貴女を殺す事も私達の仕事なんですよねー」
 くすくす……。
 ノーフェイスの足が、ガクガクと震えだす。恐怖で涙が溢れ出す。
 エメラルドの瞳をしたこの人は私を殺すと言った。全てを奪うのだと言った。高司との思い出も全て。
 これからの未来も全て。そんなのは、嫌だ。怖い。
「悲しむ事は有りませんよ。貴女の願いは叶ったじゃないですか。高ちゃんを助けたかったんでしょう?」
 さゆりがノーフェイスになり力を得た事で、高司は助かったのだ。
「貴女がそうなった事で、私達が此処に駆け付ける事ができた。そうでなければ、二人とも死んでいましたよ。良かったですね。高ちゃんは助かりましたよ?」
 ノーフェイスは涙を流す。ボロボロと。マリーゴールドの空に彩られて。

●Madder
「何か……高司さんに伝える事はありますか……?」
「いや、だ。死にたくない。意味分かんない!!!」
 絶望と拒絶はノーフェイスのフェーズを進行させた。那由他の手を振り払い、高司の元へ駆け寄る。
 けれど、それは膨大な力の渦となって、高司への攻撃に変わってしまう。
 要はその攻撃を正面から受け止めた。死ぬべきではない命を殺させてはならない。
 それは、このノーフェイスの願いでもあるのだろうから。
 この行為は戦闘でも何でもない。ただ、傍に居たいだけなのだろうから。
 ユニコーンの毛並みの様な髪を揺らして、要はノーフェイスを止める。
 それでも、彼女は手を伸ばし大切な人の元へ行こうとした。届かない事など分からない様に。
 カルラが螺旋の君を構えノーフェイスに近づいていく。
 ――終わりが近づいていた。
 
「何か、あいつに残す言葉があったら言ってくれ。きっちり伝えるからよ」
 カルラの肩を後ろから掴んだのは雅だった。
 頼める立場でもないと思うし、半ば以上あたしの自己満足に近いエゴだがよ……頼む
 あっちの高司って男の子には何の罪も無ェ。
 好きな女の子がある日突然目の前から消えました、じゃ可哀想過ぎる
 どう足掻いても別れる事にはなるんだが、せめて、何か言葉があれば少しはマシなんじゃないか
 その気持ちに揺さぶられて、ノーフェイスは伸ばした手をゆっくりと下ろした。
 ずるずるとその場に座り込む。彼女は悟ったのだ。
 もう、逃げることなど出来ないことを。この場で殺されてしまうことを。
 だったら、約束してほしいことがある。
「高ちゃんを、殺さないで。私を殺してもいいから、高ちゃんを殺さないで」
 奥歯がガタガタと震えた。自分が殺されることを許容する事など、普通であれば出来るわけが無いのだ。
 けれど、ノーフェイスは大切な人の無事を願った。
「ええ、大丈夫よ。貴女の大切な人は殺さない」
 ドーンミストが混ざる銀髪がさらりと揺らし、イーゼリットはノーフェイスの肩をそっと抱く。
 イーゼリットはノーフェイスが戦闘中に死んでいてくれれば良いとさえ思っていた。
 だって島井さんに言い訳出来る?
 貴方の彼女は化け物になりました、だから殺しました、なんて私には言えない。
 ――言葉が見つからない。

 さゆりは大切な人をじっと見つめてから、そっと目を閉じた。
 2人は幼馴染で幼いからずっと一緒だった。
 桜の下でお花見、太陽の花の下でかくれんぼ、紅く染まる山で実りを競い合い、
 冷たい銀世界で暖かな笑い声を響かせた。思い出が無い年が無かった。
 繋いだ手を一生離さないと誓い合ったこの場所が、さゆりと高司の最後の思い出になった。
「お嫁さんになれなくてごめんね。高ちゃんはずっと生きて」
 イーゼリットの細いレイピアがさゆりの胸を貫く。
 ごめんなさいなんて言えない。言えるわけがない。私は手を赤く染めるべきなの。
 彼女の命を奪ってしまうのだから。

 スマルトの青さとマリーゴールドの赤さが空を染め上げる夕刻。
 太陽が地平線の向こうに消えていく。
 茜色のなみだがぽたりと落ちた。


■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
お疲れ様でした。


この様な結果になりましたが、いかがでしたでしょうか。
最期の言葉を引き出して頂きありがとうございます。

茜色のなみだは、インクブルーの空に。もみじでした。