●失意 「……なあ杏子、これは?」 「いや、うん、出来たんですよ? 出来たんですけど、実験って成功してもその派生で何か得体の知れないもの出来ちゃうことあるじゃないですか。これもその一種でしてね」 慌てた様子で自身を肯定する杏子を見て、男は思わず苦笑した。 「や、そういうことじゃなくてさ」 彼が聞きたかったのは今、彼らの目の前にあるこの物体とも生物ともしれない何かが何故にしてそこにあるのかではなく、その何かがどのようなものであるかということそのものであった。もはや何が出来たかを議論するには、あまりに時期が遅すぎている。 「成果は成果で取り置こう。これは、そうだね、前哨戦に丁度いい。折角出来た派生物なんだ。楽しめるに超したことはないだろう?」 「これで何が出来ますかねえ」 杏子が自身の顎に手をやりながら、男に問う。 「そうだなあ」 男は杏子を見定めるように見つつ、やがて諦めて、一つの案を提唱する。 「どうやらこれの得意とする所は『吸収』だ。これは対象を自分の体内に閉じ込め、自身が必要とする『養分』を取り込む。となれば、蹂躙されている守るべき対象を必死に助けようとする『彼ら』を見ることは、いい余興になると思わないかい? ──もちろん、あんたの想定したやり方とは、異なるかもしれないがね」 「……まあ、いいんじゃない」 杏子は、彼の提案に対し不敵に笑んだ。彼女も彼女なりに、それについて思う所は会ったのだ。彼女は何の興味も持っていないようだった。けれども一定の理解を示し、決して興を削ぐことはしなかった。 「使い方を決めるのは現場。あたしはただ、自分の価値観に沿って、造りたいものを造ってるだけだからね」 ●なりそこない 「エリューションを打倒して欲しい」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が見せた映像には、何種類かのエリューションと思われる何かが映っている。地面を這いずるように動く液状のものや、機敏に動いたかと思えばその場に止まるということを繰り返しながら移動する粒状のもの、あるいはピョンピョンと跳ねながら獰猛に接近してくる球状のもの。それらの形状は可変であったが、ある瞬間、特定の形状に変化する様子が見られた。爪のようなもの、牙のようなもの、角のようなもの、皮膚は赤熱するように妖しく輝き、その温度の高さを示すように体中から湯気が吹き出ていた。あるいは。それは亀の甲羅のようなものを纏った八本足の化け物の姿を現した。そうかと思えば、先ほどまでの形状に戻っていく。 それは恐らく今まで取り込んだものの形を『記憶』しているのだとイヴは言う。 「これが中々に厄介でね」 それらの行動は同じではないように見えるものの、時折同様な行動を見せることがあった。それは目の前の相手を自身の内部に取り込もうとする動作であった。イヴは今しがた画面に映った状況から若干目を逸らし気味になりながらも、言葉を紡ぐ。逃遅れた男児が一人、その何かに取り込まれていた。やがて男児の形状は崩れ、溶解すると、それは今まで表していた形状に加え、男児の形状を取るようになっていた。その形状は先ほどまでのものに比べれば形は精巧で、また姿を現している時間も長かった。それはつまりエリューションが、対象を『完全に』取り込んだことを意味しているのだろう。 「これに取り込まれたら簡単には動きが取れなくなる。そしてその状態でどんどん生命力とかが吸い取られていってしまう。リベリスタならまだ軽度で済むだろうけど、これが一般の人間であれば……見ての通り、生きていれば幸運な方だろうね。」 それにとっては全ての対象が生きるための養分となる。それは自身であっても変わりない。自身の一部を組み替えて傷を癒すことも可能であり、さらにはそれを用いて攻撃を行うことも出来るという。 それはゆっくりと周囲にいる人間を侵食していた。だがその行動が目的を伴ったものであるとは、そこにいる誰も思えなかった。やがて一人が疑問を述べると、イヴは答えた。 「以前から通常のエリューション・タイプではあり得ないような、多数の特徴を持ったエリューションが見られてる。恐らくは、『彼ら』が今まで実験を続けてきた研究の成果の一部なんでしょう」 イヴが憎しみを込めてそう呼んだのは六道のフィクサードたちだ。度重なる非人道的な実験。強大な組織である彼らが行っているそれを、完全に阻止するのは非情に困難だ。 「もっとも、今回の場合は実験ってわけでもないし、かといって本腰入れて何かを取り組んでるってわけでもなさそうだし……何か企んでるのかもね、嫌な予感がする」 ともかくまずは目の前の敵を倒すことだ。被害が出ている以上見殺しにすることなど出来ない。 「今回は六道もなんだか逃げ腰っぽいね。観察というよりは鑑賞している感じ……胸糞悪いね。でも今は気にしないでエリューションの方に集中して欲しい。 それじゃあ、よろしくね」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:天夜 薄 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年11月07日(水)23:56 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
● 気色の悪い音を立てて迫り来る何かがいる。 金属の擦れるような甲高い音を立てて迫る何かがいる。 気持ちの悪い動きで追い立ててくる何かがいる。 それは本来現実には存在し得ないもので──エリューションやアザーバイドとはそういうものなのだけれど──故に得体の知れなさ、気持ちの悪さが加算して恐怖を加速させる。触れずとも分かる死の恐怖が辺りに充満した。神秘を纏わぬ彼らはただ、逃げ惑うしか術がない。 べちゃり、と自分の眼前で弾けたそれを見て、少年は怖じけて走り出す。恐怖に捕われた足は諤々と振るえ、走っているのに歩くような速さしか出ていない。そしてフラフラだ。自身の指にも満たない大きさの石ころに躓いて、少年は地面に身を投げ出した。息を飲みながら振り返ると、それとの距離は先ほどとほとんど変わっていなかった。叫びとも取れぬ声を上げ彼はただ、迫り来るそれの姿を目で追う他なかった。 だが、彼の視線を遮るものがあった。紛れもなく人であった。彼と怪物の間に、彼を守るように立ったその人は、彼からすれば希代のヒーローにしか見えなかっただろう。絶望を断ち切る救世主。その希望は、その人が振り返って言い放った一言で、打ち砕かれる。 「あはは、助けたわけじゃないよ? 殺すんだ、君を」 少年の顔から血の気が失せた。この世で最も怖いのは人である。その言葉を体現するような邪悪な笑みで、『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)は少年を舐めるように見た。 「トリックオアトリック、世の中は甘くはない、死にたかったら、逃げるが勝ちってね~」 ジャキジャキと、鋏の擦れる音が嫌らしく少年の耳を支配した。少年は、覚束ない足取りで立ち上がると、声を取り戻して公園を後にする。 「今逃げたのも含めて、全部で十人ってとこだね、焦燥院ちゃん」 葬識はざっと公園内を見渡して、『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)に状況を知らせる。 「出来るだけ速く逃がしてくれよ」 「はいは〜い☆」 葬識は陽気に言うと、別の一般人を逃がしに向かう。フツは自身の周囲を見回し、近くにどれだけの一般人がいるかを確認するが、まだ彼が行動を起こせる段階にはなかった。 「何か出たー! 妾こういうの嫌いじゃぁ!!」 と叫びながら果敢に突っ込んでいったのは『緋月の幻影』瀬伊庭 玲(BNE000094)。玲は地面を這うそれと一般人の間に入ると、飛びかかったエリューションを身体で受け止めた。衝撃と共にエリューションが飛散するように見えたが、それは瞬く間に集束して玲を取り囲み、やがて自身の内部に彼女を取り込んだ。息が出来るのが不思議な程の圧力の中で彼女は藻掻いたが、抜け出せそうな様子は欠片もない。 「人の姿を真似るエリューションとはなんとも薄気味悪いですね」 取り込まれた玲の様子を苦々し気に見ながら、『鋼鉄の戦巫女』村上 真琴(BNE002654)は静かに呟いた。その間も、彼女は目の前のエリューションから意識を逸らすことはない。ボールのようにポンポンと跳ねるそれは、一瞬でも油断しようものならイレギュラーな動きで彼女を抜去ってしまうことだって考えられるのだ。真琴は気を引き締める。 「六道のキマイラ実験がよくないものを完成させようとしている……と解っていても阻止できないとは、何とももどかしいですね」 『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330)はエリューションの動きに気を配り、確実にそれらとの距離を取る。彼女の主たる役目は回復支援だ。それを妨げられるようでは戦女医の名が廃る。 「今できる事を全力でやらせて頂きます」 ● 「遠くから見下されてるのは嫌な気分ですね」 『ブラックアッシュ』鳳 黎子(BNE003921)は目の前の液状のエリューションを抑えながら、遠くで見ているだろう六道のフィクサードを気にかける。彼らも研究を重ね、話に聞いていたよりは随分とましなものが作れるようになったみたいだ、と黎子は思う。彼らがこれを見ているのであれば、情報を渡すことは出来る限り避けたいものだ。どちらかと言えば、馬鹿にする気持ちの方が強くはあったのだが。 黎子は一般人とエリューションの動きを警戒しながら、エリューションを気糸で締め付ける。うまく絡み付いた気糸に、エリューションの動きはほとんど僅かになっていった。黎子はそれを確認すると、黎子は他のエリューションへと攻撃の対象を変える。 「姿・形、持たぬ者が他者を模倣し己とするか。ふむ、不確かな存在だ」 『Friedhof』シビリズ・ジークベルト(BNE003364)は目の前のエリューションを見つめて言う。それらの形は不確かだ。それが恐らく含蓄している確かな形になったかと思えば、元の可変な形へと変質し、またある時は別の確かな形へと変化する。その不確かさを、柔軟と見るか短絡と見るか。 「己を持たぬ者には負けんよ。一般人にも被害が出ているのだ。逃せん。ここで潰す」 シビリズは輝くオーラを身に纏い、相対した粒状のエリューションを睨みつける。機敏に動き回るそれはシビリズに目をつけると一目散に彼の元へと接近し、自身を構成する粒を彼の周囲を覆うように拡散させた。シビリズを覆い尽くそうとするそれを彼はうまく捌き、それらが集束し始めると同時、彼は瞬時に間合いをつめると目一杯の力を以て得物をエリューションに叩き付けた。隙間だらけのそれの間を空虚に抜けていくかと思われたが、確かな衝撃が得物を通じてシビリズに伝わり、そしてエリューションを振るわせた。 一般人が引きつった顔で公園から逃げ出していく。それを葬識は楽しそうに見送り、再び園内を確認する。残りの一般人は、今『似非侠客』高藤 奈々子(BNE003304)が庇っている者が最後だ。千里眼を用いても隠れていたりする姿は確認できない。葬識は素早く一般人を追い立てて逃すと、アクセス・ファンタズムに向けて叫んだ。 「だいじょうぶだよ! 焦燥院ちゃん、じゃあよろしくね〜」 「おう、任せとけ!」 フツは連絡を受けると、自身の目でしっかりと周囲に人影がないのを確認し、一般人を通さぬ陣地を作るための詠唱を始めた。 フツが陣地の作成に入ったのを確認すると、黎子は液状のエリューションを睨みつつ、その運命を占うカードを選び取る。彼女の近接範囲には今、相対しているそれしかいない。激しい衝撃がエリューションに襲来する。 最中、何かを吐き出すような気色の悪い音がした。それは玲を飲み込んだエリューションが、彼女を解放したということ、そしてエリューションが彼女の力を吸収したということを示していた。 エリューションは玲を解放すると再び元の液状態に変わった。数秒の間をおいて、それは変形を始める。足から順に形を変え、やがて玲とほとんど同じ形状へと変貌を遂げる。所々形が崩れ、色の複製も十分にうまくいっているようではなかったが、誰の目から見ても十分に、それは玲の形をしていた。 「妾が……おる、な」 自分の姿と対峙した玲は思わず呟いた。だが彼女は怯むことなく得物を掲げると、黒色のオーラをちらつかせながら地を蹴った。 「妾を真似ようとて、無駄なのじゃあ!」 ● 跳ねる動きを数度繰り返した後、球形のエリューションは急激に軌道を変化させて攻撃を行う。標的はそれを抑えていた真琴であった。真琴の頭上へと到達したそれは再び軌道を変えて彼女へと落下を始める。真琴は避けようと必死に身体を動かすが間に合わず、エリューションは彼女の右肩から腕にかけて墜落する。腕が千切れそうになる程の鈍重な衝撃を払いのけ、真琴はエリューションと距離を置いた。ジンジンとする腕の痛みを感じながら彼女は、先ほどから戦場を飛び回るそれを気にかける。 粒状のエリューションが唸るような音を立てながら飛び回っていた。十分に動きを抑えられていないそれは縦横無尽に戦場を駆けている。その軌道が、やがて明確な方向性を持ったかと思うと、急速にフツへと接近していった。だが丁度近くにいたシビリズがそれを遮った。 「模倣されては面倒だ。近づけさせんよ」 エリューションは形だけではなく、一部ではあるが能力すら模倣する。高い能力を持った者を模倣されるのは、中々に面倒だ。理解しているからこそのブロックであるが、エリューションはシビリズの姿を確認するとフツの位置より遥か手前で拡散し、シビリズを飲み込んだ。瞬く間にシビリズを包み込み、身体の制御を奪っていく。不自由な身体は感覚だけを自由にされて彼に自身の状況を理解させる。捕われて、力を吸収されているという、それだけのことを。 同じようにして動いた液状のエリューションがゆっくりと葬識の方へと向かう。その動きを遮ったのは玲であった。葬識がエリューションに向けて放った黒ずんだ瘴気の煽りを受けつつも、彼女はコピーされぬようその動きを遮ろうとする。エリューションは彼女を飲み込むために身体を肥大化させ、覆い被さった。飲み込まれ、藻掻きながらも、それを許されない。 最中、フツが満を持して陣地の作成に至る。彼を中心とした周囲に構築された特殊な空間を察したかは定かでないが、エリューションの動きが一瞬だけざわつくように震えた。空間の構築が完了するより先、フツは少しだけ顔を上げて、出来るだけ多くの人間に見えるように口を動かした。それは遠くで見ている彼らを馬鹿にするように、僅かな微笑みを称えていた。 『ざまあみろ』 「癒しを施し賜え」 凛子は捕われているシビリズと玲の様子を見つつ、癒しの息吹を具現化させる。それは二人を含む仲間を回復させるが、同時に二人を取り込んだエリューションの傷も、徐々に消えていっているのが見て取れた。凛子はそれを見て以降、二人に対しての回復の手を止める。 間もなくエリューションがシビリズと玲を吐き出した。エリューションはすかさず取り込んだ姿へと変化していく。 「全く、こういうの相手なら気が楽でいいですよう」 黎子は速やかに間合いを詰め、エリューションを斬り付ける。泥のようなぬめりとした感触はあったが、死の刻印は確かに刻まれていた。 フツが陣地内に張った結界がエリューションの動きを縛る。エリューションの動きが鈍くなり、攻撃のタイミングが遅れた。 「模倣か。これも吸収し、模倣できるのかな?」 シビリズが、自分の形をしたエリューションに向けて問いかける。それは自身の身体を補いつつ、リベリスタの動きを探るようにゆっくりと行動した。有を得たそれはしかし、有を模倣しているに過ぎない。ましてやその全てを完全に、得たわけではない。 痛み、戦闘の感覚。それらを自身と同じように、心地よいと感じられるのだろうか。その感覚を己のモノと出来たのだろうか。 なればこの一撃は、きっとエリューションたちに大きな傷を与えることだろうと、彼は静かに得物を構えた。 「我が槍の真髄はここからだ! 知るがいい、私の全力の一撃を!」 ● 「華麗に舞うのじゃぁ!」 玲は軽やかなステップでエリューションを続々と切り刻んでいく。反撃を試みようと伸び上がった液状のエリューションを、符術で組まれた鴉が貫いた。撃ったフツの前に出た葬識が、しっかりと構えた得物から暗黒の瘴気を噴出させる。 「みんな死体にな〜れ!」 言葉の刺を体現したかのような衝撃が、エリューションの体力を奪っていく。途中、粒状のエリューションが葬識に向かって飛んだが、シビリズがその軌道に身をやって、しっかりとブロックした。 もう一方の粒状のエリューションが素早く黎子の方に近付き、その周囲を拡散させた自身の身体で覆っていく。玲は攻撃の反動でブロックが間に合わず、ただ黎子が包まれていく様を見ていた。 「いいんですか私なんかを真似て……」 反撃する間もなく身体の制御を奪われた彼女は、けれども挑発するようにエリューションに語りかけた。 「運に見放されても知りませんよ!」 着実に縛られていくのを感じながら、黎子は仲間の様子を見ていた。 再びフツによってはられた結界がエリューションたちの動きを縛る。それと同時にリベリスタの猛攻がエリューションに降り掛かる。 光り輝くシビリズの得物が液状のエリューションに振り下ろされる。するとそれは飛散し、集束しようとするものの叶わなかった。再構成しようとするもそれが出来ない程に飛び散ってしまったのか、二度と動くことはなかった。エリューションはやがて身体の全てを沸騰したように激しく泡立つと、僅かの残りもなく蒸発してしまった。辺りには腐敗したような匂いが蔓延った。 「まったく六道ちゃんはあいかわらずきもちわるいなあ、自分の姿を斬るなんて」 玲やシビリズの形に変貌し、徐々に完璧な形になりつつあったエリューションを見ながら、葬識は誰にも聞こえぬほど小さな声で言った。 「なんておもしろい。何よりも楽しい遊びじゃないか」 言葉に現れるのは微かな喜び。その一片を得物に滲ませながら、それを振るう。 「さてはて、じゃあ楽しく倒そうか」 飛ばした暗黒が、補われた体力ごと削り取っていく。弾け飛び、飛散し、舞うように落ちる。成り代わりの化け物は、変わり果てた姿で地上へと墜ちる。 やがて黎子がエリューションから解放されると、そちらにも攻撃が集中した。 「もう十分ですか……ね」 一人、球体のエリューションと対峙していた真琴が、荒れた息づかいで呟いた。真琴に比べエリューションの傷は僅かだが、それは同時に、彼女がここまでエリューションの攻撃を防ぎきったことを意味している。 向かってくるエリューションに向け、魔力の矢が飛ばされた。衝撃で弾き飛ばされたエリューションを見、真琴は思わず、安堵して振り向くと凛子が優しい顔をして立っていた。 「援護しますよ」 「お疲れさん! さっさと終わらせちまおうぜ!」 真琴と並び立ったフツや黎子が、球体のエリューションに攻撃を開始する。少しだけふらつく身体に鞭を打って、彼女は集中する。最高の一撃を、エリューションに加えるために。 「確実に……倒す!」 大上段から勢いを付けて放たれた一撃に、エリューションは思いきり地面に叩き付けられる。エリューションは僅か、跳ねようと身体に動きを見せるがそれよりも先に身体が破裂した。異臭と共にエリューションの身体は空気にとけ込み、やがて消えた。 ● 僅かながら、人は死んだ。リベリスタがここにたどり着くより先に、エリューションに取り込まれた者は少なからずいる。フツは彼らの身元の分かる『何か』を探すが、欠片も残さずエリューションが溶かしてしまったのか、少しも見つからない。 彼はふと、落ちていた靴を見つける。逃げていった誰かのものかもしれないし、誰かが死んだ跡かもしれない。フツはただ座して、静かに祈りを捧げた。 「間に合わなくてスマン」 消えていったエリューションたちの、気持ち悪い動きを葬識は思い出す。 これは前菜だ。エリューションを作り出した六道のフィクサードを殺すことこそがメインディッシュ。 そう思うと、葬識はワクワクを抑えることが出来ない。 葬識はふと見上げ、遠くを見つめる。もうそこには、戦いの最中垣間見えたフィクサードの姿はない。けれども、彼はきちんと、『やるべきこと』は欠かさない。 「顔は覚えておくよ、ね?」 いつか出会うだろう彼らを、殺しやすいように。 陣地が消える。そこにはリベリスタの姿も、フィクサードの姿もない。影も形もない。ただそこには静けさだけが闊歩している。これが嵐の前だと言わんばかりに。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|